説明

複合粒子の製造方法

【課題】基材粒子の表面に、酸素などの不純物元素の含有量の少ない鉄の被覆層が形成された複合粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】基材粒子の表面に鉄の被覆層を有する複合粒子を製造する方法であって、平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下の基材粒子を、240℃以下の温度で、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる工程(a)と、120℃以上240℃以下の温度の炭化水素系有機溶媒中において、鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる工程(b)と、380nm以上1mm以下の波長を有する光を1000lx以上の照度で、炭化水素系有機溶媒中の基材粒子に照射する工程(c)とを包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材粒子の表面が異種材料で被覆された複合粒子の製造方法に関し、特に、基材粒子の表面が鉄で被覆された複合粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd−Fe−B系永久磁石に代表される希土類系永久磁石は高い磁気特性を有することから、各種回転機器、磁気共鳴診断装置(MRI)、ハードディスクドライブのボイスコイルモータ(VCM)など幅広い用途で使用されている。近年、更に高い磁気特性を得るために、希土類系合金粉末と鉄や鉄−コバルト合金などの高磁化材料とを複合化したバルクコンポジット磁石またはバルクナノコンポジット磁石が検討されている。ナノコンポジット磁石は交換スプリング磁石と呼ばれることもある。これらの磁石は、磁石中の希土類元素の割合を従来のNd−Fe−B系焼結磁石よりも低くできることから、省希土類の材料としても注目されている。
【0003】
特許文献1には、ナノ粒子を用いてナノコンポジット磁石を製造する方法が開示されている。特許文献1に記載の製造方法では、ハード磁性ナノ粒子とソフト磁性ナノ粒子をそれぞれ作製し、これらを混合して磁界中成形を行なった後、熱処理を施すことによって、異方性ナノコンポジット磁石を得ている。ソフト磁性ナノ粒子であるFeナノ粒子は、ジ−n−オクチルエーテルに鉄アセチルアセトナート錯体を加熱溶解した後、還元剤である1,2−ヘキサデカンジオールを添加して高温で保持することによって製造される。この方法では、界面活性剤としてオレイルアミン、オレイン酸を溶液に添加することにより、生成されたFeナノ粒子の分散性を保っている。
【0004】
また、非特許文献1には、鉄ペンタカルボニル(Fe(CO)5)から生成されたFeナノ粒子を用いた、異方性ナノコンポジット磁石の製造方法が開示されている。鉄ペンタカルボニル錯体のFeの価数は0であるので、特許文献1に記載の鉄アセチルアセトナート錯体のように、還元する必要がない。非特許文献2に記載の製造方法では、まず、超急冷Nd−Fe−B磁性合金粉末を含む、氷水温度のデカンを溶媒とした懸濁液に鉄ペンタカルボニルを混合し、超音波で鉄ペンタカルボニルを分解させることにより、Nd−Fe−B磁性合金粒子の表面にFeナノ粒子が付着した複合粒子を作製する。得られた複合粒子からなる粉末をスパークプラズマ焼結法で熱間プレスし緻密化することによって、ナノコンポジットバルク磁石が得られる。
【0005】
Feナノ粒子は、例えば非特許文献2に開示されているように、鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解することによっても製造することができる。鉄ペンタカルボニル錯体のFeの価数は0であるので、熱分解するだけで、Fe(CO)5→Fe+5CO↑の反応により、直接、金属状態の鉄を生成する。非特許文献1によると、界面活性剤を共存させた有機溶媒中で鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解することが好ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−39794号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Peili Niu, Ming Yue , Yongli Li, Wei Huang, Jiuxing Zhang,“Bulk anisotropy Nd-Fe-B/-Fe nanocomposite permanent magnets prepared by sonochemistry and spark plasma sintering”Phys. Status Solidi A, Vol.204 (12), 4009-4012(2007).
【非特許文献2】S. Peng, C. Wang, J. Xie, S. Sun, “Synthesis and Stabilization of Monodisperse Fe Nanoparticles”, Journal of American Chemical Society 128, 10676 (2006).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、本発明者が、鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解することによって得られたFeナノ粒子を用いて、異方性ナノコノポジット磁石を製造する方法を検討したところ、後に実験例を示して説明するように、Feナノ粒子が酸化されている、あるいは、Feナノ粒子の表面に界面活性剤が吸着されており、磁気特性を低下させる恐れがあることが分かった。すなわち、酸素や界面活性剤を含むナノ粒子と希土類磁性合金粒子との混合物を熱間成形すると、希土類磁性合金粒子、特に希土類元素が、酸化、炭化、あるいは窒化され、磁気特性が低下することがある。
