説明

複合電子材料及びその製造方法

【課題】安定性・耐久性が向上した複合電子材料を提供する。
【解決手段】本発明の複合電子材料は、DNA−脂質化合物と、該DNA−脂質化合物中のDNA部分にインターカレートした有機色素分子と、芳香族基及び極性基を有する高分子材料と、を含むものである。また本発明の複合電子材料の製造方法は、前記DNA−脂質化合物の存在下で、前記高分子材料を構成する重合性モノマーを光重合させることを含む前記複合電子材料の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合電子材料及びその製造方法に関し、特にDNAを用いた複合電子材料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、DNA分子の高分子材料としての応用展開が世界的に進められている。特に、DNAの対イオンであるナトリウムイオンを、四級アンモニウムカチオンである脂質イオンでイオン交換して得られたDNA−脂質複合体は、二重螺旋構造を保持した状態で容易に薄膜を形成可能となることが示され(非特許文献1、非特許文献2)、更に種々の材料としての可能性が飛躍的に広げられた。
その後、新規な機能性材料、特にその二重螺旋内に芳香環化合物を挿入(インターカレート)して、エレクトロニクス、フォトニクスなどの分野での新しい機能性材料が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1及び非特許文献2には、N,N,N−トリメチル−N−(3,6,9,12−テトラオキサドコシルアンモニウムブロミド(TTA)を含むDAN−脂質錯体を用いた有機非線形光学材料が開示されている。特許文献2には、カーボンナノチューブ/DNA/ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロマイド等の導電性フィルム、液晶フィルム、EL素子や太陽電池などの光電変換膜、高分子材料などの機能性フィルムとして利用しうる水不溶性、自己支持性、高配向化カーボンナノチューブ/脂質/DNA複合体含有マトリックス複合体フィルムが開示されている。
【0004】
【特許文献1】特開平11−119270号公報
【特許文献2】特開2001−327591号公報
【非特許文献1】K. Tanaka and Y. Okahata, Journal of the American Chemical Society, 1996年, Vol.118, No.44, Nov. pp.10679-10683
【非特許文献2】緒方直哉、バイオインダストリー、2005年、Vol.22, No.6, pp.5-12,
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの機能性材料を種々の光・電子製品として利用するには、安定した性質を維持する必要がある。DNA−脂質化合物は吸湿性を有することが知られているおり、電子材料として単に使用すると吸水して量子収率が低下し、安定性・耐久性の面で満足できるものではなかった。
従って本発明は、優れた安定性・耐久性、特に耐水性を有する複合電子材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
[1] DNA−脂質化合物と、該DNA−脂質化合物中のDNA部分にインターカレートした有機色素分子と、芳香族基及び極性基を有する高分子材料と、を含む複合電子材料。
[2] 前記DNA−脂質化合物が、炭素数12〜20の脂肪族炭化水素基及び炭素数5〜20の芳香族炭化水素基からなる群より選択された炭化水素基を少なくとも1つ有する四級アンモニウム化合物と、DNA分子と、を用いて得られたものである[1]記載の複合電子材料。
【0007】
[3] 前記高分子材料が、ポリカーボネート、ポリ(ベンジルメタクリレート)、ポリ(フルオロメタクリレート)及び、側鎖にジフェニルエーテルケトン基を有するポリ(p−フェニレン)からなる群より選択された少なくとも1つである[1]又は[2]記載の複合電子材料。
[4] 前記脂質化合物が、キラル型脂質及び直鎖型脂質からなる群より選択された少なくとも1種である[1]〜[3]いずれかに記載の複合電子材料。
[5] 前記脂質化合物が、キラル型脂質である[1]〜[3]のいずれかに記載の複合電子材料。
[6] 前記複合電子材料が、10nm〜500nmの平均粒子径を有する粒子形態のものである[1]〜[5]のいずれかに記載の複合電子材料。
