説明

複合フィルム

【課題】低温での柔軟性を有する複合フィルムを提供すること。
【解決手段】複合フィルムは、アクリル系ポリマーとウレタンポリマーとを含む複合フィルムであって、このアクリル系ポリマーが、少なくともアクリル酸系モノマー、および、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K以上である単官能アクリル系モノマーを含むアクリル成分からなり、アクリル酸系モノマーの含有量が複合フィルム中、0.5重量%以上、15重量%以下であり、アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)が273K以上、かつ、ウレタンポリマーのガラス転移温度(Tg ur)が273K以下であり、かつ、複合フィルムのガラス転移温度(Tg com)が269K以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系ポリマー及びウレタンポリマーを含む複合フィルムに関し、例えば、建築物や自動車等の外装保護あるいは装飾に使用される複合フィルムであり、特に、柔軟性を有する複合フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル系ポリマーとウレタンポリマーの複合フィルムは、高強度および高破断伸びを両立できるフィルムとして知られており、例えば、特開2003−96140号公報、特開2003−171411号公報、特開2004−10661号公報、および、特開2004−10662号公報等に開示されている。これらの複合フィルムは、フィルムとして高強度、高破断伸び等の強靭な物性を有しているが、例えば自動車塗膜面等を保護するための粘着シートの基材として用いる場合には、フィルムの柔軟性が十分ではないという問題があった。特に、低温状態での作業において、例えば寒冷地等で粘着シートを被着体に貼り付ける等の作業を行うと、基材の柔軟性が十分ではないので、被着体表面の凹凸に追従できずに剥がれや浮きが生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−96140号公報
【特許文献2】特開2003−171411号公報
【特許文献3】特開2004−10661号公報
【特許文献4】特開2004−10662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、本発明は、低温での柔軟性を有する複合フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の複合フィルムは、アクリル系ポリマーとウレタンポリマーとを含む複合フィルムであって、前記アクリル系ポリマーが、少なくともアクリル酸系モノマー、および、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K以上である単官能アクリル系モノマーを含むアクリル成分からなり、前記アクリル酸系モノマーの含有量が前記複合フィルム中、0.5重量%以上、15重量%以下であり、下記式(1)で表される前記アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)が273K以上、かつ、前記ウレタンポリマーのガラス転移温度(Tg ur)が273K以下であり、かつ、下記式(2)で表される複合フィルムのガラス転移温度(Tg)が269K以下であることを特徴とする複合フィルム。
【0006】
【数3】

【0007】
Tg ac : アクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg n : アクリル系モノマーがホモポリマーになった際のガラス転移温度(温度単位 K)
Wn : 全アクリル系ポリマーに対するモノマー成分の重量分率(ここで、モノマー成分の総和はΣWn=1である)
【0008】
【数4】

【0009】
Tg com : 複合フィルムのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ac : 式(1)により算出されたアクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ur : ウレタンポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
W ac : 複合フィルム中のアクリル系ポリマーの重量分率
W ur : 複合フィルム中のウレタン系ポリマーの重量分率(ここで、Wac+Wur=1)
【0010】
本発明においては、上記複合フィルムは、5℃における引張試験において、伸びが0.1%以上、20.0%以下の範囲における最大荷重が、30N/10mm以下であることが好ましい。
【0011】
また、上記複合フィルムは、20℃における引張試験において、破断荷重が30N/10mm以上であり、伸びが150%以上であることが好ましい。
【0012】
本発明においては、前記アクリル系ポリマーと前記ウレタンポリマーの重量比が、20/80〜80/20であることが好ましい。
【0013】
本発明においては、前記複合フィルムの少なくとも一方の面に、コート層を更に有することができる。
【0014】
また、前記複合フィルムの少なくとも一方の面に、粘着剤層を更に有することもできる。
【0015】
本発明においては、前記複合フィルムの一方の面に厚みが1〜50μmの範囲内のコート層を有し、他方の面に粘着剤層を有することが好ましい。
【0016】
本発明においては、前記コート層の上に、更に、アプリケーションテープを有することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、低温での柔軟性を有する複合フィルムを実現することができる。また、本発明によれば、さらに粘着層も有する複合フィルムを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の複合フィルムは、アクリル系ポリマーとウレタンポリマーとを含有する。このアクリル系ポリマーは、少なくともアクリル酸系モノマーと単官能アクリル系モノマーとを含むアクリル成分を用いて成ることが好ましい。但し、この単官能アクリル系モノマーは、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K以上である。
【0019】
本発明においてアクリル系ポリマーは、その他のアクリル系モノマーを更に含むことができる。例えば、アクリル系ポリマーは、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K未満の単官能アクリル系モノマーを更に含むアクリル成分を用いてなることができる。
【0020】
