説明

複合フィルム、その製造方法および電極

【課題】 優れた光学特性を有し、かつ変形に耐性のある導電層を持ち、使用時に変形が生じるタッチパネル、電子ペーパー等に好ましく使用できる透明電極フィルムを提供すること。
【解決手段】 ノルボルネン系樹脂フィルムと、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電性膜とが積層されてなり、導電性膜表面の表面抵抗率が2×10Ω/□以下である、複合フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合フィルムおよびその製造方法、並びに複合フィルムを具備してなる電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タッチパネル等の電子部材に用いられる透明電極フィルムは、フィルム上にITO等の無機透明導電材料を、蒸着あるいはスパッタリングによりフィルム上に付着させて導電層を形成させているが、このような無機導電層は硬く、非常に脆いため、折り曲げ等の変形によりたやすく破壊し、導電性を消失してしまう問題がある。
また、液晶ディスプレー等の平板型画像表示装置に装着されるタッチパネルや電子ペーパー等で透明電極フィルムを使用する場合には透明性に優れ、複屈折が小さく、高強度で高耐熱性、低吸水性である必要があり、このような特性を満足した上に、変形に対し耐性のある導電層を有するフィルムが見いだされる必要があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、かかる従来技術の問題を解消し、優れた光学特性を有し、かつ変形に耐性のある導電層を持ち、使用時に変形が生じるタッチパネル、電子ペーパー等に好ましく使用できる透明電極フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の複合フィルムは、
ノルボルネン系樹脂フィルムと、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電性膜とが積層されてなり、導電性膜表面の表面抵抗率が2×10Ω/□以下であることを特徴とする。
【0005】
本発明の複合フィルムの製造方法は、
ノルボルネン系樹脂フィルムに対して表面処理を行う工程と、当該ノルボルネン系樹脂フィルムにポリエチレンジオキシチオフェンを含む導電性塗料を塗布する工程とを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、優れた光学特性を有し、かつ変形に耐性のある導電層を持ち、使用時に変形が生じるタッチパネル、電子ペーパー等に好ましく使用できる複合フィルムおよびその製造方法、並びに当該複合フィルムを具備する電極を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明の複合フィルムは、ノルボルネン系樹脂フィルムとポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電性膜により構成される。
<ノルボルネン系樹脂フィルム>
本発明に用いられるノルボルネン系樹脂フィルムを構成するノルボルネン系樹脂は、ノルボルネン系化合物を少なくとも1種含む単量体組成物を重合し、また必要に応じてさらに水素添加して得られた樹脂である。
【0008】
《単量体組成物》
前記単量体組成物に用いるノルボルネン系化合物としては、例えば、下記一般式(1)で表されるノルボルネン系化合物を挙げることができる。
【0009】
【化1】

【0010】
〔式(1)中、R1〜R4は、各々独立に水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基もしくはその他の1価の有機基を表す。あるいはR1とR2もしくはR3とR4が相互に結合してアルキリデン基を形成していてもよく、R1とR2、R3とR4またはR2とR3とが相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。)を形成してもよい。形成される炭素環または複素環は芳香環でもよいし非芳香環でもよい。また、xは0または1〜3の整数、yは0または1を表すが、xが0のときはyも0である。〕
【0011】
一般式(1)で表されるノルボルネン系単量体の具体例としては、例えば、以下に示す化合物が例示できるが、これらの例示に限定されるものではない。
・ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン(ノルボルネン)
・5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−(4−ビフェニル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フェニルカルボニルオキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−メトキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−フェノキシカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−メチル−5−フェノキシエチルカルボニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−フルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−クロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジフルオロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジクロロ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5,6−ジブロモ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−ヒドロキシエチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−シアノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・5−アミノ−ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン
・トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・7−メチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−エチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−シクロヘキシル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−フェニル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−(4−ビフェニル)−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8−ジメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8,9−トリメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・8−メチル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・8−フェニル−トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン
・7−フルオロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−クロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ブロモ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8−ジクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7,8,9−トリクロロ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−クロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ジクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−トリクロロメチル−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−ヒドロキシ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−シアノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・7−アミノ−トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン
・テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・ペンタシクロ[7.4.0.12,5.18,11.07,12]ペンタデカ−3−エン
・ヘキサシクロ[8.4.0.12,5.17,14.19,12.08,13]ヘプタデカ−3−エン
