説明

複合発電装置

【課題】太陽光などの光線をより効率よく電力に変換し、光電変換素子などの耐久性向上を図るとともに、追尾を含めたシステム全体の簡素化が図られた複合発電装置を提供する。
【解決手段】少なくとも可視光と赤外光を含む光線を波長分離し、当該分離された光線それぞれを、同一シート上の異なる場所に配置された光電変換素子と熱電変換素子のいずれかに導入することを特徴とする複合発電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽光などの光線を高効率に電気エネルギーに変換する装置に関し、特に、光電変換素子と熱電変換素子を併用する複合発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光を電気に変換する太陽電池は、その環境適性から各方面で多くの研究がなされている。太陽電池はいわゆる光電変換素子からなるものが多く、光を直接電気に変えることができるため、簡易なシステムで効率が高く、すぐれた発電装置をなす。一方、光電変換素子には、幾つかの問題があることも知られている。
【0003】
(1)光電変換素子は、高温下では熱電変換効率が低下し、耐久性にも問題がある。
【0004】
(2)集光型といわれる太陽電池は、より高い変換効率を得られるものの、上記の問題がより顕著になる。
【0005】
そのため、光電変換素子に照射される光のうち、太陽光のようにほぼ一定方向から入射する光線の長波波長成分を熱電変換素子に導入し、その有効利用を図る研究もなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、光電変換素子の裏面に熱電変換素子を配置する例が示されている。光電変換素子で電気に変換できなかった光エネルギーを、熱として熱電変換素子に導入し、電気に変換する変換素子である。しかし、光電変換素子裏面に配置した熱電変換素子に十分な熱を供給するには光電変換素子を高温に保たざるを得ず、光電変換素子の変換効率が低下しやすく、かつ高温下での作動を強いられるため性能が劣化し易くなる問題がある。
【0007】
熱電変換素子と光電変換素子で、電気に変換する光の波長の違いを利用し、光電変換素子の温度上昇を抑制する例として、特許文献2〜5に開示されているような発明がなされている。たとえば、特許文献3には図1に示すような構成の装置が提案されている。この図に示されるように、これまでの技術では熱電発電素子が太陽電池と同一面上にはなく、追尾システムを含め装置が大掛かりにならざるを得なかった。また、太陽光などの強い光線に長時間暴露されると劣化が進み易い波長選択性の反射・透過膜を用いていたため、耐久性にも問題があった。
【特許文献1】実開平6−77266号公報
【特許文献2】特開平10−110670号公報
【特許文献3】特開平11−31835号公報
【特許文献4】特開2003−69070号公報
【特許文献5】特開2008−130801号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その解決課題は、太陽光などの光線をより効率よく電力に変換し、光電変換素子などの耐久性向上を図るとともに、追尾を含めたシステム全体の簡素化が図られた複合発電装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
【0010】
1.少なくとも可視光と赤外光を含む光線を波長分離し、当該分離された光線それぞれを、同一シート上の異なる場所に配置された光電変換素子と熱電変換素子のいずれかに導入することを特徴とする複合発電装置。
【0011】
2.前記波長分離された光線のうち、波長が900nm以下の光線は光電変換素子に導入し、900nm超の長波光線は熱電変換素子に導入することを特徴とすることを特徴とする前記1に記載の複合発電装置。
【0012】
3.前記1又は2に記載の複合発電装置であって、前記光電変換素子と熱電変換素子が配置されたシート上に、光学素子を有する別のシートを備え、前記光電変換素子と熱電変換素子の配置されたシートを移動させること無く、当該光学素子を有する別のシートを移動させることにより入射方向の変化する光線を追尾することを特徴とする複合発電装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明の上記手段により、太陽光などの光線をより効率よく電力に変換し、光電変換素子などの耐久性向上を図るとともに、追尾を含めたシステム全体の簡素化が図られた複合発電装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の複合発電装置は、可視光と赤外光を含む光線を波長分離し、当該分離された光線それぞれを、同一シート上の異なる場所に配置された光電変換素子と熱電変換素子のいずれかに導入することを特徴とする。この特徴は、請求項1及び2に共通する技術的特徴である。本発明における波長分離とは、物質中での屈折率の波長依存性等を利用し、光線の方向を空間的に分離することである。
