複合多孔質フィルム及びその製造方法
【課題】シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を併せ持ち、かつ通気性、フィルム安定性・表面平滑性等のフィルム材質及び充放電特性、耐久性等のフィルム使用特性を損なうことのない、複合多孔質フィルム及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とするフィルムである。
【解決手段】ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とするフィルムである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池内において、正・負極を隔離させ電解液内の電解質あるいは特定のイオンを選択的に透過させる隔膜として利用される多孔質フィルムの製造方法、多孔質フィルム、および該多孔質フィルムを使用した電池用セパレータや電解コンデンサー隔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
小型、軽量、高エネルギー密度などの特徴を活用し、2次電池はモバイル電子機器やハイブリット自動車・電気自動車等への幅広い展開が期待されている。2次電池の中でも最も高エネルギー密度を有するリチウム2次電池は、Liイオンを含有する遷移金属との複合酸化物からなる正極、Liイオンを吸着・脱離する炭素系材料から構成される負極、Liイオン系電解質と有機溶剤からなる電解液、正・負極を隔離するセパレータから構成される。
【0003】
ここで、電池用セパレータに求められる特性は、
(1)正負極を直接接触させないように隔離すること
(2)回路内の部分短絡時に生ずる過電流時の電池回路を遮蔽(シャットダウン)すること
(3)電解液を保持した状態では、良好な電解質・イオン透過を有すること
(4)化学的・電気的・力学的安定性を有すること
等が挙げられる。
【0004】
特に、シャットダウン機能は電池回路が暴走することを防止する役目として、電池使用時の安全性を高める為にも重要である。セパレータの材料として主に使用されるポリオレフィン製微多孔膜は、電気回路の短絡時に発生する熱温度上昇により、溶融現象を誘起し、その結果、微多孔が閉塞することにより、シャットダウン機構を果たしている。
【0005】
さらに、シャットダウン後のセパレータの形状保持も重要となる。これは、微孔閉塞後も溶融化が進行すると、セパレータ全体の形状が失われてしまう(メルトダウン)ことになり、電極の短絡が発生する危険性を誘発することを防ぐ為である。
【0006】
当問題を解決するために、2次電池用セパレータ材料として、シャットダウン機能と形状保持機能を分担させた、高融点材料と低融点材料の複合材料がいくつか提示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ポリアクリレート繊維由来の不織布とポリエチレンフィルムからなる積層体に対して加熱圧着することで得られる複合体シートが提示されているが、基材であるポリオレフィン製微多孔膜がフレキシブル性に富む低融点材料であるため、加熱、圧着により、基材の多孔性が失われ、通気性が悪化することが多い。
【0008】
特許文献2には、無機微粒子、バインダー、溶液からなるスラリーをポリオレフィン上に塗布、乾燥させること得られる複合多孔質膜が提示されているが、スラリーにおける無機微粒子の凝集性から均一な塗布が困難である。
【0009】
また、上記複合材料においては、高融点材料と低融点材料の面接触による低耐久性や界面抵抗の更なる上昇が生じる可能性という問題もあり、これら問題点をすべて解決するには至っていない。
【0010】
特許文献3にはスクリーン、グラビアロール印刷法により、ポリイミド系樹脂溶液を塗布し、その後当該樹脂に貧なる溶媒に浸漬、乾燥することによって得られる複合多孔質膜が提示されているが、ポリイミド系樹脂による膜が多孔膜であるため、機械的強度の面から改良の余地がある。また、多孔質化するプロセス条件によりポリイミド系樹脂多孔質層の多孔質構造、如いては通気性が敏感に変化する為に、工業的に安定生産する為には高度な工程管理が必要となることが大きな課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−248357号公報
【特許文献2】特開2000−30686号公報
【特許文献3】特開2006−155914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を併せ持ち、かつ通気性、フィルム安定性・表面平滑性等のフィルム材質及び充放電特性、耐久性等のフィルム使用特性を損なうことのない、複合多孔質フィルムの製造方法及び複合多孔質フィルムを簡便に、さらに安定的に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、
該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、
前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とする複合多孔質フィルム。
【0014】
2.前記ポリイミド層の前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとして存在していることを特徴とする上記1記載のフィルム。
【0015】
3.前記ポリイミド層の厚みが0.5〜50μmであることを特徴とする上記1または2に記載のフィルム。
【0016】
4.前記多孔質膜の同一表面上において、ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)が、10%以上70%以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【0017】
5.前記多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載のフィルム。
【0018】
6.上記1〜5のいずれかに記載の複合多孔質フィルムの製造方法であって、
(工程a)ポリイミド溶液を、前記多孔質膜の少なくとも片面に、表面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に塗布する工程と、
(工程b)工程aで得られたポリイミド溶液が塗布された多孔質膜を、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする複合多孔質フィルムの製造方法。
【0019】
7.前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液を、前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとなるようなパターン状に塗布することを特徴とする上記6記載の方法。
【0020】
8.前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液の塗布を、グラビアコート法またはスクリーン印刷法により行うことを特徴とする上記6または7に記載の方法。
【0021】
9.前記ポリイミドの貧溶媒浴が、水成分が40重量%以上の水溶液であることを特徴とする上記6〜8のいずれかに記載の方法。
【0022】
10.工程aにおいて用いる前記多孔質膜の膜厚みが3〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする上記6〜9のいずれかに記載の方法。
【0023】
11.上記6〜10のいずれかに記載の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【0024】
12.破膜温度が200℃以上であることを特徴とする上記11記載の電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、良好な通気性を有する複合多孔質フィルムを容易に得ることができる。得られた複合多孔質フィルムは、蓄電池用セパレータとして用いることが可能であり、ポリイミド層を有することによりポリオレフィンのみから成るセパレータより高い耐熱性を発揮するので、蓄電池の安全性を高めることが出来る。また、電解液などの液体に対する親和性が高まるので、セパレータに用いる際には電池の組立工程における電解液注入性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図2】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図3】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図4】複合多孔質フィルムの電気抵抗値の測定において使用した装置図である。
【図5】実施例1の複合多孔質フィルムの熱閉塞化の温度特性を示す図である。
【図6A】実施例1の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図6B】実施例1の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図6C】実施例1複合多孔質フィルムの表面のポリイミド塗布部と未塗布部の境界をSEMにより観察した図である(左側が未塗布部)。
【図6D】実施例1複合多孔質フィルムの断面をSEMにより観察した図である。
【図7A】実施例2の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図7B】実施例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図8A】実施例3の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図8B】実施例3の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図9】実施例4において使用した印刷プレートの平面図と断面の模式図を示す。
【図10A】実施例4の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図10B】実施例4の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図11】実施例5において使用した印刷プレートの平面図と断面の模式図を示す。
【図12】実施例5の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図13】実施例6の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図14A】実施例7の複合多孔質フィルムにおいて、先にポリイミド層を塗布した表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図14B】実施例7の複合多孔質フィルムにおいて、後でポリイミド層を塗布した表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図15A】比較例2の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図15B】比較例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図15C】比較例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
<複合多孔質フィルム>
本発明の複合多孔質フィルムは、通気性のある多孔質膜と、この多孔質膜の少なくとも一方の面に積層されたポリイミド層を有し、多孔質膜の同一表面上にポリイミド層がポリイミド層が存在する領域とポリイミド層が存在しない領域を有するように形成される。即ち、ポリイミド層は、多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されている。
【0029】
ポリイミド層は、多孔質膜の片面に形成されていればよいが、用途によっては、多孔質膜の両面にポリイミド層が形成された構造等であってもよい。
【0030】
本発明において、上記ポリイミド層が存在する領域上の、該ポリイミド層を形成する部分は、貫通孔を有しない非多孔であること、即ちポリイミド層自体には通気性がないことを特徴とする。即ち、ポリイミド層で、通気性のある多孔質膜の全面を、開口を形成せずに覆った場合に、通気性がないことを意味する。この非多孔であるという特徴により、該複合多孔質フィルムの機械的強度が増し、ポリイミド層自体が多孔質で通気性がある場合に比べて、より薄い層で蓄電池セパレータとしての機能を発揮できる。
【0031】
一方、本発明の複合多孔質フィルムは、電池のイオン透過性の観点等から適度な通気性を有することが必要であるため、多孔質膜上でポリイミド層が存在しない領域(以下、開口部と称する)を有する。
【0032】
本発明の複合多孔質フィルムにおいて、多孔質膜上でポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)は、膜厚みにもよるが、10%〜70%であり、好ましくは18%〜45%であり、更に好ましくは23%〜35%である。被覆率が高すぎると複合多孔質フィルムの通気性が損なわれ、被覆率が低すぎるとメルトダウンを防止するというポリイミド層の効果が発揮されない。
