説明

複合基板及び複合基板の製造方法

【課題】外周部に盛り上がり部分が存在する接着層を介して接着された支持基板と圧電基板との接着状態を良好に保つ。
【解決手段】複合基板10は、圧電基板14の裏面14bと支持基板12の表面12aとが接着層16を介して接着されたものであって、接着層16は、外周部に盛り上がり部分16aが存在し、圧電基板14は、盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されている。このため、接着層16の盛り上がり部分16aと圧電基板14との間に気泡が入り込みにくい。これにより、こうした気泡に起因する剥がれの発生を防止できる。したがって、外周部に盛り上がり部分が存在する接着層を介して接着された支持基板と圧電基板との接着状態を良好に保つことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板及び複合基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、支持基板と圧電基板とを貼り合わせた複合基板に、電極を設けて弾性波素子を作製することが知られている。ここで、弾性波素子は、例えば、携帯電話などの通信機器におけるバンドパスフィルタとして使用されている。例えば特許文献1には、圧電基板としてニオブ酸リチウムやタンタル酸リチウムを用い、支持基板としてシリコンや石英などを用いた複合基板が記載されている。また、圧電基板と支持基板とを貼り合わせる方法として、スピンコートにより塗布した紫外線硬化接着剤を用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−319679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、支持基板にスピンコートにより接着剤を塗布すると、塗布された接着剤の外周部にはスピンコート時の遠心力により盛り上がり部分が生じる。このように盛り上がり部分が生じた接着剤を介して支持基板と圧電基板とを接着すると、盛り上がり部分で接着不良が発生し、支持基板と圧電基板とが剥がれることがあった。このような剥がれが起きるのは、接着層の盛り上がり部分と圧電基板との間に入り込んだ気泡が原因と考えられる。
【0005】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、外周部に盛り上がり部分が存在する接着層を介して接着された支持基板と圧電基板との接着状態を良好に保つことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の複合基板は、
圧電基板と支持基板とが接着層を介して接着された複合基板であって、
前記接着層は、平坦部分と、該平坦部分の外周部に形成された盛り上がり部分と、を備え、
前記圧電基板は、前記接着層の前記平坦部分と接着する第1面と該第1面の反対側の第2面とを備え、該圧電基板が前記盛り上がり部分を避けて前記支持基板に接着されている
ものである。
【0008】
この複合基板は、接着層の外周部に盛り上がり部分が存在するが、圧電基板がこの盛り上がり部分を避けて支持基板に接着されている。このため、接着層の盛り上がり部分と圧電基板との間に気泡が入り込みにくい。これにより、こうした気泡に起因する剥がれの発生を防止できる。したがって、外周部に盛り上がり部分が存在する接着層を介して接着された支持基板と圧電基板との接着状態を良好に保つことができる。
【0009】
本発明の複合基板において、前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面の外周縁が前記接着層の前記盛り上がり部分と前記平坦部分との境界と接していてもよい。こうすれば、圧電基板と接着層との接合面である第1面の端部が接着層の盛り上がり部分により保護される。このため、複合基板を洗浄する際に用いる酸やアルカリ溶液によって、圧電基板と接着層とが剥がれるのを防止できる。
【0010】
本発明の複合基板において、前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面を該圧電基板の前記第2面に向けて垂直方向に投影すると該第1面が該第2面の内側に入るように、該圧電基板に膨出部が形成されているものとしてもよい。こうすれば、複合基板に対して熱処理を行ったときに圧電基板にクラックが生じるのを防止できる。この理由は以下のように推察される。すなわち、圧電基板において膨出部が存在することで、接着層により支持基板に接着されている圧電基板の第1面に比して、接着されていない圧電基板の第2面の方が大きく形成されることとなり、自由度の高い第2面側のボリュームが比較的大きくなっている。この膨出部の存在により、加熱された際に支持基板及び圧電基板の膨張・収縮により生じる端部での応力を緩和可能であるものと推察される。この場合において、前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面と該圧電基板の外周面とのなす角が鈍角であるものとしてもよい。
【0011】
本発明の複合基板の製造方法は、
(a)圧電基板を用意する工程と、
(b)支持基板にスピンコートにより接着剤を塗布する工程と、