【0015】
本発明の実施態様としては、前記分離された光線のうち、波長が900nm以下の光線は光電変換素子に導入し、900nm超の長波光線は熱電変換素子に導入する態様であることが好ましい。また、当該光電変換素子と熱電変換素子が配置されたシート上に、光学素子を有する別のシートを備え、前記光電変換素子と熱電変換素子の配置されたシートを移動させること無く、当該光学素子を有する別のシートを移動させることより入射方向の変化する光線を追尾する態様の複合発電装置であることが好ましい。
【0016】
以下、本発明とその構成要素、及び本発明を実施するための最良の形態・態様について詳細な説明をする。
【0017】
〔光電変換素子〕
本発明においては、太陽電池としても知られている光電変換素子は、下記具体例以外でも、従来公知のものがすべて利用できる。
【0018】
I.シリコン系太陽電池:シリコン膜の構造による分類
(1)結晶シリコン:結晶シリコンの禁制帯幅は1.12eVであり、太陽電池に用いた場合、近紫外域から1.2μm程度までの光を吸収して発電できる。間接遷移型の半導体であるため光吸収係数が低く、実用的な吸収量を得るには最低200μm程度のシリコン層が必要とされてきた。しかし表面テクスチャなどを用いた光閉じ込め技術が発達してきており、近年は結晶シリコンであってもシリコン層が数μm〜50μmなどと非常に薄く、薄膜太陽電池に分類できるものも開発されている。
【0019】
《単結晶シリコン型》
高純度シリコン単結晶ウエハを半導体基板として利用するもので、最も古くから使われている。変換効率が高い。
【0020】
《多結晶シリコン型》
結晶の粒径が数mm程度の多結晶シリコンを利用した太陽電池。他のシリコン半導体素子の製造過程で生じた端材やオフグレード品のシリコン原料を利用して製造できる。単結晶シリコンに比べると面積あたりの出力(変換効率)は落ちるが、生産に必要なエネルギーは少なく、エネルギー収支やEPT、GEG排出量の面では単結晶シリコンより優れる。
【0021】
《微結晶シリコン型》
微細な結晶で構成された薄膜をCVD法などにて製膜するものである。多結晶型の1種と見なせるが、製膜条件によってはアモルファス的な性質も併せ持つ。インゴットを切断する手間が省け、資源の使用量も削減できるほか、製法によっては200℃程度の低温での製膜が可能で基板を選ばない、などの特長がある。
【0022】
(2)アモルファスシリコン型:アモルファスシリコンは、タウツギャップと呼ばれる通常1.75〜1.8eV程度のエネルギーギャップと、それより小さな裾準位を介したエネルギーギャップを持つ。太陽電池にそのまま用いた場合は主に700nm以下の短波長の光が利用され、見た目には赤っぽく見える。結晶構造の乱れにより、光学遷移にフォノンの介在を必要とせず、光吸収係数が高い。このため0.5μm程度の厚さでも実用になる。a−Siなどと略記される。
【0023】
シランガスから化学気相成長(CVD)させてできるアモルファスシリコンを利用した太陽電池で、形態的には薄膜シリコン太陽電池にも分類できる。結晶シリコンに比べてエネルギーギャップが大きいため、高温時も出力が落ちにくい特性を持つ。使用するシリコン原料が少なく、エネルギーやコスト的にも有利である。極端な低照度下での効率が高いことや、蛍光灯の短波長光に感度がある。
【0024】
II.形態による分類
(1)薄膜シリコン型
シリコン層の厚さを薄くすることで、使用原料、生産に要するエネルギー、コストなどの削減をはかったもの。比較的新しい技術で、様々な形態が存在するためひとくくりにするのは難しい。広義には省資源化の意味で、従来の数百μmよりも薄いもの全般(例えば100μm以下)を指す。狭義には柔軟性なども充分に得られる厚さの意味で、例えば10μm以下のものを指す。シリコン融液から表面張力でリボン状に引き出すストリングリボン法を用いた型や、CVD法などを用いる微結晶型などが代表的である。厚さは生産方法の選択によって100nm(0.1μm)単位から数百μm以上まで連続的にカバーでき、目的に応じて使い分けられる。インゴットから切断したウエハを用いて製造する場合は通常数百μm単位になるのに対し、融液から直接薄膜の形にするリボン法などでは100μm以下、CVD法などを用いた場合(アモルファス型や微結晶型など)では0.5〜数μmまで薄くなる。薄膜のままでは充分に入射光を吸収できないため、表面テクスチャや中間層を用いて光学的特性を制御し、入射光の利用率を高める工夫が施される(ライトトラッピング)。効率の低下分よりも生産時の使用エネルギーやコストが多く削減できるため、環境負荷の観点から優秀なものが多い。