【0033】
上記ポリイミド層が存在する領域は、多孔質膜の同一表面上において、二次元的に連続して存在するように形成されていることが好ましい。本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして使用したとき、ポリイミド層は、メルトダウンを防止してセパレータ全体の形状を維持する役割をするからである。
【0034】
図1に、本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。図1(b)(図1(a)のX−X断面図)に示すように、複合多孔質フィルム20は、多孔質膜21とその表面に形成されたポリイミド層22を有する。また、図1(a)の平面図に示すように、ポリイミド層22は、多孔質膜21上に、二次元的に連続して広がって存在して、分離されていない。また、多数の開口部23がポリイミド層22に設けられ、開口部23から多孔質膜21が表面に露出する。これにより複合多孔質フィルム20が、全体として、通気性を有するようになる。
【0035】
各開口部は、多孔質膜のメルトダウンを防止できるように、その大きさおよび形状が決められるが、開口部に露出する多孔質膜表面の任意の点が、ポリイミド層から、100μmを超えて離れないことが好ましい。これは、多孔質膜表面の点が、開口部周囲のポリイミド層から最大でも100μm以下の距離内にあることを意味する(この距離を以下、「最大近接距離」という。)。この最大近接距離は、より好ましくは50μm以下である。最大近接距離は、通常、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上である。
【0036】
最大近接距離は、開口部が図1に示すような正方形であれば、1辺の長さの1/2であり、開口部が円であれば半径、長方形であれば短辺の1/2、楕円形であれば短軸の1/2、三角形であれば内接円の半径の距離に対応する。
【0037】
また、開口部と開口部の間に存在するポリイミド層が細すぎると、ポリイミド層の強度にも影響するので開口部と開口部の間の線幅は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは 5μm以上であり、通常150μm以下、より好ましくは80μm以下である。
【0038】
従って、ポリイミド層は、最大近接距離が上記の範囲を満たし、開口部と開口部の間の線幅が上記の範囲を満たし、被覆率が上記の範囲を満たすように、多数の開口部を有することが好ましい。さらにポリイミド層の強度の観点からも、開口部が規則的に繰り返される連続パターンとなり、その結果、多数の開口部がポリイミド層の全体に均一に繰り返しパターンとして分布し、ポリイミド層がバランスよく存在することが好ましい。
【0039】
開口部の形状として、正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、それ以上の多角形、円、楕円、その他の曲線で囲まれる形状が挙げられるが、正方形、長方形、三角形、六角形、円が好ましく、特に、正方形、長方形(長辺/短辺が好ましくは4以下、より好ましくは3以下)、正三角形、正六角形が所定の間隔を隔てて最密充填様式で、繰り返すパターンが好ましい。最密充填様式の具体的なパターンとしては、正方形については、例えば図1に示すパターンであり、正三角形については例えば図2、正六角形については例えば図3に示すパターンである。
【0040】
本発明の複合多孔質フィルムの膜厚みは、特に限定されないが、4〜300μm、好ましくは10〜100μm、更に好ましくは10〜50μmである。膜厚みが薄すぎると、メルトダウン防止効果が不十分となり、膜厚みが厚すぎると電池セパレータとして使用したとき、電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0041】
また、本発明の複合多孔質フィルムにおいて、特に限定されないが、ポリイミド層の厚みは、好ましくは0.5μm〜50μmであり、より好ましくは1μm〜10μmであり、更に好ましくは1μm〜5μmである。ポリイミド層が薄すぎるとメルトダウン防止効果が不十分となり、厚すぎると電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0042】
本発明の複合多孔質フィルムのガーレー値は、特に限定されないが、10〜1000秒/100cc、好ましくは 10〜800秒/100cc、更に好ましくは 30〜600秒/100ccである。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低すぎると電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。
【0043】
本発明の複合多孔質フィルムにおいて、電池用セパレータとしての機能を確保するため、後述する熱閉塞温度は、120℃〜140℃であることが好ましく、後述する破膜温度は、200℃以上であることが好ましく、200℃における耐熱時間が10分以上であることが好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。
【0044】
次に、上記複合多孔質フィルムに用いるポリイミドと多孔質膜について詳しく説明する。
【0045】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、電池における内部短絡発生時の安全性確保の観点より、210℃以上の融点を有することが好ましい。さらに、本発明の複合多孔質フィルムの製造においては、後述するように多孔質膜の表面に、ポリイミド溶液を塗布する工程を含むことから、用いるポリイミドは溶媒に可溶性であることが好ましい。
【0046】
本発明に用いるポリイミドは公知の方法で製造することができる。具体的には、
(1)酸成分とジアミン成分とを溶媒中で加熱脱水する方法、または、
(2)酸成分とジアミン成分とからポリイミド前駆体を製造し、ポリイミド前駆体を脱水剤を用いてイミド化するか、ポリイミド前駆体をさらに加熱してイミド化する方法により製造することができる。
【0047】
酸成分及びジアミン成分は公知のものを用いることができる。
【0048】
酸成分としては、
ピロメリット酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3’,2,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン―3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等を挙ることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0049】
特に酸成分として、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から選ばれるテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。より好ましくはs−BPDAを含み、必要によりa−BPDA、BTDA、ピロメリット酸二無水物等を含むものである。
【0050】
ジアミン成分としては、
p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン(TDA)、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4、4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3
−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0051】
ジアミン成分としては、上記芳香族ジアミン以外に、脂肪族系、脂環式系、シリコン含有のジアミンなどのジアミンを、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。
【0052】
さらに、ジアミンの代わりにまたはジアミンと共に、上記ジアミン化合物から誘導されるジイソシアネート化合物を使用することもできる。以下の記載において、これらジイソシアネート化合物もジアミン成分に含まれるものとして記載する。
【0053】
ジイソシアネート化合物としては、脂肪族又は芳香族の各種ジイソシアネートが挙げられ、入手しやすいものとして下記のものが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9−ノナメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート等のアルカンジイソシアネートや、
【0054】
1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート等のシクロアルカンジイソシアネートや、
【0055】
2,2’−ジエチルエーテルジイソシアネート、2,2’−ジエチルスルフィドジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート−ビウレット体、2−イソシアノエチルチオ−1,3−イソシアノプロパンや、イソホロンジイソシアネート、1,4−ジチアン−2,5−ジイソシアネート、テトラヒドロチオフェン−2,5−ジイソシアネート等のヘテロ原子を有するシクロアルカンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
また、芳香族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、3,3’−メチレンジトリレン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
上記ジアミン成分のうち、特に、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,4−ジアミノトルエン(TDA)を用いることが好ましい。
【0058】
酸成分とジアミン成分の好ましい組合せの一例としては、a−BPDAとTPE−R、a−BPDA・s−BPDAの混合物とTDI、BTDAとTDI等が挙げられる。
【0059】
ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対する酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜40重量%程度、好ましくは5〜20重量%にするのが好適である。
【0060】
ポリイミドを調製するときの有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ポリイミド調整溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子や有機微粒子などの微粒子などを加えてもよい。
【0062】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ジアミン成分のアミノ基数(ジイソシアネート化合物の場合は、イソシアネート基)に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0063】
また、化学イミド化を意図する場合には、通常、脱水閉環剤と有機アミンを組み合わせた化学イミド化剤をポリイミド前駆体溶液中に含有させる。脱水閉環剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、および無水シュウ酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水吉草酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸二無水物等の酸無水物が挙げられ、有機アミンとしては、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明に用いるポリイミドを溶解する溶媒としては、ポリイミドを20〜60質量%、より好ましくは30〜56質量%、さらに好ましくは36〜50質量%溶解できる溶媒が好ましい。具体的には、例えば、フェノ−ル、クレゾ−ル、キシレノ−ル、ベンゼン環に2個の水酸基を有するカテコ−ル、レゾルシンなどのカテコ−ル類、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、3−ブロモフェノ−ル、4−ブロモフェノ−ル、2−クロロ−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノ−ル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類、スルホラン、γ−ブチロラクトンなどのケトン類、ジグライム、トリグライムなどのエーテル類などから適宜選択して用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いることが簡便で好ましいが、必要なら2種以上を併用してもよい。
【0065】
<多孔質膜>
