説明

複合材料部材のための多層繻子織による強化用繊維織物

繻子型製織または多層繻子型製織による多層三次元織によって作製された複合材料部材のための強化用繊維織物。織物は、経糸Cによって交絡された少なくとも3つの緯糸Tを含み、各経糸は、第1の緯糸層中のn本のうちの1本の緯糸および第1のものに隣接した第3の緯糸層中のn本のうちの1本の緯糸とを交互につかみ、数nは3以上の整数である。経糸の経路は似通っており、かつ経糸方向においてずれている。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
発明の背景
本発明は複合材料部材の作製、より具体的には強化用繊維織物の作製に関する。
【0002】
本発明の応用の分野は、繊維強化材および樹脂マトリクスを含む複合材料からの構造部材の作製である。このような部材は、非常に多くの分野において、具体的には航空産業の分野において使用される。強化用繊維織物は、任意の既知の方法、例えば樹脂トランスファー成形(RTM)によって樹脂マトリクスで緻密化される。
【0003】
本発明の応用の他の分野は、熱構造複合材料からの、すなわち構造要素を構成することができる機械的特性を持ち、かつ高温においてそれらの特性を維持する能力を持つ材料からの部材の作製である。熱構造複合材料は、典型的に炭素マトリクスにより緻密化された炭素繊維強化材を持つ炭素/炭素(C/C)複合材料、およびセラミックマトリクスにより緻密化された耐火繊維強化材(炭素繊維またはセラミック繊維)を持つセラミックマトリクス複合材料(CMC)である。熱構造複合材から作製された材料は、具体的には航空および宇宙の分野において使用される。強化用繊維織物は、化学気相浸透(CVI)によって、または周知の液体技術によって、材料を構成するマトリクスで緻密化され得る。液体技術による緻密化は、典型的に樹脂であるマトリクスを構成する材料のための前駆体を含有する液体組成物で繊維構造を含浸することからなり、前駆体は熱処理によって変形される。
【0004】
或る程度の厚さを有する複合材料部材のために、層剥離を避けるために互いに結合された複数の重ね合わされた層としての強化用繊維織物を作製することが知られている。
【0005】
複数の隣接する緯糸層に属する緯糸を交絡する(interlace)経糸による三次元織によって強化用織物を作製するための提案は、例えば文献US 4 848 414およびEP 1 526 285においてなされている。
【0006】
US 5 102 725も、局所的に三次元である繻子型の製織による強化用繊維織物を開示する。繊維織物は、第1の緯糸層中の4本のうちの1本の糸および第2の緯糸層の8本のうちの1本の糸とを交互につかむために第1の経糸によっていくつかの点で交絡された2つの緯糸層で構成される。第2の緯糸層の緯糸も、通常の繻子型三次元製織を用いた第2の経糸によって織られ、2つの経糸は主に2つの緯糸層の間に延びる。第2の緯糸層において、同じ緯糸が第1と第2の経糸によって取られ、それにより表面凹凸を形成する。さらに、両方とも2つの緯糸層の間に延びる経糸による、記載された製織の技術は、2つの緯糸層で限定される厚さの繊維織物を作製するために特に適切である。
【0007】
複合材料部材のためのこのような強化用繊維織物を作製する場合、種々の側面を考慮する必要がある。
【0008】
したがって、三次元織は、剥離に対抗するが、層の平面に平行な方向における機械的挙動に影響を与えることなく、層の間に十分な交絡を与えなければならない。
【0009】
さらに、平滑な表面状態を示す複合材料部材のために、強化用繊維織物が、例えば最初の緻密化段階または硬化段階の後、緻密化の仕上げに先立って、このような凹凸を除くために要求されるさらなる操作、例えば表面をトリミングするか、または表面上に二次元プライ、例えば布プライを追加するような操作を要する、大きな表面凹凸の出現を避けることが望ましい。
【0010】
本発明の目的および概要
本発明の目的は、三次元織によって少なくとも部分的に形成され、かつ先の制約の間で良好な継目を示す強化用繊維織物を提供することである。
【0011】
本発明によれば、この目的は、三次元織が繻子型製織または多層繻子織による多層織であって、
・ 少なくとも第1、第2および第3の緯糸層と、
・ それぞれが第1の経糸層中のn本のうちの1本の経糸および第1の経糸層と隣合う第2の経糸層中のn本のうちの1本の経糸とを交互につかむ第1の経糸の組と、