【0025】
(2)ハイブリッド型(HIT型)
結晶シリコンとアモルファスシリコンを積層した太陽電池である。通常の結晶シリコンに比して変換効率が高く、温度特性も良いなどの特長を有する。シリコンの使用量が減らせる他、両面受光型にも出来る。
【0026】
(3)多接合型(タンデム型)
吸収波長域の異なるシリコン層を積層したもの。アモルファスシリコンと各種の結晶シリコンを積層したものの他、通常のa−Siに吸収波長域の異なるa−SiCやa−SiGeを積層したものなどが開発・実用化されている。高効率で温度特性などに優れるものが多い。
【0027】
(4)球状シリコン型
球状シリコン型太陽電池とは、無数の球状シリコン粒子(直径1mm程度)と、集光能力を上げる直径2〜3mmの凹面鏡(電極を兼ねる)を組み合わせた太陽電池のことである。一般的な結晶シリコン型の1/5程度のシリコン使用量で、アモルファスシリコンよりも高い変換効率が期待できる方式である。球状シリコンの生産方法は、プラズマで溶かしたシリコン液滴を1〜2秒程度自由落下で滴下させ、表面張力でシリコン液滴を球状とし、落下中にレーザー照射により結晶化させることにより生産される。個々のシリコン粒子は単結晶である。
【0028】
(5)電界効果型
従来のpin接合構造を持つアモルファスシリコン型のp型窓層の役割を、絶縁された透明電極から電界効果によって誘起される反転層に置き換えた構造を持つ。p型窓層内で再結合により失われていたキャリアを電界によって速やかに分離する。
【0029】
III.化合物系による分類
(1)GaAs系太陽電池
単結晶のGaAsを用いるもので、禁制帯幅1.4eVで太陽光のスペクトルに良くマッチし、高い変換効率を出せる。宇宙用など、特に高い変換効率が必要な用途に用いられている。
【0030】
(2)CIS系(カルコパイライト系)太陽電池
新型の薄膜多結晶太陽電池。光吸収層の材料として、シリコンの代わりに、Cu、In、Ga、Al、Se、Sなどから成るカルコパイライト系と呼ばれるI−III−VI族化合物を用いる。代表的なものはCu(In,Ga)SeやCu(In,Ga)(Se,S)、CuInSなどで、それぞれCIGS、CIGSS、CISなどと略称される。製造法や材料のバリエーションが豊富である。また多結晶であるため、大面積化や量産化に向く。フレキシブルなものやカスタマイズ品も作りやすい。
【0031】
(3)CuZnSnS(CZTS)太陽電池
上記のCIS系に形態が似るが、利用する材料がより豊富かつ安価である。
【0032】
(4)CdTe−CdS系太陽電池
Cd化合物薄膜を用いた太陽電池で、2枚のガラスに太陽電池を挟み込んだ形態のモジュールが代表的である。毒物であるカドミウムを用いるが、少量でしかも安定した化合物がモジュールに閉じこめられているため、環境負荷は必ずしも高くない。
【0033】
(5)その他
InP系太陽電池、SiGe系太陽電池、Ge太陽電池、ZnO/CuAlO太陽電池(透明太陽電池)などがある。生産過程でHSeなどの気体を使用する。
【0034】
《有機系太陽電池》
上記のシリコンや無機化合物材料を用いた太陽電池に対し、光吸収層(光電変換層)に有機化合物を用いた太陽電池。製法が簡便で生産コストが低くでき、着色性や柔軟性などを持たせられるなどの特長を有する。
【0035】
(1)色素増感太陽電池
有機色素を用いて光起電力を得る太陽電池。代表的なものはグレッツエル型(または湿式太陽電池)と呼ばれる型式のもので、2枚の透明電極の間に微量のルテニウム錯体などの色素を吸着させた二酸化チタン層と電解質を挟み込んだ単純な構造を有している。
【0036】
(2)有機薄膜太陽電池
導電性ポリマーやフラーレンなどを組み合わせた有機薄膜半導体を用いる太陽電池。電解液を用いないために柔軟性や寿命向上の上でも有利なのが特長である。
【0037】
《量子ドット型太陽電池》
量子効果を用いた太陽電池。第三世代型太陽電池とも呼ばれる。例えばp−i−n構造を有する太陽電池のi層中に大きさが数nm〜数10nm程度の量子ドット構造を規則的に並べた構造などが提案されている。この量子ドットの間隔を調整することで、基の半導体(シリコンやGaAsなど)の禁制帯中に複数のミニバンドを形成できる。これにより、単接合の太陽電池であっても、異なる波長の光をそれぞれ効率よく電力に変換することが可能になり、変換効率の理論限界は60%以上に拡大するとされる。
【0038】
《多接合型太陽電池》
多接合型(スタック型、積層型、タンデム型などとも呼ばれる)太陽電池とは、利用波長の異なる太陽電池を複数積み重ねた太陽電池である。
