説明

複合構成部材を製造するための方法および金属・セラミック構成部材

複合構成部材、特にブレーキディスクを製造するための方法ならびに金属・セラミック構成部材が提案されている。この方法では、多孔質のセラミックプリフォームを製造し、これを金属溶融物によって溶浸する。本発明によれば、溶浸の際に金属溶融物として、銅と少なくとも1種の別の金属とから成る合金を使用し、この場合、この別の金属を、プリフォームの少なくとも1種の反応性の成分と反応させることにより、セラミック相の気孔室が、ほぼ純粋な銅によって埋められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景技術
本発明は、請求項1の上位概念に記載の形式の複合構成部材を製造するための方法ならびに、請求項9の上位概念に記載の形式の金属・セラミック構成部材に関する。
【0002】
金属・セラミック構成部材は実際に公知であり、特にブレーキディスクのように摩擦学的な使用において用いられる。このような形式の構成部材は、セラミック・金属複合材から成っていて、金属材料とセラミック材料の特性プロフィールが組み合わされている。これは一方では、セラミックのように高い耐摩耗性および耐腐食性を有していて、他方では金属のように高い損傷許容範囲および高い熱伝導性を特徴とする。さらに、セラミック・金属複合材から成る構成部分もしくは金属・セラミック構成部分は、高い温度のもとでも高い機械的安定性を有している。
【0003】
セラミック・金属複合材は、例えばいわゆるキャスト式金属基複合材(MMCcast)として、またはプリフォーム式金属基複合材(MMCpref)として形成することができる。キャスト式金属基複合材では、鋳造したい金属相の製造中に20%までのセラミック繊維または粒子が混合され、プリフォーム式金属基複合材は、場合によっては60%よりも多くのセラミック含量を有していて良く、ひいてはキャスト式金属基複合材よりも耐摩耗性および耐腐食性がある。
【0004】
構成部分をプリフォーム式金属基複合材から製造する場合、多孔性のセラミックプリフォームには無圧で、または外部の圧力がかけられながら金属溶融物が溶浸される、もしくは充填される。溶浸すべき金属相の融点に応じて溶浸温度が選択される。この場合、公知のプリフォーム式金属基複合材では、所望の低い溶浸温度により、完成した構成部分における金属相の融点も低くなる。
【0005】
DE19706925号特許明細書では、金属・セラミック複合材を製造するための方法が記載されている。この方法では、製造プロセスの経過において金属相の融点が高められる。このことはセラミックと、融点の低い共晶の、セラミックに対して反応性の金属を有する金属合金とから成る、粉体から形成された混合物を圧力下で熱処理し、これにより反応性の合金成分とセラミック相を反応させ、熱処理の経過において、残留させたい金属相の融点を高めることにより得られる。これにより、金属相には、合金のうち反応性でない高融点の金属成分のみが残留する。
【0006】
EP0859410A2号特許明細書により、プリフォーム式金属基複合材から成る構成部分を製造するための方法が公知である。この場合、炭化ケイ素から製造されたセラミックプリフォームがガス圧溶浸法によって銅または銅合金によって溶浸される。銅合金の溶浸の際には、複合構成部材の金属相の融点は、その融点が1083℃の純粋な銅の溶浸の際の融点よりも低い。従って純銅が溶浸された複合材は、最大の使用温度が高いことを特徴とする。これはコンポジットの金属相の融点に相応する。しかしながらこのような複合材の製造には高いプロセス温度を要する。
【0007】
しかしながら高いプロセス温度は、金属溶融物におけるガス溶融を増加させる。このことは、溶浸のために使用される鋳造工具およびプリフォームの高い熱的な負荷と同様に回避されなければならない。
【0008】
発明の効果
複合構成部材、特にブレーキディスクを製造するための、請求項1の上位概念に基づく特徴を備えた本発明の方法では、金属溶融物として、銅と少なくとも1種の別の金属とから成る合金が使用され、この場合、別の金属がプリフォームの少なくとも1種の反応性の成分と反応して、セラミック相の気孔質がほぼ純粋な銅によって充填される。このような方法は、金属溶融物が、銅の溶融温度よりも低いプロセス温度で溶浸され、得られる複合構成部材が金属相としてほぼ純粋な銅を有しており、これにより得られた構成部材の最大の使用温度が銅の融点の範囲、即ち1083℃の範囲であるという利点を有している。純粋な銅の溶浸と比較して低い本発明の方法における溶浸温度は、とりわけ短い加熱段階によりプロセス時間が短くなり、ひいては製造コストもおさえられる。さらには、使用される鋳造型およびプリフォームの熱的負荷が小さくなる。また、少量のガスが金属溶融物において溶融する。
【0009】
