説明

複合成形品およびその製造方法

【課題】板状部材に貫通穴などを設けることなく射出成形金型にインサートすることができ、自由に熱可塑性樹脂を一体化することができる複合成形品の製造方法を提供する。
【解決手段】強化繊維を含む樹脂組成物からなる板状部材を製造し、射出成形金型のキャビティ内に位置決め固定した後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材を射出成形により一体化させた複合成形品の製造方法であって、前記板状部材に突起部材を予め凸設し、前記突起部材を前記キャビティの内面に設けられた凹形状部に嵌め込んで位置決めを行った後、射出成形することを特徴とする複合成形品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、強化繊維を含む樹脂組成物からなる板状部材を射出成形金型にインサートした後、分散された強化繊維で強化された熱可塑性樹脂を射出成形することで一体化させて得られる、例えば、パソコン、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、医療用品、その他電気・電子機器の部品や筐体部分として用いられる複合成形品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラス繊維や炭素繊維などで強化された繊維強化プラスチック(iber einforced lastic:FRP)がパソコンや携帯電話、デジタルカメラ、ビデオカメラ、テレビ、プロジェクタ、ゲーム機、医療分野等の電気・電子機器の部品や筐体として使用されている。特に携帯用途を目的とした電気・電子機器に対しては、薄肉・軽量化や高剛性を満足する部材として広く用いられている。
【0003】
特許文献1に示すように、FRPを携帯用途の電気・電子機器部材として用いる場合、軽量・高剛性を発揮するFRP部材に成形性、生産性の高い熱可塑部品を一体化させることで、両者の特性を引き出すことが可能となることが記載されている。一体化させる手法としては、あらかじめプレス成形などにより製造したFRP部材を所定のサイズにトリミングした後、射出成形金型にインサートし、続いて熱可塑性樹脂を射出成形することが挙げられる。
【0004】
部材を射出成形金型にインサートして、熱可塑性樹脂を射出成形し部分的に一体化する手法をアウトサート成形と呼称するが、アウトサート成形を行う場合、射出成形する前に金型に挿入した部材を特定の位置に固定しておくことが必要となる。特定の位置に固定する方法としては、特許文献2に示すように、あらかじめインサートする部材の形状に射出成形金型を彫り込んでおき、その形状にはめ込む形でインサートする手法や、特許文献3に示すように、あらかじめ板状部材に複数の貫通穴を作成し、金型に貫通穴より0.02〜0.05mm小さいピンを有する射出成形金型にはめ込む手法などが挙げられる。
【0005】
しかしながら、あらかじめ射出成形金型を彫り込んでおく手法では、射出成型時に部材の周囲が金型で押さえられることから、射出成形する熱可塑性樹脂の形状が制限され、インサートした板状部材の周縁部に熱可塑性樹脂を一体化することが難しいことや、金型の加工が難しくなるなどの問題があった。また、あらかじめ板状部材に複数の貫通穴を作成する手法では、熱可塑性樹脂を自由に一体化させることはできるが、貫通穴を開けることで板状部材の剛性が落ちることや、意匠性が悪くなるなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−140255号公報
【特許文献2】特開2008−212981号公報
【特許文献3】特開2009−202580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、板状部材に貫通穴などを設けることなく射出成形金型にインサートすることができ、自由に熱可塑性樹脂を一体化することができる複合成形品の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明は、以下の構成を採用する。すなわち、
(1)強化繊維を含む樹脂組成物からなる板状部材を製造し、射出成形金型のキャビティ内に位置決め固定した後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材を射出成形により一体化させた複合成形品の製造方法であって、前記板状部材に突起部材を予め凸設し、前記突起部材を前記キャビティの内面に設けられた凹形状部に嵌め込んで位置決めを行った後、射出成形することを特徴とする複合成形品の製造方法。
