説明

複合基板、それを用いた弾性波デバイス及び複合基板の製法

【課題】弾性波デバイスに利用される複合基板であって、耐熱性の優れたものを提供する。
【解決手段】複合基板10は、弾性波を伝搬可能な圧電基板12と、該圧電基板12よりも熱膨張係数の小さな支持基板14とが接合されたものである。この複合基板10の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、圧電基板12と支持基板14とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、圧電基板12と支持基板14とは、面内最大熱歪み量が最小値又はその近傍になるように接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板、それを用いた弾性波デバイス及び複合基板の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、携帯電話等に使用されるフィルタ素子や発振子として機能させることができる弾性表面波デバイスや、圧電薄膜を用いたラム波素子や薄膜共振子(FBAR:Film Bulk Acoustic Resonator)などの弾性波デバイスが知られている。こうした弾性波デバイスとしては、弾性波を伝搬させる圧電基板とこの圧電基板よりも小さな線熱膨張係数(以下「熱膨張係数」という)を持つ支持基板とを接合した数インチの大きさの複合基板を作製し、その複合基板にフォトリソグラフィ技術を用いて多数の櫛歯電極を設けたあと、ダイシングにより切り出したものが知られている。このような複合基板を利用することにより、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化が支持基板によって抑制されるため、弾性波デバイスとしての周波数特性が安定化する。例えば、特許文献1には、圧電基板であるLT基板(LTはタンタル酸リチウムの略)と支持基板であるシリコン基板とをエポキシ接着剤からなる接着層によって貼り合わせた構造の弾性波デバイスが提案されている。こうした弾性波デバイスは、金ボールを介してフリップチップボンディングによってセラミック基板に搭載したあと樹脂で封入し、そのセラミック板の裏面に設けられた電極を鉛フリーのはんだを介してプリント配線基板に実装される。また、こうした弾性波デバイスは、金ボールの代わりに鉛フリーのはんだからなるボールを介してセラミック基板に実装することもある。この場合も、実装時には鉛フリーのはんだをリフロー工程で溶融・再凝固させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−150931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の弾性波デバイスでは、リフロー工程終了後にクラックが発生することがあり、生産時の歩留まりが悪いという問題があった。こうした問題が発生する原因は、熱膨張係数や弾性率(ヤング率)に異方性を有する圧電基板や支持基板において、熱膨張係数差が大きく且つ弾性率が小さい箇所が存在していることにあると考えられる。すなわち、そうした箇所では、高温時にその熱膨張係数差に起因する大きな熱応力が発生し、その熱応力によって惹起される熱歪みは弾性率が小さいため大きくなり、その結果クラックが発生したと考えられる。なお、弾性波デバイスを実装する際のリフロー工程以外でも、数インチの大きさの複合基板のまま250〜300℃の高温プロセスに供することもあり、その場合にも同様の理由でクラックが発生することが懸念される。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、弾性波デバイスに利用される複合基板であって、耐熱性の優れたものを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の複合基板は、異方性を有し弾性波を伝搬可能な圧電基板と、異方性を有し該圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板とが接合された複合基板であって、前記複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、前記圧電基板と前記支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、前記圧電基板と前記支持基板とは、前記面内最大熱歪み量が前記最小値又はその近傍になるように、あるいは、前記面内最大熱歪み量が前記最小値以上前記最大値に対して10%軽減される値以下になるように接合されたものである。
【0008】
本発明の複合基板の製法は、異方性を有し弾性波を伝搬可能な圧電基板と、異方性を有し該圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板とを接合して複合基板を製造する方法であって、前記複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、前記圧電基板と前記支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、前記圧電基板と前記支持基板とを、前記面内最大熱歪み量が前記最小値又はその近傍になるように接合するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の複合基板によれば、高温処理時において大きな歪みが発生せず、その結果クラックの発生が抑制される。また、本発明の複合基板の製法によれば、こうした複合基板を容易に作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】複合基板10の斜視図である。
