説明

複数のアンテナを使用して無線信号を送信する方法および装置

【課題】複数のアンテナを互いに離間させて配置することで、アンテナ間の相関を低くした通信を可能とする。
【解決手段】基地局が備える第1および第2のアンテナは、実質的に異なる無線エリアを形成するように離間して設置される。移動端末は、基地局の各アンテナから送信される信号の受信レベルをそれぞれ測定し、その測定結果を基地局に報告する。基地局は、移動端末から報告された測定結果に基づいて、その移動端末との通信方式を決定する。第1および第2のアンテナからの受信レベルがいずれも閾値よりも高ければ、MIMO通信が選択され、第1および第2のアンテナからの受信レベルがいずれも閾値よりも低ければ、ダイバーシティ通信が選択される。他のケースでは、第1のアンテナを用いてある移動端末に信号を送信し、第2のアンテナを用いて他の移動端末に信号を送信する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は無線通信システムに関連する。
【背景技術】
【0002】
基地局と移動端末の間の通信容量を、使用する周波数帯域を増やさずに増大させるためにMIMO(Multi Input Multi Output)方式が用いられている。MIMO方式では、複数のアンテナを有する基地局が、個々のアンテナから別のデータを同じ周波数で送信し、複数のアンテナを有する移動端末が、それぞれのアンテナから受信した信号から送信データを取得する。従って、2本のアンテナを有する基地局と2本のアンテナを有する移動端末の間でMIMO方式を用いた通信を行うと、単純計算では2倍の通信容量が得られることになる。
【0003】
しかし、MIMOを用いた場合、図17に示すように、別個の信号を送信するアンテナ1aと1bの間の距離が近いと、アンテナ相関が高くなる。すなわち、複数のアンテナから送信された信号が干渉してしまう。この場合には、受信した移動端末2が、基地局の個々のアンテナを介して送信された信号を分離できず、データを再生できないことがある。この現象は、基地局に近く電波環境の良いところで起こりやすく、複数のアンテナから移動端末が受信する電波の強度が高いにもかかわらずMIMO通信の利用が妨げられることがある。
【0004】
MIMO通信を行なう従来の例として下記特許文献1および2が存在する。
例えば、特許文献1には、MIMO方式対応の移動体通信システムで、端末・基地局の各々は、受信エラーが検出された空間パスの通信品質情報に基づいて、当該空間パスの通信動作を複数種類の動作の中で適宜切替制御するものが開示されている。パスの通信動作としては、一つのパスを残して他のパスを切断する動作や、パスダイバーシティを行う動作がある。
【特許文献1】特開2003−244045号公報
【特許文献2】特開2003−338781号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来技術においては、アンテナ間が近接しており、アンテナ間の相関が高いものとなっている。
そこで本発明は、複数のアンテナを互いに離間させて配置することで、アンテナ間の相関を低くすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決する手段の1つの例として、実質的に異なる無線エリアを形成する、離間して設けられた第1のアンテナと、第2のアンテナのそれぞれから送信される信号を端末が受信して受信環境を測定し、該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてMIMO送信を行い、該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以下であり、前記端末が該第1のアンテナ、該第2のアンテナ双方から信号を受信できる場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行う送信方法を用いることができる。
【発明の効果】
【0007】
上記の方法により、アンテナ間の相関を低くすることができ、MIMO通信を効率的に行なうこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
この実施例では、第1のアンテナと、第2のアンテナをそれぞれ離間して設けることとする。例えば、アンテナ間を数メートル又は数キロ、数十キロメートルのオーダで離間させ、各アンテナについての無線通信エリアは、端部付近で重複部分を持つものの、同一の無線エリアであるとはみなせない程度に重複しない部分を持つようにする。即ち、第1のアンテナと第2のアンテナの無線エリアは実質的に異なる無線エリアを形成するものとする。
【0009】
従って、近傍にアレー状に配置されたアンテナに対してアンテナ間の相関は十分小さいものとなる。
そこで、各アンテナから送信される信号を端末が受信して受信環境を測定し、測定の結果、第1のアンテナからの受信レベルと第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、第1のアンテナ、第2のアンテナを用いてMIMO送信を行うようにする。
【0010】
そして、測定の結果、第1のアンテナからの受信レベルと第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以下である場合で、端末が第1のアンテナ、第2のアンテナ双方からの信号を受信できる場合に、第1のアンテナ、第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行うこととする。
【0011】
これにより、互いの相関が低い複数のアンテナを用いてMIMO通信を行なうことができるとともに、相関の低い複数のアンテナを用いて、ダイバーシティ送信も行なうことができる。
