説明

複合基板及び金属パターンの形成方法

【課題】圧電基板と支持基板とを有機接着層を介して貼り合わせた複合基板と、リフトオフ加工を用いて精度よく所望の金属パターンを形成できるようにする形成方法を提供する。
【解決手段】複合基板10は、フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な圧電基板11と圧電基板11を支持する支持基板12とを有機接着層13により貼り合わせたものである。この複合基板10のうち支持基板12及び有機接着層13の少なくとも一方は、フォトリソグラフィに使用される光線を吸収可能である。これにより、この複合基板10では、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により所望の金属パターンが圧電基板の表面に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合基板及び金属パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基板の表面にフォトリソグラフィにより所望の金属パターンを形成するにあたり、フォトレジストによりレジストパターンを形成し、このレジストパターンを形成した面に金属薄膜層を形成した後、レジストを除去することにより所望の金属パターンを形成することが知られている。この方法は、一般にリフトオフ加工と呼ばれる。例えば、特許文献1に記載の金属薄膜パターンの形成方法では、まず、基板上にレジストパターンを形成した後、金属薄膜層をスパッタで形成する。次に、レジストパターンの剥離液に浸漬後超音波を加えて、レジストパターン及びこのレジストパターン上の不要な金属薄膜層を除去している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−300684号公報(段落0004)
【0004】
ところで、圧電基板と支持基板とを有機接着層を介して貼り合わせた複合基板においても、特許文献1のように、リフトオフ加工により所望の金属パターンを形成することが考えられる。ここで、フォトリソグラフィを用いてレジストパターンを形成する場合には、複合基板の圧電基板の表面にフォトレジストを塗布し、所望の金属パターンに対応するフォトマスクを圧電基板上に配置して該フォトマスクを介して光線を照射し、その後フォトマスクを外して現像することによりレジストパターンを形成する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、薄膜に形成された圧電基板や有機接着層、支持基板は照射光を透過してしまう。例えば、照射光がi線(波長365nm)の場合、図8に示すように、厚さ30μmのタンタル酸リチウム製の圧電基板の透過率は約95%,厚さ1μmのエポキシ樹脂製の有機接着層の透過率は約90%,厚さ250μmのホウ珪酸ガラス製の支持基板の透過率は約90%であり、これらを貼り合わせた複合基板の透過率は約77%である。このような場合、照射光が支持基板の底面あるいは複合基板を載置している台座の表面で反射して、フォトレジストのうちフォトマスクで覆われている部分の裏側に到達することがある。こうなると、フォトレジストのうち感光させたくない部分が感光されてしまうため、所望のレジストパターンが得られず、ひいては所望の金属パターンが形成できないという事態を招く。また、支持基板が反射率の高い材料(例えばシリコンなど)である場合でも、照射光が支持基板の表面で反射することで、同様の問題が生ずる。
【0006】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、圧電基板と支持基板とを有機接着層を介して貼り合わせた複合基板につき、リフトオフ加工を用いて精度よく所望の金属パターンを形成できるようにすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の目的を達成するために以下の手段を採った。
【0008】
本発明の第1の複合基板は、
フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な圧電基板と該圧電基板を支持する支持基板とを有機接着層により貼り合わせた複合基板であって、
前記支持基板及び前記有機接着層の少なくとも一方が前記フォトリソグラフィに使用される光線を吸収可能なものである。
【0009】