本発明においてアクリル酸系モノマーとは、カルボキシル基を有するアクリル系モノマーであり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられる。これらの中では特にアクリル酸が好ましい。このアクリル酸系モノマーの含有量は、後述する複合フィルム中、0.5重量%以上、15重量%以下であり、1.0重量%以上、10重量%以下であることが好ましい。アクリル酸系モノマーの含有量が0.5重量%未満では、反応に長時間を要し、フィルム化することが非常に困難であり、また、フィルムの強度が十分でないという問題が生じる場合がある。アクリル酸系モノマーの含有量が15重量%を超える場合には、フィルムの吸水率が大きくなり、耐水性に問題が生じる場合がある。本発明において(メタ)アクリル酸系モノマーはウレタン成分、アクリル成分との相溶性に大きく影響するものであり、極めて重要な機能を有する。
【0021】
なお、本発明において「フィルム」という場合には、シートを含み、「シート」という場合には、フィルムを含む概念とする。また、本発明においてアクリル系ポリマー、アクリル酸系モノマーのように、「アクリル」と表示する場合には、メタアクリル、アクリルを総称する概念とする。
【0022】
本発明において、そのホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K以上である単官能アクリル系モノマーとしては、例えば、アクリロイルモルホリン、イソボルニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、t−ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、ベンジルアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、あるいは、2種以上を併用することができる。本発明においては、イソボルニルアクリレートを用いることが特に好ましい。
【0023】
Tgが273K以上の単官能アクリル系モノマーの含有量は、アクリル成分中、20重量%以上、99重量%以下であることが好ましく、30重量%以上、98重量%以下であることが更に好ましい。この単官能アクリル系モノマーの含有量が20重量%未満では、フィルムの強度が十分でないという問題が生じることがあり、99重量%を超えると、フィルムの剛性が上がりすぎて脆くなる場合がある。
【0024】
その他のアクリル系モノマーとしては、例えば、メトキシトリエチレングリコールアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、nーブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2−メトキシエチルアクリレート、テトラヒドロフルオロフリルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、エトキシエチルアクリレート、3−メトキシブチルアクリレート、エチルカルビトールアクリレート等が挙げられる。これらは単独で、あるいは、2種以上を併用することができる。
【0025】
Tgが273K未満の単官能アクリル系モノマーは含有されていなくても良い(含有量が0重量%)が、含有されている場合の含有量は、アクリル成分中、0重量%より多く、50重量%以下であることが好ましく、0重量%より多く、45重量%以下であることが更に好ましい。この単官能アクリル系モノマーの含有量が50重量%を超える場合には、フィルムの強度が十分でない問題が生じることがある。
【0026】
本発明において、アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)は273K以上であることが好ましい。アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)が273K未満では、複合フィルムの強度が低下してフィルムとしての使用に適さないことがあるが、ガラス転移温度(Tg ac)が273K以上であれば複合フィルムの強度は十分に確保できる。なお、アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)は、下記式(1)により求められる。
【0027】
【数5】


Tg ac : アクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg n : アクリル系モノマーnがホモポリマーになった際のガラス転移温度(温度単位 K)
Wn : 全アクリル系ポリマーに対するモノマー成分の重量分率(ここで、モノマー成分の総和は1、すなわち、ΣWn=1である)
【0028】
上記(1)式によりアクリル系ポリマー(共重合体)のガラス転移温度(Tg ac)を求めるための基礎データとなるホモポリマーになった際のガラス転移温度(Tg n)は、例えば、POLYMER HANDBOOK Forth Edition (JHON WILLY & SONS,INC.)IV 第193〜277頁に記載されている数値を採用することができる。
【0029】
アクリル系モノマーは、ウレタンとの相溶性、放射線等の光硬化時の重合性や、得られる高分子量体の特性を考慮して、種類、組み合わせ、使用量等が適宜決定される。
【0030】
本発明においては、上記アクリル系モノマーとともに、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、アクリルアミド、メタクリルアミド、マレイン酸のモノまたはジエステル、及びその誘導体、N−メチロールアクリルアミド、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、N,N−ジメチルアミノエチルアクリレート、N,N−ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、イミドアクリレート、N−ビニルピロリドン、オリゴエステルアクリレート、ε−カプロラクトンアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレート、メトキシ化シクロドデカトリエンアクリレート、メトキシエチルアクリレート等のモノマーを共重合してもよい。なお、これら共重合されるモノマーの種類や使用量は、複合フィルムの特性等を考慮して適宜決定される。
【0031】
また、特性を損なわない範囲内で他の多官能モノマーを添加することもできる。多官能モノマーとしては、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート等を挙げることができ、特に好ましくは、トリメチロールプロパントリアクリレートである。
【0032】