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
以下の例では、同じ基地局又は異なる基地局により無線信号の送受信に利用される2本のアンテナを配置し、基地局と通信する移動端末も2本のアンテナを備えているものとする。基地局のアンテナは、距離を離して設置される。
【0013】
これにより、アンテナ間の相関を小さくでき、MIMO通信を効率的に行なうことができるようになる。
しかし、アンテナ間の距離が離れていると、一方のアンテナからの電波を強く受信するが他方からの電波が弱くなるなど、セル内の位置によりアンテナから移動端末が受信する電力の差がアンテナ間で大きくなることがある。そこで、移動端末がアンテナから受信する電波状況に応じて通信方法を変更することにより、通信効率を向上させる。
【0014】
図1は、アンテナからの受信電力に従ったエリア分割の例を示す図である。図1のエリア3aは、アンテナ1aからの信号の受信電力は大きいが、アンテナ1bからの信号の受信電力が弱いエリアである。エリア3bはアンテナ1bからの受信電力が強く、アンテナ1aからの受信電力が弱いエリアである。また、アンテナ1aとアンテナ1bのいずれのアンテナからの受信電力も弱いエリアをエリア3c、両方のアンテナからの受信電力が強いエリアをエリア3dとする。移動端末がどのエリアに属するかは、セル内の各移動端末からアンテナ別の受信電力の報告を受けた基地局が判断する。基地局はさらに、移動端末が位置するエリアに応じて、その移動端末との間の通信方法も決定する。
【0015】
移動端末2がエリア3dに位置すると、基地局は図2に示すような、MIMOを選択す
る。移動端末2はアンテナ1aとアンテナ1bの両者から通信に十分な電波を受信している上、アンテナ1aとアンテナ1bが離れて設置されているため相関が低く、有効にMIMO通信を行うことができるため、通信効率を向上することができる。
【0016】
移動端末2がエリア3cに位置するとき、基地局は、図3に示すような、ダイバーシティ通信を選択する。移動端末2はいずれのアンテナからの受信電力も弱いため、アンテナ1aとアンテナ1bから同一のデータを送信して通信を行う。ダイバーシティ送信を行うことにより、受信電力が弱い場合であっても、ダイバシティゲインを得ることで、通信品質を向上させることができる。また、複数のアンテナ間で相関が低くなっているため、MIMO通信だけでなく、ダイバーシティ通信の通信品質にも好適となる。
【0017】
図4は、アンテナがそれぞれ別の移動端末2(2a、2b)と通信を行うときの実施形態を説明する図である。エリア3aでは、移動端末2aがアンテナ1bから受信する電力が弱く、アンテナ1bからの電波を受信しづらいため、移動端末2aに対してMIMO通信を行うと、アンテナ1bから送信されたデータの受信に失敗する可能性が高い。そこで、基地局は、移動端末2aとの通信にはアンテナ1aのみを用い、アンテナ1bを使用しない。従って、基地局が移動端末2aと通信しているときにアンテナ1bから別の移動端末にデータを送信することが可能になる。その際、アンテナ1a、1bで同じ周波数を利用することもできる。
【0018】
エリア3bに位置する移動端末2も、アンテナ1aからの受信電力が弱いので同様の通信形態を用いることができる。そこで、アンテナ1bから移動端末2bにデータ送信が行われているときに、アンテナ1aは他の移動端末2にデータ送信することができる。結果として、図4に示したように、基地局は、移動端末2aと移動端末2bの2つの移動端末2と同時に通信をすることが可能になる。なお、エリア3aとエリア3bの例で示したように、基地局に備えられている複数のアンテナのうちの1本のみを使用して、移動端末2と通信し、他の1本のアンテナは他の移動端末2と通信を行うことを、本明細書中では、「同時通信」という。
【0019】
以上に述べたように、基地局の複数のアンテナを離間して設置し、各々のアンテナから移動端末2が受信する受信電力に従って、通信方法を変更することにより、周波数帯の効率的な利用を図ることができる。その結果として、通信効率を向上させることができる。
【0020】
<基地局の構成>
図5は、前述の実施形態に用いられる基地局の構成の例を示す図である。
前述のとおり、アンテナ1aとアンテナ1bは、所定の距離以上、離間して設置されている。この所定の距離は、両方のアンテナからの受信電力が強い領域(エリア3d)に位置する移動端末2にデータが送信されるときに、アンテナ1aから送信される信号と、アンテナ1bから送信される信号との干渉が十分に低くなるような距離である。エリア3aのように、移動端末2がアンテナ1aから受信する電力は大きいが、アンテナ1bから通信可能な程度の受信電力を受信できないエリアが発生する程度、アンテナ1aとアンテナ1bの間の距離を離して設置することができる。例えば、半径が3〜4km程度の大きさのセルであれば、100m以上離してアンテナ1a、1bを設置することができるが、各アンテナの出力によってこの距離は変動する。アンテナ1aと1bを、300mなど、数100m程度の距離を置いて設置することもできる。アンテナ1aとアンテナ1bとの距離は、各々のアンテナ1から送信される信号に干渉が生じない任意の距離とすることができる。
【0021】
基地局は、さらに、スプリッタ41、エンコーダ42、送信用バッファ43、受信用バッファ44、デコーダ45、メモリ46、および、コントローラ50を備える。
スプリッタ41は、基地局のうちで受信信号の処理を行う部分と、信号の送信に関わる処理を行う部分の間で、アンテナ1との接続を切り替える部分である。受信信号の処理を行う部分は、受信用バッファ44、デコーダ45、コントローラ50のうちの受信制御部52などである。信号送信に関連する部分は、例えば、コントローラ50のうちの送信制御部51、送信用バッファ43、エンコーダ42などである。
【0022】