本発明に用いる多孔質膜は、特に制限されないが、本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、セパレータの熱閉塞温度は、高すぎると内部短絡発生時の安全性確保が困難になり、低すぎると通常使用範囲での温度領域で無孔化する可能性があるため電池の利便性を損なう。このため、電池の特性、使用環境に合わせて設定されるが、特定の用途において熱閉塞温度は130〜140℃となるように設定されることが好ましい。また、本発明の複合多孔質フィルムを用いたセパレータの破膜温度は、従来の多孔質膜のみからなるセパレータの温度を上回るが、高い温度まで無孔化を維持するには、多孔質膜単独でも、170℃以上の無孔化維持温度を有することが好ましい。
【0066】
このような特性を満たすために、本発明の多孔質膜は、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、好ましくは積層多孔質膜であり、好ましくは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層と120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層とを有する。
【0067】
多孔質膜は、好ましくはポリオレフィン系材料から構成される。150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリプロピレン(PP)で形成され、120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリエチレン(PE)で形成されることが好ましい。最も好ましくは、PP/PE/PPの順に積層された多孔質膜である。また、多孔質膜は、該ポリオレフィン系材料が積層された不織布であってもよい。
【0068】
多孔質膜の膜厚みは、使用される電池の種類にもよるが、3〜300μmであり、10〜100μmが好ましく、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0069】
また、多孔質膜は、製造条件によっても多少異なるが、適切な通気度(ガス透過速度)を有することが必要であり、ガーレー値は10〜1000秒/100ccであることが好ましく、10〜800秒/100ccであることがより好ましく、30〜600秒/100ccであることが更に好ましい。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。。
【0070】
多孔質膜を電池セパレータとして用いる場合には、電池セパレータとしての性能を損なわない程度において、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤等に代表される樹脂添加剤、接着剤及び無機物からなる補強剤が含まれても良い。
【0071】
本発明に用いられる多孔質膜の製造方法は、特に限定されないが、ポリオレフィン積層多孔質膜の場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特開平7−307146号公報または特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。
【0072】
<複合多孔質フィルムの製造方法>
本発明の複合多孔質フィルムは、上記ポリイミド溶液を多孔質膜の少なくとも片面に塗布した後、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬することにより得ることができる。ポリイミドは、重合して得られる溶液をそのまま用いても良く、重合溶液からポリイミドを沈殿させて得られるポリイミド粉体を溶媒に溶解して用いても良い。
【0073】
ポリイミド溶液の塗布パターンと得られるポリイミド層のパターンが一致するので、ポリイミド溶液の塗布方法としては、ポリイミド溶液を、前述のポリイミド層のパターン状に塗布できる方法であれば特に限定されない。前述のとおり、多孔質膜上で二次元的に連続するパターン状が好ましいことから、グラビアコート法、スクリーン印刷法、噴霧法等が挙げられる。工業的には、ロール・ツー・ロール方式で連続的に塗布できる方法が好ましい。特にグラビアコート法は、印刷ロールを使用することで、多孔質膜に連続したパターンを、均一に連続して容易にロール・ツー・ロール方式で製造できるため、より好ましい。
【0074】
グラビアコートを用いる場合は、グラビア版プレートのデザインがポリイミド層の模様を決める主因子となるが、必ずしもグラビア版模様がそのまま転写される必要は無い。すなわち、一般的なグラビア彫刻プレートを用いても転写される際の溶液のにじみ、転写後の溶液の流動、凝固浴での析出時の流動などによりポリイミド層が二次元的に連結することで連続層を形成しても良い。
【0075】
また、溶液が多孔膜に転写された後に凝固浴中で溶媒抽出される際に体積収縮を起こす為に、グラビア版デザインから単純には最終的なポリイミド層の被覆率が見積もれないことにも留意して版デザインを行うことが必要である。
【0076】
さらに、ポリイミド溶液のグラビア版凹部への浸入度合いは、溶液粘度、溶液の塗布条件により変化するが、この現象を利用してグラビア版凹部への溶液浸入度合いを合えて低めにすることで、被覆ポリイミド層の被覆率をグラビアデザインの寸法から見積もれる被覆率より低く抑えることも必要に応じて達成出来る。
【0077】
ポリイミド溶液が塗布された多孔質膜をポリイミドの貧溶媒を主成分とする凝固浴に浸漬することで溶液中の溶媒を抽出しポリイミドを多孔質膜上に固化析出し、その後乾燥させる。ポリイミドの貧溶媒としては、ポリイミドを塗布するときに使用した溶媒と相溶することが好ましく、例えば、水、アルコール(炭素数3〜8のアルコールの1価のアルコール、エチレングリコールのいずれかが好ましい)、アセトン等が挙げられ、水溶液を使用するときは、水成分が40重量%以上であることが好ましい。
【0078】
一般的にポリイミド溶液を貧溶媒に浸漬するとポリイミドが固化析出する際に多孔質構造を形成する。この多孔質化を避ける方法としては、
(1)凝固浴成分に水を用いる。
(2)ポリイミド溶液を塗布し、十分な時間を置いた後に凝固浴に浸漬する。
(3)凝固浴浸漬時間を短時間にすることでポリイミド中に適当な量の残存溶媒を残した状態で加熱乾燥する。
などがあり、適時これらの方法を組み合わせて用いることで、多孔質化を抑制することが出来る。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
<ポリイミド溶液の粘度測定>
後述する参考例において、ポリイミド溶液の粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)参考例で調製したポリイミド溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製、高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式、コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリアミック酸溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、さらに2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
【0081】
<参考例1>:ポリイミド溶液の準備
撹拌機を備えた反応容器中に12.59gの3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、80gのN-メチルピロリドン(NMP)、0.77gの水、0.08gの1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)を加え、120℃で1時間撹拌した。次いで5.44g(0.8モル部)のトルエンジイソシアネート(TDI)、1.96g(0.2モル部)の4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)を滴下し、120℃で2時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。
【0082】
作製したポリイミド溶液10gに対し等重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液を調製した。溶液粘度は260ポイズであった。
【0083】
<参考例2>
撹拌機を備えた反応容器中に2.512gの2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、10.05gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、80gのNMP、0.77gの水、0.08gの2MZを加え、120℃で1時間撹拌した。次いで7.44gのTDIを滴下し、120℃で1時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。
【0084】
作製したポリイミド溶液10gに対し、等重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液調製した。溶液粘度は300ポイズであった。
【0085】
<参考例3>
撹拌機を備えた反応容器中に10.03gのa-BPDA、9.969gの1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、80gのNMPを加え、50℃で1.5時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で8時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。溶液粘度は240ポイズであった。
【0086】
作製したポリイミド溶液10gに対し、等量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液調製した。
【0087】
<参考例4>:ポリイミド溶液の準備
撹拌機を備えた反応容器中に12.59gの3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、80gのN-メチルピロリドン(NMP)、0.77gの水、0.08gの1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)を加え、120℃で1時間撹拌した。次いで5.406g(0.795モル部)のトルエンジイソシアネート(TDI)、1.96g(0.2モル部)の4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)を滴下し、120℃で2時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。溶液粘度は550ポイズであった。
<参考例5>
作製したポリイミド溶液10gに対し1.5倍の重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液を調製した。溶液粘度は25ポイズであった。
【0088】
<複合多孔質フィルムの性能評価>
以下の実施例において、得られた複合多孔質フィルムの膜厚、ガーレー値、加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度は以下の方法によって評価を行った。
【0089】
(1)膜厚
接触式厚み計(ピーコック製)により測定した。
【0090】
(2)ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締め付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し透気度(ガーレー値)とした。
【0091】
(3)加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度
自製の電気抵抗測定用セル(図4)を用いて、加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度を測定した。試料はジメトキシエタン/プロピレンカーボネートの1:1(vol/vol)(以下、DEC/PC)混合液に過塩素酸リチウムを溶解して1M/Lに調製した非水電解液に浸して脱気し、該非水電解液を微多孔中に含ませた。この試料をニッケル製電極3と4の間に挟み込み、測定用セル内にセットして、加熱前抵抗値を測定した。次いでオーブン中で10℃/minの速度で昇温を行った。電極間の電気抵抗は日置電気(株)製3520LCR HiTESTERを用いて測定した。測定は室温から行い、抵抗値が1000Ω以上になる温度を熱閉塞温度、熱閉塞温度を超えて、再び抵抗値が100KΩを2度下回る温度を破膜温度とした。
【0092】
(4)水接触角(度)
接触角測定装置(KRUSS製)を用い測定を行った。試料表面に3μLの水滴を滴下し、そのときの試料表面と液滴のなす角度を滴下から1分間10秒毎に測定し、平均を水接触角とした。
【0093】
(5)炭酸プロピレン(以下、PC)接触角(度)
接触角測定装置(KRUSS製)を用い測定を行った。試料表面に3μLのPC液滴を滴下し、そのときの試料表面と液滴のなす角度を滴下から1分間10秒毎に測定し、平均をPC接触角とした。
【0094】
(6)200℃耐熱時間(分)