(c)前記支持基板と前記圧電基板とを前記接着剤を介して貼り合わせて複合基板を形成する工程と、
を含み、
前記工程(a)で用意する圧電基板は、第1面を備えており、該圧電基板は、前記工程(c)における前記圧電基板の貼り合わせにおいて、該第1面と前記工程(b)におけるスピンコートで生じる前記接着剤の平坦部分とが接着可能であり、且つ該圧電基板が前記工程(b)におけるスピンコートで前記平坦部分の外周部に生じる前記接着剤の盛り上がり部分を避けることが可能となる形状をしており、
前記工程(c)では、前記第1面と前記工程(b)におけるスピンコートで生じる前記接着剤の平坦部分とが接着し、且つ該圧電基板が前記工程(b)におけるスピンコートで前記平坦部分の外周部に生じる前記接着剤の盛り上がり部分を避けるように前記貼り合わせを行う
ものである。
【0012】
本発明の複合基板の製造方法によれば、工程(b)におけるスピンコートで接着剤の外周部に盛り上がり部分が生じるが、工程(c)で圧電基板がこの盛り上がり部分を避けるように支持基板と接着される。このため、接着層の盛り上がり部分と圧電基板との間に気泡が入り込みにくい。これにより、この製造方法で製造した複合基板はこうした気泡に起因する剥がれの発生が防止される。したがって、外周部に盛り上がり部分が存在する接着層を介して接着された支持基板と圧電基板との接着状態の良好な複合基板が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】複合基板10の平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】複合基板10の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【図4】変形例の複合基板の概略を示す断面図である。
【図5】変形例の複合基板の概略を示す断面図である。
【図6】変形例の複合基板の概略を示す断面図である。
【図7】変形例の複合基板の概略を示す断面図である。
【図8】工程(a)に用いる研削前の圧電基板14の断面図である。
【図9】複合基板40の製造プロセスを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態である複合基板10の平面図であり、図2は、図1のA−A断面図である。本発明の複合基板10は、複数の基板が貼り合わされて構成されている。複合基板10は、支持基板12と、圧電基板14と、支持基板12の表面12aと圧電基板14の裏面14bとを接着する接着層16と、を備えている。また、この複合基板10は、1箇所がフラットになった円形に形成されている。このフラットな部分は、オリエンテーションフラット(OF)と呼ばれる部分であり、例えば、弾性表面波デバイスの製造工程において諸操作を行う際などに、ウエハ位置や方向の検出などを行うときに用いられる。
【0015】
支持基板12は、その上面である表面12aに接着層16を介して圧電基板14を接着し、これを支持する基板である。支持基板12の材質としては、例えば、シリコン、サファイア、窒化アルミニウム、アルミナ、ホウ珪酸ガラス、石英ガラス、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、ホウ酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。この支持基板12は、圧電基板14よりも熱膨張係数が小さいものである。支持基板12は、圧電基板14との熱膨張係数の差が5ppm/℃以上であるものとしてもよい。なお、支持基板12の熱膨張係数は、圧電基板14の熱膨張係数が13〜20ppm/℃の場合には、2〜7ppm/℃のものを用いるのが好ましい。また、支持基板12の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが100〜500μmである。表面12aは、支持基板12のうち接着層16との接合面である。また、「表面」は説明の便宜上の表記であり、例えば表面を裏面と称しても構わない。
【0016】
接着層16は、支持基板12の表面12aと圧電基板14の裏面14bとを接着する層である。この接着層16には、外周部に盛り上がり部分16aが存在する。このような盛り上がり部分16aは、例えば、接着層16となる接着剤をスピンコートで支持基板12の表面12aに塗布したことにより生じたものである。また、接着層16の表面のうち、盛り上がり部分16a以外の部分は平坦部分16bとなっている。すなわち、接着層16は、平坦部分16bと、その外周部に形成された盛り上がり部分16aとを備えている。接着層16の材質としては、特に限定されないが、耐熱性を有する有機接着剤が好ましく、例えば、エポキシ系接着剤やアクリル系接着剤などが挙げられる。
【0017】