エンコーダ42は、送信用バッファ43に格納されているパケットを移動端末2に送信するために、エンコードする。
送信用バッファ43(43a、43b)は、基地局から移動端末2に送信するためのパケットを格納する記憶領域である。送信用バッファ43に記憶されるパケットは、複数の移動端末2に対して送信する情報、および、各々の移動端末2が読み込んで解析すべきデータの位置を示す情報を含む構成にすることができる。送信用バッファ43は、図5に示すとおり、1本のアンテナに対して1つの送信用バッファ43をおくことができるし、一つの送信用バッファ43の一部分を、1本のアンテナから送信するパケットを生成するために使用する構成にすることもできる。
【0023】
受信用バッファ44は、アンテナ1を介して基地局が移動端末2から受信したデータを一時的に記憶する。受信用バッファ44に格納されたデータは、デコーダ45においてデコードされる。
【0024】
メモリ46は、移動端末2に送信するためのデータ、もしくは、移動端末2から基地局が受信したデータが、コントローラ50により適宜格納される。
コントローラ50は、基地局と移動端末2の間の通信の制御全般を行う。コントローラ50は、送信制御部51、受信制御部52、データベース53、および、待ち行列54を記憶する記憶領域を有する。コントローラ50に含まれる各部分は、電気回路で実現しても良いし、その機能の一部、もしくは全部をソフトウェアによって実現することも可能である。
【0025】
送信制御部51は、移動端末2との通信に用いる通信方法に基づいて、基地局から移動端末2に送信するパケットを作成し、送信用バッファ43に格納する。また、必要に応じて、送信用バッファ43の初期化も行う。送信制御部51は、パケットを作成する際に、適宜、データベース53、メモリ46に格納されているデータを使用する。送信制御部51が、移動端末2に送信するためのパケットを作成するときに行う動作は、後で詳しく述べる。
【0026】
受信制御部52は、各アンテナから移動端末2が受信した信号の受信電力(受信レベル)の報告に基づいて、移動端末2がエリア3a〜3dのいずれに位置するのかを判定し、移動端末2との通信方法を決定する。移動端末2の受信電力測定、および、通信方法の決定の際の動作については、後に詳しく述べる。また、受信制御部52は、基地局が移動端末2から受信したパケットを解析し、必要に応じて、そのパケットに含まれるデータをデータベース53やメモリ46に格納する。
【0027】
データベース53は、基地局が移動端末2との通信に使用する通信方法を、移動端末2ごとに記憶しておく領域である。例えば、使用される通信方法を移動端末2のIDと対にして記憶する形態をとることができるが、移動端末2に関する任意の他の情報もあわせて格納することもできる。
【0028】
待ち行列54は、基地局がデータを送信する必要がある移動端末2のリストであり、移動端末2のIDが格納されている。
なお、図5に示す基地局は、アンテナ1aとアンテナ1bの2本のアンテナを備える場
合の例であるが、アンテナの数は2本以上にすることが可能である。また、基地局が備えている全ての部分を電子回路で構成することができるし、一部の機能をソフトウェアによって実現することも可能である。
【0029】
<通信方式の選択>
以下、通信方式の選択について説明する。ここでは、例として、2本のアンテナを有する基地局と移動端末2が通信するために行われる動作について説明する。
【0030】
〔移動端末の受信電力測定〕
通信方式を選択するための、受信電力測定について説明する。基地局は、移動端末2が受信電力測定を行う期間を設け、受信電力測定期間には、基地局に設けられているアンテナ1が1本ずつ送信を行う。次に、移動端末2はそれぞれのアンテナからの受信電力を測定し、全てのアンテナからの受信電力測定が終わると、アップリンク期間に基地局へ受信電力を報告する。
【0031】
図6は、移動端末2が、アンテナ1aもしくはアンテナ1bから受信する信号の電力を測定し、受信電力を基地局に通知するときの動作を説明する図である。基地局は、最初に図6のAに示すように、アンテナ1aから予め決められた送信電力で信号の送信を行う。移動端末2は、アンテナ1aからの受信電力を測定し、測定結果を記憶する。次に、図6のBに示すとおり、基地局はアンテナ1bから予め決められた送信電力で信号を送信し、同様に、移動端末2が受信電力測定と測定結果の記憶を行う。受信電力測定が終了すると、図6のCに示すとおり、移動端末2は、各々のアンテナからの受信電力を基地局に報告する。
【0032】
図7は、受信電力測定および受信電力の報告の際に、移動端末2と基地局の間で送受信されるパケットを示す図である。ダウンリンクパケット60は、基地局から移動端末2に送信されるパケットであり、アップリンクパケット70は、基地局が移動端末から受信するパケットである。ダウンリンクパケット60には、同期信号61、MAPデータ62、移動端末宛データ63が含まれる。
【0033】
同期信号61は、基地局からの信号の検出タイミングを移動端末2に知らせるのに用いられる信号であるが、受信電力測定用のデータとして用いることもできる。図7に示す実施形態では、同期信号61を電力測定用データとする。
【0034】
MAPデータ62は、基地局と通信可能な移動端末2に対して基地局が送る指示情報である。基地局は、MAPデータ62を用いて、移動端末2に受信電力測定を行うこと、アップリンク中で移動端末2が使用できる領域などを指定する。例えば、図7のFrame1のMAPデータ62が以下のとおりであるとする。
メッセージ識別子=受信電力測定,端末ID=8,応答=2Frame後、UL領域=1〜2
メッセージ識別子=受信電力測定,端末ID=9,応答=2Frame後、UL領域=2〜3
メッセージ識別子=ダウンリンクデータ,端末ID=1,通信方式=…、領域=…
メッセージ識別子=ダウンリンクデータ,端末ID=4,通信方式=…、領域=…
