説明

複合セラミックス粉体およびその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池

【課題】酸化物粒子のナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れた複合セラミックス粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】少なくともA1−x1−yで表されるペロブスカイト型酸化物または酸化ニッケルと、金属イオンが固溶して酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有する複合セラミックス粉体であって、
初めに、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、次いで、A1−x1−yを構成するA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、金属イオンとを、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と共沈させ、沈殿物を200℃以上の温度で熱処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合セラミックス粉体及びその製造方法並びに固体酸化物形燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)に関し、さらに詳しくは、ジルコニア粒子と、A1−x1−yで示される組成を有するペロブスカイト型酸化物粒子もしくは酸化ニッケル粒子とを含み、粒子の分布性及び組成制御性に優れた複合セラミックス粉体及びその製造方法、この複合セラミックス粉体を電極用材料として用いた固体酸化物形燃料電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境意識の高まりから、従来の熱機関を用いる発電装置に代えて、電気化学反応によって電力を取り出す燃料電池の開発が盛んに行われている。燃料電池の一種である固体酸化物形燃料電池は、動作温度が600℃以上と高温であることから、電極には耐熱性に優れたセラミックス材料を用いている。
【0003】
固体酸化物形燃料電池の分野では、各電極は反応触媒としての役割を有しており、反応場となるのは三相界面であるといわれている。
まず、固体酸化物形燃料電池の空気極(正極)における三相とは、酸素イオン導電性を示すセラミックス粒子、電極を構成するセラミックス粒子及び空気等のガスである。例えば、空気極としてA1−x1−y(式中、AはLa及びSmの群から選択される1種または2種の元素、BはSr、Ca及びBaの群から選択される1種または2種以上の元素、CはCo、Ga及びMnの群から選択される1種または2種以上の元素、DはFe、Mg及びNiの群から選択される1種または2種以上の元素であり、0.1≦x≦0.5、0≦y≦1.0)と、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)の複合材料(A1−x1−y−YSZ)、固体電界質としてイットリア安定化ジルコニアを用いた系では、電極を構成するセラミックス粒子であるA1−x1−y、酸素イオン導電性を示すセラミックス粒子であるイットリア安定化ジルコニア、及び空気等のガスの3成分が全て接する部分が三相界面である。したがって、空気極の三相界面を増大させ、酸素還元能を向上させるとともに電子伝導性を向上させることにより、固体酸化物形燃料電池の出力特性を向上させることができる。
【0004】
また、固体酸化物形燃料電池の燃料極(負極)における三相とは、酸素イオン導電性を示すセラミックス粒子、電極を構成する金属ないしはセラミックス粒子及び水素等の燃料ガスである。例えば、燃料極としてニッケル−イットリア安定化ジルコニア複合材料(Ni−YSZ)、固体電解質としてイットリア安定化ジルコニアを用いた系では、電極を構成する金属であるニッケル、酸素イオン導電性を示すセラミックス粒子であるイットリア安定化ジルコニア、及び燃料ガスの3成分が全て接する部分が三相界面である。したがって、燃料極の三相界面を増大させ、水素酸化能を向上させるとともに、発生した電子の外部回路への効率的な供給を行うことにより、固体酸化物形燃料電池の出力特性を向上させることができる。
なお、Ni−YSZ燃料極の場合、ニッケルは未動作の状態では酸化物、すなわちセラミックス粒子として存在しており、動作時に還元されてニッケル金属となる。
【0005】
このように、空気極、燃料極とも三相界面の大きさや均一性が燃料電池の性能を左右するために、電極を構成するセラミックス粒子を充分に微細化するとともに、それぞれの粒子径がより均一で、分布性や組成制御性に優れた状態とする必要がある。そこで、一次粒子径がより微細であり、ナノメートルレベルで均一に複合化された複合セラミック粒子が望まれている。
【0006】
燃料電池の電極材料として用いられる、複数種の酸化物を含む複合セラミックス粉体を製造する方法としては、通常、複数種の酸化物粉体をボールミル、自動乳鉢等の解砕・粉砕機を用いて、それぞれの粉体を解砕・粉砕しながら攪拌混合して複合セラミックス粉体とする機械的混合方法が一般的である。また、熱作用により粉末間の結合を促進させるメカノケミカル的手法を併せ持ったメカノケミカル的機械混合法も用いられている。
【0007】
しかしながら、従来の方法で得られた複合セラミックス粉体は、複数種の酸化物1次粒子同士が凝集して不均一に混合された複合粉体であったり、あるいは、複数種の酸化物1次粒子それぞれが凝集して粗大な複合粉体になってしまう等の問題があった。したがって、このような複合粉体を触媒や燃料電池用電極として用いた場合には、特性を充分に発揮することができないという不具合があった。
【0008】
そこで、これらの問題点を解決し、燃料電池用電極として用いた場合でも十分な特性を有する複合セラミックス粉体の製造方法として、複合セラミックス粉体を構成する複数種の金属イオン、例えば固体酸化物形燃料電池の空気極原料粉体であれば、La(ランタン)イオン、Sr(ストロンチウム)イオン、Mn(マンガン)イオン、Zr(ジルコニウム)イオン及びY(イットリウム)イオンを含む溶液にアルカリ溶液を加えて中和沈殿物を生成させ、その後、この中和沈殿物を熱処理等することにより酸化物を生成させ、複合セラミックス粉体を得る、いわゆる共沈焼成法が知られている(特許文献1、2)。
【0009】
また、固体酸化物形燃料電池の空気極においては、複合セラミックス粒子の原料粉体の一部を仮焼するとともに粒子径を制御することにより、空気極の経時的劣化を防ぐことも検討されている(特許文献3)。
【0010】
一方、固体酸化物形燃料電池の燃料極用複合セラミックス粉体の製造方法としては、イットリア安定化ジルコニアまたはサマリアドープセリアからなる酸素イオン導電性を有する酸化物粉体を、ニッケルイオンまたはコバルトイオンを含む溶液中に浸漬した後、乾燥させ、次いで、加熱処理して酸素イオン導電性を有する酸化物粉体の表面にニッケル酸化物またはコバルト酸化物を保持し、この酸化物粉体にさらにニッケルまたはコバルトの酸化物粉体を混合することで目的とする複合セラミックス粉体を得る方法が提案されている(特許文献4)。
【0011】
また、複合セラミックス粉体の均一性や組成の制御性に優れた方法としてミスト熱分解法が知られており、例えば、イットリア安定化ジルコニア粒子と酢酸ニッケルとを含む溶液をミスト化し、このミストを乾燥した後に酢酸ニッケルの熱分解温度以上に加熱し、イットリア安定化ジルコニア粒子群が酸化ニッケル粒子群の表面側に偏在した複合体粒子を得る方法が提案されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000−44245号公報
【特許文献2】特開平9−86932号公報
【特許文献3】特開2006−40822号公報
【特許文献4】特許第3565696号公報
【特許文献5】特許第3193294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、特許文献1,2で示された共沈焼成法の場合、共沈の条件により沈殿物中の金属イオンの複合状態が変動するため、この沈殿物を熱処理した際の各セラミックスの生成状態にも変動が生じ、得られる複合セラミックス粒子の特性が均一になり難いという問題点があった。
また、特許文献3で示された複合セラミックス粒子の原料粉体の粒子径を制御する場合においても、その制御範囲はマイクロメートルレベルであった。
また、特許文献4で示された複合セラミックス粉体の製造方法においては、確かに酸素イオン導電性を有する酸化物粉体の表面に、ニッケルまたはコバルトの微細粒子を形成できるものの、表面に保持されるニッケル酸化物またはコバルト酸化物の量には限度があるために組成の制御可能範囲が狭く、さらに組成制御自体が難しかった。
また、特許文献5で示された従来のミスト熱分解法では、確かに、複数種の酸化物の分布の均一性や組成の制御性は改善されるものの、得られた複合体粒子中の酸化物の1次粒子径が大きいという問題があった。
【0014】
このように、燃料電池の電極用として示されている製造方法を用いて製造された複合セラミックス粉体であっても、実際に燃料電池用電極として用いた場合には、製造される複合セラミックス粉体の粒子径や組成に起因して、充分な特性が得られないという問題点があった。
【0015】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、複数種の酸化物粒子のナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れた複合セラミックス粉体およびその製造方法を提供することを目的とする。また、本発明の複合セラミックス粉体を電極材料に用いることで、三相界面が多く、固体酸化物形燃料電池の空気極においては酸素還元能と電子伝導性に優れ、また燃料極においては水素酸化能と電子伝導性に優れた固体酸化物形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、A1−x1−y(式中、AはLa及びSmの群から選択される1種または2種の元素、BはSr、Ca及びBaの群から選択される1種または2種以上の元素、CはCo、Ga及びMnの群から選択される1種または2種以上の元素、DはFe、Mg及びNiの群から選択される1種または2種以上の元素であり、0.1≦x≦0.5、0≦y≦1.0)にて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸化ジルコニウムに固溶することで酸化ジルコニウムに酸素イオン導電性を付与できる金属Eのイオンが固溶して酸素イオン導電性が付与されたジルコニアとを含有してなる複合セラミックス粉体を製造するに際して、ジルコニア原料としてあらかじめ塩基性炭酸ジルコニウム錯体を作製し、この塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、金属Eのイオンと、を共沈させて沈殿物を生成させ、この中和沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理すれば、複数種の酸化物粒子のナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れた複合セラミックス粉体を容易に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