【0009】
このように、鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解することによって得られたFeナノ粒子を用いると、酸素や界面活性剤の構成元素などの不要な元素が含まれることになる。これは、希土類磁性合金粒子を用いる場合に限られず、他の基材粒子の場合にも起こる問題である。
【0010】
また、希土類磁性合金粒子の表面から離れた溶液中で鉄ナノ粒子の生成を抑制するために、反応がゆっくりと進む条件で処理を行なうことが考えられる。しかしながら、この方法では、処理効率が悪化するだけでなく、希土類磁性合金粒子が溶液と反応して磁気特性を低下させる場合がある、という点で問題がある。
【0011】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであり、その目的は、希土類磁性合金粒子のような基材粒子の表面に、酸素などの不要な元素の含有量の少ない鉄の被覆層が形成された複合粒子を効率的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の複合粒子の製造方法は、平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下の基材粒子を、240℃以下の温度で、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる工程(a)と、120℃以上240℃以下の温度の前記炭化水素系有機溶媒中において、前記鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる工程(b)と、380nm以上1mm以下の波長を有する光を1000lx以上の照度で、前記炭化水素系有機溶媒中の前記基材粒子に照射する工程(c)とを包含し、前記基材粒子の表面に鉄の被覆層を有する複合粒子を製造する方法である。
【0013】
ある実施形態において、前記工程(c)は、少なくとも前記工程(b)の期間に行われる。
【0014】
ある実施形態において、前記工程(a)は、103℃未満の第1の温度で、前記基材粒子を、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる工程(a1)を包含する。
【0015】
ある実施形態において、前記工程(b)は、前記炭化水素系有機溶媒の温度を120℃以上190℃未満の第2の温度に保持する工程(b1)を含む。
【0016】
ある実施形態において、前記工程(b)は、前記工程(b1)の前に、前記第1の温度より高くかつ前記第2の温度よりも低い第3の温度で保持する工程(b2)をさらに包含する。
【0017】
ある実施形態の複合粒子の製造方法は、前記工程(b)において、鉄ペンタカルボニル錯体を、前記炭化水素系有機溶媒中にさらに供給する工程を包含する。
【0018】
ある実施形態の複合粒子の製造方法は、前記工程(a)において、前記炭化水素系有機溶媒にさらにアルキルアミン系の錯化剤を含有させる。
【0019】
ある実施形態において、前記錯化剤を構成しているアルキル基の炭素数は6以上12以下である。
【0020】
ある実施形態の複合粒子の製造方法は、前記工程(a)において、前記錯化剤と前記鉄ペンタカルボニル錯体のモル比は0.02以上0.2以下である。
【0021】
ある実施形態において、前記基材粒子は、金属粒子または無機粒子である。
【0022】
ある実施形態において、前記基材粒子は、希土類磁性合金粒子である。
【0023】
ある実施形態において、前記希土類磁性合金粒子は、HDDR法によって得られた希土類磁性合金粒子である。
【0024】
本発明の複合粒子は、上記のいずれかに記載の製造方法によって製造された複合粒子である。
【発明の効果】
【0025】
本発明によると、希土類磁性合金粒子のような基材粒子の表面に、酸素などの不要な元素の含有量の少ない鉄の被覆層が形成された複合粒子をより効率的に製造する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明による複合粒子10の製造方法を説明するための模式図である。
【図2】本発明による複合粒子の製造方法における温度制御を説明するための図である。
【図3】実験例で用いた反応装置を示す模式図である。
【図4】反応装置が有する照明機器の発光スペクトルを示す図である。
【図5】(a)および(b)は、実施例2(光照射あり)で得られたFe被覆層が形成された銅粒子(複合体粒子)の断面の反射電子像を示す図であり、(c)および(d)は比較例2(光照射なし)で得られたFe被覆層が形成された銅粒子(複合体粒子)の断面の反射電子像を示す図である。
【図6】(a)は基材粒子52の表面にナノ粒子54が付着した複合粒子50の構造を示す模式図であり、(b)はナノ粒子54の構造を模試的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、実験例を示して、図面を参照して本発明による実施形態の複合粒子の製造方法を説明する。
【0028】
図1に、本発明による複合粒子10の製造方法を説明するための模式図を示す。本発明による実施形態の製造方法によって得られる複合粒子10は、基材粒子12の表面に鉄の被覆層14を有する。
【0029】
本発明者は、これまでに、鉄ペンタカルボニル錯体を炭化水素系有機溶媒中で熱分解させることによって、有機溶媒中に分散された基材粒子の表面に鉄を直接析出できることを見出している。このとき、熱分解させる温度を段階的にあるいはゆっくりと上昇させることによって、鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解によるFeナノ粒子の生成を抑制できる(特願2009−75767号参照)。また、有機溶媒中に錯化剤を適量含有させると、錯化剤が適度に結合した鉄ペンタカルボニル錯体から基材表面で選択的に不均一核生成が起こって鉄が析出することにより、Feナノ粒子の生成がさらに抑制される(上記特許出願参照)。なお、本明細書において、鉄ペンタカルボニル錯体および/または錯化剤を含む有機溶媒を「溶液」ということがある。また、基材粒子を分散させた溶液を特に、「混合溶液」ということがある。