メッセージ識別子=アップリンクデータ,端末ID=5,通信方式=…、領域=…
各移動端末2は、メッセージ識別子を使用し、移動端末2が行う動作が何であるかを識別する。例えば、端末IDが8もしくは9の移動端末2は、図7中の矢印(1)で示すとおり、次に受信するダウンリンクパケット60の先頭にある同期信号61を使用して受信電力測定を行う。一方、MAPデータ62で受信電力測定を指定されていない端末は、ダウンリンクパケット60の指定された領域のデータを読み込むなどの指定された動作を行う。
【0035】
MAPデータ62に含まれる通信方法において、移動端末2との通信方式がMIMO、ダイバーシティ、アンテナ1aから送信されるデータを使用する通信、アンテナ1bから送信されるデータを使用する通信のいずれかが指定される構成にすることができる。この場合は、移動端末2はMAPデータ62で指定された通信方法を使用して受信データを受信する。いずれの通信方法を用いるかの指定以外にも、通信方式として、アンテナ1a、1bから送信されたデータの変調方式などを通知することができる。
【0036】
移動端末宛データ63は、基地局から移動端末2に送信するデータが含まれる領域である。図8は、ある実施形態における一対のダウンリンクパケット60とアップリンクパケット70を詳細に示した図である。移動端末宛データ63は、基地局からデータを受信する移動端末2ごとにデータが格納されており、各移動端末2は、MAPデータ62で指定された領域のデータを読み込んで処理を行う。
【0037】
アップリンクパケット70は、現在通信を行っている移動端末2からの情報を格納する領域の他に、新しく通信を開始する移動端末2からデータを受け取るためなどに用いることができる空き領域71を、さらに備えている。アップリンクパケット70も、移動端末宛データ63と同様に、移動端末2ごとに指定された領域にデータが書き込まれ、各移動端末2が利用可能な領域の指定も、MAPデータ62で行われる。例えば、受信電力測定を行った端末ID=8もしくは9の移動端末2は、応答を2フレーム後に返すように指定されているので、フレーム1の2つ後に受信するフレーム3に対するアップリンクパケット70で電力測定結果を基地局に通知する(図7の矢印(2))。このとき、端末ID=8の移動端末2(図8では移動端末Cに相当)は、アップリンクパケット70のUL領域1〜2を使用し、端末ID=9の移動端末2(図8では移動端末Bに相当)は、UL領域2〜3を使用する。
【0038】
〔通信方法の決定〕
基地局は、受信電力の報告を受けると、移動端末2から報告された受信電力が所定の閾値を超えているかを判断する。所定の閾値は、基地局と移動端末2が通信をするために必要な受信電力、通信エラーの発生する確率が所定の割合となる受信電力などの基準から、基地局が存在するセルの使用状況などにあわせて決定することができる。
【0039】
図9は、基地局と移動端末2の間の通信方式と各アンテナからの受信電力の関係を説明する図である。図9では、各アンテナからの受信電力を閾値と比較した結果に対応させて通信方式を記載している。
【0040】
アンテナ1aとアンテナ1bのいずれのアンテナから受信する電力も閾値以下である場合は、基地局は、ダイバーシティ送信を選択する。ダイバーシティ送信を行うことにより、受信電力が小さい移動端末2へのデータ送信を行い易くすることができる。
【0041】
アンテナ1aとアンテナ1bのいずれのアンテナから受信する電力も閾値を超えている場合は、MIMO通信が選択される。先に述べたとおり、アンテナ1aとアンテナ1bの距離が離れているため、各アンテナから送信された信号の間で干渉が抑えられている。従って、受信電力が閾値を超えた任意の移動端末2において、MIMO通信を行っても、信号の干渉による通信エラーが発生せず、周波数帯の利用効率を改善することができる。
【0042】
アンテナ1aかアンテナ1bのいずれかが閾値を越えている場合は、閾値よりも強い受信電力が観測されたアンテナ1を優先する通信方式を選択する。この場合、優先するアンテナ1から移動端末2にデータを送信する。移動端末2への送信に用いられないアンテナ1は、他の移動端末2にデータを送信するために使用することができ、通信効率の改善が可能である。
【0043】
図10は、移動端末2から受信電力情報を受信したときの基地局の動作を説明するフローチャートである。基地局は、アンテナ1からデータを受信すると、通信方式に合わせた方法でデータを復調した後、その解析を行う(ステップS1〜4)。復調後のデータは、受信制御部52によって解析される。
【0044】
図10のステップS5〜14は、受信制御部52の動作である。まず、受信制御部52は、解析待ちのデータがある場合に、正しく受信されているかを確認する(ステップS5、6)。データの受信が正しく行われていれば、各移動端末2のアンテナごとの受信電力が閾値を超えているかを確認する(ステップS7、9、11)。例えば、移動端末2aについて、アンテナ1aからの受信電力、および、アンテナ1bからの受信電力がいずれも閾値を越えている場合は、移動端末2aとの通信方法をMIMO通信としてデータベース53に登録する(ステップS7、8)。ここで、アンテナ1aからの受信電力は閾値を超えていて、アンテナ1bからの受信電力が閾値以下である移動端末2bからのデータを解析した場合は、移動端末2bはアンテナ1aを通信に使用する移動端末2として登録する(ステップS9、10)。同様に、移動端末2cでは、アンテナ1bからの受信電力のみが閾値を超えていれば、アンテナ1bを通信に使用するアンテナとして登録する(ステップS11、12)。なお、ステップS10、12で登録された移動端末2は、同時通信を行うときの送信対象として登録されたことになる。いずれのアンテナ1からの受信電力も閾値を超えていない場合は、ダイバーシティ通信を行う対象としてデータベース53に登録する(ステップS13)。解析対象としているデータに対応する移動端末2とその通信方法をデータベース53に登録すると、受信制御部52は解析待ちの次のデータがあるかを確認する(ステップS14、5)。
