説明

複層ガラス用樹脂スペーサ

【課題】 二次シール材を用いなくとも、スペーサのみでガスバリア性、成形性などの要求特性を満足でき、ガラスへの接着性の良好な複層ガラス用スペーサを提供する。
【解決手段】 (A)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)とからなるイソブチレン系ブロック共重合体と、(B)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、及び(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、オレフィンとの共重合体と、(C)無機充填材と、(D)乾燥剤とを含有する組成物からなることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサにより達成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性、ホットメルト接着性に優れた複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【背景技術】
【0002】
複層ガラスは高い断熱性を有したガラスであって、近年、省エネルギーの観点から注目されており、需要が増加している。現在の複層ガラスの多くは、2枚以上のガラス板、例えば図1に示すように、2枚のガラス板2、3を乾燥剤を充填したアルミニウムなどの金属製スペーサ5を介して対向させ、両ガラス板2、3の間に中空層4を形成してなる。そして、ガラス板2、3と金属製スペーサ5との間に一次シール材6を介在させることによって、中空層4を外気から遮断し、対向しているガラス板2、3の周縁部の内面とスペーサ5の外周面とで構成された空隙(凹部)7をポリスルフィド系またはシリコーン系で代表される常温硬化型の二次シール材8で封着してなっている。
【0003】
しかし、複層ガラスは、通常のガラスに比べて多くの製造工程を要するため、価格が高く、低価格化が望まれている。これまでにも、複層ガラスの製造工程において、種々の簡略化あるいは自動化による生産性改良、ひいてはコストダウン等が検討されてきている。例えば、金属製スペーサの代わりに、乾燥剤を練り込んだ樹脂組成物からなるスペーサを用いることにより、工程を簡略化する方法も提案されている。しかし、用いられるスペーサの種類を問わず、常温硬化型の二次シール材を用いた複層ガラスは、複層ガラス製造後、シール材の硬化のために長時間の養生を必要とする。そのため養生終了までは製品を出荷できない問題がある。
【0004】
そこで、複層ガラスの低コストおよび製造工程の効率化の点から、スペーサとして樹脂スペーサを用いるとともに、常温硬化型の二次シール材を用いることなしに、60℃以上の温度において流動する熱可塑性樹脂をホットメルト型の二次シール材として用いた複層ガラスが提案されている(特許文献1)。このような樹脂スペーサとホットメルト型の二次シール材とを用いることにより、複層ガラスの製造時間は短縮できる。しかし、このホットメルト型の二次シール材は粘着性が弱く、また、樹脂スペーサとして接着性の低いブチル系ゴムを用いているため、使用用途によっては長期耐久性の点で問題があり、シール部の剥離や変形が生じていた。
【0005】
また、部分加硫ゴムを用い、かつ乾燥剤を練り込んだ樹脂からなる成形物をスペーサ兼シール材として用い、常温硬化型の二次シール材を用いることなしに複層ガラスを製造する方法も提案されている(特許文献2)。しかし、この部分加硫ゴムを用いたスペーサ用樹脂は硬度が不十分で、このような樹脂からなるスペーサ単独では、複層ガラスとしての形状の維持が困難である。
【0006】
また、複層ガラスの割れを防止する方法として、ブチル系ゴムと結晶性ポリオレフィンからなる樹脂をスペーサ兼シール材として用い、常温硬化型の二次シール材を用いずに複層ガラスを製造する方法が提案されている(特許文献3)。しかし、この組成物では、主成分としてコールドフロー性のあるブチル系ゴムを用いているため、使用用途によっては、長期耐久性の点で問題があり、シール部の剥離や変形が生じる恐れがある。
【0007】
さらに、イソブチレン単位から構成されるブロックと、芳香族ビニル化合物単位から構成される2種のブロックとからなるトリブロック共重合体を弾性シーリング材として複層ガラスに使用する方法が提案されている(特許文献4)。このトリブロック共重合体は、ガスバリア性が高くコールドフロー性もないため、特許文献4に記載のブチル系ゴムを主成分とした組成物のようなシール材の変形は抑えられる。しかし、ガラス板とホットメルト粘着させる温度域での溶融粘度が高いため、十分な粘着力が得られず、長期耐久性の点で問題があり、シール部の剥離が生じるという問題がある。
【特許文献1】特開平9−77536号公報
【特許文献2】特公昭61−20501号公報
【特許文献3】特開平10−114552号公報
【特許文献4】特表2003−506557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記のように、現在のところ、二次シール材を用いなくとも、スペーサのみで寿命、形状維持性、成形性などの複層ガラスとして要求される特性を全て満足する複層ガラスは知られていない。そこで、本発明の目的は、製造後の長時間を要する養生の問題を解消し、かつ、長期的な接着力、形状維持、およびガスバリア性の高いシール材として機能する複層ガラス用スペーサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記の課題に鑑み鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、下記成分を含有する組成物からなることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
