説明

複合化粒子

【課題】 磁性を有すると同時に赤外領域で発光する複合化粒子であって、従来のように蛍光物質が遊離したり、ビーズの捕集性が悪い、検出装置が高価になるといった問題のない、バイオ、生化学用途に適した複合化粒子を提供する。

【解決手段】 強磁性酸化鉄粒子、蛍光顔料粒子およびシリカからなり、平均粒子サイズが1〜10μm、保磁力が2.39〜11.94kA/m(30〜150エルステッド)、飽和磁化が0.5〜40A・m2 /kg(0.5〜40emu/g)の範囲にあり、さらに波長が250〜1,000nmの光で励起したときの蛍光発光波長のピーク値が750nmを超え2,000nm以下の範囲にあることを特徴とする複合化粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁性を有すると同時に赤外領域の波長の蛍光を発光する複合化粒子に関し、とくにバイオ、生化学用途などに適した複合化粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、医療検査や環境検査の分野では、標識された物質とビーズまたはプレートに固定化された物質の特異的反応を利用して、サンプル中の目的物質を測定することが行われている。このような測定において、標識物質には、蛍光物質が使用されることが多い。この場合、プローブを固定化したビーズと、蛍光標識された目的物質を反応させたのち、非特異物質を洗浄、除去し、ビーズに励起光を当てて励起し、蛍光波長、蛍光強度を検出することにより、目的物質を測定している。
【0003】
このような方法で目的物質を測定する場合、ビーズには蛍光染料で標識されたものが公知である(特許文献1参照)。これは、2種の蛍光染料をその割合を変えてビーズに固定化し、ビーズ間の識別を可能としたものである。解析は、ビーズの蛍光信号と目的物質の蛍光信号を対照させて行う。この方法は、2種の蛍光染料の微妙な蛍光強度の差異を検出するため、本質的に高感度検出が要求され、装置が高価になる問題がある。
【0004】
また、蛍光色素分子を含有したシリカビーズが知られている(特許文献2参照)。これは、珪素原子を含む蛍光色素分子を含有したシリカビーズで、シリカを室温で合成すると多孔質のものが得られやすいため、蛍光色素分子をシリカの細孔に捕捉できるが、反面、溶媒中に分散させて使用すると、蛍光色素分子が脱離しやすい問題がある。
【0005】
さらに、粒径が1〜10nmであるカドミウムセレンの半導体ナノ微粒子を表面に有するビーズが公知である(特許文献3参照)。このビーズは、半導体ナノ微粒子が粒径により蛍光波長が変化する性質を利用したものであり、ポリスチレンビーズの表面にそれよりもはるかに粒子サイズの小さな半導体ナノ粒子を結合させた構造である。

しかし、フローサイトメトリーなどに用いた場合は、ポリスチレンビーズから半導体ナノ粒子が遊離するおそれがある。また、このビーズはポリスチレンからなっているため、回収時に遠心分離などを使用しなければならず、取り扱いの簡便さに欠ける。
【0006】
【特許文献1】特許第3468750号公報(第3頁)
【特許文献2】特開2003−270154号公報(第2〜3頁)
【特許文献3】特開2002−311027号公報(第2〜4頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の蛍光物質を含有したビーズには、上述のように、蛍光物質が遊離したり、ビーズの捕集性が悪い、検出装置が高価になるといった問題があった。また、これらの蛍光ビーズは、発光波長が通常可視領域であるため、以下の問題もあった。
【0008】
従来では、発光の確認を人の目で行っていたため、可視領域での発光が適していたが、近年になり、この種の分析装置は自動化が進み、かつセンサーの高性能化により、可視光である必然性はほとんどなくなってきた。むしろ、ビーズ表面で各種の生体物質の結合反応をさせるときに、ビーズ表面以外でも結合反応により化学発光が生じ、この化学発光の波長が可視光域のため、ビーズそのものからの発光と化学発光との分離が難しく、化学発光がノイズ成分となって高感度測定上の問題となっていた。
【0009】
この問題を解決するには、蛍光波長として化学発光による影響が現われない赤外領域で発光する磁性ビーズが理想的である。しかし、これまで、この目的を満たす磁性ビーズは存在しなかった。また、最近、赤外発光蛍光色素が開発されているが、既述したように、蛍光色素分子が反応中に脱離したり、さらに各種反応溶液に対して不安定などの問題があり、未だに満足いく赤外発光の磁性ビーズが開発されていない。
【0010】
本発明は、このような事情に照らし、上記の従来技術のように蛍光物質が遊離したり、ビーズの捕集性が悪い、検出装置が高価になるといった問題がなく、かつ赤外領域で発光する、バイオ、生化学用途に最適な複合化粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の目的を達成するために、鋭意検討した結果、強磁性酸化鉄粒子と赤外発光する蛍光顔料粒子とシリカとを一体化する、とくに上記両粒子をシリカで被覆して一体化することにより、上記両粒子が簡単に遊離することのない複合化粒子として、磁性を有すると同時に、赤外領域の波長の蛍光を発光する性質を有し、磁性による捕集性が容易であるとともに、化学発光などによるノイズがない赤外領域での蛍光による識別が可能で、かつその識別に高価な検出装置を必要としない、バイオ、生化学用途にとくに適した複合化粒子が得られることを見出した。
【0012】
この複合化粒子において、強磁性酸化鉄粒子としては、とくに限定はなく、たとえば、マグネタイト粒子、ガンマヘマタイト粒子、マグネタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、ガンマヘマタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、希土類鉄ガーネット粒子、ビスマス置換希土類鉄ガーネット粒子などが挙げられる。