【0045】
一方、データの受信が正しく行われなかった場合は、受信制御部52は、受信エラーと判断してそのデータに対する処理を終了し、次のデータの処理を行う(ステップS6)。解析待ちのデータがなくなると、データ解析を終了する。
【0046】
<基地局でのダウンリンクパケットの生成>
基地局は、移動端末2との通信方法を決定した後、各移動端末2について決定した通信方法に対応したダウンリンクパケット60を生成する。このとき、送信制御部51は、適宜、データベース53、待ち行列54、メモリ46に格納された情報を用いる。
【0047】
図11は、ダウンリンクパケット60を生成する際の基地局の動作を説明するフローチャートである。ここでは、アンテナ1aから送信するパケットを、送信用バッファ43aを用いて生成し、アンテナ1bから送信するパケットを、送信用バッファ43bを用いて生成して、2本のアンテナから送信する1組のダウンリンクパケット60を生成する場合を例として説明する。
【0048】
図11のフローチャート中で、ステップS21〜35は、送信制御部51が行う動作である。ステップS36〜38では、ダウンリンクパケット60の送信処理が行われる。なお、送信制御部51は、ステップS38で各アンテナの同期を取る。
【0049】
図11のフローチャートは、
(1)任意の通信方法で送信する送信データの格納(ステップS22〜27)、
(2)1本のアンテナのみを用いて送信するデータの格納(ステップS28〜32)、
(3)送信用バッファ43に格納されたデータを含むパケットの生成と送信(ステップS34〜38)
の3段階を含む。以下に、各段階で行われる動作を説明する。
【0050】
(1)ダウンリンクパケット60の生成開始時に、各アンテナの送信バッファ43aおよび43bの初期化を行い、両方のバッファの対応する領域が双方とも空いている領域に、移動端末2へのデータをセットする(ステップS21〜27)。ある移動端末とMIMO通信を行う場合は、送信バッファ43a、43bの互いに対応する領域に、その移動端末あてに送信すべき異なるデータが書き込まれる。ある移動端末とダイバーシティ通信を行う場合には、送信バッファ43a、43bの互いに対応する領域に、その移動端末あてに送信すべき同一のデータが書き込まれる。その他の場合には、送信バッファ43a、43bのいずれか一方の所定の領域に、送信すべきデータが書き込まれる。なお、データを送信する移動端末2は、待ち行列54の先頭側を優先して決定する。
【0051】
(2)ステップS22〜27を繰り返すと、最終的には、送信用バッファ43a、43bに空き領域が残っていても、送信用バッファ43a、43bの互いに対応する領域にデータを書き込むことができなくなる。この場合には、MIMO通信もしくはダイバーシティ通信を用いる移動端末2へのデータを、送信用バッファ43aと送信用バッファ43bに格納することができない。そこで、1本のアンテナのみを用いて送信するデータを選んで、送信用バッファ43aもしくは送信用バッファ43bの空き領域に格納する(ステップS28〜32)。
【0052】
(3)ステップS28〜32を繰り返すと、送信用バッファ43aと送信用バッファ43bの両方に空き領域がなくなり、送信制御部51は、移動端末宛データ63を作成するためのデータ格納を終了する。データの格納が終わると、送信用バッファ43a、43bにセットされたデータを配置し、適切なMAPデータ62を付して1組のダウンリンクパケット60を生成する(ステップS34、35)。生成された1組のダウンリンクパケット60は、それぞれ変調された後、アンテナ1aとアンテナ1bから同期を取って送信される(ステップS36〜38)。
【0053】
このような手順でダウンリンクパケット60を生成することにより、1本だけのアンテナを用いて通信を行う移動端末2へのデータを、通信に使用するアンテナのみから送信することができる。つまり、手順(2)を行うことにより、同時通信に対応していないシステムで送信されるダウンリンクパケット60と比較して、より多くの情報を含めたダウンリンクパケット60を生成できる。
【0054】
図11のフローチャートで行われる動作について、図12および図13を参照しながら、具体的な実施形態として以下に詳しく説明する。ここで、生成するダウンリンクパケット60は、8台の移動端末2a〜2hに送信するパケットであるとする。図12は、移動端末2a〜2hについての各アンテナからの受信電力および通信方式が格納されているデータベース53の例を示す図である。この例では、アンテナ1aもしくはアンテナ1bから各移動端末2が受信する信号の受信電力は、閾値と比較した結果として記録されている。すなわち、「強」は受信電力が閾値よりも高い場合を示し、「弱」は受信電力が閾値よりも低い場合を示している。
【0055】
〔任意の通信方法で送信する送信データの格納〕
ダウンリンクパケット60の生成を開始すると、送信制御部51は送信用バッファ43a、43bを初期化する(ステップS21)。初期化が終了すると、送信用バッファ43aの中のデータ書き込み可能な領域に対応する送信用バッファ43bの領域にデータが格納されていないので、送信制御部51は、データの格納が可能であると判断して、待ち行列54を参照する(ステップS22、23)。
【0056】
待ち行列54には、前述のとおり、ダウンリンクパケット60によって情報を送信されるのを待っている移動端末2のIDが記録されている。ここでは、移動端末2a〜2hに
情報を送信するので、例えば、待ち行列54は、
「2h、2g、2f、2e、2d、2c、2b、2a」
であるものとする。
【0057】
