説明

製鋼スラグ固化体の製造方法

【課題】フッ素含有の製鋼スラグを主体とするスラグ固化体のフッ素溶出を抑制するとともに、高強度のスラグ固化体を製造し、当該固化体を使用後にリサイクルする際に土木材料しても土壌環境基準を満足する物を作ることのできる製鋼スラグ固化体を製造する技術を提供する。
【解決手段】製鋼スラグとして、溶出pHが11以上であり、フッ素を含有する製鋼スラグを原料とする。更に高炉スラグ微粉末、セメント及び高炉スラグ微粉末とセメントの混合物から選ばれる固化剤とを原料として用いる。当該製鋼スラグと高炉スラグ固化剤を混合したものに、燐酸又は燐酸塩を添加する。この混合物に水を添加して、生コンクリート様の混練物を作る。この混練物を型枠内などで養生して、当該混練物全体を固化させて、製鋼スラグ固化体を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
製鋼スラグを原料とするスラグ固化体を製造する技術に関する。更に、フッ素含有製鋼スラグを原料としても、固化体から水中へのフッ素溶出を抑制し、土壌環境基準に準拠した低フッ素溶出の製鋼スラグ固化体を製造する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
製鋼転炉や製鋼電炉などから発生する製鋼スラグは、酸化珪素、酸化カルシウム、酸化鉄、酸化マグネシウム等を含むものであり、炉内では溶融状態又は溶融物と固体が混合した状態となっている。この製鋼スラグは冷却後に粉と塊の混合物となる。その物理的性質や化学的性質から、肥料、地盤改良材、セメント原料、土木資材として利用されている。
【0003】
製鋼スラグは、製鋼転炉から排出されるもの(転炉スラグ)、製鋼電炉から排出されるもの(電炉スラグ)、溶鋼鍋内の溶鋼上に存在するもの(溶鋼鍋内で精錬反応を行わない場合のものと、溶鋼精錬炉で精錬する場合のものがある:溶鋼鍋スラグ)、連続鋳造機のタンディッシュ内に残留するもの(タンディッシュスラグ)、溶銑精錬時に発生するもの(溶銑スラグ)などがある。各々、化学成分の範囲が異なるものであるが、一般的には、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化燐、酸化鉄、酸化マンガンを含み、また、微量元素として、酸化チタン、酸化クロム、硫黄などを含む。
【0004】
高純度鋼や特殊合金鋼などを生産する際の特殊な処理を行う製鋼工程では、脱燐・脱硫を促進する添加物、スラグ融点を低下させ溶解促進剤、また、溶解しづらい酸化物をスラグに溶解させるための溶媒として蛍石(フッ化カルシウム)が添加される場合がある。特に、硫黄や燐の含有率の低い鋼を製造する場合や、溶鋼鍋内の精錬を行う場合に蛍石が添加される場合が多い。この際に、フッ素は酸素などの陰イオンと置換して、製鋼スラグを構成する鉱物組成中に取り込まれる。このように、製鋼工程での製造方法によっては、製鋼スラグがフッ素を含有する状態となる場合がある。
【0005】
つまり、製鋼工程で蛍石を使用した場合は、製鋼スラグにフッ素が含有されてしまい、このフッ素は製鋼スラグから溶出しやすい場合がある。因みに、通常の製鋼スラグではフッ素溶出が0.8mg/リットル以下であるが、フッ素含有製鋼スラグからの溶出フッ素濃度は1〜6mg/リットル程度になることもある。2001年に、フッ素溶出規制が土壌環境基準に追加されたことから、土壌環境中に製鋼スラグを使用する場合には、製鋼スラグからのフッ素溶出量を0.8mg/リットル以下とする必要がある。従って、この目的から、従来からも製鋼スラグからフッ素が溶出することを防止するための技術が発明されてきた。例えば特許文献1には、ステンレス鋼や高ニッケル鋼を製造する際の製鋼スラグに燐化合物を添加して、添加後に温熱水処理をすることで、フッ素アパタイトの形としてフッ素溶出を抑制する方法である。一方、製鋼スラグ中のフッ素の溶出防止方法ではないものの、特許文献2には、フッ素含有固体廃棄物に燐酸化合物とカルシウム化合物を添加して混練する方法が記載されている。
