説明

複合位相差板、複合光学部材および液晶表示装置

【課題】本発明の目的は、有機溶媒に分散し得るに十分な有機修飾剤を含む有機修飾粘土複合体からなる位相差層を有しながらも、位相差層と感圧性接着剤層との間の密着力に優れる複合位相差板、ならびにこれを用いた複合光学部材および液晶表示装置を提供することである。
【解決手段】本発明は、透明樹脂フィルム、位相差層、感圧性接着剤層がこの順で積層された複合位相差板であって、該位相差層が、有機修飾剤と粘土鉱物とが複合化された有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂を含み、該粘土鉱物の全部または一部がフッ素処理されていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶セルに貼り合わせて用いられる複合位相差板、ならびに当該複合位相差板を用いた複合光学部材および液晶表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、消費電力が低く、低電圧で動作し、軽量でかつ薄型の液晶ディスプレイが、携帯電話、携帯情報端末、コンピュータ用のモニター、テレビなど、情報用表示デバイスとして急速に普及してきている。さらに、液晶技術の発展に伴い、さまざまなモードの液晶ディスプレイが提案されて、応答速度やコントラスト、狭視野角といった液晶ディスプレイの問題点が解消されつつある。しかしながら、依然として、陰極線管(CRT)に比べて視野角が狭いことが指摘されており、視野角拡大のための各種の試みがなされている。
【0003】
このような液晶表示装置の一つに、正または負の誘電率異方性を有する棒状の液晶分子を基板に対して垂直に配向させた、垂直配向(VA)モードの液晶表示装置がある。この垂直配向モードは、非駆動状態においては、液晶分子が基板に対して垂直に配向しているため、光は偏光の変化を伴わずに液晶層を通過する。このため、液晶パネルの上下に互いに吸収軸が直交するように直線偏光板を配設することで、正面から見た場合にほぼ完全な黒表示を得ることができ、高いコントラスト比を得ることができる。
【0004】
しかし、この液晶セルに偏光板のみを備えたVAモードの液晶表示装置では、それを斜めから見た場合に、配設された偏光板の軸角度が90°からずれてしまうことと、セル内の棒状の液晶分子が複屈折を発現することに起因して、光漏れが生じ、コントラスト比が著しく低下したり、斜視時の色目が見る角度によって大きく異なったりしてしまう。斜視時のコントラスト比および色変化を含めて「視野角特性」と呼ぶ。
【0005】
この視野角特性の不良を解消するためには、液晶セルと直線偏光板の間に光学補償フィルムを配設する必要があり、従来は、二軸性の位相差板を液晶セルと上下の偏光板の間にそれぞれ1枚ずつ配設する仕様や、一軸性の位相差板と完全二軸性の位相差板を、それぞれ1枚ずつ液晶セルの上下に、または2枚とも液晶セルの片側に配設する仕様が採用されてきた。例えば、特開2001−109009号公報(特許文献1)には、垂直配向モードの液晶表示装置において、上下の偏光板と液晶セルの間に、それぞれaプレート(すなわち、正の一軸性の位相差板)およびcプレート(すなわち、完全二軸性の位相差板)を配置することが記載されている。
【0006】
正の一軸性の位相差板とは、Nz係数が概ね1.0のフィルムであり、また完全二軸性の位相差板とは、面内の位相差値R0がほぼ0のフィルムである。ここで、フィルムの面内遅相軸方向の屈折率をnx、フィルムの面内進相軸方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnz、フィルムの厚みをdとしたとき、面内の位相差値R0、厚み方向の位相差値Rth、およびNz係数は、それぞれ下式(1)〜(3)で定義される。
【0007】
0=(nx−ny)×d (1)
th=〔(nx+ny)/2−nz〕×d (2)
z係数=(nx−nz)/(nx−ny) (3)
一軸性のフィルムでは、nz≒(nearly equal)nyとなるため、Nz係数≒1.0となる。一軸性のフィルムであっても、Nz係数は延伸条件の変動により、0.8〜1.5程度の間で変化することもある。完全二軸性のフィルムでは、nx≒nyとなるため、R0≒0となる。完全二軸性のフィルムは、厚み方向の屈折率のみが異なる(小さい)ものであることから、負の一軸性を有し、光学軸が法線方向にあるフィルムとも呼ばれ、また上述のとおり、cプレートと呼ばれることもある。
【0008】
一軸性の位相差フィルムは、例えば自由端縦一軸延伸や、固定端横一軸延伸などによって延伸された樹脂フィルムなどが一般に多く用いられている。自由端一軸延伸されたフィルムは、例えばフィルムの長手方向(流れ方向)に縦一軸延伸するなどして得られ、その場合は概ね、0.9≦Nz係数≦1.1となる。固定端横一軸延伸のフィルムは、例えば、テンターなどで横一軸延伸することで得られ、1.1≦Nz係数≦1.5といった若干の二軸性を帯びる場合が多いが、概ね一軸性の特性であるといえることから、本明細書中では当該範囲のNz係数を有するフィルムも含めて一軸性の位相差フィルムと呼ぶこととする。
【0009】