光学顕微鏡(キーエンス製、VH−Z75)ステージ上にサンプル加熱セル(LinKAM製、HFS−91)を取付け、ホットステージ顕微鏡とした。直径22mmの円形カバーガラス、直径5mmの孔を開けたテフロン(登録商標)シート、TD2mm×MD8mmに切り出した試料サンプルの順に重なるように耐熱性粘着テープ(住友スリーエム製、ポリイミドテープ5413)で固定し、耐熱性試験サンプルを作製した。その際、試料サンプル中央が孔中心上になるように試料サンプルのMD方向両端5mmを固定した。該耐熱性試験サンプルをサンプル加熱セル中央部に設置し、25℃から200℃まで100℃/分で加熱し、200℃到達後、30分間温度をキープした。試料サンプル両端が観察視野に入るようにして、試料サンプルの径時変化を観察した。その際、200℃温度キープを始めたところから観察視野中に欠損を確認するまでの時間を200℃耐熱時間とした。
【0095】
(7)観察
得られた膜の表面は光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、ポリイミド層の模様と非多孔/多孔の確認を行った。また、必要に応じてフィルム断面のSEM観察も行った。
【0096】
(8)ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)
(7)で撮影した表面の光学顕微鏡写真を画像処理することで計測した。
【0097】
以下の実施例および比較例において製造したフィルムの性能評価を表1および表2に示す。
【0098】
<実施例1>
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層セパレータ(宇部興産(株)製、膜厚16μm、ガーレー値290秒/100ml)をポリイミドフィルム(宇部興産(株)製、膜厚75μm)に貼り付け、被印刷積層体を作製した。該積層体をグラビアコーターのロール部にセットした。参考例1により調製したポリイミド溶液を10mlドクターブレード直近に滴下し、175線/インチ彫刻プレート(共にRK Print Coat Instruments Ltd.製)を使用し、ポリイミド溶液を塗布した。
【0099】
該積層体をNMP3wt%含む水浴に15秒間、次いでNMP1wt%含む水浴に30秒間浸漬した。その後80℃に設定した恒温槽で3分間乾燥を行った。乾燥後、該積層体からポリイミドフィルムを取り除き、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。
【0100】
製造した複合多孔質フィルムの熱閉塞化の温度特性の挙動を図5に示す。複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図6Aおよび図6Bに示す。さらに、SEMによる観察により、ポリオレフィン製多孔質膜上を被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した(図6C)。また、製造した複合多孔質フィルム断面のSEM観察により、PI層とポリオレフィン層が密着していることを確認した(図6D)。
【0101】
<実施例2>
使用するポリイミド溶液を参考例2により調製したポリイミド溶液とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図7Aおよび図7Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0102】
<実施例3>
使用するポリイミド溶液を参考例3により調製したポリイミド溶液とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図8Aおよび図8Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0103】
<実施例4>
使用する印刷プレートを100μm×100μmの凸部が等間隔(50μm)に並ぶ模様を持つ自製の印刷版とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。該印刷プレートの平面図と断面の模式図を図9に示す。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図10Aおよび図10Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0104】
<実施例5>
使用する印刷プレートを直径260μmの円状凸部が等間隔に並ぶ模様を持つ自製の印刷版とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。該印刷プレートの平面図と断面の模式図を図11に示す。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡による観察結果を図12に示す。
【0105】
<実施例6>
使用する溶液を参考例4で作製したものを用いる以外は実施例5と同様の操作を行い、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡による観察結果を図13に示す。
【0106】
<実施例7>
実施例6と同様にして得たポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムのポリオレフィン製多孔質膜の非塗布面に対しても実施例6と同様の操作を行い、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムにおいて、先にポリイミド層により被覆された表面および後から被覆されたもう一方の表面の光学顕微鏡による観察結果をそれぞれ図14Aおよび図14Bに示す。後からSEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0107】
<比較例1>
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層セパレータ(宇部興産(株)製、膜厚16μm、ガーレー値290秒/100ml)について、実施例1同様の性能評価を行った。
【0108】
<比較例2>
使用する溶液を参考例5で作製したものを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、複層フィルムを得た。光学顕微鏡観察により、ポリイミド層のマクロな模様が、ポリイミド溶液の流動によると思われる不均質構造であることを確認した(図15A)。また、SEM観察により被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔がある箇所と無い箇所が混在しており、不均質構造であることを確認した(図15B、図15C)。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のセパレータは、安全性が高く、且つ電解液の吸液速度が向上している。このため、電池用、例えばリチウムイオン二次電池用のセパレータとして、有利に使用される。
【符号の説明】
【0112】
1 トップケース(アルミニウム製)
2 トップ集電体(ステンレス製)
3 トップ電極(ニッケル製)
4 ボトム電極(ニッケル製)
5 ボトム集電体(ステンレス製)
6 ボトムケース(テフロン製)
7 スペーサ(テフロン製)
8 セパレータ(試料)
9 六角穴付きボルト
10 蝶ナット
11 カラー(黄銅)
12 スプリング(SUS)
20 複合多孔質フィルム
21 多孔質膜
22 ポリイミド層
23 開口部
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池内において、正・負極を隔離させ電解液内の電解質あるいは特定のイオンを選択的に透過させる隔膜として利用される多孔質フィルムの製造方法、多孔質フィルム、および該多孔質フィルムを使用した電池用セパレータや電解コンデンサー隔膜に関する。
【背景技術】
【0002】
小型、軽量、高エネルギー密度などの特徴を活用し、2次電池はモバイル電子機器やハイブリット自動車・電気自動車等への幅広い展開が期待されている。2次電池の中でも最も高エネルギー密度を有するリチウム2次電池は、Liイオンを含有する遷移金属との複合酸化物からなる正極、Liイオンを吸着・脱離する炭素系材料から構成される負極、Liイオン系電解質と有機溶剤からなる電解液、正・負極を隔離するセパレータから構成される。
【0003】
ここで、電池用セパレータに求められる特性は、
(1)正負極を直接接触させないように隔離すること
(2)回路内の部分短絡時に生ずる過電流時の電池回路を遮蔽(シャットダウン)すること
(3)電解液を保持した状態では、良好な電解質・イオン透過を有すること
(4)化学的・電気的・力学的安定性を有すること
等が挙げられる。
【0004】
特に、シャットダウン機能は電池回路が暴走することを防止する役目として、電池使用時の安全性を高める為にも重要である。セパレータの材料として主に使用されるポリオレフィン製微多孔膜は、電気回路の短絡時に発生する熱温度上昇により、溶融現象を誘起し、その結果、微多孔が閉塞することにより、シャットダウン機構を果たしている。
【0005】
さらに、シャットダウン後のセパレータの形状保持も重要となる。これは、微孔閉塞後も溶融化が進行すると、セパレータ全体の形状が失われてしまう(メルトダウン)ことになり、電極の短絡が発生する危険性を誘発することを防ぐ為である。
【0006】
当問題を解決するために、2次電池用セパレータ材料として、シャットダウン機能と形状保持機能を分担させた、高融点材料と低融点材料の複合材料がいくつか提示されている。
【0007】
例えば、特許文献1には、ポリアクリレート繊維由来の不織布とポリエチレンフィルムからなる積層体に対して加熱圧着することで得られる複合体シートが提示されているが、基材であるポリオレフィン製微多孔膜がフレキシブル性に富む低融点材料であるため、加熱、圧着により、基材の多孔性が失われ、通気性が悪化することが多い。
【0008】
特許文献2には、無機微粒子、バインダー、溶液からなるスラリーをポリオレフィン上に塗布、乾燥させること得られる複合多孔質膜が提示されているが、スラリーにおける無機微粒子の凝集性から均一な塗布が困難である。
【0009】
また、上記複合材料においては、高融点材料と低融点材料の面接触による低耐久性や界面抵抗の更なる上昇が生じる可能性という問題もあり、これら問題点をすべて解決するには至っていない。
【0010】
特許文献3にはスクリーン、グラビアロール印刷法により、ポリイミド系樹脂溶液を塗布し、その後当該樹脂に貧なる溶媒に浸漬、乾燥することによって得られる複合多孔質膜が提示されているが、ポリイミド系樹脂による膜が多孔膜であるため、機械的強度の面から改良の余地がある。また、多孔質化するプロセス条件によりポリイミド系樹脂多孔質層の多孔質構造、如いては通気性が敏感に変化する為に、工業的に安定生産する為には高度な工程管理が必要となることが大きな課題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2009−248357号公報
【特許文献2】特開2000−30686号公報
【特許文献3】特開2006−155914号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、シャットダウン機能と耐熱形状保持機能を併せ持ち、かつ通気性、フィルム安定性・表面平滑性等のフィルム材質及び充放電特性、耐久性等のフィルム使用特性を損なうことのない、複合多孔質フィルムの製造方法及び複合多孔質フィルムを簡便に、さらに安定的に提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1.ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、
該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、
前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とする複合多孔質フィルム。
【0014】
2.前記ポリイミド層の前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとして存在していることを特徴とする上記1記載のフィルム。
【0015】
3.前記ポリイミド層の厚みが0.5〜50μmであることを特徴とする上記1または2に記載のフィルム。
【0016】
4.前記多孔質膜の同一表面上において、ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)が、10%以上70%以下であることを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載のフィルム。
【0017】
5.前記多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする上記1〜4のいずれかに記載のフィルム。
【0018】
6.上記1〜5のいずれかに記載の複合多孔質フィルムの製造方法であって、
(工程a)ポリイミド溶液を、前記多孔質膜の少なくとも片面に、表面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に塗布する工程と、
(工程b)工程aで得られたポリイミド溶液が塗布された多孔質膜を、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする複合多孔質フィルムの製造方法。
【0019】