(2)前記突起部材が複数凸設されている(1)に記載の複合成形品の製造方法。
(3)前記突起部材が前記板状部材と着脱可能に設けられている(1)または(2)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(4)前記突起部材は前記板状部材との凸設部から先端部に向かって投影面積が小さくなる形状を有する(1)〜(3)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(5)前記突起部材は投影面積が同じになる部分の高さが1〜10mmの範囲にある(1)〜(4)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(6)前記板状部材には貫通穴を設けない(1)〜(5)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(7)前記板状部材が湾曲形状を持つ(1)〜(6)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(8)前記板状部材が
(a)強化繊維を含んだシート
(b)強化繊維に少なくとも炭素繊維を含んだシート
(c)一方向に配列した連続強化繊維を含んだシート
(d)一方向に配列した少なくとも炭素繊維を含む連続強化繊維を含んだシート
(e)連続強化繊維織物を含んだシート
(f)少なくとも炭素繊維を含む連続強化繊維織物を含んだシート
からなる群の中から選ばれた少なくとも1種類から構成されている(1)〜(7)のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
(9)(1)〜(8)のいずれかの製造方法で製造された複合成形品。
(10)電気・電子機器用の筐体である(9)に記載の複合成形品。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、板状部材にあらかじめ突起部材を凸設することにより、板状部材に貫通穴を設けることなくインサート時の位置決めを行うことができ、熱可塑性樹脂を一体化した意匠性に優れた複合成形品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の板状部材に突起部材を凸設した(a)体裁面側斜視図(b)裏面側斜視図である。
【図2】本発明の突起部材を凸設した板状部材を射出成形の金型にセットし、樹脂部材をアウトサート成形する模式図である。
【図3】本発明の複数有る突起部材が互いに繋がっている1つの部品一例の斜視図である。
【図4】本発明の突起部材の断面形状の一例である。
【図5】本発明の板状部材に樹脂部材を一体化した複合成形品の(a)体裁面側斜視図(b)裏面側斜視図である。
【図6】本発明の複数有る突起部材の一部に投影面積が同じになる部分を設けた部品一例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の複合成形品の製造方法について、図面を用いながら説明する。
【0012】
図1は突起部材3を凸設した板状部材1の(a)体裁面側斜視図(b)裏面側斜視図であり、図2は突起部材3を凸設した板状部材1を射出成形の金型5にセットし、板状部材1と樹脂部材2をアウトサート成形により一体化する態様を示した模式図である。
【0013】
複合成形品6の製造方法において、図1(a)に示す強化繊維を含む樹脂組成物からなる板状部材1にあらかじめ突起部材3を凸設しておくとともに(図1(b))、この板状部材1を、金型5のキャビティ内に設けられた突起部材3と対応する凹形状部にあわせて位置決め固定する。位置決め固定された板状部材1に、樹脂部材2を射出成形機4により射出成形し一体化することで、複合成形品6を得ることができるものである。
【0014】
突起部材3は着脱可能で有ることが好ましい。突起部材3を製品としてそのまま用いることが出来る場合は問題ないが、製品形状に制限が出てしまうため、樹脂部材2をアウトサート成形した後は、板状部材1から取り外しが出来ることが好ましい。板状部材1と一体で成形した場合や突起部材3と板状部材1の接着が強固な場合は、突起部材の根本付近に細い箇所を設けておき、アウトサート成形後にその箇所で折っても良い。そうすることで、突起部材3の残りの部分は最小にすることが出来る。
【0015】
突起部材3の凸設方法としては、特に限定されないものの、別部品で作成しておいた突起部材3を板状部材1に接着する方法が好適に用いられ、その他にも、あらかじめ作成しておいた突起部材3を板状部材1成形時に同時に凸設する方法、板状部材1と同材料を用いて同時に成形する方法などが挙げられる。