【0030】
溶液中でFeナノ粒子が生成されると、図6(a)に模試的に示すように、基材粒子52の表面にFeナノ粒子54が付着した複合粒子50が生成される。なお、Feナノ粒子54は、図6(b)に模式的に示すように、鉄のコア56とその表面に吸着された界面活性剤58を有している。従って、Feナノ粒子54が生成されると、不要な元素が含まれることになる。
【0031】
上記特許出願に記載の複合粒子の製造方法によると、Feナノ粒子の生成が抑制されるので、基材粒子の表面に、酸素などの不要な元素の含有量の少ない鉄の被覆層が形成された複合粒子を製造することができる。
【0032】
本発明者は、上記特許出願に記載の複合粒子の製造方法において、鉄ペンタカルボニル錯体を炭化水素系有機溶媒中で熱分解させる際に、380nm以上1mm以下の波長を有する光(すなわち可視光または赤外線)を1000lx以上の照度で、炭化水素系有機溶媒中の基材粒子に照射することにより、単に炭化水素系有機溶媒を加熱するよりも、基材粒子の表面にさらに効率的に鉄を析出させることが出来るという、極めて興味深い現象を知見し、本発明に想到した。
【0033】
光照射によって、鉄がより効率的に基材粒子の表面に析出するようになるメカニズムについては十分明らかになっていないが、以下のように考えられる。以下の説明は本発明を限定するものではない。
【0034】
基材粒子が炭化水素系溶媒中に分散された混合溶液(反応系)に光を照射すると、混合溶液全体の温度が上昇する前に、基材粒子の表面温度が局所的に上昇するので、基材粒子の表面の近傍において優先的に(選択的に)鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解が起こる。その結果、溶液中でのナノ粒子の生成が抑制され、基材粒子の表面により効率的に鉄が析出する。
【0035】
本発明による実施形態の複合粒子の製造方法によると、基材粒子の表面に鉄が直接析出し、被覆層(皮膜)が形成される。従って、このようにして得られた複合粒子の比表面積は、基材粒子の表面から離れた溶液中で生成したFeナノ粒子が付着した複合粒子の比表面積に比べて小さい。その結果、鉄の酸化や界面活性剤の取り込みに起因する酸素や炭素などの不要な元素の量が少ない。
【0036】
本発明による実施形態の複合粒子の製造方法は、以下の工程を含む。
【0037】
まず、平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下の基材粒子を、240℃以下の温度で、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる。鉄ペンタカルボニル錯体の沸点である103℃未満の第1の温度(図2中のT1)で、基材粒子を、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させた後、120℃以上に上昇させることが好ましい。103℃以上の有機溶媒に鉄ペンタカルボニル錯体を添加すると、有機溶媒に均一に分散されるまでに鉄ペンタカルボニル錯体の気化が優先的に進行してしまうからである。一旦有機溶媒中に均一に分散されると、鉄ペンタカルボニル錯体の気化の速度が小さくなり、沸点よりも高い温度で熱分解を優先的に進行させることができる。特に、錯化剤の共存する有機溶媒中で、鉄ペンタカルボニル錯体の気化の速度は低下する。
【0038】
なお、鉄ペンタカルボニル錯体の添加量は基材粒子の量やサイズ、溶媒ならびに錯化剤の種類や量、最終的に目的とする鉄被膜の厚さなどによって適宜選定されるが、(鉄ペンタカルボニル錯体の容量)/(有機溶媒の容量)が0.01より小さいと反応の効率が悪くなり、0.5を超えるとナノ粒子が形成されやすくなるため、0.01以上0.5以下が好ましく、0.03以上0.3以下がより好ましい。比較的厚い鉄皮膜を形成する場合には、一度に多量の鉄ペンタカルボニル錯体を投入すると、鉄被膜が生成する前に、鉄ペンタカルボニル錯体の一部が気化してしまうので、所望の膜厚が得られない場合がある。このような場合には、複数回に分けて鉄ペンタカルボニル錯体を供給することが好ましく、各回において、上記の範囲を満足するように鉄ペンタカルボニル錯体の量を調整することが好ましい。なお、投入した鉄ペンタカルボニル錯体の気化を抑制するためには、2度目以降の鉄ペンタカルボニル錯体の投入時の温度も低いほうが好ましいが、2度目以降の投入量を調整することによって、後述する実施例2に示すように、180℃程度の温度であっても、効率よく鉄被膜を形成することができる。
【0039】
基材粒子は、炭化水素系有機溶媒中で安定に存在可能な金属粒子または無機粒子である。無機粒子は、例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物や、シリコンの酸化物、窒化物および炭化物の粒子を含む。
【0040】
基材粒子として特に希土類磁性合金粒子に本発明を適用した場合には、希土類元素の酸化、炭化、窒化などによって、磁気特性が低下することを抑制することができる。なお、本発明は平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下の基材粒子に好適に採用できるが、基材粒子の平均粒子径は、複合粒子の用途に応じて当該範囲内で適宜設定され得る。
【0041】
炭化水素系有機溶媒は、鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる温度よりも沸点が高く、基材粒子や錯化剤、さらには熱分解によって得られた鉄との反応性が低いことが望まれる。鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させて基材表面に鉄被膜を形成するための最高到達温度はおよそ120℃以上240℃以下であり、通常は140℃から190℃程度である。炭化水素系有機溶媒は、先述した最高到達温度以上の沸点を有するものであればよく、炭素数9以上のパラフィン系炭化水素を好適に用いることができ、炭素数12以上のものがより好適に用いられる。ただし、炭素数は20以下であることが好ましい。炭素数が20を超えると、溶媒の粘性が高くなり、処理中の基材粒子の分散性が低下したり、得られた複合粒子を分離回収することが困難となることがある。具体的には、ドデカン(炭素数12)、ヘキサデカン(炭素数16)、オクタデカン(炭素数18)などが好適に用いられる。