【図2】複合基板10の製造工程を模式的に示す説明図である。
【図3】各基板12,14の熱膨張係数の面内分布を表すグラフである。
【図4】各基板12,14のヤング率の面内分布を表すグラフである。
【図5】実施例1の角度φと面内最大熱歪み量SHとの関係を表すグラフである。
【図6】実施例2の角度φと面内最大熱歪み量SHとの関係を表すグラフである。
【図7】実施例3の角度φと面内最大熱歪み量SHとの関係を表すグラフである。
【図8】実施例4の角度φと面内最大熱歪み量SHとの関係を表すグラフである。
【図9】実施例5の角度φと面内最大熱歪み量SHとの関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合基板において、圧電基板は、特に限定されないが、例えば、熱膨張係数及びヤング率の少なくとも一方に異方性を有するタンタル酸リチウム(LT)、ニオブ酸リチウム(LN)、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、水晶、ホウ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、ランガサイト(LGS)又はランガテイト(LGT)であることが好ましく、このうち、LT又はLNであることがより好ましい。LTやLNは、弾性表面波の伝搬速度が速く、電気機械結合係数が大きいため、高周波数且つ広帯域周波数用の弾性表面波デバイスとして適しているからである。
【0012】
本発明の複合基板において、支持基板は、特に限定されないが、例えば、熱膨張係数及びヤング率の少なくとも一方に異方性を有するシリコン、サファイヤ、砒化ガリウム、窒化ガリウム又は水晶であることが好ましく、このうち、シリコン又はサファイヤであることがより好ましい。シリコンやサファイヤは、半導体デバイス作製用として広く実用化されているからである。また、支持基板の熱膨張係数は、圧電基板の熱膨張係数より10ppm/K以上小さいことが好ましい。この場合、両者の熱膨張係数差が大きいため加熱時に割れが発生しやすく、本発明を適用する意義が高いからである。例えば、圧電基板の熱膨張係数が13〜20ppm/Kの場合には、支持基板としては熱膨張係数が2〜7ppm/Kのものを用いるのが好ましい。
【0013】
本発明の複合基板において、圧電基板と支持基板は直接接合されていてもよいが、有機接着層を介して間接的に接合されていてもよい。両基板を直接接合する方法としては、以下の方法が例示される。すなわち、まず、両基板の接合面を洗浄し、該接合面に付着している不純物(酸化物や吸着物等)を除去する。次に、両基板にアルゴン等の不活性ガスのイオンビームを両基板の接合面に照射することで、残留した不純物を除去すると共に接合面を活性化させる。その後、真空中、常温で両基板を貼り合わせる。一方、有機接着層を介して間接的に接合する方法としては、以下の方法が例示される。すなわち、まず、両基板の接合面を洗浄し、該接合面に付着している不純物を除去する。次に、両基板の接合面の少なくとも一方に有機接着剤を均一に塗布する。その後、両基板を貼り合わせ、有機接着剤が熱硬化性樹脂の場合には加熱して硬化させ、有機接着剤が光硬化性樹脂の場合には光を照射して硬化させる。このように有機接着層を介して間接的に接合する場合には、有機接着層を厚さ0.1〜1.0μmとするのが好ましい。有機接着層の厚さが1.0μmを超えると圧電基板と支持基板との熱膨張係数の差がこの有機接着層に吸収され、温度に対する周波数特性の変化を抑える効果が得られにくくなるため好ましくない。また、有機接着層の厚さが、0.1μm未満になるとボイドの影響で、温度変化に対する周波数特性の変化を抑える効果が得られにくくなるため好ましくない。
【0014】
本発明の複合基板において、複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、圧電基板と支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとる。このように面内最大熱歪み量が変化するのは、圧電基板や支持基板が異方性を有しているからである。
【0015】
本発明の複合基板において、圧電基板と支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときの面内最大歪み量の変化の様子は、実験により求めてもよいが、後述するシミュレーションにより求めてもよい。
【0016】
本発明の複合基板において、圧電基板と支持基板とは、面内最大熱歪み量が最小値又はその近傍となるように接合されていてもよい。こうすれば、高温処理時のクラックの発生を有効に抑制することができる。なお、最小値の近傍とは、例えば、設計上は面内最大歪み量が最小値となるように設定したものの、製造上の誤差などにより面内最大歪み量にずれが生じることを見込んだ範囲である。また、圧電基板と支持基板とは、面内最大熱歪み量が最小値以上最大値に対して10%軽減される値以下の範囲となるように接合されていてもよい。この場合も、比較的良好に高温処理時のクラックの発生を抑制することができる。