圧電基板14は、弾性波(特に、弾性表面波)を伝搬可能な基板である。圧電基板14の材質としては、例えば、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、ホウ酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。この圧電基板14は、裏面14b(第1面)が接着層16の平坦部分16bと接着しているが、盛り上がり部分16aとは接着していない。すなわち、圧電基板14は、接着層16の盛り上がり部分16aを避けて接着層16を介して支持基板12に接着されている。そして、圧電基板の裏面14bの外周縁14cは、接着層16の盛り上がり部分16aと平坦部分16bとの境界16cと接している。また、この圧電基板14は、裏面14bを表面14a(第2面)に対して垂直方向に表面14aに投影すると、この裏面14bが表面14aの内側に入るように膨出部14dが形成されている。即ち、圧電基板14は、裏面14bから表面14aに向かうと外周が大きくなるような外周面14eが形成されている。この外周面14eは、裏面14bと外周面14eとのなす角θが90°超過180°未満、すなわち鈍角となるように形成されている。角θは、110°以上170°以下であることがより好ましい。なお、裏面14bは圧電基板14のうち接着層16との接合面であり、表面14aは接合面(裏面14b)とは反対側の面である。また、「表面」,「裏面」は説明の便宜上の表記であり、圧電基板14のうち接着層16との接合面(第1面)を表面と称し、接合面とは反対側の面(第2面)を裏面と称しても差し支えない。
【0018】
複合基板10は、この後、一般的なフォトリソグラフィ技術を用いて、多数の弾性表面波デバイスの集合体としたあと、ダイシングにより1つ1つの弾性表面波デバイスに切り出される。弾性波デバイスとしては、弾性表面波デバイスやラム波素子、薄膜共振子(FBAR)などが挙げられる。例えば、弾性表面波デバイスは、圧電基板14の表面14aに、弾性表面波を励振する入力側のIDT(Interdigital Transducer)電極(櫛形電極、すだれ状電極ともいう)と弾性表面波を受信する出力側のIDT電極とを設けたものである。入力側のIDT電極に高周波信号を印加すると、電極間に電界が発生し、弾性表面波が励振されて圧電基板上を伝搬していく。そして、伝搬方向に設けられた出力側のIDT電極から、伝搬された弾性表面波を電気信号として取り出すことができる。なお、上述したように、支持基板12は、圧電基板14よりも熱膨張係数が小さい。そのため、このような複合基板10から作成した弾性表面波デバイスでは、温度が変化したときの圧電基板11の大きさの変化を支持基板12が抑制し、弾性表面波デバイスの周波数特性の温度変化を抑制することができる。
【0019】
次に、こうした複合基板10の製造方法について、図3を用いて以下に説明する。図3は、複合基板10の製造工程を模式的に示す断面図である。複合基板10の製造方法は(a)外周部が研削された圧電基板24を用意する工程と、(b)用意した支持基板12の表面12aにスピンコートにより接着剤を塗布する工程と、(c)支持基板12の表面12aと圧電基板24の裏面24bとを接着剤を介して貼り合わせて複合基板20を形成する工程と、を含む。
【0020】
工程(a)では、圧電基板14となる圧電基板24を用意する(図3(a))。圧電基板24としては、上述した材質のものを用いることができる。圧電基板24の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが250〜500μmとすることができる。なお、この圧電基板24は、予め外周(図3(a)における破線部分)を研削して、裏面24bと研削後の外周面24eとのなす角が角θとなるようにしておく。角θの値については後述する。なお、研削を行わず、初めから図3(a)に実線で示す形状をした圧電基板24を用意してもよい。
【0021】
工程(b)では、支持基板12を用意し、その表面12aに接着層16となる接着剤26をスピンコートにより塗布する(図3(b))。支持基板12としては、上述した材質および大きさのものを用いることができる。接着剤26としては、上述した接着層16の材質を用いることができる。なお、スピンコートで支持基板12に接着剤26を塗布することにより、接着剤26の外周部には盛り上がり部分26aが生じ、それ以外の部分は平坦部分26bとなる。
【0022】
工程(c)では、支持基板12の表面12aと圧電基板24の裏面24bとを接着剤26を介して貼り合わせ、接着剤26を硬化させて複合基板20を形成する(図3(c))。接着剤26は、この硬化により接着層16となる。ここで、工程(a)で用意した圧電基板24は、この工程(c)における貼り合わせにおいて接着剤26の盛り上がり部分26aを避け、裏面24bが平坦部分26bと接着し、且つ、裏面24bの外周縁24cが接着剤26の盛り上がり部分26aと平坦部分26bとの境界26cと接した状態となる形状をしている。そのため、貼り合わせ後の複合基板20では、圧電基板24の裏面24bは平坦部分26bと接着し、盛り上がり部分16aとは接着していない。なお、工程(a)で用意する圧電基板24における角θは、圧電基板24がこのような貼り合わせが可能な形状となるように予め定められた値である。ここで、盛り上がり部分26aの大きさは、支持基板12の直径,接着剤26の材質,工程(b)におけるスピンコートの回転速度などの条件により定まる。そのため、角θは、これらの条件に基づいて予め盛り上がり部分26aを避けた貼り合わせが可能となるような値として予め定めておくことができる。
【0023】