【0042】
炭化水素系有機溶媒に錯化剤を含有させることが好ましい。錯化剤は、鉄原子とゆるく結合(「錯化」ということがある。)して、溶媒中に鉄ペンタカルボニル錯体を取り込み、その後、熱分解により鉄原子を放出して基材表面に効率的に被膜を形成することができる。錯化剤は、アミノ基を有するもの、特にアルキルアミンが好適に用いられる。アルキルアミンとしては、オクチルアミンやジオクチルアミン、トリオクチルアミン、オレイルアミンなど、アルキル鎖長の異なるものや二重結合を有するもの、級数の異なる種々のものを使用できる。ただし、上記熱分解のための最高到達温度(120℃以上240℃以下)より高温の沸点を有するもの、例えば、オクチルアミン(176℃)、ジオクチルアミン(298℃)、トリオクチルアミン(365℃)などが好ましい。また、アルキル鎖長が長くなると、アルキルアミンが基材表面に安定的に吸着されてしまい、その結果、鉄被膜の生成を妨げる恐れがあることから、アルキル基は炭素数が6〜12のものが好ましい。
【0043】
錯化剤を用いる場合の投入量は,錯化剤の種類や被覆プロセスにおける反応温度,鉄ペンタカルボニル錯体の溶液中の濃度などによって適宜選定されるが、錯化剤が少なすぎたり多すぎたりすると被覆効率が落ちてしまう。これは、錯化剤が少ないと、反応のための昇温過程において鉄ペンタカルボニル錯体が気化してしまったり、反応容器の内壁などに鉄が析出してしまう恐れがあり、逆に錯化剤が過剰に存在すると、錯化剤によって鉄ペンタカルボニル錯体や熱分解後に生じた鉄原子が溶液中で安定化されてしまうことで、溶液中で核生成がおこって、ナノ粒子が形成され易くなる恐れがあるためである。錯化剤を使用するときの典型的な投入量は、錯化剤と鉄ペンタカルボニル錯体のモル比(錯化剤のモル数/鉄ペンタカルボニル錯体のモル数)が0.01以上0.3以下が好ましく、0.02以上0.2以下がより好ましい。(または、錯化剤と鉄ペンタカルボニル錯体の容量比(錯化剤の容量/鉄ペンタカルボニル錯体の容量)が0.01以上1以下が好ましく、0.03以上0.8以下がより好ましく、0.05以上0.4以下がさらに好ましい。)なお、反応終了後に基材粒子表面に鉄とともに付着した錯化剤を除去する必要があることから、錯化剤は室温で液体であるものが好ましい。
【0044】
次に、鉄ペンタカルボニル錯体を120℃以上240℃以下の範囲内の第2の温度(図2中のT2)で熱分解させる。熱分解させる温度が120℃よりも低いと光照射を行っても、鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解反応が十分に進行せず、鉄が十分に析出しない。一方、熱分解させる温度が240℃を越えると、基材粒子表面から離れた有機溶媒中でナノ粒子の生成を十分に抑制できないことがある。また、反応容器の内壁などに熱分解した鉄が析出することにより、基材粒子表面への成膜効率が低下することがある。したがって、熱分解させる温度は120℃以上240℃以下が好ましいが、光照射の効果を顕在化させるためには最高到達温度を200℃以下、さらには190℃以下とすることが好ましい。
【0045】
鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解を行なう際に、380nm以上1mm以下の波長を有する光を1000lx以上の照度で、炭化水素系有機溶媒中の基材粒子に照射する。照射する光は、基材粒子に効率よく吸収されるように選択され、波長が380nm以上1mm以下の光(すなわち、可視光または赤外線)を含んでいればよい。但し、波長が4μmを超える光は、溶媒に吸収されやすく、基材粒子を優先的に加熱できない恐れがあるため、波長が4μm以下の光を用いることが好ましい。可視光(波長が380nm以上780nm以下)主体の光を用いることがより好ましい。
【0046】
照射する光の強度は用いる光源の波長スペクトルや反応容器や用いる溶媒の光吸収特性によって適宜選定されるが、通常の室内環境よりも高い照度、具体的には1000lx(ルクス)以上であることが好ましい。1000lxよりも照度が小さいと、光照射の効果が十分得られないことがある。
【0047】
なお、基材粒子が可視光に対する透過率が高い材料で構成されている場合であっても、基材粒子の表面に鉄が一旦析出すると、鉄が可視光を吸収する。従って、本発明による複合粒子の製造方法は、基材粒子の光透過性に拘わらず、適用することができる。
【0048】
光が溶媒に吸収されることをできるだけ抑制し、基材粒子の表面に効率的に光を到達させるためには、混合溶液を攪拌することが好ましい。また、照射する光が効率的に基材粒子に供給されるよう、反応装置に光源を近づけることが好ましい。
【0049】
なお、本発明による実施形態の複合粒子の製造方法において、光照射は、鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解工程の少なくとも一部において行えばよいが、基材粒子の表面に効率的に鉄皮膜を形成するためには、少なくとも、熱分解のための上記最高到達温度、特に140℃以上190℃以下において、光照射を行うことが好ましい。もちろん、熱分解工程の全期間にわたって光照射を行ってもよく、また、混合溶液の温度が120℃に到達する前に、光照射を開始しても良い。なお、光照射の時間は少なくとも5分以上とすることが好ましい。
【0050】
本発明による実施形態の複合粒子の製造方法においても、上記特許出願に記載されているように、最終的な最高到達温度まで一気に昇温するのでなく、段階的に、あるいは、徐々に温度を上昇させてもよい。
