説明

複合材料で製作された挿入物を含む機械部品

本発明は、セラミック繊維が中に延在する金属母材を含む複合材料で製作された少なくとも1つの挿入物(3)を備える機械部品(10)の製作方法において、複合材料の挿入物(3)が、金属外装で被覆されたセラミック繊維をそれぞれが備える複数の被覆糸(32)から得られる方法であって、被覆糸(32)の束または結合繊維を回転部品(2)のまわりに巻き付けるステップによって少なくとも1つの挿入物(3)を製造することを備える方法に関する。本発明によると、巻き付けの少なくとも一部は直線方向で実施される。本発明はまた、このようにして得られた機械部品(10)にも関し、本発明の製造方法を実施するように適合された巻付装置(20)にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属母材内のセラミック繊維からなるタイプの複合材で製作された挿入物を備える機械構成要素と、この機械構成要素を製造する方法と、製造方法を実施するように設計された巻付装置とに関する。本発明は、張力および/または圧縮力を主に一方向に伝達することを目的とする任意の種類の機械構成要素に適用される。
【背景技術】
【0002】
特に航空工学の分野では、最小限の質量および外形寸法になるよう機械構成要素の強度を最適化する傾向が絶えず存在する。したがって、特定の機械構成要素は金属母材複合材で製作された挿入物を有する場合があり、そのような構成要素は一部片からなる可能性がある。このような複合材には、例えば炭化ケイ素SiCセラミック繊維などの繊維が中に延在した、例えばチタンTi合金などで製作された金属合金母材がある。このような繊維は、チタンよりもはるかに大きな張力および圧縮強度を有する。したがって、荷重に対して反応するのは主に繊維であり、金属合金母材は構成要素の残りの部分と結合するバインダとして働くとともに、相互に接触してはならない繊維を保護および絶縁する。さらに、セラミック繊維は耐腐食性であるが、それらは金属で強化されることが必須である。
【0003】
以上に述べた複合材は、航空工学の分野では、ディスク、シャフト、作動シリンダの本体、ケーシング、支柱の製造に使用することで知られ、あるいは羽根などの一体型構成要素用の補強材として知られている。
【0004】
これらの構成要素を製造する1つの技法が、本発明の技術的背景を表した仏国特許第2886290号明細書に述べられている。この明細書では、製造の基本ステップの1つは、被覆フィラメントの束またはラップを、円形の円筒状構成要素のまわりでその回転軸に対して垂直方向に巻き付けることからなる。このようにして得られた既述の構成要素は円形タイプであり、主にシャフト、作動シリンダの本体、ケーシング、またはディスクなどの円形構成要素を製造するのに適している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一部の機械構成要素は、円形の構成要素によって呈示される特性とは異なる特性を必要とする。このことは、基本的に細長形状であり、引張荷重および/または圧縮荷重を一方向に伝達することが目的である棒状体の場合に特に当てはまる。
【0006】
本発明の特定の主題は、引張り荷重および/または圧縮荷重を両端間で一方向に伝達する能力がある、金属母材内のセラミック繊維からなるタイプの複合材で製作された少なくとも1つの挿入物を備える機械構成要素を製造する方法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、母材のセラミック繊維が中に延在する金属母材複合材で製作された少なくとも1つの挿入物を備える機械構成要素を製造する方法であって、複合材の挿入物は、金属外装で被覆されたセラミック繊維をそれぞれが備える複数の被覆フィラメントから得られ、該方法が円筒状構成要素のまわりに被覆フィラメントの結合ラップまたは結合束を巻き付けるステップによって少なくとも1つの挿入物を製造することを含む方法に関する。本発明によると、巻き付けの少なくとも一部は直線方向に行われる。
【0008】
このようにして得られた機械構成要素、例えば棒状体は、有利には引張り荷重および/または圧縮荷重を一方向に伝達することが可能である。
【0009】
本発明はまた、本発明による製造方法を実施するように特別に設計された巻付装置にも関する。
【0010】
添付の図面を参照して以下の詳しい説明を読めば、本発明のさらなる利点および特徴が明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】従来技術による機械構成要素の一実施例の斜視図である。
【図2】本発明による巻付装置の一実施例の斜視図である。
【図3】本発明の製造方法によって得られる挿入物の一実施例の斜視図である。
【図4】挿入物と、挿入物を収容するための容器と、容器および挿入物を封入するための金属蓋との一実施例を示す図である。
【図5】本発明の製造方法によって得られる機械構成要素の一実施例の斜視図である。