複合基板20を形成すると、工程(d)として、圧電基板24の表面24a(図3(c)参照)を研削して厚みを薄くするとともに鏡面研磨する(図3(d))。これにより、圧電基板24は図1に示した圧電基板14となり、複合基板10が得られる。
【0024】
ここで、上述した工程(a)で用意する圧電基板24が工程(c)において盛り上がり部分26aを避けた貼り合わせが可能となる形状になっていない場合(例えば、図3(a)における破線部の研削を行わない場合)には、工程(c)における貼り合わせにより接着不良が発生してしまうことがある。これは、貼り合わせ時に接着層16の盛り上がり部分16aと圧電基板24との間に気泡が入り込むことが原因と考えられる。これに対して本実施形態の複合基板10の製造方法では、圧電基板24が、盛り上がり部分26aを避けて工程(c)における貼り合わせが可能となる形状をしているため、接着不良を防止することができる。
【0025】
以上説明した本実施形態の複合基板10によれば、接着層16の外周部に盛り上がり部分16aが存在するが、圧電基板14がこの盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されている。このため、接着層16の盛り上がり部分16aと圧電基板14との間に気泡が入り込みにくく、支持基板12と圧電基板14との接着状態を良好に保つことができる。
【0026】
また、圧電基板14は、裏面14bの外周縁14cが盛り上がり部分16aと平坦部分16bとの境界16cに接している。このため、圧電基板14と接着層16との接合面の端部が盛り上がり部分16aにより保護される。これにより、複合基板10を洗浄する場合、洗浄に用いる酸やアルカリ溶液によって圧電基板14と接着層16とが剥がれるのを防止できる。
【0027】
さらに、圧電基板14は、裏面14bを表面14aに対して垂直方向に表面14aに投影すると裏面14bが表面14aの内側に入るように、圧電基板14に膨出部14dが形成されている。これにより、複合基板10に対して熱処理を行ったときに圧電基板14にクラックが生じるのを防止できる。この理由は以下のように推察される。すなわち、圧電基板14に膨出部14dが存在することで、接着層16により支持基板12に接着されている圧電基板14の裏面14bに比して、接着されていない表面14aの方が大きく形成されることとなり、自由度の高い表面14a側のボリュームが比較的大きくなっている。この膨出部14dの存在により、加熱された際に支持基板12及び圧電基板14の膨張・収縮により生じる端部での応力を緩和可能であるものと推察される。
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施しうることは言うまでもない。
【0029】
例えば、上述した実施形態では、接着層16の境界16cと圧電基板14の裏面14bの外周縁14cとが接しているものとしたが、圧電基板14が盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されていれば、接していなくともよい。図4は、この場合の変形例の複合基板の概略を示す断面図である。この場合でも、圧電基板14が盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されているため、上述した支持基板12と圧電基板14との接着状態を良好に保つ効果が得られる。
【0030】
上述した実施形態では、角θは鈍角であるものとしたが、角θが鋭角であってもよい。図5は、この場合の変形例の複合基板の概略を示す断面図である。この場合でも、圧電基板14が盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されており、裏面14bの外周縁14cが境界16cに接しているため、それらにより上述した効果が得られる。
【0031】
例えば、上述した実施形態では、外周面14eが断面視したときに直線形状となっているが、例えば、外周面14eを曲線形状としてもよい。また、図6,7に示すように、断面視したときに外周面14eにくびれ部14fが形成されていてもよい。このような形状でも、圧電基板14が盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されており、裏面14bの外周縁14cが境界16cに接しており、膨出部14dが形成されているため、それらにより上述した効果が得られる。
【実施例】
【0032】
[実施例1]
実施例1として、図3を用いて説明した製造方法により図1,2に示した複合基板10を作製した。まず、工程(a)では、圧電基板24として、オリエンテーションフラット部(OF部)を有し、直径が4インチ,厚さが250μmのタンタル酸リチウム基板(LT基板)であって、図3(a)のように外周を研削したものを用意した。このLT基板には、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である46°YカットX伝搬LT基板を用いた。また、研削前のLT基板は、図8に示すように、LT基板の外周面から300μm内側の位置から面取りが始まり、この位置での面取りの角度は20°であった。研削は、LT基板を真空吸着方式で回転保持台に保持し、自転させたLT基板の外周面に同じく自転する砥石車を接触させることで行った。この研削により、LT基板は図3(a)における角θが120°であり、圧電基板24の裏面24bの直径φが96mmである形状となった。なお、角θ及び直径φの値は、後の工程(b)における接着剤26の平坦部分26bの直径及び盛り上がり部分26aの高さがどのような値になるかを予め予備実験により調べておき、その結果に基づいて定めておいた。