【0006】
また、一方、製鋼スラグの利用方法としても、種々の研究がされてきた。従来から行われている方法である、埋立て材料、砂杭(サンドコンパクション、サンドドレーン等)、路盤材、肥料、セメント原料などがある。しかし、これらの用途は需要変動が大きいことや付加価値が低いことから、新しい用途開発が求められていた。この新しい用途として、製鋼スラグと固化剤(高炉スラグ微粉末やセメント)を混合して、水分を含む状態で混練して、コンクリート状の固化体(スラグ固化体)を製造する方法は行われている。この技術は、例えば特許文献3に記載されているように、適正な粒度分布と水浸膨張率の製鋼スラグと高炉スラグ微粉末とから、生コンクリートを製造して、これを型に入れて固化させた製品を作るものである。このスラグ固化体は、固化後に、若干の材料膨張があるため、消波ブロック、護岸上面施工、駐車場路面等の無筋コンクリート用途や海洋の漁礁ブロック等に使用される例がある。
【特許文献1】特開2003−226906号公報
【特許文献2】特開2002−331272号公報
【特許文献3】特開2004−299922号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上に述べたように、特許文献1、特許文献2などのフッ素溶出防止従来技術では、アルカリ度の高い製鋼スラグのフッ素溶出を防止するための最適な条件を実現できていない問題があった。例えば特許引用文献1では、フッ素をフルオロアパタイトで固定化するものであるが、反応を確実にするために、加熱処理を必要としている。従って、エネルギー効率が低く、処理費用が高い欠点があった。また、ステンレス鋼、Fe−Ni合金鋼やNi基合金を電炉で製造する際の製鋼スラグからフッ素溶出を防止する方法であり、このスラグは、一般鋼の製造の際に発生するスラグとは化学組成が異なるものであり、このままでは、一般的な製鋼スラグに適用できない問題があった。
【0008】
また、特許文献2に記載されている方法では、フッ素を含有している廃棄物に、燐酸とカルシウムイオンを反応させて、アパタイト系無機物を形成して、これにフッ素を取り込んで、フッ素溶出を抑制する方法であるが、これは一般的な廃棄物処理技術で、燐酸の添加量も0.5〜20質量%(対廃棄物)にする条件しか規定されておらず、経済的な添加量についての技術が確立されていなかった。特に、この技術を製鋼スラグのような高塩基性の物質へ適用することが考えられておらず、製鋼スラグ中フッ素を適切かつ経済的に不溶化する方法は確立されてなかった。従って、製鋼スラグのフッ素溶出を防止する場合には、通常物質のフッ素不溶化方法とは異なる処理条件が必要であるが、これを考慮した方法が確立されていなかった。この結果、処理が不完全で、フッ素溶出を効果的に抑制できないことや、処理剤量が多すぎて、処理コストが多くかかるなどの問題があった。
【0009】
一方、従来技術においても、製鋼スラグを原料とするスラグ固化体を製造する方法がなされてきたが、特許文献3などに記載されている従来技術は、単に製鋼スラグを原料として、スラグ固化体を製造するためのものであり、フッ素溶出抑制を考慮したものではなかった。従って、フッ素溶出の多い製鋼スラグを原料として、スラグ固化体を製造することは考えられておらず、高強度かつフッ素溶出の少ないスラグ固化体を製造する技術はなかった。
【0010】
以上に述べたように、いずれの従来技術においても、フッ素を含有している製鋼スラグを用いて、フッ素溶出の少ないスラグ固化体を効果的かつ経済的に製造する方法はなかった。従って、これらの従来技術の欠点を克服して、安価な処理で確実にフッ素溶出を防止し、かつ、良質のスラグ固化体を製造するための新しい技術が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以上に述べられたフッ素含有の製鋼スラグを原料とするスラグ固化体を製造するための従来技術が有する問題点を解決するためになされたものであり、その要旨とするところは以下の(1)から(7)に示す通りである。
