説明

複合物の製造方法および該方法で製造した複合物

【課題】本発明は、プロトン電池負極活物質のポリフェニルキノキサリン化合物の原料として毒性が極めて高いベンジジン骨格を有するジアミノベンジジンを用いることなく、十分な電気化学的性能を有するポリキノキサリン化合物を提供する。
【解決手段】本発明は、ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンを炭素材料の存在下に縮合重合することを特徴とする
下記式(1)


で示されるポリキノキサリン化合物(式中nは20以上200以下の整数を示す。)と炭素材料との複合物及びその製造方法に係る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素材料の存在下で特定のテトラケトン化合物と特定のテトラアミン化合物とを反応させて特定のキノキサリン骨格を有する重合体を合成することにより炭素材料と重合体とが複合した複合物を製造する方法、及びその方法により製造された複合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来携帯端末や、可搬電子機器等に用いられる電池としては、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、リチウム電池などが用いられている。これらの電池は、有害であったり、稀少であったり、ときに発火事故などを起こして、公害、資源の枯渇、安全性の観点から問題があった。さらに、充電の遅さ、急速放電によるIRドロップや、電池の劣化などの問題があった。これらの問題を解決するために、正負極とも有機分子で、電解液に導電率の高い酸性溶液を使用し、電子のキャリアーとしてプロトンを用いるプロトン電池が提唱されている(特許文献1)。
【0003】
当初のプロトン電池では、正負極ともポリアニリンが使用されていたが、エネルギー密度、起電力などが十分満足のいくものではなかった。粉末状の炭素の表面を有機物質で被覆した複合体を電極活物質に用いることにより、プロトン電池の性能は大きく向上した(特許文献2)。負極にはポリピリジンが使用されたが、エネルギー密度、サイクル性に問題があり、十分な実用性能を持つには至らなかった。負極にポリフェニルキノキサリン(PPQ)を用い、かつ粉末状炭素とポリフェニルキノキサリンを複合することにより、十分なエネルギー密度、起電力、サイクル性が達成され実用に供することができた(特許文献3)。
【0004】
プロトン電池負極活物質はポリフェニルキノキサリンであり、ビスベンジル(BBZ)と3,3’−ジアミノベンジジン(DABZ)の重縮合反応により合成される(反応式(A))。3,3’−ジアミノベンジジンは強変異原性のベンジジン骨格を有し、かつその合成中間体に製造禁止物質のベンジジンを含む問題があった。
【0005】
【化1】

【特許文献1】特許第3039484号
【特許文献2】特許第2974012号
【特許文献3】特許第3144410号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、プロトン電池負極活物質のポリフェニルキノキサリン化合物の原料として毒性の極めて高いベンジジン骨格を有するジアミノベンジジンを用いることなく、十分な電気化学的性能を有するポリキノキサリン化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、プロトン電池の負極材料に非ベンジジン骨格を有するポリキノキサリン化合物を用いることにより前記課題が解決できることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は下記[1]〜[8]のポリキノキサリン複合物及びその製造方法に関する。
【0008】
[1]ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンを炭素材料の存在下に縮合重合することを特徴とする
下記式(1)
【0009】
【化2】

で示されるポリキノキサリン化合物(式中nは20以上200以下の整数を示す。)と炭素材料との複合物の製造方法。
[2]炭素材料が導電性炭素材料である[1]に記載の製造方法。
[3]導電性炭素材料が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭素材料である[2]に記載の製造方法。
[4]溶媒の存在下に縮合重合を行うことを特徴とする[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、m−クレゾール、o−クレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である[4]に記載の製造方法。
[6]ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンを炭素材料の存在下に縮合重合することを特徴とする
下記式(1)
【0010】
【化3】