【0016】
突起部材3は、板状部材1のいずれか一方の片面に着脱可能に設ければよい。中でも、板状部材1の一方が電気製品等の表面として用いられる場合には、突起部材3は、板状部材1の表面とは異なる面側に設けることが好ましい。電気製品等の表面に用いられる面は、製品外観上、微細な凹凸や気泡等といった欠点が厳しく管理された意匠面とされることが多く、このような意匠面に突起部材を設けると、突起部材を取り外した後の後処理が必要になることが多くなる。したがって、意匠面とは異なる面に突起部材を設けることが好ましく、設計上、意匠面となる表面側に突起部材を設けざるを得ない場合には、後処理が不要な取付方法を用いることが好ましい。
【0017】
上記のような取付方法として、あらかじめ別部品で作成しておいた突起部材3を板状部材1に接着することが好ましい。この場合、板状部材への接着方法は特に限定されるものではなく、熱溶着やレーザー溶着、粘着テープ、接着剤による接着などが挙げられる。接着剤の種類としては、例えば、水溶接着剤、ゴム系接着剤、エポキシ系接着剤、シアノアクリル系接着剤、ビニル系接着剤、シリコーンゴム系接着剤、プラスチック系接着剤、接着テープなどが挙げられる。なかでも、取り扱いが容易で、アウトサート後の取り外しが容易なシアノアクリル系接着剤を用いることが好ましい。また、両面テープ等の粘着テープを用いて固定すると、簡易的に固定できる上に、板状部材からも容易に剥離できる点で好ましい。
【0018】
突起部材3が複雑な形状を持つ場合は、板状部材1と突起部材3を同時に成形することが難しくなることから、あらかじめ成形した突起部材3を板状部材1の成形と同時に凸設することが好ましい。あらかじめ作成しておいた突起部材3を板状部材1の成形と同時に凸設する方法としては、例えば、プレス成形やスタンピング成形などにおいて、プレス金型に突起部材3に対応する凹形状部を設けておき、成形前に突起部材3を凹部に挿入した後、板状部材1と同時に成形することで突起部材3を凸設することができる。
【0019】
また、板状部材1と同じ材料を用い、板状部材1の製造時に同時に成形する場合は、例えば、板状部材1をオートクレーブ成形で作る場合はあらかじめ板状部材1に突起部材3となる形状を賦形し、同時に成形することで突起部材を成形したり、プレス成形などを用いる場合はプレス金型にあらかじめ凹形状部を作っておくことで任意の突起部材3を成形したりすることが可能である。
【0020】
本発明の突起部材3は、射出成形時に板状部材1を金型5内で固定しておくために複数、なかでも2〜3個であることが好ましい。1個の場合、突起が円筒形状であると射出成形の際、射出圧により板状部材1が回転してしまい好ましくない。1個の場合でも、突起部材3を複雑化すれば回転を押さえることが出来るが、突起部材3の大サイズ化に伴う使用材料の増加や突起部材3に合わせた金型加工量の増加を伴うため好ましくない。本発明の突起部材3による位置決めは2個ないしは3個有れば十分である。突起部材3がそれよりも多い場合は、金型5と嵌め合わせる場所が増えるため板状部材1を金型5にインサートする際の作業性低下や、突起部材3の材料使用量増が起こるため好ましくない。
【0021】
突起部材3を複数個設ける場合には、それぞれの突起部材3の中心間距離が10〜500mmの間に有ることが好ましい。突起部材3を嵌め合わせる金型5には、嵌合しやすくするため、突起部材3の形状より少しだけ大きい凹形状部が形成されているため、そのクリアランスの影響で突起部材3の中心間距離が10mm以下の場合は、射出成形の射出圧により板状部材1が板状部材1の意匠面から見た場合の時計回りもしくは反時計回りの方向に回転しやすくなり、固定が難しくなるため好ましくない。500mm以上の場合は、突起部材3を精度良く複数個凸設することが難しくなり好ましくない。
【0022】
突起部材3を複数個設ける場合、図3に示すとおり、突起部材同士が互いに繋がっている1つの部品であっても、1つずつバラバラに取り付けられていても良い。繋がった1つの部品として用いる場合は、材料の取り扱いが容易であり突起部材間の位置精度が良くなる。繋がっていない場合は、突起部材3に用いる材料使用量を減らすことができ、部品形状を簡略化出来ることから好ましい。
【0023】