送信制御部51は、待ち行列54の先頭に2hが記録されているので、移動端末2hに送信するデータを送信用バッファ43に格納することを決定し、データベース53を参照して移動端末2との通信方法を確認する(ステップS24、25)。移動端末2hは、アンテナ1a、アンテナ1bのいずれのアンテナ1からの受信電力も閾値を越えているため、MIMO通信を行うように、データベース53に記録されている。そこで、送信制御部51は、送信用バッファ43aと送信用バッファ43bの両方に、移動端末2hに送信すべきデータをセットする(ステップS26)。なお、送信用バッファ43aにセットされたデータ(D1)と送信用バッファ43bにセットされたデータ(D2)は異なるデータである。移動端末2hへの送信データをセットした後、さらに移動端末2hに送信すべきデータが存在するかを確認し、送信すべきデータが残っていなければ、移動端末2hを待ち行列54から削除する(ステップS27)。以後の説明では、各移動端末2へのデータのセットが終わった時点で、その移動端末2へ送信すべきデータが残っていないものとする。従ってここでは、待ち行列54は
「2g、2f、2e、2d、2c、2b、2a」
に更新されるものとする。
【0058】
図13は、図11のフローチャートで説明されるパケットの生成方法によって生成されるパケットの構成を表す図である。ここまでの処理では、各アンテナから送信されるデータ部分のうち、2h宛のデータがセットされている状態である。
【0059】
次に、送信用バッファ43aの空き領域に対応する部分が送信用バッファ43bにおいても空き領域であることを確認し、2hへのデータのセットと同様に、送信用バッファ43に、2g、2f、2eへのデータを格納する(ステップS21〜27)。ただし、2fおよび2eでは、図12に示すとおり、ダイバーシティ通信を用いることがデータベース53に記録されているので、送信用バッファ43aと送信用バッファ43bにセットされるデータは同一のデータである。
【0060】
移動端末2eへの送信データのセットが終了した時点で、待ち行列54は、
「2d、2c、2b、2a」
となっている。ここで、図13において、移動端末2h〜2eに送信するデータがセットされている状態になる。図13では移動端末2a〜2dに送信するデータが記録されている領域は、まだ空き領域である。そこで、送信用バッファ43aの空き領域に対応する部分に、送信用バッファ43bの空き領域が存在している。そこで、移動端末2dへのデータの格納が行われる。
【0061】
移動端末2dは、図12に示したとおり、アンテナ1bからの受信電力のみが強く、アンテナ1bのみを使用する通信が選択されている。そこで、送信制御部51は、送信用バッファ43bのみに、移動端末2dへ送信するデータをセットする(ステップS26)。
【0062】
移動端末2dへの送信データのセットが終了した時点で、待ち行列54は、
「2c、2b、2a」
となる。図13に示したように、送信用バッファ43aのデータ格納が可能な領域と対応する部分が、送信用バッファ43bにおいて空き領域であるので、移動端末2cへのデータの格納が行われる。
【0063】
移動端末2cは、図12に示したとおり、アンテナ1aのみを使用する通信が可能であ
る。そこで、送信制御部51は、送信用バッファ43aに、移動端末2cへ送信するデータをセットする(ステップS26)。
【0064】
なお、ステップS27、および、後で詳しく述べるステップS32において、送信すべきデータが残っていれば、待ち行列54に残すが、この際に、移動端末2aを待ち行列54の末尾に移動させることもできる。移動端末2hを待ち行列54の末尾に移動させると、待ち行列54は、
「2g、2f、2e、2d、2c、2b、2a、2h」
となり、次にデータ送信対象となる移動端末2は、2gになる。このように、待ち行列54の順番を変更することにより、複数の移動端末2に交互にデータを送信でき、多くの移動端末2に対するサービスを向上させることができる。
【0065】
〔1本のアンテナのみを用いて送信するデータの格納〕
移動端末2cへのデータを格納した時点で、送信用バッファ43aのデータ格納が可能な領域に対応する送信用バッファ43bの領域に、データの格納ができない状態になったとする。すなわち、図13の2h、2g、2f、2e、2d、および2cへの送信データを格納した領域が使用されている状態になっている。すると、図11のステップS22〜27を終了し、ステップS28〜32の処理が行われる。
【0066】
送信制御部51は、移動端末2cへのデータをセットした後でもデータの格納が可能な部分は存在するが、送信用バッファ43aの空き領域に対応する部分が送信用バッファ43bでは空き領域ではないことを確認する(ステップS28)。
【0067】
待ち行列54には「2b、2a」が残っているので、送信制御部51は、送信用バッファ43の空き領域を利用してデータ送信が可能な移動端末2があるかを確認する(ステップS29、30)。ステップS30の確認では、データベース53を用いて、データ送信可能な端末が見つかるまでか、待ち行列54の端末まで確認するまで、待ち行列の先頭から送信用バッファ43の空き領域でデータ送信可能な端末の検索が行われる。この例では、待ち行列の先頭にある移動端末2bはアンテナ1bのみを用いた通信が可能な端末である。送信用バッファ43bには空き領域が存在するので、移動端末2bはデータ送信可能な移動端末であると認識される。送信制御部51は、送信用バッファ43bの空き領域を超えない量で最大送信閾値以下のデータを送信用バッファ43bにセットし、移動端末2bに残りの送信データが存在するか確認する(ステップS31、32)。移動端末2bの送信データが残っていない場合は、先に述べたように、待ち行列54から2bを削除し、ステップS28に戻る。
【0068】