で示されるポリキノキサリン化合物(式中nは20以上200以下の整数を示す。)と炭素材料との複合物。
[7]炭素材料が導電性炭素材料である[6]に記載の複合物。
[8]導電性炭素材料が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭素材料である[7]に記載の複合物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法で製造された複合物は、従来のキノキサリン骨格を有する重合体と同等の性能を有する材料であり、かつ、毒性の高いベンジジン骨格を有する原料を使用することがないので、より安全に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に本発明の具体的内容を詳細に説明する。
本発明のポリキノキサリン化合物(PPQM)と炭素材料との複合物は、溶媒中ビスベンジル(BBZ)と3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン(TADM)を炭素材料の存在下で脱水重縮合することにより合成される(反応式(B))。ここで複合とは、炭素材料の表面に重合体が被覆され、あるいは炭素材料と重合体とが混合された状態を総称したものである。
【0013】
【化4】

この重縮合に際しては、溶媒の存在下において行うことが好ましい。ここで、重合時の溶媒中のモノマー濃度としては、ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンの質量の総計が全質量の5質量%以上40質量%以下が好ましく、8質量%以上30質量%以下が特に好ましい。モノマー濃度が低すぎると重合が進みにくく分子量が伸びない。ポリキノキサリン化合物(PPQM)と炭素材料との複合は、ポリキノキサリン化合物(PPQM)が炭素材料を被覆する形式が好ましいが、モノマー濃度が高すぎると重合溶液の粘度が上がり、混合しづらくなり、炭素材料への被覆が不均一となる。また、重合体の析出が早期に起こり分子量が伸びにくい。
【0014】
反応温度は室温から溶媒の還流温度以下で行う。好適には100℃〜180℃である。
反応時間は10時間から60時間であり、好適には20時間から40時間である。
反応終了後、通常は共重合体が沈澱として生成する。この沈殿を濾過により取り出し、沈澱に付着している溶媒は、メタノールなどの沸点の低い有機溶媒で洗浄し、取り出した湿潤固体を乾燥機で乾燥することにより、共重合体が得られる。乾燥条件は共重合反応で使用した溶媒が蒸発する条件であればよく、一般的には加熱乾燥が用いられ、好適には加熱真空乾燥が用いられる。
【0015】
本発明により得られるポリキノキサリン化合物の分子量はできるだけ高い方が電気材料としての耐久性が良好である。重量平均分子量は20000以上が好ましく、40000以上がさらに好ましい。また、5000未満の低分子量体が5質量%以下であることがさらに好ましい。なお、本明細書において重量平均分子量とはGPCにより測定したポリスチレン換算の重量平均分子量をいう。
【0016】
すなわち、前記分子量について、前記式(1)に記載のポリキノキサリン化合物における繰返し単位数nを用いて言い換えるならば、本発明において、nは20以上200以下の整数であるが、41以上が好ましく、81以上がさらに好ましい。また、nが11未満
の低分子量体が5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明で用いることができる溶媒には特に制限はないが、使用するモノマーが溶解しやすく、また反応しないものなら何でも使用できる。N,N―ジメチルホルムアミド、N,N―ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素系溶媒、ジメチルスホキシド、スルホランなどの含硫黄系溶媒、m−クレゾール、o−クレゾール等のフェノール系溶媒などが好適に用いられる。
【0018】
本発明で用いる炭素材料について説明する。本願における炭素材料とは、単体の炭素を主成分とする材料である。微粉状の炭素材料は概ね導電性を示すので好適であり、所謂導電性炭素材料が好適である。ポリキノキサリン化合物を被覆形成するための導電性炭素材料は特に限定されないが、導電性が高く、比表面積が大きく、粒径が小さいものが好ましい。但し比表面積が大きすぎる場合、または粒径が小さすぎる場合には、活性が高くなり、副反応を起こしやすく、また、得られる複合体が嵩高くなり体積あたりのエネルギー密度(Wh/L)が小さくなることもある。従ってこれらの好ましい範囲としては、導電率は室温で0.1S/cm以上、比表面積はBET法で1000以上100000m2/g以下、平均粒径(遠心沈降型粒度分布計によって測定された2次凝集粒径)は1μm以上20μm以下である。これら導電性炭素材料の具体例としてはケッチェンブラック、アセチレンブラック等のカーボンブラック類、椰子殻活性炭等の活性炭類、気層法炭素繊維、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛等の黒鉛類等が挙げられる。