多官能モノマーはアクリル系モノマー100重量部に対して、1重量部以上、20重量部以下含まれることができる。多官能モノマーの含有量が1重量部以上であれば、複合フィルムの凝集力は十分であり、20重量部以下であれば、弾性率が高くなりすぎることがなく、被着体表面の凹凸に追従することができる。
【0033】
本発明において、複合フィルム中のアクリル系ポリマーとウレタン系ポリマーとの重量比率は、アクリル系ポリマー/ウレタン系ポリマー=20/80〜80/20の範囲であることが好ましく、30/80〜70/30であることが更に好ましい。アクリル系ポリマーの含有比率が20/80未満では、複合フィルム前駆体の粘度が高くなり、塗布等を行う際の作業性が悪化することがあるが、20/80〜80/20の範囲内であれば作業性は十分に確保されることができる。
【0034】
ウレタンポリマーは、ジオールとジイソシアネートとを反応させて得られる。
【0035】
ジオールとしては例えば高分子量のジオールを用いることができる。高分子量のジオールとしては、例えば、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン等を付加重合して得られるポリエーテルポリオール、あるいは上述の2価のアルコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール等の2価のアルコールとアジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸等の2価の塩基酸との重縮合物からなるポリエステルポリオールや、アクリルポリオール、カーボネートポリオール、エポキシポリオール、カプロラクトンポリオール等が挙げられる。これらの中では、例えば、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)、ポリアルキレンカーボネートジオール(PCD)等が好ましく使用される。
【0036】
上記アクリルポリオールとしては水酸基を有するモノマーの共重合体の他、水酸基含有物とアクリル系モノマーとの共重合体等が挙げられる。上記エポキシポリオールとしてはアミン変性エポキシ樹脂等がある。
【0037】
本発明において、ウレタンポリマーは架橋構造を含まない。ウレタンポリマーの形成に使用されるジオールは、線状(リニア)のジオールであることが好ましい。但し、ウレタンポリマーに架橋構造を形成させないという条件を満たす限りにおいて、ジオールは側鎖状のジオールまたは分岐構造を含むジオールであっても良い。すなわち、本発明の複合フィルムを構成するウレタンポリマーは架橋構造を含まないものである。
【0038】
本発明においては、必要に応じて、ウレタンポリマー重合時に、鎖延長剤として低分子量のポリオール、低分子量のジアミン等を使用しても良い。
低分子量のポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール等の2価のアルコール、トリメチロールプロパン等の3価のアルコールが挙げられる。
低分子量のジアミンとしては、例えば、4,4’−メチレンビス−o−クロロアニリン(MOCA)、3,3’−ジメチルベンジン、3,3’−ジクロロベンジジン、ベンジジン、p−フェニレンジアミン等が挙げられる。
【0039】
本発明においては、上記ジオールを、アクリル系モノマーへの溶解性、イソシアネートとの反応性等を考慮して、単独あるいは併用して使用することができる。強度を必要とする場合には、鎖延長剤を単独あるいは併用して使用し、ウレタンハードセグメント量を増加させると効果的である。伸びを重視する場合には、分子量の大きなジオールを単独で使用することが好ましい。また、ポリエーテルポリオールは、一般的に、安価で耐水性が良好であり、ポリエステルポリオールは、強度が高い。本発明においては、用途や目的に応じて、ポリオールの種類や量を自由に選択することができ、また、塗布する基材等の特性、イソシアネートとの反応性、アクリルとの相溶性などの観点からもポリオールの種類、分子量や使用量を適宜選択することができる。
【0040】
ジイソシアネートとしては芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネート、これらのジイソシアネートの二量体、三量体等が挙げられる。芳香族、脂肪族、脂環族のジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ナフチレンジイソシアネート(NDI)、フェニレンジイソシアネート(PPDI)、m−テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート(水素化TDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水素化MDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(水素化PPDI)、ビス(イソシアナートメチル)シクロヘキサン(水素化XDI)、ノルボルネンジイソシアネート(NBDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、ブタンジイソシアネート、2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等が挙げられる。また、これらの二量体、三量体や、ポリフェニルメタンジイソシアネートが用いられる。三量体としては、イソシアヌレート型、ビューレット型、アロファネート型等が挙げられ、適宜、使用することができる。
【0041】
これらのジイソシアネート類は単独あるいは併用で使用することができる。複合フィルムが適用される(塗布等される)基材等の特性、アクリル系モノマーへの溶解性、水酸基との反応性などの観点から、ジイソシアネートの種類、組合せ等を適宜選択すればよい。
【0042】
本発明において、ウレタンポリマーを形成するためのジオール成分とジイソシアネート成分の使用量は、ジオール成分の使用量は、ジイソシアネート成分に対し、NCO/OH(当量比)が1.1以上、2.0以下であることが好ましく、1.15以上、1.35以下であることがさらに好ましい。NCO/OH(当量比)が1.1未満では、フィルム強度が低下しやすい。また、NCO/OH(当量比)が2.0以下であれば、伸びと柔軟性を十分確保することができる。
【0043】
上記ウレタンポリマーに対し、水酸基含有アクリルモノマーを添加してもよい。水酸基含有アクリルモノマーを添加することにより、ウレタンプレポリマーの分子末端に(メタ)アクリロイル基を導入することができ、アクリル系モノマーとの共重合性が付与され、ウレタン成分とアクリル成分との相溶性が高まり、破断強度などの引張物性の向上を図ることもできる。水酸基含有アクリルモノマーとしては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等が用いられる。水酸基含有(メタ)アクリルモノマーの使用量は、ウレタンポリマー100重量部に対して、0.1〜10重量部であることが好ましく、更に好ましくは1〜5重量部である。
