説明

複合粘着剤の製造方法、複合粘着剤及び粘着シート

【課題】エマルション型粘着剤中に、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を、凝集することなく分散させて、良好な導電性を有する複合粘着剤を効率よく製造する方法を提供する。
【解決手段】(a)分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物を含む水性溶液中に、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を加えたのち、凝集していた該極細炭素繊維を解砕する工程、(b)前記(a)工程で得られた極細炭素繊維を含む液を、水溶性ポリマーの水性溶液中に添加し、極細炭素繊維の分散液を調製する工程、及び(c)前記極細炭素繊維の分散液と、エマルション型粘着剤とを混合する工程を含み、かつ前記エマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径が200〜1000nmであることを特徴とする複合粘着剤の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合粘着剤の製造方法、この方法により得られた複合粘着剤及び粘着シートに関する。さらに詳しくは、本発明は、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を、エマルションの平均粒子径が200〜1000nmのエマルション型粘着剤中に、凝集することなく分散させて、導電性に優れる複合粘着剤を効率よく製造する方法、この方法により得られた複合粘着剤及び粘着シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
直径がナノメートルレベルの極細炭素繊維の一種であるカーボンナノチューブ(CNT)は直径0.7nm〜150nm程度、長さ1〜数十μm程度の円筒状の炭素繊維であって、アスペクト比、比表面積が大きく従来の炭素繊維と比べ機械的性質、電気的特性に優れている。
このため、CNTは様々な新機能を発揮しうる新素材として非常に注目を集めているナノ材料の一つである。さらに近年では、大量合成の技術が確立されてきており、産業への用途拡大が期待される。しかしながら、このCNTなどの極細炭素繊維は非常に凝集しやすく、複合材料としてのフィラーとして用いる場合には、マトリックス中への均一な分散が重要となってくる。CNTの分散方法として、ある種の化学修飾法や分散媒を添加する方法がとられている。
【0003】
化学修飾法としては、例えば硝酸や硫酸などにより、CNTにカルボキシル基を導入することが報告されている(例えば、非特許文献1参照)。しかしながら、酸処理によるカルボキシル基の導入では、水への分散性は向上するが、CNT表面の欠陥が増えることにより、導電性を低下させてしまうという問題が生じる。また、後者の方法に用いる分散剤として一般に界面活性剤であるドデシル硫酸ナトリウムやドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどが用いられているが(例えば、非特許文献2参照)、CNTの分散には多量の界面活性剤の添加が必要とされるため、CNTの濃度を高くすることが困難である。また、複合材料としてのマトリックスが粘着剤の場合、CNTの添加量を多くすると、粘着剤溶液の粘度が極端に低下するため、塗工時に多量の増粘剤を添加せざるを得ないなどの問題が生じる。
【0004】
一方、分散機などの機械的エネルギーにより、CNTの凝集を解砕する方法が報告されている(例えば、非特許文献3参照)。しかしながら、複合材料としてのマトリックスがエマルション型の場合には、機械的なエネルギーを加えることによりエマルション粒子が破壊されゲル化するという問題がある。さらに、CNTを用いた粘着剤としては、特許文献1〜4などのように提案されているが、具体的な水系エマルション型粘着剤への応用は記載されていない。
また、特許文献5には、ニッケル粉末からなる導電材料を、粘着剤中に分散させた導電性粘着剤を用いた導電性粘着シートが開示されている。しかしながら、ニッケル粉末を分散させる粘着剤は溶剤型であって、水系エマルション型ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−172582号公報
【特許文献2】特開2005−314480号公報
【特許文献3】特開2006−35773号公報
【特許文献4】特表平4−503381号公報
【特許文献5】特開2004−263030号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Science 280,1253(1998)
【非特許文献2】NANO LETTERS 3,1379(2003)