【0019】
炭素材料は、溶媒中に、原料のビスベンジル(BBZ)および3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタン(TADM)と一括に添加することができる。炭素材料の添加量としては生成する共重合体との質量比が、5/95から50/50の範囲が好ましく、8/92から30/70が特に好ましい。炭素材料の添加量が少なすぎると、重合体の被覆量が多すぎ導電率が低下するので好ましくない。炭素材料の添加が多すぎると、得られる複合体が嵩高くなり、成型しづらくなり、また電極中の活性物質であるキノキサリン構造単位を繰り返し構造として含む共重合体量が少なくなり、複合物としての体積当たり及び質量あたりの電池容量が低下するので好ましくない。
【0020】
本発明におけるポリキノキサリン化合物と炭素材料の複合物を電極として使用するには適度な導電性が必要である。そのために複合物を適切な粒径に粉砕して用いることが好ましい。好ましい粒径としては平均粒径(例えば遠心沈降型粒度分布計によって測定された2次凝集粒径)が1μm以上20μm以下かつ最大粒径が200μm以下である。平均粒径が1μm以上15μm以下で、かつ最大粒径が100μm以下であるとさらに好ましい。ここで、最大粒径の測定方法は、前記平均粒径の測定の場合と同様である。粉砕法には特に限定されるものではないが、ビーズミル等の湿式法、パルベライザー、バンタムミル、ボールミル、ジェットミル、ピンミル等の乾式法が挙げられる。こうして粉砕された複合物の導電率は、25℃の体積導電率として、0.1S/cm以上が好ましく、0.2S/cm以上がさらに好ましい。
【0021】
本発明におけるポリキノキサリン化合物と炭素材料の複合物は電池用電極、特にプロトン電池の電極材料として使用することができる。プロトン電池の構成は、基本的には、正極/イオン電導層/負極の積層構造からなっているが、本発明のポリキノキサリン化合物と炭素材料の複合物は負極材料として有用である。
【実施例】
【0022】
以下に本発明について代表的な例を示し具体的に説明する。尚これらは説明のための単なる例示であって、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。
【0023】
<各複合物の調製>
実施例1:ポリキノキサリン化合物/ケッチェンブラック複合物(PPQM・KB)の合成
N,N−ジメチルホルムアミド(以降「DMF」と略す、純正化学(株)製 試薬特級)600gを加えた容量1リットルのガラス製セパラブルフラスコ(撹拌はね及び冷却管付
き)にビスベンジル34.2g(100mmol)、3,3’,4,4’−テトラアミノ
ジフェニルメタン22.3g(100mmol)を添加し、室温窒素雰囲気下で10分撹拌した。その後ケッチェンブラック(ECP600JDを使用した。以下「KB」と略す。)18.5gを投入し、空気をバブリングにより導入しながら、130℃で20時間反応させた。得られた黄橙色沈殿を濾過、メタノール洗浄後、130℃で12時間、真空乾燥することにより、68.7gのPPQM・KB黒色粉末を得た。この粉末の元素分析値(wt%)はC:86.77、H:3.29、N:8.60であり、複合比は質量比で、PPQ:KB=76:24と計算された。また、ヘキサフルオロイソプロパノールを溶離液としたGPCからの光散乱法による絶対分子量(重量平均)は32000であった。
【0024】
比較例1:ポリフェニルキノキサリン/ケッチェンブラック複合物(PPQ・KB)の合成
ビスベンジル(BBZ)を34.24g(100mmol)、3,3’−ジアミノベンジジン
を22.23g(100mmol)使用し、テレフタルアルデヒド(TPAL)を使用せずに、
空気バブリングの代わりに窒素雰囲気下で重合をした以外は実施例1と同様の方法により、68.6gのPPQ・KB黒色粉末を得た。この粉末の元素分析値(wt%)はC:86.75、H:3.30、N:8.61であり、複合比は質量比で、PPQ:KB=76:24と計算された。また、絶対分子量(重量平均)は27000であった。
【0025】
<各複合物の導電率測定>
実施例2:複合物(PPQM・KB)の導電率測定
実施例1で得られた黒色粉末(PPQM・KB)を14時間100℃で真空乾燥後、乾燥空気雰囲気下で約0.9g秤取り、結着剤としてポリフロン(登録商標、ダイキン工業(株)製)約0.1gとともにアナリティカルミル(20000rpm)にて粉砕した。この粉砕物約0.1gを直径13mmの錠剤成型器にて加圧成型し、ペレット電極を得た。これらのペレット電極について4端子直流法で導電率を測定した。結果を表1に示す。
比較例2:複合物(PPQ・KB)の導電率測定
比較例1で得られた黒色粉末(PPQ・KB)を実施例2と同様の方法で導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0026】
【表1】