この第1の複合基板は、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により所望の金属パターンが圧電基板の表面に形成されるものである。フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により金属パターンを形成する手順は、例えば、まず、複合基板の圧電基板の表面にフォトレジストを塗布する。次いで、所望の金属パターンに対応するフォトマスクを圧電基板上又は該圧電基板から離間した上方に配置して該フォトマスクを介して光線を照射し、その後フォトマスクを外して現像することによりレジストパターンを形成する。続いて、レジストパターンが形成された面に金属層を形成し、不要な金属層が上面に乗っているレジストパターンを除去することにより所望の金属パターンを形成する、という手順となる。ここで、仮に、支持基板と有機接着層とが共にこのフォトリソグラフィに使用される光線を透過させる材質からなるとする。この場合には、フォトレジストを透過した光線が、圧電基板、有機接着層及び支持基板をこの順に透過したあと支持基板の底面又は複合基板を載置している台の表面で反射し、支持基板、有機接着層及び圧電基板をこの順に透過したあとフォトレジストのうちフォトマスクの陰に隠れた部分を感光させることがある。これに対して、本発明の複合基板では、有機接着層及び支持基板の少なくとも一方がフォトリソグラフィに使用する光線を吸収するため、フォトレジストを透過した光線は有機接着層及び支持基板の少なくとも一方に吸収される。このため、フォトマスクの陰に隠れた部分は感光されない。したがって、圧電基板と支持基板とを有機接着層を介して貼り合わせた複合基板につき、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により、精度よく所望の金属パターンを形成することができる。
【0010】
本発明の第1の複合基板において、前記有機接着層は、接着剤組成物中に光線吸収成分(例えば紫外線吸収成分)を添加した材料で作製されていてもよい。接着剤組成物としては、例えばエポキシ樹脂やアクリル樹脂などが挙げられる。また、光線吸収成分としては、例えばカーボンのほか、チタン、などが挙げられる。この場合において、前記支持基板は、シリコン製の支持基板としてもよい。シリコンは反射率が高いため、有機接着層がフォトリソグラフィに使用される光線を吸収する意義が高い。
【0011】
本発明の第1の複合基板において、前記支持基板は、ガラス組成物中に光線吸収成分(例えば紫外線吸収成分)を添加した材料で作製されていてもよい。ガラス組成物としては、例えばソーダライムシリカガラスやホウ珪酸ガラス、無水アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。また、光線吸収成分としては、例えば酸化鉄、酸化セリウム、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、などが挙げられる。このようなガラス組成物中に光線吸収成分を添加したものについては、例えば特開平10−152349号公報に記載されている。また、フォトリソグラフィに使用される光線は、波長が350nm以上であることが好ましい。350nm以上の波長の光線はガラスを透過しやすいため、本発明を適用する意義が高い。
【0012】
本発明の第2の複合基板は、
フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な圧電基板と、
前記フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な支持基板と、
前記フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能であり、前記圧電基板と前記支持基板とを貼り合わせる第1の有機接着層と、
前記支持基板のうち前記第1の有機接着層とは反対側の面に形成された第2の有機接着層と、
を備え、
前記第2の有機接着層が前記フォトリソグラフィに使用される光線を吸収可能なものである。
【0013】
この第2の複合基板において、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により所望の金属パターンを圧電基板の表面に形成する際には、フォトレジストを透過した光線が、圧電基板,第1の有機接着層,支持基板をこの順に透過したあと第2の有機接着層に吸収される。このため、フォトマスクの陰に隠れた部分は感光されない。したがって、第1の複合基板と同様に、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により、精度よく所望の金属パターンを形成することができる。なお、第2の有機接着層は接着剤組成物中に光線吸収成分を添加した材料で作製されていてもよい。
【0014】
本発明の第2の複合基板において、前記第2の有機接着層により前記支持基板に貼り合わされている金属箔又は補償基板、を備え、前記圧電基板は、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きく、前記金属箔又は補償基板は、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きいものとしてもよい。こうすれば、温度が変化したときの圧電基板の大きさの変化が支持基板によって抑制されるとともに、支持基板の両側に熱膨張係数の大きい圧電基板と金属箔又は補償基板とが存在することで、複合基板の反りを防止できる。これにより、複合基板の温度特性を向上させることができる。