7.前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液を、前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとなるようなパターン状に塗布することを特徴とする上記6記載の方法。
【0020】
8.前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液の塗布を、グラビアコート法またはスクリーン印刷法により行うことを特徴とする上記6または7に記載の方法。
【0021】
9.前記ポリイミドの貧溶媒浴が、水成分が40重量%以上の水溶液であることを特徴とする上記6〜8のいずれかに記載の方法。
【0022】
10.工程aにおいて用いる前記多孔質膜の膜厚みが3〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする上記6〜9のいずれかに記載の方法。
【0023】
11.上記6〜10のいずれかに記載の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【0024】
12.破膜温度が200℃以上であることを特徴とする上記11記載の電池用セパレータ。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、良好な通気性を有する複合多孔質フィルムを容易に得ることができる。得られた複合多孔質フィルムは、蓄電池用セパレータとして用いることが可能であり、ポリイミド層を有することによりポリオレフィンのみから成るセパレータより高い耐熱性を発揮するので、蓄電池の安全性を高めることが出来る。また、電解液などの液体に対する親和性が高まるので、セパレータに用いる際には電池の組立工程における電解液注入性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図2】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図3】本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。
【図4】複合多孔質フィルムの電気抵抗値の測定において使用した装置図である。
【図5】実施例1の複合多孔質フィルムの熱閉塞化の温度特性を示す図である。
【図6A】実施例1の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図6B】実施例1の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図6C】実施例1複合多孔質フィルムの表面のポリイミド塗布部と未塗布部の境界をSEMにより観察した図である(左側が未塗布部)。
【図6D】実施例1複合多孔質フィルムの断面をSEMにより観察した図である。
【図7A】実施例2の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図7B】実施例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図8A】実施例3の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図8B】実施例3の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図9】実施例4において使用した印刷プレートの平面図と断面の模式図を示す。
【図10A】実施例4の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図10B】実施例4の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図11】実施例5において使用した印刷プレートの平面図と断面の模式図を示す。
【図12】実施例5の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図13】実施例6の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図14A】実施例7の複合多孔質フィルムにおいて、先にポリイミド層を塗布した表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図14B】実施例7の複合多孔質フィルムにおいて、後でポリイミド層を塗布した表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図15A】比較例2の複合多孔質フィルムの表面を光学顕微鏡により観察した図である。
【図15B】比較例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【図15C】比較例2の複合多孔質フィルムの表面をSEMにより観察した図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0028】
<複合多孔質フィルム>
本発明の複合多孔質フィルムは、通気性のある多孔質膜と、この多孔質膜の少なくとも一方の面に積層されたポリイミド層を有し、多孔質膜の同一表面上にポリイミド層がポリイミド層が存在する領域とポリイミド層が存在しない領域を有するように形成される。即ち、ポリイミド層は、多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されている。
【0029】
ポリイミド層は、多孔質膜の片面に形成されていればよいが、用途によっては、多孔質膜の両面にポリイミド層が形成された構造等であってもよい。
【0030】
本発明において、上記ポリイミド層が存在する領域上の、該ポリイミド層を形成する部分は、貫通孔を有しない非多孔であること、即ちポリイミド層自体には通気性がないことを特徴とする。即ち、ポリイミド層で、通気性のある多孔質膜の全面を、開口を形成せずに覆った場合に、通気性がないことを意味する。この非多孔であるという特徴により、該複合多孔質フィルムの機械的強度が増し、ポリイミド層自体が多孔質で通気性がある場合に比べて、より薄い層で蓄電池セパレータとしての機能を発揮できる。
【0031】
一方、本発明の複合多孔質フィルムは、電池のイオン透過性の観点等から適度な通気性を有することが必要であるため、多孔質膜上でポリイミド層が存在しない領域(以下、開口部と称する)を有する。
【0032】
本発明の複合多孔質フィルムにおいて、多孔質膜上でポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)は、膜厚みにもよるが、10%〜70%であり、好ましくは18%〜45%であり、更に好ましくは23%〜35%である。被覆率が高すぎると複合多孔質フィルムの通気性が損なわれ、被覆率が低すぎるとメルトダウンを防止するというポリイミド層の効果が発揮されない。
【0033】
上記ポリイミド層が存在する領域は、多孔質膜の同一表面上において、二次元的に連続して存在するように形成されていることが好ましい。本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして使用したとき、ポリイミド層は、メルトダウンを防止してセパレータ全体の形状を維持する役割をするからである。
【0034】
図1に、本発明の複合多孔質フィルムの1例を模式的に示す。図1(b)(図1(a)のX−X断面図)に示すように、複合多孔質フィルム20は、多孔質膜21とその表面に形成されたポリイミド層22を有する。また、図1(a)の平面図に示すように、ポリイミド層22は、多孔質膜21上に、二次元的に連続して広がって存在して、分離されていない。また、多数の開口部23がポリイミド層22に設けられ、開口部23から多孔質膜21が表面に露出する。これにより複合多孔質フィルム20が、全体として、通気性を有するようになる。
【0035】
各開口部は、多孔質膜のメルトダウンを防止できるように、その大きさおよび形状が決められるが、開口部に露出する多孔質膜表面の任意の点が、ポリイミド層から、100μmを超えて離れないことが好ましい。これは、多孔質膜表面の点が、開口部周囲のポリイミド層から最大でも100μm以下の距離内にあることを意味する(この距離を以下、「最大近接距離」という。)。この最大近接距離は、より好ましくは50μm以下である。最大近接距離は、通常、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.2μm以上である。
【0036】
最大近接距離は、開口部が図1に示すような正方形であれば、1辺の長さの1/2であり、開口部が円であれば半径、長方形であれば短辺の1/2、楕円形であれば短軸の1/2、三角形であれば内接円の半径の距離に対応する。
【0037】
また、開口部と開口部の間に存在するポリイミド層が細すぎると、ポリイミド層の強度にも影響するので開口部と開口部の間の線幅は、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは 5μm以上であり、通常150μm以下、より好ましくは80μm以下である。
【0038】
従って、ポリイミド層は、最大近接距離が上記の範囲を満たし、開口部と開口部の間の線幅が上記の範囲を満たし、被覆率が上記の範囲を満たすように、多数の開口部を有することが好ましい。さらにポリイミド層の強度の観点からも、開口部が規則的に繰り返される連続パターンとなり、その結果、多数の開口部がポリイミド層の全体に均一に繰り返しパターンとして分布し、ポリイミド層がバランスよく存在することが好ましい。
【0039】
開口部の形状として、正方形、長方形、三角形、五角形、六角形、それ以上の多角形、円、楕円、その他の曲線で囲まれる形状が挙げられるが、正方形、長方形、三角形、六角形、円が好ましく、特に、正方形、長方形(長辺/短辺が好ましくは4以下、より好ましくは3以下)、正三角形、正六角形が所定の間隔を隔てて最密充填様式で、繰り返すパターンが好ましい。最密充填様式の具体的なパターンとしては、正方形については、例えば図1に示すパターンであり、正三角形については例えば図2、正六角形については例えば図3に示すパターンである。
【0040】
本発明の複合多孔質フィルムの膜厚みは、特に限定されないが、4〜300μm、好ましくは10〜100μm、更に好ましくは10〜50μmである。膜厚みが薄すぎると、メルトダウン防止効果が不十分となり、膜厚みが厚すぎると電池セパレータとして使用したとき、電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0041】
また、本発明の複合多孔質フィルムにおいて、特に限定されないが、ポリイミド層の厚みは、好ましくは0.5μm〜50μmであり、より好ましくは1μm〜10μmであり、更に好ましくは1μm〜5μmである。ポリイミド層が薄すぎるとメルトダウン防止効果が不十分となり、厚すぎると電解液の注液量が増加し、電池製造コストの増加の一因となる。
【0042】
本発明の複合多孔質フィルムのガーレー値は、特に限定されないが、10〜1000秒/100cc、好ましくは 10〜800秒/100cc、更に好ましくは 30〜600秒/100ccである。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、ガーレー値が低すぎると電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。
【0043】
本発明の複合多孔質フィルムにおいて、電池用セパレータとしての機能を確保するため、後述する熱閉塞温度は、120℃〜140℃であることが好ましく、後述する破膜温度は、200℃以上であることが好ましく、200℃における耐熱時間が10分以上であることが好ましく、30分以上であることがさらに好ましい。
【0044】
次に、上記複合多孔質フィルムに用いるポリイミドと多孔質膜について詳しく説明する。
【0045】
<ポリイミド>
本発明に用いるポリイミドは、電池における内部短絡発生時の安全性確保の観点より、210℃以上の融点を有することが好ましい。さらに、本発明の複合多孔質フィルムの製造においては、後述するように多孔質膜の表面に、ポリイミド溶液を塗布する工程を含むことから、用いるポリイミドは溶媒に可溶性であることが好ましい。
【0046】
本発明に用いるポリイミドは公知の方法で製造することができる。具体的には、
(1)酸成分とジアミン成分とを溶媒中で加熱脱水する方法、または、
(2)酸成分とジアミン成分とからポリイミド前駆体を製造し、ポリイミド前駆体を脱水剤を用いてイミド化するか、ポリイミド前駆体をさらに加熱してイミド化する方法により製造することができる。
【0047】
酸成分及びジアミン成分は公知のものを用いることができる。
【0048】
酸成分としては、