・8−メチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−エチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フェニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−(4−ビフェニル)−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン
・8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−
エン
・8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3
−エン
・8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデ
カ−3−エン
・8−フェニルカルボニルオキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ
−3−エン
・8−メチル−8−メトキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−フェノキシカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10
]ドデカ−3−エン
・8−メチル−8−フェノキシエチルカルボニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5
7,10]ドデカ−3−エン
・8−ビニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−エチリデン−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,9−ジメチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−フルオロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−クロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ブロモ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,9−ジクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8,8,9,9−テトラクロロ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ
−3−エン
・8−ヒドロキシ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エ

・8−メチル−8−ヒドロキシエチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ド
デカ−3−エン
・8−シアノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
・8−アミノ−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン
なお、これらノルボルネン系化合物は1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0012】
本発明で用いるノルボルネン系化合物の種類および量は、得られる樹脂に求められる特性により適宜選択される。
これらのうち、その分子内に酸素原子、窒素原子、イオウ原子もしくはケイ素原子から選ばれた少なくとも1種の原子を少なくとも1個含む構造(以下、「極性構造」という。)を有する化合物を用いると、他素材との接着性や密着性に優れるため好ましい。特に、前記式(1)中、R1およびR3が水素原子、または炭素数1〜3の炭化水素基、好ましくは水素原子、またはメチル基であり、R2またはR4のいずれか一つが極性構造を有する基であって他が水素原子または炭素数1〜3炭化水素基である化合物は、樹脂の吸水(湿)性が低く好ましい。さらに、極性構造を有する基が下記一般式(2)で表わされる基であるノルボルネン系化合物は、得られる樹脂の耐熱性と吸水(湿)性とのバランスがとりやすく、好ましく用いることができる。
【0013】
−(CH2zCOOR ・・・(2)
(式(2)中、Rは置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基を表し、zは0または1〜10の整数を表す。)
前記一般式(2)において、zの値が小さいものほど得られる水素添加物のガラス転移温度が高くなり耐熱性に優れるので、zが0または1〜3の整数であることが好ましく、更に、zが0である単量体はその合成が容易である点で好ましい。また、前記一般式(2)におけるRは、炭素数が多いほど得られる重合体の水素添加物の吸水(湿)性が低下する傾向にあるが、ガラス転移温度が低下する傾向もあるので、耐熱性を保持する観点からは炭素数1〜10の炭化水素基が好ましく、特に炭素数1〜6の炭化水素基であることが好ましい。
【0014】
なお、前記一般式(1)において、前記一般式(2)で表される基が結合した炭素原子に炭素数1〜3のアルキル基、特にメチル基が結合していると、耐熱性と吸水(湿)性のバランスの点で好ましい。さらに、前記一般式(1)において、xが0または1でありyが0である化合物は、反応性が高く、高収率で重合体が得られること、また、耐熱性が高い重合体水素添加物が得られること、さらに工業的に入手しやすいことから好適に用いられる。
【0015】
本発明に用いるノルボルネン系樹脂を得るにあたっては、本発明の効果を損なわない範囲で前記ノルボルネン系化合物と共重合可能な単量体を単量体組成物に含ませて重合することができる。
【0016】
これら共重合可能な単量体として、例えば、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロドデセンなどの環状オレフィンや1,4−シクロオクタジエン、ジシクロペンタジエン、シクロドデカトリエンなどの非共役環状ポリエンを挙げることができる。
【0017】
これらの共重合性単量体は、1種単独で用いてもよいし2種以上を併用してもよい。
《重合方法》
前記ノルボルネン系化合物を含む単量体組成物の重合方法については、単量体組成物の重合が可能である限り特に制限されるものではないが、例えば、開環重合、もしくは付加重合によって重合することができる。
【0018】
(A)開環重合
開環重合による重合体の製造は、ノルボルネン系化合物について公知の開環重合反応により行うことができ、前記ノルボルネン系化合物を含む単量体組成物を、重合触媒、重合反応用溶媒、および必要に応じて分子量調節剤を用いて、開環重合させることによって製造することができる。
【0019】
(a)重合触媒
本発明において、単量体組成物の重合を開環(共)重合反応により行う場合は、メタセシス触媒の存在下で行われる。
【0020】
このメタセシス触媒は、
(A)W、MoおよびReを有する化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物(以下、化合物(A)という)と、
(B)デミングの周期律表IA族元素(たとえばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(たとえば、Mg、Caなど)、IIB族元素(たとえば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIA族元素(たとえば、B、Alなど)、IVA族元素(たとえば、Si、Sn、Pbなど)、またはIVB族元素(たとえば、Ti、Zrなど)を有する化合物であって、この元素と炭素との結合またはこの元素と水素との結合を少なくとも1つ有する化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物(以下、化合物(B)という)との組み合わせからなる触媒である。また、触媒の活性を高めるために、後述の添加剤(C)をさらに添加したものであってもよい。
【0021】
化合物(A)としては、W、MoあるいはReのハロゲン化物、オキシハロゲン化物、アルコキシハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩、(オキシ)アセチルアセトネート、カルボニル錯体、アセトニトリル錯体、ヒドリド錯体、およびその誘導体、あるいはこれらの組合せが挙げられるが、WおよびMoの化合物、特にこれらのハロゲン化物、オキシハロゲン化物およびアルコキシハロゲン化物が重合活性、実用性の点から好ましい。また、反応によって前記化合物を生成する2種以上の化合物の混合物を用いてもよい。さらに、これらの化合物は適当な錯化剤例えばP(C6H5)5、C5H5Nなどによって錯化されていてもよい。
【0022】
化合物(A)の具体的な例としては、WCl6、WCl5、WCl4、WBr6、WF6、WI6、MoCl5、MoCl4、MoCl3、ReCl3、WOCl4、MoOCl3、ReOCl3、ReOBr3、W(OC6H5)6、WCl2(OC6H5)4、Mo(OC2H5)2Cl3、Mo(OC2H5)5、MoO2(acac)2、W(OCOR)5、W(OC2H5)2Cl3、W(CO)6、Mo(CO)6、Re2(CO)10、ReOBr3・P(C6H5)3、WCl5・P(C6H5)3、WCl6・C5H5N、W(CO)5・P(C6H5)3、W(CO)3・(CH3CN)3などが挙げられる。また前記化合物のうち特に好ましい化合物としてはMoCl5、Mo(OC2H5)2Cl3、WCl6、W(OC2H5)2Cl3などが挙げられる。