これらの中でも、希土類鉄ガーネット粒子とビスマス置換希土類鉄ガーネット粒子は、黄色または黄緑色であり、この色を基本色に用いることにより、蛍光顔料粒子と一体化して粒子そのものに色調を付与しやすい特徴がある。

このような強磁性酸化鉄粒子の平均粒子サイズは、0.02〜1.0μmの範囲にあるのが好ましい。このサイズが小さすぎると、シリカに存在する細孔から強磁性酸化鉄粒子が外部に遊離するおそれがある。一方、粒子サイズが大きすぎると、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子をシリカで均一に被覆するのが難しくなる。
【0013】
また、蛍光顔料粒子は、その平均粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にあるのが好ましい。粒子サイズが小さすぎると、蛍光強度が小さくなる傾向にあり、またシリカに存在する細孔から蛍光顔料が外部に遊離するおそれがある。粒子サイズが大きすぎると、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子とをシリカで均一に被覆するのが難しくなる。

励起波長は、250〜1,000nmの範囲にあるのが好ましい。この範囲にあると、アルゴンイオンレーザー、キセノン光、ハロゲン光などの種々の励起光源を用いることができる。とくに励起波長が500〜900nmの範囲は、汎用の半導体レーザーやLEDを使用でき、安価に装置を構築できるので、より好ましい。

また、蛍光波長は、750nmを超え2,000nm以下の範囲にあるのが望ましい。この範囲にあると、化学発光による発光ノイズは存在せず、かつセンサーも市販の汎用品が利用できるので、検出装置を安価に構築できる。
【0014】
このような蛍光顔料粒子としては、本出願人の一人が既に開発したもの(特開平10−158643号公報参照)を使用することができる。

これは、その平均粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にある、とくに好ましくは0.05〜3.0μmの範囲にある、つぎの式(1)〜(3)のいずれかの式で示される赤外領域で発光する赤外蛍光顔料粒子である。

AQO3 :X …(1)

AQO3 :X,Y …(2)

AQO3 :X,Y,Z …(3)

(式中、AはCa,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素、QはTi,MoおよびZrの中から選択される少なくとも1種の元素、XはNdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素、YはAl,GaおよびInの中から選択される少なくとも1種の元素、ZはSc,Y,Gd,Bi,LuおよびLaの中から選択される少なくとも1種の元素である)
【0015】
上記の式(1)で示される赤外蛍光顔料粒子とは、Ca,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたチタン酸塩(ATiO3 )、モリブデン酸塩(AMoO3 )またはジルコン酸塩(AZrO3 )に、光学活性元素として、NdまたはYbを含ませた蛍光体(ATiO3 :X、AMoO3 :XまたはAZrO3 :X)である。

上記の式(2)で示される赤外蛍光顔料粒子とは、Ca,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたチタン酸塩(ATiO3 )、モリブデン酸塩(AMoO3 )またはジルコン酸塩(AZrO3 )に、光学活性元素として、NdまたはYbのほか、Al,GaおよびInの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませた蛍光体(ATiO3 :X,Y、AMoO3 :X,YまたはAZrO3 :X,Y)である。

上記の式(3)で示される赤外蛍光顔料粒子とは、Ca,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたチタン酸塩(ATiO3 )、モリブデン酸塩(AMoO3 )またはジルコン酸塩(AZrO3 )に、光学活性元素として、NdまたはYbのほか、Al,GaおよびInの中から選択される少なくとも1種の元素と、さらにSc,Y,Gd,Bi,LuおよびLaの中から選択される少なくとも1種の元素とをを含ませた蛍光体(ATiO3 :X,Y,Z、AMoO3 :X,Y,ZまたはAZrO3 :X,Y,Z)である。
【0016】
これらの蛍光顔料粒子は、各原料にハロゲン化物(たとえば塩化物など)の水溶性塩を用い、それらを水に溶解させて混合水溶液にしたのちに、水不溶性塩として沈殿させることにより、製造できる。水不溶性塩にする場合、水酸化物、シュウ酸塩、炭酸塩などの形で共沈させるのが好ましいが、とくに限定されない。

また、上記の蛍光顔料粒子は、焼成法により、製造することができる。原料粉末の焼成は大気中で行うことができる。焼成温度はとくに限定されないが、一般に、700〜1,500℃の範囲の温度が好適に用いられる。焼成時間もとくに限定されないが、通常は、数十分間〜数時間の範囲の焼成時間が好適に用いられる。
【0017】
なお、NdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたチタン酸カルシウムなどの蛍光顔料粒子の製造方法では、原料の混合が微妙な領域でも均質に行われるため、蛍光顔料粒子の粒度分布幅が狭く、粒子間の組成が均一かつ結晶性が向上する効果がある。また、LiFなどのフラックス添加量を抑えることができ、蛍光体へのフラックス成分の混入による結晶欠陥の減少、低価格化に効果がある。

また、この製造方法においては、Sc,Y,Gd,Bi,LuまたはLaなどの元素を加えなくても、これらの元素を添加した場合と、同等またはそれ以上に小さな平均粒径を有する蛍光顔料粒子を得ることができる。
【0018】
さらに、NdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたチタン酸、モリブデン酸またはジルコン酸蛍光顔料粒子に、Al,GaおよびInの中から選択される少なくとも1種の元素を添加すると、NdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素を含ませたことに起因する蛍光体組成式の化学量論比からのずれを補正でき、蛍光顔料粒子内部の欠陥の減少、それに伴う発光強度の増加などに効果がある。