また、本発明の製造方法により得られた複合セラミックス粉体を電極材料とすることで、三相界面が多く、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成し、出力及び特性を向上させた固体酸化物形燃料電池を得ることができることを見出し、併せて本発明を完成するに至った。
【0017】
すなわち、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法は、少なくともA1−x1−y(式中、AはLa及びSmの群から選択される1種または2種の元素、BはSr、Ca及びBaの群から選択される1種または2種以上の元素、CはCo、Ga及びMnの群から選択される1種または2種以上の元素、DはFe、Mg及びNiの群から選択される1種または2種以上の元素であり、0.1≦x≦0.5、0≦y≦1.0)にて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸化ジルコニウムに固溶することで酸化ジルコニウムに酸素イオン導電性を付与できる金属Eのイオンが固溶して酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させる第1の工程と、前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、前記金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、前記A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第1の沈殿物、または、前記ニッケルイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第2の沈殿物を生成させる第2の工程と、前記第1または第2の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理する第3の工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
また、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法においては、少なくともA1−x1−yにて表される酸化物と、前記金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、前記第1の工程において、前記ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、前記ジルコニウムイオン量の3.2倍以上かつ5.3倍以下の前記炭酸イオン量を含有する塩基性水溶液中で反応させて、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、前記第3の工程において、前記第2の工程で生成される前記第1の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することが好ましい。
【0019】
また、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法においては、酸化ニッケルと、前記金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、前記第1の工程において、前記ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、前記ジルコニウムイオン量の0.5倍以上かつ5.3倍以下の前記炭酸イオン量を含有する塩基性水溶液中で反応させて、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、前記第3の工程において、前記第2の工程で生成される前記第2の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することが好ましい。
【0020】
前記塩基性水溶液のpHが7以上かつ9以下であることが好ましい。
【0021】
本発明の複合セラミックス粉体は、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られることを特徴とする。
【0022】
本発明の固体酸化物形燃料電池は、本発明の複合セラミックス粉体を電極材料として用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の複合セラミックス粉体の製造方法によれば、少なくともA1−x1−yにて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸化ジルコニウムに固溶することで酸化ジルコニウムに酸素イオン導電性を付与できる金属Eのイオンが固溶して酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、初めに、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、次いで、前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、前記金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、前記A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第1の沈殿物、または、前記ニッケルイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第2の沈殿物を生成させ、次いで、この第1または第2の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することとしたので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、三相界面が多く、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することが可能な複合セラミックス粉体を、容易かつ安価に得ることができる。
【0024】
また、本発明の複合セラミックス粉体によれば、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られるので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することが可能な複合セラミックス粉体を提供することができる。
【0025】
また、本発明の固体酸化物形燃料電池によれば、本発明の複合セラミックス粉体を電極材料として用いたので、三相界面が広く、且つ酸素還元能と電子伝導性に優れた燃料極、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた空気極を形成することができ、その結果、電池の出力及び特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の一実施形態の固体酸化物形燃料電池の電極を評価するための電気化学特性評価装置を示す模式図である。
【図2】本発明の実施例1の複合セラミックス粉体の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図3】本発明の実施例1の複合セラミックス粉体の透過型電子顕微鏡像である。
【図4】本発明の実施例2の複合セラミックス粉体の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【図5】本発明の実施例3の複合セラミックス粉体の粉末X線回折(XRD)パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の複合セラミックス粉体の製造方法及び固体酸化物形燃料電池を実施するための最良の形態について説明する。なお、この形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0028】
ここで、以下の説明を簡略にするため、A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の元素及びニッケルをまとめて、「元素M」と称する場合がある。同様に、A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオン及びニッケルイオンをまとめて、元素Mのイオンと称する場合がある。
また、以下の説明においては、「酸化ジルコニウムに固溶することで酸化ジルコニウムに酸素イオン導電性を付与できる金属Eのイオン」を「金属Eのイオン」と称し、同様に、該イオンの元となる金属を「金属E」と称する。
【0029】
さらに、本願における「金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニア」を「酸素イオン導電性ジルコニア」と称する場合がある。
そして、以下の説明において「ジルコニア」とは酸化ジルコニウムだけではなく、酸化ジルコニウムを主成分とし各種金属が固溶した酸化ジルコニウム、例えば金属イオンが固溶することで酸素イオン導電性が向上した酸化ジルコニウムを含むものとする。一方、「酸化ジルコニウム」とは、意図的な添加物を含まないジルコニウムの酸化物のみを意味するものとする。
また、以下の説明において「ジルコニウムイオン」とは、ジルコニウムイオン(Zr4+)だけでなく、オキシジルコニウムイオン(ZrO2+)を含むものとする。これは、溶液中および錯塩中でジルコニウムがいずれの状態となっているかの特定が困難であるためである。
【0030】
[複合セラミックス粉体の製造方法]