完全二軸性のフィルム(cプレート)としては、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂からなる塗工液をコーティングしてなる位相差層が、厚み方向の位相差値Rthを容易にコントロールできることから、広く用いられている。例えば特開2005−338215号公報(特許文献2)には、面内に配向している透明樹脂フィルムからなる位相差板に、感圧性接着剤層(粘着剤層)を介して、屈折率異方性を有するコーティング位相差層を積層し、さらにそのコーティング位相差層の表面に粘着剤層を設けて複合位相差板とすることが開示されており、その樹脂位相差板側に偏光板を積層することも記載されている。また特開2006−10912号公報(特許文献3)には、脂肪族ジイソシアネートをベースとするウレタン樹脂をバインダーとし、これと有機修飾粘土複合体とを含む組成物をフィルム状に形成してなる位相差板が開示されており、その位相差板に、粘着剤層を介して偏光板を積層し、複合偏光板とすることも記載されている。具体的には、粘着剤付き偏光板の粘着剤層側に位相差板を転写し、その位相差板表面に第二の粘着剤層を設ける構成が示されている。これら特許文献2、3に開示される構成では、位相差層と液晶ガラスセルが、粘着剤層のみを介して貼着されている。
【0010】
上記の複合位相差板あるいは複合偏光板では、位相差層の上に感圧性接着剤層が形成されている。しかし、この位相差層の表面と感圧性接着剤層との間の密着力が低いことがあり、複合位相差板や複合偏光板を製造する際に、感圧性接着剤層が部分的に抜け落ちやすく、取り扱い性が悪かったり、他の光学フィルムと貼り合わせて液晶表示装置とした場合に、その液晶表示装置を高温状態に晒すことで、この位相差層と感圧性接着剤層の間で剥離が生じてしまったりするなどの問題があった。この密着力の低い原因は明確に判明しているものではないが、一例を挙げれば、位相差層の形成材料である有機修飾粘土複合体に遊離の有機不純物を含むものがあり、その有機不純物が位相差層からブリードアウトして粘着層との層間に介在する為と考えられる。
【0011】
この有機不純物は有機修飾粘土複合体に添加する有機修飾剤中の界面活性剤に起因すると考えられたため、有機修飾剤の配合量を減少させることで有機不純物含有量を削減し、位相差層の表面と粘着剤層との間の密着力を改善するという対策も試みられたが、有機修飾剤が少ないと、当該有機修飾剤中の界面活性剤に起因する有機修飾粘土複合体の溶媒への分散性が低下し、位相差層形成用塗工液を得ることができないという問題があった。
【特許文献1】特開2001−109009号公報
【特許文献2】特開2005−338215号公報
【特許文献3】特開2006−10912号公報 そこで、有機修飾粘土複合体に添加する有機修飾剤を減少させることで有機不純物含有量を削減し、位相差層の表面と粘着剤層との間の密着力を改善するという対策も試みられたが、有機修飾剤が少ないと有機修飾粘土複合体の溶媒への分散性が低下し、位相差層形成用塗工液を得ることができないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、その目的とするところは、有機溶媒に分散し得るに十分な有機修飾剤を含む有機修飾粘土複合体からなる位相差層を有しながらも、位相差層と感圧性接着剤層との間の密着力に優れる複合位相差板、ならびにこれを用いた複合光学部材および液晶表示装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、透明樹脂フィルム、位相差層、感圧性接着剤層がこの順で積層された複合位相差板であって、該位相差層が、有機修飾剤と粘土鉱物とが複合化された有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂を含み、該粘土鉱物の全部または一部がフッ素処理されていることを特徴とする。
【0014】
有機修飾粘土複合体がフッ素処理された粘土を含むことにより、粘土の電気陰性度が高くなるので有機修飾剤との結合が強くなり、また表面に修飾可能な有機修飾剤の量も増加するため、ブリードする不純物が減少し、感圧性接着剤層との密着力が顕著に向上する。
【0015】
本発明の複合位相差板における透明樹脂フィルムは、セルロース系樹脂、鎖状もしくは環状ポリオレフィン系樹脂、メタクリル系樹脂またはポリエステル系樹脂からなることが好ましい。
【0016】
また、本発明に用いる有機修飾粘土複合体は、有機修飾剤と粘土鉱物とが複合化されたものであり、該粘土鉱物の全部または一部がフッ素処理されている。該粘土鉱物中のフッ素処理された粘土鉱物の含有量は40〜100重量%であることが好ましい。また、粘土鉱物としては、スメクタイト族に属する粘土鉱物を用いることが好ましく、有機修飾剤としては、炭素数1〜30のアルキル基を有する4級アンモニウム化合物を用いることが好ましい。
【0017】
本発明の感圧性接着剤層は、好ましくはアクリル系感圧接着剤から形成されたものである。また、本発明の複合位相差板は、透明樹脂フィルムと位相差層との間に透明樹脂からなるプライマーが介在されてなることが好ましい。この場合、プライマー層は、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤とを含むことが好ましい。
【0018】
また、本発明によれば、上述の複合位相差板と光学機能層とが積層された構造を備える複合光学部材が提供される。本発明の複合光学部材における光学機能層は、偏光フィルムを含むことが好ましい。
【0019】
さらに、本発明によれば、液晶セルの少なくとも一方側に、本発明の複合位相差板と、偏光フィルムを含む光学機能層とが積層された本発明の複合光学部材を配置してなる液晶表示装置が提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の複合位相差板は、有機修飾粘土複合体を含む位相差層を有しながらも、位相差層と感圧性接着剤層との間の密着力に優れている。したがって、この複合位相差板に偏光フィルムなどの他の光学機能層を積層した光学複合部材、さらにはそれを用いた液晶表示装置は、各種の使用環境下において位相差層と感圧性接着剤層との間で剥がれることがなく、耐久性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