【0012】
(1)原料として、製鋼スラグと、高炉スラグ微粉末、セメント及び高炉スラグ微粉末とセメントの混合物から選ばれる固化剤と、燐酸又は燐酸塩とを原料として用いる。製鋼スラグとして、溶出pHが11以上であり、フッ素を含有するものを原料とする。これらの原料の混合物と水を混錬して、生コンクリート様の混練物を作る。この混練物を型枠内などで養生して、当該混練物全体を固化させて製鋼スラグ固化体を製造する。
【0013】
(2)前出(1)記載の方法において、前記固化剤と前記製鋼スラグを混合する前に、製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加して、よく混合して、反応させて、フッ素溶出の少ないものを製造する。燐酸又は燐酸塩と混合した後の養生時間は4時間以上が良い。この混合物と固化剤と水を混ぜて、生コンクリート様の混練物を作り、これを固化させてスラグ固化体を製造する。
【0014】
(3)前出(2)の方法において、前記原料として、さらに酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを添加するものであって、製鋼スラグ中のCaO量を2質量%以上とする。当該製鋼スラグに2質量%以上のフリーCaOを含む場合は、必ずしも必要でないが、そうでない場合は、石灰分(酸化カルシウム又は水酸化カルシウム)を添加する。製鋼スラグに含まれるフリーCaOと、添加された石灰分のCaO換算量の和を製鋼スラグ量の2%以上とする。
【0015】
(4) 原料として、製鋼スラグ、及び固化剤を用いる。製鋼スラグとして、溶出pHが11以上であり、フッ素を含有するものを原料とする。製鋼スラグと固化剤の混合物と水を混練して、生コンクリート様の混練物を作る。この混練物を型枠内などで養生して、当該混練物全体を固化させて製鋼スラグ固化体を製造する。この方法で製造した製鋼スラグ固化体に燐酸又は燐酸塩を含む水を散布する又は製鋼スラグ固化体をその中に浸漬させて、フッ素溶出の抑制された製鋼スラグ固化体を製造する。
【0016】
(5)前出(1)から(4)いずれかの方法において、JIS5015に定められた方法で測定した水浸膨張率が1.5%以下の製鋼スラグを使用して、製鋼スラグ固化体を製造する。
【0017】
(6)前出(1)から(5)いずれかの方法において、フッ素溶出濃度が0.8〜8mg/リットルの製鋼スラグに、当該製鋼スラグに対して3質量%以上の燐酸を添加して製鋼スラグ固化体を製造する。
【0018】
(7)前出(1)から(5)いずれかの方法において、予め製鋼スラグから溶出して達するフッ素の平衡濃度値を測定する。当該測定値を(最低燐酸添加比率 (対製鋼スラグ質量%))=0.037(フッ素平衡濃度値(mg/l))+0.079(フッ素平衡濃度値(mg/l))−0.0866の式に当てはめて計算した比率よりも多い燐酸を混練物に添加して、更に養生して製鋼スラグ固化体を製造する。
【0019】
(8)前出(1)から(7)のスラグ固化体の製造方法であり、その原料として、製鋼スラグ、固化剤、及び燐酸に加えて、発電所のボイラーなどから発生するフライアッシュ、高炉スラグ水砕、及び、消石灰を単独又は組み合わせて使用して製造された製鋼スラグ固化体である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の方法によって、高強度のスラグ固化体を製造できるとともに、フッ素含有の製鋼スラグを主体とするスラグ固化体のフッ素溶出を抑制することができ、当該スラグ固化体を使用後にリサイクルする際に土木材料としても土壌環境基準を満足する物を作ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