本発明の複合セラミックス粉体の製造方法は、少なくともA1−x1−yにて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸素イオン導電性ジルコニア(金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニア)と、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、初めに、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、次いで、元素Mのイオン(前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオン)と、金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第1の沈殿物、または、ニッケルイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第2の沈殿物を生成させ、次いで、この沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする製造方法である。
【0031】
ここで、「塩基性炭酸ジルコニウム錯体」とは、後述するように、本願発明の複合セラミックス粉体の製造方法において、中性ないしは塩基性溶液中で生じる炭酸ジルコニウム錯体を指している。本明細書中では、通常の炭酸ジルコニウム錯体と区別するために、塩基性炭酸ジルコニウム錯体という用語を用いている。
【0032】
本発明においては、始めに形成させた陰イオンである塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、陽イオンである元素Mのイオン及び金属Eのイオンとを反応させて、錯塩の沈殿物を形成させることが特徴である。この沈殿物は、錯塩、すなわち化学的反応生成物であるから、元素Mのイオン及び金属Eのイオンと、ジルコニウムイオンとは、原子レベルで混合された状態を形成している。このようにして得られた第1または第2の沈殿物を熱処理して酸化物を得れば、元素M及び金属Eと、ジルコニウムとが、原子レベルで混合された酸化物を得ることができることになる。
また、熱処理時に相分離が発生したとしても、熱処理条件を制御すれば、分相した各相の凝集や成長を抑えることができるから、結果として、元素Mにより形成された酸化物と、金属Eのイオンが固溶したジルコニアとが、ナノメートルサイズで混合した複合セラミックス粉体を得ることができる。
【0033】
さらに得られた沈殿物は、錯塩、つまり反応性生物であるから、その組成比は一定であって、沈殿内で元素Mおよび金属Eとジルコニウムとの組成比が変動することはない。すなわち、組成比が安定し、特性のばらつきがない複合セラミックス粉体を得ることができる。
【0034】
本発明において、初めに塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成するのは、次の理由による。
本発明に類似の複合セラミックス粉体の製造方法として、炭酸塩を含む塩基性溶液に、ジルコニウムイオンと、元素Mのイオンと、金属Eのイオンとを同時に加えることにより、元素Mのイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物を得る方法がある。この方法においても塩基性炭酸ジルコニウム錯体が得られる理由としては、塩基性炭酸ジルコニウム錯体の生成速度が、ジルコニウム、元素M及び金属Eの酸化物や水酸化物等の生成速度より速いために、まず塩基性炭酸ジルコニウム錯体が形成するためと考えられる。
【0035】
しかしながら、この方法では、塩基性炭酸ジルコニウム錯体の形成と、沈殿物の形成とが明確な段階を追って行われる訳ではないから、塩基性炭酸ジルコニウム錯体が完全に形成される前に、生成物が沈殿してしまう虞がある。塩基性炭酸ジルコニウム錯体が完全に形成されていない状態では、当該錯体の陰イオンとしての価数も一定しておらず、この錯体に錯塩として結合する陽イオン、すなわち元素Mのイオンと金属Eのイオンの量に変動が生じる。このため、形成した沈殿物における組成の均一性は、塩基性炭酸ジルコニウム錯体が全く形成されない場合に比べれば好転するものの、必ずしも良好な状態とは言うことができない。
【0036】
これに対して、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法においては、あらかじめ塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成し、この錯体が安定な状態となってから、陽イオンである元素Mのイオンや金属Eのイオンと反応させて沈殿を形成させる。これにより、得られた沈殿物における成分の分布と組成比はより均一性の高いものとなり、その結果、この沈殿物を熱処理して得られる複合セラミックス粉体においては、各成分、すなわちA1−x1−yで表される酸化物、酸化ニッケル、酸素イオン導電性ジルコニア、のいずれの結晶子径をもより小さくすることができるとともに、A1−x1−yで表される酸化物と酸素イオン導電性ジルコニア、または酸化ニッケルと酸素イオン導電性ジルコニアとの均一性により優れた、複合セラミックス粉体を得ることができる。
【0037】
「複合セラミックス粉体」
初めに、本発明の製造方法により作製される複合セラミックス粉体について説明する。
本発明の製造方法により作製される複合セラミックス粉体は、A1−x1−yで表される酸化物と、酸素イオン導電性ジルコニアとにより形成される複合セラミックス粉体(複合セラミックス粉体X)、あるいは、酸化ニッケルと、酸素イオン導電性ジルコニアとにより形成される複合セラミックス粉体(複合セラミックス粉体Y)である。
【0038】
まず、A1−x1−yにて表される酸化物としては、ペロブスカイト型結晶構造を有する酸化物が好適であって、AはLa及びSmの群から選択される1種または2種の元素、BはSr、Ca及びBaの群から選択される1種または2種以上の元素、CはCo、Ga及びMnの群から選択される1種または2種以上の元素、DはFe、Mg及びNiの群から選択される1種または2種以上の元素であり、xとyはそれぞれ0.1≦x≦0.5、0≦y≦1.0の範囲を有するものである。
【0039】
また、金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニア(酸素イオン導電性ジルコニア)としては、酸化ジルコニウムに対して酸化イットリウム、酸化サマリウム、酸化スカンジウム、酸化カルシウム、酸化マグネシウムから選択される1種または2種以上の成分が固溶してなり、その固溶量が酸化ジルコニウムに対してモル百分率で0%を超えかつ30%未満、より好ましくは0.03%を超え20%未満であるものを示している。なお、酸化イットリウムなどが固溶した酸化ジルコニウムは安定化ジルコニアとも呼ばれ、機械的特性にも優れており、この点からも特性の向上が図られている。
なお、固溶成分のモル数は酸化物としてのモル数であって、金属Eのイオンとしてのモル数ではない。例えば酸化イットリウムであれば、Yとしてのモル数であってY3+としてのモル数ではない。
【0040】
本発明の製造方法により作製される複合セラミックス粉体Xにおける、A1−x1−yで表される酸化物と、酸素イオン導電性ジルコニアとの比率は、A1−x1−yで表される酸化物の質量をLw、酸素イオン導電性ジルコニアの質量をZwとして、これら各成分の質量比、(Lw/Zw)が、0.11を越えかつ9未満であることが好ましい。
また、本発明の製造方法により作製される複合セラミックス粉体Yにおける、酸化ニッケルと、酸素イオン導電性ジルコニアとの比率は、酸化ニッケルの質量をNw、酸素イオン導電正ジルコニアの質量をZwとして、これら各成分の質量比、(Nw/Zw)が、0.21を越えかつ17.2未満の範囲であることが好ましい。
【0041】
本発明の複合セラミックス粉体における、A1−x1−yにて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸素イオン導電性ジルコニアとの比率を上記の範囲とする理由は、本発明の製造方法における熱処理に際して、上記の範囲を外れた比率では、酸化物または酸化ニッケルと、酸素イオン導電性ジルコニアとのいずれか一方が過剰に存在するため、過剰に存在する成分微粒子同士の融着や粒成長が進みやすくなり、微細粒子が均一に分散した複合セラミックス粉体が得られなくなるためである。そして、このような複合セラミックス粉体を用いて固体酸化物形燃料電池の電極を形成した場合には、良好な電極特性が得られないためである。
また、複合セラミックス粉体Yにおいて、酸化ニッケルが酸素イオン導電性ジルコニアに対して少なすぎる場合には、得られる複合セラミックス粉体を用いて形成した固体酸化物形燃料電池の燃料極における導電性が低下するため、やはり良好な電極特性が得られないためである。
【0042】
「塩基性炭酸ジルコニウム錯体の調製」
本発明の製造方法では、初めに塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成する。この塩基性炭酸ジルコニウム錯体は、ジルコニウムイオンに炭酸イオン(CO2−)及び水酸基(OH)が配位して形成された、陰イオン錯体である。ただし、その組成は明確になっておらず、[ZrO(CO(OH)(2k+l−2)−、あるいは[Zr(CO(OH)(2m+n−4)−のように記載される。
【0043】
塩基性炭酸ジルコニウム錯体を作製する方法としては、例えば次に挙げる例が示されており、ジルコニウムイオンを含む溶液に、溶液が塩基性を示す炭酸塩(以下、塩基性炭酸塩)の溶液を添加して得ることができる(Materials Research Bulletin 2002,37,1933−1940)。
塩基性炭酸塩溶液としては、炭酸ナトリウム(NaCO)、炭酸カリウム(KCO)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO)、炭酸水素カリウム(KHCO)、炭酸アンモニウム((NHCO)、炭酸水素アンモニウム(NHHCO)の水溶液等を用いることができる。これらの中では、特にアンモニウムイオンを含む(NHCOやNHHCOの水溶液を好適に用いることができる。これは、炭酸アルカリ中のNaやKイオン等の金属イオンが沈殿物中に残留すると、得られる複合セラミックス粉体中にこれら金属イオンが残留し、最終的に得られる固体酸化物形燃料電池の特性に悪影響を及ぼすおそれがあるためである。
この塩基性炭酸塩溶液における濃度としては、特に制限を設けるものではないが、生産性やハンドリングの観点から0.1mol%〜5mol%の範囲が好ましい。
【0044】