【0015】
本発明の金属パターンの形成方法は、
(a)上述したいずれかの複合基板を用意し、該複合基板の圧電基板の表面にフォトレジストを塗布する工程と、
(b)所望の金属パターンに対応するフォトマスクを前記圧電基板上又は該圧電基板から離間した上方に配置して該フォトマスクを介して光線を照射し、その後前記フォトマスクを外して現像することによりレジストパターンを形成する工程と、
(c)前記レジストパターンが形成された面に金属層を形成し、その後不要な金属層が乗っているレジストパターンを除去することにより前記金属パターンを形成する工程と、
を含むものである。
【0016】
この金属パターンの形成方法によれば、ステップ(a)で上述した第1の複合基板を用意した場合には有機接着層及び支持基板の少なくとも一方がフォトリソグラフィに使用する光線を吸収可能なため、フォトレジストを透過した光線は、有機接着層及び支持基板の少なくとも一方に吸収される。また、ステップ(a)で上述した第2の複合基板を用意した場合には、フォトレジストを透過した光線は第2の有機接着層に吸収される。このため、いずれの場合もフォトマスクの陰に隠れた部分は感光されない。したがって、圧電基板と支持基板とを有機接着層を介して貼り合わせた複合基板につき、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により、精度よく所望の金属パターンを形成することができる。なお、工程(b)において、レジストを塗布した圧電基板の上方に配置するフォトマスクは、一般に、レチクルとも呼ばれる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】弾性表面波素子用の複合基板10を模式的に示す断面図である。
【図2】有機接着剤A〜Cの透過率を示すグラフである。
【図3】複合基板10の表面に所望の金属パターンを形成するプロセスを模式的に示す断面図である。
【図4】変形例の複合基板110を模式的に示す断面図である。
【図5】変形例の複合基板110aを模式的に示す断面図である。
【図6】比較例1における金属パターンを形成するプロセスを模式的に示す部分断面図である。
【図7】比較例2における金属パターンを形成するプロセスを模式的に示す部分断面図である。
【図8】従来例の圧電基板,有機接着層,支持基板及びそれらからなる複合基板の透過率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、弾性波素子用の複合基
板10を模式的に示す断面図である。この複合基板10は、圧電基板11と、支持基板12と、有機接着層13とから構成されている。
【0019】
圧電基板11は、弾性表面波を伝搬可能な圧電体の基板であり、複合基板10にフォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により所望の金属パターンを形成する際に、この金属パターンが表面に形成されるものである。この圧電基板11は、フォトリソグラフィに使用される光線(以下、使用光線という)を透過させるものである。ここでは、使用光線として、波長が350nm以上のi線(365nm)又はg線(436nm)を用いるものとする。また、圧電基板11の材質としては、タンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、ホウ酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。圧電基板11の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が50〜150mm、厚さが10〜50μmである。
【0020】
支持基板12は、圧電基板11に貼り合わせられた基板である。この支持基板12の材質としては、光透過性のある材質、例えば、ソーダライムシリカガラスやホウ珪酸ガラス、無水アルカリガラス、石英ガラスなどが挙げられる。ここでは、ホウ珪酸ガラスを用いるものとする。なお、支持基板12の材質をシリコンなどの光をあまり透過しない材質としてもよい。また、支持基板12の大きさは、特に限定するものではないが、例えば、直径が、50〜150mm、厚さが150〜500μmである。
【0021】
有機接着層13は、圧電基板11の裏面と支持基板12の表面とを接着するものである。この有機接着層13は、使用光線を吸収するように接着剤組成物であるエポキシ樹脂に紫外線吸収成分としてカーボン又はチタンを混入させたものである。例として、図2に、エポキシ樹脂に30重量%のカーボンブラック(平均粒子径24nm)を添加した有機接着剤A,エポキシ樹脂に33重量%のチタンブラック(平均粒子径90nm)を添加した有機接着剤B,及びエポキシ樹脂のみからなる有機接着剤Cの透過率を示す。なお、図2において有機接着剤A〜Cの厚さはいずれも1μmとした。図2に示すように、有機接着剤Bのi線,g線の透過率は約0%、有機接着剤Cのi線,g線の透過率は約0.5%であり、いずれも有機接着剤A(i線,g線の透過率は90%以上)と比べて著しく透過率が小さいことがわかる。なお、有機接着層13は例えばこの有機接着剤B,Cのような材料からなるが、添加するカーボンやチタンの重量%や粒径を上記の値に特に限定するものではなく、有機接着層13が使用光線を吸収するように適宜設定すればよい。