【0051】
すなわち、本発明による実施形態の複合粒子の製造方法は、図2に示したように、最高到達温度である第2の温度(T2)で熱分解する前に、上記第1の温度(T1)より高く、第2の温度(T2)より低い第3の温度(T3)で、炭化水素系有機溶媒中において鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる工程を更に包含してもよい。さらに、第3の温度(T3)で熱分解する前に、第1の温度(T1)より高く、第3の温度(T3)より低い第4の温度(T4)で鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる工程を更に包含してもよい。さらに、多段階で温度を上昇させてもよい。なお、図2には、T2、T3およびT4の各温度で一定時間(t2、t3、t4)保持しているが、これに限られず、それぞれの範囲内でゆっくりと連続的に温度を上昇させてもよい。すなわち、上記第1〜第4の温度は、上記温度範囲内での保持温度を指す場合もあれば、上記温度範囲内でゆっくりと温度上昇する温度範囲を指す場合もある。
【0052】
このような多段昇温を行う場合、低い温度(T3やT4)において光を照射しておくことが望ましい。光照射による基材表面への効率的な被覆は、低温側で顕在化するからである。
【0053】
なお、最高到達温度(第2の温度)における処理時間は5分以上480分以内であることが好ましく、第3の温度、第4の温度における処理時間は5分以上480分以内であることが好ましい。このように、最終的な熱分解到達温度まで一気に昇温するのでなく、段階的に、あるいは、徐々に温度を上昇させることによって、鉄ペンタカルボニル錯体の熱分解速度を遅くし、ナノ鉄粒子の生成をさらに抑制するとともに、より低温段階から鉄被覆を行うことにより基材粒子への熱的ダメージを抑制することができる。
【0054】
次に、実験例(実施例および比較例)を示して、本発明による実施形態の複合粒子の製造方法を詳細に説明する。
【0055】
(実施例1)
図3に示す反応装置を用いて、以下のような実験を行なった。反応装置は、4つ口フラスコ(パイレックス(登録商標)製)と、4つ口フラスコの2つの口にそれぞれセットされた冷却器および撹拌棒を備える。4つ口フラスコの1つの口からは不活性ガス(例えばアルゴンガス)を導入し、4つ口フラスコ内に空気(特に酸素)が侵入することを防ぐ。フラスコの不図示の口から、各試料を投入する。また、フラスコ内の混合溶液に光を照射するための照明器具を有している。
【0056】
まず、室温で、300mL容のフラスコに、基材粒子として銅粉(製品名:Cu−At100(福田金属箔粉工業製、中心粒径45〜150μm)4g、有機溶媒としてドデカン30mL、錯化剤としてジオクチルアミン0.2mLを充填した。
【0057】
その後、室温にて溶液を攪拌しながらフラスコ内を不活性ガス(ここではアルゴンガス)で置換した後、マントルヒータ(不図示)により、混合溶液を鉄ペンタカルボニル錯体の沸点より少し低い95℃で30分間加熱攪拌し、溶液内の溶存酸素および水を除去した。
【0058】
その後、95℃(図2中のT1)で、鉄ペンタカルボニル錯体(Fe(CO)5)1mLを注射器にてフラスコ内に注入し、2分間攪拌して、ジオクチルアミンとの錯形成を促進させた。Fe(CO)5を注入した後は、気化したFe(CO)5がフラスコ外へ排出されることを防ぐために、フラスコ内へのアルゴンガス注入を中止した。
【0059】
その後、混合溶液を160℃(図2中のT4)まで昇温するとともに、照明用電球(商品名:E−17ミニレフランプR45(朝日電器社製)、定格電圧110V、定格電力40W、ガラス球仕上げ:フロスト)を取り付けた市販の照明器具(商品名SPOT−MR40C)を用いてフラスコの外から光を照射しながらその温度で30分間(t4=30分)保持した。照明用電球とフラスコの距離は約10cmとした。また、効率的に混合溶液に光を照射するため、光を照射する側と反対側のフラスコの部分を、市販のアルミホイルで覆った。
【0060】
その後、光照射の下で、同様にして170℃(図2中のT3)まで昇温して30分間(t3=30分)保持した後、180℃(図2中のT2)まで昇温して3時間(t2=3時間)保持する多段昇温処理を行なった。
【0061】
なお、本照明用電球で得られる光の波長分布を小型CCD分光器(商品名SM242、Spectral Products社製)で測定した結果を図4に示す。500nmから700nmの波長の光が主体であることが確認できる。また、本電球の光源から約10cm離れた位置における照度をデジタル照度計(商品名 FLX−1332、東京硝子器械社製)で測定した結果、4800lxであった。実験室の照度は、晴天日中に屋内照明をつけた状態では400〜440lxであり、屋内照明を消した状態では16〜17lxであった。上記照明器具を用いて光照射しない場合、ドラフト内に設置したフラスコの混合溶液が存在する部分(フラスコの底部)付近はマントルヒータに覆われているので、その部分の照度は100lx以下で数十lx程度であると思われる。
【0062】
その後、混合溶液を室温まで冷却した後、工業用窒素ガス(99.99%)の雰囲気中で混合溶液をADVANTEC製の定性ろ紙No.2(JIS P3801規格2種)を用いてろ過し、その後、無水ヘキサンで洗浄を行なった後、乾燥させて複合粒子を回収した。
【0063】
(比較例1)
一方、比較例1として、95℃で鉄ペンタカルボニル錯体1mLを注入して攪拌しジオクチルアミンとの錯形成を促進させる工程までは、上記と同様の処理を行なった後、光を照射しない以外は同様の処理を行なった。なお、光照射しない場合のフラスコの底部近傍の照度は100lx以下であった。
【0064】
得られた複合粒子におけるFeの被覆量をICP発光分光分析で評価した結果、比較例1の複合粒子中のFeの比率が3.57質量%であったのに対し、実施例1の複合粒子のFeの比率は4.51質量%であった。このように、光照射を行なうことで、鉄の被覆量が増加(約26%)することが明らかになった。