【0017】
本発明の複合基板は、弾性波デバイスに用いられるものである。弾性波デバイスとしては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが知られている。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電基板の表面に、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。こうした弾性波デバイスは、例えばプリント配線基板に実装する際にはリフロー工程が採用される。このリフロー工程において、鉛フリーのはんだを用いた場合、弾性波デバイスは260℃程度に加熱されるが、本発明の複合基板を利用した弾性波デバイスは耐熱性に優れるためクラックの発生が抑制される。また、数インチの大きさの複合基板がそのまま250〜300℃の高温プロセスに供されることもあるが、その場合にもクラックの発生が抑制される。
【0018】
本発明の複合基板において、圧電基板は、裏面に金属膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとしてラム波素子を製造した際に、圧電基板の裏面近傍の電気機械結合係数を大きくする役割を果たす。この場合、ラム波素子は、圧電基板の表面に櫛歯電極が形成され、支持基板に設けられたキャビティによって圧電基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、銅、金などが挙げられる。なお、ラム波素子を製造する場合、裏面に金属膜を有さない圧電基板を備えた複合基板を用いてもよい。
【0019】
本発明の複合基板において、圧電基板は、裏面に金属膜と絶縁膜を有していてもよい。金属膜は、弾性波デバイスとして薄膜共振子を製造した際に、電極の役割を果たす。この場合、薄膜共振子は、圧電基板の表裏面に電極が形成され、絶縁膜をキャビティにすることによって圧電基板の金属膜が露出した構造となる。こうした金属膜の材質としては、例えば、モリブデン、ルテニウム、タングステン、クロム、アルミニウムなどが挙げられる。また、絶縁膜の材質としては、例えば、二酸化ケイ素、リンシリカガラス、ボロンリンシリカガラスなどが挙げられる。
【実施例】
【0020】
[実施例1]
図1は、複合基板10の斜視図である。この複合基板10は、弾性表面波デバイスに利用されるものであり、弾性波を伝搬可能なタンタル酸リチウム(LT)からなる圧電基板12と、この圧電基板12に接合されたシリコンからなる支持基板14と、両基板12,14を接合する接着層16とを備えている。圧電基板12は、熱膨張係数が16.1ppm/Kである。この圧電基板12は、弾性表面波の伝搬方向であるX軸を中心に、Y軸からZ軸に42°回転した、42°YカットX伝搬LT基板(42Y−X LT)であり、オリエンテーションフラット(オリフラと略す)12aを有する。圧電基板12のオリフラ12aの方位は、弾性表面波の伝搬方向(X軸)を示す。支持基板14は、熱膨張係数が2.55ppm/Kであり、オリフラ14aを有する。支持基板14のオリフラ14aの方位は、<110>軸であり、圧電基板12のオリフラ12aの方位から角度φ(ここでは約45°)だけずれている。接着層16は、熱硬化性のエポキシ樹脂接着剤が固化したものであり、厚さが0.3μmである。
【0021】
こうした複合基板10の製造方法について、図2を用いて以下に説明する。図2は、複合基板10の製造工程を模式的に示す説明図である。まず、支持基板14として、面方位が(100)のシリコン基板を用意する。また、研磨前の圧電基板22として、42°YカットX伝搬LT基板を用意する(図2(a)参照)。そして、圧電基板22のオリフラ22aの方位に対して支持基板14のオリフラ14aの方位が角度φをなすように位置決めする(図2(b)参照)。続いて、圧電基板22の裏面にスピンコートにより熱硬化性のエポキシ樹脂接着剤を塗布し、支持基板14の表面に重ね合わせたあと180℃で加熱することによりエポキシ樹脂接着剤を硬化させ、貼り合わせ基板(研磨前複合基板)20を得る(図2(c)参照)。この貼り合わせ基板20の接着層16は、エポキシ樹脂接着剤が固化してできたものである。次いで、研磨機にて圧電基板22の厚さが30μmとなるまで研磨する(図2(d)参照)。研磨機としては、まず圧電基板22の厚みを薄くし、その後鏡面研磨を行うものを用いる。この結果、研磨前の圧電基板22が研磨後の圧電基板12になり、複合基板10が完成する。
【0022】
ここで、複合基板10の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量SHについて説明する。圧電基板12及び支持基板14の熱膨張係数の面内分布を図3に示し、ヤング率(弾性率)の面内分布を図4に示す。図3及び図4は、圧電基板12と支持基板14とをオリフラ12aの方位と支持基板14のオリフラ14aの方位とが一致した状態で接合したときの面内分布である。図3から明らかなように、圧電基板12は、熱膨張係数に異方性を有しているのに対して、支持基板14は、熱膨張係数に異方性を有していない。このため、図3の矢印の位置及びそこから180°回転した位置では、両基板12,14の熱膨張係数差が最大となり、熱膨張係数差に起因する応力が最大となる。圧電基板12のオリフラ12aの方位(オリフラ12aと垂直の方向)から応力が最大となる方位までの角度をθ、オリフラ12aの方位をθ=0と定めると、図3では応力が最大となる方位(矢印)とオリフラ12aの方位とが一致しているからθ=0となる。一方、図4から明らかなように、両基板12,14は、ヤング率(弾性率)に異方性を有しており、両基板12,14のヤング率はオリフラ12aの方位及びそこから90°ごとに最小値をとる。このように、圧電基板12と支持基板14とを両方のオリフラ12a,14aの方位が一致した状態で接合した場合、複合基板10の面内最大熱歪み量SHは最大値をとる。これは、この状態で応力が最大且つ各基板12,14のヤング率が最小となるからである。