(A)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)とからなるイソブチレン系ブロック共重合体、
(B)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、及び(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、オレフィンとの共重合体、
(C)無機充填材、
(D)乾燥剤。
【0011】
好ましい実施態様としては、イソブチレン系ブロック共重合体(A)が、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)−芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)からなるトリブロック共重合体、および/または芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)からなるジブロック共重合体であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【0012】
好ましい実施態様としては、共重合体(B)が、メタクリル酸と、エチレンの共重合体であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【0013】
好ましい実施態様としては、共重合体(B)が、メタクリル酸の亜鉛塩および/またはナトリウム塩と、エチレンの共重合体であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【0014】
好ましい実施態様としては、共重合体(B)が、アクリル酸エチルと、エチレンの共重合体であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【0015】
好ましい実施態様としては、無機充填材(C)が、炭酸カルシウムまたはカーボンブラックの少なくとも1種であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【0016】
好ましい実施態様としては、乾燥剤(D)が、シリカゲル、アルミナ、ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサに関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る複層ガラス用スペーサは、ガスバリア性に優れ、長期の耐久性を有することに加えて、ガラスとの接着性が改善され、製造工程の簡素化も可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、本発明に係る複層ガラス用スペーサについて、その詳細を説明する。
【0019】
まず、イソブチレン系ブロック共重合体(A)について説明する。本発明でいうイソブチレン系ブロック共重合体(A)は、芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(b)を有しているものであれば特に制限はなく、例えば、直鎖状、分岐状、星状等の構造を有するブロック共重合体、ジブロック共重合体、トリブロック共重合体、マルチブロック共重合体等のいずれも選択可能である。好ましいブロック共重合体としては、物性バランスの点から、芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(b)−芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)からなるトリブロック共重合体、芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(b)からなるジブロック共重合体、芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(b)からなるアームを3本以上有する星型ブロック共重合体等が挙げられ、特にトリブロック共重合体およびジブロック共重合体が好ましい。これらは、所望の物性、ホットメルト加工性を得る為に、1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0020】
重合体ブロック(a)を構成する芳香族ビニル化合物は、特に限定されないが、芳香環を有しかつカチオン重合可能な炭素−炭素二重結合を有する化合物がイソブチレンと共重合する点で好ましい。このような化合物としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−クロロスチレン、p−t−ブチルスチレン、p−メトキシスチレン、p−クロロメチルスチレン、p−ブロモメチルスチレン、シリル基で置換されたスチレン誘導体、インデン等が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。なかでも、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレンおよびインデンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく、コストの面から、スチレン、α−メチルスチレン、またはこれらの混合物を用いることが特に好ましい。