【0023】
化合物(B)の具体的な例としては、n−C4H5Li、n−C5H11Na、C5H5Na、CH3MgI、C2H5MgBr、CH3MgBr、n−C3H7MgCl、(C6H5)3Al、t−C4H9MgCl、CH2=CHCH2MgCl、(C2H5)2Zn、(C2H5)2Cd、CaZn(C2H5)4、(CH3)3B、(C2H5)3B、(n-C4H9)3B、(CH3)3Al、(CH3)2AlCl、(CH3)3Al2Cl3、CH3AlCl2、(C2H5)3Al、LiAl(C2H5)2、(C2H5)3Al−O(C2H5)2、(C2H5)2AlCl、C2H5AlCl2、(C2H5)2AlH、(iso-C4H9)2AlH、(C2H5)2AlOC2H5、(iso-C4H9)3Al、(C2H5)3Al2Cl3、(CH3)4Ga、(CH3)4Sn、(n−C4H94Sn、(C2H5)3SiH、(n−C6H133Al、(n−C4H173Al、LiH、NaH、B2H6、NaBH4、AlH3、LiAlH4、BiH4およびTiH4などが挙げられる。また反応によってこれらの化合物を生成する2種以上の化合物の混合物を用いることもできる。これらのうち好ましいものの例としては、(CH3)3Al、(CH3)2AlCl、(CH3)3Al2Cl3、CH3AlCl2、(C2H5)3Al、(C2H5)2AlCl、(C2H5)1.5AlCl1.5、C2H5AlCl2、(C2H5)2AlH、(C2H5)2AlOC2H5、(C2H5)2AlCN、(C3H7)3Al、(iso−C4H93Al、(iso−C4H92AlH、(C6H13)3Al、(C8H17)3Al、(C6H5)5Alなどを挙げることができる。
【0024】
前記化合物(A)および化合物(B)とともに用いることのできる添加剤(C)としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができ、例えば以下の(1)〜(9)を例示することができる。
(1)単体ホウ素、BF3、BCl3、B(O-n-C4H9)3、(C2H5O3)2、BF、B2O3、H3BO3などのホウ素の非有機金属化合物、Si(OC2H5)4などのケイ素の非有機金属化合物;
(2)アルコール類、ヒドロパーオキシド類およびパーオキシド類;
(3)水;
(4)酸素;
(5)アルデヒドおよびケトンなどのカルボニル化合物およびその重合物;
(6)エチレンオキシド、エピクロルヒドリン、オキセタンなどの環状エーテル類;
(7)N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド類、アニリン、モルホリン、ピペリジンなどのアミン類およびアゾベンゼンなどのアゾ化合物;
(8)N−ニトロソジメチルアミン、N−ニトロソジフェニルアミンなどのN−ニトロソ化合物;
(9)トリクロルメラミン、N−クロルサクシノイミド、フェニルスルフェニルクロリドなどのS−ClまたはN−Cl基を含む化合物。
【0025】
メタセシス触媒の使用量は、前記化合物(A)と重合に供される全単量体のモル比(化合物:全単量体)が、通常1:500〜1:50,000、好ましくは1:1,000〜1:10,000となる量が望ましい。
【0026】
化合物(A)と化合物(B)との割合(化合物(A):化合物(B))は、金属原子比で1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30が望ましい。
化合物(A)と化合物(C)との割合(化合物(C):化合物(A))は、モル比で0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1が望ましい。
【0027】
(b)重合溶媒
開環重合反応において用いられる溶媒としては、重合に供される単量体組成物や触媒等が溶解してかつ触媒が失活することがなく、また、生成した開環重合体が溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類;シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素;クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどのハロゲン化アルカン;クロロベンゼンなどのハロゲン化アリール化合物;酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。このような溶媒は、分子量調節剤溶液を構成する溶媒、前記ノルボルネン系化合物、共重合性単量体および/またはメタセシス触媒を溶解するための溶媒として用いられる。
溶媒の使用量は、溶媒と重合に供する単量体組成物との重量比(溶媒:単量体組成物)は、通常1:1〜10:1、好ましくは1:1〜5:1となる量が望ましい。
【0028】
(c)分子量調節剤
得られる開環重合体の分子量は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によって調節することも可能であるが、分子量調節剤を反応系に共存させることによっても調節することができる。
好適な分子量調節剤としては、たとえばエチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレン、4−メチルスチレン、2−メチルスチレン、4−エチルスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。これらの分子量調節剤は単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
分子量調節剤の使用量は、開環重合反応に供される単量体1モルに対して、通常0.005〜0.6モル、好ましくは0.01〜0.5モルである。
【0029】
(d)その他の重合条件
前記開環重合体は、前記ノルボルネン系化合物単独で、もしくは前記ノルボルネン系化合物と共重合性単量体とを開環重合させて得ることができるが、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン化合物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなど、主鎖に炭素−炭素間二重結合を2つ以上含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下でノルボルネン系化合物を含む単量体組成物を開環重合させてもよい。
【0030】
(B)付加重合
付加(共)重合による重合体の製造は、ノルボルネン系化合物について公知の付加重合反応により行うことができ、前記ノルボルネン系化合物を含む単量体組成物を、重合触媒、必要に応じて重合反応用溶媒、および必要に応じて分子量調節剤を用いて、付加重合させることによって製造することができる。
【0031】
(a)重合触媒
付加重合に係る重合触媒としては、例えば、下記(a−1)〜(a−3)に挙げられるパラジウム、ニッケル、コバルト、チタニウムおよびジルコニウムなどの単一触媒や多成分系触媒が挙げられるが、本発明に用いられる重合触媒はこれらに限定されるものではない。
【0032】
(a−1)単一触媒系
〔Pd(CH3CN)4〕〔BF42、〔Pd(PhCN)4〕〔SbF6
〔(η3−crotyl)Pd(cycloocta−1,5−diene)〕〔PF6〕、
〔(η3−crotyl)Ni(cycloocta−1,5−diene)〕〔B(3
,5−(CF32634〕、
〔(η3−crotyl)Ni(cycloocta−1,5−diene)〕〔PF6〕、
〔(η3−allyl)Ni(cycloocta−1,5−diene)〕〔B(C654〕、
〔(η3−crotyl)Ni(cycloocta−1,5−diene)〕〔SbF6〕、
Toluene・Ni(C652、Benzene・Ni(C652、Mesitylene・Ni(C652、Ethylether・Ni(C652
などが挙げられる。
【0033】
(a−2)多成分系触媒系(1)
σまたはσ,π結合を有するパラジウム錯体と有機アルミニウムまたは超強酸塩の組み合わせ。
ジ−μ−クロロ−ビス(6−メトキシビシクロ〔2.2.1〕ヘプト−2−エン−エンド−5σ,2π)Pdと、メチルアルモキサン(MAOと略す)、AgSbF6またはAgBF4、から選ばれた化合物との組み合わせ、
〔(η3−アリール)PdCl〕2と、AgSbF6またはAgBF4の組み合わせ、
〔(cycloocta−1,5−diene)Pd(CH3)Cl〕とPPh3とNaB〔3,5−(CF32634の組み合わせなどが挙げられる。
【0034】
(a−3)多成分触媒系(2)
(I)ニッケル化合物、コバルト化合物、チタニウム化合物またはジルコニウム化合物
から選ばれた遷移金属化合物、
(II)超強酸、ルイス酸およびイオン性ホウ素化合物から選ばれた化合物、
(III)有機アルミニウム化合物の3成分から成る組み合わせ。
【0035】
(I)遷移金属化合物の例としては
(I-1) ニッケル化合物、コバルト化合物の例:
ニッケルまたはコバルトの有機カルボン酸塩、有機亜リン酸塩、有機リン酸塩、有機スルホン酸塩、β−ジケトン化合物などから選ばれた化合物、