[7] 前記DNA−脂質化合物の存在下で、前記高分子材料を構成する重合性モノマーを光重合させることを含む[1]〜[6]のいずれか記載の複合電子材料の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた安定性・耐久性、特に耐水性を有する複合電子材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の複合電子材料は、DNA−脂質化合物と、該DNA−脂質化合物中のDNA部分にインターカレートした有機色素分子と、芳香族基及び極性基の少なくとも一方を有する高分子材料と、を含むものである。
本複合電子材料では、DNA−脂質化合物及び有機色素分子の他に、芳香族基及び極性基を有する高分子材料を含むので、DNA−脂質化合物及び有機色素分子が高分子材料によって封止された状態となる。このとき、高分子材料として芳香族基及び極性基を有するものを用いるので、DNA−脂質化合物が吸水することを効果的に抑制することができる。従って、水に対する親和性が高いDNAを含む複合電子材料であっても優れた耐吸水性を発揮し、安定した電子特性を示すことができる。この結果、優れた安定性・耐久性を備えた複合電子材料とすることができる。
【0010】
本発明の複合電子材料におけるDNAは二本鎖であればいずれのものであってよく、天然DNA及び合成DNAのいずれも使用することができる。天然DNAとしては、細菌ウイルスのλファージDNA、大腸菌染色体DNA、仔牛胸腺DNA、サケ精子DNAを挙げることができる。また、合成DNAは、ポリ(dA)、ポリ(dT)、ポリ(dG)、ポリ(dC)、ポリ(dA−dT)、ポリ(dG−dC)などを用いて合成装置によって合成可能な合成DNAを挙げることができる。これらの塩基配列は同じであってもよく異なってもよい。また配列自体には大きな意味がなく、ランダムであっても均一なものであってもよい。また、本発明におけるDNAは、二本鎖を形成することができるDNAを含むものであればよく、ポリ(A)、ポリ(T)、ポリ(G)、ポリ(U)、ポリ(A−T)、ポリ(G−U)などを用いて合成装置により合成可能な、塩基配列の異なる種々の合成RNA;ポリ(dG)、ポリ(U)、ポリ(G)、ポリ(dC)ポリ(dA−dT)、ポリ(A−T)などのDNA/RNAハイブリッドを用いて合成装置によって合成可能な、相補的塩基対を有するDNA/RNAハイブリッドも含むことができる。
DNAのサイズ(長さ)は、有機色素分子をインターカレート可能であればいずれの分子量であってもよく、複合電子材料に含まれるDNAの分子量は均一であっても、異なるものであってもよい。
【0011】
DNA−脂質化合物を構成可能な脂質化合物としては、DNAを疎水化できるものであればよい。複合電子材料の加工性の観点から、炭素数12〜20の脂肪族炭化水素基及び炭素数5〜20の芳香族炭化水素基からなる群より選択された炭化水素基を少なくとも1つ有する四級アンモニウム化合物が好ましい。特に、複合電子材料の力学的観点から、炭素数12〜20の脂肪族炭化水素基を少なくとも1つ有する四級アンモニウム化合物であることが好ましく、炭素数12〜18の脂肪族炭化水素基を有する四級アンモニウム化合物が更に好ましい。DNA−脂質化合物を構成する場合には、四級アンモニウム化合物は塩の形態で用いてもよく、この場合、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子との塩であることが好ましい。
このような脂質化合物としてはキラル型脂質と直鎖型脂質からなる群より選択された少なくとも1種であることが好ましく、高分子材料との相溶性の観点からキラル型脂質であることが更に好ましい。
【0012】
このような脂質化合物としては、直鎖型脂質として、トリメチルドデシルアンモニウムクロリド、トリメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、トリメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、トリメチルオクタデキシルアンモニウムクロリド、ジメチルジドデシルアンモニウムブロミド、ジメチルジテトラデシルアンモニウムブロミド、ジメチルジヘキサデシルアンモニウムブロミド、ベンジルジメチルテトラデシルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルヘキサデシルアンモニウムクロリド、ベンジルジメチルオクタデシルアンモニウムクロリド、ドデシルピリジニウムクロリド、ヘキサデキシルピリジニウムクロリド、ベンジルジメチルステアリルアンモニウムクロリド、セチルトリメチルアンモニウムクロリド、トリメチルステアリルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリド、ジメチルジテトラデシルアンモニウムブロミド等を挙げることができる。
【0013】