製鋼スラグには、転炉スラグ、電炉スラグ、溶鋼鍋スラグ、タンディッシュスラグ、溶銑スラグなどがある。一般的には、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化燐、酸化鉄、酸化マンガンを含み、また、微量元素として、酸化チタン、酸化クロム、酸化ニオブ、硫黄などを含む。転炉スラグは、酸化珪素を10〜20質量%、酸化カルシウムを35〜50質量%、酸化マグネシウムを2〜8質量%、酸化鉄をT.Fe換算で10〜23質量%程度含む。電炉スラグは、酸化珪素を10〜25質量%、酸化カルシウムを25〜40質量%、酸化マグネシウムを2〜6質量%、酸化鉄をT.Fe換算で8〜20質量%程度含む。溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグは化学的に類似なものであり、酸化珪素を10〜30質量%、酸化カルシウムを20〜50質量%、酸化アルミニウムを10〜30質量%、酸化鉄をT.Fe換算で2〜10質量%程度含む。溶銑スラグは、酸化珪素を15〜35質量%、酸化カルシウムを25〜35質量%、酸化アルミニウムを5〜15質量%、酸化鉄をT.Fe換算で2〜10質量%程度含む。
【0022】
製鋼工程では、脱燐反応・脱硫反応を促進する添加物、スラグ融点を低下させる溶解促進剤、また、溶解しづらい酸化物をスラグに溶解させるための溶媒として用いられる場合がある。特に、硫黄や燐の含有率の低い鋼を製造する場合や、溶鋼鍋内での精錬を行う場合に添加される。このフッ素は、酸素などの陰イオンと置換して、製鋼スラグを構成する鉱物組成中に取り込まれる。
【0023】
スラグ固化体の製造方法は、図2に示されるとおりであり、詳細を以下に示す。まず、製鋼スラグとして、30mm以下の粒子径のものを準備する。粒度としては、10mm以下の比率が60%以上、2mm以下の比率が40%以上のものが良い。粗いものが多すぎると、粗粒の間に粉が入り込まない部分ができて、混合効率が低下することや、製鋼スラグ固化体の強度が低下するなどの問題が起きやすくなる。固化剤として、高炉スラグ微粉末又はセメントを準備する。高炉スラグ微粉末は、水で急冷してガラス化した高炉スラグ(水砕)を3000〜6000ブレーン程度に粉砕したものである。固化を急ぐ場合などは、セメント(一般にはポルトランドセメント)又は高炉スラグ微粉末とセメントの混合物を使用する場合もある。以上に説明した高炉スラグ微粉末やセメントを固化剤と称する。なお、必要に応じて、高炉スラグ水砕、フライアッシュ、水酸化カルシウムなどを加えた混合原料を用意する。燐酸(燐酸塩)は、図2に示すように、原料の一部として用いる場合と、スラグ固化体を製造した後に添加する場合がある。これらの原料に水を混ぜて、ミキサーにて錬り混ぜて、生コンクリート状の混練物を製造する。高強度のスラグ固化体が必要な場合などは、減水剤等の混和剤を用いる場合もある。この際に、燐酸又は燐酸化合物は水溶液で混練物に添加することが良い。これを型枠等に流し込み、数日間〜十数日間、養生して、これを型抜きする。
【0024】
製鋼スラグは施工後に水和膨張することがあり、これが原因でスラグ固化体に亀裂等が入ることがある。従って、亀裂が入ると問題が起きる施工体の場合などは、水浸膨張率が1.5%以下の製鋼スラグを用いることが良い。なお、水浸膨張率はJIS5015附属書2に記載されている80℃の水中に10日間浸漬して膨張率を測定する方法による。特に高塩基度製鋼スラグでは、水浸膨張率が2〜8%程度になる場合があり、このような場合は、山積みした製鋼スラグに蒸気を加えて、90℃以上として、5〜14日程度エージングすることで、1.5%以下の水浸膨張率とする。消波ブロックや大型無筋構造体等の場合は、更に低水浸膨張率が必要であり、0.4〜0.8%以下が必要な場合がある。
【0025】
原料の配合条件は、以下のとおりである。製鋼スラグ固化体1立方メートルあたり、高炉スラグ微粉末(またはポルトランドセメントとの混合物)100〜350kg、製鋼スラグ1400〜1800kg、フライアッシュ0〜180kgを配合する場合と、高炉スラグ微粉末100〜350kg、製鋼スラグ1500〜1800kg、高炉スラグ水砕100〜300kgを含む場合がある。また、フライアッシュと高炉スラグ水砕の両者を添加する場合は、両者合計で350kg以下であることが良い。フリーCaOが少なくアルカリ度が不足する製鋼スラグの場合は、水酸化カルシウム(消石灰)を50kg以下の条件で添加する。水量は200〜350リットルである。