ここで、移動端末2bへの送信データを格納した時点で、送信用バッファ43bには開き領域が存在しなくなったものとする。すると、送信制御部51は、送信用バッファ43aの空き領域を用いてデータ送信可能な端末があるか確認し、待ち行列54とデータベース53を参照して、移動端末2aへのデータを送信用バッファ43aに格納することを決定する(ステップS28〜30)。移動端末2aへの送信データを格納した時点で、送信用バッファ43aの空き領域もなくなると、ステップS28〜32のフローを終了し、データ部分の作成を終了する。
【0069】
なお、ステップS29で待ち行列54に記録された移動端末2が既に無い場合や、ステップS30で、データ送信可能な移動端末2が存在しない場合には、空き領域を利用して、ダイバーシティ通信を行う構成にすることもできる(ステップS33)。
【0070】
〔ダウンリンクパケットの生成と送信〕
送信用バッファ43aと送信用バッファ43bの両方に空き領域がなくなると、送信制
御部51は、前述のとおり、データの格納を終了し、データの配置、MAPデータ62の付加を行ってダウンリンクパケット60を生成する(ステップS34、35)。ダウンリンクパケット60を生成する際に、送信用バッファ43中に格納されているデータを適宜マッピングして、図8に示したような2次元の矩形のパケットとすることもできる。生成されたダウンリンクパケット60は、既に述べたとおり、アンテナ1aとアンテナ1bから同期して送信される(ステップS36〜38)。
【0071】
<移動端末で行われる動作>
これまで、基地局の動作を詳しく説明してきたが、以下、通信の際に移動端末2で行われる動作について述べる。
【0072】
(1)移動端末2は、ダウンリンクパケット60の受信のために同期を取った後、MAPデコードを行い、MAPデータ62に記載されている指示に従って、アンテナ1からの受信電力を測定する。受信電力測定が終わると、MAPデータ62で指定されたアップリンクパケット70の領域に測定結果を書き込んで、基地局側に報告する。基地局への報告により、既に説明したように、基地局で移動端末2との通信方法が決定されて、移動端末2に通信方法が通知される。移動端末2は、その後の通信では、通知された通信方法を用いる。
【0073】
(2)移動端末2へのデータを含むダウンリンクパケット60が送信されると、移動端末2は、同期信号61を使用して同期を確立する。同期が取れると、MAPデータ62を解析して、ダウンリンクパケット60内の指定された領域のデータを受信する。移動端末2は、データを受信すると、MAPデータ62で指定された通信方式に従って、受信データをデコードする。
【0074】
なお、1秒間に1回など、任意の頻度で受信電力測定が行われる構成にすることができる。また、移動端末と基地局の通信方法が決定済みで、移動端末2が受信電力を行わずにデータの受信のみを行う場合には、移動端末2は手順(2)で述べた動作を行う。
【0075】
<通信方式の選択(2)>
これまでの説明では、通信方式は、移動端末2の受信電力を閾値と比較した結果を用いて決定していたが、各アンテナからの受信電力と各アンテナからの受信電力の差を用いて通信方式を決定することもできる。アンテナ間の受信電力差が大きい場合には、受信電力が強い方のアンテナを用いた通信を優先させる。ただし、受信電力の差が大きくても、受信電力が強いアンテナからの受信電力が、1本のアンテナを用いた通信を行うことができるほど十分に強くない場合には、ダイバーシティ送信を行う。
【0076】
図14は、各アンテナからの受信電力およびアンテナ間での受信電力の差を用いて移動端末2との通信方式を決定する実施形態を説明する図である。以下、受信電力の強弱を判断するための閾値を5dB、アンテナ間の受信電力差が大きいと判断するための閾値を5dBと仮定して説明する。
【0077】
移動端末2aのように、アンテナ1aとアンテナ1bからの受信電力がいずれも1dBである場合は、基地局は、いずれのアンテナからの受信電力も弱いと判断する。また、アンテナ間での受信電力の差は0dBである。そこで、基地局は、移動端末2aとダイバーシティ通信を行うように選択する。
【0078】
移動端末2dでは、アンテナ1aからの受信電力が10dB、アンテナ1bからの受信電力が9dBであり、いずれのアンテナからの受信電力も強いと判断される。アンテナ間での受信電力の差は1dBであるので、受信電力差は小さいと判断される。そこで、MI
MO通信が用いられる。
【0079】
移動端末2bでは、アンテナ1aからの受信電力が9dB、アンテナ1bからの受信電力が1dBであり、アンテナ1aからの受信電力が強く、アンテナ1bからの受信電力が弱いと判断される。アンテナ間での受信電力の差は、8dBであり、閾値を越えている。そこで、アンテナ1aのみを用いた通信を選択する。移動端末2cについても、同様の判断が行われ、アンテナ1bのみを用いた通信が選択される。
【0080】
このような選択方法を用いると、両方のアンテナからの受信電力が閾値付近で、受信電力の差が小さい場合に、1本のアンテナのみを用いる通信以外の通信方式を選択することができる。例えば、アンテナ1aからの受信電力が4.9dBで、アンテナ1bの受信電力が5.1dBである場合は、一方のアンテナからの受信電力は強く、他方のアンテナからの受信電力は弱いと判断される。二本のアンテナからの受信電力の差は、0.2dBであって、受信電力の差が小さい。この場合に、同時通信を行うと、移動端末2は本来受信するはずのアンテナ1bからの信号のほかに、アンテナ1aからの信号も比較的強く受信することになる。このような場合は、1本のアンテナのみを用いた通信だけでなく、MIMOやダイバーシティを選択することも可能な電波状況である。そこで、周波数の利用効率を上げることを目的としてMIMO通信を行うか、通信の確実性を重視してダイバーシティ通信を行うかのいずれかを選択可能な構成にすることもできる。
【0081】
<アンテナ数が2本より多い場合の実施形態>
基地局に備えられたアンテナ数が2本より多くても、本発明を実施することが可能である。例えば、基地局が5本のアンテナを備える場合の実施形態について以下に述べる。