また、光学不活性元素であるSc,Y,Gd,Bi,LuおよびLaの中から選択される少なくとも1種の元素を添加すると、結晶粒の接合成長を制御でき、結晶粒の微粒子化に効果がある。
【0019】
上記構成の蛍光顔料粒子では、X線回折測定において、たとえば、チタン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムに加えて、希土類元素などを含ませたチタン酸塩、モリブデン酸塩またはジルコン酸塩の回折パターンを含む蛍光顔料粒子でも、チタン酸カルシウム、モリブデン酸カルシウムまたはジルコン酸カルシウムの単一相のものとほぼ同様の発光強度や平均粒径を示す。

また、チタン酸蛍光顔料粒子では、励起エネルギーが熱エネルギーに移る確率が低いため、発光効率が高いという性質を持っている。また、ジルコン酸蛍光顔料粒子では、格子間隔が長いため、希土類元素を多く添加しても、残光時間や発光強度の減少が少なく、吸収能が高いという性質を持っている。
【0020】
本発明において、上記の複合化粒子を得る方法は、とくに限定されない。シリカを結合剤としてこれと強磁性酸化鉄粒子および蛍光顔料粒子と単に混合して一体化する方法や、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子との混合物をシリカの被膜で被覆して球状の複合化粒子とする方法などがある。とくに後者の方法では、蛍光顔料粒子がシリカ内部に包含されるため、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子が使用中にビーズから遊離するといった問題を確実に解決できるので、望ましい。
【発明の効果】
【0021】
このように、本発明は、強磁性酸化鉄粒子と赤外発光蛍光顔料粒子とシリカを一体化する、とくに上記両粒子をシリカで被覆して一体化することにより、上記両粒子が簡単に遊離せず、磁性を有すると同時に赤外領域の波長の蛍光を発光する性質を有し、磁性による捕集性が容易であるとともに、蛍光による識別が可能でかつその識別に高価な検出装置を必要としない、バイオ、生化学用途にとくに適した複合化粒子を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の複合化粒子は、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子とシリカとを一体化した、波長が250〜1,000nmの光で励起したときの蛍光発光波長のピーク値が750を超え2,000nm以下の範囲にある複合化粒子である。とくに、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子をシリカの被膜で被覆した構造のものが最適である。

また、この複合化粒子は、各成分の含有量が、強磁性酸化鉄粒子では5〜50重量%(好ましくは10〜40重量%)、蛍光顔料粒子では5〜50重量%(好ましくは10〜40重量%)、シリカでは20〜90重量%(好ましくは30〜80重量%)であるのがよい。
【0023】
この複合化粒子は、前記効果を発揮させるため、平均粒子サイズが1〜10μm、保磁力が2.39〜11.94kA/m(30〜150エルステッド)、飽和磁化が0.5〜40A・m2 /kg(0.5〜40emu/g)の範囲にあるのがよい。

また、とくに好ましくは、平均粒子サイズが2〜8μm、保磁力が2.79〜11.14kA/m(35〜140エルステッド)、飽和磁化が1〜35A・m2 /kg(1〜35emu/g)の範囲にあるのがよい。
【0024】
このような複合化粒子を得る方法には、とくに限定はなく、強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子とシリカとの一体化の仕方により、適宜の手法を採用できる。

以下に、強磁性酸化鉄粒子としてマグネタイト粒子を、蛍光顔料粒子として式(1)で表わされる赤外発光蛍光顔料粒子を、それぞれ使用し、これらの両粒子をシリカの被膜で被覆した構造の複合化粒子を得る方法を例にとり、説明する。

この方法に使用するマグネタイト粒子および式(1)で表わされる赤外発光蛍光顔料粒子は、つぎのようにして、製造することができる。
【0025】
<マグネタイト粒子の製造方法>
マグネタイト粒子は、鉄塩の水溶液中の酸化反応を使用した、以下の方法により、製造することができる。

硫酸第一鉄(FeSO4 ・6H2 O)を溶解した2価のFeイオン水溶液に、NaOH水溶液を滴下し、水酸化第一鉄〔Fe(OH)2 〕を析出させる。この水酸化第一鉄の懸濁液のpHを9〜10に調整したのち、空気を吹き込んで酸化し、マグネタイト粒子を成長させる。pHが9より小さいとマグネタイトの析出が遅くなり、pHが10より大きいとゲーサイト(α−FeOOH)が生成しやすくなる。また、空気吹き込み速度と懸濁液の保持温度は、マグネタイト粒子の粒子サイズに大きく影響する。
【0026】
空気吹き込み速度は100〜400リットル/hrに、懸濁液の保持温度は50〜90℃に調整するのがよい。通常、空気吹き込み速度が大きくなると、マグネタイトの結晶成長が速くなり、粒子サイズは小さくなる。しかし、空気吹き込み速度が小さすぎるか、あるいは大きすぎると、マグネタイト以外の物質が混在析出しやすくなる。また、保持温度が高くなるほど、マグネタイトの結晶が成長しやすくなり、粒子サイズが大きくなる。保持温度が低すぎると、ゲーサイト(α−FeOOH)粒子が生成しやすくなる。

このような方法により、平均粒子サイズが0.02〜10μmの黒色または黒茶色の色調を有するマグネタイト粒子が得られる。平均粒子サイズは、走査型電子顕微鏡写真上で300個の粒子のサイズを測定し、その平均値から求められる。
【0027】
なお、強磁性酸化鉄粒子としては、上記のように製造できるマグネタイト粒子のほか、このマグネタイト粒子を酸化して得られるガンマ酸化鉄や、マグネタイト−ガンマ酸化鉄の中間酸化鉄、さらには黒色または黒茶色以外の色調を有する磁性粒子として、たとえば本出願人の一人が提案している(特開2000−211924号公報および特開2000−252120号公報参照)、黄色または黄緑色の色調を有する磁性粒子である希土類鉄ガーネット粒子などが好ましく用いられる。
【0028】
<赤外発光蛍光顔料粒子の製造方法>
最初に、Ca,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素とチタン、モリブデンまたはジルコニウムを含む酸化物、シュウ酸塩、炭酸塩などを準備する。また、光学活性を付加するための元素としてNdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素を含む酸化物、シュウ酸塩、炭酸塩などを準備する。