【0044】
本発明において、ウレタンポリマーのガラス転移温度(Tg ur)は273K以下であることが好ましい。ウレタンポリマーのガラス転移温度(Tg ur)が273Kを超えると、複合フィルムの低温における柔軟性が不十分であったり、複合フィルムを作製する際に、複合フィル前駆体の粘度が著しく高くなることがあるが、273K以下であれば、柔軟性は十分であり、複合フィルム前駆体の粘度も適切になる。
【0045】
本発明において、複合フィルムのガラス転移温度(Tg com)は269K以下であることが好ましい。複合フィルムのガラス転移温度(Tg com)が269Kより高い場合には、フィルムを低温環境下で使用する際に柔軟性に欠けることがあるので、被着体への貼合わせ時に被着体の曲面に追従できなかったり、被着体の段差部分で貼合わせ不良が生じることがある。一方、複合フィルムのガラス転移温度が269K以下であれば、フィルムの柔軟性は十分であり、被着体の曲面への追従性は優れたものになる。この複合フィルムのガラス転移温度(Tg com)は、下記式(2)により求められる。
【0046】
【数6】

【0047】
Tg com : 複合フィルムのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ac : 式(1)により算出されたアクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ur : ウレタンポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
W ac : 複合フィルム中のアクリル系ポリマーの重量分率
W ur : 複合フィルム中のウレタンポリマーの重量分率(ここで、W ac+W ur=1)
【0048】
複合フィルムには、必要に応じて、通常使用される添加剤、例えば、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン光安定剤、酸化防止剤、充填剤、顔料、着色剤、帯電防止剤等の添加剤を、本発明の効果を阻害しない範囲内で添加することができる。これらの添加剤は、その種類等に応じて、通常の量で用いられる。また、これらの添加剤は、ジイソシアネートとジオールとの重合反応前に、予め加えておいても良いし、ウレタンポリマーとアクリル系モノマーとをそれぞれ重合される前に、添加しても良い。
【0049】
また、塗工の粘度調整のために、少量の溶剤を加えても良い。溶剤としては、通常使用される溶剤の中から適宜選択することができるが、例えば、酢酸エチル、トルエン、クロロホルム、ジメチルホルミアミド等が挙げられる。
【0050】
本発明において複合フィルムは、例えば、まず、アクリル系モノマーを希釈剤として、このアクリル系モノマー中でジオールとジイソシアネートとの反応を行ってウレタンポリマーを形成し、アクリル系モノマーとウレタンポリマーとを主成分として含む混合物(前駆体混合物)を形成する。
【0051】
この前駆体混合物を基材(必要に応じて剥離処理されている)等の上に塗布し、光重合開始剤の種類等に応じて、α線、β線、γ線、中性子線、電子線等の電離性放射線や紫外線等の放射線、可視光線等を照射して硬化させ、その後、基材等を剥離除去することにより、複合フィルムを形成することができる。あるいは、基材等を剥離除去せずに、基材等の上に複合フィルムが積層された形態で得ることもできる。なお、本発明においては、キャストフィルムは基材に含まれるものとする。
【0052】
具体的には、ジオールをアクリル系モノマーに溶解させた後、ジイソシアネート等を添加してジオールと反応させて粘度調整を行い、混合物を形成し、この混合物(前駆体混合物)を基材等に、あるいは、必要に応じて基材等の剥離処理面に塗工した後、低圧水銀ランプ等を用いて硬化させることにより、複合フィルムを得ることができる。この方法では、アクリル系モノマーをウレタン合成中に一度に添加してもよいし、何回かに分割して添加してもよい。また、ジイソシアネートをアクリル系モノマーに溶解させた後、ジオールを反応させてもよい。この方法によれば、分子量が限定されるということはなく、高分子量のポリウレタンを生成することもできるので、最終的に得られるウレタンの分子量を任意の大きさに設計することができる。
【0053】
この際、酸素による重合阻害を避けるために、基材等上に塗布した前駆体混合物の上に、剥離処理したシート(セパレータ等)をのせて酸素を遮断してもよいし、不活性ガスを充填した容器内に基材を入れて、酸素濃度を下げてもよい。
【0054】
本発明において、放射線等の種類や照射に使用されるランプの種類等は適宜選択することができ、蛍光ケミカルランプ、ブラックライト、殺菌ランプ等の低圧ランプや、メタルハライドランプ、高圧水銀ランプ等の高圧ランプ等を用いることができる。
【0055】
紫外線などの照射量は、要求されるフィルムの特性に応じて、任意に設定することができる。一般的には、紫外線の照射量は、100〜5,000mJ/cm、好ましくは1,000〜4,000mJ/cm、更に好ましくは2,000〜3,000mJ/cmである。紫外線の照射量が100mJ/cmより少ないと、十分な重合率が得られないことがあり、5,000mJ/cmより多いと、劣化の原因となることがある。
【0056】
また、紫外線等を照射する際の温度については特に限定があるわけではなく任意に設定することができるが、温度が高すぎると重合熱による停止反応が起こり易くなり、特性低下の原因となりやすいので、通常は70℃以下であり、好ましくは50℃以下であり、更に好ましくは30℃以下である。
【0057】
本発明において、上記複合フィルム(基材等を積層していない状態のフィルム)は、温度5℃で引張試験を行ったとき、伸びが0.1%以上、20%以下の範囲における最大荷重が30N/10mm以下であることが好ましい。この最大荷重が30N/mmを超えると、低温環境下でのフィルムの柔軟性が失われ、貼付け作業時に被着体表面への追従性が低下することがあるが、最大荷重が30N/mm以下であれば、被着体への貼付作業において作業性が低下することなく、良好な作業性を充分に確保することができる。
【0058】
また、本発明の上記複合フィルムは、20℃で引張試験を行ったとき、破断荷重が30N/10mm以上であり、伸びが150%以上であることが好ましい。この破断荷重が30N/10mm以上であれば、フィルムの強度としては充分であり、また、伸びが150%以上であれば、被着体へ貼付する際に、良好な作業性を充分に確保することができる。
【0059】