例えば、2−エチルヘキサン酸ニッケル、ナフテン酸ニッケル、ナフテン酸コバルト、オレイン酸ニッケル、ドデカン酸ニッケル、ドデカン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ジブチル亜リン酸ニッケル、ジブチルリン酸ニッケル、ジオクチルリン酸ニッケル、リン酸ジブチルエステルのニッケル塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ニッケル、p−トルエンスルホン酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナート)ニッケル、ビス(エチルアセトアセテート)ニッケルなどが挙げられる。
【0036】
前記ニッケルの有機カルボン酸塩を六フッ化アンチモン酸、四フッ化ホウ素酸、トリフロロ酢酸、六フッ化アセトンなどの超強酸で変性した化合物、
ニッケルのジエンもしくはトリエン配位錯体、
例えば、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)ニッケル、〔(η3−クロチル)(
1,5−シクロオクタジエン)ニッケル〕ヘキサフロロホスフェート、およびそのテトラフロロボレート、テトラキス〔3,5−ビス(トリフロロメチル)〕ボレート錯体、(1,5,9−シクロドデカトリエン)ニッケル、ビス(ノルボルナジエン)ニッケル、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルなどのニッケル錯体、
ニッケルにP、N、Oなどの原子を有する配位子が配位した錯体。
【0037】
例えば、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジクロライド、ビス(トリフェニルホスフィン)ニッケルジブロマイド、ビス(トリフェニルホスフィン)コバルトジブロマイド、ビス〔トリ(2−メチルフェニル)ホスフィン〕ニッケルジクロライド、ビス〔トリ(4−メチルフェニル)ホスフィン〕ニッケルジクロライド、ビス〔N−(3−t−ブチルサリシリデン)フェニルアミネート〕ニッケル、Ni〔PhC(O)CH〕(Ph)、Ni(OC(C64)PPh)(H)(PCy3)、Ni〔OC(O)(C64)P〕
(H)(PPh3)、ビス(1,5−シクロオクタジエン)ニッケルとPhC(O)CH=PPh3との反応物、〔2,6−(i−Pr)263N=CHC63(O)(Anth)〕(Ph)(PPh3)Niなどのニッケル錯体(ここで、Anthは9−anthr
acenyl、Phはphenyl、Cyはcyclohexylの略称である。)、
が挙げられる。
【0038】
(I-2) チタニウム、ジルコニウム化合物の例:
〔t−BuNSiMe(Me4Cp)〕TiCl2、(Me4Cp)(O−iPr2632TiCl、(Me4Cp)TiCl3、(Me4Cp)Ti(OBu)3、〔t−BuNS
iMe2Flu〕TiMe2、〔t−BuNSiMe2Flu〕TiCl2、Et(Ind)2ZrCl2、Ph2C(Ind)(Cp)ZrCl2、iPr(Cp)(Flu)ZrCl2、 iPr(3−tert−But−Cp)(Ind)ZrCl2、iPr(Cp)(Ind)ZrCl2、 Me2Si(Ind)2ZrCl2、Cp2ZrCl2、(CpはCyclopentadienl、IndはIndenyl、FluはFluorenylの略称である。)
などが挙げられる。
【0039】
(II)超強酸、ルイス酸およびイオン性ホウ素化合物の例としては、
超強酸としては、例えば、ヘキサフロロアンチモン酸、ヘキサフロロリン酸、ヘキサフロロ砒酸、トリフロロ酢酸、フロロ硫酸、トリフロロメタンスルホン酸、テトラフロロホウ酸、テトラキス(ペンタフロロフェニル)ホウ酸、テトラキス〔3,5−ビス(トリフロロメチル)フェニル〕ホウ酸、p−トルエンスルホン酸、ペンタフロロプロピオン酸など、
ルイス酸化合物としては、例えば、三フッ化ホウ素とエーテル、アミン、フェノールなどとの錯体、三フッ化アルミニウムのエーテル、アミン、フェノールなどの錯体、トリス(ペンタフロロフェニル)ボラン、トリス〔3,5−ビス(トリフロロメチル)フェニル〕ボラン、などのホウ素化合物、三塩化アルミニウム、三臭化アルミニウム、エチルアルミニウムジクロライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、ジエチルアルミニウムフロライド、トリ(ペンタフロロフェニル)アルミニウムなどのアルミニウム化合物、ヘキサフロロアセトン、ヘキサクロロアセトン、クロラニル、ヘキサフロロメチルエチルケトンなどのルイス酸性を示す有機ハロゲン化合物、その他、四塩化チタン、ペンタフロロアンチモンなどのルイス酸性を示す化合物など、
イオン性ホウ素化合物としては、例えば、トリフェニルカルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス[3,5−ビス(トリフルオロメチル)フェニル]ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラキス(2,4,6−トリフルオロフェニル)ボレート、トリフェニルカルベニウムテトラフェニルボレート、トリブチルアンモニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジフェニルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレートなどが挙げられる。
【0040】
(III)の有機アルミニウム化合物の例としては、
メチルアルモキサン、エチルアルモキサン、ブチルアルモキサンなどのアルキルアルモキサン化合物、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、ジイソブチルアルミニウムヒドリド、ジエチルアルミニウムクロライド、ジエチルアルミニウムフルオライド、エチルアルミニウムセスキクロライド、エチルアルミニウムジクロライドなどのアルキルアルミニウム化合物およびハロゲン化アルキルアルミニウム化合物、または前記アルキルアルモキサン化合物と前記アルキルアルミニウム化合物との混合物などが好適に使用される。
【0041】
これら触媒成分は、例えば、以下の範囲の使用量で用いられる。
ニッケル化合物、パラジウム化合物、コバルト化合物、チタニウム化合物およびジルコニウム化合物などの遷移金属化合物は単量体1モルに対して、0.02〜100ミリモル原子、有機アルミニウム化合物は遷移金属化合物1モル原子に対して1〜5,000モル、また非共役ジエン、ルイス酸、イオン性ホウ素化合物は遷移金属化合物の1モル原子に対して0〜100モルである。
【0042】
(b)重合溶媒
付加重合反応において用いられる溶媒としては、重合に供される単量体組成物や触媒等が溶解してかつ触媒が失活することがなく、また、生成した付加重合体が溶解するものであれば特に限定されないが、例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン、メチルシクロペンタンなどの脂環式炭化水素溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素溶媒、トルエン、ベンゼン、キシレン、メシチレンなどの芳香族炭化水素溶媒、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、1,1−ジクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素溶媒などから選ばれた溶媒を挙げることができる。これらは単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
(c)分子量調節剤
本発明では、製造するノルボルネン系付加重合体の分子量の調節を、分子量調節剤として重合系内に水素あるいはα−オレフィンを添加することにより行うこともできる。生成するノルボルネン系付加重合体の分子量は、添加する分子量調節剤が多いほど低下する。
【0044】
《水素添加反応》
前記開環重合反応により得られる重合体は、その分子中にオレフィン性不飽和結合を有している。また、前記付加重合反応においても、重合体がその分子中にオレフィン性不飽和結合を有する場合がある。このように、重合体分子中にオレフィン性不飽和結合が存在すると、係るオレフィン性不飽和結合が経時着色やゲル化等劣化の原因となる場合があるので、このオレフィン性不飽和結合を飽和結合に変換する水素添加反応を行うことが好ましい。
【0045】
水素添加反応は、通常の方法、すなわちオレフィン性不飽和結合を有する重合体の溶液に公知の水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行うことができる。
【0046】
水素添加重合体の水素添加率は、500MHz、1H−NMRで測定した値が通常50
%以上、好ましく70%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れたものとなり、成形体として使用した場合に長期にわたって安定した特性を得ることができるため好ましい。
【0047】
なお、前記方法で得られた重合体がその分子内に芳香族基を有する場合、係る芳香族基は経時着色やゲル化等劣化の原因とはならず、むしろ、機械的特性や光学的特性において有利な作用を及ぼすこともあるため、係る芳香族基については必ずしも水素添加する必要はない。
【0048】
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒および均一系触媒が挙げられる。
【0049】
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
【0050】
これらの水素添加触媒は、通常、開環重合体と水素添加触媒との重量比(開環重合体:水素添加触媒)が、1:1×10-6〜1:2となる割合で使用される。