【0021】
重合体ブロック(a)は芳香族ビニル化合物以外の単量体を含んでいても、含んでいなくてもよい。芳香族ビニル化合物以外の単量体を含む場合には、重合体ブロック(a)全体のなかで芳香族ビニル化合物が60重量%以上を占めることが好ましく、さらに、80重量%以上を占めることがより好ましい。重合体ブロック(a)中の芳香族ビニル化合物以外の単量体としては、芳香族ビニル化合物とカチオン重合可能な単量体であれば特に限定されないが、例えば、イソブチレン、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0022】
芳香族ビニル化合物を構成単量体としてなる重合体ブロック(a)の分子量としては、特に制限はないが、数平均分子量で30,000以下であることが好ましい。このような数平均分子量を満足することにより、ホットメルト加工が可能な(すなわち高温に加熱した時の溶融粘度が低い)材料が得られる。数平均分子量が30,000以上である場合、高温にしても溶融しがたいことから、そのホットメルト加工が困難である。
【0023】
重合体ブロック(a)の数平均分子量は、さらに1,000以上、20,000以下であることが好ましい。重合体ブロック(a)の数平均分子量が低すぎると、室温付近での流動性が上がりコールドフロー性を示すため、形状維持性の点に関して問題が生じる傾向がある。
【0024】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)を構成する重合体ブロック(b)はイソブチレンを構成単量体としてなる重合体ブロックである。
【0025】
重合体ブロック(b)の数平均分子量としては特に限定されないが、イソブチレン系ブロック共重合体(A)全体の数平均分子量が以下に記載する好ましい値になるように調整されることが好ましい。
【0026】
重合体ブロック(b)は、イソブチレン以外の単量体を含んでいてもよいし含んでいなくてもよい。イソブチレン以外の単量体を含む場合には、ガスバリア性の点で、重合体ブロック(b)全体のなかでイソブチレンが60重量%以上を占めることが好ましく、さらに、80重量%以上を占めることがより好ましい。重合体ブロック(b)中のイソブチレン以外の単量体としては、イソブチレンとカチオン重合可能な単量体であれば特に限定されないが、例えば、上記の芳香族ビニル化合物、脂肪族オレフィン類、ジエン類、ビニルエーテル類、β−ピネン等の単量体が例示できる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0027】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)において、芳香族ビニル化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)とイソブチレンを構成単量体とする重合体ブロック(b)の割合に関しては、特に制限はないが、ガスバリア性とホットメルト性のバランスから、重合体ブロック(a):重合体ブロック(b)が重量比で5:95から40:60であることが好ましく、10:90〜40:60であることがより好ましい。
【0028】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)の分子量にも特に制限はないが、ホットメルト粘着性および加工性の面から、数平均分子量で3,000〜500,000であることが好ましく、5,000〜300,000であることがより好ましい。イソブチレン系ブロック共重合体(A)の数平均分子量が上記範囲よりも低い場合には、室温付近での流動性が高くなり、容易に変形しやすく、一方、上記範囲を超える場合には、高温時の流動性が不十分になり、ホットメルト施工性に劣る傾向がある。
【0029】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)の製造方法としては、特に限定されず、公知の重合方法を用いることができるが、構造の制御されたブロック共重合体を得るためには、下記一般式(1)で表される化合物の存在下に、イソブチレンを主成分とする単量体成分および芳香族ビニル化合物を主成分とする単量体成分を重合することが好ましい。
【0030】
(CRX)nR …一般式(1)
[式中、Xはハロゲン原子、炭素数1〜6のアルコキシル基および炭素数1〜6のアシロキシル基からなる群から選択される置換基を表す。R、RおよびRは、それぞれ、水素原子、脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基であり、R、RおよびRは、同一であっても異なっていても良い。nは1〜6の自然数を示す。]
上記ハロゲン原子としては、塩素、フッ素、臭素、ヨウ素等が挙げられる。上記炭素数1〜6のアルコキシル基としては特に限定されず、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−またはイソプロポキシ基等が挙げられる。上記炭素数1〜6のアシロキシル基としては特に限定されず、例えば、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基等が挙げられる。上記脂肪族炭化水素基としては特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n−またはイソプロピル基等が挙げられる。上記芳香族炭化水素基としては特に限定されず、例えば、フェニル基、メチルフェニル基等が挙げられる。
【0031】