【図6】本発明の製造方法の代替形態を示す図である。
【図7】本発明の製造方法の代替形態によって得られる機械構成要素の他の実施例の断面図である。
【図8】本発明の製造方法の代替形態によって得られる機械構成要素の実施例の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
仏国特許第2886290号明細書に述べられたような、複合材で製作された挿入物を備える機械構成要素を製造する技法は、本発明との関連で使用されることが可能である。したがって、この明細書の教示は本出願に組み込まれるものと考えられるべきである。これらには例えば、非限定的に述べるが、被覆フィラメントの構造、その製造、被覆フィラメントの結合ラップの製造、この結合ラップの、それが巻き付けられる金属支持体上へのまたは下の層のラップ上への固定、フィラメントのレーザ溶接または両電極間の接触によるフィラメントの溶接、熱間静水圧圧縮および機械加工などがある。
【0013】
図1は、全体に細長形、即ち長く伸びた形状である棒状体1などの機械構成要素の一実施例を表している。棒状体は両端部13と14を有する。棒状体1の目的は、平行軸Z1とZ2のまわりでその端部に関節連結された2つの構成要素の間で、移動および/または引張り力Tおよび/または圧縮力Cを伝達することである。棒状体1は、その端部13と14のそれぞれに円筒状凹部11または12を有する。それらの軸は平行な軸Z1とZ2に対応している。このタイプの棒状体1は、例えば降着装置の設計、またはスラストロッドを備えるターボ機械の設計で使用されてもよい。
【0014】
図2は、本発明による巻付装置20の一実施例を表している。この実施例で、巻付装置20は、棒状体などの機械構成要素用の挿入物3を作り出すのに特によく適している。この巻付装置20は、マンドレルとして働く、中空で細長形状である円筒状構成要素2と、細長形状であり実質的に同一の2つの端板21と22とを備える。円筒状構成要素2は回転する幾何学的形状、即ち通常湾曲された閉鎖構造を表す幾何学的形状を有する。端板21と22の外形寸法は、円筒状構成要素2の外形寸法よりも大きい。これは、端板21と22それぞれの周囲27は円筒状構成要素2の周囲を超えて延在することを意味している。円筒状構成要素2は端板21と22との間に挟まれている。巻付装置20が巻付軸Zのまわりで回転されると、フィラメント32が円筒状構成要素2上に巻き付けられてゆく。端板21と22は被覆フィラメント32を軸方向で保持し、それらを巻き付けてゆく。
【0015】
巻付装置20は、巻付システムを形成するアセンブリに属している。巻付システムは、巻付装置20を回転する手段と被覆フィラメント32の結合ラップまたは結合束を供給する手段とをさらに備える。
【0016】
円筒状構成要素2は2つの直線巻付部分24を備える。これらの直線巻付部分24は巻付軸Zに対して垂直方向に向けられている。したがって、円筒状構成要素2のまわりへのフィラメント32の巻き付けの少なくとも一部は直線方向に行われる。被覆フィラメント32の巻き付けは巻付軸Zに対して垂直方向に実施される。言い換えれば、被覆フィラメント32は巻付軸Zに対して実質的に垂直方向に向けられている。
【0017】
図2で表わされた実施例では、これらの直線巻付部分24は平行であり、2つの円形部分25の間に合わせ込まれている。円筒状構成要素2の外形寸法、特に軸方向Zのその厚みと、直線巻付部分24の長さと、円形部25の曲率半径とを所望の挿入物3の外形寸法に応じて変化させることが可能である。円形部25も様々な半径を有してもよい。したがって直線巻付部分24は非平行であってもよい。
【0018】
直線巻付部分24を備える円筒状構成要素2のまわりに巻き付けを行うことは、平行で単一方向の多数の被覆フィラメント32からなる少なくとも1つの直線母線を有した挿入物3を、短時間のうちに作り出すことを可能にする。
【0019】
挿入物3は、巻き付けが行われた後は、端板21と22を互いに引き離すことによって巻付装置20から取り外されることが可能である。このようにして形成された挿入物3の形状は、フィラメント32がその配向を失わないように設定されなければならない。これを達成するために用いられることが可能な様々な技法がある。
【0020】
挿入物3の形状を維持する最初の技法は、巻き付けの始めに、挿入物3の内部を固定する第1金属箔を巻き付けるステップを提供し、巻き付けの終わりに、挿入物3の外側部分を固定する第2金属箔28を巻き付けるステップを提供することである。この実施例では、第1金属箔は円筒状構成要素2を構成する。したがって、被覆フィラメント32は、図3で表わされたように金属箔2と28との間に存在する。
【0021】