本発明に用いられるノルボルネン系樹脂は、固有粘度〔η〕inhが好ましくは0.2〜2.0dl/g、さらに好ましくは0.35〜1.0dl/g、特に好ましくは0.4〜0.85dl/gであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が好ましくは5000〜100万、さらに好ましくは1万〜50万、特に好ましくは1.5万〜25万であり、重量平均分子量(Mw)が1万〜200万、さらに好ましくは2万〜100万、特に好ましくは3万〜50万のものが好適である。固有粘度〔η〕inh、数平均分子量および重量平均分子量が上記範囲にあると、ノルボルネン系樹脂は機械的強度が優れたものとなり、破損しにくいノルボルネン系樹脂製基板が得られる。
【0051】
前記ノルボルネン系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、通常120℃以上、好ましくは130℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。Tgが上記範囲内にあると、誘電体多層膜の基材への密着強度が向上し、さらに耐ハンダリフロー性に優れたノルボルネン系樹脂製基板が得られる。
【0052】
また、ノルボルネン系樹脂の飽和吸水率は、1重量%以下、好ましくは0.1〜0.8重量%である。飽和吸水率が1重量%を超える場合、係る樹脂から得られた樹脂基板が、使用される環境によっては経時的に吸水(湿)変形する等耐久性に問題が生じることがある。一方、0.1重量%未満の場合、接着性に問題が生じる可能性がある。また、飽和吸水率が上記範囲内にあることにより、特に固体撮像素子収納用パッケージの透光性蓋体に用いた場合には、撮像素子の水分による劣化を防止できる。なお、前記飽和吸水率はASTM D570に従い、23℃の水中で1週間浸漬して増加重量を測定することにより得られる値である。
【0053】
《その他成分》
本発明においては、本発明の効果を損なわない範囲において、ノルボルネン系樹脂にさらに、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の添加剤を添加することができる。
【0054】
酸化防止剤としては、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタンなどが挙げられる。
【0055】
紫外線吸収剤としては、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノンなどが挙げられる。また、後述する溶液キャスティング法によりノルボルネン系樹脂製基板を製造する場合には、レベリング剤や消泡剤を添加することで樹脂基板の製造を容易にすることができる。
【0056】
なお、これら添加剤は、本発明に用いるノルボルネン系樹脂製基板を製造する際に、ノルボルネン系樹脂などとともに混合してもよいし、ノルボルネン系樹脂を製造する際に添加することで予め配合されていてもよい。また、添加量は、所望の特性に応じて適宜選択されるものであるが、ノルボルネン系樹脂100重量部に対して、通常0.01〜5.0重量部、好ましくは0.05〜2.0重量部であることが望ましい。
【0057】
《ノルボルネン系樹脂フィルムの製造方法》
本発明に用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、ノルボルネン系樹脂を直接溶融成形することにより、あるいは溶媒に溶解しキャスティング(キャスト成形)する方法により好適に成形することができる。
【0058】
(A)溶融成形
本発明に用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、ノルボルネン系樹脂、もしくはノルボルネン系樹脂と上述した添加剤とを含有する樹脂組成物を溶融成形することにより製造することができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、溶融押出成形あるいはブロー成形などを挙げることができる。
【0059】
(B)キャスティング
本発明に用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、ノルボルネン系樹脂を溶媒に溶解した液状樹脂組成物を適切な基材の上にキャスティングして溶剤を除去することにより製造することもできる。例えば、スチールベルト、スチールドラムあるいはポリエステルフィルム等の基材の上に、上述の液状樹脂組成物を塗布して溶剤を乾燥させ、その後基材から塗膜を剥離することにより、ノルボルネン系樹脂フィルムを得ることができる。
【0060】
前記方法で得られたノルボルネン系樹脂フィルム中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。残留溶剤量が3重量%を超える場合、経時的にフィルムが変形したり特性が変化したりして所望の機能が発揮できなくなることがある。
本発明で用いられるノルボルネン系樹脂フィルムは、その厚さを特に限定するものではないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜150μm、さらに好ましくは20〜100μm程度であるのが望ましい。フィルムの厚さが薄すぎると、強度が不足する場合があり、また、厚すぎると、複屈折性が高くなりすぎたり、透明性、外観性が低下する場合がある。
本発明で用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、光透過性が通常80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上であるのが望ましい。
【0061】
《表面処理方法》
本発明で用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、導電性膜との接着性を高める目的で、表面処理を施したものであることが好ましい。当該表面処理としては、プラズマ処理、コロナ処理、アルカリ処理、コーティング処理等が挙げられるが、これらのうち特に好ましい処理方法はコロナ処理およびコーティング処理である。処理条件は使用する高分子フィルムの特性に応じ異なるが、高分子フィルム表面の水の接触角が70°以下、好ましくは60°以下、更に好ましくは40°以下になるように親水化することが望ましい。また、コロナ処理条件にて上記の値の接触角を得るために、コロナ放電電子の照射量としては10〜1000W/m/分が好ましく、50〜500W/m/分がより好ましい。この範囲より照射量が低い場合には、十分な表面処理の効果が得られないことがある。またこの範囲より照射量が高い場合には、基材に損傷を与えるおそれがある。加えて、コロナ処理を、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガス、または二酸化炭素等の雰囲気下で行うことで、更なる親水化効果が得られる。更にコーティング処理をおこなった後、コーティング層を含むノルボルネン系樹脂フィルムにコロナ処理を施すことや、ノルボルネン系樹脂フィルムにコロナ処理した後にコーティングすることも好ましい。コーティング層を含むノルボルネン系樹脂フィルムにコロナ処理を施す場合もコーティング層表面の水の接触角が70°以下、好ましくは60°以下、更に好ましくは40°以下になっていることが望ましい。
ここでコーティング層としてポリウレタン層を好適に用いることができる。本発明に用いられるポリウレタン層は、ノルボルネン系樹脂フィルム表面に、ポリウレタン組成物を塗布することにより形成される。当該ポリウレタン組成物には、ポリウレタン樹脂および溶剤が含有される。
本発明に用いるポリウレタン樹脂としては、複数のウレタン結合を有する樹脂であれば特に限定されるものではない。具体的には、ポリオール化合物とポリイソシアネートとを反応させて得られる重合体である。
また、本発明に用いるポリウレタン樹脂を安定的に有機溶剤および/または水に溶解または分散させ、更に、接着剤の塗工性、および基材と接着剤との接着性を向上させるために、重合成分としてポリオール化合物とポリイソシアネートに加えて、親水基含有化合物を添加することも好ましい。
ポリオール化合物としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリアクリルポリオール等が挙げられる。これらのうち、ポリエーテルポリオールが特に好ましい。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、多価アルコールにイオン重合性環状化合物を開環共重合させて得られるポリエーテルポリオールが挙げられる。