また、キラル型脂質として、以下の四級化L−アラニン(化合物1)、四級化L−フェニルアラニン(化合物2)、四級化L−グルタミン酸(化合物3)、四級化ヒスチジン誘導体(化合物4)等を挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
DNA−脂質化合物は、DNAの水溶液に上記脂質化合物を添加して、ナトリウムイオンを脂質で交換することによって容易に得ることができる。DNA−脂質化合物を得る場合、DNAと脂質化合物とは公知の方法にしたがって混合すればよく、例えば、DNAの1質量%溶液に対して、1質量%〜10質量%の濃度となるように脂質化合物を添加すればよい。なお、このとき、得られたDNA−脂質化合物と後述する溶媒との相溶性を向上させるために、エタノール等を添加してもよい。
【0016】
本発明に用いられる有機色素分子は、DNAの二本鎖に対してインターカレート可能であれば公知のいずれの芳香環化合物を用いることができるが、目的とする電気特性を考慮して、適宜選択すればよい。電子的あるいは工学的特性の観点から、有機非線形光学色素等を挙げることができ、例えば、臭化エチジウム(EtBr)、1−アミノ−3−ニトロ−アントラセン(ANA)、トランス−4[(ジブチルアミノ)スチリル]−1−メチルピリジニウムブロミド(DBASDPB)、また以下に示すもの等を挙げることができる。
【0017】
【化2】

【0018】
【化3】

【0019】
【化4】

【0020】
【化5】

【0021】
【化6】

【0022】
【化7】

【0023】
【化8】

【0024】
本発明において有機色素分子は、上記のDNA−脂質化合物に対してインターカレートされる。有機色素分子の配合量は、複合電子材料の用途や用いられる有機色素分子の種類によって異なるが、一般にDNA−脂質化合物の全質量に対して、電子的あるいは工学的特性の観点から好ましくは5〜30質量%である。
【0025】
本発明にかかる高分子材料は、芳香族基及び極性基を有する高分子化合物である。このような高分子材料であれば、溶媒との相溶性に優れ、耐吸水性を充分に付与することができる。
高分子化合物に含まれる極性基としては、−C−O−基、−C=O基、−COO−基、エポキシ基、C基、CN−基、−CN基、−NH基、−NH−基、−X(ハロゲン)基、−SO−基、−CF基等を挙げることができる。また、高分子化合物に含まれる芳香族基としては、例えば炭素数5〜20のものを挙げることができ、ヘテロ原子を有していても有していなくてもよい。このような芳香族基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピリジン基、キノリン基等を挙げることができる。
【0026】
このような高分子材料としては、ポリカーボネート、ポリベンジルメタクリレート、ポリ(フルオロメタクリレート)を挙げることができ、ポリカーボネート(テイジン製)、ジフェニルエーテルケトン基を有するポリp−フェニレン(Parmax[商品名、以下同様]2000)、ベンゾフェノン基を有するポリ(p−フェニレン)(Parmax1000)等を挙げることができる。
【0027】
また本発明にかかる高分子材料の粘度平均分子量は、後述する芳香族ポリカーボネートの分子量と同様の方法による測定で、100,000〜1,000,000、加工性、成形性の観点から50,000〜200,000とすることができる。
【0028】
上記高分子材料のうち、ポリカーボネートは、芳香族ヒドロキシ化合物またはこれと少量のポリヒドロキシ化合物をホスゲン又は炭酸のジエステルと反応させることによって得られる分岐していてもよい熱可塑性芳香族ポリカーボネート重合体または共重合体である。製造方法については、限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)あるいは、溶融法(エステル交換法)等で製造することができる。
【0029】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4−ジヒドロキシジフェニル等が挙げられる。中でもビスフェノールAが好ましい。これらは、成形性、加工性、透明性の観点から、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物、あるいはフッ素置換したボスフェノール類を使用することもできる。
【0030】
分岐した芳香族ポリカーボネートを得るには、フロログルシン、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−2、4,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6−ジメチル−2,4,6−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ヘプテン−3、1,3,5−トリス(4−ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1−トリス(4−ヒドロキシフェニル)エタンなどで示されるポリヒドロキシ化合物、あるいは3,3−ビス(4−ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5−クロルイサチン、5,7−ジクロルイサチン、5−ブロムイサチンなどを前記芳香族ジヒドロキシ化合物の一部として用いればよい。