【0039】
〔熱電変換素子〕
本発明に係る熱電変換素子は、熱と電力を変換する素子である。一般的には2種類の異なる金属または半導体を接合して、接点を異なる温度にすると起電力が生じるゼーベック効果を利用する。
【0040】
その性能指数Zはα2/ρκで表すことができ、Zが大きいほど性能が高い(αは素子の両端の電位差ΔVと温度差ΔTの比(ΔV/ΔT)を示すゼーベック係数、ρは電気抵抗率、κは熱伝導率)。
【0041】
逆に熱電変換素子に電気エネルギーを与えることにより、熱電変換素子を冷却用の素子として利用することができる。
【0042】
熱電変換素子は、多数の素子を板状、または円筒状に組み合わせた熱電モジュールとして使用される。熱電変換素子材料としては、実際には下記のような半導体材料が用いられることが多い。
常温から500Kまで・・・ビスマス・テルル系(Bi−Te系)
常温から800Kまでは鉛・テルル系(Pb−Te系)
常温から1000Kまではシリコン・ゲルマニウム系(Si−Ge系)
が主として使用されている。
【0043】
一方、金属酸化物からなる熱電変換材料の使用も好ましい。金属酸化物の多くはセラミックスなどの形で一般社会に広く浸透しており、一般に高温大気中でも安定で、低毒性かつ安価であり、低コストの製造プロセスも確立しているので、広範な実用化を考える上で極めて有利だと考えられる。
【0044】
酸化物はイオン結合性が強いので伝導電子は陽イオン上に局在する傾向が強く、さらに原子間の軌道の重なりが小さいために移動度も一般に小さく、熱電性能は極めて低いと考えられていたが、キャリア移動度が高い物質として、In系複合酸化物が高温で比較的優れた熱電性能を示すほか、CaMnO系ペロブスカイトが、代表的な新規高温熱電材料として知られるβ−SiCに匹敵し得る熱電性能を示すことが知られている。
【0045】
さらにZnO系材料、層状酸化物NaCoについても焼結体の組成制御により優れた熱電性能を示すことが知られており、これらの材料も用いることも好ましい。
【0046】
各種の熱電変換素子材料は、いわゆる超格子や、ナノ構造を有することが好ましい。これらの構造は主として材料の熱伝導率を下げる作用を有し、素子の高温側と低温側の温度差を大きく保つ作用を有する。上記式にあるように、性能指数は熱伝導率に反比例するため熱電変換効率を向上させることが可能である。
【0047】
これらの素子を用いて、いわゆる「π型」の直列接続を有する素子モジュールとして用いることが好ましい他、「プレーナー型」といわれる薄膜状の素子を用いることも可能である。
【0048】
以上に述べた、変換素子の構造詳細や素子材料詳細は、「熱電変換システムの高効率化・高信頼性化技術(株式会社 技術情報協会)」等の成書を参考にすることができる。
【0049】
〔光学素子に関する説明〕
光線を空間的に波長分離する光学素子は、短波や長波の光線を選択的に透過あるいは反射することができるフィルターや、屈折率の波長依存性を利用した透明光学素子が知られている。
【0050】
本発明においては、その耐久性、光線ロスの少なさから、屈折率の波長依存性を有する光学材料を用いた光学素子を用いることが好ましい。具体的には、透明材料への光入射面と出射面を非平行になるよう加工することで得られる。
【0051】
このような光学素子として、各種のレンズを用いることができる。球面レンズ(平凹、両凸、両凹)、非球面レンズ、フレネルレンズ、回折レンズなどを用いることができる。さらにはシリンドリカルレンズのように線状の焦点が得られるレンズを用いるもできる。レンズは、光線を空間的に分離しつつ、必要な集光も行えるので本発明において好ましい光学素子である。
【0052】
一方、各種プリズムも使用可能である。プリズム用と上記のレンズとの組合せにより、波長の異なる光線を、空間的により大きく分離した上で、個々の素子に有効に導入することが可能になる。そのため光電変換素子と熱電変換素子への光導入に自由度の多い設計が可能になり、光電変換素子と熱電変換素子のシート上への配置にも有利になることがある。
【0053】
光学素子は、単一の素子を用いることが可能であるが、複数の素子をシート状に配列させ、光学素子シートとして用いることが好ましい。光学素子シートとする場合、単一形状の光学素子を規則的に配列すること、あるいは、複数種の光学素子を混合して配列することも可能である。光学素子シートを一枚で用いてもよく、必要に応じて複数枚を重ねて使用することも可能である。
【0054】
光学素子の最上面は、ごみや埃による光透過率低下を避けるため、凹凸が少ないことが好ましいが、光の効率よい分離や焦点距離の調節のため、ある程度の凹凸があっても良い。また、光の反射を防止するために反射防止層、さらに傷つくのを防止するハードコート層などを有していることも好ましい。