この塩基性炭酸ジルコニウム錯体を安定に存在させるためには、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を溶解している溶液のpHが7以上、すなわち中性からアルカリ性であることが好ましい。溶液が酸性の場合、塩基性炭酸ジルコニウム錯体が形成されず、結果として元素Mのイオン(A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオン及びニッケルイオン)と、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物が安定して形成されなくなる虞がある。
また、溶液のpHが12より高くなった場合には、ジルコニウムが炭酸塩や水酸化物として沈殿してしまい、やはり元素Mのイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物が安定して形成されなくなる虞がある。
さらに、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を溶解している溶液のpHが変動することにより、塩基性炭酸ジルコニウム錯体の組成が変動する可能性がある。
これらのことから、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を安定に存在させるためには、後の沈殿形成時を含めて、液のpHを7以上かつ12以下で一定に保つことが好ましい。
【0045】
pHを一定に保つ方法としては、ジルコニウムイオンを含む溶液が通常は酸性のため、アルカリ性の溶液を添加すればよい。すなわち、塩基性炭酸塩の溶液にジルコニウムイオンを含む溶液を添加する際に、同時にアルカリ性の溶液を添加すれば良い。アルカリ性の溶液は特に限定はされないが、強アルカリ性の溶液ではpHを一定に保つことが難しくなることや、金属イオンを含まないほうが好ましいことから、アンモニア水を用いることが好ましい。また、アンモニア水と、上記(NHCOやNHHCOの組み合わせであれば、水溶液のpHを一定に保つバッファ効果があることから、より好適である。
【0046】
次に、ジルコニウムイオン量と炭酸イオン量の比率については、製造する複合セラミックス粉体の種類によって変わり、複合セラミックス粉体Xの製造方法においては、ジルコニウムイオン量の3.2倍以上かつ5.3倍以下の炭酸イオン量を用いることが好ましい。
ここで、塩基性水溶液中の炭酸イオン量を、ジルコニウムイオン量の3.2倍以上かつ5.3倍以下とする理由は、後の工程でA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、金属Eのイオンとを添加した際に、生成する第1の沈殿物の組成が炭酸イオン量とジルコニウムイオン量との比率により変動し、この範囲を外れると目的とする組成の沈殿物が得られないためである。
【0047】
ここで、各成分の原料溶液中の存在量に対する第1の沈殿物中の存在量を収率とするとき、炭酸イオン量がジルコニウムイオン量の3.2倍未満の場合には、金属B、C及びD成分の収率が85%未満となり、第1の沈殿物中の金属A、B、C、D各成分の比率がA1−x1−yで表される酸化物を形成するための組成比からずれてしまうため、好ましくない。
また、炭酸イオン量がジルコニウムイオン量の5.3倍を超える場合には、ジルコニウムの収率が75%未満となり、最終的に得られる複合セラミックス粉体中における酸素イオン導電性ジルコニア量とA1−x1−yにて表される酸化物量との比率が、目的とする比率からずれてしまうため、好ましくない。
これら、金属B、C及びD成分の収率と、ジルコニウムの収率とから考慮すると、塩基性水溶液中の炭酸イオン量を、ジルコニウムイオン量の3.3倍以上かつ4.6倍以下であることがより好ましく、3.4倍以上かつ4.0倍以下であればさらに好ましい。
【0048】
なお、A成分および金属Eについては、塩基性水溶液中の炭酸イオン量とジルコニウムイオン量の比率に関係なく、沈殿物中の存在量が原料水溶液中の95%以上となることから、これらの成分については、炭酸イオン量とジルコニウムイオン量の制約はない。
【0049】
また、本製造方法において混合させる各イオンの比率は、最終的に得られる複合セラミックス粉体Xの組成が前記の好適な範囲となるように調整することが好ましい。すなわち、A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンから最終的に形成されるA1−x1−yで表される酸化物の質量をLw、金属Eのイオンとジルコニウムイオンから最終的に形成される、酸素イオン導電性ジルコニアの質量をZwとした際に、これら各成分の質量比、(Lw/Zw)が、0.11を越えかつ9未満となるように、各イオンの量を選択することが好ましい。
さらに、酸素イオン導電性ジルコニアを形成するための、金属Eのイオンとジルコニウムイオンとの比率は、金属Eのイオンを酸化物に換算したモル量Emと、ジルコニウムイオンを酸化物に換算したモル量Zmとの比(Em/Zm)が、0を越えかつ0.3未満となるように選択することが好ましい。
【0050】
各イオンの量をこの範囲とすることにより、酸素イオン導電性ジルコニア粒子中に、A1−x1−yで表される酸化物粒子が複合化された複合セラミックス粒子、あるいは、A1−x1−yで表される酸化物粒子中に、酸素イオン導電性ジルコニア粒子が複合化された複合セラミックス粒子X、を自由に制御作製することができる。
【0051】
一方、複合セラミックス粉体Yの製造方法におけるジルコニウムイオン量と炭酸イオン量の比率としては、ジルコニウムイオン量の0.5倍以上かつ5.3倍以下の炭酸イオン量を用いることが好ましい。
ここで、塩基性水溶液中の炭酸イオン量を、ジルコニウムイオン量の0.5倍以上かつ5.3倍以下とする理由は、生成する第2の沈殿物の組成が炭酸イオン量とジルコニウムイオン量との比率により変動し、この範囲を外れると目的とする組成の第2の沈殿物が得られないためである。
【0052】
すなわち、炭酸イオン量がジルコニウムイオン量の0.5倍未満の場合には、ニッケルの収率が75%未満となり、一方、炭酸イオン量がジルコニウムイオン量の5.3倍を超える場合には、ジルコニウムおよびニッケルの沈殿状態が制御しにくくなることから、いずれの場合とも最終的に得られる複合セラミックス粉体Y中における酸素イオン導電性ジルコニア量と酸化ニッケル量との比率が、目的とする比率からずれてしまうため、好ましくない。
また、ニッケルの収率とジルコニウムの収率とから考慮すると、塩基性水溶液中の炭酸イオン量を、ジルコニウムイオン量の0.8倍以上かつ4.6倍以下であることがより好ましく、1.0倍以上かつ3.6倍以下であればさらに好ましい。
【0053】
なお、金属Eについては、塩基性水溶液中の炭酸イオン量とジルコニウムイオン量の比率に関係なく収率が95%以上となることから、これらの成分については、炭酸イオン量とジルコニウムイオン量の制約はない。
【0054】
また、本製造方法において混合させる各イオンの比率は、最終的に得られる複合セラミックス粉体Yの組成が前記の好適な範囲となるように調整することが好ましい。ニッケルイオンから最終的に形成される酸化ニッケルの質量をNw、金属Eのイオンとジルコニウムイオンから最終的に形成される、酸素イオン導電性ジルコニアの質量をZwとした際に、これら各成分の質量比、(Nw/Zw)が、0.21を越えかつ17.2未満となるように、各イオンの量を選択することが好ましい。
さらに、酸素イオン導電性ジルコニアを形成するための、金属Eのイオンとジルコニウムイオンとの比率は、金属Eのイオンを酸化物に換算したモル量Emと、ジルコニウムイオンを酸化物に換算したモル量Zmとの比(Em/Zm)が、0を越えかつ0.3未満となるように選択することが好ましい。
【0055】
各イオンの量をこの範囲とすることにより、酸素イオン導電性ジルコニア粒子中に、酸化ニッケルが複合化された複合セラミックス粒子、あるいは、酸化ニッケル粒子中に、酸素イオン導電性ジルコニア粒子が複合化された複合セラミックス粒子Y、を自由に制御作製することができる。
【0056】
「沈殿物の生成」
上記のようにして調整された、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を含む溶液中に、溶液のpHを7以上かつ9以下の範囲で一定に保った状態で、元素Mのイオンと、金属Eのイオンとを共に含む溶液を添加する。これにより、元素Mのイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第1または第2の沈殿物を得ることができる。
なお、元素Mのイオンと、金属Eのイオンとを別々に添加した場合には、得られる沈殿物において、元素Mのイオンと金属Eのイオンと組成に変動が発生する虞があることから、両イオンを共に含む溶液を添加することが好ましい。
【0057】
ここで、添加後の水溶液のpHを7以上で一定に保つ理由は、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を安定した状態で保持させるためである。また、添加後の水溶液のpHを9以下とする理由は、pHが9を越えると、添加した元素Mのイオンが水酸化物として沈殿してしまい、均一な組成の第1または第2の沈殿物が得られなくなる虞があるためである。
pHを一定に保つ方法としては、添加する元素Mのイオン、金属Eのイオンを含む溶液が酸性のため、アルカリ性の溶液を添加すればよいが、強アルカリ性の溶液ではpHを一定に保つことが難しくなることや、金属イオンを含まないことが好ましいことから、アンモニア水を用いることが好ましい。また、アンモニア水と、上記(NHCOやNHHCOの組み合わせであれば、水溶液のpHを一定に保つバッファ効果があることから、より好適である。
【0058】
ここで、第1または第2の沈殿物中に含まれる炭酸イオン量とジルコニウム量との質量比(CO2−/Zr)は、0.07以上かつ3.6以下であることが好ましい。
この、第1または第2の沈殿物中に含まれる炭酸イオン量とジルコニウム量との質量比(CO2−/Zr)は、原料成分として溶液中に含まれるジルコニウムイオン量、炭酸イオン(CO2−)量および液のpHすなわち水酸化物イオン(OH)量により変化するが、上記範囲内であれば安定した沈殿生成物を形成することができる。そのため、この第1または第2の沈殿物を200℃以上で熱処理することにより、良好な特性を有する複合セラミックス粉体を得ることができる。
【0059】
このようにして得られた、元素Mのイオンと、金属Eのイオンと、塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物を、純水を用いた通常の濾過洗浄方法等により、アルカリイオンやハロゲンイオン等の不純物イオンを除去・洗浄した後、乾燥機等を用いて200℃未満、より好ましくは150℃以下の温度で乾燥し、乾燥物を得る。純水で洗浄後の沈殿物をアルコールなどの揮発性有機溶媒で洗浄し、乾燥を速めてもよい。