本発明の上記複合フィルムの厚みは、目的等に応じて適宜選択することができる。例えば、自動車のボディーを保護するために用いられる保護用シートの場合には、複合フィルムの厚さは50〜500μm程度であることが好ましく、更に好ましくは100〜300μm程度であることが好ましい。
【0060】
本発明の複合フィルムは、そのままでも使用することができるが、片面または両面に粘着剤層を形成して粘着シートとすることもできる。粘着剤組成としては特に限定されず、アクリル系、ゴム系等、一般的なものを使用することができる。粘着剤の形成方法も特に限定されるものではなく、複合フィルムに、溶剤系、エマルジョン系の粘着剤を直接塗布し、乾燥する方法、これらの粘着剤を剥離紙に塗布し、予め粘着剤層を形成しておき、この粘着剤層を複合フィルムに貼り合わせる方法等を適用することができる。放射線硬化型粘着剤を複合フィルムに塗布し、粘着剤層と、フィルムの両方に放射線を照射することにより、複合フィルムと粘着剤層を同時に硬化させて、形成する方法も適用することができる。なお、この場合には、粘着剤層と複合フィルム層は、多層構成となるように塗布することもできる。あるいはまた、セパレータに粘着剤層を設けて、その上に複合フィルムを形成してもよい。
【0061】
粘着剤層の厚みについては、特に限定があるわけではなく任意に設定することができるが、通常は3〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがさらに好ましい。
【0062】
本発明に用いられる基材を構成する材料としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、高密度ポリエチレン、2軸延伸ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリイミド(PI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、フッ素系樹脂、セルロース系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等の熱可塑性樹脂のほか、熱硬化性樹脂等が使用され、通常フィルム形状で使用される。中でもPETは、精密部品の加工に使用する場合には適度な固さを有しているので好適であり、さらにまた、品種の豊富さやコスト面からも有利であるので、好ましく使用される。基材の材料は、用途や必要に応じて設けられる粘着剤層の種類等に応じて、適宜決定することが好ましく、例えば紫外線硬化型粘着剤を設ける場合には、紫外線透過率の高い基材が好ましい。
【0063】
本発明の複合フィルムは、その片面または両面にコート層を設けることもできる。コート層を設けることにより、表面光沢性、耐摩耗性、耐摩擦性、滑り性、防汚性、撥水性などの特性を付与することが可能となり、また複合フィルム自体の劣化を抑制する効果もある。コート層を形成する材料は特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリレート系、ウレタン系、ウレタンアクリレート系、シリコーン系、フッ素化合物系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系、などの樹脂、あるいは、金属蒸着物等、一般的なものを使用することができる。コート層としては、特にフッ素化合物系樹脂を用いてなる層であることが好ましく、例えばフルオロエチレンビニルエーテル層等のフッ素系コート層であることが好ましい。
【0064】
コート層の形成方法は、特に限定されるものではないが、例えば、溶剤系、エマルジョン系等のコート剤を複合フィルムの上に直接塗布し、乾燥する方法、該コート剤を剥離紙に塗布して予めコート層を形成しておき、このコート層を複合フィルムに熱圧着などの方法で転写する方法、剥離処理されたフィルム上に、予めコート層を形成しておき、コート層の上に複合フィルムを硬化させて形成する方法、放射線硬化型のコート剤を用いて剥離処理されたフィルム上に予めコート層を形成しておき、このコート層を複合フィルムに転写する方法、放射線硬化型のコート剤を複合フィルムの一方の面に塗布し、他方の面に放射線硬化型の粘着剤を塗布し、放射線を照射することにより、好ましくは複合フィルムの両面側から放射線を照射することにより、コート層と粘着剤層とを同時に硬化させて形成する方法、複合フィルム上に金属酸化物を蒸着させてコート層を形成する方法等が適用できる。
【0065】
本発明においては、コート層を設ける場合には、複合フィルムの一方の面にコート層を有し、他方の面に粘着剤層を有する構成、例えば、粘着剤層/複合フィルム/コート層とすることが好ましい。この構成の複合フィルムは、自動車、航空機等の塗装面や建造物等の表面を保護するための保護用シートとして好適である。なお、本発明においては、これらの構成のものも、あるいは粘着剤層/複合フィルムなどの構成のものも、「複合フィルム」と総称することがあるものとする。
【0066】
コート層の厚みは、1〜50μmであることが好ましく、より好ましくは1〜30μmである。コート層の厚みが1μm未満では、ピンホールなど、コート層が形成されない欠陥部位が発生しやすく、またコート層の特性が充分に発揮できない場合がある。また50μmを超えると、コート層の物性が複合フィルムの物性を低下させてしまう場合がある。
【0067】
本発明の複合フィルムは、高強度と高破断伸びを両立することができ、また、曲面に対する柔軟性に優れている。したがって、自動車、航空機等の塗装面を保護するための保護用シート等に好適であり、例えば、自動車の塗装面や建造物等の被着体に粘着剤を塗布等した上に複合フィルムを貼り合わせて使用することができる。あるいは、複合フィルムに粘着剤層を設けた粘着シートとして使用することもでき、この場合、粘着シートは、自動車のボディー等の貼付適用されるチッピングシートとして好適である。しかも、本発明の複合フィルムは、フィルムの強度を維持したまま、低温での柔軟性を良好にすることができるので、特に、被着体表面が曲面である場合や段差がある場合でも良好に追従することができ、曲面追従性、段差追従性(段差吸収性)等に優れている。
【実施例】
【0068】
以下に実施例を用いて、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりがない限り、部は重量部を意味し、%は重量%を意味する。また、以下の実施例において使用されたアクリル系ポリマーのガラス転移温度算出においては、各アクリル成分に関するホモポリマーのガラス転移温度として、下記に示す数値を使用した。さらにまた、実施例において使用される測定方法および評価方法を下記に示す。
【0069】
(1)アクリル成分に関するホモポリマーのガラス転移温度
アクリル酸 378K
n−ブチルアクリレート 219K
イソボルニルアクリレート 370K
アクリロイルモルホリン 418K