【0022】
次に、複合基板10の表面に所望の金属パターンを形成するプロセスを図3を用いて説明する。図3は、複合基板10の表面に所望の金属パターンを形成するプロセスを模式的に示す説明図(断面図)である。
【0023】
まず、圧電基板11の裏面と支持基板12の表面とを有機接着層13により接着した後、圧電基板11の表面を研磨して薄くした複合基板10を用意する(図3(a)参照)。この複合基板10を台座30へ載置し、圧電基板11の表面に、例えばスピンコートによりポジ型のフォトレジスト20を均一に塗布する(図3(b)参照)。次に、所望の金属パターンに相当する部分が上下方向に貫通しているフォトマスク21をフォトレジスト20上に配置し(図3(c)参照)、このフォトマスク21を介して上方から使用光線を照射する(図3(d)参照)。その後、フォトマスク21を外して現像することにより、レジストパターン20aを形成する(図3(e)参照)。ここで、圧電基板11を通過した使用光線は、有機接着層13にほとんど吸収される。このため、使用光線が支持基板12の裏面あるいは台座30の表面で反射してフォトレジスト20のうちフォトマスク21で覆われている部分の裏側に到達することはなく、この部分が感光されてしまうことはない。続いて、レジストパターン20aが形成された面に例えばスパッタにより金属層14を形成する(図3(f)参照)。その後、不要な金属層が乗っているレジストパターン20aを有機溶剤等に溶解させて除去することにより、金属パターン14aを完成させる(図3(g)参照)。
【0024】
以上詳述した本実施形態の複合基板10によれば、フォトマスク21の陰に隠れた部分はほとんど感光されないため、圧電基板11と支持基板12とを有機接着層13を介して貼り合わせた複合基板10につき、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により、精度よく所望の金属パターンを形成することができる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0026】
例えば、上述した実施形態では、使用光線を吸収可能な有機接着層13を用いたが、それに代えて又は加えて、使用光線を吸収可能な支持基板12を用いてもよい。この場合も、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0027】
上述した実施形態では、複合基板10は図1に示す構成としたが、図4に示す構成としてもよい。図4に示す複合基板110は、圧電基板111と、支持基板112と、第1有機接着層113と、第2有機接着層114と、を備えたものである。圧電基板111は上述した圧電基板11と同様である。また、支持基板112は光透過性のある材質からなる基板である。第1有機接着層113は、エポキシ樹脂、アクリル樹脂など光透過性のある材質からなり、圧電基板111の裏面と支持基板112の表面とを接着するものである。第2有機接着層114は、上述した有機接着層13と同様に使用光線を吸収可能なものである。このように構成された複合基板110において、上述した複合基板10と同様にフォトマスク及びフォトレジストを用いて圧電基板111上に金属パターンを形成する際には、使用光線が圧電基板111,第1有機接着層113,支持基板112を透過するが、第2有機接着層114が使用光線を吸収するため、支持基板112の裏面あるいは台座30の表面で反射してフォトレジストのうちフォトマスクで覆われている部分の裏側に到達することはなく、この部分が感光されてしまうことはない。したがって、上述した複合基板10と同様の効果が得られる。また、複合基板10は図5に示す構成としてもよい。図5に示す複合基板110aは、図4の複合基板110において、第2有機接着層114の裏面に金属箔115が存在する構成、すなわち第2有機接着層114が支持基板112の裏面と金属箔115の表面とを接着する構成としたものである。なお、図5の複合基板110aの構成要素のうち図4の複合基板110と同じ構成要素については、同じ符号を付してその説明を省略する。この複合基板110aにおいて、圧電基板111及び金属箔115の熱膨張係数が支持基板112の熱膨張係数よりも大きくなるように材質を適宜選択することにより、複合基板110の温度特性を向上させることができる。その理由は、温度が変化したときの圧電基板112の大きさの変化が支持基板112によって抑制されるとともに、支持基板112の両面に支持基板112よりも熱膨張係数の大きい圧電基板111と金属箔115とが存在することで、複合基板110aの反りを防止できることによる。