・ それぞれが第2の緯糸層中のn本のうちの1本の緯糸および第2の緯糸と隣合う第3の緯糸層中のn本のうちの1本とを交互につかむ第2の経糸の組と
を備え、
・ 両方の経糸の組は、与えられた1つの緯糸平面において、第1の経糸の組の1つの経糸によって取られる第2の緯糸層の糸と第2の経糸の組の1つの経糸によって取られる第2の緯糸層の糸とが異なるように、経糸方向において互いにずれている(offset)同様の経路をたどり、
・ 数nは3以上の整数であり、好ましくはnは5以上である
という事実によって達成される。
【0012】
多層繻子織の使用はいくつかの利点を有する。
【0013】
第1に、経糸方向において、緯糸層を交絡する一方で、繻子織の機械的挙動が維持される。
【0014】
さらに、繻子型製織は、非平面の形状への適合を可能にする良好な程度の変形能を維持する布を実現する。
【0015】
内側部分またはコアと、繊維織物の外側表面に隣接した外側部分または表皮とを持つ繊維織物について、コアは有利にはこのような多層繻子織の少なくとも一部から作成される。
【0016】
表皮は、したがって二次元織によって形成され得る。表皮の製織は、平滑な表面外観の提供に寄与する繻子型製織を使用し得、表皮中の繻子ピッチは、したがって有利には、表皮に隣接した繊維織物のコアの部分における繻子ピッチと等しい。変形において、表皮は、CVI緻密化が実行される場合に、表皮を通るガスのための容易な到達を与える平織によって織られ得る。
【0017】
例えばそれぞれ異なるピッチを有する多層繻子織によって2つのコア部分を形成することによって、繊維織物のコア内で多層繻子織に変化を生じさせることが可能である。
【0018】
繊維織物の特徴によれば、コアは、不連続繊維から作製される糸によって織られる一方で、表皮が連続フィラメントから作製される糸によって織られる。コア中で不連続繊維から作製される糸の使用は、繊維を嵩張らせることによってコア内の細孔を細分化することを可能にする一方で、表皮中の連続フィラメントから作製された糸の使用は、CVI緻密化の間にガスのための到達および著しい凹凸の無い表面状態を促進する。したがって、コアと表皮との間のCVI緻密化の勾配の低減を得ることが可能である。
【0019】
繊維織物の他の特徴によれば、経糸構造および緯糸構造の少なくとも1つは、繊維織物の厚さ中で変化する。構造は、コアと表皮との間の単位長あたりの糸の数を減らす方向で変化し得、それにより、CVI緻密化の間に繊維構造のコアへのガスのための到達を促進する。
【0020】
繊維織物の他の特徴によれば、繊維構造の種々の部分は、特定の所望の特性、特に酸化または磨耗に対する耐性を与える目的のために、異なる化学的性質を有する糸を用いて作製される。
【0021】
繊維織物のさらに他の特徴によれば、製織のために使用される糸は、繊維構造内で変化する糸打込数を示す。特に、糸は、CVI緻密化の間にコアへのガスのための到達を容易にするために、繊維織物のコア部分から表皮部分に向かって細くなり得る。
【0022】
本発明の態様は以下の非限定的な方法により記載される。参照は、添付の図面についてなされる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、先行技術のインターロック型の三次元織を示す。
【図2】図2は、繻子型多層製織によって得られた繊維織物の平面を示す。
【図3】図3は、本発明の態様における多層繻子織による多層織によって得られた繊維織物の平面を示す。
【図4−1】図4Aないし4Fは、コアにおいて多層繻子織を有し、表皮において繻子織による二次元織を有する本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図4−2】図4Gないし4Lは、コアにおいて多層繻子織を有し、表皮において繻子織による二次元織を有する本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図4−3】図4Mないし4Pは、コアにおいて多層繻子織を有し、表皮において繻子織による二次元織を有する本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図5−1】図5Aないし5Cは、コア中の2つの異なる多層繻子織と、表皮中で平織による二次元織とを組合せた製織による、本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図5−2】図5Dないし5Fは、コア中の2つの異なる多層繻子織と、表皮中で平織による二次元織とを組合せた製織による、本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図5−3】図5Gないし5Iは、コア中の2つの異なる多層繻子織と、表皮中で平織による二次元織とを組合せた製織による、本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【図5−4】図5Hないし5Lは、コア中の2つの異なる多層繻子織と、表皮中で平織による二次元織とを組合せた製織による、本発明の他の態様における繊維織物の一連の平面を示す。