〔1〕複合位相差板
図1は、本発明の好ましい一例の複合位相差板1を模式的に示す断面図である。本発明の複合位相差板1は、図1に示す例のように、透明樹脂フィルム2の一方の面に、位相差層3と、感圧性接着剤層4とがこの順で積層された基本構造を備える。
【0022】
本発明における透明樹脂フィルム2は、目的に応じて様々な種類のものを用いることができる。例えば光学的異方性層を選択し、光学機能層を支持体として用いることもできるし、ただの支持体として光学的等方性層を用いることもできる。例えばセルロース系樹脂、環状もしくは鎖状のポリオレフィン系樹脂などを延伸した位相差フィルムなどを透明樹脂フィルム2として用いた場合には光学的異方性層となり、また、未延伸の原反フィルムを透明樹脂フィルム2として用いた場合には光学的等方性層となる。
【0023】
透明樹脂フィルム2の形成材料としては、一般的に透明樹脂として知られているものを特に制限されることなく用いることができ、例えばトリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂、プロピレンやエチレンなどの鎖状オレフィンもしくはノルボルネンなどの多環式の環状オレフィンを主要なモノマーとする重合体であるポリオレフィン系樹脂、アクリル酸エステルを主要なモノマーとするアクリル系樹脂、メタクリル酸メチルなどのメタクリル酸エステルを主要なモノマーとするメタクリル系樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル系樹脂、その他、ポリエーテルサルホン、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリエーテル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリ(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられる。中でも、光学的な透明性、均一性、高い耐熱性、低い光弾性などの特徴を有することから、セルロース系樹脂、鎖状もしくは環状のポリオレフィン系樹脂、メタクリル系樹脂またはポリエステル系樹脂からなる透明樹脂フィルムを用いることが好ましい。セルロース系樹脂フィルムの中でもトリアセチルセルロースフィルムは、光学的な透明性に優れ、偏光フィルムと積層する際に有効な保護層ともなるため、より好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂フィルムの中でも、環状ポリオレフィン系樹脂フィルムは、光学的な透明性に優れるうえに、高耐熱性などの特徴があるため、より好ましい。
【0024】
本発明の複合位相差板1における透明樹脂フィルム2の厚みは、特に制限されるものではないが、10〜200μmの範囲内であることが好ましく、20〜100μmの範囲内であることがより好ましい。透明樹脂フィルム2の厚みが10μm未満である場合には、強度が低下し、加工性に劣るものとなる傾向にあり、また、透明樹脂フィルム2の厚みが200μmを超えると、透明性が低下したり、複合位相差板全体の重量が大きくなったりするなどの問題が生じるので好ましくない。
【0025】
透明樹脂フィルム2をトリアセチルセルロースなどのセルロース系樹脂で構成する場合、透明樹脂フィルム2の表面には、ケン化処理を施しておくことが好ましい。ケン化処理は、一般にアルカリ水溶液に浸漬することにより行われる。また、透明樹脂フィルムと位相差層または後述するプライマー層との間の密着力を高めるために、透明樹脂フィルムの表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施すこともできる。
【0026】
本発明に用いる位相差層3は、本発明の複合位相差板を液晶表示装置に用いた際の視野角補償を有利とする観点から、面内の位相差値R0が10nm以下(好ましくは0〜5nmの範囲)であり、厚み方向の位相差値Rthが40〜300nm(好ましくは80〜250nm、より好ましくは100〜200nm)の範囲にあることを特徴とする。このような位相差特性は、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂とを用いて位相差層3を形成することで実現することができる。位相差層3における面内の位相差値R0が10nmを超える場合には、正面位相差に伴う偏光解消が起こり、コントラスト比が低下する。一方、位相差層3における厚み方向の位相差値Rthが40nm未満である場合には、液晶セルにおける液晶の複屈折を十分に相殺できずに、視野角が狭くなり、また、300nmを超える場合には、逆に液晶セルにおける液晶の複屈折を過補償することとなり、視野角が狭くなる。
【0027】
なお、本発明の複合位相差板1における位相差層3の面内の位相差値R0および厚み方向の位相差値Rthは、自動複屈折測定装置(例えば、王子計測機器株式会社からKOBRAシリーズとして販売されているものであって、KOBRA−21ADHやKOBRA−WRなどがある)を用いて測定された値を指す。この測定装置において厚み方向の位相差値Rthを求める原理を説明すると、面内の位相差値R0(前記式(1)で定義されるが、以下に再掲する)、遅延軸を傾斜軸として40度傾斜させて測定される位相差値R40、フィルムの厚みd、およびフィルムの平均屈折率n0を用い、以下の式(1)、(4)および(5)から数値計算によりnx、nyおよびnzを求め、これらを前記式(2)に代入して、厚み方向の位相差値Rthを算出するようになっている。
【0028】
0=(nx−ny)×d (1)
40=(nx−ny’)×d/cos(φ) (4)
(nx+ny+nz)/3=n0 (5)
ここで、
φ=sin-1〔sin(40°)/n0