つぎに、これらの酸化物や塩を計量して、これらにフラックス剤として使用するLiFを加えて、乳鉢などを用いて、十分に混合する。この混合物をアルミナルツボに移して、1,000〜15,000℃の温度で空気中で1〜4時間加熱焼成する。

この焼成により、AQO3 〔A、Qは式(1)のとおり〕で表され、光学活性剤としてNdやYbが添加された蛍光顔料粒子が得られる。この蛍光顔料粒子は、フラックス中に析出しているため、上記焼成後に塩酸でフラックスなどを溶解し、水洗、乾燥することにより、精製した蛍光顔料粒子として取り出すことができる。
【0029】
<強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子へのシリカ被膜の形成方法>
つぎに、上述の方法で製造したマグネタイト粒子と蛍光顔料粒子を使用し、これら粒子にシリカの被膜を被覆形成する方法について、説明する。

なお、他の強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子を用いる場合も、基本的には同じであり、以下に記載の方法に準じて、シリカの被膜を形成できる。
【0030】
上述した方法で製造したマグネタイト粒子と蛍光顔料粒子を、所定の割合になるように乳鉢で混合する。この混合粒子に珪酸ナトリウムの水溶液を所定量添加し、珪酸ナトリウムの水溶液中にこれらの粒子を分散させる。

マグネタイト粒子と蛍光顔料粒子の混合割合は、通常、マグネタイト粒子/蛍光顔料粒子で表して重量比で1/9〜9/1の範囲が好ましく、より好ましくは2/8〜8/2である。この範囲外であると、飽和磁化が小さすぎて磁界に対する応答性が低下したり、蛍光発光が弱すぎて蛍光の検出が困難になりやすい。
【0031】
珪酸ナトリウムの添加量としては、SiO2 に換算して、混合粒子の重量に対して10〜300重量%が好ましく、より好ましくは15〜250重量%である。添加量が少ないと、大きな飽和磁化と強い蛍光発光が得られやすい反面、混合粒子を均一に被覆することが困難になる。一方、添加量が多いと、飽和磁化が小さくなり磁界応答性が低下し、また蛍光発光強度が小さくなって蛍光の検出が困難になる。
【0032】
珪酸ナトリウムを溶解した混合粒子の懸濁液とは別に、有機溶媒に所定量の界面活性剤を溶解する。有機溶媒としては、水に対する溶解度が低いものが好ましく、たとえば、ベンゼン、トルエン、キシレン、n−ヘキサン、イソヘキサン、シクロヘキサン、酢酸エチル、酢酸ブチルなどが好ましい有機溶媒として使用できる。

また、乳化剤として使用する界面活性剤としては、ソルビタン脂肪酸エステル系の界面活性剤が好ましく、たとえば、ソルビタンモノステアレート、ソルビタンモノラウレート、ソルジタンモノパルミレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタントリオレートなどが好適なものとして使用できる。
【0033】
珪酸ナトリウムを溶解した混合粒子の懸濁液に、界面活性剤溶解有機溶媒を混合して、ホモミキサー、ホモジナイザーなどの強力な撹拌機を用いて撹拌し、W/O型のエマルジョンを調製する。その際、撹拌時間は、撹拌機の能力によるが、1〜30分程度が好ましい。撹拌時間が短すぎると、均一なサイズのエマルジョン粒子を得にくくなり、また長すぎると、撹拌エネルギーによりマグネタイト粒子とシリカとが反応して、目的とする構造を有さない粒子が生成しやすくなる。
【0034】
このようにして調製されるエマルジョン粒子は、有機溶媒中で混合粒子と珪酸ナトリウム水溶液が界面活性剤により包み込まれた構造を有している。つぎに、このエマルジョン粒子の懸濁液を、アンモニウム塩を溶解した水溶液に滴下する。

珪酸ナトリウム水溶液はアルカリ性であるため、珪酸ナトリウムはこのアルカリ領域では水に溶解しているが、中性領域では不溶性となる。したがって、アンモニウム塩により中和され、シリカとなって析出する。その結果、混合粒子を含有するようにシリカの被膜で覆われた球状粒子が生成する。
【0035】
このシリカ析出工程では、エマルジョン懸濁液は、アンモニウム塩水溶液に滴下することで、徐々に析出させるのが好ましい。滴下時間は10分〜3時間が好ましい。短いと、シリカ被膜に欠陥が生じたり、表面に凹凸が生じやすい。また、長いと、特性上とくに問題となることはないが、時間が長くなるだけで意味がない。

アンモニウム塩としては、硫酸塩や炭酸塩などがとくに好ましいものとして使用できる。たとえば、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、硫酸アンモニウムなどが好適なものとして使用できる。
【0036】
このようにして得られる粒子は、純水で十分に水洗したのち、ろ過し、真空中、40℃で2時間乾燥させることにより、マグネタイト粒子と蛍光顔料粒子がシリカで被覆された構造からなる球状の形状を有する複合化粒子である。このような複合化粒子は、平均粒子サイズとして通常1〜10μmの範囲にある。
【0037】
本発明において、上記のように製造される複合化粒子は、蛍光顔料粒子に基づく蛍光により粒子を識別できるので、この粒子の表面に特定の物質を固定化しておくことにより、目的物質との反応を行うことが可能になる。