【0023】
支持基板14の厚さを100μm、圧電基板12の厚さを10μm,20μm,30μmとしてシミュレーションを行ったときの面内最大熱歪み量SHの変化の様子を図5に示す。シミュレーションは、以下の手順にしたがって実施した。すなわち、複合基板10の弾性率E(θ,φ)は、前出の角度θ,φを用いると下記(式1)のように定義される。ここで、各寄与率CB,CFは、支持基板14及び圧電基板12のそれぞれの厚さをtB,tFとすると、全体の厚さ(tB+tF)に対するそれぞれの厚さtB,tFの比率である。また、各ヤング率EB,EFは角度の関数であり、公知の文献(例えばJ.Kushibiki and Y.Ohashi, IEEE Trans. UFFC, Vol.53, No.2, pp385-392(2006); J.Kushibiki, Y.Ohashi and J.Hirohashi, J. Appl. Phys., Vol.98, p123507(2005); W. A. Brantley, J. Appl. Phys., VOl.44, p534(1973); J.J.Wortman and R.A.Evance, J. Appl. Phys.,Vol.36, p153(1965);林、辻本、岡本、西川,材料Vol.41, p488(1992)など)に記載されている。一方、複合基板10の熱応力σ(θ,T)は下記(式2)のように定義され、この(式2)におけるΔα(θ)は下記(式3)のように定義される。また、ΔαB(θ),ΔαF(θ+φ)はいずれも角度の関数であり、公知の文献(例えばオーム社出版 日本学術振興会弾性波素子技術第150委員会編 弾性波素子技術ハンドブックなど)に記載されている。そして、熱歪み量S(θ,φ)は下記(式4)で定義される。この熱歪み量S(θ,φ)の複合基板10の面内における最大値つまり面内最大熱歪み量SHは下記(式5)で定義される。この面内最大熱歪み量SHの値を角度φが0〜360°の範囲内で算出し、最大値と最小値を求める。なお、面内最大熱歪み量SHの最小値は、下記(式6)で定義される。
【0024】
【数1】

【0025】
図5は、角度φを横軸、面内最大熱歪み量SHの最大値を「1」に規格化したときの相対的な値を縦軸とし、面内最大歪み量SHの変化をグラフに表したものである。なお、両基板12,14のヤング率は90°周期で変化する(図4参照)ことから、面内最大歪み量SHも同じ周期で変化するため、横軸のφの角度範囲は0〜90°とした。図5から明らかなように、面内最大歪み量SHは最大値と最小値を持ち、最小値は最大値に比べて面内最大歪み量SHが17〜18%軽減された。なお、支持基板14の厚さを200μm,300μmとして同様にシミュレーションしたところ、図5と同様のグラフが得られた。
【0026】
実際に、複合基板10につき、両基板12,14を面内最大歪み量SHが最小値となるように接合した場合には300℃で高温処理してもクラックが発生しなかったのに対し、面内最大歪み量SHが最大値となるように接合した場合には同温度で高温処理したときにクラックが発生した。面内最大歪み量SHが最小値のときには、最大値からの軽減率は20%であった。また、面内最大歪み量SHが最大値に対して10%軽減される値となるように両基板12,14を接合した場合も、クラックは発生しなかった。
【0027】
ここで、クラックの発生を抑制するには、角度φの数値が重要なのではなく、両基板12,14の一方に対して他方を回転させたときに面内最大熱歪み量SHに最大値と最小値が現れること、そして面内最大熱歪み量SHが最小値以上最大値からの軽減率が10%となる値以下となるような位置関係で圧電基板12と支持基板14とが接合されていることが重要である。
【0028】
[実施例2]
実施例2の複合基板10は、圧電基板12としてXカット112°Y伝搬LT基板(X−112Y LT)を用いた以外は、実施例1と同様のものである。実施例2において、支持基板14の厚さを350μm、圧電基板12の厚さを30μmとして上述したシミュレーション(数1参照)を実施したときの面内最大熱歪み量SHの変化の様子を図6に示す。図6から明らかなように、面内最大歪み量SHは最大値と最小値を持ち、最小値は最大値に比べて面内最大歪み量SHが21〜22%軽減された。
【0029】
[実施例3]
実施例3の複合基板10は、圧電基板12として128°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム(LN)基板(128Y−X LN)を用いた以外は、実施例1と同様のものである。実施例3において、支持基板14の厚さを100μm、圧電基板12の厚さを10μm,20μm,30μmとして上述したシミュレーション(数1参照)を実施したときの面内最大熱歪み量SHの変化の様子を図7に示す。図7から明らかなように、面内最大歪み量SHは最大値と最小値を持ち、最小値は最大値に比べて面内最大歪み量SHが10〜11%軽減された。なお、支持基板14の厚さを200μm,300μmとして同様にシミュレーションしたところ、図7と同様のグラフが得られた。