上記一般式(1)で表わされる化合物は開始剤となるもので、ルイス酸等の存在下炭素陽イオンを生成し、カチオン重合の開始点になると考えられる。本発明で用いられる一般式(1)の化合物の例としては、次のような化合物等が挙げられる。(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[CC(CH)2Cl]、1,4−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,4−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3−Cl(CHCCC(CHCl]、1,3,5−トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[1,3,5−(ClC(CH]、1,3−ビス(1−クロル−1−メチルエチル)−5−(tert−ブチル)ベンゼン[1,3−(C(CHCl)−5−(C(CH)C]。
【0032】
これらの中でも特に好ましいのは、(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[CC(CHCl]、ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[C(C(CHCl)]、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼン[(ClC(CH]である。[なお(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはクミルクロライドとも呼ばれ、ビス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、ビス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、ビス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはジクミルクロライドとも呼ばれ、トリス(1−クロル−1−メチルエチル)ベンゼンは、トリス(α−クロロイソプロピル)ベンゼン、トリス(2−クロロ−2−プロピル)ベンゼンあるいはトリクミルクロライドとも呼ばれる]。
【0033】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)を重合により製造する際に、さらにルイス酸触媒を共存させることもできる。このようなルイス酸としてはカチオン重合に使用できるものであれば良く、TiCl、TiBr、BCl、BF、BF・OEt、SnCl、SbCl、SbF、WCl、TaCl、VCl、FeCl、ZnBr、AlCl、AlBr等の金属ハロゲン化物;EtAlCl、EtAlCl等の有機金属ハロゲン化物を好適に使用することができる。中でも、触媒としての能力、工業的な入手の容易さを考えた場合、TiCl、BCl、SnClが好ましい。ルイス酸の使用量は、特に限定されないが、使用する単量体の重合特性あるいは重合濃度等を鑑みて設定することができる。通常は一般式(1)で表される化合物に対して0.1〜100モル当量使用することができ、好ましくは1〜50モル当量の範囲である。
【0034】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)の重合に際しては、さらに必要に応じて電子供与体成分を共存させることもできる。この電子供与体成分は、カチオン重合に際して、成長炭素カチオンを安定化させる効果があるものと考えられており、電子供与体の添加によって分子量分布の狭い構造が制御された重合体が生成する。使用可能な電子供与体成分としては特に限定されないが、例えば、ピリジン類、アミン類、アミド類、スルホキシド類、エステル類、または金属原子に結合した酸素原子を有する金属化合物等を挙げることができる。
【0035】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)の重合は必要に応じて有機溶媒中で行うことができ、有機溶媒としてはカチオン重合を本質的に阻害しなければ特に制約なく使用することができる。具体的には、塩化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、塩化エチル、ジクロロエタン、n−プロピルクロライド、n−ブチルクロライド、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、プロピルベンゼン、ブチルベンゼン等のアルキルベンゼン類;エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン等の直鎖式脂肪族炭化水素類;2−メチルプロパン、2−メチルブタン、2,3,3−トリメチルペンタン、2,2,5−トリメチルヘキサン等の分岐式脂肪族炭化水素類;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環式脂肪族炭化水素類;石油留分を水添精製したパラフィン油等を挙げることができる。
【0036】
これらの溶媒は、イソブチレン系ブロック共重合体(A)を構成する単量体の重合特性および生成する重合体の溶解性等のバランスを考慮して単独または2種以上を組み合わせて使用される。上記溶媒の使用量は、得られる重合体溶液の粘度や除熱の容易さを考慮して、重合体の濃度が1〜50wt%、好ましくは5〜35wt%となるように決定される。
【0037】