なお、乾燥温度を200℃未満に限定するのは、200℃以上になると沈殿物の熱分解が起こり、次の熱処理工程との差異が無くなるためであるが、実際の工程においては、乾燥工程後にそのまま昇温させて乾燥と熱処理を連続して行ってもよく、また熱処理時の昇温を緩やかに行うことで乾燥工程に代えてもかまわない。
【0060】
「沈殿物の熱処理」
得られた乾燥物を、例えば、電気炉等を用いて、大気雰囲気中、200℃以上かつ1000℃以下、好ましくは500℃以上かつ1000℃以下の温度にて熱処理することにより、A1−x1−yで表される酸化物粒子、または酸化ニッケル粒子と、酸素イオン導電性ジルコニア微粒子とからなる、複合セラミックス粉体(複合セラミックス粉体X、または複合セラミックス粉体Y)を作製することができる。
【0061】
ここで、熱処理温度を200℃以上と限定した理由は、温度が200℃未満の場合、乾燥物中に含まれるジルコニウムおよび金属Eからの酸素イオン導電性ジルコニア粒子の生成、同じく沈殿乾燥物中に含まれるA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の元素からのA1−x1−yで表される酸化物粒子の生成または沈殿乾燥物中に含まれるニッケルからの酸化ニッケル粒子の生成、が不十分になるためである。
これらの酸化物粒子、すなわち酸素イオン導電性ジルコニア粒子と、A1−x1−yで表される酸化物粒子または酸化ニッケル粒子、の生成が不十分の場合、酸素イオン導電性ジルコニア微粒子と、A1−x1−yで表される酸化物微粒子または酸化ニッケル微粒子が複合化された複合セラミックス粒子を、自由に制御作製することができないからである。
【0062】
また、熱処理温度が1000℃を越えた場合、形成した複合セラミックス粉体中の各成分の粒成長や焼結が起こるために、各成分の結晶子径が増大するとともに、粉体中の均一性が低下し、特に固体酸化物形燃料電池の電極を形成した際に、良好な特性が得られなくなるからである。
【0063】
[固体酸化物形燃料電池]
本発明の固体酸化物形燃料電池は、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られた複合セラミックス粉体を電極材料として用いたものである。
【0064】
始めに、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られた複合セラミックス粉体と、固体酸化物形燃料電池の電極との関係について説明する。
まず、A1−x1−yにて表される酸化物粒子と酸素イオン導電性ジルコニア粒子とを含む複合セラミックス粉体Xは、固体酸化物形燃料電池の空気極材料として好適に使用可能である。その理由として、この複合セラミックス粉体Xを用いた電極材料は、酸素還元能と電子伝導性とに優れており、外部回路から供給される電子と酸素ガスとのイオン化反応を効率良く行うことができることが挙げられる。そのため、複合セラミックス粉体Xを空気極の形成材料に用いると、空気極における酸素イオン化量を増大させることができ、発生した酸素イオンを電解質へ効率的に供給することができることから、電池の出力及び特性を向上させることができる。
【0065】
また、この複合セラミックス粉体Xは、A1−x1−yにて表される酸化物粒子と、酸素イオン導電性ジルコニア粒子とが、ナノメートルサイズで分散された複合粒子であるから、この固体酸化物形燃料電池の発電時の使用温度においても、このA1−x1−yにて表される酸化物粒子同士の融着や粒成長を抑制することができるので、三相界面量が多く、酸素還元能と電子伝導性と優れた空気極を備えた固体酸化物形燃料電池を提供することができるためである。
【0066】
次に、酸化ニッケル粒子と、酸素イオン導電性ジルコニア粒子とを含む複合セラミックス粉体Yは、固体酸化物燃料電池の燃料極材料として好適に使用可能である。その理由として、この複合セラミックス粉体を用いた電極材料は、電子の発生量を増大させることができるので、電子を外部回路へ効率的に供給することができ、出力特性を向上させることができることが挙げられる。
【0067】
また、この複合セラミックス粉体Yは、酸化ニッケル粒子と、酸素イオン導電性ジルコニア粒子とが、ナノメートルサイズで分散された複合粒子であるから、この固体酸化物形燃料電池の発電時の還元雰囲気下にて酸化ニッケルの還元金属化処理を行った場合においても、生成したニッケル金属微粒子の融着や粒成長を抑制することができるので、三相界面量が多く、水素酸化能と電子伝導性とにも優れた燃料極を備えた固体酸化物形燃料電池を提供することができるためである。
【0068】
次に、固体酸化物形燃料電池の電極を作製する方法としては、一般的に用いられる方法で良く、例えば、上記の複合セラミックス粉体と、ポリエチレングリコール、ポリビニルブチラール等のバインダーとを混合して得られたペーストを、イットリア安定化ジルコニア等からなる固体電解質基板の表面に、印刷法等にて塗布して膜を形成した後、酸化性雰囲気下、例えば、空気中にて焼成すればよい。
焼成温度は、空気極、すなわち複合セラミックス粉体Xを用いる場合で、700℃から1400℃の範囲内、一方、燃料極、すなわち複合セラミックス粉体Yを用いる場合では、1200℃から1500℃の範囲内で選択することができる。
【0069】
図1は電気化学特性評価装置を示す模式図であり、固体酸化物形燃料電池の電極の電気特性を測定するための装置である。
図において、符号1はイットリア安定化ジルコニア等の電解質、符号2は白金(Pt)からなる参照極、符号3は電解質1の上面に形成され、上記実施形態の内、複合セラミックス粉体Xを用いて作製された空気極、符号4は参照極2の下面に形成され、上記実施形態の内、複合セラミックス粉体Yを用いて作製された燃料極、符号5は空気極3及び燃料極4それぞれの上に配置された白金網、符号6はガラスシール、符号7、8は同軸的に配設され互いに径の異なるアルミナ管、符号9は白金線、符号10は乾燥空気、符号11は3%HO−97%Hの組成の加湿水素ガスである。
【0070】
ここで、上記の固体酸化物形燃料電池の空気極3の電極反応抵抗を測定するには、電解質1の上面に空気極3及び白金網5を順次取り付け、参照極2の下面に燃料極4及び白金網5を順次取り付け、空気極3に乾燥空気10を、燃料極4に加湿水素ガス11を、それぞれ供給しつつ、600℃〜800℃の温度範囲における空気極3と参照極2との間の交流インピーダンスを燃料極4を対極として測定する。
また、燃料極4の電極反応抵抗を測定するには、空気極3の測定と同様の方法にて、燃料極4と参照極2との間の交流インピーダンスを空気極3を対極として測定する。
【0071】
なお、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られた複合セラミックス粉体は、固体酸化物形燃料電池の空気極と燃料極の両方に適用可能だが、本実施形態はこの形に限定されるものではなく、空気極と燃料極の一方のみに本発明により得られる複合セラミックス粉体を用い、相手方の電極には従来からの材料を用いてもよい。本発明により得られる複合セラミックス粉体は、空気極と燃料極のいずれにおいてもその特性を向上させることができるので、一方のみの使用でも使用する効果が十分に有るためである。無論、両電極に用いれば、より特性の向上をはかることができるので好ましい。
【0072】
以上説明したように、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法によれば、少なくともA1−x1−yにて表される酸化物または酸化ニッケルと、金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、初めに、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、次いで、前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、前記A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物、または、前記ニッケルイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物を生成させ、次いで、この沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理してなるので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、三相界面が多く、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することが可能な複合セラミックス粉体を、容易かつ安価に得ることができる。
【0073】
また本発明の複合セラミックス粉体によれば、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られるので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することが可能な複合セラミックス粉体を提供することができる。
【0074】
そして、本発明の固体酸化物形燃料電池によれば、本発明の複合セラミックス粉体を電極材料として用いたので、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することができ、その結果、電池の出力及び特性を向上させることができる。
【0075】
すなわち、本発明により、固体酸化物形燃料電池の電極として好適に用いることができる複合セラミックス粉体を得ることができるとともに、この複合セラミックス粉体を用いた固体酸化物形燃料電池の特性を向上させることができるので、固体酸化物形燃料電池をはじめとするさまざまな工業分野において、その利用価値は大である。
【実施例】
【0076】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
なお、以下の説明においては、溶液から形成したイットリウムイオン固溶ジルコニアを「YSSZ」と記載し、従来からあるイットリア安定化ジルコニアの「YSZ」とは区別する。
【0077】
「実施例1」
純水178gに、炭酸水素アンモニウム(NHHCO、関東化学製)6.64gを溶解し、pH8の塩基性炭酸水素アンモニウム水溶液A−1を調製した。
次に、純水250gに、塩化酸化ジルコニウム8水和物(ZrOCl・8HO、関東化学製)9.21gを溶解し、ジルコニウムイオン水溶液B−1を調製した。
次に、純水450gに、硝酸ニッケル6水和物(Ni(NO・6HO、関東化学製)30.81g及び硝酸イットリウム6水和物(Y(NO・6HO、関東化学製)2.09gを溶解させ、ニッケルイオンと、金属Eイオンとしてのイットリウムイオンとを含む水溶液C−1を調製した。