上記多価アルコールとしては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール、ポリヘプタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、ハイドロキノン、ナフトハイドロキノン、アントラハイドロキノン、1,4−シクロヘキサンジオール、トリシクロデカンジオール、トリシクロデカンジメタノール、ペンタシクロペンタデカンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール等が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記イオン重合性環状化合物としては、例えばエチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−ブチレンオキシド、ブテン−1−オキシド、イソブテンオキシド、3,3−ビスクロロメチルオキセタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、3−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン、テトラオキサン、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、エピクロルヒドリン、グリシジルメタクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルグリシジルカーボネート、ブタジエンモノオキシド、イソプレンモノオキシド、ビニルオキセタン、ビニルテトラヒドロフラン、ビニルシクロヘキセンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、安息香酸グリシジルエステル等の環状エーテル類が挙げられる。これらは単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。また、上記イオン重合性環状化合物と、エチレンイミン等の環状イミン類、β−プロピオラクトン、グリコール酸ラクチド等の環状ラクトン酸、あるいはジメチルシクロポリシロキサン類とを開環共重合させたポリエーテルポリオールを使用することもできる。これらのイオン重合性環状化合物の開環共重合体はランダムに結合していてもよいし、ブロック状の結合をしていてもよい。
以上のポリエーテルポリオールの中で、ポリテトラメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール等が好ましい。
ポリイソシアネートとしては、通常ポリウレタンの製造に用いられるポリイソシアネートを特に制限なく使用できる。例えば、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、1,3−キシリレンジイソシアネート、1,4−キシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3’−ジメチルフェニレンジイソシアネート、4,4’−ビフェニレンジイソシアネート、1,6−ヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ビス(2−イソシアネートエチル)フマレート、6−イソプロピル−1,3−フェニルジイソシアネート、4−ジフェニルプロパンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,5(または6)−ビス(イソシアネートメチル)−ビシクロ[2.2.1]ヘプタン等が挙げられる。これらのポリイソシアネートは、単独であるいは二種類以上を組み合わせて用いることができる。以上のポリイソシアネートの中で、イソホロンジイソシアネートが特に好ましい。
また、親水基含有化合物としては、分子中に少なくとも1個以上の活性水素原子を有し、かつカルボン酸基、スルホン酸基からなる群から選ばれる少なくとも1個以上の官能基を含有するイオン性を有する化合物が挙げられる。
かかる親水性基含有化合物としては、例えば2−オキシエタンスルホン酸、フェノールスルホン酸、スルホ安息香酸、スルホ琥珀酸、5−スルホイソフタル酸、スルファニル酸、1,3−フェニレンジアミン−4,6−ジスルホン酸、2,4−ジアミノトルエン−5−スルホン酸等のスルホン酸化合物およびこれらの誘導体、または2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸、ジオキシマレイン酸、2,6−ジオキシ安息香酸、3,4−ジアミノ安息香酸等のカルボン酸含有化合物およびこれらの誘導体が挙げられる。
これらの化合物の反応においては、通常、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、ラウリル酸ジn−ブチルスズ、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン、2,6,7−トリメチル−1,4−ジアザビシクロ〔2.2.2〕オクタン等のウレタン化触媒を、反応物の総量100重量部に対して0.01〜1重量部用いることが好ましい。また、反応温度は、通常10〜90℃、特に30〜80℃が好ましい。
本発明で用いられるポリウレタン樹脂の数平均分子量は、通常、1000〜200,000、好ましくは30,000〜100,000程度である。
ポリウレタン組成物に用いられる溶剤は、上述したポリウレタン樹脂を溶解または分散するものであれば特に制限はない。また、ポリウレタン組成物は有機溶剤系であってもよいし、エマルジョン、コロイド分散液、水溶液等の水系であってもよい。
有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、アセトン、トルエン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、酢酸エチル等が用いられる。また、水系の場合にも、例えば上述したアルコール類やケトン類を配合することもできる。なお、水系の場合は、分散剤を用いたり、ポリウレタン樹脂にカルボキシル基、スルホニル基、アンモニウム基等の官能基を導入したりしてもよい。
以上の溶剤の組合せの中で、基材の位相差の変化が少なく、かつ良好な塗工性を得られるという観点から、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンおよび水から選ばれる溶剤の単独使用、もしくは2種以上の混合による使用が好ましい。
本発明で用いるポリウレタン組成物の固形分濃度は、通常、1〜60重量%、好ましくは1〜30重量%、さらに好ましくは1〜10重量%である。固形分濃度が1重量%以下ではポリウレタン層を所望の厚みに塗りづらくなり、一方、60重量%以上では均一なポリウレタン層を得にくくなる。
本発明で用いるポリウレタン組成物にはさらに、架橋剤、粘着付与剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、シランカップリング剤、熱重合禁止剤、レベリング剤、界面活性剤、保存安定剤、可塑剤、滑剤、フィラー、老化防止剤、濡れ性改良剤、塗面改良剤等を配合することができる。
特にポリウレタン組成物中に親水基含有化合物としてカルボキシル基を導入した場合には、エポキシ系の架橋剤を用いることが好ましい。
本発明に用いられるエポキシ架橋剤は、分子内に少なくとも一つのエポキシ基を有しているものであれば特に制限されるものではない。たとえば、ビスフェノール型エポキシ化合物、ノボラック型エポキシ化合物、脂環式エポキシ化合物、脂肪族エポキシ化合物、芳香族エポキシ化合物、グリシジルアミン型エポキシ化合物、ハロゲン化エポキシ化合物等が挙げられる。
具体的には、ビスフェノールAジグリシジルエーテル、ビスフェノールFジグリシジルエーテル、ビスフェノールSジグリシジルエーテル等のビスフェノール型エポキシ化合物;
フェノールノボラック型エポキシ化合物、クレゾールノボラック型エポキシ化合物などのノボラック型エポキシ化合物;
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル−5,5−スピロ−3,4−エポキシ)シクロヘキサン−メタ−ジオキサン、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンオキサイド、4−ビニルエポキシシクロヘキサン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシル−3’,4’−エポキシ−6’−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、メチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサン)、ジシクロペンタジエンジエポキサイド、エチレングリコールのジ(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)エーテル、エチレンビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、エポキシ化テトラベンジルアルコール、ラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ラクトン変性エポキシ化テトラヒドロベンジルアルコール、シクロヘキセンオキサイド、水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールFジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールADジグリシジルエーテルなどの脂環式エポキシ化合物類;
1,4−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、グリセリントリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテルなどの脂肪族エポキシ化合物;
臭素化ビスフェノールAジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールFジグリシジルエーテル、臭素化ビスフェノールSジグリシジルエーテルなどのハロゲン化エポキシ化合物;
テトラグリシジルアミノフェニルメタンなどのグリシジルアミン型エポキシ化合物が挙げられる。