【0031】
芳香族ポリカーボネートの分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量(Mv)が16000〜30000であることが好ましく、中でも17000〜23000であることが好ましい。
【0032】
その他の高分子材料として、ポリ(メチルメタクリレート)、ポリ(ベンジルメタクリレート)(三菱レーヨン)、ポリ(フルオロメタクリレート)(旭化成)があり、いずれも粘度平均分子量50,000〜200,000の範囲が加工性、成形性の点から好ましい。
【0033】
本発明にかかる複合電子材料を得るには、例えば、DNA−脂質化合物及び有機色素分子を調製すると共に、別途高分子化合物を溶媒に溶解させた高分子溶液を調製し、これらを接触すればよい。これにより、高分子材料にDNA−脂質化合物を封止した複合電子材料を効率よく得ることができる。なお、有機色素分子はDNA−脂質化合物と接触することにより、容易にDNA分子中にインターカレートする。高分子材料に対するDNA−脂質化合物の配合量は、高分子材料の質量に対して5質量%〜30質量%、電子的あるいは工学的特性の観点から好ましくは5質量%〜20質量%とすることができる。
【0034】
複合電子材料を製造するために用いられる溶媒としては、DNA−脂質化合物を溶解することができる溶媒であれば使用することができるが、及び高分子材料に対する相溶性の観点から、クロロホルム、ジクロロメタン、ヘキサフルオロイソプロパノールなどのハロゲンか炭化水素溶媒、フェノール、クレゾールなどのフェノール系溶媒を挙げることができる。中でも、良溶媒であるクロロホルム、ジクロロメタンの単独又はエタノール混合溶媒等であることがより好ましい。
【0035】
本発明の複合電子材料の重合は、ラジカル重合、懸濁重合、プラズマ重合、光重合等の一般的な重合を挙げることができるが、DNA−脂質化合物と有機色素分子を効率よく封止するためには、懸濁重合又は光重合であることが好ましく、光重合であることが特に好ましい。
中でも、本発明の複合電子材料を効率よく得るために、DNA−脂質化合物の存在下で、高分子材料の重合性モノマーを重合させることが好ましい(in situ重合)。
【0036】
懸濁重合に用いられる開始剤としては、通常のラジカル開始剤であればよく、例えば、過硫酸カリウム、過酸化水素/塩化第一鉄などのレドックス開始剤等を挙げることができる。開始剤の量は、一般に、モノマー100質量部に対して1質量部〜5質量部とすることができる。懸濁重合に用いられる分散剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ポリ(エチレンオキシド)等を用いることができる。懸濁重合の条件としては、20℃〜50℃の温度範囲が好ましい。
【0037】
上記重合方法の中でも、DNA−脂質化合物の存在下で重合性モノマーを光重合させる、所謂in situ重合法によって得られることが、本発明の複合電子材料の製造効率の観点から好ましい。
光重合においては、一般に使用されるアゾ化合物、過酸化化合物等のラジカル重合開始剤や、高電場プラズマによるラジカル発生を利用してもよいが、DNA分子中の核酸塩基層からラジカルが発生するため、開始剤等を使用する必要性を排除することができる。
このような光照射の条件としては、重合性モノマーの種類によって異なるが、200nm〜400nm、紫外線吸収の観点から好ましくは200nm〜300nmの光を用いればよく、照射時間としては、1分〜60分、硬化の観点から5分〜10分とすることができる。
【0038】
このような光重合可能なモノマーとしては、例えばメチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フルオロメタクリレート等を挙げることができる。この場合、これらのモノマーは、重合溶媒の全容量に対して5〜20質量/容量%あればよく、透明性向上の観点から好ましくは10質量/容量%とすることができる。
【0039】
