説明

複合圧電基板及びその製造方法

【課題】 複合圧電基板の歪、微細な亀裂及び空隙を低減した高い圧電特性を有する、圧電基板を限定しない複合圧電基板及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 圧電基板101の伝導担体を正極性又は負極性にし、圧電基板101とシリコン基板102との板厚比X(圧電基板の厚みをa、シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にし、圧電基板101とシリコン基板102を重ね合わせる工程と所定の温度に保持する工程とシリコン基板102と圧電基板101間に所定の電圧を印加する工程を備え、適切な熱処理条件および印加電圧条件を規定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合圧電基板に関し、特に、圧電基板とシリコン基板を貼り合わせた複合圧電基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電基板とシリコン基板の接合界面の水酸基による水素結合または酸素による共有結合で直接接合させる技術は、特許文献1に開示されている。通常、直接接合できる温度および基板厚みに制約がある。厚い基板を直接接合しようとすると、高温の熱処理工程が必要になる。しかし、圧電基板の材料特性の制約から、高温の熱処理工程を導入できない。制約を受けた温度での熱処理工程は、接合強度が弱い、もしくは製造歩留まりが悪い等の問題があった。
【0003】
特許文献1では、圧電基板とシリコン基板の間に無機薄膜層を形成し、相変化温度の高いランガサイト基板を圧電基板に採用することで、上記問題点を解決している。つまり、圧電基板とシリコン基板の間に無機薄膜層(特に、酸化珪素膜層)を形成することで、酸素が関与した共有結合を形成しやすくしている。その結果、接合強度が向上し、より低い熱処理温度で信頼性の高い直接接合が実現する。また、圧電基板として相変化温度(1470℃)の高いランガサイト基板を用いることで、1000℃以上の高温での熱処理が可能になり、直接接合の強度が高くなる。
【0004】
【特許文献1】特開平9−221392号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した特許文献1では、圧電基板とシリコン基板の間に無機薄膜層を形成して、強度の高い直接接合する場合は、800℃を超える高温での熱処理が必要になる。また、相変化温度の高い圧電基板は、ランガサイト等の特定の材料に限定され、材料選択の自由度が制限されるという問題点があった。更に、接合強度を高めるための高温での熱処理工程を導入すると、圧電基板とシリコン基板の熱応力に起因する歪、微細な亀裂および空隙を発生させ、複合圧電基板の圧電特性を劣化させるという問題点があった。
【0006】
本発明は、上述した問題点を解決すべくなされたもので、その技術課題は、複合圧電基板の歪、微細な亀裂及び空隙を低減した高い圧電特性を有する、圧電基板を限定しない複合圧電基板及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための第1の発明は、圧電基板とシリコン基板を接合してなる複合圧電基板において、前記圧電基板と前記シリコン基板との板厚比X(前記圧電基板の厚みをa、前記シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にあり、前記圧電基板の伝導担体が正極性又は負極性を有する複合圧電基板である。
【0008】
上記目的を達成するための第2の発明は、圧電基板とシリコン基板との板厚比X(前記圧電基板の厚みをa、前記シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にあり、前記圧電基板の伝導担体が正極性又は負極性を有する前記圧電基板と前記シリコン基板を接合してなる複合圧電基板の製造方法において、前記圧電基板と前記シリコン基板を重ね合わせる工程と、所定の温度に保持する工程と前記シリコン基板と前記圧電基板間に所定の電圧を印加する工程を備えた複合圧電基板の製造方法である。
【0009】
上記目的を達成するための第3の発明は、前記シリコン基板を負極にし、前記圧電基板を正極にして両極間に所定の電圧を印加する工程を備えた複合圧電基板の製造方法である。
【0010】
上記目的を達成するための第4の発明は、前記シリコン基板を正極に、前記圧電基板を負極にして両極間に所定の電圧を印加する工程を備えた複合圧電基板の製造方法である。
【0011】
上記目的を達成するための第5の発明は、前記所定の温度が、200℃以上1100℃以下の範囲にある複合圧電基板の製造方法である。
【0012】
上記目的を達成するための第6の発明は、前記所定の電圧が、直流電圧100以上1000V以下の範囲にある複合圧電基板の製造方法である。
【0013】