【非特許文献3】成型加工 第17巻 50(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような状況下になされたものであり、エマルション型粘着剤中に、CNTやカーボンナノファイバー(CNF)などの直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を、凝集することなく分散させて、良好な導電性を有する複合粘着剤を効率よく製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、直径がナノメートルレベルの極細炭素繊維を、エマルション型粘着剤に機械的なエネルギーを直接与えることなく該粘着剤中に分散させるには、分散安定剤として水溶性ポリマーを、分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物を用いることが極めて有効であること、そしてエマルション型粘着剤におけるエマルションの粒子径を変動させることにより、複合粘着剤の導電性能を制御し得ることを見出し、さらに該導電性能の観点から、前記エマルションの平均粒子径が特定の範囲にあるエマルション型粘着剤を用いることにより、その目的を達成し得ることを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0009】
すなわち、本発明は、
[1](a)分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物を含む水性溶液中に、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を加えたのち、凝集していた該極細炭素繊維を解砕する工程、(b)前記(a)工程で得られた極細炭素繊維を含む液を、水溶性ポリマーの水性溶液中に添加し、極細炭素繊維の分散液を調製する工程、及び(c)前記極細炭素繊維の分散液と、エマルション型粘着剤とを混合する工程、を含み、かつ前記エマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径が200〜1000nmであることを特徴とする複合粘着剤の製造方法、
[2](a)工程において、糖鎖が結合したフラボノイド系化合物/極細炭素繊維の質量比が1以上である上記[1]項に記載の複合粘着剤の製造方法、
[3]糖鎖が結合したフラボノイド系化合物がルチンである上記[1]又は[2]項に記載の複合粘着剤の製造方法、
[4]極細炭素繊維が、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーである上記[1]〜[3]項のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法、
[5](b)工程で用いる水溶性ポリマーの水溶液が、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を含む水溶液である上記[1]〜[4]項のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法、
[6]エマルション型粘着剤におけるエマルションの粒子径を変動させることにより、複合粘着剤の導電性能を制御する上記[1]〜[5]項のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法、
[7]上記[1]〜[6]項のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする複合粘着剤、
[8]上記[1]〜[6]項のいずれかに記載の製造方法による複合粘着剤を塗工して得られたことを特徴とする粘着シート、
[9]粘着剤層面の表面抵抗値が1×100〜1×1010Ω/□である上記[8]項に記載の粘着シート、及び
[10]粘着剤層面を、pH10以上のアルカリ性水溶液で洗浄して得られる上記[8]又は[9]項に記載の粘着シート、
を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、分散安定剤として水溶性ポリマーを、分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物、好ましくはルチンを用いることにより、エマルションの平均粒子径が所定の範囲にあるエマルション型粘着剤中に、CNTやCNFなどの直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を、凝集することなく分散させて、良好な導電性を有する複合粘着剤を効率よく製造する方法及びこの方法による粘着剤を塗工して得られる粘着シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1、2及び比較例1において、使用したエマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径と、作製された粘着シートの表面抵抗値との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の複合粘着剤の製造方法について説明する。
[複合粘着剤の製造方法]
本発明の複合粘着剤の製造方法は、下記の(a)工程、(b)工程及び(c)工程を含むことを特徴とする。
((a)工程)
当該(a)工程は、分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物を含む水性溶液中に、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を加えたのち、凝集していた該極細炭素繊維を解砕する工程である。