実際の重合を行うに当たっては、各成分を、冷却下、例えば−100℃以上0℃未満の温度で混合する。エネルギーコストと重合の安定性を釣り合わせるために、特に好ましい温度範囲は−30℃〜−80℃である。上記重合反応は、バッチ式(回分式または半回分式)で行ってもよいし、重合反応に必要な各成分を連続的に重合容器内に加える連続式で行ってもよい。
【0038】
(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、及び(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、オレフィンの共重合体(B)としては、特に限定されないが、オレフィンとして、エチレンであるものが好ましい。メタクリル酸とエチレンの共重合体、メタクリル酸の亜鉛塩および/またはナトリウム塩とエチレンの共重合体、さらには、アクリル酸エチルとエチレンの共重合体の組み合わせが特に好ましい。
【0039】
以下に具体例を示す。(メタ)アクリル酸とオレフィンの共重合体としては、ニュクレル(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)が挙げられる。具体例としては、ニュクレルAN4212C、AN4225C、AN42115C、N0903HC、N0908C、AN42012C、N410、N1035、N1050H、N1108C、N1110H、N1207C、N1214、AN4221C、N1525、N1560、N0200H、AN4228C、AN4213C、N035Cが挙げられる。
【0040】
(メタ)アクリル酸金属塩とオレフィンの共重合体としては、ハイミラン(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)が挙げられ、具体例として、ハイミラン1554、1555、1557、1601、1605、1650、1652、1652SR、1652SB、1702、1705、1706、1707、1855、1856が挙げられる。
【0041】
(メタ)アクリル酸エステルとオレフィンの共重合体としては、エバフレックスEEA(三井・デュポンポリケミカル株式会社製)が挙げられ、具体例として、A−701、A−702、A−703、A−704、A−707、A−710、A−712、A−713、A−715が挙げられる。
【0042】
これらの(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、及び(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、オレフィンの共重合体(B)は、1種または2種以上を組み合わせて使用できる。その配合量は特に限定されないが、イソブチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して1〜100重量部が好ましく、さらに5〜50重量部が好ましい。この共重合体(B)を添加することにより、ガラスに対する接着性が向上する。
【0043】
本発明に用いられる無機充填材(C)は、スペーサの剛性を向上させる効果があり、また、使用温度域での形状維持性を向上させ、さらにホットメルト時の垂れを抑制する効果を有する。無機充填材(C)としては、特に制限はなく従来公知のものを使用することができる。例えば、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、熔融シリカ、結晶シリカ、珪藻土、クレー、タルク、雲母、カオリン、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック、ベントナイト、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硫酸カルシウム等よりなる群から選択される1種、または、2種以上を使用することができる。これらのうちで、少量で剛性を向上させる効果を有する炭酸カルシウム、またはカーボンブラックが特に好ましい。
【0044】
無機充填材(C)の配合量は、イソブチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して1〜100重量部であることが好ましく、さらに5〜50重量部が好ましい。無機充填材(C)を多量に添加すると、配合物の固くなり、樹脂との混合や塗工ができなくなる。
【0045】
前記組成物には、更に乾燥剤(D)が添加される。乾燥剤(D)としては、ゼオライト、シリカゲル、アルミナが例示され、これらのいずれも使用することができる。このような乾燥剤(D)は、スペーサの水蒸気透過率を減少させ、複層ガラスの2枚のガラス板に挟まれた中空層が湿気によって曇ることを防ぐことができる。乾燥剤(D)の配合量はイソブチレン系ブロック共重合体(A)100重量部に対して1〜100重量部であることが好ましく、更に5〜50重量部が好ましい。乾燥剤量が1重量部以下では、水分を除去する効果が少なく、50重量部以上では、無機充填材の添加と同様に配合物の固くなり、樹脂との混合や塗工ができなくなる。
【0046】
また、前記樹脂組成物には、物性を損なわない範囲で、更に酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料、界面活性剤、難燃剤等を適宜配合することができる。公知のブロッキング防止剤、帯電防止剤、着色剤、無機ないし有機抗菌剤、滑剤なども加えることができる。
【0047】