【0033】
続いて、工程(b)では、支持基板12として、OF部を有し、直径が4インチ,厚さが230μmのシリコン基板を用意し、スピンコートにより接着剤26としてエポキシ系接着剤を表面12aに塗布した。これにより、塗布された接着剤26は直径が100mmとなった。また、接着剤26のうち平坦部分26bは直径が98mmであり、それ以外の外周部分が盛り上がり部分26aとなった。盛り上がり部分の高さは0.5μmであった。
【0034】
次に、工程(c)では、接着剤26を塗布した支持基板12の表面12aと圧電基板24の裏面24bとを接着剤26を介して貼り合わせ、圧電基板24側から2000mJの紫外線を照射して硬化させ複合基板20とした。なお、上述したように、この貼り合わせは、裏面24bが平坦部分26bと接着し、圧電基板24が盛り上がり部分26aを避けるように行った。硬化後の接着層16の厚さは1μmであった。
【0035】
そして、工程(d)では、研磨機にてLT基板の厚さが40μmとなるまで研磨した。研磨機としては、以下のように厚みを薄くしたあと鏡面研磨を行うものを用いた。即ち、厚みを薄くするときには、研磨定盤とプレッシャープレートとの間に複合基板20を挟み込み、複合基板20と研磨定盤との間に研磨砥粒を含むスラリーを供給し、このプレッシャープレートにより複合基板20を定盤面に押し付けながらプレッシャープレートに自転運動を与えて行うものを用いた。続いて、鏡面研磨を行うときには、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、プレッシャープレートに自転運動及び公転運動を与えることによって、圧電基板24の表面を鏡面研磨するものを用いた。具体的には、まず、複合基板20のLT基板の表面を定盤面に押し付け、自転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として研磨した。続いて、研磨定盤を表面にパッドが貼られたものとすると共に研磨砥粒を番手の高いものへと変更し、研削後基板を定盤面に押し付ける圧力を0.2MPa、自転運動の回転速度を100rpm、公転運動の回転速度を100rpm、研磨を継続する時間を60分として鏡面研磨した。これにより、図1,2に示した複合基板10を得た。
【0036】
[実施例2]
工程(a)において、圧電基板24として、弾性表面波の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である42°YカットX伝搬LT基板を用意した点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、実施例2とした。
【0037】
[実施例3]
工程(a)において、圧電基板24として、弾性表面波の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカット板である64°YカットX伝搬ニオブ酸リチウム基板(LN基板)を用意した点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、実施例3とした。
【0038】
[実施例4]
工程(a)において、圧電基板24として、図3(a)における角θが95°であり、圧電基板24の裏面24bの直径φが98mmである形状に研削したものを用意した点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、実施例4とした。この実施例4の複合基板10においても、実施例1と同様に圧電基板14は接着層16の盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されている。また、圧電基板14の裏面14bの外周縁14cは、接着層16の盛り上がり部分16aと平坦部分16bとの境界16cに接している。
【0039】
[実施例5]
工程(a)において、圧電基板24として、図3(a)における角θが150°であり、圧電基板24の裏面24bの直径φが98mmである形状に研削したものを用意した点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、実施例5とした。この実施例5の複合基板10においても、実施例1と同様に圧電基板14は接着層16の盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されている。また、圧電基板14の裏面14bの外周縁14cは、接着層16の盛り上がり部分16aと平坦部分16bとの境界16cに接している。
【0040】
[比較例1]