2−ヒドロキシエチルアクリレート 258K
4−ヒドロキシブチルアクリレート 241K
【0070】
(2)示差走査熱量測定(DSC)法によるウレタンポリマーのガラス転移温度の測定
得られたウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を、150℃で3時間加熱して、アクリル系モノマーを加熱除去する。残存した固形分(ウレタンポリマー)を約10mg採取し、アルミニウム製容器に入れて蓋をして密封した後、示差走査熱量測定(DSC)法を行なってウレタンポリマーのガラス転移温度を測定した。ただし、分析装置としては、エスアイアイ・ナノテクノロジー社製の「DSC6220」を用い、−100℃から200℃の温度範囲で、昇温速度10℃/min、窒素雰囲気下で測定を行った。
【0071】
(3)力学物性の評価
(20℃における破断伸び、20℃における破断荷重、および、5℃での伸び0.1%〜20%の範囲における最大荷重)
複合フィルムを幅10mm×長さ130mmの大きさに切断した後、セパレータおよび剥離処理されたポリエチレンテレフタレートフィルムを除去してサンプル用フィルムを作製する。このサンプル用フィルムを、引張試験機(「オートグラフASG−50D型」、島津製作所社製)を用い、引張速度200mm/min、チャック間距離50mm、20℃で引張試験を行い、応力−歪み曲線を求めた。また、フィルムが破断した時の荷重を求めて20℃における破断荷重(単位:N/10mm)とし、フィルムが破断した時の歪み(伸び率)を求めて20℃における破断伸び(単位:%)とした。
さらにまた、温度5℃においても、上記と同様の引張試験を行って応力−歪み曲線を求め、伸びが0.1%〜20%の範囲での最大荷重(単位:N/10mm)を求めた。
【0072】
(実施例1)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を4.92部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを34.44部、n−ブチルアクリレートを9.84部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を35.82部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の13.38部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.60部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。なお、ポリイソシアネート成分とポリオール成分の使用量は、NCO/OH(当量比)=1.25であった。また、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、49.2/50.8であった。
【0073】
その後、紫外線吸収剤(TINUVIN 400、チバ・ジャパン社製)を1.25部、ヒンダードアミン光安定剤(TINUVIN 123、チバ・ジャパン社製)を1.25部添加した。更に、光重合開始剤としてビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニル−フォスフィンオキシド(IRGACURE819、チバ・ジャパン社製)をアクリル成分に対して0.3部となるように添加した後、十分に攪拌して添加剤等を完全に溶解させ、複合フィルムの前駆体混合物を得た。
【0074】
別途、PETフィルム上にコート層を形成しておく。すなわち、フルオロエチレンビニルエーテルのキシレンおよびトルエンによる溶解液(「LF600」、旭硝子社製)100重量部に、硬化剤としてイソシアネート架橋剤(「コロネートHX」、日本ポリウレタン(株)製)を10.15部、触媒として、3.5部のラウリン酸ジブチル錫(「OL1」、東京ファインケミカル(株)製)のキシレン希釈液(ラウリン酸ジブチル錫の濃度0.01重量%)を加えて、フルオロエチレンビニルエーテル層用塗布液を作製する。この塗布液を、厚さ75μmの剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムの上に、硬化後の厚みが10μmとなるように塗布し、温度140℃で3分間乾燥、硬化させて、フルオロエチレンビニルエーテル層をPETフィルム上に形成した。
【0075】
このフルオロエチレンビニルエーテル層の上に、得られた複合フィルムの前駆体混合物を、硬化後の厚みが300μmとなるように塗布した。この上に、セパレータとして剥離処理したポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)を重ねて被覆した後、被覆したセパレータ面に、メタルハライドランプを用いて紫外線(照度290mW/cm、光量4,600mJ/cm)を照射して硬化させて、剥離処理されたPETフィルム上にコート層および複合フィルム(セパレータを備えている)をこの順に有する積層体を形成した。
得られた複合フィルムについて、上記に示す方法に従い、力学物性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を8.63部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを30.60部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を42.84部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の16.01部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.92部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、58.9/41.1であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0077】
(実施例3)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を4.90部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを34.80部、n−ブチルアクリレートを9.31部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を35.68部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の13.33部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、4−ヒドロキシブチルアクリレートを1.98部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、49/51であった。