ピロメリット酸二無水物、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、2,3’,2,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、オキシジフタル酸二無水物、ジフェニルスルホン―3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルフィド二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、p−フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、p−ビフェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)、m−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、p−ターフェニル−3,4,3’,4’−テトラカルボン酸二無水物、1,3−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ベンゼン二無水物、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシフェノキシ)ビフェニル二無水物、2,2−ビス〔(3,4−ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物等を挙ることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0049】
特に酸成分として、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a−BPDA)、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s−BPDA)、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)から選ばれるテトラカルボン酸二無水物を含むことが好ましい。より好ましくはs−BPDAを含み、必要によりa−BPDA、BTDA、ピロメリット酸二無水物等を含むものである。
【0050】
ジアミン成分としては、
p−フェニレンジアミン、o−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン(TDA)、3,3’−ジクロロベンジジン、3,3’−ジメチルベンジジン、2,2’−ジメチルベンジジン、3,3’−ジメトキシベンジジン、3,3’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、3,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジクロロベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、3,3’−ジアミノジフェニルスルホキシド、3,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、4,4’−ジアミノジフェニルスルホキシド、1,3−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(3−アミノフェニル)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニル)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、1,4−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)−4−トリフルオロメチルベンゼン、3,3’−ジアミノ−4−(4−フェニル)フェノキシベンゾフェノン、3,3’−ジアミノ−4、4’−ジ(4−フェニルフェノキシ)ベンゾフェノン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルフィド)ベンゼン、1,3−ビス(3−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェニルスルホン)ベンゼン、1,3−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(3−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、1,4−ビス〔2−(4−アミノフェニル)イソプロピル〕ベンゼン、3,3’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、3,3’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕エーテル、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕ケトン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルフィド、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕メタン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕プロパン、2,2−ビス〔3−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔3−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(3−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3
−ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス〔4−(4−アミノフェノキシ)フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン等の芳香族ジアミンを挙げることができる。これらは単独でも、2種以上混合しても用いることができる。
【0051】
ジアミン成分としては、上記芳香族ジアミン以外に、脂肪族系、脂環式系、シリコン含有のジアミンなどのジアミンを、本発明の特性を損なわない範囲で用いることができる。
【0052】
さらに、ジアミンの代わりにまたはジアミンと共に、上記ジアミン化合物から誘導されるジイソシアネート化合物を使用することもできる。以下の記載において、これらジイソシアネート化合物もジアミン成分に含まれるものとして記載する。
【0053】
ジイソシアネート化合物としては、脂肪族又は芳香族の各種ジイソシアネートが挙げられ、入手しやすいものとして下記のものが挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、1,3−トリメチレンジイソシアネート、1,4−テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、1,9−ノナメチレンジイソシアネート、1,10−デカメチレンジイソシアネート等のアルカンジイソシアネートや、
【0054】
1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、水添化キシリレンジイソシアネート等のシクロアルカンジイソシアネートや、
【0055】
2,2’−ジエチルエーテルジイソシアネート、2,2’−ジエチルスルフィドジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート−ビウレット体、2−イソシアノエチルチオ−1,3−イソシアノプロパンや、イソホロンジイソシアネート、1,4−ジチアン−2,5−ジイソシアネート、テトラヒドロチオフェン−2,5−ジイソシアネート等のヘテロ原子を有するシクロアルカンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0056】
また、芳香族ジイソシアネートとして、具体的には、例えば、p−フェニレンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、3,3’−メチレンジトリレン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートトリメチロールプロパンアダクト、4,4’−ジフェニルエーテルジイソシアネート、テトラクロロフェニレンジイソシアネート、3,3’−ジクロロ−4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート等が挙げられる。
【0057】
上記ジアミン成分のうち、特に、トルエンジイソシアネート(TDI)、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、2,4−ジアミノトルエン(TDA)を用いることが好ましい。
【0058】
酸成分とジアミン成分の好ましい組合せの一例としては、a−BPDAとTPE−R、a−BPDA・s−BPDAの混合物とTDI、BTDAとTDI等が挙げられる。
【0059】
ポリイミド溶液の調製は、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、室温程度の低温で重合反応させてポリアミド酸を生成し次いで加熱して加熱イミド化するか又はピリジンなどを加えて化学イミド化する2段法、または、有機極性溶媒中に酸成分とジアミン成分とを所定の組成比で加え、100〜250℃好ましくは130〜200℃程度の高温で重合イミド化反応させる1段法によって好適に行われる。加熱によってイミド化反応を行うときは脱離する水またはアルコールを除去しながら行うことが好適である。有機極性溶媒に対する酸成分とジアミン成分の使用量は、溶媒中のポリイミドの濃度が5〜40重量%程度、好ましくは5〜20重量%にするのが好適である。
【0060】
ポリイミドを調製するときの有機溶媒としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどが挙げられる。これらの有機溶媒は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
ポリイミド調整溶液には、必要に応じてイミド化触媒、有機リン含有化合物、無機微粒子や有機微粒子などの微粒子などを加えてもよい。
【0062】
イミド化触媒としては、置換もしくは非置換の含窒素複素環化合物、該含窒素複素環化合物のN−オキシド化合物、置換もしくは非置換のアミノ酸化合物、ヒドロキシル基を有する芳香族炭化水素化合物または芳香族複素環状化合物が挙げられ、特に1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)、N−メチルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、5−メチルベンズイミダゾールなどの低級アルキルイミダゾール、N−ベンジル−2−メチルイミダゾールなどのベンズイミダゾール、イソキノリン、3,5−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、4−n−プロピルピリジンなどの置換ピリジンなどを好適に使用することができる。イミド化触媒の使用量は、ジアミン成分のアミノ基数(ジイソシアネート化合物の場合は、イソシアネート基)に対して0.01〜2倍当量、特に0.02〜1倍当量程度であることが好ましい。イミド化触媒を使用することによって、得られるポリイミドフィルムの物性、特に伸びや端裂抵抗が向上することがある。
【0063】
また、化学イミド化を意図する場合には、通常、脱水閉環剤と有機アミンを組み合わせた化学イミド化剤をポリイミド前駆体溶液中に含有させる。脱水閉環剤としては、例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド、および無水シュウ酸、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水吉草酸、無水安息香酸、トリフルオロ酢酸二無水物等の酸無水物が挙げられ、有機アミンとしては、ピコリン、キノリン、イソキノリン、ピリジン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0064】
本発明に用いるポリイミドを溶解する溶媒としては、ポリイミドを20〜60質量%、より好ましくは30〜56質量%、さらに好ましくは36〜50質量%溶解できる溶媒が好ましい。具体的には、例えば、フェノ−ル、クレゾ−ル、キシレノ−ル、ベンゼン環に2個の水酸基を有するカテコ−ル、レゾルシンなどのカテコ−ル類、3−クロロフェノ−ル、4−クロロフェノ−ル、3−ブロモフェノ−ル、4−ブロモフェノ−ル、2−クロロ−5−ヒドロキシトルエンなどのハロゲン化フェノ−ル類、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアミド類、スルホラン、γ−ブチロラクトンなどのケトン類、ジグライム、トリグライムなどのエーテル類などから適宜選択して用いることができる。これらの有機溶媒は単独で用いることが簡便で好ましいが、必要なら2種以上を併用してもよい。
【0065】
<多孔質膜>
本発明に用いる多孔質膜は、特に制限されないが、本発明の複合多孔質フィルムを電池用セパレータとして用いる場合、セパレータの熱閉塞温度は、高すぎると内部短絡発生時の安全性確保が困難になり、低すぎると通常使用範囲での温度領域で無孔化する可能性があるため電池の利便性を損なう。このため、電池の特性、使用環境に合わせて設定されるが、特定の用途において熱閉塞温度は130〜140℃となるように設定されることが好ましい。また、本発明の複合多孔質フィルムを用いたセパレータの破膜温度は、従来の多孔質膜のみからなるセパレータの温度を上回るが、高い温度まで無孔化を維持するには、多孔質膜単独でも、170℃以上の無孔化維持温度を有することが好ましい。
【0066】