本発明の複合電子材料は粒子形態に製造することができ、このように粒子形態の複合電子材料では、その平均粒子径は5nm以上500nm以下であることが電子的あるいは光学的特性の観点から好ましく、10nm以上50nm以下が更に好ましい。ここで複合電子材料の粒子径は、光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡観察での観察によって確認することができるが、好ましくは、走査型電子顕微鏡を用いた平均粒子径を測定することができる。本発明における平均粒子径としては、10,000倍の走査型電子顕微鏡を用いて、視野中の100個の粒子の実測の粒子径の平均値を用いる。
【0040】
粒子形態の複合電子材料を得るには、例えば、DNA−脂質化合物を水に溶解して得られた水溶液に重合性モノマーを分散させて粒子とした後に、懸濁重合又は光重合することによって容易に得ることができる。
【0041】
光重合及び懸濁重合によって、DNA−脂質化合物を内部に含有する複合電子材料とした場合に複合電子材料の内部にDNA−脂質化合物が含まれていることは、インターカレートさせた有機色素分子による発光(蛍光発光)や、CDスペクトルによって確認することができる。
【0042】
本発明の複合電子材料は、種々の電子材料に適用可能であり、所望の形態への成形方法は特に制限されない。粒子状に形成された複合電子材料の場合、そのまま利用してもよく、更に他の形状へ加工する際には所望の形態に加工する前に粉砕等を行って成形工程に用いてもよい。粒子状複合電子材料の場合は、光の粒子内部反射に伴う共鳴効果によって、光増幅が大幅に増加する特徴がある。
【0043】
本発明の複合電子材料は、外部の環境に対して影響を受けにくく安定した電子特性を示すことができ、特に高湿度下において効果的にその安定性を発揮することができる。
従って電子材料としての種々の用途に利用可能であり、当業者であればその利用形態を容易に理解することができる。
【実施例】
【0044】
以下に本発明の実施例について説明するが、これに限定されるものではない。また実施例中の%は、特に断らない限り、重量(質量)基準である。
【0045】
[実施例1]
DNAと合成高分子材料との複合材料
(1)DNA溶液調製条件
原料DNAには、サケの精子から抽出したものを用いた。DNAを1%濃度に水に溶かして、この水溶液100mlに、セチルトリメチルアンモニウムクロリド(CTMA)を5g加えて攪拌した。得られた白色の沈殿物を濾過して、水で洗浄し、透析膜を用いて透析して、不純物を除いた後に、凍結乾燥して、DNA−CTMAで構成されたDNA−脂質化合物を得た。
【0046】
クロロホルム10mlに対して、1gのDNA−CTMAを室温にて添加し、その後、エタノールを1ml添加して、DNA−脂質化合物が溶解したDNA−脂質化合物混合液を調製した。
次いで、調製した溶液に蛍光色素トランス−4−4[ジブチルアミノ)スチリル]−1−メチルピリジニウムブロミド(DBASDPB)を0.5g添加して、二重らせん構造のDNA分子中にこの色素をインターカレートさせた。
【0047】
(2)ポリカーボネート溶液の調製
トリフロロメチルビスフェノールAからなるポリカーボネート(テイジン製)1gを、クロルホルム10ml中に溶解してポリカーボネート溶液を調製した。
【0048】
(3)DNA−ポリカーボネート複合材料の調製
前述の色素をインターカレートさせたDNAと、ポリカーボネートを溶解したクロロホルム溶液とを混合したところ、均一な混合溶液が得られた。その後にアセトン洗浄した石英ガラス基盤の上にこの混合溶液をキャストしてスピナーにかけて、石英ガラス基盤の上にDNA−ポリカーボネート複合材料を薄膜とした。透明で均一なDNA複合膜が得られた。
【0049】
(4)DNA複合膜の性質
DNA−ポリカーボネート複合薄膜の湿度に対する水分子の吸着量について比較検討した。
吸着量の測定は、次のようにして行った。40℃1日間、真空乾燥を行って乾燥した複合薄膜を、相対湿度0〜100%に調整した空気雰囲気中に20℃で1日間放置して、その質量増から水の吸着量を測定した。
比較対象としては、ポリカーボネートを組み合わせていないDNA−脂質化合物を用いた。
結果を図1に示す。なお、図1において、四角は、本発明に相当するDNA−ポリカーボネート複合材料を表し、菱形は、比較例に相当するポリカーボネートを組み合わせていないDNA−脂質化合物を表す。
【0050】
図1に示されるように、DNA−CTMA複合体は湿度の増加とともに吸湿量が大きく増加して、湿度100%では水分含有量は40%にも達した。一方、DNA−CTMA複合体を1%含有しているポリカーボネート複合膜の水分子の吸着量は0.2%以下であって、水分子の吸着を防止できることがわかった。
【0051】
DNA−ポリカーボネート複合体膜及びDNA−脂質化合物単独膜の蛍光量子収率の測定と湿度変化に対する光特性変化を検討するために蛍光量子収率の測定を行った。
蛍光量子収率の測定は、次のように行った。波長1063nmのYAGレーザを複合膜に照射して発光する600nmの蛍光強度の比率を、蛍光分光光度計(マルチチャンネルアナライザー、セイコー・イージーアンドジー社製)を用いて測定した。