【0024】
定義
用語「二次元織」または「2D織」は、ここでは、各経糸が単一の緯糸層中の糸の一方の側から他方の側に通されような通常の製織技術を示すために用いられる。
【0025】
用語「三次元織」または「3D織」は、少なくとも一部の経糸が、複数の経糸層に渡って経糸を交絡するような製織技術を示すためにここで用いられる。
【0026】
用語「インターロック織」は、ここでは、各経糸層が複数の緯糸層と交絡され、ある1つの経糸列の糸の全てが製織平面中で同じ動きを持つ3D織を示すために用いられる。図1は、7層の経糸層と8層の緯糸層とを有するインターロック織の、8つの平面の1つの図である。示されたインターロック織において、1つの緯糸層Tは、経糸方向において互いにずれた2つの隣合う緯糸半層tから作製される。したがって、千鳥構造中に配置された16の緯糸半層が存在し、各経糸は3層の緯糸層を交絡する。千鳥構造ではない緯糸のための位置を採用することも可能であり得、2つの隣接した層の緯糸は同じ列上で位置合わせされる。
【0027】
用語「多層織」は、ここでは、通常の2D織と同じ各層の基本の織り方による複数の緯糸を持つが、緯糸層を互いに交絡するいくつかの織りの交絡点を持つ3D織を示すために用いられる。
【0028】
用語「構造(structure)」は、ここでは、緯糸方向と経糸方向との両方の単位長あたりの糸の数を示すために用いられ、低い打込数の(または疎)構造は、数本の糸しか存在せず、したがって、布が高い打込数(すなわち密構造)を持つ構造と比較してより疎であるということを意味する。
【0029】
用語「連続フィラメント」は、ここでは、それらの直径と比較して非常に大きな長さを持つ繊維要素を示すために通常の仕方で用いられる。したがって、複合材料部材のためのプリフォームを構成し、かつ連続フィラメントを用いて作製される強化用織物の例において、プリフォーム内において連続的に延びる少なくとも非常に大きな大部分のフィラメントは、プリフォームの幾何学的境界にてのみ遮られる。天然物ではない連続フィラメントは、通常、合成材料を紡績することによって得られ、可能ならば次に1つ以上の物理化学的操作(延伸、オイリング、熱処理など)が続く。
【0030】
連続フィラメントから作製される糸、またはマルチフィラメント糸は、撚られているかまたは撚られていない連続フィラメントを並置してアセンブルすることによって作製される。
【0031】
用語「不連続繊維」は、ここでは連続フィラメントをカットするか、または牽切することによって作製される天然物ではない繊維からなる繊維要素を示すために通常の仕方によりここで用いられる。不連続繊維または短繊維は、通常、数ミリメートルないし数十ミリメートルの長さを持つ。
【0032】
不連続繊維から作製される糸、または繊維糸は、撚りによって、または被覆によって不連続繊維をアセンブルすることにより作製され、被覆は、撚られていないかまたは軽度に撚られ得る不連続繊維の組の周りに被覆糸を巻きつけることによって結束を付与することからなる。
【0033】
明細書を通して、および図の全てにおいて、慣例により、かつ便宜的な理由のために、緯糸層または複数の緯糸層の緯糸を結束するためのそれらの経路から偏った経糸のみにしか言及も示されてもいない。それにも拘わらず、経糸と緯糸の役割は反転され得、このような発明は請求項によってカバーされると考えられるべきである。
【0034】
発明の態様の詳細な記述
本発明の応用の分野は、複合材料部材を構成するための繊維強化材、またはプリフォームを構成するために適切な繊維織物を形成することであり、前記部材はマトリクスで繊維織物を緻密化することによって得られる。マトリクスは、比較的低温、典型的に300℃以下にて使用される複合材料のための樹脂であり得るか、または熱構造複合材料のためのカーボンまたはセラミックのような耐火材料であり得る。
【0035】