本発明の方法は特に、摩擦学的な使用のために設計された構成部材の製造のために適している。例えばこの方法によれば、自動車のブレーキディスクが製造される。その最大の使用温度は有利には800℃よりも高い。これは、金属相がほぼ純粋な銅から成る金属・セラミック複合部材においては可能である。
【0010】
本発明の方法により製造された複合構成部分は、高い耐摩耗性と高い耐腐食性と、大きな損傷許容範囲と、高い熱伝導性とを特徴とする。
【0011】
本発明の有利な方法では、金属溶融物が680℃〜1000℃の温度で溶浸される。
【0012】
金属溶融物の溶浸は特に、約100〜300barの圧力下で行われ、溶浸後の収縮による空隙の形成を回避するために、約1〜5分の所定の時間、約300〜700barの圧力が溶浸されたプリフォームに後から加えられる。
【0013】
純粋な銅が溶浸されたプリフォームに比べて僅かな重量を特徴とする複合構成部材を得るために、有利には、別の金属が銅よりも小さい比重を有している金属合金が溶浸される。例えば合金としては、CuMg合金、CuAl合金、CuSi合金、CuZr合金、CuTi合金が使用される。これら全ての合金は、融点が純粋な銅の融点よりも低い合金である。
【0014】
プリフォームの反応性の構成部分は少なくとも1種の酸化物、特にTiO2及び/又はZrO、少なくとも1種の炭化物、及び/又は少なくとも1つの窒化物から成っていて良い。
【0015】
別の合金エレメントと反応性のセラミック化合物の反応は、金属溶融物の溶浸中に、即ち状況に応じては、または制御された後熱処理の際に行われる。後熱処理の際に反応が行われる場合、溶浸条件は、反応性のセラミック化合物の表面領域における部分的な反応が行われ、従って溶浸が簡単にされるように調節される。溶浸中の反応の際にも行われるように、化学的な反応は溶浸圧を減少させる。このことは、反応により新たに形成された相に基づき放出される反応熱もしくは変化する表面張力によるものである。
【0016】
本発明の特に有利な方法では、プリフォームが50vol%の多孔性を有している。これにより銅よりも軽い合金エレメントの反応のために良好な反応条件が得られる。これにより、製造された材料の総密度は小さくなる。
【0017】
プリフォームは、金属溶融物に対して不活性で、特に酸化物、炭化物、窒化物またはホウ化物から成る粒子又は繊維から成っている成分を有している。酸化物は例えば酸化アルミニウムAlまたは二酸化ジルコニウムZrO2、炭化物は例えば炭化ケイ素SiC、炭化チタンTiC、炭化タングステンWC、または炭化ホウ素BCであって、窒化物は例えば窒化ケイ素Si、窒化ホウ素BN、窒化アルミニウムAIN、窒化ジルコニウムZrN、窒化チタンTiNであって、ホウ化物は例えばホウ化チタンTiBである。不活性の成分は特に、製造された複合構成部ために補強部材及び/又は機能部材として働く。これにより例えば炭化ケイ素またはアルミニウム化チタンは製造された材料の熱導出性を高める。セラミック繊維は製造された材料の強度と破壊靭性を高める。
【0018】
本発明は、メタル・セラミック構成部分、特にブレーキディスクを対象としている。この構成部分は、気孔室を有するセラミック相を有しており、この気孔室はほぼ純粋な銅によって充填されている。本発明によればセラミック相が反応性のセラミック成分と、銅合金のうち銅よりも小さな比重を有する金属とから成る反応生成物を有している。
【0019】
本発明による金属・セラミック構成部分は、密度、ひいては重量に関して良好な特性を特徴とする構成部分を成している。
【0020】
摩擦負荷の際の高いエネルギ入力によりトライボロジックな負荷がかけられる構成部分で生じる高い熱的な傾度もしくは大きな熱的な応力を回避するために、構成部分は有利には70w/mkよりも大きい熱伝導性λを有している。このことは銅の相応の容積割合によって保証される。銅は400w/mkの熱伝導性を有している。
【0021】
ブレーキディスクとして使用する際に金属・セラミック構成部分に十分な損傷許容範囲をもたせるために、構成部材は有利には10MPa・m1/2よりも大きい、有利には15MPa・m1/2よりも大きい破壊靭性を有している。
【0022】
銅の含量が20〜45vol%、有利には25vol%〜40vol%、対応するセラミックの含量が55〜80vol%、有利には60〜75vol%であるならば特に、上記の熱伝導性および上記の破壊靭性の調整が、本発明の構成による構成部分で得られる。
【0023】
本発明の対象のさらなる利点および有利な構成は、明細書および請求の範囲に記載されている。
【0024】
本発明の方法の6つの実施例は、本発明によるそれぞれ対応する金属・セラミック構成部材に関する以下の記載に記載されている。
【0025】
実施例の説明