また、上記化合物以外に、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリンなどの脂肪族多価アルコールに1種または2種以上のアルキレンオキサイドを付加することにより得られるポリエーテルポリオールのポリグリシジルエーテル類;脂肪族長鎖二塩基酸のジグリシジルエステル類;脂肪族高級アルコールのモノグリシジルエーテル類;フェノール、クレゾール、ブチルフェノールまたはこれらにアルキレンオキサイドを付加して得られるポリエーテルアルコールのモノグリシジルエーテル類;高級脂肪酸のグリシジルエステル類;エポキシ化大豆油、エポキシステアリン酸ブチル、エポキシステアリン酸オクチル、エポキシ化アマニ油などが挙げられる。
また、これらの化合物を1種また2種以上を予め適宜好適な範囲で重合したエポキシ樹脂を使用することもできる。
さらに、本発明に用いられるエポキシ化合物として、共役ジエン系モノマーの重合体、共役ジエン系モノマーとエチレン性不飽和結合基を有する化合物との共重合体、ジエン系モノマーとエチレン性不飽和結合性基を有する化合物との共重合体、天然ゴム等の(共)重合体をエポキシ化した化合物も挙げられる。
本発明で用いるポリウレタン組成物の市販品としては、例えば、ハイドランWLS−201、WLS−202、WLS−210、WLS−213、WLS−220(大日本インキ化学工業(株)製)等を挙げることができる。
【0062】
《延伸処理方法》
本発明で用いるノルボルネン系樹脂フィルムは、延伸処理を施した位相差フィルムであってもよい。延伸処理の方法としては、樹脂フィルムを一軸延伸または二軸延伸する方法が用いられる。
一軸延伸処理の場合、延伸速度は、通常1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1,000%/分である。
二軸延伸処理法の場合、同時に二方向に延伸処理を行う方法、一軸延伸処理した後に当該延伸処理における延伸方向と異なる方向に延伸処理する方法を利用することができる。このとき、2つの延伸軸の交わり角度は、目的とする光学フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常、120〜60度の範囲である。また、延伸速度は、各延伸方向で同じであってもよく、異なっていてもよく、通常は1〜5,000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、さらに好ましくは100〜1,000%/分であり、特に好ましくは100〜500%/分である。
【0063】
延伸処理温度は、特に限定されるものではないが、用いるノルボルネン系樹脂のガラス転移温度(Tg)を基準として、Tg±30℃、好ましくはTg±15℃、さらに好ましくはTg−5〜Tg+15℃の範囲である。延伸処理温度を上記範囲内に設定することにより、得られる延伸フィルムに位相差ムラが発生することを抑制することができ、また、屈折率楕円体の制御が容易となることから好ましい。
延伸倍率は、目的とする光学フィルムに要求される特性に応じて決定され、特に限定されないが、通常は1.01〜10倍、好ましくは1.03〜5倍、さらに好ましくは1.03〜3倍である。延伸倍率が上記範囲を超えると、得られる延伸フィルムの位相差の制御が困難になることがある。延伸処理されたフィルムは、そのまま冷却してもよいが、Tg−20℃〜Tgの温度雰囲気下に少なくとも10秒間以上、好ましくは30秒間〜60分間、さらに好ましくは1〜60分間保持した後に冷却することが好ましい。これにより、透過光の位相差の経時変化が少なくて安定した位相差フィルムが得られる。
【0064】
上記のようにして延伸処理が施されたフィルムは、延伸処理により分子が配向する結果、透過光に位相差を与えるようになるが、この位相差は、延伸倍率、延伸温度あるいはフィルムの厚さなどにより制御することができる。
【0065】
位相差フィルムとして用いられるノルボルネン系樹脂フィルムの厚さは、特に限定するものではないが、通常5〜500μm、好ましくは10〜300μm、さらに好ましくは20〜200μm程度であるのが望ましい。
また、位相差フィルムにおいても、上述したような表面処理を施したものであってもよい。
【0066】
<導電性膜>
本発明の複合フィルムを構成する導電性膜は、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有することを特徴とし、ノルボルネン系樹脂フィルム表面に、導電性塗料を塗布することにより形成される。
【0067】
《導電性塗料》
本発明に用いる導電性塗料としては、ポリエチレンジオキシチオフェンを有する塗料脂であれば特に限定されるものではない。好ましくは、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸とを含有する塗料であり、具体的には、エチレンジオキシチオフェンを酸化重合し、ポリスチレンスルホン酸を加えて水溶液中に分散した導電性ポリマーを含有する。
本発明で用いる導電性ポリマーの固形分濃度は、通常、0.05〜10重量%である。
【0068】
導電性塗料に用いられる溶剤は、上述したポリマーを溶解または分散するものであれば特に制限はない。また、ポリウレタン組成物は有機溶剤系であってもよいし、エマルジョン、コロイド分散液、水溶液等の水系であってもよいが、中でも水系のものが好ましい。
なお、導電性塗料には、硬化剤としてシラン化合物等が含有されていてもよい。
【0069】
当該導電性塗料の市販品としては、例えば、Orgacon(日本アグフア・ゲバルト(株)製)、S−300、S−1500、S−2500、S−5000、S−10000(いずれもAGFA社製)、バイトロン(バイエル社製)等が挙げられる。
【0070】
本発明の複合フィルムを構成する導電性膜は、通常、上述した導電性塗料を、ノルボルネン系樹脂フィルムに塗布、乾燥することにより形成することができる。
導電性塗料の塗布方法としては、特に限定されないが、例えばスピンコート、ワイヤーコート、バーコート、ロールコート、ブレードコート、カーテンコート、スクリーン印刷等の各種方法を用いることができる。
【0071】
また、導電性塗料の乾燥温度としては、特に限定されないが、例えば60〜150℃である。導電性膜中の残留溶剤量は可能な限り少ない方がよく、通常3重量%以下、好ましくは1重量%以下、さらに好ましくは0.5重量%以下である。
また、本発明の複合フィルムにおいて、導電性膜はノルボルネン系樹脂フィルムの片側に存在してもよいし、両面に存在していてもよい。
【0072】
本発明で用いられる導電性膜は、その厚さを特に限定するものではないが、通常、0.01〜5μm、好ましくは0.02〜4μm、さらに好ましくは0.05〜3μm程度である。導電性膜の厚さが薄すぎると、所定の密着性が得られない場合があり、また、厚すぎると、複合フィルムの光透過性が損なわれる場合がある。
本発明で用いる導電性膜は、全光線透過率が通常80%以上、好ましくは90%以上であることが望ましい。
【0073】
<複合フィルム>
本発明の複合フィルムは、ノルボルネン系樹脂フィルムと、上述した導電性膜とが積層されてなる。複合フィルムの、導電性膜表面の表面抵抗率が2×10Ω/□以下であり、好ましくは1×10Ω/□以下である。表面抵抗率が小さいことで、変形等への耐性がありながら充分な導電性を有し、透明電極としての機能を充分に有する複合フィルムを得ることができる。
また、本発明の複合フィルムは、曲げ状態における抵抗の曲率半径依存性が小さいという特徴を有するものであることが好ましい。具体的には、曲率半径0.5mmまで変形したときの抵抗値が、曲率半径100mmに変形したときの抵抗値に対し、変化率で1.5倍以内であることが好ましい。
【実施例】
【0074】
以下、本発明の具体的な実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」は、特に断りのない限り「重量部」を意味する。
また、以下の実施例において、水に対する接触角、塗布面の外観、全光線透過率、ヘイズ値、表面抵抗率、フィルム屈曲時の表面抵抗、透過光の位相差、導電層の密着性、湿熱試験、乾熱試験は、下記の方法により測定した。
【0075】
[水に対する接触角]
協和界面科学(株)製の接触角測定〔液滴法〕システムを用い、純水に対する接触角をθ/2法にて測定した。
[塗布面の外観]
導電性フィルムにおける、導電層の均一性を目視により判定した。判定基準を以下に示す。
○:塗布面全体において均一に導電層由来の透過色がみえる。
△:塗布面全体において導電層由来の透過色がみえるが、その透過色に部分的な濃淡がある。
×:塗布面の一部で基材そのものの透過色がみえる。
[全光線透過率]
スガ試験機(株)製のヘイズメーター「HGM−2DP型」を用い、全光線透過率を測定した。
[ヘイズ値]
スガ試験機(株)製のヘイズメーター「HGM−2DP型」を用い、全光線透過率を測定した。
[表面抵抗率]
三菱化学(株)製の低抵抗率計「ロレスタ−GP」を用い、表面抵抗率を測定した。
[フィルム屈曲時の表面抵抗]
長さ110mm、幅10mmの測定試料を曲率半径3mm、または100mmの円柱状の絶縁体に導電層を外側にして、該円柱に対し半周分巻きつけ、フィルム両端よりそれぞれ5mmの点に一定電圧を印加し、そのときの電流値を測定した。フィルム屈曲時の表面抵抗は下式より求めた。
(フィルム屈曲時の表面抵抗)=(印加電圧)/(測定された電流値)
[透過光の位相差]
王子計測機器(株)製の「KOBRA−21ADH」を用い、波長590nmで測定した。
[導電層の基材密着性]
JIS K5600−5−6に準拠し、碁盤目剥離試験をおこない、試験部分を以下のとおり分類した。
0:カットの縁が完全に滑らかで、どの格子にもはがれがない。