3D織によって繊維織物を形成することは、単回の織物操作にて層の間に交絡を獲得し、したがって繊維織物および非常に良好な機械的挙動を示す結果として生じる複合材料部材を得ることを可能にする。
【0036】
図2は、緯糸Tの繻子型交絡層の多層3D織の平面を示す(緯糸は千鳥構造で配置されていない)。
【0037】
各経糸は、緯糸層に渡る経路から周期的に偏り、その緯糸層の緯糸を交互につかみ、前記緯糸層の緯糸と、隣接した緯糸層の基礎をなす同じ列に配置された緯糸とを一緒につかむ。これは、2つの隣接する緯糸層の糸を一緒につかみ、したがって緯糸層の間に交絡を与える二重の繻子交絡点PS2と交互になる、通常の単一の繻子交絡点PS1を形成する。
【0038】
それにも拘わらず、繻子交絡点PS2は、交差した緯糸による単一の点を構成し、それにより、このような繊維織物を密にすることにより得られる部材の機械的挙動に影響し得る著しい凹凸を繊維織物に与える。この欠点は、使用される糸が著しい程度の剛性を示す、例えばセラミックまたは小さな打込数の糸の場合に特に顕著である。したがって、緯糸の配列を乱さない偏りをPS2点にて付与することは困難である。
【0039】
それ故に本発明は、このような欠点を避ける特定の繻子型製織または「多層繻子織」による多層3D織を与えることを模索する。
【0040】
本発明による「多層繻子」製織平面は図3に示される。
【0041】
それは、経糸Cと一緒に少なくとも3層の緯糸Tの層を含み、各経糸は主にそれぞれ隣接する2つの緯糸層の間に延びる。
【0042】
各経糸は、第1の緯糸層中のn本のうちの1本の緯糸と、第1の緯糸層と隣接した第2の緯糸層中のn本のうちの1本の緯糸とを交互につかむために、ある方向と他の方向とに交互に偏らせられる(ここでnは3以上の整数であり、これによりこれら2つの層の間に交絡を与える)。
【0043】
nの数が全ての経糸について同じなので全ての緯糸の動きまたは移動は似ているが、連続した緯糸の間の経糸方向においてずれているので、経糸によって取られる与えられた緯糸層の特定の糸は異なっている。
【0044】
このような多層繻子織において、用語「ピッチ」は、緯糸の列の数として計られた、1つの与えられた経糸の2つのPS繻子点の間の間隙を示すために使用される。図3の例において、ピッチは6ないし10の間で変動し、平均ピッチ8、すなわちn/2を与える。
【0045】
第1の緯糸層に取られる層と、与えられた経糸による第2の糸層に取られる糸とは、凹凸を生じ得る過剰に曲がりくねった経路をたどる経糸を避けるために、好ましくは隣接していない異なる緯糸の列に配置される。したがって、数nは、有利には、この条件を容易に満足させるために5以上である。
【0046】
同様の経糸の動きまたは移動は、多層繻子織の全ての平面において同じである。
【0047】
図1に示された種類の先行技術のインターロック織と比較すると、多層繻子織は、経糸方向において良好な機械的特性を維持し、かつより規則正しい表面外観を維持することを可能にする。
【0048】
さらに、繊維織物は殆ど経糸収縮を示さず、かつ非平面の形状に適合し得る変形能を示す。
【0049】
内側部分またはコア、および繊維織物の外側表面に隣接した外側部分または表皮を持つ繊維織物について、表皮は、コアのものとは異なる織り方による製織によって、例えば、表面にて織物を「密」にするために、平織、繻子、または綾織型の二次元織によって作製され得、ここで繻子型製織も平滑な表面外観を形成する。表皮における製織の変化は、所望される特定の特性を付与するために、例えば、緊密な交絡を促進する平織型製織から、平滑な表面状態を促進する繻子型製織へと移行させることによって、繊維織物の外側表面にて達成され得る。
【0050】
繊維織物が、化学気相浸透(CVI)によって得られるマトリクスで複合材料部材を構築するためのものである場合、繊維織物のコアとその表皮との間で可能な限り小さな緻密化勾配によるCVI緻密化を促進するために、前記部材内で可能な限り不均一性の少ない機械的特性を得ることも有利である。
【0051】
このために、コアの製織は、繊維の嵩張りによる繊維の細孔の細分化を促進するため、および反応ガスのための到達を促進するために、不連続繊維から作製される糸によって実行され得る。被覆糸によって与えられる実質的に撚られていない結束を持つ不連続繊維から作製される糸を使用することが可能である。被覆糸は、有利には製織の後に除去される犠牲材料から作製され、それにより、織布の細孔の細分化およびCVI緻密化の勾配の低減の一助を実現する。犠牲被覆糸によって不連続繊維から作製されるこのような繊維は、文献EP 0 489 637に記載されている。