このように目的物質と特異的に結合する特定の物質を複合化粒子表面に固定化するためには、まず、複合化粒子の表面に各種の官能基を導入しておく必要がある。この官能基としては、たとえば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、(メタ)アクリル基がとくに有効である。
【0038】
<複合化粒子への官能基の導入方法>
このような官能基を導入する方法には、各種の方法があるが、以下に、シランカップリング剤による官能基の導入方法を例にとり、説明する。

まず、上記のように製造される複合化粒子を、水に対して1〜40重量%になるように水中に分散し、この分散液にシランカップリング剤溶液を添加する。このシランカップリング剤溶液は、市販のものをそのまま使用してもよいし、水やアルコール、メチルエチルケトン、トルエン、ベンゼン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはこれらの混合溶媒などで希釈して使用してもよい。
【0039】
シランカップリング剤には、生理活性物質に対して親和性のある官能基、たとえば、アミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、(メタ)アクリル基を有するものがある。具体的には、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシランなどを挙げることかできる。
【0040】
シランカップリング剤の量は、複合化粒子に対して0.01〜20重量%の範囲とするのが好ましい。過少では固定化できる生体物質の量が減少し、過多となるとシランカップリング剤が粒子表面に均一に結合しにくく、固定化効率が逆に劣る傾向にある。

処理時間は1〜4時間程度とするのが好ましい。処理時間が短すぎると、シランカップリング剤の複合化粒子表面のシリカへの結合が不十分になり、また長すぎると、反応時に生成するアルコールなどが悪影響を及ぼすためか、シランカップリング剤の未反応のアルコキシ基が残存するため、いずれも、好ましくない。
【0041】
このように処理した混合物を水洗し、ろ過、乾燥して、粒子表面に各種の官能基を有するシランカップリング剤が結合した複合化粒子を製造する。

このように官能基を導入した複合化粒子は、蛍光による検出方法によりこれらの表面に固定化した物質と特異的に結合する目的物質を分析できる。とくに、蛍光顔料粒子が赤外領域の蛍光を発光するため、複合化粒子表面以外の部分での生体物質の結合反応が原因で生じる化学発光は通常可視領域の発光であるため、本発明の複合化粒子の蛍光とは波長域が大きく異なり、極めて高感度で複合化粒子を識別できる。
【0042】
また、この複合化粒子は、磁性を有しているため、磁界を用いて簡便に操作できる。具体的には、任意の物質の固定化処理などを簡単に行える。すなわち、官能基を導入した複合化粒子に任意の物質を固定化したのち、磁界を用いて複合化粒子を一箇所に集めれば、未反応物を簡単に除去できる。また、複合化粒子に固定化した任意の物質と目的物質とを反応させる際も、同様に磁界を用いれば、簡単に行える。
【0043】
以下に、本発明の実施例として、強磁性酸化鉄粒子として希土類鉄ガーネット粒子とマグネタイト粒子を使用し、これらの強磁性酸化鉄粒子と発光波長の異なる2種の蛍光顔料粒子とをシリカで被覆した構造の複合化粒子を得る方法について、またこの複合化粒子の表面に官能基を導入する方法について、具体的に記載する。
【実施例1】
【0044】
<希土類鉄ガーネット粒子の製造>
希土類元素としてイットリウムを用いた例について、説明する。

硝酸イットリウム0.1モルと硝酸鉄0.1785モルとを、2,000ccの水に溶解したのち、硝酸ビスマス0.007モルを溶解した12Nの硝酸溶液100ccと混合した。この硝酸塩水溶液を、3.415モルの水酸化ナトリウムを2,000ccの水に溶解した水溶液に、撹拌しながら約30分かけて滴下し、イットリウムとビスマス、鉄の共沈物を生成させた。この共沈物を中性付付近になるまで水洗したのち、ろ過して共沈物を取り出した。この共沈物を別の容器に入れ、これに融剤として臭化カリウム0.857モルと水500ccを加え、臭化カリウムが水に溶解するまで撹拌混合し、共沈物が臭化カリウム水溶液中に均一に分散した懸濁液を得た。
【0045】
つぎに、この懸濁液をバットに取り出し、90℃で乾燥して水を除去し、共沈物と臭化カリウムの均一混合物を得た。この混合物を乳鉢で軽く解砕したのち、プレス成形した。ついで、この成形物をルツボに入れ、850℃で2時間加熱処理することにより、臭化カリウム中にイットリウム鉄ガーネット粒子を析出させた。最後に、この加熱修理物を水洗して、臭化カリウムを溶解除去し、取り出した。

このビスマス置換イットリウム鉄ガーネット粒子は、平均粒子サイズが0.32μmの球状ないし楕円状であり、保磁力は5.17kA/m(65エルステッド)、飽和磁化は24.3A・m2 /kg(24.3emu/g)で、黄緑色の色調を有していた。
【0046】
<蛍光顔料粒子(1−A)の製造>
Nd2 3 76.55g、Yb2 3 167.00g、CaCO3 520.00g、TiO2 519.00gおよびLiF16.86gを、十分に混合した。これを、アルミナルツボに移したのち、1,200℃で2時間大気中で加熱焼成した。

この焼成後、フラックス剤を除去するために濃度1Nの塩酸で洗浄した。水洗後、乾燥して、平均粒子径が約1μmの蛍光顔料粒子(1−A)を得た。X線回折では、主ピークであるCaTiO3 に加えて、Yb2 Ti2 7 の回折パターンがみられた。