なお、水溶液A−1に含まれる炭酸イオン量は、水溶液B−1に含まれるジルコニウムイオン量の2.95倍となる。
また、本実施例により最終的に得られる酸化物、すなわち酸化ニッケル(NiO)とイットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)との質量比は、NiO:YSSZ=0.65:0.35となるように定めてある。
【0078】
次に、炭酸水素アンモニウム水溶液A−1に、アンモニア水(NHとして12.5質量%、関東化学製)を同時に加えることでpHを8に維持しながら、ジルコニウムイオン水溶液B−1を加えて混合することで、塩基性炭酸ジルコニウム錯体含有水溶液D−1を調製した。
ここで、水溶液D−1中には沈殿が発生しないことから、塩基性炭酸ジルコニウム錯体が形成されていることを確認した。
【0079】
次に、塩基性炭酸ジルコニウム錯体含有水溶液D−1に、アンモニア水を同時に加えることでpHを8に維持しながら、水溶液C−1を加えて混合することで、沈殿物E−1を調製した。
次いで、得られた沈殿物E−1を吸引濾過洗浄装置にて数回水洗して不純物イオンを除去し、次いでエタノールにて溶媒置換を行い、その後、乾燥機中にて80℃で24時間乾燥し、乾燥物F−1を得た。次いで、得られた乾燥物F−1を乳鉢で粉砕し、電気炉にて800℃または1000℃にて熱処理し、実施例1の酸化ニッケル(NiO)−イットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)の複合セラミックス粉体G−1を得た。
【0080】
次いで、乾燥物F−1を1000℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−1(G−1B)を1.5g取り、ポリエチレングリコール(分子量:400、関東化学製)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発除去し、NiO−YSSZペーストH−1を作製した。
次いで、このペーストH−1を、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上にスクリーン印刷にて塗布し、その後、1300℃にて2時間焼成し、8YSZ基板上に複合セラミックス粉体G−1Bからなる燃料極I−1を形成した。
【0081】
次いで、市販のランタンストロンチウムマンガネート(La0.8Sr0.2MnO、LSM、AGCセイミケミカル製)粉体1.5gを、ポリエチレングリコール(分子量:400)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発除去し、LSMペーストを作製した。
このLSMペーストを、燃料極I−1を形成した8YSZ基板の裏面上にスクリーン印刷にて塗布し、その後、1100℃にて2時間焼成し、8YSZ基板裏面上に空気極K−1を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、実施例1の固体酸化物形燃料電池を形成させた。
【0082】
「実施例2」
純水に炭酸水素アンモニウム9.75gを溶解し、さらにアンモニア水を加えてpHを8とするとともに、水溶液全量を241.75gとした塩基性炭酸水素アンモニウム水溶液A−2を調製した。
次に、純水170gに、塩化酸化ジルコニウム8水和物11.13gを溶解し、ジルコニウムイオン水溶液B−2を調製した。
次に、純水250gに、硝酸イットリウム6水和物2.09g、硝酸ランタン6水和物(La(NO・6HO、関東化学製)7.48g、硝酸ストロンチウム(Sr(NO、関東化学製)0.92g及び硝酸マンガン6水和物(Mn(NO・6HO、関東化学製)6.32gを溶解させ、金属Eイオンとしてのイットリウムイオンと、A1−x1−y形成用イオンとしてのランタンイオンとストロンチウムイオンとマンガンイオンとを含む水溶液C−2を調製した。
なお、水溶液A−2に含まれる炭酸イオン量は、水溶液B−2に含まれるジルコニウムイオン量の3.56倍となる。
また、本実施例における金属イオン量の比率は、La:8、Sr:2、Mn:10となるように定めており、さらに、最終的に得られる酸化物、すなわちランタンストロンチウムマンガネート(LSM)とイットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)との質量比は、LSM:YSSZ=0.50:0.50となるように定めてある。
【0083】
次に、炭酸水素アンモニウム水溶液A−2に、アンモニア水を同時に加えることでpHを8に維持しながら、ジルコニウムイオン水溶液B−2を加えて混合することで、塩基性炭酸ジルコニウム錯体含有水溶液D−2を調製した。
ここで、水溶液D−2中には沈殿が発生しないことから、塩基性炭酸ジルコニウム錯体が形成されていることを確認した。
【0084】
次に、塩基性炭酸ジルコニウム錯体含有水溶液D−2に、アンモニア水を同時に加えることでpHを8に維持しながら、水溶液C−2を加えて混合することで、沈殿物E−2を調製した。
次いで、得られた沈殿物E−2を吸引濾過洗浄装置にて数回水洗して不純物イオンを除去し、次いでエタノールにて溶媒置換を行い、その後、乾燥機中にて80℃で24時間乾燥し、乾燥物F−2を得た。
次いで、得られた乾燥物F−2を乳鉢で粉砕し、電気炉にて800℃または1000℃にて熱処理し、実施例2のランタンストロンチウムマンガネート(LSM)−イットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)の複合セラミックス粉体G−2を得た。なお、ここではLSMが、本発明におけるA1−x1−yに該当する。
【0085】
次に、市販のNiO粉体1.5gを、ポリエチレングリコール(分子量:400)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発除去し、NiOペーストを作製した。このNiOペーストを、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上にスクリーン印刷にて塗布し、その後、1300℃にて2時間焼成し、8YSZ基板上に燃料極I−2を形成した。
【0086】
次に、乾燥物F−2を1000℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−2(G−2B)を1.5g取り、ポリエチレングリコール(分子量:400)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発除去し、LSM−YSSZペーストJ−2を作製した。
このペーストJ−2を、燃料極I−2を形成した8YSZ基板の裏面上にスクリーン印刷にて塗布し、その後、1200℃にて2時間焼成し、8YSZ基板上に実施例2の複合セラミックス粉体からなる空気極K−2を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、実施例2の固体酸化物形燃料電池を形成させた。
【0087】
「実施例3」
炭酸水素アンモニウム水溶液A−3の調製時に、アンモニア水を加えてpH9とすること、塩基性炭酸ジルコニウム錯体含有水溶液D−3調製時のpHを9とすること、沈殿物E−3調製時の反応液のpHを9とすること以外は、実施例2と同様にして、実施例3の乾燥物F−3及びランタンストロンチウムマンガネート(LSM)−イットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)の複合セラミックス粉体G−3を得た。
【0088】
次に、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上に、実施例2と同様にして燃料極I−3を形成した。
次に、乾燥物F−3を1000℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−3(G−3B)を用い、実施例2と同様にして、燃料極I−3を形成した8YSZ基板の裏面上に実施例2の複合セラミックス粉体からなる空気極K−3を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、実施例3の固体酸化物形燃料電池を形成させた。
【0089】
「比較例1」
純水に、水酸化ナトリウム(NaOH、関東化学製)を溶解し、pH10の塩基性水溶液A−4を調製した。
次に、純水250gに、塩化酸化ジルコニウム8水和物9.21gを溶解し、ジルコニウムイオン水溶液B−4を調製した。
次に、純水450gに、硝酸ニッケル6水和物30.81g及び硝酸イットリウム6水和物2.09gを溶解させ、ニッケルイオンと、金属Eイオンとしてのイットリウムイオンとを含む水溶液C−4を調製した。
なお、本比較例により最終的に得られる酸化物、すなわち酸化ニッケル(NiO)とイットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)との質量比は、NiO:YSSZ=0.65:0.35となるように定めてある。
【0090】
次に、水溶液B−4と水溶液C−4とを混合した後、水溶液A−4に加えて混合することで、沈殿物E−4を調製した。ここで、あらかじめ水溶液B−4と水溶液C−4とを混合したのは、先に水溶液A−4と水溶液B−4とを混合する、あるいは水溶液A−4と水溶液C−4とを混合すると、A−4とB−4とを混合した時点、あるいはA−4とC−4とを混合した時点で、沈殿が発生してしまうためである。
次いで、得られた沈殿物E−4を吸引濾過洗浄装置にて数回水洗して不純物イオンを除去し、次いでエタノールにて溶媒置換を行い、その後、乾燥機中にて80℃で24時間乾燥し、乾燥物F−4を得た。
次いで、得られた乾燥物F−4を乳鉢で粉砕し、電気炉にて800℃または1000℃にて熱処理し、比較例1の酸化ニッケル(NiO)−イットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)の複合セラミックス粉体G−4を得た。
【0091】
次いで、乾燥物F−4を1000℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−4(G−4B)を用い、実施例1と同様の方法にて、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上に比較例1の複合セラミックス粉体からなる燃料極I−4を形成した。
次いで、実施例1と同様の方法により、燃料極I−4を形成した8YSZ基板の裏面上に空気極K−4を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、比較例1の固体電解質型燃料電池を形成させた。