【0052】
緻密化の後に、凹凸の無い表面状態、すなわち機械加工による仕上処理を避けるかまたは限定する良好な仕上状態の獲得を促進することも有利である。
【0053】
表皮は、不連続繊維の嵩張りを避けるために、連続フィラメントから形成される糸による製織によって作製され得る。
【0054】
なお、反応ガスのための到達の促進の目的のためには、表皮は、コアにおけるよりも低い打込数を示す経糸および/または緯糸構造から作製され得る。
【0055】
特に、コアと表皮とで、および/または経糸と緯糸との間で異なる打込数を有する糸を使用することによって、繊維織物を織るために使用される糸の打込数を変えることが望ましいだろう。コアと表皮との間で細さを増す糸の使用は、緻密化がCVIによって実行された場合に、表皮を通るガスのコアへの到達を促進させる。糸の打込数は、それ故に、経糸繊維の体積分率および緯糸繊維の体積分率の間の望ましい限度内の比率を得るように選択される。
【0056】
それぞれ異なる多層繻子織により異なるコアの部分を織ることによって、コア内で多層繻子織を変えることも可能である。
【0057】
外側表面に沿って表皮中で製織の変化を生じさせることも可能である。
【0058】
糸の化学的性質は、意図された用途の機能により選択される。結果として生じる複合材料部材に対して特定の機械的特性、特に酸化または磨耗に対する耐性の特性を付与するために、繊維織物の異なる部分の間で、特にコア部分と表皮部分との間で異なる化学特性の糸の使用が望ましいであろう。
【0059】
したがって、耐火繊維強化材による熱構造材料複合部材について、コアにおいて炭素繊維による繊維構造を使用すること、および、表皮においてセラミック繊維、例えば炭化ケイ素(SiC)繊維を使用し、前記表皮部分において複合部材の磨耗耐性を増大させることが可能である。
【0060】
本発明による繊維構造の2つの態様は以下に記載される。両方の例において、製織はジャガード型織機で実行される。
【0061】
例1
図4Aないし4Pは、コアにおける多層繻子三次元織による3D織と、表皮14、16における二次元織とによって得られた繊維織物織物10の一連の表面を示す。
【0062】
コアにおける製織は8ピッチを持つ多層繻子織によってなされ、表皮の製織は同じく8ピッチを持つ繻子織によってなされる。
【0063】
繻子交絡点は、列または深さ方向において何ら特徴的な配列無しで、規則正しく、かつ一連の製織平面中に分布するパターンを形成することが理解できる。
【0064】
繊維織物10は、5層の緯糸層T1ないしT5を含む。対向する表皮14と16との間に位置するコア12において、多層繻子織は、EP 0 489 637に記載されたように、犠牲材料の被覆糸によって一緒に結束された不連続炭素繊維から作製される糸によって実行され、かつ各層において10/10構造(緯糸方向と経糸方向との両方におけるセンチメートルあたりの10糸)を有する。一例として、被覆糸は、ポリビニルアルコールのような可溶性ポリマーから作製されるか、または繊維の炭素に影響を与えることの無い熱処理によって除去され得るポリエチレンまたはポリビニルアセテートのようなポリマーから作製される。表皮14および16において、繻子織は連続炭素フィラメントから作製され、かつ10/10構造を有する糸を用いて織られる。繻子織で交絡する織物は、緯糸層T1およびT5のみしか伴わない。コアの多層繻子織は全て表皮緯糸層の方に延び、これらの層とコア層を交絡する。
【0065】
通常、コアおよび表皮中の製織のために使用される糸は、変形の態様において全て同じ型のものであり得る。すなわちそれらは全て、不連続繊維または連続フィラメントから作製され得る。
【0066】
例2
図5Aないし5Lは、12層の緯糸層U1ないしU12を含む多層3D織によって得られた織物20の一連の平面を示す。以下の表は、使用された織り方および3D織構造を纏め、織物20における製織のバリエーションは、中央平面に関して対称であり、コア22のいずれかの側に配置された表皮24、26を有する。いくつかの緯糸層は、他の層の数と異なる数の緯糸層を持ち、緯糸構造の変化を与える。
【表1】

【0067】
この例において、多層繻子織および構造は、コアと表皮との間で変化する。織り方および構造における変化は、層U5ないしU8の6-繻子と表皮平織との間の緯糸層U3、U4およびU9、U10のために5-繻子を採用することによって幾分進歩的となるように作製され、それによりコアと表皮との間の過度に著しい不連続性を避けることが理解され得る。