【0055】
光学素子の材質は、光学材料に用いられる一般的な材料はすべて適用可能である。更にガラス、樹脂が好ましく、最も好ましくは樹脂である。厚さは適宜な厚さでよいが、後で述べるように集光倍率や光線分離素子の作製法に依存する。
【0056】
光学素子シートを用いる場合は、ガラス等の無機材料よりも樹脂を用いることが成形性の観点から好ましい。さらに太陽光の波長に相当する特に可視光領域から近赤外領域(300nmから2000nm)までの波長の光に高い透過率を有することが好ましい。このような用途に適用できる樹脂材料として、フッ素樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、オレフィン樹脂などが使用可能であるが、中でもフッ素樹脂が好ましい。フッ素樹脂は、各種の樹脂でC−H結合中の水素をフッ素に置換された構造(パーフルオロ構造)を有し、C−H結合を持たないため、近赤外領域でも光吸収をほとんど持たない。フッ素樹脂ではエーテル機を有する樹脂や、エステル結合を有する樹脂も使用可能である。特に好ましく屈折率(n)が1.3以上のフッ素系樹脂である。屈折率を高める場合は、パーフルオロアダマンチル機を有する樹脂などが好ましい。これら樹脂中に、樹脂の光学物性、機械物性を改良するための各種フィラーが含有されていてもよい。また、該樹脂には成型、加工性、耐久性を高めるために各種添加剤を含有させることが好ましい。また、光学素子の表面硬度を上げるコーティングや、光反射防止のコーティングがなされていることも好ましい。
【0057】
上記の光学素子シートの成形は、熱プレス成形、UV成形、射出成型の手法が用いることができる。成形法に応じて、熱可塑性、熱等のエネルギー線硬化性等の樹脂を使い分けることが好ましい。
【0058】
図2に球面単レンズ(非球面レンズ、フレネルレンズなども同様)の光学素子シートと熱電変換素子、光電変換素子の配置例を示す。レンズにより光線を波長分離しながら集光し、光電変換素子が有効に利用できる可視光(短波長の光。青で示す。)が焦点に来るようにすると、屈折率の低い長波光(赤で示す。)は焦点がずれ、焦点の外側に集光される。光電変換素子で変換しにくい長波光が集光されるこの部分に熱電変換素子を配置することで、波長分離した光を光電変換素子と熱電変換素子に有効に導入することが可能になる。また、光学素子からの距離を調整し、各素子の位置関係を逆にしても良い。
【0059】
光電変換素子をCdTe型で考えると、光電変換効率の高い波長が900nm以下の光線は光電変換素子に導入し、それ以上の長波光線が熱電変換素子に導入される設計が好ましい。屋外等の一般的な使用条件下では、熱電変換素子は500K以下での使用が想定されるため、Bi−Te系の材料を用いた素子の適用が好ましい。
【0060】
太陽光のように、経時で入射角が変化する光線に対しては、光学素子シートと各変換素子の相対的位置がずれないよう、光学素子シートと各変換素子の配置されたシートを一体として、赤道儀などを用いて、光線の入射角が一定になるよう追尾することで変換効率を維持することが可能である。さらにこの例では、レンズシートのみをXYZ軸に移動させ、波長分離・集光された光が各素子に照射されるようにして、追尾と同様の効果を上げることも可能である。
【0061】
図3に、シリンドリカルレンズを用いた例を示す。この例では、波長分離された光線が平行な直線状に集光されるため、各変換素子を直線状とし、平行に配置することができる。この例では、集光倍率は図2の例に比べて低下するが、光学素子シートのみを移動させる追尾の場合、その負荷を下げることが可能になる。すなわち、太陽の軌道面が、各素子と平行になるように配置すると、その方向に対しては追尾の必要がなく、実質的に2方向の軸で追尾が可能になる。さらに厚さ方向を除いた、太陽の移動面に対して垂直な1方向の追尾でも、集光倍率が大きく低下することがないよう設計することも可能である。
【0062】
図4に、シリンドリカルレンズとプリズムを組み合わせた形状の光学素子シートを用いた例を示す。この例では、光電変換素子に導入する波長の集光部とそれより長波側の光線を、空間的に重ならないように分離することができる。図2、3では、両者の光線が中心部では重なり合っているため、光の分離・利用にロスが生じるが、図4の例では、光線ロスが少なく、照射光をより有効に利用できると考えられる。また図3の例と同様に追尾の負荷を下げることも可能である。
【0063】
図4には、入射光線の入射角度がΔθ変化した場合の追尾例も示している。Δθの変化により、各々の集光位置が図に示すようにずれる。この時、光学素子シートを矢印の水平方向(相対的に右方向)に移動させることで、波長分離した光線を、各素子に集光することができるようになる。必要に応じて、光学シートと複合素子シートの距離を調整する(垂直方向にずらす)ことで、よりよく集光することが可能になる。