【0092】
「比較例2」
純水に、炭酸水素アンモニウム9.75gを溶解し、さらにアンモニア水を加えてpHを8とするとともに、水溶液全量を241.75gとした塩基性炭酸水素アンモニウム水溶液A−5を調製した。
次に、pH2.0の希硝酸420gに、硝酸ランタン6水和物7.48g、硝酸ストロンチウム0.92g及び硝酸マンガン6水和物6.32gを溶解させ、A1−x1−y形成用イオンとしてのランタンイオンとストロンチウムイオンとマンガンイオンとを含む水溶液C−5を調製した。
なお、本比較例における金属イオン量の比率は、La:8、Sr:2、Mn:10となるように定めてある。
【0093】
次に、炭酸水素アンモニウム水溶液A−5に、アンモニア水を同時に加えることでpHを8に維持しながら、ランタンイオンとストロンチウムイオンとマンガンイオンとを含む水溶液C−5を加えて混合することで、沈殿物L−5を調製した。
次いで、得られた沈殿物L−5を吸引濾過洗浄装置にて数回水洗して不純物イオンを除去し、次いでエタノールにて溶媒置換を行い、その後、乾燥機中にて80℃で24時間乾燥し、乾燥物M−5を得た。次いで、得られた乾燥物M−5を乳鉢で粉砕し、800℃にて6時間、電気炉にて熱処理し、ランタンストロンチウムマンガネート(La0.8Sr0.2MnO、LSM)粉体N−5を得た。
【0094】
次いで、得られたLSM粉体N−5を0.75g、及び10mol%イットリア安定化ジルコニア(10YSZ)(東ソー社製)粉末0.75gを、ポリエチレングリコール(分子量:400)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発させて除去し、ランタンストロンチウムマンガネート(LSM)−イットリア安定化ジルコニア(10YSZ)ペーストJ−5を作製した。
すなわち、ランタンストロンチウムマンガネート(LSM)とイットリア安定化ジルコニア(10YSZ)との質量比は、LSM:10YSZ=0.50:0.50となる。
【0095】
次に、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上に、実施例2と同様にして燃料極I−5を形成した。
次に、ペーストJ−5を用い、実施例2と同様にして、燃料極I−5を形成した8YSZ基板の裏面上に比較例2の複合セラミックス粉体からなる空気極K−5を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、実施例2の固体電解質型燃料電池を形成させた。
【0096】
「比較例3」
純水に炭酸水素アンモニウム9.75gを溶解し、さらにアンモニア水を加えてpHを8とするとともに、水溶液全量を241.75gとした塩基性炭酸水素アンモニウム水溶液A−6を調製した。
次に、純水420gに、塩化酸化ジルコニウム8水和物11.13g、硝酸イットリウム6水和物2.09g、硝酸ランタン6水和物7.48g、硝酸ストロンチウム0.92g及び硝酸マンガン6水和物6.32gを溶解させ、ジルコニウムイオンと、金属Eイオンとしてのイットリウムイオンと、A1−x1−y形成用イオンとしてのランタンイオンとストロンチウムイオンとマンガンイオンとを含む水溶液B−6を調製した。
なお、水溶液A−6に含まれる炭酸イオン量は、水溶液B−6に含まれるジルコニウムイオン量の3.56倍となる。
また、本実施例における金属イオン量の比率は、La:8、Sr:2、Mn:10となるように定めており、さらに、最終的に得られる酸化物、すなわちランタンストロンチウムマンガネート(LSM)とイットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)との質量比は、LSM:YSSZ=0.50:0.50となるように定めてある。
【0097】
次に、水溶液A−6に、アンモニア水を同時に加えることでpHを8に維持しながら、水溶液B−6を混合することで、沈殿物E−6を調製した。
次いで、得られた沈殿物E−6を吸引濾過洗浄装置にて数回水洗して不純物イオンを除去し、次いでエタノールにて溶媒置換を行い、その後、乾燥機中にて80℃で24時間乾燥し、乾燥物F−6を得た。
次いで、得られた乾燥物F−6を乳鉢で粉砕し、電気炉にて800℃または1000℃にて熱処理し、実施例2のランタンストロンチウムマンガネート(LSM)−イットリウムイオン固溶ジルコニア(YSSZ)の複合セラミックス粉体G−6を得た。
【0098】
次に、固体電解質である厚み300μmの8mol%イットリア安定化ジルコニア(8YSZ)基板の表面上に、実施例2と同様にして燃料極I−6を形成した。
【0099】
次に、乾燥物F−6を1000℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−6(G−6B)を1.5g取り、ポリエチレングリコール(分子量:400)0.5g及びエタノール10gと共にボールミルにて混合し、次いで、この混合溶液を80℃に加温してエタノールを蒸発除去し、LSM−YSSZペーストJ−6を作製した。
このLSM−YSSZペーストJ−6を、燃料極I−6を形成した8YSZ基板の裏面上にスクリーン印刷にて塗布し、その後、1200℃にて2時間焼成し、8YSZ基板上に比較例3の複合セラミックス粉体からなる空気極K−6を形成した。さらに、この8YSZ基板の側面に白金線を巻き付け、参照極とし、実施例2の固体酸化物形燃料電池を形成させた。
【0100】
[複合セラミックス粉体の評価]
実施例1〜3および比較例1,3で作成した粉体試料について、粉末X線回折装置(XRD、JEOL(日本電子)製 JDX3530M)を用いた粉末X線回折法による測定により、粉体試料の同定を行うとともに、得られた回折ピークの半値幅より結晶子径を算出した。また、実施例1の複合セラミックス粉末については透過型電子顕微鏡(TEM、JEOL製 JEM−2010)を用いて観察を行った。
なお、比較例2では、LSM粉体N−5を単独で作成した後、10YSZ粉末と混合しており、複合粉体は形成されていないことから、粉末X線回折での成分同定には意味がなく、また結晶子径を算出しても複合化度を評価できないことから、粉末X線回折測定による評価は行っていない。
【0101】
図2は、実施例1の乾燥物F−1を800℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−1(G−1A)のXRDパターンである。熱処理後のXRDパターンには、YSSZとNiOに帰属されるピークが現れており、その他の化合物由来のピークは見られず、複合セラミックス粉体はこれらの物質のみを含有していることがわかる。YSSZの結晶子径は約11nm、NiOの結晶子径は約19nmであった。
なお、YSSZは実質的にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)と同一であったことから、XRDにおけるYSSZピークの帰属は、YSZの値を対して行った。
また、1000℃で6時間熱処理した、実施例1の複合セラミックス粉体G−1BのXRDパターンも、YSSZとNiOに帰属されるピークのみが現れており、複合セラミックス粉体はこれらの物質のみを含有していることがわかった。なお、結晶子径は、半値幅が小さいために算出できなかった。
【0102】
図3は、複合セラミックス粉体G−1Aの透過型電子顕微鏡像である。複合セラミックス粉体中では、10nm程度の均一な粒径分布を持った粒子が存在していることが分かる。
以上の結果から、実施例1の複合セラミックス粉体は非常に微細なYSSZおよびNiOから構成されることが分かった。
【0103】
図4は、実施例2の乾燥物F−2を800℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−2(G−2A)のXRDパターンである。熱処理後のXRDパターンには、YSSZとLSMに帰属されるピークが現れており、その他の化合物由来のピークは見られず、複合セラミックス粉体はこれらの物質のみを含有していることがわかる。YSSZの結晶子径は約3nm、LSMの結晶子径は約14nmであり、微細なLSMおよびYSSZから構成されることが分かった。
また実施例1と同様、本実施例のYSSZについても、XRDにおけるピークの帰属はYSZの値を対して行っている。
【0104】
図5は、実施例3の乾燥物F−3を800℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−3(G−3A)の粉末X回折(XRD)パターンである。本実施例においても、熱処理後のXRDパターンにはYSSZとLSMに帰属されるピークが現れており、その他の化合物由来のピークは見られず、複合セラミックス粉体はこれらの物質のみを含有していることがわかる。YSSZの結晶子径は約5nm、LSMの結晶子径は約13nmであり、微細なLSMおよびYSSZから構成されることが分かった。
また実施例1と同様、本実施例のYSSZについても、XRDにおけるピークの帰属はYSZの値を対して行っている。
【0105】
これらの実施例に対して、比較例1の乾燥物F−4を800℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−4(G−4A)をXRDで同定した結果、YSSZとNiOに帰属されるピークが現れており、その他の化合物由来のピークは見られず、複合セラミックス粉体は、実施例1と同様、YSSZとNiOのみを含有していることがわかった。一方、YSSZの結晶子径は約35nm、NiOの結晶子径は約51nmであり、実施例1に対して2.5倍以上に増加していた。
【0106】
また、比較例3の乾燥物F−6を800℃にて6時間熱処理した複合セラミックス粉体G−6(G−6A)をXRDで同定した結果、YSSZとLSMに帰属されるピークが現れており、その他の化合物由来のピークは見られず、複合セラミックス粉体は、実施例2と同様、YSSZとLSMのみを含有していることがわかった。YSSZの結晶子径は約9nm、LSMの結晶子径は約20nmであり、微細なLSMおよびYSSZから構成されていたが、実施例2及び3に比べ結晶子径は大きかった。
【0107】
[固体酸化物形燃料電池の電極の特性評価]
実施例1〜3および比較例1〜3の固体電解質形燃料電池における燃料極または空気極の電極反応抵抗を、図1に示す電気化学特性評価装置を用いて測定した。ここでは、空気極と参照極に乾燥空気を、また燃料極に3%HO−97%Hの組成の加湿水素ガスを、それぞれ50mL/分の流量にて供給して測定した。
測定において、作成した複合セラミックス粉体を用いて燃料極を形成した実施例・比較例については、空気極を対極とし、参照極−燃料極間の交流インピーダンスを測定することにより、作成した燃料極の電極反応抵抗を評価した。