【0068】
変形において、表皮の多層織のために綾織型製織を使用することが可能であろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合材料部材のための強化用繊維織物であって、前記織物は繻子型製織または多層繻子型製織による多層三次元織によって少なくとも一部が形成され、前記織物は、
・ 少なくとも第1、第2および第3の緯糸層と、
・ それぞれが第1の経糸層のn本のうちの1つの経糸および前記第1の経糸層と隣合う、第2の経糸層のn本のうちの1つの経糸とを交互につかむ第1の経糸の組と、
・ それぞれが前記第2の緯糸層のn本のうちの1本の緯糸および前記第2の緯糸層と隣合う前記第3の緯糸層のn本のうちの1本の緯糸を交互につかむ第2の経糸の組と
を備え、
・ 前記両方の経糸の組は、与えられた1つの緯糸平面において、前記第1の経糸の組の1つの経糸によって取られる前記第2の経糸層の糸と前記第2の経糸の組の1つの経糸によって取られる前記第2の経糸層の糸とが異なるように、経糸方向において互いにずれている同様の経路をたどり、
・ 数nは、3以上の整数である
繊維織物。
【請求項2】
nが5以上である、請求項1による繊維織物。
【請求項3】
内側部分またはコアと、前記繊維織物の外側表面と隣接した外側部分または表皮とを持ち、前記コアが前記多層繻子織によって少なくとも一部が作製される、請求項1または請求項2による繊維織物。
【請求項4】
前記表皮が二次元織によって形成される、請求項3による繊維織物。
【請求項5】
前記表皮の製織が繻子型の製織を有する、請求項4による繊維織物。
【請求項6】
前記表皮中の繻子ピッチが、前記表皮に隣接した前記コアの部分における繻子ピッチと等しい、請求項5による繊維織物。
【請求項7】
前記コアが、それぞれ異なる第1および第2の繻子ピッチによる多層繻子織によって形成される少なくとも第1および第2の部分を持つ、請求項3ないし6のいずれか1項による繊維織物。
【請求項8】
前記コアが不連続繊維から作製された糸によって少なくとも一部が織られ、かつ前記表皮は連続繊維から作製された糸によって織られる、請求項3ないし7のいずれか1項による繊維織物。
【請求項9】
少なくとも1つの経糸および緯糸構造が、前記繊維織物の厚さ中で変化する、請求項1ないし8のいずれか1項による繊維織物。
【請求項10】
前記繊維構造が、前記コアから前記表皮への減少方向において変化する、請求項9による繊維織物。
【請求項11】
前記繊維織物の異なる部分が、異なる化学特性の糸により作製された、請求項1ないし10のいずれか1項による繊維織物。
【請求項12】
製織に使用される糸が前記繊維織物内で変化する糸の打込数を示す、請求項1ないし11のいずれか1項による繊維織物。
【請求項13】
マトリクスによって緻密化された、請求項1ないし12のいずれか1項による強化用繊維織物を持つ複合材料部材。
【請求項14】
化学気相浸透によって少なくとも一部が形成されたマトリクスを持つ熱構造複合材料から作製された、請求項13による部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4−1】
image rotate

【図4−2】
image rotate

【図4−3】
image rotate

【図5−1】
image rotate

【図5−2】
image rotate

【図5−3】
image rotate

【図5−4】
image rotate


【公表番号】特表2009−541603(P2009−541603A)
【公表日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−515932(P2009−515932)
【出願日】平成19年6月20日(2007.6.20)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051477
【国際公開番号】WO2007/148019
【国際公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(502202281)スネクマ・プロピュルシオン・ソリド (48)
【氏名又は名称原語表記】SNECMA PROPULSION SOLIDE
【Fターム(参考)】