1:カットの交差点における塗膜の小さなはがれ。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に5%を上回ることはない。
2:塗膜がカットの縁に沿って、及び/又は交差点においてはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは明確に5%を超えるが15%を上回ることはない。
3:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は目のいろいろな部分が、部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に15%を超えるが35%を上回ることはない。
4:塗膜がカットの縁に沿って、部分的又は全面的に大はがれを生じており、及び/又は数か所の目が部分的又は全面的にはがれている。クロスカット部分で影響を受けるのは、明確に35%を上回ることはない。
5:分類4でも分類できないはがれ程度のいずれか。
[湿熱試験]
偏光フィルムを温度40℃、相対湿度95%の環境下にて500時間保持した。
[乾熱試験]
偏光フィルムを温度80℃の環境下にて500時間保持した。
【0076】
[作製例1]
水に対する接触角が85度であるノルボルネン系樹脂フィルム(JSR(株)製ARTONフィルム、膜厚100μm、吸水率:0.17%、光弾性係数3×10−13cm2/dyne)を大気中でコロナ放電電子の照射量を100W/m2/分としてコロナ放電処理を施し、表面処理フィルム(1)を得た。
得られた表面処理フィルム(1)の水に対する接触角を測定したところ、40度であった。
【0077】
[作製例2]
作製例1で用いたものと同種のノルボルネン系樹脂フィルムに対し、ガス種としてヘリウムをパージした雰囲気下でコロナ放電電子の照射量を100W/m2/分としてコロナ放電で処理を施し、表面処理フィルム(2)を得た。
得られた表面処理フィルム(2)の水に対する接触角を測定したところ、35度であった。
【0078】
[作製例3]
作製例1で用いたものと同種のノルボルネン系樹脂フィルムに対し、ポリウレタン材料であるハイドランWLS−201(大日本インキ化学工業(株)製)をメタノールにて3%になるよう希釈したものをギャップ12ミクロンのワイヤーバーにて塗布し、120℃で2分間加熱乾燥させ、更に大気中で作製例1と同様の条件にてコロナ放電処理を施し、表面処理フィルム(3)を得た。
得られた表面処理フィルム(3)の水に対する接触角を測定したところ、40度であった。
【0079】
[作製例4]
作製例1で用いたものと同種のノルボルネン系樹脂フィルムをテンター内で、180℃に加熱し、延伸速度300%/分でフィルム面内方向の横方向の幅を一定に保ちながら縦方向に1.3倍に延伸した後、150℃の雰囲気下で約1分間この状態を保持しながら冷却し、更に室温で冷却し、テンター内から取り出すことにより、位相差フィルムを得た。
得られた位相差フィルムに対し、作製例3と同様の操作を行い、表面処理フィルム(4)を得た。
得られた表面処理フィルム(4)の水に対する接触角を測定したところ、40度であった。
【0080】
[作製例5]
作製例1で用いたものと同種のノルボルネン系樹脂フィルムに対し、ハードコート材料として固形分濃度を40%に調製したデソライトZ7524(JSR(株)製)をギャップ12ミクロンのワイヤーバーにて塗布後、80℃で3分間加熱することで溶剤を乾燥させ、更に、照度200mW/cm2のメタルハライドランプをハードコート塗布面に3秒間照射し、ハードコート付フィルムを得た。
得られたハードコート付フィルムに対し、作製例3と同様の操作を行い、表面処理フィルム(5)を得た。
得られた表面処理フィルム(5)の水に対する接触角を測定したところ、40度であった。
[作製例6]
ノルボルネン系樹脂フィルムの代わりにTACフィルム(富士写真フィルム(株)製)を用いた以外は作製例3と同様にして、表面処理フィルム(6)を得た。得られた表面処理フィルム(6)の水に対する接触角を測定したところ、40度であった。
【0081】
[実施例1]
水分散型の導電性高分子材料である「Orgacon(日本アグフア・ゲバルト(株)製)」を前記の表面処理フィルム(1)の処理面側に水分散体として25g/mになるように塗布したものを、120℃で3分間加熱することで水分を蒸発させ、導電性フィルム(1)を得た。
得られた導電性フィルム(1)の塗布面の外観、導電層の膜厚、全光線透過率、ヘイズ値、表面抵抗率、フィルム屈曲時の表面抵抗、透過光の位相差、および導電層の密着性を評価した結果を表1に示す。また、導電性フィルム(1)に対し、湿熱試験、および乾熱試験をそれぞれおこなった後に、前記の評価をおこなった結果も表1に合わせて示す。導電性フィルム(1)は、初期状態、湿熱試験後、および乾熱試験後のいずれの状態においても、均一な塗布面を有し、透明性、抵抗特性、および密着性に優れたものであった。結果を表1に示す。
【0082】
[実施例2〜6]
基材として前記の表面処理フィルム(2)〜(6)をそれぞれ用いた以外は実施例1と同様にして、導電性フィルム(2)〜(6)をそれぞれ得た。
得られた導電性フィルム(2)〜(6)それぞれにつき、実施例1と同様の評価をおこなった結果を表1に示す。導電性フィルム(2)〜(6)はすべて、初期状態、湿熱試験後、および乾熱試験後のいずれの状態においても、均一な塗布面を有し、透明性、抵抗特性、および密着性に優れたものであった。結果を表1に併せて示す。
【0083】
[比較例1]
作製例1で用いたものと同種のノルボルネン系樹脂フィルムを表面処理することなしに、そのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性フィルム(a)を得た。
得られた導電性フィルム(a)について、実施例1と同様の評価をおこなった結果を表1に示す。得られた導電性フィルム(a)は、塗布面が不均一で、抵抗特性の面内バラツキが大きく、導電層の密着性に劣るものであった。結果を表1に併せて示す。
【0084】
[比較例2]
作製例5で得られたハードコート付フィルムを表面処理することなしに、そのまま用いた以外は、実施例1と同様にして、導電性フィルム(b)を得た。
得られた導電性フィルム(b)について、実施例1と同様の評価をおこなった結果を表1に示す。得られた導電性フィルム(b)は、塗布面が不均一で、抵抗特性の面内バラツキが大きく、導電層の密着性に劣るものであった。結果を表1に併せて示す。
【0085】
[比較例3]
作製例3で得られた表面処理フィルム(3)に対し、スパッター機(中外炉工業(株)製)を用いて、以下の条件にて透明導電性膜(ITO膜)を形成し、導電性フィルム(c)を得た。
電源:MHzの高周波電源
基板温度:70℃
ターゲット:In/SnO=90/10(重量比)の合金
雰囲気:アルゴンガス流入下
スパッター速度:270オングストローム/分
スパッター圧力:10−2 Torr
得られた導電性フィルム(c)について、実施例1と同様の評価をおこなった結果を表1に示す。得られた導電性フィルム(c)は、初期状態、湿熱試験後、および乾熱試験後のいずれの状態においても、均一な塗布面を有し、透明性、抵抗特性、および密着性に優れたものであったが、フィルム屈曲時に表面抵抗が上昇した。
【0086】
【表1】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノルボルネン系樹脂フィルムと、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電性膜とが積層されてなり、導電性膜表面の表面抵抗率が2×10Ω/□以下である、複合フィルム。
【請求項2】
ノルボルネン系樹脂が、下記一般式(1)で表される少なくとも1種の化合物を含む単量体を(共)重合して得られた樹脂である、請求項1に記載の複合フィルム。
【化1】

〔式(1)中、R1〜R4は、各々独立に水素原子;ハロゲン原子;酸素、窒素、イオウまたはケイ素を含む連結基を有していてもよい置換または非置換の炭素原子数1〜15の炭化水素基もしくはその他の1価の有機基を表す。あるいはR1とR2もしくはR3とR4が相互に結合してアルキリデン基を形成していてもよく、R1とR2、R3とR4またはR2とR3とが相互に結合して炭素環または複素環(これらの炭素環または複素環は単環構造でもよいし、他の環が縮合して多環構造を形成してもよい。)を形成してもよい。形成される炭素環または複素環は芳香環でもよいし非芳香環でもよい。また、xは0または1〜3の整数、yは0または1を表すが、xが0のときはyも0である。〕。
【請求項3】
導電性膜が、ポリエチレンジオキシチオフェンとポリスチレンスルホン酸とを含有してなる、請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項4】
ノルボルネン系樹脂フィルムに対して表面処理を行う工程と、当該ノルボルネン系樹脂フィルムにポリエチレンジオキシチオフェンを含む導電性塗料を塗布する工程とを有することを特徴とする、複合フィルムの製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の複合フィルムを具備してなる電極。

【公開番号】特開2006−116806(P2006−116806A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−306906(P2004−306906)
【出願日】平成16年10月21日(2004.10.21)
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】