【0026】
以上の手順で製造した製鋼スラグ固化体を無筋コンクリート用途、人工岩石(岩石代替品)、硬化ブロック、路盤材等のセメントコンクリート代替品の用途に使用する。人工岩石や路盤材の用途に用いる場合は、大きなスラグ固化体ブロックを製造しておき、これを破砕する方法もある。これらを、特に土壌環境基準が問題となる地上用途に適用することが良い。また、燐酸、酸化鉄、珪素、酸化マンガンなどの肥料成分を多く含むことから、藻礁や漁礁ブロック等の海洋用途にも使用できる。
【0027】
本発明での製鋼スラグは、フッ素溶出が0.8mg/リットル以上のものである。製鋼スラグを原料とする準備としては、まず、製鋼スラグを常温として、これを30mm以下のサイズまで破砕・分級する。この製鋼スラグの一部をサンプリングして、JISK0058に準拠する方法で、水に浸してフッ素溶出濃度を測定する。ただし、迅速な分析が必要な場合は、イオンメーターや簡易比色分析キットや比色計等も使用できる。この水のpHも計測することが良く、また、この製鋼スラグのフリーCaO比率を測定することもある。フリーCaO比率とは、常温の製鋼スラグに含まれる酸化カルシウムのうち、他の鉱物組成に含まれずに存在する酸化カルシウム又は水酸化カルシウムの形態であるものの比率(CaO換算)である。これは、製鋼スラグが固化する際に、液体から複数の鉱物組成に変わる際に、カルシウムフェライトやダイカルシウムシリケート等に取り込まれずに、酸化カルシウム単独相(空中に放置すると水酸化カルシウムとなるものもある)を示すものである。
【0028】
本発明では、燐酸イオンを用いて、フッ素を含有する製鋼スラグのフッ素の溶出濃度を抑制する。まず、本発明の燐酸イオンの反応原理を説明する。溶出フッ素を不溶化するために燐酸イオンとカルシウムイオンを含有する水で製鋼スラグを処理する。なお、ここで、添加する燐酸イオンの形態は燐酸又は燐酸塩が良い。燐酸塩とは、燐酸ナトリウム、燐酸水素ナトリウム、燐酸カリウム、燐酸水素カリウム、燐酸アンモニウムなどの燐酸と正イオンとの化合物であり、燐酸を含む重合物も含む。カルシウムイオン、燐酸イオン及びフッ素イオンからフルオロアパタイトを形成する反応式(1)により、フッ素の不溶化を行う。
【0029】
5Ca2++3PO3++F = Ca(PO)F ‥‥反応式(1)

ただし、反応式(1)で生成したフルオロアパタイトが安定に存在するための条件としては、水酸基を持つ分子(Ca(PO)OH)とフルオロアパタイトが共存することが条件である。従って、すべての燐酸とカルシウムイオンがフッ素固定化に消費されるわけではない。
【0030】
まず、本発明者らは、製鋼スラグからの溶出フッ素量と添加すべき燐酸量(フッ素0.8mg/リットル以下までの低下に必要な量)の関係を調査した。この結果、まず、溶出フッ素量は製鋼スラグ含有フッ素量の数%から30%程度であることが判った。次に、反応により析出した結晶中のCa(PO)FとCa(PO)OHの比率を調査したところ、この比率は水のpHに影響されていることが判明した。高pHの場合は、Ca(PO)Fの固定化をしやすいことから、燐酸添加抑制できることが判明した。また、pHが11以上であれば、水中のカルシウムイオン濃度が40mg/リットルとなることから、燐酸添加時に燐酸とカルシウムイオンが迅速に反応して、アパタイト系化合物形成の速度が高い。従って、高pH条件で反応を行うことにより、確実かつ迅速にフッ素を不溶化することができる。また、pH12以上であると、水中のカルシウムイオン濃度は100mg/リットル以上となって、燐酸との反応に対して十分な量が存在することになり、添加した燐酸が即座にアパタイト系化合物となることから、pH12以上であることが更に望ましい条件である。従って、製鋼スラグに接している水中にカルシウムイオンを高くするために、酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを存在させて、燐酸イオンとカルシウムイオンの反応を促進することが良い。