y’=ny×nz/〔ny2×sin2(φ)+nz2×cos2(φ)〕1/2
本発明に用いる有機修飾粘土複合体は、有機化合物と層状構造を有する粘土鉱物(無機層状化合物)とを複合化させたものであって、有機溶媒に分散可能なものである。本発明における位相差層3は、このような有機修飾粘土複合体がバインダー樹脂とともに有機溶媒中に含有された塗工液を調製し、当該塗工液を層状に塗布後、溶媒を除去することで形成される。この塗工液を塗布した厚みの違いだけで、得られた位相差層3における上述した厚み方向の位相差値Rthは容易に制御できる。
【0029】
本発明に用いる粘土鉱物は、通常、層状構造を有する粘土鉱物であり、例えばスメクタイト族に属する粘土鉱物、膨潤性雲母などが挙げられる。中でも、スメクタイト族に属する粘土鉱物は透明性にも優れることから好ましく用いられる。スメクタイト族に属する粘土鉱物としては、ヘクトライト、モンモリロナイト、ベントナイトなどが例示できる。これらの中でも化学合成されたものは、不純物が少なく、透明性に優れるなどの点で好ましい。特に、粒径を小さく制御した合成ヘクトライトは、可視光線の散乱が抑制されるために好ましく用いられる。合成ヘクトライトの市販品としては、ルーセンタイト(登録商標)SWN(コープケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0030】
また、本発明に用いる粘土鉱物には、電気陰性度を高めるためにフッ素処理が施された粘土鉱物が必須成分として含まれる。適当なフッ素処理された粘土鉱物の市販品としては、フッ素処理された合成ヘクトライトであるルーセンタイト(登録商標)SWF(コープケミカル株式会社製)などが挙げられる。本発明に用いる粘土鉱物における、フッ素処理が施された粘土鉱物の含有量は特に限定されないが、40重量%以上であることが好ましい。
【0031】
本発明に用いる有機修飾剤は、有機修飾粘土複合体の溶媒への分散性の観点から、界面活性剤を含有していることが好ましいが、本発明においては、上述のように粘土鉱物の全部または一部がフッ素処理されていることで、界面活性剤の配合量を従来よりも少なくしても、位相差層からブリードする不純物を減少させることができる。フッ素処理された粘土鉱物を用いる場合において、有機修飾剤中における界面活性剤の含有量は、好ましくは200mmol/100g以下であり、より好ましくは80〜180mmol/100gである。
【0032】
本発明における有機修飾剤に配合する界面活性剤は、有機修飾粘土複合体を有機溶媒に膨潤または分散できるようになるものであれば特に制限されないが、例えば、粘土鉱物の酸素原子や水酸基と相互作用し得る化合物や、交換性陽イオンと交換可能なイオン性の化合物などが挙げられる。粘土鉱物の酸素原子や水酸基と相互作用しうる化合物の具体例としては、シランカップリング剤、チタンカップリング剤などの表面修飾剤や、系中で重合させることで修飾を行うことができるε−カプロラクタム、さらには、ポリビニルピロリドン、アルキル置換ピロリドンなどが挙げられる。また、交換性陽イオンと交換可能なイオン性化合物の具体例として、含窒素化合物、含リン化合物などを挙げることができ、例えば1級、2級または3級のアミン、4級アンモニウム化合物、4級ホスホニウム化合物などが挙げられる。中でも、陽イオン交換が容易であることなどから、4級アンモニウム化合物、4級ホスホニウム化合物が好ましく用いられ、例えば、長鎖アルキル基を有するもの、アルキルエーテル鎖を有するものなどが挙げられる。とりわけ、炭素数6〜30、特に炭素数6〜10の長鎖アルキル基を有するものや、n=1〜50、特にn=5〜30の−(CH2CH(CH3)O)nH基、または−(CH2CH2CH2O)nH基を有するものが好ましい。
【0033】
有機修飾粘土複合体には、その製造の際に用いられる各種副原料に起因して、塩素を含む化合物が不純物として混入していることが多い。そのような塩素化合物の量が多いと、位相差層3を形成した際にフィルムからブリードアウトする可能性がある。その場合には、感圧性接着剤を介してその位相差層3を液晶セルガラスに貼合したときに、粘着力が経時的に大幅に低下してしまう。そこで、有機修飾粘土複合体からは、洗浄により塩素化合物を除去しておくのが好ましく、その中に含まれる塩素の量を2000ppm以下とした状態で有機溶媒中に含有させれば、この粘着力の低下を抑えることができる。塩素化合物の除去は、有機修飾粘土複合体を水洗する方法により行うことができ、好ましくは酸またはアルカリで洗浄した後に水洗することが望ましい。
【0034】
本発明の有機修飾粘土複合体は、2種類以上の有機修飾粘土複合体を組み合わせたものであってもよいが、少なくとも1種のフッ素処理された粘土鉱物を含む有機修飾粘土複合体を含む必要がある。適当なフッ素処理された粘土鉱物を含む有機修飾粘土複合体としては、フッ素処理された合成ヘクトライトと4級アンモニウム化合物との複合体が挙げられる。フッ素処理されていない有機修飾粘土複合体の市販品としては、合成ヘクトライトと4級アンモニウム化合物との複合体であるルーセンタイト(登録商標)STN、ルーセンタイト(登録商標)SPN(いずれも、コープケミカル株式会社製)などが挙げられる。
【0035】