スペーサを構成する前記樹脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、ラボプラストミル、ブラベンダー、ロール、バンバリーミキサー、ニーダー、攪拌機を備えた溶融釜または一軸若しくは二軸の押出機を用いて機械的に混合する方法を用いることができる。混練条件としては、イソブチレン系ブロック共重合体(A)と(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、(メタ)アクリル酸エステルから選ばれた1種とオレフィンの共重合体(B)が溶融する温度以上であればよく、260℃以下が好ましい。このときに、必要に応じて加熱することも可能である。また、適当な溶剤に配合剤を投入し、これを攪拌することによって組成物の均一な溶液を得た後、溶剤を留去する方法も用いることができる。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限を受けるものではない。
【0049】
(製造例1)[スチレン−イソブチレン−ジブロック共重合体(SIB)の製造]
攪拌機付き2L反応容器に、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)76mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)680mL、クミルクロライド1.0gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.64mL、イソブチレン315mLを添加した。さらに四塩化チタン2.4mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら2時間反応させた。次いで反応溶液にスチレン42mLを添加し、さらに2時間反応を続けた。その後、予め用意した撹拌機を取り付けた4Lの反応容器に70℃に加熱した純水1L投入し、更に、上記得られた反応溶液を投入して、1時間撹拌した。撹拌を停止し、30分放置後、分離した純水を撹拌終了後、30分間静置し、水相を除去した。更に、得られた重合体溶液に純水300gを添加し、30分間攪拌した。撹拌を止め、30分静置後、水相を除去した。上記水による洗浄操作を更に2回繰り返した。得られた重合体溶液から溶媒を留去し、更に、80℃の真空乾燥機で24時間乾燥することにより、イソブチレン系ブロック共重合体固形物を得た。
【0050】
得られたイソブチレン系ブロック共重合体の数平均分子量は48,000であり、分子量分布は1.12であった。数平均分子量はWaters社製510型GPCシステム(溶媒としてクロロホルムを使用し、流量は1mL/分とした)により測定し、ポリスチレン換算の値を示した。
【0051】
(製造例2)[スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(SIBS)の製造]
攪拌機付き2L反応容器に、n−ヘキサン(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)74mL、n−ブチルクロライド(モレキュラーシーブスで乾燥したもの)669mL、ジクミルクロライド0.51gを加えた。反応容器を−70℃に冷却した後、α−ピコリン(2−メチルピリジン)0.64mL、イソブチレン211mLを添加した。さらに四塩化チタン2.2mLを加えて重合を開始し、−70℃で溶液を攪拌しながら1.5時間反応させた。次いで反応溶液にスチレン45mLを添加し、さらに1.5時間反応を続けた。その後、予め用意した撹拌機を取り付けた4Lの反応容器に70℃に加熱した純水1L投入し、更に、上記得られた反応溶液を投入して、1時間撹拌した。撹拌を停止し、30分放置後、分離した純水を撹拌終了後、30分間静置し、水相を除去した。更に、得られた重合体溶液に純水300gを添加し、30分間攪拌した。撹拌を止め、30分静置後、水相を除去した。上記水による洗浄操作を更に2回繰り返した。得られた重合体溶液から溶媒を留去し、更に、80℃の真空乾燥機で24時間乾燥することにより、イソブチレン系ブロック共重合体固形物を得た。
【0052】
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により得られた重合体の分子量を測定した結果、ブロック共重合体の分子量はMnが65,000、Mw/Mnが1.25であった。
(複層ガラス用樹脂組成物の混練方法:実施例1〜5、および比較例1〜4)
表1に示した割合で合計40gになるように配合し、170℃に設定したラボプラストミル((株)東洋精機製作所製)を用いて15分間溶融混練し複層ガラス用樹脂スペーサとなる樹脂組成物を製造した。
【0053】
(透湿性試験片の作製方法)
複層ガラス用樹脂組成物の混練方法で得られた樹脂組成物を150℃の条件下で加熱プレスし、1mm厚シートとした。
【0054】
(ガラス接着性試験片の作製方法)
複層ガラス用樹脂組成物の混練方法で得られた樹脂組成物を150℃の条件下で加熱プレスし、5mm厚シートとした。このシートから10mm幅のシートを切り出し、50mm幅×50mm長×5mm厚のガラス板上に乗せ、シート上部にテフロン(登録商標)シートを重ねた。テフロン(登録商標)シート上に50mm幅×50mm長×5mm厚のガラス板2枚を荷重として載せ、180℃のオーブンで1時間加熱した。オーブンから取り出したサンプルから荷重を取り除き、室温で1日養生し、接着性試験サンプルとした。
【0055】
[評価方法]
(透湿度)
JISZ0208に従い、40℃、90%RHでの透湿度を測定した。
○:測定した透湿度の値が1.0g/m2・24h未満
×:測定した透湿度の値が1.0g/m2・24h以上
(ガラス接着性試験)
作製した接着性試験サンプルの樹脂組成物部分を手で引き剥がし、剥れ方で接着性を評価した(ハンドピール試験)。
【0056】
○:手で樹脂組成物がガラスから剥れない状態