このような特性を満たすために、本発明の多孔質膜は、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層を有し、好ましくは積層多孔質膜であり、好ましくは、150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層と120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層とを有する。
【0067】
多孔質膜は、好ましくはポリオレフィン系材料から構成される。150℃以上の融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリプロピレン(PP)で形成され、120℃〜140℃の範囲に融点を有する熱可塑性ポリマーの層は、ポリエチレン(PE)で形成されることが好ましい。最も好ましくは、PP/PE/PPの順に積層された多孔質膜である。また、多孔質膜は、該ポリオレフィン系材料が積層された不織布であってもよい。
【0068】
多孔質膜の膜厚みは、使用される電池の種類にもよるが、3〜300μmであり、10〜100μmが好ましく、さらに好ましくは10〜50μmである。
【0069】
また、多孔質膜は、製造条件によっても多少異なるが、適切な通気度(ガス透過速度)を有することが必要であり、ガーレー値は10〜1000秒/100ccであることが好ましく、10〜800秒/100ccであることがより好ましく、30〜600秒/100ccであることが更に好ましい。ガーレー値が高すぎると電池用セパレ−タとして使用したときの機能が十分でなく、電池内部の反応の不均一性が高まる危険性があり好ましくない。。
【0070】
多孔質膜を電池セパレータとして用いる場合には、電池セパレータとしての性能を損なわない程度において、着色剤、可塑剤、滑剤、難燃剤、老化防止剤、酸化防止剤等に代表される樹脂添加剤、接着剤及び無機物からなる補強剤が含まれても良い。
【0071】
本発明に用いられる多孔質膜の製造方法は、特に限定されないが、ポリオレフィン積層多孔質膜の場合、特に乾式延伸法により製造されることが好ましく、具体的には特開平7−307146号公報または特開平4−181651号公報等の公知の方法で製造することができる。
【0072】
<複合多孔質フィルムの製造方法>
本発明の複合多孔質フィルムは、上記ポリイミド溶液を多孔質膜の少なくとも片面に塗布した後、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬することにより得ることができる。ポリイミドは、重合して得られる溶液をそのまま用いても良く、重合溶液からポリイミドを沈殿させて得られるポリイミド粉体を溶媒に溶解して用いても良い。
【0073】
ポリイミド溶液の塗布パターンと得られるポリイミド層のパターンが一致するので、ポリイミド溶液の塗布方法としては、ポリイミド溶液を、前述のポリイミド層のパターン状に塗布できる方法であれば特に限定されない。前述のとおり、多孔質膜上で二次元的に連続するパターン状が好ましいことから、グラビアコート法、スクリーン印刷法、噴霧法等が挙げられる。工業的には、ロール・ツー・ロール方式で連続的に塗布できる方法が好ましい。特にグラビアコート法は、印刷ロールを使用することで、多孔質膜に連続したパターンを、均一に連続して容易にロール・ツー・ロール方式で製造できるため、より好ましい。
【0074】
グラビアコートを用いる場合は、グラビア版プレートのデザインがポリイミド層の模様を決める主因子となるが、必ずしもグラビア版模様がそのまま転写される必要は無い。すなわち、一般的なグラビア彫刻プレートを用いても転写される際の溶液のにじみ、転写後の溶液の流動、凝固浴での析出時の流動などによりポリイミド層が二次元的に連結することで連続層を形成しても良い。
【0075】
また、溶液が多孔膜に転写された後に凝固浴中で溶媒抽出される際に体積収縮を起こす為に、グラビア版デザインから単純には最終的なポリイミド層の被覆率が見積もれないことにも留意して版デザインを行うことが必要である。
【0076】
さらに、ポリイミド溶液のグラビア版凹部への浸入度合いは、溶液粘度、溶液の塗布条件により変化するが、この現象を利用してグラビア版凹部への溶液浸入度合いを合えて低めにすることで、被覆ポリイミド層の被覆率をグラビアデザインの寸法から見積もれる被覆率より低く抑えることも必要に応じて達成出来る。
【0077】
ポリイミド溶液が塗布された多孔質膜をポリイミドの貧溶媒を主成分とする凝固浴に浸漬することで溶液中の溶媒を抽出しポリイミドを多孔質膜上に固化析出し、その後乾燥させる。ポリイミドの貧溶媒としては、ポリイミドを塗布するときに使用した溶媒と相溶することが好ましく、例えば、水、アルコール(炭素数3〜8のアルコールの1価のアルコール、エチレングリコールのいずれかが好ましい)、アセトン等が挙げられ、水溶液を使用するときは、水成分が40重量%以上であることが好ましい。
【0078】
一般的にポリイミド溶液を貧溶媒に浸漬するとポリイミドが固化析出する際に多孔質構造を形成する。この多孔質化を避ける方法としては、
(1)凝固浴成分に水を用いる。
(2)ポリイミド溶液を塗布し、十分な時間を置いた後に凝固浴に浸漬する。
(3)凝固浴浸漬時間を短時間にすることでポリイミド中に適当な量の残存溶媒を残した状態で加熱乾燥する。
などがあり、適時これらの方法を組み合わせて用いることで、多孔質化を抑制することが出来る。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0080】
<ポリイミド溶液の粘度測定>
後述する参考例において、ポリイミド溶液の粘度の測定は、E型回転粘度計で行った。以下に測定手順を示す。
(i)参考例で調製したポリイミド溶液を密閉容器に入れ、30℃の恒温槽に10時間保持した。
(ii)E型粘度計(東京計器製、高粘度用(EHD型)円錐平板型回転式、コーンローター:1°34’)を用い、(i)で準備したポリアミック酸溶液を測定溶液として、温度30±0.1℃の条件で測定した。3回測定を行い、平均値を採用した。測定点に5%以上のばらつきがあった場合は、さらに2回の測定を行い5点の平均値を採用した。
【0081】
<参考例1>:ポリイミド溶液の準備
撹拌機を備えた反応容器中に12.59gの3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、80gのN-メチルピロリドン(NMP)、0.77gの水、0.08gの1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)を加え、120℃で1時間撹拌した。次いで5.44g(0.8モル部)のトルエンジイソシアネート(TDI)、1.96g(0.2モル部)の4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)を滴下し、120℃で2時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。
【0082】
作製したポリイミド溶液10gに対し等重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液を調製した。溶液粘度は260ポイズであった。
【0083】
<参考例2>
撹拌機を備えた反応容器中に2.512gの2,3,3’,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(a-BPDA)、10.05gの3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)、80gのNMP、0.77gの水、0.08gの2MZを加え、120℃で1時間撹拌した。次いで7.44gのTDIを滴下し、120℃で1時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。
【0084】
作製したポリイミド溶液10gに対し、等重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液調製した。溶液粘度は300ポイズであった。
【0085】
<参考例3>
撹拌機を備えた反応容器中に10.03gのa-BPDA、9.969gの1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE−R)、80gのNMPを加え、50℃で1.5時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で8時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。溶液粘度は240ポイズであった。
【0086】
作製したポリイミド溶液10gに対し、等量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液調製した。
【0087】
<参考例4>:ポリイミド溶液の準備
撹拌機を備えた反応容器中に12.59gの3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、80gのN-メチルピロリドン(NMP)、0.77gの水、0.08gの1,2−ジメチルイミダゾール(2MZ)を加え、120℃で1時間撹拌した。次いで5.406g(0.795モル部)のトルエンジイソシアネート(TDI)、1.96g(0.2モル部)の4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)(MDI)を滴下し、120℃で2時間撹拌した。その後トルエン20gを加え、水をトルエンとの共沸により系外に除去しながら180℃で6時間撹拌して、粘調なポリイミド溶液を作製した。溶液粘度は550ポイズであった。
<参考例5>
作製したポリイミド溶液10gに対し1.5倍の重量のNMPを加え、撹拌・希釈することで塗布用のポリイミド溶液を調製した。溶液粘度は25ポイズであった。
【0088】
<複合多孔質フィルムの性能評価>
以下の実施例において、得られた複合多孔質フィルムの膜厚、ガーレー値、加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度は以下の方法によって評価を行った。
【0089】
(1)膜厚
接触式厚み計(ピーコック製)により測定した。
【0090】
(2)ガーレー値
JIS P8117に準じて測定した。測定装置として、B型ガーレーデンソメーター(東洋精機社製)を使用した。試料片を直径28.6mm、面積645mm2の円孔に締め付ける。内筒重量567gにより、筒内の空気を試験円孔部から筒外へ通過させる。空気100ccが通過する時間を測定し透気度(ガーレー値)とした。
【0091】
(3)加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度
自製の電気抵抗測定用セル(図4)を用いて、加熱前抵抗値、熱閉塞温度、破膜温度を測定した。試料はジメトキシエタン/プロピレンカーボネートの1:1(vol/vol)(以下、DEC/PC)混合液に過塩素酸リチウムを溶解して1M/Lに調製した非水電解液に浸して脱気し、該非水電解液を微多孔中に含ませた。この試料をニッケル製電極3と4の間に挟み込み、測定用セル内にセットして、加熱前抵抗値を測定した。次いでオーブン中で10℃/minの速度で昇温を行った。電極間の電気抵抗は日置電気(株)製3520LCR HiTESTERを用いて測定した。測定は室温から行い、抵抗値が1000Ω以上になる温度を熱閉塞温度、熱閉塞温度を超えて、再び抵抗値が100KΩを2度下回る温度を破膜温度とした。
【0092】
(4)水接触角(度)
接触角測定装置(KRUSS製)を用い測定を行った。試料表面に3μLの水滴を滴下し、そのときの試料表面と液滴のなす角度を滴下から1分間10秒毎に測定し、平均を水接触角とした。
【0093】
(5)炭酸プロピレン(以下、PC)接触角(度)
接触角測定装置(KRUSS製)を用い測定を行った。試料表面に3μLのPC液滴を滴下し、そのときの試料表面と液滴のなす角度を滴下から1分間10秒毎に測定し、平均をPC接触角とした。
【0094】
(6)200℃耐熱時間(分)
光学顕微鏡(キーエンス製、VH−Z75)ステージ上にサンプル加熱セル(LinKAM製、HFS−91)を取付け、ホットステージ顕微鏡とした。直径22mmの円形カバーガラス、直径5mmの孔を開けたテフロン(登録商標)シート、TD2mm×MD8mmに切り出した試料サンプルの順に重なるように耐熱性粘着テープ(住友スリーエム製、ポリイミドテープ5413)で固定し、耐熱性試験サンプルを作製した。その際、試料サンプル中央が孔中心上になるように試料サンプルのMD方向両端5mmを固定した。該耐熱性試験サンプルをサンプル加熱セル中央部に設置し、25℃から200℃まで100℃/分で加熱し、200℃到達後、30分間温度をキープした。試料サンプル両端が観察視野に入るようにして、試料サンプルの径時変化を観察した。その際、200℃温度キープを始めたところから観察視野中に欠損を確認するまでの時間を200℃耐熱時間とした。
【0095】
(7)観察
得られた膜の表面は光学顕微鏡、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、ポリイミド層の模様と非多孔/多孔の確認を行った。また、必要に応じてフィルム断面のSEM観察も行った。
【0096】
(8)ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)
(7)で撮影した表面の光学顕微鏡写真を画像処理することで計測した。