図4には、突起部材3の断面形状の一例を示す。断面形状としては、特に限定されるものではないが、3−(a)〜3−(h)に示すような単純な形状であると、それに対応する金型5に凹形状部を加工することが容易になることからも好ましい。なかでも図4の3−(a)、3−(b)は金型5に加工する形状が円形状で済むことから加工が容易となり、より好ましい。突起部材を複数個使用する場合は、3−(e)〜3−(h)に示すような異形形状を適宜組み合わせて用いることで、板状部材上に凸設する部位により突起部材を取り違えることが無く好ましい。
【0024】
突起部材3は、板状部材1と突起部材3の接合部(凸設部)よりも先端部の投影面積が小さいことが好ましい。前述の通り、金型5の凹形状部は突起部材3よりも少しだけ大きく作るものの、先端部の投影面積が突起部材3の接合部よりも大きいと、当然突起部材3を凹形状部の奥まで嵌め込むことが不可能である。先端部と接合部が同じ投影面積であった場合は板状部材1をインサートする際に位置精度高く入れる必要があり、人手であってもロボットであっても容易にインサートすることは困難である。接合部から先端部に従って徐々に投影面積を小さくすれば、凹形状部にあらかじめクリアランスを設けてあることもあって、インサートしながら容易に所定の位置に位置決めが出来ることになるため、より好ましい。
【0025】
突起部材3は、投影面積が同じになる部分の高さが1mm以上あることが好ましい。図3のように接合部から先端部にかけて一様に先細りとなる形状、すなわち、投影面積が徐々に小さくなるように変わり続けていて、突起部材3に合った凹形状を金型に設けた場合、凹形状は突起部材3よりも望んだ位置精度分だけ大きく作ることになる。すなわち、板状部材1を±0.1mmの範囲で位置決めを行いたいときは、図3のように投影面積が変わり続ける形状に対し、凹形状を突起部材3の直径に対し常に直径0.2mmだけ大きく作ることになる。この場合、厳密には投影面積が変わり続ける突起部材3のどの高さの位置で位置決めが行われているか分からない可能性がある。また、突起部材3も凹形状も常に同じクリアランスで加工することが難しいことから、望んだ位置決め精度にできない可能性もある。
【0026】
また、突起部材3の投影面積が図3のように変わり続ける形状であるのに対し、凹形状の少なくとも一部を例えば円柱型の凹にした場合は、加工精度は高くなるが、突起部材3と位置決めできる部分が、円錐の投影面積最大の部分と凹形状のごく一部分のみ(面でなく線で接する状態)となってしまい、板状部材1が高さ方向に動いたときなどは、位置決め精度が下がってしまう恐れがあった。
【0027】
図6には、突起部材3に投影面積が同じになる部分7を設けた一例を示す。突起部材3に投影面積が同じになる部分7の高さを1mm以上になるように設けて、その投影面積が同じになる部分の形状で位置決め出来るように凹形状を作ることにより、位置決めできる部分の面積が増加し、板状部材1が高さ方向にずれたとしても、精度よく位置決めできるため好ましい。また、投影面積が同じになる部分の形状とそれに対応する凹形状の部分のみを、管理したい位置決め精度で作れば、精度良く位置決め出来ることから加工面でも作りやすくなり好ましい。
【0028】
投影面積が同じになる部分7の高さは1mm未満であると位置決めできる部分が減少し、板状部材1の高さ方向のずれで、位置決め精度が悪くなる可能性があり、加工も難しくなるため好ましくない。また、10mmを越えると、板状部材1をはめ込むときに突起部材3と凹形状が当たり易くなりセットしにくくなるため好ましくない。さらに、投影面積が同じになる部分を、突起部材3の接合部(凸設部)に設けることがより好ましい。投影面積が最も大きくなる部分を含むことにより、寸法精度が得やすくなるとともに、凹形状を有する金型との距離が短くなり、高さ方向の位置ずれも起きにくくなる。
【0029】
突起部材3の高さは1〜50mmであることが好ましい。高さが1mm未満であると、突起部材3が分かりづらくなり金型5にインサートすることが難しくなるため好ましくない。高さが50mmを超えると、金型5にインサートする際に金型5が大きく開かないと、インサートできなくなることから射出成形機や金型形状に制限が出るため好ましくない。また、製品の取り扱いが困難になったり、突起部材3に用いる材料使用量が多くなったりするため好ましくない。
【0030】
突起部材3の材質としては、金属やセラミックス、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂など様々な材料を用いることができる。中でも、コストや生産性に優れた熱可塑性樹脂を用いることが好ましく、突起部材3の変形や収縮を防ぐために強化繊維を含む熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0031】