上記目的を達成するための第7の発明は、前記圧電基板が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ほう酸リチウム、燐酸ガリウム、ランガサイト、置換型ランガサイトからなる複合圧電基板である。
【0014】
上記目的を達成するための第8の発明は、前記圧電基板と前記シリコン基板の間にSiO2膜を介在させ結合した複合圧電基板である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、圧電基板の伝導担体を正極性又は負極性にすることで、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなども圧電基板として適用できる。また、接合強度を高めるために圧電基板とシリコン基板との板厚比X(圧電基板の厚みをa、シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にし、適切な熱処理条件および印加電圧条件を規定する。その結果、複合圧電基板の歪、微細な亀裂および空隙を低減した高い圧電特性を有する、圧電基板を限定しない複合圧電基板の提供が可能になる。
【0016】
更に、圧電基板とシリコン基板を重ね合わせる工程と所定の温度に保持する工程とシリコン基板と圧電基板間に所定の電圧を印加する工程を備えることで、複合圧電基板の歪、微細な亀裂および空隙を低減した高い圧電特性を有する、圧電基板を限定しない複合圧電基板の製造方法の提供が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明を実施するための最良の形態に係る複合圧電基板を以下に図面を参照して詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明の伝導担体が正極性を有する圧電基板で構成される複合圧電基板の製造方法を示し、図1(a)は接合前の模式図であり、図1(b)は接合中の模式図である。図2は、本発明の伝導担体が正極性を有する圧電基板で構成される複合基板の製造方法を示す。図3は、本発明の実施の形態1の複合圧電基板における構造を示す断面図である。図4は、本発明の実施の形態2の複合圧電基板における構造を示す断面図である。
【0019】
図4に示すように、本発明の実施の形態2の複合圧電基板は、圧電基板401とシリコン基板402で構成される。ここで、圧電基板401とシリコン基板402との板厚比X(圧電基板の厚みをa、シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)は、0.001以上、1以下の範囲にする。例えば、シリコン基板402の厚みは、1mmの場合には、圧電基板401は、1μmから1mmの範囲になる。なお、この板厚比の範囲外では、適切な熱処理条件および電界印加条件を選択しても、複合圧電基板の歪、微細な亀裂および空隙を低減できなかった実験結果により、板厚をこの範囲に限定している。負極性を有する伝導担体には、例えばランガサイト、置換型ランガサイト等の圧電基板がある。
【0020】
ここで、圧電基板の伝導担体を正極性にすると、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウムなども圧電基板として適用できるようになる。また、圧電基板とシリコン基板との板厚比X(圧電基板の厚みをa、シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にすることで、複合圧電基板の歪、微細な亀裂および空隙を低減した高い圧電特性を有する複合圧電基板の提供が可能になる。
【0021】
図3に示すように、本発明の実施の形態1の複合圧電基板は、圧電基板301とシリコン基板302の間にSiO2膜303を挿入した構造である。シリコンの熱酸化法やRFスパッタリング法により、シリコン表面に10nmから100nm程度の厚みのSiO2膜を形成している。この場合も、本発明の実施の形態2の複合圧電基板と同様な効果を奏する。
【0022】
図1により本発明の伝導担体が正極性を有する圧電基板で構成される複合圧電基板の製造方法の概略を説明する。圧電基板101およびシリコン基板102に有機洗浄と純水洗浄を行い、それぞれ清浄な表面を得る。次に、圧電基板101とシリコン基板102を互いに重ね合わせ、電熱ヒータ108を用いて両基板を所定の温度(400℃)で均一に加熱する。ここでは、圧電基板101として、例えばニオブ酸リチウムを用いる。ニオブ酸リチウム側を負極106とし、シリコン側を正極107とする。ニオブ酸リチウム側の電極104とシリコン側の電極105の間に500V程度の直流電圧を印加することで接合が完了する。
【0023】
図2により本発明の伝導担体が負極性を有する圧電基板で構成される複合圧電基板の製造方法の概略を説明する。まず、図1に示す製造方法と同様に、圧電基板201とシリコン基板202を所定の温度で一様に加熱する。次に、圧電基板201として、例えばランガサイトを用いる。ランガサイト側を正極207とし、シリコン側を負極206とする。ここでは、板厚が約200μmで、48.5°Yカット面のランガサイト基板を用い、板厚が約500μmの(100)面シリコン基板との接合をする。