その後、更に多官能アクリレートとしてトリメチロールプロパントリアクリレートを3.0部投入した以外は、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製した。また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0078】
(実施例4)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を5.44部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを27.21部、n−ブチルアクリレートを21.77部と、ポリオールとして、ポリカーボネートジオール(商品名「T5651」、旭化成ケミカルズ(株)製)を35.82部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の8.71部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.04部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、44.5/55.5であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0079】
(実施例5)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を7.36部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを25.76部、n−ブチルアクリレートを11.19部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を35.43部と、低分子量のジオールとして、1,4−ブタンジオールを1.64部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の16.93部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.69部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。なお、ポリイソシアネート成分と、ポリオール成分および低分子量のジオールの使用量は、NCO/OH(当量比)=1.20であった。また、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、54/46であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0080】
(比較例1)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を5.42部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを43.36部、n−ブチルアクリレートを5.42部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を32.29部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の12.07部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.44部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、44.4/55.6であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0081】
(比較例2)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を5.42部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを46.07部、アクリロイルモルホリンを2.72部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を32.29部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の12.07部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを1.45部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、44.4/55.6であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0082】
(比較例3)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を9.0部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを39.0部、n−ブチルアクリレートを12.0部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を29.12部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の10.88部を滴下し、65℃で10時間反応させて、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、40/60であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0083】
(比較例4)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を6.00部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを36.0部、n−ブチルアクリレートを18.0部と、ポリオールとして、ポリカーボネートジオール(商品名「T5651」、旭化成ケミカルズ(株)製)を32.18部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の7.82部を滴下し、65℃で10時間反応させて、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、40/60であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0084】