このような有機溶媒に分散可能な有機修飾粘土複合体は、基材などへのコーティングのしやすさ、光学特性の発現性や力学的特性などの点から、バインダー樹脂と組み合わせて用いられる。有機修飾粘土複合体と併用するバインダー樹脂は、トルエン、キシレン、アセトン、酢酸エチルなどの有機溶媒に溶解するもの、とりわけ、ガラス転移温度が室温以下(約20℃以下)であるものが、好ましく用いられる。また、液晶表示装置に適用する場合に必要とされる良好な耐湿熱性およびハンドリング性を得るためには、疎水性を有するものが望ましい。このような好ましいバインダー樹脂としては、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマールなどのポリビニルアセタール樹脂、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系樹脂、ブチルアクリレートなどのアクリル系樹脂、ウレタン樹脂、メタアクリル系樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂などが挙げられる。中でも、有機修飾粘土複合体の分散性が良好であることから、ウレタン樹脂が好ましい。
【0036】
バインダー樹脂の市販品としては、具体的には、ポリビニルアルコールのアルデヒド変性樹脂であるデンカブチラール♯3000−K(電気化学工業株式会社製)、アクリル系樹脂であるアロン(登録商標)S1601(東亞合成株式会社製)、イソホロンジイソシアネートベースのウレタン樹脂であるSBUラッカー0866(住化バイエルウレタン株式会社製)などが好適なものとして挙げられる。
【0037】
位相差層3における有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂との含有率は、前者:後者の重量比で1:2〜10:1の範囲、とりわけ1:1〜2:1の範囲にあることが、位相差層3の割れ防止などの力学的特性向上の観点から好ましい。
【0038】
有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂は、上述したように、有機溶媒と混合して調製された塗工液の状態で基材上に塗布される。この際、一般には、バインダー樹脂は有機溶媒に溶解され、そして有機修飾粘土複合体は有機溶媒中に分散される。この塗工液の固形分濃度は、調製後の塗工液が実用上問題ない範囲でゲル化したり白濁したりしなければ制限はないが、通常、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂の合計固形分濃度が3〜15重量%程度となる範囲で使用される。最適な固形分濃度は、有機修飾粘土複合体とバインダー樹脂それぞれの種類や両者の組成比により異なるため、組成毎に設定される。また、製膜する際の塗布性を向上させるための粘度調整剤や、耐久性をさらに向上させるための硬化剤など、各種の添加剤を加えてもよい。
【0039】
またこの塗工液は、カールフィッシャー水分計で測定される含水率を0.15〜0.35重量%の範囲内としておくことが好ましい。この含水率が0.35重量%を超える場合には、非水溶性有機溶媒中での相分離を生じ、塗工液が2層に分離してしまう傾向にある。一方、含水率が0.15重量%未満である場合には、形成された位相差層のヘイズ値が高くなってしまう虞がある。
【0040】
塗工液の含水率を上述した範囲内とする方法は特に制限されないが、塗工液中に水を添加することにより含水率を簡便に調整することができる。上述したような有機溶媒、有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂を通常の方法で混合しただけでは、0.15重量%以上の含水率を示すことは殆どない。そのため、有機溶媒、有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂を混合した塗工液に少量の水を添加することによって、含水率を上記範囲内に調整することが好ましい。水を添加する時点は、特に制限されないが、塗工液を調製して一定時間経過後にサンプリングして含水率を測定した後、所定量の水を添加するようにすれば、再現性および精度よく含水率を制御することができ、好ましい。
【0041】
塗工液を塗布する方式は特に制限されるものではなく、ダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、およびバーコート法など、公知の各種の方式を用いることができる。
【0042】
本発明における位相差層3は、その厚みは特に制限されるものではなく、本発明の複合位相差板に求められる位相差を実現するのに必要な厚みであればよい。したがって、上述した40〜300nmの範囲内から液晶セルの特性に合わせて適宜選択される位相差層3の厚み方向の位相差値Rthに対応して、塗工液を塗布する際の厚みを決定すればよい。
【0043】
本発明における感圧性接着剤層4は、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテルなどをベースポリマーとする感圧性接着剤(粘着剤)を用いて形成することができる。中でも、光学的な透明性に優れ、適度の濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性などを有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の剥離問題を生じないことから、アクリル系感圧性接着剤を用いることが好ましい。アクリル系感圧性接着剤を用いる場合、メチル基、エチル基、ブチル基などの炭素数が20以下のアルキル基を有するアクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルなどからなる官能基含有アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上のアクリル系共重合体がベースポリマーとして特に有用である。
【0044】