金属箔115の材質としては、例えばニッケル,銅,鋼,アルミニウム,青銅及びそれらの合金などが挙げられる。金属箔の厚さは、例えば10〜50μm(好ましくは10〜30μm)である。また、複合基板110aは、金属箔115に代えて、支持基板112よりも熱膨張係数の大きい補償基板を備えるものとしてもよい。この場合も、金属箔115を備える場合と同様に複合基板の温度特性を向上させることができる。補償基板の材質としては、例えばタンタル酸リチウム、ニオブ酸リチウム、ニオブ酸リチウム−タンタル酸リチウム固溶体単結晶、ホウ酸リチウム、ランガサイト、水晶などが挙げられる。補償基板は、圧電基板111と同じ材料であってもよいし異なる材料であってもよい。補償基板の厚さは、例えば10〜50μm(好ましくは10〜30μm)である。なお、複合基板10においても、支持基板12の裏面が有機接着層により上述した金属箔又は補償基板の表面と接着される構成とすることで、同様に温度特性を向上させることができる。この場合には支持基板12と金属箔とを接着する有機接着層の材質は使用光線を吸収するものに限られない。
【0028】
上述した実施形態では、ポジ型のフォトレジスト20を用いたが、ネガ型のフォトレジストを用い、フォトマスクとして所望の金属パターンに相当する部分のみを覆うものを用いてもよい。この場合、現像したあとは図3(e)と同じ状態になる。
【実施例】
【0029】
[実施例1]
実施例1として、図1に示した複合基板10を作製し、フォトリソグラフィを用いたリフトオフ加工により金属パターンを形成した。
【0030】
具体的には、まず、圧電基板11となる厚さが250μm,直径100mmのタンタル酸リチウム基板(以下、LT基板)と、支持基板12となる厚さ250μm,直径100mmのホウ珪酸ガラス基板と、を用意した。ここで、LT基板は、弾性表面波(SAW)の伝搬方向をXとし、切り出し角が回転Yカットである42°YカットX伝搬LT基板を用いた。続いて、このホウ珪酸ガラス基板の表面に上述した有機接着剤Aをスピンコートにより塗布し、LT基板の裏面がホウ珪酸ガラス基板の有機接着剤Aを塗布した側と接するように貼り合わせて160℃に加熱し、有機接着層13の厚さが0.7μmとなる貼り合わせ基板を形成した。そして、この貼り合わせ基板を、LT基板の厚さが30μmとなるまで研磨して複合基板10を作製した。
【0031】
続いて、作製した複合基板10の圧電基板11の表面にスピンコートによりポジ型のフォトレジストを厚さ0.4μmとなるように均一に塗布し、100℃でプリべーク処理を行った。次に、L/S(Line&Space)が0.5μm(すなわち、線幅0.5μm,線間距離0.5μm)のフォトマスクをフォトレジスト上に配置し、複合基板10をアルミニウム製の台座30の上に載置した状態で、フォトマスクを介して複合基板10の上方から使用光線(i線)を照射した。その後、フォトマスクを外してレジスト現像液に浸漬してレジストパターンを形成し、レジストパターンが形成された面にスパッタにより厚さ0.14μmのアルミニウムからなる金属層を形成した。そして、不要な金属層が乗っているレジストパターンを有機溶剤に溶解させて除去することで、金属パターンを完成させた。完成した金属パターンの幅を100箇所測定したところ、金属パターンの幅は0.5μm±0.05μmであり、標準偏差σは0.02μmであった。
【0032】
[実施例2]
支持基板12の材質をホウ珪酸ガラスの代わりにシリコンとした点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、金属パターンを完成させた。完成した金属パターンの幅を100箇所測定したところ、金属パターンの幅は0.5μm±0.05μmであり、標準偏差σは0.02μmであった。
【0033】
[比較例1]
有機接着層13を上述した有機接着剤Cを塗布することで形成した点以外は、実施例1と同様にして複合基板10を作製し、金属パターンを完成させた。完成した金属パターンの幅を100箇所測定したところ、金属パターンの幅は0.7μm±0.15μmであり、標準偏差σは0.05μmであった。
【0034】
[比較例2]
有機接着層13を上述した有機接着剤Cを塗布することで形成した点以外は、実施例2と同様にして複合基板10を作製し、金属パターンを完成させた。完成した金属パターンの幅を100箇所測定したところ、金属パターンの幅は0.6μm±0.10μmであり、標準偏差σは0.03μmであった。
【0035】
実施例1,2及び比較例1,2の結果から、有機接着層13が有機接着剤Aにより形成されている実施例1,2は、有機接着層13が有機接着剤Cにより形成されている比較例1,2よりも、金属パターンの幅が所望の値(0.5μm)に近く、精度良く所望の金属パターンを形成できることがわかる。
【0036】