金型5の凹形状部は、突起部材3に合わせた加工が可能である。凹形状部と突起部材3のインサート部分のクリアランスは0.02mm〜0.05mmであることが好ましい。クリアランスが小さすぎるとインサートの際に途中で引っかかり、板状部材1が金型5から浮いた状態でアウトサート成形されてしまうため好ましくない。クリアランスが0.05mmよりも大きいと、突起部材3をはめ込んだときのガタつきが大きくなり、射出成型時にクリアランス分だけ動いてしまい、固定が難しくなるため好ましくない。
【0032】
板状部材1の形状は、金型5にインサートできれば特に限定はされないが、平板状であることが加工性の観点から見て好ましい。また、図1のように平板ではなく屈曲形状を持たせることも電気・電子部品の筐体とした場合の意匠性が良くなることから好ましい。
【0033】
板状部材1としては、強化繊維を含んだ樹脂組成物が好ましく用いられる。強化繊維としては、例えば、アルミニウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維などの金属繊維、ポリアクリロニトリル(PAN)系、レーヨン系、リグニン系、ピッチ系等の炭素繊維や黒鉛繊維、ガラス繊維、シリコンカーバイト繊維、シリコンナイトライド繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、ポリフェニレンスルフィド繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、ナイロン繊維、ポリエチレン繊維などの有機繊維等が使用できる。これらの強化繊維は単独で用いても、また、2種以上併用してもよい。なかでも、比強度、比剛性、軽量性のバランスの観点から炭素繊維が好ましく、比強度・比弾性率に優れる点でポリアクリロニトリル系炭素繊維を少なくとも含むことが好ましい。
【0034】
板状部材1は強化繊維を含む複数の層から構成されるシートであってもよい。強化繊維が、連続強化繊維であれば、より高強度、高剛性を得られることから好ましい。連続強化繊維を含んだシートとは、10mm以上の長さの連続した強化繊維がシート内部(またはシートを構成する強化繊維を含む層内)に配列されているシートであって、必ずしもシート(または、シートを構成する強化繊維を含む層)全体にわたって連続している必要はなく、途中で分断されていても特に問題はない。具体的な連続強化繊維の形態としては、フィラメント、織物(クロス)、一方向引き揃え(UD)、組み物(ブレイド)等が例示できるが、プロセス面の観点から、クロス、UDが好適に使用される。また、これらの形態は単独で使用しても、2種以上の形態を併用してもよい。中でも、マルチフィラメントが一方向に引き揃えられたものが、より効率良く強度、剛性を得られることから好ましい。板状部材1として、強化繊維を含んだシートを用いる場合、強化繊維の割合は、成形性、力学特性の観点から20〜90体積%が好ましく、30〜80体積%がより好ましい。なお、体積%の測定はマトリックスが樹脂の場合はJIS K7075−1991(炭素繊維強化プラスチックの繊維含有率及び空洞率試験方法)に記載されている方法で測定する。
【0035】
板状部材1に含まれるシートのマトリックス樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、または金属などを用いることができる。熱可塑性樹脂としては例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)樹脂、ポリエチレンナフタレート(PEN)樹脂、液晶ポリエステル樹脂等のポリエステル樹脂や、ポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリブチレン樹脂等のポリオレフィン樹脂や、スチレン系樹脂の他や、ポリオキシメチレン(POM)樹脂、ポリアミド(PA)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、ポリメチレンメタクリレート(PMMA)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC)樹脂、ポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂、ポリフェニレンエーテル(PPE)樹脂、変性PPE樹脂、熱可塑性ポリイミド(PI)樹脂、ポリアミドイミド(PAI