さらに、図2で示されたように、端板21と22はそれぞれの周囲27上にスロット23を有する。端板21の各スロット23は、端板22のスロット23に直面するように位置決めされて、このようにして一対のスロット23を形成している。スロット23の外形寸法が端板21と22の内側に向かって、深さdにわたって延在することによって金属バンド31の装着が容易になる。スロット23の深さdは、円筒状構成要素2の中空内部29にアクセスすることが可能なものでなければならない。円筒状構成要素2は巻付装置20のハブのまわりに位置決めされ、図2では見えず、スロットと歯を交互に備えており、ハブのスロットは端板21と22のスロット23と一致している。深さdは円筒状構成要素2の巻付表面を超えて延在する。
【0022】
スロット23の各対は、金属バンド31の取り付けができるようにするためのものである。金属バンド31は、図4と関連して述べられる容器4の材料ならびに円筒状構成要素2の材料と同一の金属材料で製作されている。金属バンド31は接点溶着プロセスによって挿入物3のまわりに固定される。金属バンド31は、巻き付けがなされた挿入物3に沿って一定間隔で位置決めされる。
【0023】
挿入物3に巻き付けがなされ、金属バンド31が装着された後は、挿入物3は、端板21と22を互いに引き離すことによって巻付装置20から取り外されることが可能である。このようにして得られた挿入物3の実施例が図3に表わされている。これは、2つの円形部分35の間に合わせ込まれた2つの直線かつ平行な部分34を備える細長形状の円筒状構成要素からなる。
【0024】
金属バンド31の使用を伴わない、挿入物3の形状を保つ第2の技法は、例えばL字形状またはU字形状の断面の、少なくとも1つの放射状リムを備える細長形のマンドレルを形成した円筒状構成要素2を提供することである。これにフィラメント32が巻き付けられる。被覆フィラメント32の結合ラップが使用されると、両電極の間で接点溶接を行い、中周波電流を通す方法を用いて、被覆フィラメント32の結合ラップが巻き付けられる円筒状構成要素2と、その下の層のラップに被覆フィラメント32を固定することが可能である。このようにして、フィラメント32は溶接が進むにつれて一緒に溶接される。これは、挿入物3は、巻付装置20から取り外されるとき、円筒状構成要素2と一体のものとして構成要素を形成していることを意味している。
【0025】
次いで挿入物3は、図4で表わされたように容器4内に挿入される。この目的のために、容器4は、挿入物3を相補する形状の、挿入物3が中に収容される溝41を備える。容器4は、好ましくはチタンTiで製作された金属合金母材の予備成形物を形成する。容器4に電子溶接によって蓋5が取り付けられ、真空排気され、熱間静水圧圧縮プロセスを用いて圧縮される。
【0026】
次いで全体が機械加工されて、完成された機械構成要素10、即ち図5に表わされた棒状体10が得られる。図1の棒状体1と同一形状の棒状体10は、回転する幾何学的形状を有した複合材の挿入物3をさらに備える。挿入物3のフィラメント32の一部は直線方向に向けられている。この直線方向はZ1とZ2に対して垂直方向である。この棒状体10は有利には、一方向性の張力および/または圧縮力を伝達することが可能である。挿入物3の直線部分34は、全てが同一の直線方向に向けられたフィラメントを備える。
【0027】
本発明は、張力および/または圧縮力を主に一方向に伝達する機能を有する任意のタイプの機械構成要素に適用され、したがって、一適用例にすぎない棒状体だけに限定されるものではない。
【0028】
本発明の代替形態によると、機械構成要素は、より複雑な形状であってもよく、回転する幾何学的形状、即ち、通常湾曲された閉鎖構造を表した幾何学的形状をそれぞれが有することが可能な複数の挿入物3を備えてもよい。図6で表わされた実施例では、挿入物3を収容するための溝41を2つの反対向きの面42のそれぞれの側に備える容器4を使用することによって、製造方法が修正されている。熱間静水圧圧縮および機械加工の後に得られる機械構成要素110は図7で表わされているものであり、したがって挿入物3を備える。挿入物3は、機械構成要素110の中央面P1のそれぞれの側に位置決めされている。挿入物3は、互いに対して非ゼロの角度αをなす平面P2およびP3に位置決めされる。図8は、このようにして得られた機械構成要素110の斜視図である。この機械構成要素110も同様に、その重量を軽減するための凹所15を有してもよい。
【0029】
このような機械構成要素10または110は、航空工学の用途、例えば降着装置に、または航空機用のターボ機械に完璧に適合している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
母材のセラミック繊維が中に延在する金属母材複合材で製作された少なくとも1つの挿入物(3)を備える機械構成要素(10、110)を製造する方法であって、複合材の挿入物(3)が、金属外装で被覆されたセラミック繊維をそれぞれが備える複数の被覆フィラメント(32)から得られ、該方法が被覆フィラメント(32)の結合ラップまたは結合束を円筒状構成要素(2)のまわりに巻き付けるステップによって少なくとも1つの挿入物(3)を製造することを含み、巻き付けの少なくとも一部が直線方向に行われる、方法。