ここで、比較例1,2における所望の金属パターンを形成するプロセスの一部を模式的に示す説明図(部分断面図)を図6,図7にそれぞれ示す。なお、図6,7の(a)〜(c)は上述した実施形態の図3(d)〜(f)に対応するプロセスを示している。比較例1の複合基板10にフォトレジスト20及びフォトマスク21を配置した状態で使用光線を照射すると、使用光線はフォトレジスト20,圧電基板11,有機接着層13,支持基板12を透過し、複合基板10を載置する台座30の表面で反射してフォトレジスト20のうちフォトマスク21で覆われている部分の裏側に到達する(図6(a)参照)。また、比較例2の複合基板10では、使用光線はフォトレジスト20,圧電基板11,有機接着層13を透過し、シリコン製の支持基板12の表面で使用光線が反射してフォトレジスト20のうちフォトマスク21で覆われている部分の裏側に到達する(図7(a)参照)。これにより、フォトレジスト20のうちフォトマスク21で覆われており本来除去されるべきでない部分がレジスト現像液により一部除去されてしまう(図6(b),図7(b)の点線で囲まれた部分が除去された部分)。そして、その後の金属層14の形成時にはこの一部除去されてしまった部分にまで金属パターン14aとなる金属層14が形成されてしまうため、完成した金属パターン14aが所望の幅よりも広くなってしまう(図6(c),図7(c)参照)。このようにして、比較例1,2では実施例1,2と比べて金属パターン14aの幅が大きく、且つ幅のばらつきも大きくなっていると考えられる。実施例1,2では、有機接着層13が使用光線を吸収するため、このような金属パターン14aの幅の増大やばらつきを防止して、精度良く所望の金属パターン14aを形成することができる。
【符号の説明】
【0037】
10,110,110a 複合基板、11,111 圧電基板、12,112 支持基板、13 有機接着層、14 金属層、14a 金属パターン、20 フォトレジスト、20a レジストパターン、21 フォトマスク、30 台座、113 第1有機接着層、114 第2有機接着層、115 金属箔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な圧電基板と該圧電基板を支持する支持基板とを有機接着層により貼り合わせた複合基板であって、
前記支持基板及び前記有機接着層の少なくとも一方が前記フォトリソグラフィに使用される光線を吸収可能である、
複合基板。
【請求項2】
前記有機接着層は、接着剤組成物中に光線吸収成分を添加した材料からなる、
請求項1に記載の複合基板。
【請求項3】
前記支持基板は、シリコン製の支持基板である、
請求項2に記載の複合基板。
【請求項4】
前記支持基板は、ガラス組成物中に光線吸収成分を添加した材料からなる、
請求項1又は2に記載の複合基板。
【請求項5】
前記フォトリソグラフィに使用される光線は、波長が350nm以上である、
請求項4に記載の複合基板。
【請求項6】
フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な圧電基板と、
前記フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能な支持基板と、
前記フォトリソグラフィに使用される光線を透過可能であり、前記圧電基板と前記支持基板とを貼り合わせる第1の有機接着層と、
前記支持基板のうち前記第1の有機接着層とは反対側の面に形成された第2の有機接着層と、
を備え、
前記第2の有機接着層が前記フォトリソグラフィに使用される光線を吸収可能である、
複合基板。
【請求項7】
請求項6に記載の複合基板であって、
前記第2の有機接着層により前記支持基板に貼り合わされている金属箔又は補償基板、
を備え、
前記圧電基板は、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きく、
前記金属箔又は補償基板は、前記支持基板よりも熱膨張係数が大きい、
複合基板。
【請求項8】
(a)請求項1〜7のいずれか1項に記載の複合基板を用意し、該複合基板の圧電基板の表面にフォトレジストを塗布する工程と、
(b)所望の金属パターンに対応するフォトマスクを前記圧電基板上又は該圧電基板から離間した上方に配置して該フォトマスクを介して光線を照射し、その後前記フォトマスクを外して現像することによりレジストパターンを形成する工程と、
(c)前記レジストパターンが形成された面に金属層を形成し、その後不要な金属層が乗っているレジストパターンを除去することにより前記金属パターンを形成する工程と、
を含む金属パターンの形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−171392(P2010−171392A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−282894(P2009−282894)
【出願日】平成21年12月14日(2009.12.14)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】