<電池の調製>
参考例1:ポリアニリン(PAn)の合成
1N塩酸500ml中アニリン0.22モルを0.05モル過硫酸アンモニウム存在下1時間攪拌した。反応液が青緑に変化し得られた沈殿物をガラスフィルターで濾過し、これを1N塩酸で洗浄後、100℃14時間真空乾燥し青緑色の目的物12gを得た。目的物をアンモニア水溶液で中和し得られた濃紫色の元素分析、IRから目的物はポリアニリ
ンの構造であると推定された。Nーメチルピロリドン中でのGPCの結果から、分子量(PMMA換算)は数平均で約50000、重量平均で約120000であった。
【0027】
参考例2:PAn正極の製造
参考例1で合成したPAn粉末とアセチレンブラック、VGCF(登録商標、昭和電工製気相法炭素繊維)、ポリフッ化ビニリデンの85:7:1:7の混合物に過剰のNーメチルピロリドンを加え、ゲル状組成物を得た。この組成物をリード線付きの白金板上の白金網集電体1×1cm上に塗布後、1ton加圧成型し、80℃で8時間真空乾燥することにより、PAn電極(平均200mg)を作成した。
【0028】
実施例3:複合物(PPQM・KB)のプロトン電池の調製
参考例2で製造したPAn正極、ついで厚さ1mmのガラス繊維製のセパレーター(25μm、1.2×1.2cm)を重ねた。ついで、リード線付きの白金板上の白金網に加圧成型した実施例2で製造した複合物電極を重ねた。これら積層体を加圧して密着させたあと、ポリイミドテープで両端部を固定した。ついでこの積層体をアルミラミネート外装体の中にいれ、2つの白金リード線を短絡しないように外部に取り出した。ついで電解液として20%硫酸水溶液を外装体内部に注入し、減圧で余分な硫酸水溶液を抜き出しながら、外装体内を密着させた後、加熱融着で封止し、PPQM・KB複合物PAn系プロトン電池(二次電池)(各n=3)を作成した。この電池を25℃、作動電圧0〜0.8V、電流2mA、10mAで充放電を行ったところ明確な充放電挙動を示し、正味のPPQ1g当たりの最大放電容量を測定した。結果を表2に示した。
【0029】
比較例3:複合物(PPQ・KB)のプロトン電池の調製
比較例2で製作した複合物電極(PPQ・KB)を用いて、実施例3と同様の方法でプロトン電池を作成し(n=3)、最大放電容量を測定した。結果を表2に示した。
【0030】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンを炭素材料の存在下に縮合重合することを特徴とする
下記式(1)
【化1】

で示されるポリキノキサリン化合物(式中nは20以上200以下の整数を示す。)と炭素材料との複合物の製造方法。
【請求項2】
炭素材料が導電性炭素材料である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
導電性炭素材料が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭素材料である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
溶媒の存在下に縮合重合を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
溶媒がジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、m−クレゾール、o−クレゾールからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
ビスベンジルと3,3’,4,4’−テトラアミノジフェニルメタンを炭素材料の存在下に縮合重合することを特徴とする
下記式(1)
【化2】

で示されるポリキノキサリン化合物(式中nは20以上200以下の整数を示す。)と炭素材料との複合物。
【請求項7】
炭素材料が導電性炭素材料である請求項6に記載の複合物。
【請求項8】
導電性炭素材料が、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、気相法炭素繊維からなる群から選ばれる少なくとも1種の炭素材料である請求項7に記載の複合物。

【公開番号】特開2009−138130(P2009−138130A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−316963(P2007−316963)
【出願日】平成19年12月7日(2007.12.7)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【Fターム(参考)】