【0064】
また、シートの移動は円弧上の運動でもよく、これらの例をあわせて、図5に示す。
【0065】
光学シートのXYZ方向の移動には、各種のアクチュエータが使用可能である。アクチュエータは各種の信号に応答して伸縮や屈伸といった運動を行う装置である。アクチュエータには、電圧に応じて変移する圧電材料を用いる圧電アクチュエータ、光や熱、磁場に応じ運動するアクチュエータ、などがあり、その材料も有機材料、無機材料と多彩である。本発明においては、これらすべてを使用することが可能であるが、特に圧電アクチュエータを用いることが好ましい。
【0066】
圧電アクチュエータは、電圧を印加することで変位を起こす素子を用いた装置で。変位の大きさを精密に制御できる特徴がある。以下に詳細な例を示す。
【0067】
(ユニモルフ)
薄手の圧電素子と金属板を貼り合わせた構造である。圧電素子が面内で伸び縮みすると貼り合わせた金属板の寸法はそのままであるため反りが生ずる。圧電素子に加える電圧により発生する振動や変位を利用する。
【0068】
(バイモルフ)
2枚の圧電素子を貼り合わせた構造。比較的大き目の変位を得る場合に用いる。2枚の圧電素子のそれぞれに差動的な電圧を加えると伸縮方向が反対になるため反りが生ずる。また、圧電性の向きを変えて貼り合わせれば、一組の電極で屈曲を発生させることができる。
【0069】
(積層型)
多数の薄い圧電素子を重ねたもので、単層の素子に比べて、より低い駆動電圧で大きな変位を発生することができる、伸縮型のアクチュエータ。
【0070】
さらに、これらの材料を用いた微小デバイスの例を図6に示すが、より詳細には文献(「超小型圧電アクチュエータ(SIDM)の開発」KONICA MINOLTA TECHNOLOGY REPORT VOL.1(2004)等)を参考にできる。このようなデバイスにより、光電変換素子と熱電変換素子の総発電量が最大になるようフィードバック制御をかけながら、シートを移動させ光線の追尾することが好ましい。
【0071】
同じく、図7に示すような圧電素子を用いた超音波モータの適用も好ましい。進行波型と振動片型がある。光学素子シートを先に示したように、回転軸周りに円弧状に運動させることで光線の追尾を行うことが可能である。無論各種のアクチュエータを組合せて使用することも可能である。
【0072】
以上に示したように、光学シートの形状と光電変換素子、熱電変換素子の形状、配置によって各種の追尾装置、方法が適用可能である。設置場所や光線の入射角の変動に応じて、これらを使い分けることが好ましい。
【0073】
〔光電変換素子と熱電変換素子を同一面上に担持するシート〕
熱電変換素子は、赤外光により加熱される面と反対側(低温側)に担持シートが配置されることが好ましく、シートは放熱能力が高いことが好ましい。そのため、樹脂よりも熱伝導率の高い金属、セラミック、カーボン等を含有する素材を用いることが好ましい。特に、アルミや、ステンレスの薄膜シートは、安価で耐久性にも優れていることから好適に使用できる。シート厚さは、1mm以下が好ましく、より好ましくは500μm以下5μm以上である。これらのシートは不透明なことが多いため、光電変換素子は受光できるようシートの光照射側に設置される。
【0074】
担持シートは、熱電変換素子や、光電変換素子が受けたエネルギーで有効に電気に変換できなかった分を効率よく吸収し系外へ排出することが必要で、熱抵抗を低減するような材料、例えば炭素繊維、カーボンナノチューブ、液体金属、高熱伝導性接着剤などを表面に配することも好ましい。
【0075】
〔素子製造プロセス〕
上記のシート上に各素子を形成するプロセスは、各種の手法が適用可能であるが、ロールトゥロールプロセスを利用することが好ましい。ロールトゥロールプロセスとは、基板としてロール状に巻いた長いシート状の基板を用い互いに連結された装置で複数の工程を連続して行う。さらに、回路パターンの形成法として、印刷に代表される直接描画を用いる。この手法により製造コストの低減が可能になる。
【0076】