本発明による方法の第1実施例ではまず最初に、ブレーキディスクの形状を有した多孔性のセラミックプリフォームが製作される。このプリフォームは、ほぼ50vol%の多孔性を有しており、不活性の成分および反応性の成分から成っている。プリフォームの不活性の成分は炭化ケイ素から成っている。反応性の成分は二酸化チタンから成っている。セラミックのプリフォームは、粉体をプレス成形して成るグリーンシートの焼結により形成される焼結体である。
【0026】
焼結されたプリフォームには、1つのダイカスト型もしくは注型用金型内でCuAl合金から成る溶融物が充填されるもしくは溶浸される。この溶融物は、67重量%のアルミニウム含量を有している。この合金の融点は548℃である。次いで、金属溶融物を溶浸されたプリフォームに制御された熱処理プロセスを施す。この熱処理プロセスでは、アルミニウムと二酸化チタンが反応して、酸化アルミニウムとアルミニウム化チタンとが生じる。金属相としては高融点の銅が残留する。この銅は、酸化アルミニウムとアルミニウム化チタンとを有するセラミック相の気孔室を埋める。このように生じた構成部分は完成したブレーキディスクを成す。
【0027】
本発明による方法の選択的な実施例では、まず最初に多孔性のセラミックプリフォームを製造する。このプリフォームは同様に、ブレーキディスクの形状を有し、反応性の成分として酸化アルミニウムAlを有している。このプリフォームにはダイカスト型において、低融点のCuMg合金から成る金属溶融物が充填される、もしくは溶浸される。この金属溶融物は共晶的な組成を有しており、溶融物における銅の含量は90.3重量%であって、合金の融点は722℃である。反応性のマグネシウムは、セラミックプリフォームを酸化アルミニウムに溶浸する間に酸化する。これによりスピネルMgAlから成るセラミック相への反応が行われ、結果として生じた完成したブレーキディスクを成す構成部分の金属相として銅が残留する。
【0028】
選択的に、セラミックプリフォームは反応性の成分として二酸化チタンTiOを有していて良い。このTiOは、金属溶融物のマグネシウムと反応してMgTiOになる。
【0029】
本発明による方法のさらに別の実施例では、ブレーキディスクを製造するためにまず最初にセラミックプリフォームを製造し、このプリフォームが反応性の成分として、二酸化チタンTiOを、従ってセラミック酸化物を有している。
【0030】
セラミックプリフォームにはダイカスト型において、CuSi合金から成る金属溶融物が溶浸され、その金属溶融物のシリコン含量は8重量%であって、その融点は680℃である。
【0031】
次いで、溶浸されたプリフォームに制御された熱処理を施し、これにより金属溶融物のシリコンがセラミック酸化物TiOと反応して、ケイ化チタン、例えばTiSi及び/又はTiSiになる。完成された金属・セラミック複合構成部材を成すブレーキディスクの金属相としてはほぼ純粋な銅が残留する。
【0032】
本発明による方法の別の実施例では、ジルコニウムZrに対して酸化剤として作用する反応性の成分を有するセラミックプリフォームを製造する。このプリフォームは約50vol%の気孔体積を有している。
【0033】
次いで、プリフォームに、CuZr合金から成る金属溶融物を溶浸する。この金属溶融物は共晶の組成を有しており融点は972℃である。合金におけるジルコニウムの割合は11.5重量%である。セラミックプリフォームの酸化作用を有する化合物と反応して、金属溶融物のジルコニウムは二酸化ジルコニウムZrOになる。製造された金属セラミックの、例えばブレーキディスクを成す構成部材の金属相としては銅が残留する。
【0034】
本発明による方法の更に別の実施例では、ブレーキディスクの製造のために、チタンに対して酸化剤として作用する反応性の成分を有するセラミックのプリフォームを製造する。このプリフォームにはダイカスト型において、共晶の組成のCuTi合金から成る金属溶融物が溶浸される。この金属溶融物は、25Atom%の割合のチタンと885℃の融点を有する。金属溶融物のチタンは酸化作用を有するプリフォームの成分と反応して、二酸化チタンTiOになる。製造された金属セラミック構成部材の金属相としてはやはり銅が残留している。
【0035】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、特にブレーキディスクの製造に限定されるものではない。むしろ、その都度の使用例に合った形状を有した多数のセラミックプリフォームを使用し、これは合金成分に対して反応的に作用する成分を有している。これにより、銅と別の金属とから成る合金の金属溶融物が溶浸される際に、この別の金属が反応してセラミック相となり、製造された構成部材の金属相はほぼ純粋な銅から成っている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構成部材、特にブレーキディスクを製造するための方法であって、次のステップを有している、即ち、