【0013】
<極細炭素繊維>
当該(a)工程においては、得られる複合粘着剤に導電性を付与するために、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維が用いられる。この極細炭素繊維としては特に制限はないが、CNT及び/又はCNF、特にCNTが、導電性や分散性、入手性などの観点から、好ましく用いられる。
CNTとしては、公知の各種CNTを用いることができる。CNTは一般に炭素からなる平面構造のグラファイトを丸めた円筒状、すなわちチューブ状構造の炭素の結晶で、その直径は通常0.7から150nm程度、長さは通常1から数10μm程度である。炭素含有ガスの気相分解反応や、炭素棒、炭素繊維等を用いたアーク放電等によって製造することができる。このCNTには、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)や多層カーボンナノチューブ(MWCNT)などがある。一方、CNFも、公知の各種CNFを用いることができる。CNFはグラファイト構造からなり、直径が1から1000nm程度、長さが1から1000μm程度である。
【0014】
<分散助剤>
当該(a)工程においては、分散助剤として、糖鎖が結合したフラボノイド系化合物が用いられる。この糖鎖が結合したフラボノイド系化合物は、通常水性媒体に溶解して、該フラボノイド化合物濃度が、0.1〜30質量%程度、好ましくは0.5〜10質量%の水性溶液の形態で用いられる。上記水性媒体としては、水を始め、水と低級アルコールとの混合液、アルカリ性水溶液などが用いられる。また、ルチンの他にアストラガリン、イソケルシトリン等も、糖鎖が結合したフラボノイド系化合物として用いることができる。
糖鎖が結合したフラボノイド系化合物としては、下記式(1)で示されるルチンが好適である。
【化1】

このルチンは、それを含む天然由来の供給源から採取することができる。そのような天然由来の供給源は、例えば、ルチンを含有することが従来知られるそれ自身公知のいずれかの植物であればよく、これに限定するものではないが、例えば、ソバ、エンジュ、ヘンルーダ、並びにタマネギ、レタス及びトマトなどの野菜、柑橘類などの全草、つぼみ、実、葉、花及び芽などであってもよい。
糖鎖が結合したフラボノイド系化合物として、前記ルチンを用いる場合、ルチンは水に対して室温で微溶であるために、溶解する溶液としては、アルカリ性水溶液を用いる。この際、アルカリ性水溶液のpHは10以上であることが好ましい。
【0015】
当該(a)工程においては、このようにして調製された糖鎖が結合したフラボノイド系化合物の水性溶液に、前述した極細炭素繊維を加えたのち、超音波処理などを施して、凝集していた極細炭素繊維を解砕する。
この際、糖鎖が結合したフラボノイド系化合物/極細炭素繊維の質量比は、該炭素繊維の分散性の観点から、1以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。また、その上限は特に制限はないが、通常3.0程度である。
【0016】
((b)工程)
当該(b)工程は、前記(a)工程で得られた極細炭素繊維を含む液を、水溶性ポリマーの水性溶液中に添加し、極細炭素繊維の分散液を調製する工程である。
<水溶性ポリマー>
当該(b)工程においては、前記の極細炭素繊維を、エマルション型粘着剤中に、経時安定的に分散させるために、分散安定剤として水溶性ポリマーが用いられる。この水溶性ポリマーとしては、特に制限はないが、例えばカルボキシメチルセルロース(CMC)及びそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシメチルヒドロキシエチルセルロース、スルホン酸エチルセルロース及びシアノエチルセルロースなどのセルロース系化合物、さらには、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリビニルピロリドン、水溶性エポキシエステル樹脂、水溶性フェノール樹脂、水溶性アミノ樹脂、メラミン−ホルムアルデヒド樹脂、水溶性アルキッド樹脂、水溶性ポリウレタン、アルギン酸ナトリウム、アラビアガム又はそれらの混合物を用いることができる。これらの中で分散安定剤としての効果及び入手性の観点から、カルボキシメチルセルロース(CMC)のアルカリ金属塩が好適である。
この水溶性ポリマーは、水性媒体中に溶解させて水性溶液の形態で用いられる。上記水性媒体としては、水を始め、水と低級アルコールとの混合物、アンモニア水等のアルカリ性水溶液などが用いられる。水性溶液中の水溶性ポリマーの濃度は、通常1〜10質量%程度、好ましくは3〜7質量%である。
【0017】
当該(b)工程においては、このようにして調製された水溶性ポリマーの水性溶液中に、前述の(a)工程で得られた極細炭素繊維を含む液を添加し、例えばホモジナイザーなどを用いて、該極細繊維を分散させることにより、極細炭素繊維の分散液を調製する。
この分散液中の該極細繊維の含有量は、通常0.01〜50質量%程度、好ましくは0.1〜30質量%である。
【0018】
((c)工程)
当該(c)工程においては、前記(b)工程で得られた極細炭素繊維の分散液と、エマルション型粘着剤とを混合する工程である。