感圧性接着剤層4は、上述したようなベースポリマーを主体とする感圧性接着剤溶液を塗布し、乾燥する方法によって形成できるほか、離型処理が施されたフィルムの離型処理面に感圧性接着剤層が形成されたもの(感圧性接着剤シート)を用意し、それを感圧性接着剤層側で透明樹脂フィルムの表面に貼り合わせる方法によっても形成できる。位相差層3と感圧性接着剤層4との密着力を高めるために、位相差層3と感圧性接着剤層4の少なくとも一方の表面にコロナ放電処理、プラズマ処理などの表面処理を施してから、両者を積層するか、あるいはその表面処理面に他方の層を形成することもできる。
【0045】
ここで、図2は、本発明の好ましい他の例の複合位相差板11を模式的に示す断面図である。図2に示す例の複合位相差板11は、透明樹脂フィルム2と位相差層3との間にプライマー層12が介在されてなること以外は図1に示した例の複合位相差板1と同様であり、同様の構成を有する部分については同一の参照符を付して説明を省略する。本発明の複合位相差板は、図2に示す例のように、透明樹脂フィルム2と位相差層3との間に透明樹脂からなるプライマー層12が介在されていてもよく、このようなプライマー層12が介在されていることで、透明樹脂フィルム2と位相差層3との密着性がさらに向上された複合位相差板11を実現することができる。
【0046】
プライマー層12の材質は特に限定されるものではないが、透明樹脂フィルム2上に塗布する場合には多くの材料に対して非溶媒である水を溶媒とすることが有利であるため、水溶性樹脂で形成されることが好ましい。具体的には、部分ケン化ポリビニルアルコールや完全ケン化ポリビニルアルコールのほか、カルボキシル基変性ポリビニルアルコール、アセトアセチル基変性ポリビニルアルコール、メチロール基変性ポリビニルアルコール、アミノ基変性ポリビニルアルコールのような、変性されたポリビニルアルコール系樹脂を含めたポリビニルアルコール系樹脂であることが好ましい。このようなポリビニルアルコール系樹脂は、市販品を用いてもよく、具体的には、アニオン性基含有ポリビニルアルコールであるKL−318(株式会社クラレ製)などが好適な例として挙げられる。
【0047】
また、プライマー層12に耐水性が要求される場合は、架橋剤を添加することが好ましく、このような架橋剤としては例えばポリアミドエポキシ樹脂、水溶性有機チタン化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ポリアミドエポキシ樹脂としては、例えば、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミンなどのポリアルキレンポリアミンと、アジピン酸などのジカルボン酸との反応で得られるポリアミドポリアミンに、エピクロロヒドリンを反応させて得られる水溶性のポリアミドエポキシ樹脂を好適に用いることができる。このようなポリアミドエポキシ樹脂の市販品としては、スミレーズレジン650(30)(住化ケムテックス株式会社製)、スミレーズレジン675(住化ケムテックス株式会社製)などが挙げられる。
【0048】
水溶性有機チタン化合物は、チタンに有機基が結合し、水溶性を示すものである。水溶性を付与するために通常、水酸基やカルボキシル基などの親水性基を有することが多い。具体例としては、「乳酸チタン」とも呼称され、式:(HO)2Ti〔OCH(CH3)COOH〕2で示される構造の化合物、「チタントリエタノールアミネート」とも呼称され、式:(C37O)2Ti〔OCH2CH2N(CH2CH2OH)22で示される構造の化合物などを挙げることができる。かかる水溶性有機チタン化合物についても市販品を用いることができ、具体的には、オルガチックスTC−310(松本製薬工業株式会社製;上記乳酸チタン44重量%、イソプロピルアルコール40重量%、水16重量%の溶液)、オルガチックスTC−315(松本製薬工業株式会社製;上記乳酸チタン44重量%、水56重量%の溶液)、オルガチックスTC−300(松本製薬工業株式会社製;上記乳酸チタン42重量%、イソプロピルアルコール38重量%、水20重量%の溶液)、オルガチックスTC−400(松本製薬工業株式会社製;上記チタントリエタノールアミネート80重量%、イソプロピルアルコール20重量%の溶液)などが好適な例として挙げられる。
【0049】
本発明におけるプライマー層12は、上述したようなポリビニルアルコール系樹脂、架橋剤および溶媒を含有する塗工液から溶媒を除去して得られたものであることが好ましいが、この塗工液の塗布方法については特に制限されるものではなく、ダイレクト・グラビア法、リバース・グラビア法、ダイコート法、カンマコート法、バーコート法など、公知の各種の塗布方法を用いることができる。
【0050】
〔2〕複合光学部材
図3は、図2に示した例の本発明の複合位相差板11を用いた場合の好ましい一例の複合光学部材21を模式的に示す断面図である。また図4は、図2に示した例の本発明の複合位相差板11を用いた場合の好ましい他の例の複合光学部材31を模式的に示す断面図である。本発明は、上述した本発明の複合位相差板11と、他の光学機能層22とが積層された構造を備える複合光学部材21,31についても提供する。本発明の複合光学部材21,31に用いられる光学機能層22としては、少なくとも偏光フィルムを含んでいるものであることが好ましい。また、本発明の複合位相差板を構成する位相差層とは異なる位相差フィルムが1枚以上積層されてなるものであってよい。
【0051】