ロールトゥロールプロセスに該当する光電変換素子の作製法としては、特開2001−81213号、特開2001−127327号、特開2002−265643号、特開2001−345459号、特開2004−335517号、特開平10−270730号、特開平11−26788号、特開2001−36109号、特開2001−250963号、特開2001−257374号、特開2003−298085号、特開2003−298086号、特開平10−65194号、特開2000−164900号、特開平10−135500号、特開2001−118758号、特開2004−56024号、特開2004−253473号、特開平10−150211号、特開平10−189924号、特開2003−17726号、特開平10−190029号、特開平10−51021号、特開平10−70300号、特開平11−214736号、特開2001−94132号、特開2002−231982号、特開2003−101057号、特開平10−256576号、特開2003−60214号、特開平10−284745号、特開2000−36612号、特開2000−138389号、特開平10−256575号、各公報等がありこれらの手法を用いることが可能である。
【0077】
ロールトゥロールプロセスに該当する熱電変換素子の作製に適用できる手法は、特開2003−298127号、特開2004−104041号公報等に記載がある。これらの手法を用いることが可能である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0079】
(実施例1)
図8の構成に相当する本発明の概要を示す。太陽軌道面に直線状の熱電変換素子、光電変換素子が平行になるよう設置されている。また断面図のような光学素子シートがその上に設置されている。
【0080】
(複合変換素子基材シート)
フェライト系ステンレス箔(YUS 190、新日鐵住金製 表面仕上げはスーパーブライト(SB)で、表面粗さRa<0.03μm、板厚80μm)に、絶縁膜前駆体材料(テトラメトキシシランとメチルトリエトキシシランを1:1で混合し、酢酸をSiに対しモル比で0.2加えたもの)をワイヤーバーで塗布後160℃で1分間乾燥して有機溶媒などを揮発させた。その後、窒素中400℃30分の熱処理により膜硬化を行った。希釈用の水の量とワイヤーバーの塗布厚で仕上がりの膜厚を約1μmとなるように調整した。
【0081】
光電変換素子の作製:CdTe/CdS系太陽電池を近接常圧昇華により作製。(特開2003−60215号公報;ファーストソーラー記載の方法で、マスクを使用し素子を500μmの線状とした。)
熱電変換素子の作製:21mm×1mm、100μ厚の高純度銅箔に少量のハンダを敷設した後、別途単ロール急冷法で作製した急冷薄片状のp型のBi−Te半導体、n型のBi−Te半導体を交互に並べて5パターンが直列になるようはさみ、真空下でプレス(300℃、10MPa)した。プレス物中の半導体膜厚は40μmとなるようにした。各半導体部の大きさは10mm×0.5mm、半導体素子間の間隙は1mmとなるようにした。構造の一部は図2と略同一である。
【0082】
図9は、本発明の熱電変換素子の構成の一例を示す概略断面図と、シート上面から見た図である。
【0083】
図9において、熱電変換素子10’の概略断面図には、説明の便宜上、全体を保護膜する部材、配線等を省略している。実際には、同素子が直列に接続されている。
【0084】
図9に示す熱電変換素子10’では、p型、n型の熱電半導体(13’A、13’B)を挟んで接合部12’と電極11’、14’が設置されている。光線の受光面に相当する11’の上面には、光吸収効率を上げるよう、カーボンが蒸着されている。直列素子の両端にある、熱電半導体が乗っていない部分に起電力測定用の電極を取り付けた。最後に光電変換素子を設けたステンレス基板16’上に、15’に示すように低熱抵抗性なダイマット社の接着剤(DM5030P)を用いて、光電変換素子に平行になるよう貼り付けた。
【0085】
光学素子のシートは、断面が図8に示され、個々はリニアな素子形状とした。素子断面は、シンリンドリカルレンズ(円筒状レンズ)を中心線に平行に切り取る形状のレンズがプリズムに接合した形状であり、前記平面の法線がシート面の法線に対して約20度傾くよう設計した。材料はテフロン(登録商標)AF1600(デュポン社製)を用い、あらかじめ作製した金型に射出成型して作製した。繰り返しパターンのピッチは5mm、シート最厚部は約3mm、最薄部が約0.2mmになるようにした。光学シート上(外)面と複合発電装置のシート上面の間隔(Z方向)は2−5mmの範囲で調整できるようアクチュエータを設置(図は省略)し、最も高倍率になるよう集光できるようにした。一方、シートの平行方向への移動は、Z軸と同様にアクチュエータを用いて(図は省略)最大5mmとなるようにし、分光された波長の900nmのラインが、ほぼ光電変換素子と熱電変換素子の境界付近に来るように調整し、太陽が移動しても、900nmのラインがほぼ一定の位置に来るよう光学素子のシートの移動だけで追尾した。複合発電装置シート全体を、各素子が太陽の軌道面に平行になるようにし、南中時に太陽光が垂直に当たるように傾けた。