同様に、作成した複合セラミックス粉体を用いて空気極を形成した実施例・比較例については、燃料極を対極とし、参照極−空気極間の交流インピーダンスを測定することにより、作成した空気極の電極反応抵抗を評価した。
なお、測定温度は600℃、800℃の2通りとし、測定周波数は10kHz〜0.1Hzとした。
【0108】
実施例1の固体酸化物形燃料電池における燃料極の電極反応抵抗値は、600℃で1.95Ω/cm、800℃で0.058Ω/cmであり、燃料極として十分に低い抵抗値を示していることがわかった。
次に、実施例2の固体酸化物形燃料電池における空気極の電極反応抵抗値は、600℃で12.53Ω/cm、800℃で0.42Ω/cmであった。
また、実施例3の固体酸化物形燃料電池における空気極の電極反応抵抗値は、600℃で8.58Ω/cm、800℃で0.28Ω/cmであり、実施例2、3とも、空気極として十分に低い抵抗値を示していることがわかった。
【0109】
これらの実施例に対して、比較例1の固体酸化物形燃料電池における燃料極の電極反応抵抗値は、600℃で13.22Ω/cm、800℃で0.64Ω/cmであり、実施例1の燃料極に比べて抵抗値が大幅に増加していた。
次に、比較例2の固体酸化物形燃料電池における空気極の電極反応抵抗値は、600℃で24.57Ω/cm、800℃で1.68Ω/cmであり、実施例2、3の空気極と比べて、抵抗値は増加していた。
また、比較例3の固体酸化物形燃料電池における空気極の電極反応抵抗値は、600℃で15.41Ω/cm、800℃で0.59Ω/cmであり、この抵抗値は比較例2に比べれば低いものの、実施例2、3の空気極と比べて増加していた。
【0110】
以上の結果をまとめ、実施例1〜3および比較例1〜3の複合セラミックス粉体および各電極における原料組成比と生成条件を表1に、生成複合セラミックス粉体の評価値と電極測定結果を表2に示す。
【0111】
【表1】

【0112】
【表2】

【0113】
評価の結果より、実施例1〜3で得られた複合セラミックス粒子における各成分の結晶子径は、対応する比較例における各成分の結晶子径に比べて小さくなっており、比較例に比べて、均質で、分布性に優れた複合セラミックス粒子が得られていることがわかった。
また、実施例1〜3で形成した各電極の反応抵抗値は、対応する比較例1〜3で形成した各電極の反応抵抗値よりも低く、比較例に比べて良好な電極特性を示すことがわかった。これは実施例で作成した複合セラミックス粉体に含まれる結晶子径が比較例で作成したものよりも小さいこと、および、実施例で作成した複合セラミックス粉体の組成が均質であることにより、実施例の電極が、三相界面が多く電極界面の組成が均一である電極となっていることによるものと考えられる。
【0114】
以上の結果より、本実施形態の複合セラミックス粉体が、分布性および組成制御性に優れており、また本実施形態の固体酸化物形燃料電池に用いられる電極が、三相界面が多いため、空気極においては酸素還元能と電子伝導性に優れ、また燃料極においては水素酸化能と電子伝導性に優れることが確かめられた。
これらにより、本発明の有用性が確かめられた。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の複合セラミックス粉体の製造方法によれは、少なくともA1−x1−yにて表される酸化物または酸化ニッケルと、金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、初めに、ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、次いで、前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、前記A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物、または、前記ニッケルイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む沈殿物を生成させ、次いで、この沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することとしたので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、三相界面が多く、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた複合セラミックス粉体を、容易かつ安価に得ることができる。
【0116】
本発明の複合セラミックス粉体によれば、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られるので、複数種の酸化物粒子におけるナノメートルレベルでの分布性、組成制御性に優れるとともに、固体酸化物形燃料電池に適用した際には、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することが可能な複合セラミックス粉体を提供することができる。
【0117】
本発明の固体酸化物形燃料電池によれば、本発明の複合セラミックス粉体の製造方法により得られた複合セラミックス粉体を電極材料としたので、酸素還元能と電子伝導性、あるいは水素酸化能と電子伝導性に優れた電極を形成することができ、その結果、電池の出力及び特性を向上させることができる。
したがって、本発明により、固体酸化物形燃料電池の電極として好適に用いることができる複合セラミックス粉体が容易に得られるようになるとともに、この複合セラミックス粉体を用いた固体酸化物形燃料電池の特性を向上させることができるので、固体酸化物形燃料電池をはじめとするさまざまな工業分野において、その利用価値は大である。
【符号の説明】
【0118】
1 電解質
2 参照極
3 空気極
4 燃料極
5 白金網
6 ガラスシール
7、8 アルミナ管
9 白金線
10 乾燥空気
11 加湿水素ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともA1−x1−y(式中、AはLa及びSmの群から選択される1種または2種の元素、BはSr、Ca及びBaの群から選択される1種または2種以上の元素、CはCo、Ga及びMnの群から選択される1種または2種以上の元素、DはFe、Mg及びNiの群から選択される1種または2種以上の元素であり、0.1≦x≦0.5、0≦y≦1.0)にて表される酸化物または酸化ニッケルと、酸化ジルコニウムに固溶することで酸化ジルコニウムに酸素イオン導電性を付与できる金属Eのイオンが固溶して酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、
ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、塩基性水溶液中で反応させて、塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させる第1の工程と、
前記A1−x1−yで表される酸化物を構成するためにA、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンまたはニッケルイオンと、前記金属Eのイオンとを、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させた塩基性水溶液中に添加することにより、前記A、B、C及びDの群から選択される1種または2種以上の金属のイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第1の沈殿物、または、前記ニッケルイオンと、前記金属Eのイオンと、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体と、からなる錯塩を含む第2の沈殿物を生成させる第2の工程と、
前記第1または第2の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理する第3の工程と、を有することを特徴とする複合セラミックス粉体の製造方法。
【請求項2】
少なくともA1−x1−yにて表される酸化物と、金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、
前記第1の工程において、前記ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、前記ジルコニウムイオン量の3.2倍以上かつ5.3倍以下の前記炭酸イオン量を含有する塩基性水溶液中で反応させて、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、
前記第3の工程において、前記第2の工程で生成される前記第1の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする請求項1に記載の複合セラミックス粉体の製造方法。
【請求項3】
酸化ニッケルと、金属Eのイオンが固溶することで酸素イオン導電性が付与されたジルコニアと、を含有してなる複合セラミックス粉体の製造方法であって、
前記第1の工程において、前記ジルコニウムイオンと炭酸イオンとを、前記ジルコニウムイオン量の0.5倍以上かつ5.3倍以下の前記炭酸イオン量を含有する塩基性水溶液中で反応させて、前記塩基性炭酸ジルコニウム錯体を形成させ、
前記第3の工程において、前記第2の工程で生成される前記第2の沈殿物を200℃以上の温度にて熱処理することを特徴とする請求項1に記載の複合セラミックス粉体の製造方法。
【請求項4】
前記塩基性水溶液のpHが7以上かつ9以下であることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の複合セラミックス粉体の製造方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の複合セラミックス粉体の製造方法により得られることを特徴とする複合セラミックス粉体。
【請求項6】
請求項5に記載の複合セラミックス粉体を電極材料として用いることを特徴とする固体酸化物形燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190149(P2011−190149A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−57986(P2010−57986)
【出願日】平成22年3月15日(2010.3.15)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】