【0065】
実施例1および比較例1について、複合粒子を作製した後、ろ過によって複合粒子を除去した後の溶液の観察した結果、光照射を行いながら昇温処理(多段階昇温処理)を行うと(実施例1)、無色透明な溶液が得られたのに対して、光照射を行わず、多段階昇温処理を行うと(比較例1)、淡い黄色の透明な溶液が得られた。なお、光照射を行わず、且つ、一段昇温処理を行うと、茶褐色な溶液が得られた(上記特願2009−75767号参照)。溶液が茶褐色を呈するのは溶液中にFeナノ粒子が分散していることに起因している。多段昇温処理を行うことによって、熱分解過程において溶液中でFeナノ粒子が生成されるのが抑制されており、さらに光照射を行うことによって溶液中でFeナノ粒子が生成されるのが一層抑制されたことが分かる。
【0066】
本実験例によって、光を照射しながら鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解することによって、銅粒子の表面で優先的に、鉄ペンタカルボニル錯体が徐々に分解され、銅粒子の表面で優先的に鉄の析出が起こり、不要なFeナノ粒子の生成を抑制しつつ、効率的に複合粒子を作製できることが確認された。
【0067】
(実施例2)
鉄ペンタカルボニル錯体を複数回に分けて注入することにより、鉄の被覆量を増加させることができる。以下にその実験例を示す。
【0068】
まず、室温で、300mLのフラスコに、基材粒子として銅粉(製品名:Cu−At100(福田金属箔粉工業製、中心粒径45〜150μm)4g、有機溶媒としてドデカン30mL、錯化剤としてジオクチルアミン0.2mLを充填した。
【0069】
その後、室温にて溶液を攪拌しながらフラスコ内を不活性ガス(ここではアルゴンガス)で置換した後、マントルヒータにより、混合溶液を鉄ペンタカルボニル錯体の沸点より少し低い95℃で30分間加熱攪拌し、溶液内の溶存酸素および水を除去した。
【0070】
その後、95℃(図2中のT1)で、鉄ペンタカルボニル錯体(Fe(CO)5)1mLを注射器にてフラスコ内に注入し、2分間攪拌して、ジオクチルアミンとの錯形成を促進させた。Fe(CO)5を注入した後は、気化したFe(CO)5がフラスコ外へ排出されることを防ぐために、フラスコ内へのアルゴンガス注入を中止した。
【0071】
その後、混合溶液を160℃(図2中のT4)まで昇温するとともに、実施例1と同じ照明器具を用いてフラスコの外から光を照射しながらその温度で30分間(t4=30分)保持した。照明器具とフラスコの距離は約10cmとした。また、効率的に反応溶液に光を照射するため、光を照射する側と反対側のフラスコの部分を、市販のアルミホイルで覆った。
【0072】
その後、光照射の下で、同様にして170℃(図2中のT3)まで昇温して30分間(t3=30分)保持した後、180℃(図2中のT2)まで昇温して1時間保持した。その後、溶液の温度を180℃に保ったままでFe(CO)5を1mL投入して1時間保持し、その後さらにFe(CO)5を1mL投入して(すなわちFe(CO)5の投入量は合計3mL)、180℃で1時間保持した。180℃における保持時間は合計3時間(t2=3時間)である。
【0073】
その後、混合溶液を室温まで冷却した後、工業用窒素ガス(99.99%)の雰囲気中で混合溶液をADVANTEC製の定性ろ紙No.2(JIS P3801規格2種)を用いてろ過し、その後、無水ヘキサンで洗浄を行なった後、乾燥させて複合粒子を回収した。
【0074】
(比較例2)
一方、比較例2として、95℃で鉄ペンタカルボニル錯体1mLを注入して攪拌しオレイルアミンとの錯形成を促進させる工程までは比較例1と同様の処理を行なった後、光を照射しない以外は実施例2と同様の処理(Fe(CO)5を合計3mL投入)を行なった。なお、光照射しない場合のフラスコの底部近傍の照度は100lx以下であった。
【0075】
得られた複合粒子におけるFeの被覆量をICP発光分光分析で評価した結果、比較例2の複合粒子中のFeの比率が3.6質量%であったのに対し、実施例2の複合粒子のFeの比率は12.7質量%であった。このように、光照射を行なうことで、鉄の被覆量が増加(約250%)することが明らかになった。
【0076】
比較例2の複合粒子におけるFeの被覆量は、Fe(CO)5を追加投入したのにも拘わらず、比較例1の複合粒子におけるFeの被覆量と殆ど変わらなかった。これに対し、実施例2の複合粒子におけるFeの被覆量は、実施例1の複合粒子におけるFeの被覆量の約3倍(3倍の約94%に相当)であった。
【0077】
図5(a)、(b)に、実施例2(光照射あり)で得られたFe被覆層が形成された銅粒子(複合体粒子)の断面の反射電子像を示し、図5(c)および(d)に比較例2(光照射なし)で得られたFe被覆層が形成された銅粒子(複合体粒子)の断面の反射電子像を示す。図5(a)と図5(c)の反射電子像は同一倍率で、図5(b)と図5(d)の反射電子像は同一倍率である。図5(a)、(b)と図5(c)、(d)とを比較すると明らかなように、比較例2の複合粒子が有するFe被覆層の厚さは1μm程度に過ぎないのに対し、実施例2の複合粒子は、厚さが3〜4μm程度のFe被覆層を銅粒子の表面に有している。
【0078】
このように、鉄ペンタカルボニル錯体が熱分解を起こす温度において光照射を行いながら鉄ペンタカルボニル錯体を追加投入すると、追加した鉄ペンタカルボニル錯体も粒子の表面で優先的に分解され、粒子の表面で優先的に鉄の析出が起こることがわかった。
【0079】
(実施例3)
次に、希土類磁性合金粒子を用いた複合化の実験例を説明する。
【0080】
本発明による複合粒子の製造方法を用いて、希土類磁性合金粒子を複合化することができる。ここでは、HDDR法によって得られた希土類磁性合金粒子(「HDDR磁石粒子」ともいう。)を用いた例を示すが、これに限られず、種々の公知の希土類磁性合金粒子を用いることができる。例えば、超急冷合金や超急冷合金を熱間塑性加工した後に、それを粉砕することによって得られた希土類磁性合金粒子を用いることができる。