【0024】
なお、ランガサイト基板の抵抗率は10MΩcm以上で、シリコン基板の抵抗率は、約1Ωcmである。印加電圧:500V、加熱温度:400℃で10分間保持する接合条件で行う。得られた接合強度は0.25kN/20×20mm2で、ランガサイト圧電基板には微細な亀裂、空隙は確認されなかった。
【0025】
表1は、加熱条件と印加電圧条件を変えた場合の圧電特性の相関を示す。表1において、圧電特性は、電気機械結合係数K2=0.30%を特性レベル△とし、接合強度は2N/mm2を特性レベル△とした。なお、表面状態は、外観観察で微細な亀裂、空隙が確認されるかどうかで、○、×を決定した。
【0026】
【表1】

【0027】
表1に示すように、200℃より加熱温度が低い場合と100Vより印加電圧が低い場合は、十分な接合強度が得られなかった。また、1100℃より加熱温度が高い場合と1000Vより印加電圧が高い場合は、複合圧電基板に微細な亀裂および空隙が発生し、高い圧電特性を確保できなかった。
【0028】
更に、上記に示した圧電基板以外であるタンタル酸リチウム、ほう酸リチウム、燐酸ガリウム、置換型ランガサイトを用いた圧電基板からなる複合圧電基板においても同様な効果を奏した。
【0029】
以上に示したように、本発明により複合圧電基板の歪、微細な亀裂および空隙を低減した高い圧電特性を有する、圧電基板を限定しない複合圧電基板およびその製造方法の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の伝導担体が正極性を有する圧電基板で構成される複合圧電基板の製造方法を示す図。図1(a)は接合前の模式図、図1(b)は接合中の模式図。
【図2】本発明の伝導担体が正極性を有する圧電基板で構成される複合基板の製造方法を示す図。
【図3】本発明の実施の形態1の複合圧電基板における構造を示す断面図。
【図4】本発明の実施の形態2の複合圧電基板における構造を示す断面図。
【符号の説明】
【0031】
101,201,301,401 圧電基板
102,202,302,402 シリコン基板
103,203,303 SiO2
104 ニオブ酸リチウム側の電極
105,205 シリコン側の電極
204 ランガサイト側の電極
106,206 負極
107,207 正極
108,208 電熱ヒータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板とシリコン基板を接合してなる複合圧電基板において、前記圧電基板と前記シリコン基板との板厚比X(前記圧電基板の厚みをa、前記シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にあり、前記圧電基板の伝導担体が正極性又は負極性を有することを特徴とする複合圧電基板。
【請求項2】
圧電基板とシリコン基板との板厚比X(前記圧電基板の厚みをa、前記シリコン基板の厚みをbとしたとき、X=a/b)がX=0.001以上X=1以下の範囲にあり、前記圧電基板の伝導担体が正極性又は負極性を有する前記圧電基板と前記シリコン基板を接合してなる複合圧電基板の製造方法において、前記圧電基板と前記シリコン基板を重ね合わせる工程と所定の温度に保持する工程と、前記シリコン基板と前記圧電基板間に所定の電圧を印加する工程を備えたことを特徴とする複合圧電基板の製造方法。
【請求項3】
前記シリコン基板を負極にし、前記圧電基板を正極にして両極間に所定の電圧を印加する工程を備えたことを特徴とする請求項2記載の複合圧電基板の製造方法。
【請求項4】
前記シリコン基板を正極に、前記圧電基板を負極にして両極間に所定の電圧を印加する工程を備えたことを特徴とする請求項2記載の複合圧電基板の製造方法。
【請求項5】
前記所定の温度が、200℃以上1100℃以下の範囲にあることを特徴とする請求項2又は請求項3又は請求項4記載の複合圧電基板の製造方法。
【請求項6】
前記所定の電圧が、直流電圧100以上1000V以下の範囲にあることを特徴とする請求項2又は請求項3又は請求項4又は請求項5記載の複合圧電基板の製造方法。
【請求項7】
前記圧電基板が、ニオブ酸リチウム、タンタル酸リチウム、ほう酸リチウム、燐酸ガリウム、ランガサイト、置換型ランガサイトからなることを特徴とする請求項1記載の複合圧電基板。
【請求項8】
前記圧電基板と前記シリコン基板の間にSiO2膜を介在させ結合したことを特徴とする請求項1記載の複合圧電基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−303940(P2006−303940A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−123258(P2005−123258)
【出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】