【0030】
[実施例4]
実施例4の複合基板10は、支持基板14として方位(100)面のGaAs基板を用いた以外は、実施例1と同様のものである。実施例4において、支持基板14の厚さを100μm、圧電基板12の厚さを10μm,20μm,30μmとして上述したシミュレーション(数1参照)を実施したときの面内最大熱歪み量SHの変化の様子を図8に示す。図8から明らかなように、面内最大歪み量SHは最大値と最小値を持ち、最小値は最大値に比べて面内最大歪み量SHが17〜22%軽減された。なお、支持基板14の厚さを200μm,300μmとして同様にシミュレーションしたところ、図8と同様のグラフが得られた。
【0031】
[実施例5]
実施例5の複合基板10は、圧電基板12として128°YカットX伝搬LN基板(128Y−X LN)、支持基板14として方位(100)面のGaAs基板を用いた以外は、実施例1と同様のものである。実施例5において、支持基板14の厚さを100μm、圧電基板12の厚さを10μm,20μm,30μmとして上述したシミュレーション(数1参照)を実施したときの面内最大熱歪み量SHの変化の様子を図9に示す。図9から明らかなように、面内最大歪み量SHは最大値と最小値を持ち、最小値は最大値に比べて面内最大歪み量SHが約14%軽減された。なお、支持基板14の厚さを200μm,300μmとして同様にシミュレーションしたところ、図9と同様のグラフが得られた。
【符号の説明】
【0032】
10 複合基板、12 圧電基板、12a オリフラ、14 支持基板、14a オリフラ、16 接着層、20 貼り合わせ基板(研磨前複合基板)、22 圧電基板(研磨前)、22a オリフラ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異方性を有し弾性波を伝搬可能な圧電基板と、異方性を有し該圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板とが接合された複合基板であって、
前記複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、前記圧電基板と前記支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、前記圧電基板と前記支持基板とは、前記面内最大熱歪み量が前記最小値又はその近傍になるように接合されている、
複合基板。
【請求項2】
異方性を有し弾性波を伝搬可能な圧電基板と、異方性を有し該圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板とが接合された複合基板であって、
前記複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、前記圧電基板と前記支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、前記圧電基板と前記支持基板とは、前記面内最大熱歪み量が前記最小値以上前記最大値に対して10%軽減される値以下になるように接合されている、
複合基板。
【請求項3】
前記面内最大熱歪み量は、下記の弾性率E(θ,φ)、熱応力σ(θ,T)及び熱歪み量S(θ,φ)に基づいて算出された値である、
請求項1又は2に記載の複合基板。
【数1】

【請求項4】
前記圧電基板は、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、水晶、ホウ酸リチウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、ランガサイト(LGS)又はランガテイト(LGT)からなり、
前記支持基板は、シリコン、サファイア、砒化ガリウム、窒化ガリウム又は水晶からなる、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合基板。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合基板を用いて形成される弾性波デバイス。
【請求項6】
異方性を有し弾性波を伝搬可能な圧電基板と、異方性を有し該圧電基板よりも熱膨張係数の小さな支持基板とを接合して複合基板を製造する方法であって、
前記複合基板の面内における最も大きな熱歪み量である面内最大熱歪み量は、前記圧電基板と前記支持基板とを相対的に0〜360°回転させたときに最小値と最大値をとるが、前記圧電基板と前記支持基板とを、前記面内最大熱歪み量が前記最小値又はその近傍になるように接合する、
複合基板の製法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−232725(P2010−232725A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−75048(P2009−75048)
【出願日】平成21年3月25日(2009.3.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】