結果を図2に示す。なお、図2において、四角は、本発明に相当するDNA−ポリカーボネート複合材料を表し、菱形は、比較例に相当するポリカーボネートを組み合わせていないDNA−脂質化合物を表す。
【0052】
DNAのみから作製した膜の蛍光量子収率は湿度増加とともに蛍光量子収率は減少し、湿度100%では6%減少した。これは、DNA分子が親水性のため水分子を吸着することにより蛍光量子収率が減少したと考えられる。
一方、DNA−CTMA複合体(蛍光色素をドープ)を1%含有するポリカーボネート薄膜の蛍光量子収率は図2に示したようにほとんど低下しておらず、蛍光増幅機能の低下が見られなかった。これは図1に示した結果のように水の浸入が防止されて、封止効果が現れたためである。
このように本実施例の複合電子材料では、高湿度下であって電子特性を劣化させることがなく、安定性の高い電子材料であることが明らかであった。
【0053】
[実施例2]
高分子材料として、ジフェニルエーテルケトン基を側鎖に有する以下のポリ(p−フェニレン)(Parmax2000、Mississippi Polymer Technology社製)を用いた以外は実施例1と同様にして、複合電子材料を得た。
この複合電子材料について実施例1(4)と同様の評価を行ったところ、良好な封止効果が確認でき、安定性の高い電子材料が得られることがわかった。
【0054】
【化9】

【0055】
[比較例1]
高分子材料としてナイロンCM8000(東レ社製、ナイロン6/610)を使用し、DNA−CTMA−色素複合体とのブレンド比をそれぞれ10質量%、20質量%及び30質量%としてエタノール溶液に混合してから、ガラス基板上にキャストして薄膜を形成した以外は、実施例1と同様にして、複合電子材料を得た。
この複合電子材料について実施例1(4)と同様にして、評価を行った。
【0056】
いずれのブレンド比のものであっても、均一なフィルムを形成することができたが、白濁していた。更に、相対湿度100%下に放置したところ、いずれのブレンド物であっても吸水性が10%以上となった。蛍光発光の量子収率について評価したところ、湿度100%下では−15%低下した。
従って、極性基及び芳香族基を共に有しない高分子材料では、耐吸水性に劣り、安定性が充分でないことが分かった。
【0057】
[実施例3]
DNAが封入されたポリベンジルメタクリレート複合材料
(1)複合材料の合成
四級化アラニン(前記化合物1)又は四級化フェニルアラニン(前記化合物2)のアンモニウム化合物をそれぞれ、DNA類溶液に対して5質量%となる量で用いた以外は実施例1と同様にして、DNA−脂質化合物を得た。このDNA−脂質化合物に対して実施例1と同様にして、DNA−脂質化合物混合液を調製し、この溶液に、3質量%となる濃度で希土類キレートであるEu−FODを添加して、二重らせん構造のDNAにこの色素をインターカレートさせた。
【0058】
得られたDNA−脂質化合物−色素複合体を10質量%で含むクロロホルム溶液に、重合性モノマーとしてベンジルメタクリレート(BMA)を、全質量の90質量%となる量で配合し、重合溶液を調製した。この重合溶液に、300Wの紫外ランプを室温で10分間照射して、光重合させた。吸収スペクトル・蛍光スペクトルを測定し、DNA高分子ゲルの光機能性について検討を行った。Eu−FODを用いた場合の結果を図3に示した。図3において、色素のみは実線、四級化アラニン化合物1のものは鎖線、四級化フェニルアラニン化合物2のものは一点鎖線でそれぞれ示す。
図3に示されるように、約480nmで吸収スペクトル、約570nmで蛍光スペクトルが認められた。特にEu−FODでは570nmの蛍光発振強度はPMMAに比べて4倍に増強した。またこの高分子ゲルを相対湿度100%下に放置しても蛍光強度の変化は見られなかった。
【0059】
[実施例4]
DNAを含有する合成高分子微小球の作成
(1)DNA水溶液の調製
実施例1(1)と同様にして、鮭白子由来の高純度DNA(分子量、660万)1gを、ポリビニルアルコール1質量%を含む水100mlに溶解させてDNA水溶液を作成し、これにCTMAを5g加えて攪拌して、DNA−脂質化合物を得た。
【0060】
(2) 懸濁重合によるDNA含有ポリマー微小球の作成
上記のDNA−脂質化合物の水溶液100mlにベンジルメタクリレート(BMA)10gを加えて、さらに分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを0.1g加えて、室温で100rpmの条件でかき混ぜてBMAの分散液を作成した。