この蛍光顔料粒子(1−A)の蛍光発光特性を評価した。評価には、日本分光社製の「分光蛍光光度計CT−50型」と、センサーとしてシリコンフォトダイオードを用いた。励起波長810nmの半導体レーザーを使用して、800nmから1,150nmまでの蛍光強度を測定した。図1に示すように、Ybによる980nm付近にピークを持つ蛍光が観察された。
【0047】
<複合化粒子の製造>
上記のビスマス置換イットリウム鉄ガーネット粒子10gと、上記の蛍光顔料粒子(1−A)10gを、純水130g中に分散させた。この混合粒子の分散液中に、21.9gのケイ酸ナトリウムを溶解した。これとは別に、470ccのヘキサンに界面活性剤として7.0gのソルビタンモノラウレートを溶解した。この界面活性剤夜液と、上記のケイ酸ナトリウムを溶解した混合粒子の分散液とを混合した。この混合液をホモミキサーを使用して、10分間撹拌分散し、エマルジョン分散液を調製した。
【0048】
つぎに、300gの硫酸アンモニウムを1,500ccの純水に溶解した。この硫酸アンモニウム溶解液を撹拌しながら、上記のエマルジョン分散液を、約30分間かけて滴下した。滴下終了後、さらに1時間撹拌を行った。この硫酸アンモニウムによる中和反応により、ビスマス置換イットリウム鉄ガーネット粒子および蛍光顔料粒子(1−A)を包含するようにシリカが析出して、被膜が形成された。
【0049】
このようして得られた複合化粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状であり、保磁力は3.98kA/m(50エルステッド)、飽和磁化は9.0A・m2 /kg(9.0emu/g)であった。また、この複合化粒子は、光学顕微鏡写真および電子顕微鏡写真から、ビスマス置換イットリウム鉄ガーネット粒子および蛍光顔料粒子(1−A)の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。
【0050】
この複合化粒子0.5gを直径10mmの円柱状のガラス管に入れ、純水5gを加えて、超音波分散機により30分間分散した。その後、超音波分散機から取り出した分散液を磁界強度が3,000ガウスになる磁石上の位置に乗せ、完全に沈降する時間を測定した。その結果、この複合化粒子が沈降するのにかかった時間は、10秒であった。

また、この複合化粒子の蛍光発光特性についても、前記した蛍光顔料粒子(1−A)と同様の方法で評価した。その結果、蛍光顔料粒子(1−A)の発光特性を反映して980nm付近に最大強度を持つ蛍光が観察された。
【実施例2】
【0051】
<マグネタイト粒子の製造>
100gの硫酸第一鉄(FeSO4 ・7H2 O)を1,000ccの純水に溶解した。この硫酸第一鉄と等倍モルになるように、28.8gの水酸化ナトリウムを500ccの純水に溶解した。つぎに、硫酸第一鉄水溶液を撹拌しながら、1時間かけて水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、水酸化第一鉄の沈殿物を生成させた。滴下終了後、撹拌しながら、水酸化第一鉄の沈殿物を含む懸濁液の温度を85℃まで昇温した。懸濁液の温度が85℃に達したのち、200リットル/hrの速度で、エアーポンプを使用して空気を吹き込みながら、8時間酸化し、マグネタイト粒子を生成させた。

このマグネタイト粒子はほぼ球形であり、平均粒子サイズは約0.28μmであった。なお、マグネタイト粒子の粒子サイズは、透過型電子顕微鏡写真上、約300個の粒子サイズを測定し、その平均粒子サイズから求めた。
【0052】
<複合化粒子の製造>
上記のマグネタイト粒子10gと、実施例1で製造した蛍光顔料粒子(1−A)10gとを用い、実施例1と同様の方法でエマルジョン分散液を調製し、さらに硫酸アンモニウムによる中和反応を行って、マグネタイト粒子および蛍光顔料粒子(1−A)を包含するようにシリカを析出させて、シリカの被膜が形成された複合化粒子を製造した。
【0053】
このようにして得られた複合化粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状で、保磁力は7.95kA/m(100エルステッド)、飽和磁化は14.5A・m2 /kg(14.5emu/g)であった。この複合化粒子は、光学顕微鏡写真および図2に示す電子顕微鏡写真から、マグネタイト粒子および蛍光顔料粒子(1−A)の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。

この複合化粒子について、実施例1と同様に測定した沈降時間は8秒であった。また、この複合化粒子の蛍光発光特性を実施例1と同様に評価したところ、蛍光顔料粒子(1−A)の発光特性を反映して、980nm付近に最大強度を持つ蛍光が観察された。
【実施例3】
【0054】
<蛍光顔料粒子(1−B)の製造>
実施例1において、原料成分を、Nd2 3 32.81g、CaCO3 631.00g、TiO2 519.00gおよびLiF16.86gに変更した以外は、実施例1と同様の操作により、蛍光顔料粒子(1−B)を製造した。

この蛍光顔料粒子(1−B)は、平均粒子径が約1μmであった。X線回折パターンではCaTiO3 のみが観察された。また、実施例1と同様の方法でこの蛍光顔料粒子(1−B)の蛍光発光特性を調べたところ、図3に示すように、Ndによる850〜930nmと1,050〜1,110nmと1,280〜1,380nmの蛍光が観察された。これらの蛍光のうち、1,050〜1,110nm付近のピークが最大強度を示した。
【0055】
<複合化粒子の製造>
実施例2で製造したマグネタイト粒子10gと、上記の蛍光顔料粒子(1−B)10gとを用い、実施例1と同様の方法でエマルジョン分散液を調製し、さらに硫酸アンモニウムによる中和反応を行って、マグネタイト粒子および蛍光顔料粒子(1−B)を包含するようにシリカを析出させて、シリカの被膜が形成された複合化粒子を製造した。
【0056】
このようにして得られた複合化粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状で、保磁力は7.95kA/m(100エルステッド)、飽和磁化は14.2A・m2 /kg(14.2emu/g)であった。この複合化粒子は、光学顕微鏡写真および電子顕微鏡写真から、マグネタイト粒子および蛍光顔料粒子(1−B)の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。