【0081】
HDDR磁石粉末は、現在、異方性ボンド磁石用の希土類磁性合金粉末として用いられている。「HDDR」は水素化(Hydrogenation)および不均化(Disproportionation)と、脱水素(Desorption)および再結合(Recombination)とを順次実行するプロセスを意味している。公知のHDDR処理によれば、R−Fe−B系合金のインゴットまたは粉末を、H2ガス雰囲気またはH2ガスと不活性ガスとの混合雰囲気中で温度500℃〜1000℃に保持し、それによって上記インゴットまたは粉末に水素を吸蔵させた後、例えばH2圧力が13Pa以下の真空雰囲気、またはH2分圧が13Pa以下の不活性雰囲気になるまで温度500℃〜1000℃で脱水素処理し、次いで冷却することを特徴としている。
【0082】
上記処理において、典型的には、次のような反応が進行する。すなわち、水素吸蔵を起こすための熱処理によって、水素化ならびに不均化反応(双方を合わせて「HD反応」と呼ぶ。反応式の例:Nd2Fe14B+2H2→2NdH2+12Fe+Fe2B)が進行し微細組織が形成される。次いで脱水素処理をおこすための熱処理を行うことにより、脱水素ならびに再結合反応(双方を合わせて「DR反応」と呼ぶ。反応式の例:2NdH2+12Fe+Fe2B→Nd2Fe14B+2H2)が起こり、微細なR2Fe14B結晶相を含む合金が得られる。
【0083】
HDDR磁石粉末は、大きな保磁力を有し、磁気的な異方性を示している。このような性質を有する理由は、結晶組織が実質的に0.1μm〜1μmと非常に微細で、かつ、反応条件や組成を適切に選択することによって、容易磁化軸が一方向にそろった結晶の集合体となるためである。より詳細には、HDDR処理によって得られる極微細結晶の粒径が正方晶R2Fe14B系化合物の単磁区臨界粒径に近いために高い保磁力を発揮する。この正方晶R2Fe14B系化合物の非常に微細な結晶の集合体を「再結合集合組織」と呼ぶ。HDDR処理を施すことによって、再結合集合組織をもつR−Fe−B系合金粉末を製造する方法は、例えば、特開平1−132106号公報や特開平2−4901号公報に開示されている。
【0084】
希土類磁性合金粒子の複合化も、銅粒子と同様の方法で複合化することができる。但し、希土類磁性合金粒子は化学的に非常に活性であり、反応し難い有機溶媒や錯化剤を選定することが好ましい。
【0085】
表1は、HDDR法によって作製されたNd12.5Fe73Co86.5組成(数値は原子%)の磁石粉末粒子を表1に示した各種化合物(有機溶媒または錯化剤として用いられる)に分散し、200℃で2時間攪拌した後、冷却後、ヘキサンで洗浄して回収した粉末の酸素、窒素、炭素の含有率を示したものである。なお、比較のため、未処理の磁石粉末粒子の酸素、窒素、炭素の含有率も表1に示す(表中では磁粉基材と記載)。分析は、酸素・窒素分析装置(堀場製作所製EMGA−620W)ならびに炭素・硫黄分析装置(堀場製作所製EMIA―820)で行った。
【0086】
ドデカンのような炭化水素、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、オレイルアミンなどのアミンを用いた場合、処理後の粒子の酸素含有率がわずかに増大する程度であった。一方、エチレングリコールのようなアルコールの場合には、処理後の粒子の酸素含有率が非常に増大することがわかった。
【0087】
この結果から、銅粒子の複合化に用いた炭化水素系溶媒およびアミン系錯化剤を、希土類磁性合金粒子の複合化に用いても酸素、窒素、炭素の増加が小さいことが確認された。
【0088】
【表1】

【0089】
上記と同様に、図3に示す反応装置を用いて、以下のようにして、HDDR磁石粒子の表面に鉄の被覆層を形成する実験を行った。
【0090】
まず、室温で、300mLのフラスコに、基材粒子として、Nd13.5Fe72Co86.5組成を有するHDDR磁石粉末(平均粒子径70μm)4g、有機溶媒としてドデカン30mL、有機溶媒としてドデカン30mL、錯化剤としてジオクチルアミン0.2mLを充填した。
【0091】
その後、室温にて溶液を攪拌しながらフラスコ内を不活性ガス(ここではアルゴンガス)で置換した後、マントルヒータにより、混合溶液を鉄ペンタカルボニル錯体の沸点より少し低い95℃で30分間加熱攪拌し、溶液内の溶存酸素および水を除去した。
【0092】
その後、95℃(図2中のT1)で、鉄ペンタカルボニル錯体(Fe(CO)5)1mLを注射器にてフラスコ内に注入し、2分間攪拌して、ジオクチルアミンとの錯形成を促進させた。Fe(CO)5を注入した後は、気化したFe(CO)5がフラスコ外へ排出されることを防ぐために、フラスコ内へのアルゴンガス注入を中止した。
【0093】
その後、混合溶液を160℃(図2中のT4)まで昇温するとともに、実施例2と同じ照明器具を用いてフラスコの外から光を照射しながらその温度で30分間(t4=30分)保持した。照明器具とフラスコの距離は約10cmとした。また、効率的に反応溶液に光を照射するため、光を照射する側と反対側のフラスコの部分を、市販のアルミホイルで覆った。
【0094】
その後、光照射の下で、同様にして170℃(図2中のT3)まで昇温して30分間(t3=30分)保持した後、180℃(図2中のT2)まで昇温して1時間保持した。その後、溶液の温度を180℃に保ったままでFe(CO)5を1mL投入して1時間保持し、その後さらにFe(CO)5を1mL投入して(すなわちFe(CO)5の投入量は合計3mL)、180℃で1時間保持した。180℃における保持時間は合計3時間(t2=3時間)である。
【0095】
その後、混合溶液を室温まで冷却した後、工業用窒素ガス(99.99%)の雰囲気中で混合溶液をADVANTEC製の定性ろ紙No.2(JIS P3801規格2種)を用いてろ過し、その後、無水ヘキサンで洗浄を行なった後、乾燥させて複合粒子を回収した。
【0096】