【0097】
以下の実施例および比較例において製造したフィルムの性能評価を表1および表2に示す。
【0098】
<実施例1>
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層セパレータ(宇部興産(株)製、膜厚16μm、ガーレー値290秒/100ml)をポリイミドフィルム(宇部興産(株)製、膜厚75μm)に貼り付け、被印刷積層体を作製した。該積層体をグラビアコーターのロール部にセットした。参考例1により調製したポリイミド溶液を10mlドクターブレード直近に滴下し、175線/インチ彫刻プレート(共にRK Print Coat Instruments Ltd.製)を使用し、ポリイミド溶液を塗布した。
【0099】
該積層体をNMP3wt%含む水浴に15秒間、次いでNMP1wt%含む水浴に30秒間浸漬した。その後80℃に設定した恒温槽で3分間乾燥を行った。乾燥後、該積層体からポリイミドフィルムを取り除き、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。
【0100】
製造した複合多孔質フィルムの熱閉塞化の温度特性の挙動を図5に示す。複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図6Aおよび図6Bに示す。さらに、SEMによる観察により、ポリオレフィン製多孔質膜上を被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した(図6C)。また、製造した複合多孔質フィルム断面のSEM観察により、PI層とポリオレフィン層が密着していることを確認した(図6D)。
【0101】
<実施例2>
使用するポリイミド溶液を参考例2により調製したポリイミド溶液とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図7Aおよび図7Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0102】
<実施例3>
使用するポリイミド溶液を参考例3により調製したポリイミド溶液とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図8Aおよび図8Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0103】
<実施例4>
使用する印刷プレートを100μm×100μmの凸部が等間隔(50μm)に並ぶ模様を持つ自製の印刷版とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。該印刷プレートの平面図と断面の模式図を図9に示す。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡およびSEMによる観察結果を図10Aおよび図10Bに示す。さらに、SEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0104】
<実施例5>
使用する印刷プレートを直径260μmの円状凸部が等間隔に並ぶ模様を持つ自製の印刷版とする以外は実施例1と同様にしてポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。該印刷プレートの平面図と断面の模式図を図11に示す。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡による観察結果を図12に示す。
【0105】
<実施例6>
使用する溶液を参考例4で作製したものを用いる以外は実施例5と同様の操作を行い、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムのポリイミド層により被覆された表面の光学顕微鏡による観察結果を図13に示す。
【0106】
<実施例7>
実施例6と同様にして得たポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムのポリオレフィン製多孔質膜の非塗布面に対しても実施例6と同様の操作を行い、ポリオレフィン−ポリイミド複合フィルムを得た。製造した複合多孔質フィルムにおいて、先にポリイミド層により被覆された表面および後から被覆されたもう一方の表面の光学顕微鏡による観察結果をそれぞれ図14Aおよび図14Bに示す。後からSEM観察により、被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔が無いことを確認した。
【0107】
<比較例1>
ポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレン三層セパレータ(宇部興産(株)製、膜厚16μm、ガーレー値290秒/100ml)について、実施例1同様の性能評価を行った。
【0108】
<比較例2>
使用する溶液を参考例5で作製したものを用いる以外は実施例1と同様の操作を行い、複層フィルムを得た。光学顕微鏡観察により、ポリイミド層のマクロな模様が、ポリイミド溶液の流動によると思われる不均質構造であることを確認した(図15A)。また、SEM観察により被覆したポリイミド層の表面は0.1μm以上の直径の孔がある箇所と無い箇所が混在しており、不均質構造であることを確認した(図15B、図15C)。
【0109】
【表1】
【0110】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0111】
本発明のセパレータは、安全性が高く、且つ電解液の吸液速度が向上している。このため、電池用、例えばリチウムイオン二次電池用のセパレータとして、有利に使用される。
【符号の説明】
【0112】
1 トップケース(アルミニウム製)
2 トップ集電体(ステンレス製)
3 トップ電極(ニッケル製)
4 ボトム電極(ニッケル製)
5 ボトム集電体(ステンレス製)
6 ボトムケース(テフロン製)
7 スペーサ(テフロン製)
8 セパレータ(試料)
9 六角穴付きボルト
10 蝶ナット
11 カラー(黄銅)
12 スプリング(SUS)
20 複合多孔質フィルム
21 多孔質膜
22 ポリイミド層
23 開口部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、
該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、
前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とする複合多孔質フィルム。
【請求項2】
前記ポリイミド層の前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとして存在していることを特徴とする請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミド層の厚みが0.5〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記多孔質膜の同一表面上において、ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)が、10%以上70%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合多孔質フィルムの製造方法であって、
(工程a)ポリイミド溶液を、前記多孔質膜の少なくとも片面に、表面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に塗布する工程と、
(工程b)工程aで得られたポリイミド溶液が塗布された多孔質膜を、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする複合多孔質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液を、前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとなるようなパターン状に塗布することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液の塗布を、グラビアコート法またはスクリーン印刷法により行うことを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリイミドの貧溶媒浴が、水成分が40重量%以上の水溶液であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程aにおいて用いる前記多孔質膜の膜厚みが3〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項12】
破膜温度が200℃以上であることを特徴とする請求項11記載の電池用セパレータ。
【請求項1】
ポリイミド層と通気性のある多孔質膜を有する複合多孔質フィルムであって、
該フィルムの膜厚みが4〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであり、
前記ポリイミド層は、それ自身は通気性を有さず、前記多孔質膜の少なくとも一方の面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に形成されていることを特徴とする複合多孔質フィルム。
【請求項2】
前記ポリイミド層の前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとして存在していることを特徴とする請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
前記ポリイミド層の厚みが0.5〜50μmであることを特徴とする請求項1または2に記載のフィルム。
【請求項4】
前記多孔質膜の同一表面上において、ポリイミド層が存在する領域の割合(被覆率)が、10%以上70%以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項5】
前記多孔質膜が、ポリオレフィン製の多孔質膜および不織布から選ばれる層で形成された単層膜または多層膜であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフィルム。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合多孔質フィルムの製造方法であって、
(工程a)ポリイミド溶液を、前記多孔質膜の少なくとも片面に、表面を二次元的に覆い、かつ前記多孔質膜を表面に露出させる多数の開口を有する二次元的パターン状に塗布する工程と、
(工程b)工程aで得られたポリイミド溶液が塗布された多孔質膜を、ポリイミドの貧溶媒浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする複合多孔質フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液を、前記多数の開口が、二次元的に規則的に繰り返される連続パターンとなるようなパターン状に塗布することを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記工程aにおいて、前記ポリイミド溶液の塗布を、グラビアコート法またはスクリーン印刷法により行うことを特徴とする請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリイミドの貧溶媒浴が、水成分が40重量%以上の水溶液であることを特徴とする請求項6〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程aにおいて用いる前記多孔質膜の膜厚みが3〜300μm、通気抵抗がガーレー値で10〜1000秒/100ccであることを特徴とする請求項6〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか1項に記載の複合多孔質フィルムを用いた電池用セパレータ。
【請求項12】
破膜温度が200℃以上であることを特徴とする請求項11記載の電池用セパレータ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図10A】
【図10B】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図9】
【図11】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図6D】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図10A】
【図10B】
【図12】
【図13】
【図14A】
【図14B】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【公開番号】特開2011−216376(P2011−216376A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−84618(P2010−84618)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】
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