この複合化粒子について、実施例1と同様に測定した沈降時間は8秒であった。また、この複合化粒子の蛍光発光特性を実施例1と同様に評価したところ、蛍光顔料粒子(1−B)の発光特性を反映して、1,050〜1,110nm付近に最大強度を持つ蛍光が観察された。
【実施例4】
【0057】
<複合化粒子への官能基導入処理>
複合化粒子へ官能基を導入する例として、官能基としてアミノ基を有するシランカップリング剤で処理する場合を例にとり、説明する。

実施例2で製造したマグネタイト粒子と蛍光顔料粒子(1−A)をシリカで被覆した構造の複合化粒子10gを、純水25g中に分散した。この分散液を撹拌しながら、末端にアミノ基を有するN−2(アミノエチル)3−アミノプロピルトリメトキシシラン0.2gを添加した。添加後、3時間撹拌した。水洗後、ろ過し、110℃で4時間乾燥し、アミノ基を導入した複合化粒子を得た。
【0058】
このようにアミノ基を導入した複合化粒子は、酵素、抗体、補酵素などの機能を持つタンパク質、糖タンパク質、糖類などの生理活性物質を固定化するための担体として適しており、中でも、酵素を固定化するための担体として最適である。

なお、上記実施例では、官能基としてシランカップリング剤が有するアミノ基を導入する例について示したが、シランカップリング剤としては、その他、生理活性物質に対して親和性のあるエポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、水酸基、ビニル基、(メタ)アクリル基などの官能基を有するものも使用でき、これらシランカップリング剤の使用により上記の各官能基を複合化粒子に導入できる。
【0059】
このように、本発明の複合化粒子においては、シランカップリング剤のシラノール基と粒子表面のシリカとの間に化学結合が形成され、上記したような官能基が磁性粒子の外側に向くように効率良く官能基を導入することができる。

上記アミノ基を導入した複合化粒子について、実施例2と同様の方法で、磁界応答性と蛍光発光特性を調べた結果、実施例2の複合化粒子と同等の磁界応答性と蛍光発光特性を示した。つまり、官能基を導入することで本発明の複合化粒子が有する磁界応答性と蛍光発光特性を維持したまま、酵素固定化など、用途を拡大できる。
【0060】
比較例1
実施例1において、強磁性酸化鉄粒子であるビスマス置換イットリウム鉄ガーネット粒子を使用せず、蛍光顔料粒子(1−A)のみを20g使用した以外は、実施例1と同様の操作により、蛍光顔料粒子(1−A)とシリカとの複合化粒子を得た。

この複合化粒子は、平均粒子サイズが約6μmの球状であり、磁性を有してなかった。光学顕微鏡写真および電子顕微鏡写真から、蛍光顔料粒子(1−A)の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。

この複合化粒子につき、実施例1と同様に測定した沈降時間は約1分であった。また、この複合化粒子の蛍光発光特性を実施例1と同様に評価したところ、図1に示した蛍光顔料粒子(1−A)の蛍光特性とほぼ同じであった。
【0061】
比較例2
実施例2において、蛍光顔料粒子(1−A)を使用せず、強磁性酸化鉄粒子であるマグネタイト粒子のみを20g使用した以外は、実施例2と同様の操作により、マグネタイト粒子とシリカとの複合化粒子を得た。

この複合化粒子は、平均粒子サイズが約5μmの球状であり、保磁力は7.95kA/m(100エルステッド)、飽和磁化は36.5A・m2 /kg(36.5emu/g)であった。光学顕微鏡写真および電子顕微鏡写真から、マグネタイト粒子の集合体がシリカで被覆された構造を有していることが認められた。

この複合化粒子について、実施例1と同様に測定した沈降時間は6秒であった。また、この複合化粒子の蛍光発光特性について、実施例1と同様に評価したところ、蛍光は観察されなかった。
【0062】
上記の実施例1〜4の複合化粒子および比較例1,2の複合化粒子について、その平均粒子サイズ、保磁力、飽和磁化、沈降時間および蛍光スペクトルの最大強度波長(λEm)の結果を、下記の表1にまとめて示した。

なお、複合化粒子の平均粒子サイズ、保磁力および飽和磁化は、以下のようにして測定したものである。
【0063】
<平均粒子サイズの測定>
複合化粒子の走査型電子顕微鏡写真を撮影し、この写真上で50個の粒子のサイズを測定し、その平均値を求めた。
【0064】
<保磁力および飽和磁化の測定>
振動試料型磁力計(東英工業社製)を用いて、複合化粒子の保磁力および飽和磁化を測定した。飽和磁化は、797KA/m(10キロエルステッド)の磁界を印加したときの磁化量から求めた。