【0031】
製鋼スラグの塩基性が高くなると、製鋼スラグからのカルシウムイオン溶出量が多くなり、かつ、浸漬水のpHが高くなる。従って、この様な製鋼スラグであれば、フッ素の不溶化反応を安定化させる効果と添加する酸化カルシウムや水酸化カルシウムの量が減少する効果とがある。ここで、製鋼スラグのアルカリ性を示す指標として、塩基性物質と酸性物質の比を採用するとカルシウムイオン添加量を推定するために良い。種々の実験の結果、製鋼スラグからの溶出pHを決定する要因としての塩基度は、以下の値を用いることが良いことを本発明者らは見出した。転炉スラグと電炉スラグに対しては、
〔(CaO質量%)+(MgO質量%)〕/(SiO2質量%)‥‥(塩基度1)
を、また、比較的酸化アルミニウムの比率が高い溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグでは、
〔(CaO質量%)+(Al2O3質量%)〕/(SiO2質量%)‥‥(塩基度2)
を用いることが良い。転炉スラグ・電炉スラグの場合は、塩基度1が3.5以上であれば、溶出pHは確実に11以上となり、また、塩基度1が3.8以上であれば、溶出pHは確実に12以上となる。一方、溶鋼鍋スラグとタンディッシュスラグでは、塩基度2が3.7以上であれば、溶出pHは確実に11以上となり、また、塩基度2が4以上であれば、溶出pHは確実に12以上となる。従って、これらの製鋼スラグの塩基度1又は塩基度2が上記以上の値であることで、安定した高pH条件が達成でできる。また、このような条件の製鋼スラグでは、酸化カルシウムや水酸化カルシウムなどの添加量が削減できる効果がある。本発明者らの実験では、フリーCaOが2質量%あれば、フッ素を不溶化するために必要なカルシウムイオンの全量を供給できる。
【0032】
本発明者らは、フッ素溶出を抑制するための燐酸又は燐酸塩の添加方法を種々研究した結果、第一の方法としては、事前に製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加する方法である。この方法では、本発明者らの実験結果から、フッ素溶出濃度が0.8〜8mg/リットルの製鋼スラグにおいては、製鋼スラグ質量に対して、3質量%の燐酸イオン(PO3)を含む水溶液を製鋼スラグに散布して、これを混合する。水の粘性の適正化と製鋼スラグ表面へ散布の均一化の観点から、水溶液の燐酸濃度は10質量%以下が良い。この処理により、溶出フッ素濃度は、0.2〜0.7mg/リットルとなる。
【0033】
本発明者らは、更に精度よく燐酸添加量を決定するための実験を行った。この実験では、燐酸とカルシウムイオン添加前のフッ素溶出濃度と、燐酸とカルシウムイオン添加後にフッ素溶出値が0.8mg/リットルとなる時の燐酸添加比率(製鋼スラグに対する質量比率)を調査した。なお、実験の条件は溶出水のpHが11〜13の条件であった。この結果は、図1に記載されるような関係となる。この関係を重回帰して数式でまとめると、

(燐酸添加比率(質量%))=0.037(F溶出(mg/l))+0.079(F溶出(mg/l))−0.0866 ‥‥(1)式

となる。従って、(1)式で計算される添加量以上の燐酸を添加すれば、0.8mg/リットルまでフッ素溶出を抑制できる。また、(1)式で求められる量に対して、4倍まで燐酸添加量を増加させれば、フッ素溶出が0.2〜0.5mg/リットルとなり、より確実な処理ができる。
【0034】
燐酸又は燐酸塩の水溶液と製鋼スラグを混合して養生する時間は4〜2412時間以上とすることが良い。理由は、短時間であると燐酸の反応が終了しておらず、水中に燐酸が多く残り、固化体製造時に固化剤から溶出するイオンが固化のための水和物を形成する反応を阻害することである。また、短時間であると、フッ素イオンの固定反応も終了しないことも理由である。