<エマルション型粘着剤>
当該(c)工程においては、粘着剤としてエマルション型粘着剤が用いられる。このエマルション型粘着剤は、エマルションの平均粒子径が200〜1000nmの範囲にあることを要する。該平均粒子径が200nm未満では、所望の導電性能を有する複合粘着剤が得られず、一方1000nmを超えるとエマルション粒子が不安定になる。該エマルションの好ましい平均粒子径は250〜900nmの範囲であり、より好ましくは300〜800nmの範囲である。なお、エマルションの平均粒子径は、キャピラリー式粒度分布測定器を用いて測定されるD50の値である。
【0019】
本発明者らは、当該(c)工程で用いるエマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径が、得られる複合粘着剤の導電性能に大きな影響を及ぼし、該平均粒子径を変動させることにより、複合粘着剤の導電性能を制御し得ることを見出した。これは下記の理由によるものと考えられる。
乾燥処理前の複合粘着剤においては、エマルション粒子と導電材のCNTは独立して存在するが、乾燥処理過程において、エマルション粒子の融着が進行し、該CNTは粒子の境界で偏在化していく。粒子サイズが小さい場合、比表面積が大きくなるため、粒子の境界に偏在するCNTの存在密度が小さくなる。その結果、粘着剤層の導電ネットワークが形成しにくくなり、表面抵抗値が大きくなる。粒子サイズが大きい場合はこの逆となる。また粒子サイズが小さい場合、CNTが粒子を迂回する頻度が高くなると予想されるため、導電ネットワークを形成しにくくすることも関係していると考えられる。
【0020】
エマルション型粘着剤としては特に制限はないが、エマルション型アクリル系粘着剤が好ましい。
エマルション型アクリル系粘着剤は、官能基モノマーと、アクリル酸アルキルエステルやメタクリル酸アルキルエステルなどとを共重合して得られるアクリル系共重合体を主成分として構成され、溶媒として水を含み、乳化剤、増粘剤などの各種添加剤が適宜含まれており、必要に応じて、安定剤、粘着付与剤、充填剤、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等をさらに含んでもよい。官能基モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸等のカルボキシル基含有モノマー等が挙げられる。
このエマルション型アクリル系粘着剤の固形分濃度は、通常20〜75質量%程度、好ましくは30〜65質量%である。
【0021】
当該(c)工程においては、エマルション型粘着剤、好ましくは前記のエマルション型アクリル系粘着剤と、前述の(b)工程で得られた極細炭素繊維の分散液とを混合することにより、複合粘着剤を製造する。
この複合粘着剤における固形分中の極細炭素繊維の含有量は、所望の導電性を得るためには、通常0.01〜10質量%程度、好ましくは、0.1〜9質量%、より好ましくは、0.3〜8質量%である。
本発明はまた、前述した本発明の製造方法で得られた複合粘着剤、さらにはその複合粘着剤を用いた粘着シートをも提供する。
【0022】
[複合粘着剤及び粘着シート]
本発明の複合粘着剤は、前述した本発明の製造方法により得られたものである。粘着シートは、前記複合粘着剤を公知の方法で、紙、フィルム等の基材上、あるいは剥離材上に塗工して得ることができ、粘着シートの粘着剤層面の表面抵抗値が1×100〜1×1010Ω/□であることが好ましい。前記表面抵抗値は、好ましくは1×100〜1×108Ω/□である。
さらに、当該粘着シートにおいては、それを用いて形成された粘着剤層面を、pH10以上のアルカリ性水溶液に浸漬するなどして洗浄することが好ましい。
このアルカリ性水溶液による洗浄で、表面に存在するルチンなどの糖鎖が結合したフラボノイド系化合物及び水溶性ポリマーが溶出して粘着剤層から除かれることにより、より強い粘着力を発揮する。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
なお、エマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径、及び粘着シートの表面抵抗値は、以下に示す方法により測定した。
(1)エマルションの平均粒子径
Matec Applied Sciences Inc.社製のキャピラリー式粒度分布測定器を用い、D50値を平均粒子径とした。
(2)粘着シートの表面抵抗値
三菱化学分析(株)製の「ロレスタGP」及び「ハイレスタUP」を用いて、表面抵抗値を測定した。
【0024】
比較例1、実施例1及び実施例2
各例における試料として下記のものを使用した。
・エマルション型粘着剤
乳化重合法で作製した固形分50.0質量%のエマルション型アクリル系粘着剤(2−エチルヘキシルアクリレート:アクリル酸質量比=95:5)であり、平均粒子径が157nm、326nm及び454nmの3種類のものを使用した。
・CNT
(株)名城ナノカーボンより購入した、アーク放電法によって製造された単層カーボンナノチューブ(SWCNT)をそのまま使用した。このSWCNTを熱重量分析により測定したところ、純度は43質量%であった。不純物は主に鉄触媒とアモルファスカーボンである。