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリスルホン(PSU)樹脂、変性PSU樹脂、ポリエーテルスルホン(PES)樹脂、ポリケトン(PK)樹脂、ポリエーテルケトン(PEK)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、ポリエーテルニトリル(PEN)樹脂、熱可塑性フェノール系樹脂、フェノキシ樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂などのフッ素系樹脂、更にポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリブタジエン系樹脂、ポリイソプレン系樹脂、フッ素系樹脂等の熱可塑エラストマー等や、これらの共重合体、変性体、および2種類以上ブレンドした樹脂があげられる。熱硬化性樹脂としては、例えば不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール(レゾール型)樹脂、ユリア・メラミン樹脂、ポリイミド樹脂等や、これらの共重合体、変性体、および、これらの少なくとも2種をブレンドした樹脂があげられる。これらの中でも、板状部材1の剛性、強度に優れることから、熱硬化性樹脂が好ましく、とりわけエポキシ樹脂を主成分とする熱硬化性樹脂が成形品の力学特性の観点からより好ましい。マトリックス樹脂には更に耐衝撃性向上等のために、熱硬化性樹脂に熱可塑性樹脂および/またはその他のエラストマーもしくはゴム成分等を添加した樹脂を用いてもよい。
【0036】
板状部材1には、貫通穴を設けないことが好ましい。貫通穴が開いている場合には、曲げや引っ張りの力が加わった際に穴周囲に応力が集中し、強度が低下するため好ましくない。また、板状部材1に電磁波シールド性を要求するような場合には貫通穴を開けることでシールド性が低下する。また、貫通穴を開けることで一様な意匠の板状部材1が得られないことから好ましくない。
【0037】
板状部材1に樹脂部材2を一体化した後も複合成形品5の形態を維持する観点から、板状部材1の表面のうち樹脂部材2が接合される部分には接着層を有していることが好ましい。板状部材1と樹脂部材2との接合面の少なくとも一部に接着層を有していることが好ましく、接合面面積の50%以上に接着層を有していることがより好ましく、接合面面積の70%以上に接着層を有していることがさらに好ましく、接合面の全面に接着層を有していることがとりわけ好ましい。ここで、接着層は、接着剤のような板状部材1または樹脂部材2と異なった成分から構成されていても良いし、溶着層のような板状部材1または樹脂部材2の成分から構成されていても良い。
【0038】
樹脂部材2に使用される樹脂としては特に制限はないものの、射出成形などを用いた接合形状作製の観点からは、熱可塑性樹脂が好ましく用いられる。熱可塑性樹脂としては、上述の熱可塑性樹脂が例示される。とりわけ、耐熱性、耐薬品性の観点からはポリフェニレンスルフィド樹脂が、成形品外観、寸法安定性の観点からはポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、スチレン系樹脂が、成形品の強度、耐衝撃性の観点からはポリアミド樹脂がより好ましく用いられる。さらに、複合成形品の高強度、高剛性化を図るために樹脂部材2の樹脂として、強化繊維を含有させたものを用いることも好ましい。強化繊維としては、板状部材1で用いられる強化繊維を使用することができる。また、前記樹脂部材2が電波透過性を必要とする場合には、非導電性のガラス繊維を用いることも好ましい。さらに分散している強化繊維の繊維長についても特に制限はないが、強化繊維の強度を効率よく発現させるには、繊維長は長い方が好ましい。成形性とのバランスの観点から、数平均繊維長100〜1000μmの範囲内が好適に用いられる。ここで、数平均繊維長の測定方法は、樹脂部材2から分散している強化繊維のみを、無作為に少なくとも400本以上抽出し、その長さを1μm単位まで光学顕微鏡もしくは走査型電子顕微鏡にて測定してその平均長さを算出することにより行う。強化繊維の抽出方法としては、樹脂部材2の一部を切り出し、樹脂成分を溶解させる溶媒によりこれを十分溶解させた後、濾過等の操作により強化繊維と分離することができる。
【0039】
図5には、本発明より得られる複合成形品の(a)体裁面斜視図(b)裏面斜視図の一例を示している。板状部材1に突起部材3を凸設することで、アウトサート時の位置決めができ、板状部材1の周辺部に樹脂部材2が一体化された複合成形品6を得ることができる。