【0086】
(実施例2)
実施例1の光学素子シートと変換素子シート全体を厚板上に固定し、赤道儀に入射光がシート全体に対して垂直になるようセットした。その後太陽の移動によって入射角度が変わらないように追尾した。この時、光学素子シートは最初に分光された波長の900nmのラインが光電変換素子と熱電変換素子の境界付近に来るように調整したまま相対的な位置を変えなかった。
【0087】
実施例1と実施例2で、太陽の南中前後の各2時間、計4時間で総発電量を比較したが、実施例1でも実施例2とほぼ同等の発電量が得られることがわかった。
【0088】
(比較例1)
本発明で用いた光電変換素子に、図10で示すような凹面鏡を使用した集光により実施例2と同様に太陽光を追尾しながら発電量を比較した。発電開始直後は同等の発電能力を示したが、数分後には変換素子の過熱により変換効率が顕著に低下した。この例では、光線が波長分離されておらず、過熱の原因になる長波成分の光も光電変換に集中したため、その温度が顕著に上昇し、素子の性能が低下したと考えられる。
【0089】
本発明により、太陽光などの光線をより効率よく電力に変換し、波長分離能を用いない光学素子による集光を利用する場合に比較して、発電素子の耐久性向上を図ることができた。また、これまで知られている複合発電システムに対して、装置全体が薄型になり、追尾システムの簡素化を図ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0090】
【図1】太陽光熱発電システムの全体系統図(特開平11−31835号公報図1)
【図2】球面単レンズ(非球面レンズ、フレネルレンズ、回折レンズなども同様)の光学素子シートと熱電変換素子、光電変換素子の配置例
【図3】シリンドリカルレンズを用いた例
【図4】シリンドリカルレンズとプリズムを組み合わせた形状の光学素子シートを用いた例:(a)熱電変換素子と光電変換素子の間にほぼ900nmの光線が照射されるよう、光線が波長分離されている。(b)適切な光学シートの移動により、光線が適切な素子に導入される。
【図5】光学素子シートの移動が、円弧上等の運動となる例
【図6】圧電アクチュエータ(駆動装置)の作動機構を示す図:(a)アクチュエータは、おもり、圧電素子、駆動軸、及び移動体で構成される。(b)圧電素子へ電圧を印加し駆動軸をゆっくり伸ばす。なお、移動体は動く。(c)圧電素子へ印加していた電圧を変化させ駆動軸を急激に縮める。なお、移動体は静止する。但し、逆方向に駆動するには、制御パターンを逆にする。
【図7】圧電素子を用いた超音波モータ
【図8】光学素子シートの断面図
【図9】熱電変換素子の構成の一例を示す概略断面図とシート上面から見た図
【図10】集光のための凹面鏡
【符号の説明】
【0091】
1 太陽電池
2 熱電発電素子
3A、3B 熱交換器
4 冷却水
5 給湯
6 太陽光
7 反射鏡
8 波長選択反射透過膜
10 放物面状の集光器
12 駆動部
24 支持部材
26 圧電素子(電気機械変換素子)
28 駆動部材
30 係合部材
10’ 熱電変換素子
11’、14’ 電極
12’ 接合部
13’A、13’B 熱電半導体
15’ 接着剤
16’ 金属性基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも可視光と赤外光を含む光線を波長分離し、当該分離された光線それぞれを、同一シート上の異なる場所に配置された光電変換素子と熱電変換素子のいずれかに導入することを特徴とする複合発電装置。
【請求項2】
前記波長分離された光線のうち、波長が900nm以下の光線は光電変換素子に導入し、900nm超の長波光線は熱電変換素子に導入することを特徴とすることを特徴とする請求項1に記載の複合発電装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の複合発電装置であって、前記光電変換素子と熱電変換素子が配置されたシート上に、光学素子を有する別のシートを備え、前記光電変換素子と熱電変換素子の配置されたシートを移動させること無く、当該光学素子を有する別のシートを移動させることにより入射方向の変化する光線を追尾することを特徴とする複合発電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−114349(P2010−114349A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−287442(P2008−287442)
【出願日】平成20年11月10日(2008.11.10)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】