HDDR磁石粉末に市販の鉄粉を混合した粉末を用いて、ICP発光分光分析法における検量線を作成し、この検量線を用いて、複合粒子のICP発光分光分析結果から、得られた複合粒子に形成された鉄の被覆層の質量を見積もった。得られた鉄の含有率(鉄被覆層の質量の複合粒子の全体の質量に対する比率)は11.3質量%であった。
【0097】
なお、複合粒子のFe被覆層に含まれる酸素、炭素および窒素の含有率は、光照射を行わなかったこと以外は同様に多段昇温処理を行った場合と同程度であり、光照射を行わずにFeペンタカルボニルを投入してから180℃まで一気に昇温する一段昇温処理を行った場合の酸素、炭素および窒素の含有率よりも低かった(上記特願2009−75767号参照)。
【0098】
処理前のHDDR磁石粉末および実施例3の複合粒子のみで構成された磁石粉末について、以下のようにして磁気特性を評価した。それぞれの磁石粉末をサンプルホルダーに詰めて、0.8MA/mの磁界中で磁石粉末を配向させながらパラフィンで固定し、4.8MA/mのパルス磁界で着磁した。得られた磁石サンプルの磁化の値を振動試料磁力計(VSM、東英工業製VSM5−20)で評価した。外部磁界1592kA/m(20kOe)まで付与した時の磁化の値を評価した結果、処理前のHDDR磁石粉末を用いた比較例の磁石サンプルの磁化が1.10Tであったのに対し、実施例3の磁石サンプルの磁化は1.12Tであった。鉄が被覆されたことによって実際にサンプルの磁化が向上していることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明は、例えば、希土類ナノコンポジット磁石等の磁気デバイス用材料の製造に好適に用いられる複合粒子の製造に用いられる。
【符号の説明】
【0100】
10 複合粒子
12 基材粒子
14 鉄の被覆層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.1μm以上1000μm以下の基材粒子を、240℃以下の温度で、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる工程(a)と、
120℃以上240℃以下の温度の前記炭化水素系有機溶媒中において、前記鉄ペンタカルボニル錯体を熱分解させる工程(b)と、
380nm以上1mm以下の波長を有する光を1000lx以上の照度で、前記炭化水素系有機溶媒中の前記基材粒子に照射する工程(c)と、
を包含し、前記基材粒子の表面に鉄の被覆層を有する複合粒子の製造方法。
【請求項2】
前記工程(c)は、少なくとも前記工程(b)の期間に行われる、請求項1に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項3】
前記工程(a)は、103℃未満の第1の温度で、前記基材粒子を、鉄ペンタカルボニル錯体を含む炭化水素系有機溶媒中に存在させる工程(a1)を包含する、請求項1または2に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項4】
前記工程(b)は、前記炭化水素系有機溶媒の温度を120℃以上190℃未満の第2の温度に保持する工程(b1)を含む、請求項3に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)は、前記工程(b1)の前に、前記第1の温度より高くかつ前記第2の温度よりも低い第3の温度で保持する工程(b2)をさらに包含する、請求項4に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)において、鉄ペンタカルボニル錯体を、前記炭化水素系有機溶媒中にさらに供給する工程を包含する、請求項1から5のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項7】
前記工程(a)において、前記炭化水素系有機溶媒にさらにアルキルアミン系の錯化剤を含有させる、請求項1から6のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項8】
前記錯化剤を構成しているアルキル基の炭素数は6以上12以下である、請求項7に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、前記錯化剤と前記鉄ペンタカルボニル錯体のモル比は0.02以上0.2以下である、請求項7または8に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項10】
前記基材粒子は、金属粒子または無機粒子である、請求項1から9のいずれかに記載の複合粒子の製造方法。
【請求項11】
前記基材粒子は、希土類磁性合金粒子である、請求項10に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項12】
前記希土類磁性合金粒子は、HDDR法によって得られた希土類磁性合金粒子である、請求項11に記載の複合粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の製造方法によって製造された複合粒子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−74428(P2011−74428A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225102(P2009−225102)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、21年度、文部科学省科学技術試験研究委託事業元素戦略プロジェクトの委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005083)日立金属株式会社 (2,051)
【出願人】(504147254)国立大学法人愛媛大学 (214)
【出願人】(304021277)国立大学法人 名古屋工業大学 (784)
【Fターム(参考)】