−多孔性のセラミックのプリフォームを製造し、
−多孔性のセラミックのプリフォームに金属溶融物を溶浸する、もしくは充填するステップを有している方法において、
金属溶融物として、銅と少なくとも1種の別の金属とから成る合金を使用し、この場合、この別の金属を、プリフォームの少なくとも1種の反応性の成分と反応させることにより、セラミック相の気孔室が、ほぼ純粋な銅によって埋められるようにすることを特徴とする、複合構成部材、特にブレーキディスクを製造するための方法。
【請求項2】
金属溶融物を、銅の融点よりも低い温度、有利には680℃〜1000℃で溶浸する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
金属溶融物に溶浸されたプリフォームに、制御された後熱処理を施す、請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
プリフォームの多孔性が約50vol%である、請求項1から3までのいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
合金の別の金属が、銅よりも小さい比重を有しており、合金としては有利には、CuMg合金またはCuAl合金またはCuSi合金またはCuZr合金またはCuTi合金を使用する、請求項1から4までのいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
プリフォームの反応性の成分が、少なくとも1種の酸化物、特にTiO及び/又はAl及び/又はZrO及び/又は少なくとも1種の炭化物及び/又は少なくとも1種の窒化物から成っている、請求項1から5までのいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
プリフォームが、金属溶融物に対して不活性であって、特に酸化物または炭化物または窒化物またはホウ化物から成る粒子または繊維から成っている成分を有している、請求項1から6までのいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
プリフォームの不活性の成分を、製造された複合構成部材の補強エレメント及び/又は機能エレメントとして使用する、請求項7記載の方法。
【請求項9】
金属セラミック構成部分、特にブレーキディスクであって、気孔室を有するセラミック相を有しており、前記気孔室はほぼ純粋な銅によって充填されている形式のものにおいて、
セラミック相が、反応性のセラミック成分と、銅合金の銅よりも小さい比重を有している金属とから成る反応生成物を有していることを特徴とする、金属セラミック構成部分。
【請求項10】
銅合金が、CuAl合金またはCuMg合金またはCuSi合金またはCuZr合金またはCuTi合金であって、反応生成物が、酸化アルミニウムとアルミニウム化チタン、またはMgAlまたはMgTiO、またはTiSiまたはTiSiのようなケイ化物、または二酸化ジルコニウムZrO、または二酸化チタンTiOから成っている、請求項9記載の金属セラミック構成部分。
【請求項11】
銅の含量が20〜45vol%、有利には25〜40vol%であって、セラミックの含量が55〜80vol%、有利には60〜75vol%である、請求項9又は10記載の金属セラミック構成部分。
【請求項12】
セラミック部分が、少なくとも1種の酸化物及び/又は少なくとも1種の炭化物及び/又は少なくとも1種の窒化物及び/又は少なくとも1種のホウ化物から成る粒子及び/又は繊維を有している、請求項9記載の金属セラミック構成部分。
【請求項13】
破壊靱性が、10MPa・m1/2よりも大きく、有利には15MPa・M1/2より大きい、請求項9記載の金属セラミック構成部分。
【請求項14】
熱伝導性が50W/mKよりも大きく、有利には70W/mkよりも大きい、請求項9記載の金属セラミック構成部分。

【公表番号】特表2006−517610(P2006−517610A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−518269(P2005−518269)
【出願日】平成16年10月4日(2004.10.4)
【国際出願番号】PCT/EP2004/052416
【国際公開番号】WO2005/042439
【国際公開日】平成17年5月12日(2005.5.12)
【出願人】(390023711)ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング (2,908)
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
【Fターム(参考)】