偏光フィルムとは、フィルム面に向かってある方向に振動する直線偏光を透過し、それと直交する方向に振動する直線偏光を吸収などによって遮断する性質を有する光学機能フィルムであって、典型的には、ポリビニルアルコール系樹脂にヨウ素や二色性有機染料などの二色性色素が吸着配向しているフィルムであることができる。通常、このポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムの片面または両面にセルロース系樹脂などからなる透明保護フィルムが積層され、偏光板として用いられる。本発明の複合位相差板を偏光フィルムに積層して複合光学部材とする場合、その複合位相差板を構成する透明樹脂フィルム2が、偏光フィルムの透明保護フィルムとしての機能を果たすため、図3に例を示すように、透明樹脂フィルム2に直接、接着剤を介して偏光フィルムを貼り合わせることができる。この場合、偏光フィルムの他面には、別の透明保護フィルムを設けるのが通例である。また例えば、ポリビニルアルコール系樹脂からなる偏光フィルムそれ自体に、または偏光フィルムに透明保護フィルムが積層された状態の偏光板に、位相差フィルムが貼合された状態のものを光学機能層22とする場合は、図4に例を示すように、感圧性接着剤層32を介して、複合位相差板を構成する透明樹脂フィルム2と光学機能層22とを積層するのが通例である。
【0052】
このように、光学機能層22は、本発明の複合位相差板11の透明樹脂フィルム2側に直接形成されていてもよいし(図3に示す例)、感圧性接着剤層32を介して形成されていてもよい(図4に示す例)。
【0053】
〔3〕液晶表示装置
本発明はまた、上述した本発明の複合位相差板を用い、光学機能層として偏光フィルムを含む本発明の複合光学部材(例えば図3、4に示した複合光学部材11,21)を液晶セルの少なくとも一方側に配置してなる液晶表示装置についても提供する。本発明の液晶表示装置は、液晶セルの両面に上述した本発明の複合光学部材を配置するようにしてもよいし、液晶セルの一方側のみに本発明の複合光学部材を配置するようにしてもよい。後者の場合、液晶セルの他方側には、本発明の複合光学部材以外の偏光板を含む光学部材を配置する。
【0054】
本発明の液晶表示装置に用いられる液晶セルは、垂直配向(VA)モードのものが好ましいが、その他、ベンド配向(ECB)モードなど、他の方式の液晶セルに対しても、本発明の複合位相差板およびそれを用いた複合光学部材は有効に機能する。
【実施例】
【0055】
以下に実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。例中、含有量ないし使用量を表す%及び部は、特記ない限り重量基準である。以下の例で用いたプライマー層用塗工液及び位相差層用塗工液の組成は、それぞれ次のとおりである。
【0056】
<実施例1>
(全ての粘土鉱物がフッ素処理された有機修飾粘土複合体)
全ての粘土鉱物がフッ素処理された有機修飾粘土複合体として、フッ素処理された合成ヘクトライトであるルーセンタイト(登録商標)SWF(コープケミカル株式会社製)と、有機修飾剤であるトリオクチル・メチル・アンモニウムとを複合化した有機修飾粘土複合体を作製した。
【0057】
(位相差層用塗工液)
上記で作製した有機修飾粘土複合体を用い、またバインダー樹脂として、イソホロンジイソシアネートベースのポリウレタン樹脂で固形分濃度30%の樹脂ワニスであるSBUラッカー0866(住化バイエルウレタン株式会社製)を用い、以下の組成で配合した。
【0058】
・ウレタン樹脂ワニス(SBUラッカー0866) 16.0部
・有機修飾粘土複合体 7.2部
・トルエン 76.8部
・水 0.3部
ここで用いた有機修飾粘土複合体は、有機修飾前のフッ素処理された合成ヘクトライトを製造後に酸洗浄し、それを有機修飾し、さらに水洗したものである。そこに含まれる塩素量は894ppmであった。前記組成を混合、攪拌した後、孔径1μmのフィルターで濾過して位相差層用塗工液を得た。この塗工液のカールフィッシャー水分計で測定された含水率は0.25%であった。この塗工液における有機修飾粘土複合体/バインダー樹脂の固形分重量比は3:2である。
【0059】
(プライマー層用塗工液)
架橋剤として有機チタン化合物溶液であるオルガチックスTC−310(松本製薬工業株式会社製)を用い、また、ポリビニルアルコール系樹脂としてアニオン性基含有ポリビニルアルコール系樹脂であるKL−318(株式会社クラレ製)を用い、以下の組成で配合した。
【0060】
・水 100部
・有機チタン化合物(オルガチックスTC−310) 1.5部
・ポリビニルアルコール系樹脂(KL−318) 3部
この組成において、水を80℃に温めながらポリビニルアルコール系樹脂と混合し、攪拌後、室温まで冷却し、さらに有機チタン化合物を加えて混合し、攪拌してプライマー層用塗工液を得た。なお、ここで用いた有機チタン化合物溶液であるオルガチックスTC−310は、上述したとおり式:(HO)2Ti〔OCH(CH3)COOH〕2で示される構造の乳酸チタンとも呼ばれる成分が44%、イソプロピルアルコールが40%、および水が16%である。
【0061】
(複合位相差板の作製)
両面にケン化処理が施されたトリアセチルセルロースからなる厚み40μmの透明樹脂フィルムの片面に前記プライマー層用塗工液を塗布し、80℃で約1分間乾燥してプライマー層を形成した。次に、そのプライマー層の上に前記位相差層用塗工液を塗布し、その後90℃で3分間乾燥して、位相差層を形成した。別途、離型フィルム上にアクリル系樹脂をベースポリマーとする感圧性接着剤層が形成されたシート(P−3132、リンテック株式会社製)を用意し、その感圧性接着剤層側を、上で形成した位相差層に貼着し、透明樹脂フィルム2、プライマー層12、位相差層3および感圧性接着剤層4がこの順で積層された、図2に示した構造を備える複合位相差板11を作製した。
【0062】
<実施例2>
位相差層に用いた有機修飾粘土複合体のうち50重量%を、フッ素処理されていない合成ヘクトライトとトリオクチル・メチル・アンモニウムとの複合体であるルーセンタイト(登録商標)STN(コープケミカル株式会社製)に代えた以外は、実施例1と同様にして、図2に示すような構造の複合位相差板11を作製した。
【0063】
<比較例1>