【0035】
また、第二の方法においては、製鋼スラグと固化剤を原料として製造された製鋼スラグ固化体を300mm以下のサイズとする。300mm以下の型枠に製鋼スラグと固化剤の混練物を流し込んで、このサイズのスラグ固化体を製造する方法と、大きなスラグ固化体ブロックを製造しておき、これを300mm以下のサイズに破砕する方法もある。このスラグ固化体に燐酸又は燐酸塩の水溶液を添加する。この方法での前述の方法と同様に、本発明者らの実験結果から、フッ素溶出濃度が0.8〜8mg/リットルの製鋼スラグにおいては、製鋼スラグ質量に対して3質量%の燐酸イオン(PO3)を含む水溶液を用いるか、(1)式に従った量の燐酸イオンの水溶液を散布する。この際の燐酸イオンの濃度は10質量%以下とする。これ以上の濃度では、水の粘性が増加してスラグ固化体の内部気孔の中に水溶液が均一に浸透しない。また、養生する時間は、24時間以上が必要である。
【実施例】
【0036】
5種類の製鋼スラグ(転炉スラグ2種類、電炉スラグ1種類、溶鋼鍋スラグ2種類)を用いて、スラグ固化体を製造した。製鋼スラグ以外に使用した原料は、高炉スラグ微粉末、ポルトランドセメント、フライアッシュ、燐酸、燐酸アンモニウム、AE減水剤、及び消石灰であった。これらの製鋼スラグの物性と化学成分を表1に記する。
【0037】
【表1】

本実施例では、表1に記載されている製鋼スラグを用いて、スラグ固化体を製造した。10サンプルの製鋼スラグ固化体で、その製造状況と強度・フッ素溶出濃度の関係を調査した。これを表2に記載する。
【0038】
【表2】

サンプル1及びサンプル5では、製鋼スラグに燐酸を添加した後に、高炉スラグ微粉末の混合物に添加したスラグ固化体の例であり、サンプル3では、製鋼スラグに高炉スラグ微粉末の混合物を添加して固化させた後に、燐酸アンモニウムの水溶液を散布したスラグ固化体の例である。サンプルの形状は円筒形で、直径25cm、高さ50cmのものであった。サンプル2とサンプル4では、固化時間を短くするために、高炉スラグ微粉末とポルトランドセメントの混合物(47:53)を固化剤として使用した。以上のサンプルでの強度は19〜25N/mm2であり、高性能のセメントコンクリートと比較するとやや強度が低いが、岩石代替等の用途では十分の強度であった。サンプル6では、高強度の製鋼スラグ固化体を製造するために、AE減水剤を使用して水比率を低下させた。その強度は34N/mm2であり、セメントコンクリートと比較しても十分な強度のものであった。サンプル7は高炉スラグ水砕を添加した製造の例であり、また、サンプル8ではフライアッシュを添加した。いずれのサンプルの強度も製鋼スラグと固化剤の混合物で製造した製鋼スラグ固化体と同等の強度であった。サンプル9とサンプル10では、低強度でも良い用途に用いた例であり、サンプル9の製鋼スラグ固化体を破砕して、最大サイズ30mmの路盤材原料とした。また、サンプル10では、2m角、40cmの海底敷設用のブロックを製造した。これは、搬送中の衝撃や作業中の応力が掛かる状態でも破損することなく、また、海中でも破損しなかった。
【0039】
製鋼スラグ固化体のフッ素溶出については、いずれのサンプルにおいても、燐酸添加なしの製鋼スラグでは0.8mg/リットル以上であったが、燐酸添加したサンプルでは、0.21〜0.78mg/リットルとなり、土壌環境基準を満たす製品となった。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明方法によって、高強度の製鋼スラグ固化体を製造できるとともに、フッ素含有の製鋼スラグを主体とする製鋼スラグ固化体のフッ素溶出を抑制することができるので、当該スラグ固化体を使用後にリサイクルする際に有用であり、当該スラグ固化体は土壌環境基準を満足するため土木材料としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本図は、無処理の製鋼スラグからのフッ素溶出濃度と、フッ素溶出濃度が0.8mg/リットルとなる燐酸添加量(対製鋼スラグ質量比率)の関係を示す図である。