【0065】
表1
┌────┬────┬──────┬───────┬────┬──────┐
│ │平均粒子│ 保磁力 │ 飽和磁化 │沈降時間│ λEm
│ │サイズ │ │ │ │ │
│ │(μm)│(KA/m)│(Am2 /Kg)│ (秒) │ (nm) │
├────┼────┼──────┼───────┼────┼──────┤
│ │ │ │ │ │ │
│実施例1│ 5 │ 3.98 │ 9.0 │ 10 │ 980 │
│ │ │ │ │ │ │
│実施例2│ 5 │ 7.95 │ 14.5 │ 8 │ 980 │
│ │ │ │ │ │ │
│実施例3│ 5 │ 7.95 │ 14.2 │ 8 │1,050 │
│ │ │ │ │ │〜1,110│
│ │ │ │ │ │ │
│実施例4│ 5 │ 7.95 │ 14.0 │ 8 │ 980 │
│ │ │ │ │ │ │
├────┼────┼──────┼───────┼────┼──────┤
│ │ │ │ │ │ │
│比較例1│ 6 │ − │ − │ 60 │ 980 │
│ │ │ │ │ │ │
│比較例2│ 5 │ 7.95 │ 36.5 │ 6 │ − │
│ │ │ │ │ │ │
└────┴────┴──────┴───────┴────┴──────┘
【0066】
上記の結果から、実施例1〜3に示す強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子をシリカの被膜で被覆した構造の複合化粒子と、実施例4に示すこの複合化粒子に官能基を付与した複合化粒子は、比較例1の複合化粒子に比べ、磁界を利用することにより、明らかに短時間で沈降させることができ、すぐれた磁界応答性を示すことがわかる。

また、上記の実施例1〜4に示す複合化粒子は、いずれも、上記すぐれた磁界応答性に加えて、目的とする赤外領域の蛍光発光特性を示すことも明らかである。これに対して、比較例2の複合化粒子では、磁界応答性は示すものの、蛍光発光特性を示さず、蛍光による識別ができない。
【0067】
なお、上記の実施例1〜4では、赤外発光の蛍光顔料粒子として最大強度の蛍光波長が980nmと1,050〜1,110nmである蛍光顔料粒子を製造し使用した例を示したものであるが、蛍光顔料粒子を構成する基本元素であるCa、Sr、Ba、チタンなどの元素や、光学活性を付加剤であるNd、Ybなどの元素の添加量を変えることにより、基本的には上記実施例で示したのと同様の方法により、蛍光波長が750nmを超え2,000nm以下である蛍光顔料粒子を任意に製造し使用できるものである。
【0068】
また、上記の実施例1〜4では、強磁性酸化鉄粒子として、イットリウム鉄ガーネット粒子とマグネタイト粒子を使用した例について説明したが、その他、ガンマヘマタイト粒子、マグネタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、ガンマヘマタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、各種の希土類鉄ガーネット粒子なども使用可能であり、これらの強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子をシリカの被膜で被覆することにより、磁性を維持した状態で赤外領域の蛍光による識別が可能な複合化粒子を提供できる。
【0069】
さらに、バイオ、生化学の用途においては、上記構成の複合化粒子の表面に特定の物質を固定化しておくことにより、これらの表面物質と特異的に結合する目的物質を、複合化粒子の蛍光波長から分析することが可能になる。また、本発明の複合化粒子においては、磁性を有しているため、特定の物質の固定化処理や目的物質との反応処理を、磁界を利用することにより、簡単に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施例1の蛍光顔料粒子の蛍光スペクトルを示す特性図である。
【図2】実施例2の複合化粒子の電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3の蛍光顔料粒子の蛍光スペクトルを示す特性図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性酸化鉄粒子、蛍光顔料粒子およびシリカからなり、平均粒子サイズが1〜10μm、保磁力が2.39〜11.94kA/m(30〜150エルステッド)、飽和磁化が0.5〜40A・m2 /kg(0.5〜40emu/g)の範囲にあり、さらに波長が250〜1,000nmの光で励起したときの蛍光発光波長のピーク値が750nmを超え2,000nm以下の範囲にあることを特徴とする複合化粒子。
【請求項2】
強磁性酸化鉄粒子と蛍光顔料粒子がシリカの被膜で被覆された構造を有する請求項1に記載の複合化粒子。
【請求項3】
強磁性酸化鉄粒子は、平均粒子サイズが0.02〜1.0μmの範囲にあるマグネタイト粒子、ガンマヘマタイト粒子、マグネタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、ガンマヘマタイト−アルファヘマタイト中間酸化鉄粒子、希土類鉄ガーネット粒子、ビスマス置換希土類鉄ガーネット粒子の中から選ばれる少なくとも1種である請求項1または2に記載の複合化粒子。
【請求項4】
蛍光顔料粒子は、つぎの式(1)〜(3);

AQO3 :X …(1)

AQO3 :X,Y …(2)

AQO3 :X,Y,Z …(3)

(式中、AはCa,SrおよびBaの中から選択される少なくとも1種の元素、QはTi,MoおよびZrの中から選択される少なくとも1種の元素、XはNdおよびYbの中から選択される少なくとも1種の元素、YはAl,GaおよびInの中から選択される少なくとも1種の元素、ZはSc,Y,Gd,Bi,LuおよびLaの中から選択される少なくとも1種の元素である)

のいずれかの式で示される、平均粒子サイズが0.05〜5.0μmの範囲にある赤外蛍光顔料粒子である請求項1〜3のいずれかに記載の複合化粒子。
【請求項5】
強磁性酸化鉄粒子、蛍光顔料粒子およびシリカの各含有量は、強磁性酸化鉄粒子が5〜50重量%、蛍光顔料粒子が5〜50重量%、シリカが20〜90重量%の範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の複合化粒子。
【請求項6】
粒子表面にアミノ基、エポキシ基、メルカプト基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ビニル基、(メタ)アクリル基の中から選ばれる少なくとも1種の官能基を有する請求項1〜5のいずれかに記載の複合化粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−23140(P2006−23140A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−200094(P2004−200094)
【出願日】平成16年7月7日(2004.7.7)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】