△:手で樹脂組成物をガラスから剥がした時、ガラス板上に樹脂組成物が残存する状態。
【0057】
×:手で樹脂組成物をガラスから剥がした時、ガラス板上に樹脂組成物が残存せず、簡単に剥れる状態。
【0058】
【表1】

【0059】
表1中の実施例および比較例で用いた材料の略号とその具体的な内容は、次の通りである。
SIBS:スチレン−イソブチレン−スチレントリブロック共重合体(製造例2)
SIB:スチレン−イソブチレンジブロック共重合体(製造例1)
SEPS:スチレン−エチレンプロピレン−スチレントリブロック共重合体(SEPTON2007 クラレ社製)
HM:エチレン−メタクリル酸・亜鉛塩共重合体(ハイミラン1702 三井・デュポンポリケミカル株式会社製)
NK:エチレン−メタクリル酸共重合体(ニュクレルN1108C 三井・デュポンポリケミカル株式会社製)
EEA:エチレン−アクリル酸エチル共重合体(エバフレックスEEA A−704 三井・デュポンポリケミカル株式会社製)
TPU:熱可塑性ポリウレタン(T1180 DICバイエルポリマー株式会社製)
EvOH:エチレン−ビニルアルコール共重合体(エバールE105 クラレ社製)
CB:カーボンブラック(旭60HN 旭カーボン社製)
タルク:(LMR 富士タルク社製)
ゼオライト:(PURMOL 3ST ZEOCHEM社製)
イソブチレン系ブロック共重合体(A)に加え、共重合体(B)を含有する樹脂組成物からなる本発明のスペーサ材樹脂組成物である実施例1〜5は、良好な透湿度に加え、ガラスへの接着性も良好であった。これに対し、共重合体(B)成分を含有しない比較例1はガラスへの接着性が不良となり、(A)成分の代わりにスチレン−エチレンプロピレン−スチレントリブロック共重合体を用いた比較例2は透湿度が不良となった。また、(B)成分の代わりに熱可塑性ウレタン樹脂やエチレン−ビニルアルコール共重合体を用いた場合もガラスへの接着性は不十分であった(比較例3、4)。(D)成分であるゼオライトを含有しない比較例5は透湿性が不十分となった。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】従来の複層ガラスを示し、(a)は断面図、(b)は周縁部の部分断面図である
【符号の説明】
【0061】
1 複層ガラス
2、3 ガラス板
4 中空層
5 スペーサ
6 一次シール材
7 空隙(凹部)
8 二次シール材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分を含有する組成物からなることを特徴とする複層ガラス用樹脂スペーサ。
(A)芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)と、イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)とからなるイソブチレン系ブロック共重合体、
(B)(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸金属塩、及び(メタ)アクリル酸エステルよりなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物と、オレフィンとの共重合体、
(C)無機充填材、
(D)乾燥剤。
【請求項2】
イソブチレン系ブロック共重合体(A)が、芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)−芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)からなるトリブロック共重合体、および/または芳香族ビニル系化合物を構成単量体とする重合体ブロック(a)−イソブチレンを構成単位とする重合体ブロック(b)からなるジブロック共重合体であることを特徴とする請求項1記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。
【請求項3】
共重合体(B)が、メタクリル酸と、エチレンの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。
【請求項4】
共重合体(B)が、メタクリル酸の亜鉛塩および/またはナトリウム塩と、エチレンの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。
【請求項5】
共重合体(B)が、アクリル酸エチルと、エチレンの共重合体であることを特徴とする請求項1または2に記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。
【請求項6】
無機充填材(C)が、炭酸カルシウムまたはカーボンブラックの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。
【請求項7】
乾燥剤(D)が、シリカゲル、アルミナ、ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の複層ガラス用樹脂スペーサ。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2009−269796(P2009−269796A)
【公開日】平成21年11月19日(2009.11.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−122338(P2008−122338)
【出願日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】