・カルボキシメチルセルロースナトリウム塩(CMC)及びルチン
いずれも和光純薬工業(株)製のものを、精製せずに使用した。
【0025】
ルチンは、水への溶解性が低いが、塩基性水溶液に容易に溶解することから、5.0質量%アンモニア水5.0gへ、ルチン60.0mgを溶解させてなる溶液として用いた。このルチン溶液へSWCNT11.0mgを添加し、超音波洗浄器[Branson社製、「2510J−DTH」]を用いて60分間超音波処理を行った。
さらに、この超音波処理液に、5.0質量%CMC溶液3.0gを加え、ホモジナイザー[(株)エスエムテー製、「PH91型」]を使用して、15000rpmで30分間分散処理を行った。
その後、上記の分散処理液へ、前述の各粒子サイズのエマルション型粘着剤(Em−PSA)5.0gと、それぞれ混合して、(株)シンキー製「ARE−250」を用い、撹拌、脱泡を行い、複合粘着剤液を調製した。
得られた複合粘着剤液を、アプリケーターで乾燥後の厚みが20μmになるように、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム上に塗布し、100℃のオーブン中にて5分間乾燥処理して粘着シートを作製した。
次いで、CMC及びルチンを除去するために、前記粘着シートを5.0質量%アンモニア水溶液で30分間浸漬することにより洗浄し、その後、90℃で3分間乾燥させて、複合粘着剤層を有する粘着シート試料を作製した。
第1表に、複合粘着剤液における各成分の配合量と、Em−PSAのエマルション平均粒子径及び粘着シート試料の表面抵抗値を示す。
図1に、エマルションの平均粒子径と表面抵抗値との関係をグラフで示す。
【0026】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明の複合粘着剤の製造方法は、カーボンナノチューブやカーボンナノファイバーなどの直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を、凝集することなく、エマルションの平均粒子径が200〜1000nmのエマルション型粘着剤中に分散させて、表面抵抗値が、1×100〜1×1010Ω/□の導電性に優れる複合粘着剤を効率よく製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)分散助剤として糖鎖が結合したフラボノイド系化合物を含む水性溶液中に、直径が0.2〜200ナノメートルレベルの極細炭素繊維を加えたのち、凝集していた該極細炭素繊維を解砕する工程、(b)前記(a)工程で得られた極細炭素繊維を含む液を、水溶性ポリマーの水性溶液中に添加し、極細炭素繊維の分散液を調製する工程、及び(c)前記極細炭素繊維の分散液と、エマルション型粘着剤とを混合する工程、を含み、かつ前記エマルション型粘着剤におけるエマルションの平均粒子径が200〜1000nmであることを特徴とする複合粘着剤の製造方法。
【請求項2】
(a)工程において、糖鎖が結合したフラボノイド系化合物/極細炭素繊維の質量比が1以上である請求項1に記載の複合粘着剤の製造方法。
【請求項3】
糖鎖が結合したフラボノイド系化合物がルチンである請求項1又は2に記載の複合粘着剤の製造方法。
【請求項4】
極細炭素繊維が、カーボンナノチューブ及び/又はカーボンナノファイバーである請求項1〜3のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法。
【請求項5】
(b)工程で用いる水溶性ポリマーの水溶液が、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩を含む水溶液である請求項1〜4のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法。
【請求項6】
エマルション型粘着剤におけるエマルションの粒子径を変動させることにより、複合粘着剤の導電性能を制御する請求項1〜5のいずれかに記載の複合粘着剤の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法により得られたことを特徴とする複合粘着剤。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法による複合粘着剤を塗工して得られたことを特徴とする粘着シート。
【請求項9】
粘着剤層面の表面抵抗値が1×100〜1×1010Ω/□である請求項8に記載の粘着シート。
【請求項10】
粘着剤層面を、pH10以上のアルカリ性水溶液で洗浄して得られる請求項8又は9に記載の粘着シート。

【図1】
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【公開番号】特開2012−144624(P2012−144624A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−3288(P2011−3288)
【出願日】平成23年1月11日(2011.1.11)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(000102980)リンテック株式会社 (1,750)
【Fターム(参考)】