【0040】
本発明により得られる複合成形品6の用途としては、例えば、パソコン、ディスプレイ、OA機器、携帯電話、携帯情報端末、ファクシミリ、コンパクトディスク、ポータブルMD、携帯用ラジオカセット、PDA(電子手帳などの携帯情報端末)、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、光学機器、オーディオ、エアコン、照明機器、娯楽用品、玩具用品、その他家電製品などの電気、電子機器の筐体及びトレイやシャーシなどの内部部材やそのケース、機構部品、自動車や航空機の電装部材、内部部品などが挙げられる。
【0041】
とりわけ、本発明の複合成形品6はその優れた軽量性、高剛性、良外観を活かして、電気、電子機器用筐体や外部部材用に好適であり、さらには薄肉性を必要とするノート型パソコンや携帯情報端末などの筐体として好適である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の骨子は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
“トレカ”(登録商標)プリプレグP3052F−15(東レ株式会社製、強化繊維:炭素繊維、ベース樹脂:エポキシ)を6層積層し、接着層として最外層にポリアミド層CM4000(東レ株式会社製3元共重合ポリアミド樹脂、ポリアミド6/66/610)を1層積層したものを離型フィルムで挟み込み、プレス成形(平板形状金型、厚み0.85mm、金型温度150℃、圧力2.5MPa、硬化時間30分)後に199mm×299mmの長方形にカットして平板形状の板状部材を得た。
【0044】
突起部材の材料としては、長繊維ペレットTLP1146S(東レ(株)製 炭素繊維含有量20%、ベースレジン:ポリアミド6;溶解度パラメータδ(SP値)13.6、樹脂流動方向成形収縮率:0.1%)を使用し、株式会社日本製鋼所製350トン射出成形機(J350EIISP、シリンダ径:φ46mm、使用スクリュー:汎用フルフライトタイプ)、突起部材用金型(縦12×横15mmの十字形状、高さ30mm、2個取り、1点ゲート)を使用し、シリンダ温度280℃、金型温度70℃で成形品を得た。突起部材は先端部で縦8mm×横8mmの十字形状となっている。
【0045】
突起部材はシアノアクリル接着剤“アロンアルファ”(登録商標)(東亜合成(株)製)を用いて、成形した板状部材と突起部材を治具で固定し、所定の位置に突起部材を2個接着した(接着時間30秒、突起部材中心間距離53.8mm)。
【0046】
アウトサート用金型として、ノートパソコン用金型(サイズ:W300×L200×t1.0mm、ゲート:8点ゲート)を使用し、コア側に突起部材より0.02mm大きい凹形状部(長径:7.51mm、短径6.01mmの楕円形)を作成した。
【0047】
金型を開き、突起部材を凸設した板状部材を、突起部材が凹形状部にはまるように金型のコア側にセットし、型締めを行った後、樹脂部材として長繊維ペレットTLP1146Sを板状部材の周縁部に射出成形した複合成形品を製造した。突起部材は射出成形後に取り外し、板状部材周縁部に樹脂部材を一体化した体裁面外観に優れた複合成形品を得ることができた。得られた複合成形品から突起部材は、手で剥離面と平行方向に突起部材に力を加えることで複合成形品を変形させることなく、突起部材を剥離することができ、板状部材の樹脂を毟り取る事もなかった。
【0048】
(実施例2)
板状部材を成形するプレス金型を湾曲した形状を持つ金型とし、湾曲形状を持つ板状部材を得たことと、突起部材の接着面を前記板状部材の裏面に合う形状に変更したこと、アウトサート用金型を湾曲形状の板状部材をセットできる金型としたこと以外は実施例1と同様に行った。板状部材が屈曲形状を持つ場合でも、突起部材により位置決めを行うことができ、板状部材周縁部に樹脂部材を一体化した複合成形品を得ることができた。また、体裁面外観は体裁面に丸みを持った意匠性に優れた複合成形品となった。
【0049】
(実施例3)
突起部材は中央部に縦10mm×横12mmの十字形状を高さ3mmの幅で作り、対応する凹形状においても高さ3mmの幅で同じ形状を作った以外は実施例1と同様に行った。投影面積が同じ形状があることで、突起形状と凹形状がすり合わせ良く位置決めできた。板状周辺部に樹脂部材を一体化した複合成形品においても、周辺部の樹脂の幅が一定となっており、位置決め精度が向上していた。
【0050】
(比較例1)