比較例1として、工程(a)で用意するLT基板の外周を研削せず、図8に示したLT基板をそのまま用いた点以外は、実施例1と同様にして複合基板40を作成した。具体的には、まず、図9(a)に示すように、図8に示したLT基板と同じ基板である圧電基板54と、実施例1と同じ支持基板42とを用意した。続いて、支持基板42には、実施例1と同様にスピンコートにより接着剤56としてエポキシ系接着剤を支持基板42の表面42aに塗布した。そして、接着剤56を塗布した支持基板42の表面42aと圧電基板54の裏面54bとを接着剤56を介して貼り合わせた。なお、圧電基板54は外周が研削されていないため、圧電基板54は接着剤56の盛り上がり部分56aを避けることがなく、この貼り合わせにより圧電基板54の裏面54bと盛り上がり部分56aとが接着された状態になった。その後、圧電基板54側から2000mJの紫外線を照射して硬化させ複合基板50とした。硬化後の接着層46の厚さは1μmであった。
【0041】
次に、実施例1と同様にして、図9(b)に示すように、研磨機にてLT基板の厚さが40μmとなるまで複合基板50を研磨し、複合基板40を得た。
【0042】
[評価試験]
実施例1〜5の複合基板10及び比較例1の複合基板40について、LT基板(実施例3ではLN基板)とシリコン基板との接着状態を比較した。具体的には、複合基板10,40についてLT基板(実施例3ではLN基板)の表面側から微分干渉顕微鏡を用いた観察を行った。すると、複合基板40については、圧電基板44の表面のうち外周部分(盛り上がり部分46aの直上にあたる部分)に干渉縞が観察された。これは、盛り上がり部分46aと圧電基板44の裏面44bとの間に気泡が生じているためと考えられる。一方、実施例1〜5の複合基板10についてはそのような干渉縞は観察されなかった。これらの結果から、圧電基板14が接着層16の盛り上がり部分16aを避けて支持基板12に接着されていることで、支持基板12と圧電基板14との接着状態を良好に保つことができることがわかった。また、実施例1〜5の結果から、圧電基板14のカット角,材質,又は角θを変更しても、接着層16の盛り上がり部分16aと圧電基板14との間に気泡が入り込みにくいという効果は同様であることがわかった。
【符号の説明】
【0043】
10,20,40,50 複合基板、12,42 支持基板、12a,42a 表面、14,24,44,54 圧電基板、14a,24a 表面、14b,24b,44b,54b 裏面、14c,24c,44c,54c 外周縁、14d,24d 膨出部、14e,24e 外周面、14f くびれ部、16,26,46,56 接着層、16a,26a,46a,56a 盛り上がり部分、16b,26b 平坦部分、16c,26c 境界。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と支持基板とが接着層を介して接着された複合基板であって、
前記接着層は、平坦部分と、該平坦部分の外周部に形成された盛り上がり部分と、を備え、
前記圧電基板は、前記接着層の前記平坦部分と接着する第1面と該第1面の反対側の第2面とを備え、該圧電基板が前記盛り上がり部分を避けて前記支持基板に接着されている、
複合基板。
【請求項2】
前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面の外周縁が前記接着層の前記盛り上がり部分と前記平坦部分との境界と接している、
請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面を該圧電基板の前記第2面に向けて垂直方向に投影すると該第1面が該第2面の内側に入るように、該圧電基板に膨出部が形成されている、
請求項1又は2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記圧電基板は、該圧電基板の前記第1面と該圧電基板の外周面とのなす角が鈍角である、
請求項3に記載の複合基板。
【請求項5】
(a)圧電基板を用意する工程と、
(b)支持基板にスピンコートにより接着剤を塗布する工程と、
(c)前記支持基板と前記圧電基板とを前記接着剤を介して貼り合わせて複合基板を形成する工程と、
を含み、
前記工程(a)で用意する圧電基板は、第1面を備えており、該圧電基板は、前記工程(c)における前記圧電基板の貼り合わせにおいて、該第1面と前記工程(b)におけるスピンコートで生じる前記接着剤の平坦部分とが接着可能であり、且つ該圧電基板が前記工程(b)におけるスピンコートで前記平坦部分の外周部に生じる前記接着剤の盛り上がり部分を避けることが可能となる形状をしており、
前記工程(c)では、前記第1面と前記工程(b)におけるスピンコートで生じる前記接着剤の平坦部分とが接着し、且つ該圧電基板が前記工程(b)におけるスピンコートで前記平坦部分の外周部に生じる前記接着剤の盛り上がり部分を避けるように前記貼り合わせを行う、
複合基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−147424(P2012−147424A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−277214(P2011−277214)
【出願日】平成23年12月19日(2011.12.19)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】