【図2】本図は、本発明の製鋼スラグ固化体の製造方法を示す操作フロー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶出pHが11以上であり、かつ、フッ素を含有する製鋼スラグと、高炉スラグ微粉末、セメント及び高炉スラグ微粉末とセメントの混合物から選ばれる固化剤と、燐酸又は燐酸塩とを原料として、当該原料の混合物と水を混練して、生コンクリート様の混練物を作り、当該混練物を養生して製造することを特徴とする製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項2】
前記固化剤と前記製鋼スラグを混合する前に、当該製鋼スラグに燐酸又は燐酸塩の水溶液を混合して反応させて、当該製鋼スラグ、当該固化剤及び水を混ぜて、生コンクリート様の混練物を作り、これを固化させて製造することを特徴とする請求項1記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項3】
前記原料として、さらに酸化カルシウム又は水酸化カルシウムを添加するものであって、添加される酸化カルシウム又は水酸化カルシウムのCaO換算量と製鋼スラグに含まれるフリーCaOとの質量の和が製鋼スラグ量の2%以上であることを特徴とする請求項2記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項4】
溶出pHが11以上であり、かつ、フッ素を含有する製鋼スラグと、高炉スラグ微粉末、セメント及び高炉スラグ微粉末とセメントの混合物から選ばれる固化剤とを原料として、当該原料の混合物と水を混練して、生コンクリート様の混練物を作り、当該混練物を養生して製鋼スラグ固化体を製造した後に、当該製鋼スラグ固化体に、燐酸又は燐酸塩を含む水を添加することを特徴とする製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項5】
JIS5015に定められた方法で測定した水浸膨張率が1.5%以下の製鋼スラグを使用して、製造することを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項6】
フッ素溶出濃度が0.8〜8mg/リットルの製鋼スラグを用いて、当該製鋼スラグに対して3質量%以上の燐酸を添加して製造することを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項7】
予め製鋼スラグから溶出して達するフッ素平衡濃度値を測定し、当該フッ素平衡濃度値から、(最低燐酸添加比率 (対製鋼スラグ質量%))=0.037(フッ素平衡濃度値(mg/l))+0.079(フッ素平衡濃度値(mg/l))−0.0866の式に当てはめて計算した比率よりも多い燐酸を添加して製造することを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。
【請求項8】
原料として、高炉スラグ微粉末又はセメント、又は、高炉スラグ微粉末とセメントの混合物、及び燐酸又は燐酸塩に加えて、フライアッシュ、高炉スラグ水砕、及び、消石灰を単独又は組み合わせて使用して製造することを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の製鋼スラグ固化体の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−84144(P2009−84144A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−230506(P2008−230506)
【出願日】平成20年9月9日(2008.9.9)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000001063)栗田工業株式会社 (1,536)
【Fターム(参考)】