位相差層に用いた有機修飾粘土複合体を、全てフッ素処理されていない有機修飾粘土複合体であるルーセンタイト(登録商標)STN(コープケミカル株式会社製)とした以外は、実施例1と同様にして、図2に示すような構造の複合位相差板11を作製した。
【0064】
<評価試験1>
(a)複合位相差板の厚み測定
実施例1〜2、比較例1でそれぞれ作製した複合位相差板を、幅25mm、長さ850mmに切断し、デジタル測長器MH−15M(株式会社ニコン製)を用いて長さ方向に9点の厚みを測定し、その平均を複合位相差板の厚みとした。
【0065】
(b)光学性能評価
実施例1〜2、比較例1でそれぞれ作製した複合位相差板を40mm角に切断し、その感圧性接着剤層側でソーダガラスに貼合した後、オートクレーブ中、圧力5kgf/cm2、温度50℃で20分間の加圧処理を行い、位相差測定装置KOBRA−WR(王子計測機器株式会社製)を用いて、厚み方向の位相差値Rthを測定した。なお、複合位相差板の面内位相差値は、実施例1および2ならびに比較例1および2とも、ほぼ0(ゼロ)nmであった。
【0066】
(c)感圧性接着剤層の密着力評価
実施例1〜2、比較例1でそれぞれ作製した複合位相差板を幅25mm、長さ200mmに切断し、密着力評価装置(株式会社日本システムグループ製)を用いて、長さ方向に3点の密着力を評価した。評価は、硬度60度のスチレンゴムを用い、0.4MPaで押圧しながら、幅方向に一定の方向から20回摺動させたときに、感圧性接着剤層が位相差層から剥離した長さの3点平均を剥離長として求めた。この測定値は、値が小さいほど感圧粘着剤層の密着力が強いことを示す。
【0067】
上記各評価試験1(a)〜(c)の結果を表1に示す。表1において、比較例1の密着力が「>25」とあるのは、25mmの全幅にわたって感圧性接着剤層が剥離したことを意味する。
【0068】
【表1】

【0069】
(d)有機修飾粘土複合体の有機成分分析
実施例1で使用した、有機修飾粘土複合体中の窒素元素量、炭素元素量を自動元素分析装置FLASH EA1112(株式会社アムコ製)によって分析し、有機修飾粘土複合体中に存在する窒素原子(N)の割合(%)と炭素原子(C)の割合(%)の値を得た後、得られたN(%)の値から有機修飾剤であるトリオクチル・メチル・アンモニウムの含有量を計算した。
【0070】
その結果、有機修飾粘土複合体中のトリオクチル・メチル・アンモニウムの含有量は、実施例1で152.2mmol/100gであり、有機修飾剤の含有量が比較的多いものであるにも関わらず、接着性を良好に保つことができることが分かる。
【0071】
今回開示された実施の形態および実施例は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【図1】本発明の好ましい一例の複合位相差板1を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の好ましい他の例の複合位相差板11を模式的に示す断面図である。
【図3】図2に示した例の本発明の複合位相差板11を用いた場合の好ましい一例の複合光学部材21を模式的に示す断面図である。
【図4】図2に示した例の本発明の複合位相差板11を用いた場合の好ましい他の例の複合光学部材31を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0073】
1,11 複合位相差板、2 透明樹脂フィルム、3 位相差層、4 感圧性接着剤層、12 プライマー層、21,31 複合光学部材、22 光学機能層、32 感圧性接着剤層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明樹脂フィルム、位相差層、感圧性接着剤層がこの順で積層された複合位相差板であって、
該位相差層が、有機修飾剤と粘土鉱物とが複合化された有機修飾粘土複合体およびバインダー樹脂を含み、該粘土鉱物の全部または一部がフッ素処理されている、複合位相差板。
【請求項2】
透明樹脂フィルムがセルロース系樹脂、鎖状もしくは環状のポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂またはポリエステル系樹脂からなる、請求項1に記載の複合位相差板。
【請求項3】
前記有機修飾剤が炭素数1〜30のアルキル基を有する4級アンモニウム化合物であり、前記粘土鉱物がスメクタイト族に属する粘土鉱物である、請求項1に記載の複合位相差板。
【請求項4】
前記粘土鉱物が、フッ素処理された粘土鉱物を40〜100重量%含む、請求項1に記載の複合位相差板。
【請求項5】
前記感圧性接着剤層がアクリル系感圧接着剤から形成されたものである、請求項1に記載の複合位相差板。
【請求項6】
透明樹脂フィルムと位相差層との間に透明樹脂からなるプライマー層が介在されてなる、請求項1に記載の複合位相差板。
【請求項7】
プライマー層が、ポリビニルアルコール系樹脂と架橋剤とを含む、請求項6に記載の複合位相差板。
【請求項8】
請求項1に記載の複合位相差板と、光学機能層とが積層された構造を備える複合光学部材。
【請求項9】
光学機能層が偏光フィルムを含む、請求項8に記載の複合光学部材。
【請求項10】
液晶セルの少なくとも一方側に請求項8に記載の複合光学部材を配置してなる液晶表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−258225(P2009−258225A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−104666(P2008−104666)
【出願日】平成20年4月14日(2008.4.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】