この分散液に、実施例1で使用した蛍光色素DBASDPBを0.1g、加えてかき混ぜながら、外部から300Wの紫外光照射を10分間行って、光重合させた。その結果、BMAは重合して直径約100nmのポリ(ベンジルメタクリレート)(PBMA)の微粒子が得られた。粒子径は、走査型顕微鏡(JSM6390、日本電子株式会社製、倍率:10,000倍)で視野中の100個の粒子の粒子径を実測した平均値である。
【0061】
このPBMA微粒子中にDNAが取り込まれていることを確認するために、微粒子の円偏光二色性スペクトル(CDスペクトル)を測定した。結果を図4に示す。図4に示したように、DNA−NaのものにはDNA特有のコットン効果が示されており(図4(A)参照)、これを同様のスペクトルが、得られたPBMA粒子に対しても得られた(図4(B)参照)。このことから、PBMA粒子中にDNA含まれていることが確認された。また、蛍光顕微鏡による観察でも、DNAにインターカレートされた蛍光色素の蛍光が確認された。
【0062】
次に、本実施例にかかるPBMA粒子の蛍光特性について調べた。
UV光照射エネルギーを、0.45mJから2.25mJへと段階的に変化させて、スペクトル幅の変化を確認した。結果を図5に示す。
【0063】
図5に示されるように、このDNA−色素含有PBMA微小球にUV光を照射したときの蛍光スペクトルは、UV光照射エネルギーが0.45mJ/cm(図5中、破線)、0.93mJ/cm(図5中、点線)、1.95m/cm(図5中、一点破線)、2.25mJ/cm(図5中、実線)と、大きくなるにつれてスペクトル幅は狭くなって、レーザー発振していることがわかる。これはPBMA微小球の中にあるDNAに光が閉じ込められた共鳴発振によるものと考えられる。
【0064】
このように本実施例の複合電子材料は、DNAを内部に含有する構成であっても発光材料としての特性を保持することができ、外部環境又は外部環境の変化に対して影響が受けにくい安定した電子材料であることが明らかであった。
【0065】
従って、本発明によれば安定性・耐久性が向上した複合電子材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の実施例1にかかる複合電子材料の吸水性を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例1にかかる複合電子材料の蛍光量子収率の変化を示したグラフである。
【図3】本発明の実施例3にかかる複合電子材料の蛍光スペクトルである。
【図4】(A)はDNAのみのCDスペクトル、(B)は本発明の実施例4にかかる複合電子材料のCDスペクトル、をそれぞれ示す。
【図5】本発明の実施例4にかかる複合電子材料の蛍光スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DNA−脂質化合物と、
該DNA−脂質化合物中のDNA部分にインターカレートした有機色素分子と、
芳香族基及び極性基を有する高分子材料と、
を含む複合電子材料。
【請求項2】
前記DNA−脂質化合物が、炭素数12〜20の脂肪族炭化水素基及び炭素数5〜20の芳香族炭化水素基からなる群より選択された炭化水素基を少なくとも1つ有する四級アンモニウム化合物と、DNA分子と、を用いて得られたものである請求項1記載の複合電子材料。
【請求項3】
前記高分子材料が、ポリカーボネート、ポリ(ベンジルメタクリレート)、ポリ(フルオロメタクリレート)及び、側鎖にジフェニルエーテルケトン基を有するポリ(p−フェニレン)からなる群より選択された少なくとも1つである請求項1又は請求項2記載の複合電子材料。
【請求項4】
前記脂質化合物が、キラル型脂質及び直鎖型脂質からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の複合電子材料。
【請求項5】
前記脂質化合物が、キラル型脂質である請求項1〜請求項3のいずれか1項記載の複合電子材料。
【請求項6】
前記複合電子材料が、10nm〜500nmの平均粒子径を有する粒子形態のものである請求項1〜請求項5のいずれか1項記載の複合電子材料。
【請求項7】
前記DNA−脂質化合物の存在下で、前記高分子材料を構成する重合性モノマーを光重合させることを含む請求項1〜請求項6のいずれか1項記載の複合電子材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2009−263430(P2009−263430A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−111772(P2008−111772)
【出願日】平成20年4月22日(2008.4.22)
【出願人】(508123445)有限会社 緒方材料科学研究所 (5)
【出願人】(000135209)株式会社ニフコ (972)
【Fターム(参考)】