実施例1と同じ“トレカ”(登録商標)プリプレグを用いてプレス成形し、所定の大きさにカット後、所定の2箇所(短辺の中点2つを結んだ線分上にあり、前記線分の中点から50mmの距離にある2点)の位置を中心とする直径2.5mmの円形の2つの貫通穴をドリル加工して板状部材を得た。
【0051】
アウトサート用の金型として、ノートパソコン用金型(サイズ:W300×L200×t1.0mm、ゲート:8点ゲート)を使用し、金型に所定の2箇所(短辺の中点2つを結んだ線分上にあり、前記線分の中点から50mmの距離にある2点)を中心とする直径2.45mmの円柱形の2本の位置決めピンを配置した。
【0052】
金型を開き位置決めピンに板状部材を固定した以外は実施例1と同様に射出成形を行い、複合成形品を得た。得られた成形品は、板状部材周縁部に樹脂部材を一体化することはできたが、2つの貫通穴が開いてしまっているため、外観としては悪くなった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明にかかる複合成形品の用途としては、例えば、パラボナアンテナ、パソコン、ノートパソコン、携帯電話、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、PDA、ポータブルMD、家庭用ゲーム機などの電子機器筐体に有用である。中でも、高剛性かつ軽量であって、意匠性も同時に求められる、ノートパソコン、携帯電話、PDAなどの電子機器筐体に有用である。
【符号の説明】
【0054】
1 板状部材
2 樹脂部材
3 突起部材
4 射出成形機
5 射出成形の金型
6 複合成形品
7 投影面積が同じになる部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維を含む樹脂組成物からなる板状部材を製造し、射出成形金型のキャビティ内に位置決め固定した後、分散した強化繊維で強化された熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂部材を射出成形により一体化させた複合成形品の製造方法であって、前記板状部材に突起部材を予め凸設し、前記突起部材を前記キャビティの内面に設けられた凹形状部に嵌め込んで位置決めを行った後、射出成形することを特徴とする複合成形品の製造方法。
【請求項2】
前記突起部材が複数凸設されている請求項1に記載の複合成形品の製造方法。
【請求項3】
前記突起部材が前記板状部材と着脱可能に設けられている請求項1または2のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項4】
前記突起部材は前記板状部材との凸設部から先端部に向かって投影面積が小さくなる形状を有する請求項1〜3のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項5】
前記突起部材は投影面積が同じになる部分の高さが1〜10mmの範囲にある請求項1〜4のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項6】
前記板状部材には貫通穴を設けない請求項1〜5のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項7】
前記板状部材が湾曲形状を持つ請求項1〜6のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項8】
前記板状部材が
(a)強化繊維を含んだシート
(b)強化繊維に少なくとも炭素繊維を含んだシート
(c)一方向に配列した連続強化繊維を含んだシート
(d)一方向に配列した少なくとも炭素繊維を含む連続強化繊維を含んだシート
(e)連続強化繊維織物を含んだシート
(f)少なくとも炭素繊維を含む連続強化繊維織物を含んだシート
からなる群の中から選ばれた少なくとも1種類から構成されている請求項1〜7のいずれかに記載の複合成形品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかの製造方法で製造された複合成形品。
【請求項10】
電気・電子機器用の筐体である請求項9に記載の複合成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−86556(P2012−86556A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199410(P2011−199410)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】