【請求項2】
円筒状構成要素(2)が少なくとも1つの直線巻付部分(24)を備える、請求項1に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項3】
円筒状構成要素(2)が2つの直線巻付部分(24)を有する、請求項1または2に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項4】
2つの直線部分(24)が2つの円形部分(25)の間に合わせ込まれている、請求項3に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項5】
2つの円形部分(25)が異なる半径を有する、請求項4に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項6】
直線部分(24)が平行である、請求項3または4に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項7】
少なくとも1つの挿入物(3)が、熱間静水圧圧縮を受けるように容器(4)の中に挿入される、請求項1から6のいずれか一項に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項8】
2つの挿入物(3)が、熱間静水圧圧縮を受けるように容器(4)の2つの反対向きの面(42)のそれぞれの側に1つずつ挿入される、請求項7に記載の機械構成要素(10、110)を製造する方法。
【請求項9】
挿入物(3)が非ゼロの角度(α)を形成する平面(P2、P3)内に位置決めされる、請求項8に記載の機械構成要素(110)を製造する方法。
【請求項10】
母材のセラミック繊維が中に延在する金属母材複合材で製作された少なくとも1つの挿入物(3)を備える機械構成要素(10、110)であって、複合材の挿入物(3)が、金属外装で被覆されたセラミック繊維をそれぞれが備える複数の被覆フィラメント(32)から得られ、回転する幾何学的形状を有し、少なくとも1つの直線方向に一部が向けられたフィラメント(32)を備える、機械構成要素(10、110)。
【請求項11】
機械構成要素(10)の中央面(P1)のそれぞれの側に位置決めされた少なくとも2つの挿入物(3)を備える、請求項10に記載の機械構成要素(110)。
【請求項12】
2つの挿入物(3)が、互いに対して角度(α)をなす平面(P2、P3)に位置決めされている、請求項11に記載の機械構成要素(110)。
【請求項13】
棒状体を構成する、請求項10から12のいずれか一項に記載の機械構成要素(10、110)。
【請求項14】
少なくとも1つの、請求項10から13のいずれか一項に記載の機械構成要素(10、110)を備える降着装置。
【請求項15】
少なくとも1つの、請求項10から13のいずれか一項に記載の機械構成要素(10、110)を備えるターボ機械。
【請求項16】
請求項10から13のいずれか一項に記載の機械構成要素、請求項14に記載の降着装置、または請求項15に記載のターボ機械を備える航空機。
【請求項17】
構成要素フィラメント(32)が巻き付けられることが可能である、軸(Z)のまわりで円筒状構成要素(2)を備える巻付装置(20)であって、円筒状構成要素(2)が、巻付軸(Z)に対して垂直方向の少なくとも1つの直線巻付部分(24)を備える、巻付装置(20)。
【請求項18】
円筒状構成要素(2)が2つの円形部分(25)の間に位置決めされた2つの直線巻付部分(24)を備える、請求項17に記載の巻付装置(20)。
【請求項19】
2つの細長形の端板(21、22)を備え、2つの端板(21、22)の間に細長形の円筒状構成要素(2)が挟まれている、請求項17または18に記載の巻付装置(20)。
【請求項20】
各端板(21、22)がその周囲(27)にスロット(23)を有する、請求項19に記載の巻付装置(20)。
【請求項21】
円筒状構成要素(2)が中空内部(29)を備え、スロット(23)の深さが円筒状構成要素(2)の中空内部(29)へのアクセスをもたらす、請求項17から20のいずれか一項に記載の巻付装置(20)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2010−534763(P2010−534763A)
【公表日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−517435(P2010−517435)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際出願番号】PCT/FR2008/001014
【国際公開番号】WO2009/034263
【国際公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(505277691)スネクマ (567)
【出願人】(510022406)
【Fターム(参考)】