(比較例5)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を6.0部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを36.0部、n−ブチルアクリレートを18.0部と、ポリオールとして、ポリカーボネートジオール(商品名「ETERNACOLLUM90」、宇部興産(株)製)を31.46部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の8.54部を滴下し、65℃で10時間反応させて、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、40/60であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0085】
(比較例6)
冷却管、温度計、および攪拌装置を備えた反応容器に、アクリル系モノマーとして、アクリル酸を7.33部と、単官能アクリル系モノマーとして、イソボルニルアクリレートを31.75部、n−ブチルアクリレートを9.77部と、ポリオールとして、ポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)(数平均分子量650、三菱化学(株)製)を25.91部、低分子量ジオールとして、1,4−ブタンジオールを3.59部とを投入し、攪拌しながら、水添キシリレンジイソシアネート(HXDI)の19.35部を滴下し、65℃で10時間反応させた後、2−ヒドロキシエチルアクリレートを2.31部投入して1時間攪拌して、ウレタンポリマー−アクリル系モノマー混合物を得た。このとき、ウレタンポリマー/アクリル系モノマーの重量比率は、48.8/51.2であった。
その後、実施例1と同様にして複合フィルムの前駆体混合物を作製し、また、実施例1と同様にして、剥離処理されたPETフィルム/コート層/複合フィルム(セパレータを備えている)の積層体を作製した。得られた複合フィルムについて、実施例1と同様の測定および評価を行った。その結果を表1に示す。
【0086】
【表1】

【0087】
表1から明らかなように、本発明の実施例1〜5の複合フィルムは、複合フィルムのガラス転移温度が269K以下であり、5℃における引張試験において、0.1%〜20%の伸張領域での最大荷重が30N/10mm以下であることが分かった。すなわち、低温における柔軟性に優れているものであった。
【0088】
これに対し、比較例1〜6の複合フィルムは、複合フィルムのガラス転移温度が269Kより高く、5℃における引張試験において、0.1%〜20%の伸張領域での最大荷重が30N/10mmを超えるものであることが分かった。すなわち、低温における柔軟性に問題があるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の複合フィルムは、柔軟性および耐水性が要求されるフィルムに好適に使用することができる。例えば、屋外の天候、溶剤、ほこり、油脂および海洋環境などを含む有害環境にさらされる表面の保護および装飾用のフィルムとして使用することができる。また、自動車のボディーを保護するためのチッピング用のシートとしても好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリマーとウレタンポリマーとを含む複合フィルムであって、前記アクリル系ポリマーが、少なくともアクリル酸系モノマー、および、ホモポリマーのガラス転移温度(Tg)が273K以上である単官能アクリル系モノマーを含むアクリル成分からなり、前記アクリル酸系モノマーの含有量が前記複合フィルム中、0.5重量%以上、15重量%以下であり、下記式(1)で表される前記アクリル系ポリマーのガラス転移温度(Tg ac)が273K以上、かつ、前記ウレタンポリマーのガラス転移温度(Tg ur)が273K以下であり、かつ、下記式(2)で表される複合フィルムのガラス転移温度(Tg com)が269K以下であることを特徴とする複合フィルム。
【数1】


Tg ac : アクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg n : アクリル系モノマーがホモポリマーになった際のガラス転移温度(温度単位 K)
Wn : 全アクリル系ポリマーに対するモノマー成分の重量分率(ここで、モノマー成分の総和はΣWn=1である)

【数2】


Tg com : 複合フィルムのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ac : 式(1)により算出されたアクリル系ポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
Tg ur : ウレタンポリマーのガラス転移温度(温度単位 K)
W ac : 複合フィルム中のアクリル系ポリマーの重量分率
W ur : 複合フィルム中のウレタン系ポリマーの重量分率(ここで、Wac+Wur=1)
【請求項2】
5℃における引張試験において、伸びが0.1%以上、20.0%以下の範囲における最大荷重が、30N/10mm以下であることを特徴とする請求項1に記載の複合フィルム。
【請求項3】
20℃における引張試験において、破断荷重が30N/10mm以上であり、伸びが150%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の複合フィルム。
【請求項4】
前記アクリル系ポリマーと前記ウレタンポリマーの重量比が、20/80〜80/20であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項5】
前記複合フィルムの少なくとも一方の面に、コート層を更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項6】
前記複合フィルムの少なくとも一方の面に、粘着剤層を更に有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項7】
前記複合フィルムの一方の面に厚みが1〜50μmの範囲内のコート層を有し、他方の面に粘着剤層を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の複合フィルム。
【請求項8】
前記コート層の上に、更に、アプリケーションテープを有することを特徴とする請求項5または7に記載の複合フィルム。

【公開番号】特開2010−83137(P2010−83137A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−186274(P2009−186274)
【出願日】平成21年8月11日(2009.8.11)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】