【0082】
図15は、5本のアンテナを有する基地局のセル中に位置する移動端末の受信電力として考えられる組み合わせを示す表である。ここでは、各アンテナからの受信電力を閾値と比較した結果、受信電力が閾値を超えた場合は「1」、閾値以下であれば「0」として示している。各移動端末は、T0〜T31のいずれかのパターンで各アンテナから信号を受ける。T0の場合は、いずれのアンテナからの受信電力も閾値を越えていないので、ダイバーシティ通信が選択される。T1、T2、T4、T8、T16では、1本のアンテナからの受信電力のみが閾値を超えているので、閾値を超えたアンテナを用いて通信が行われる。その他の場合(T3、T5〜T7、T9〜T15、T17〜T31)では、受信電力が閾値を超えたアンテナを用いてMIMO通信を行うように選択される。
【0083】
図16A〜図16Fは、基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。同時にデータ送信をすることができる移動端末を選択する際には、2つ以上の移動端末が同一のアンテナを使用しないようにする必要がある。そこで、送信制御部51は、各アンテナについて「1」となっている移動端末が2つ以上存在しないように、図15を参照しながら通信可能な移動端末を選択する。
【0084】
例えば、最初にT4パターンの受信をしている端末が選ばれると、他に通信することが可能な移動端末は、アンテナ1cを使用しない、すなわちアンテナ1cが「1」となっていない移動端末である。図16A〜図16Fに示されている組み合わせでは、T4を含むグループのいずれかが可能な組み合わせとなる。待ち行列54に並んでいる次の端末が、T1パターンであれば、使用されるアンテナはアンテナ1eなので、T4とT1に対しての同時通信が可能である。また、その次に待ち行列54に並んでいる端末がT24パターンであれば、このパターンで使用するアンテナは、アンテナ1aとアンテナ1bであるので、さらに同時通信の対象として加えることができる。ここで、T4、T1、T24のグループとすると、使用されていないアンテナは、アンテナ1dのみである。そこで、アンテナ1dのみを用いて通信可能なT2パターンの端末が待ち行列54に存在すれば、さら
に同時通信の対象として加えることができるが、T2パターンの移動端末がなければT4、T1、T24のグループとする。
【0085】
T4、T1、T24、T2のグループの場合には、全てのアンテナが使用されているので、図16A〜図16Fでは全アンテナ使用フラグを「1」として示している。また、T0の端末に送信する場合も、全てのアンテナを使用してダイバーシティ通信を行うので、全てのアンテナが使用されることになる。
【0086】
一方、T4、T1、T24のグループの場合には、アンテナ1dが使用されておらず、全アンテナ使用フラグは「0」である。使用されていないアンテナがある場合、そのアンテナは任意のアンテナと同じデータを送出させるようにすることができる。この処理により、いずれかの移動端末においての受信状況が良くなる可能性がある。また、合計電力を一定に保ったまま、使用されているアンテナの電力を強くすることも可能である。
【0087】
<その他の実施形態>
なお、本発明は上記の実施形態に限られるものではなく、様々に変形可能である。例えば、受信電力測定時に移動端末2が行う受信電力の報告は、基地局に備えられた全てのアンテナからの受信電力を測定した後でなくても良い。基地局に備えられている複数のアンテナのうちの任意の本数の受信電力を測定した後に、基地局に対して受信電力を報告する構成にすることができる。
【0088】
上述の各実施形態に対し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)実質的に異なる無線エリアを形成する、離間して設けられた第1のアンテナと、第2のアンテナのそれぞれから送信される信号を端末が受信して受信環境を測定し、
該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてMIMO送信を行い、該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以下であり、前記端末が該第1のアンテナ、該第2のアンテナ双方から信号を受信できる場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行う、
ことを特徴とする送信方法。
(付記2)前記第1のアンテナからの受信レベルと前記第2のアンテナからの受信レベルの差を表す差分受信レベルを算出し、
前記差分受信レベルが所定の値より大きく、かつ、前記第2のアンテナからの受信レベルが前記第1のアンテナからの受信レベルよりも大きい場合に、前記第1のアンテナを用いることなく前記第2のアンテナを用いて前記端末との通信を行う
ことを特徴とする付記1に記載の送信方法。
(付記3)複数の端末のうちの第1の端末において、前記第1のアンテナからの受信レベルが前記所定の基準以上であり、前記第2のアンテナからの受信レベルが前記所定の基準より小さいとき、前記第1のアンテナを用いて前記第1の端末にデータを送信し、前記第2のアンテナを用いて第2の端末にデータを送信する
ことを特徴とする付記1に記載の送信方法。
(付記4)前記第1のアンテナを用いて送信すべき第1のパケットにデータの書き込みが可能な第1の領域が存在し、かつ、前記第2のアンテナを用いて前記第1のパケットに同期して送信すべき第2のパケットにおいて、前記第1のパケットの第1の領域に対応する第2の領域にデータが既に格納されている場合、
前記第1のアンテナを用いてデータを送信すべき端末を認識し、その端末に送信するデータを、前記第1のパケットの第1の領域に書き込む
ことを特徴とする付記3に記載の送信方法。
(付記5)複数の端末のうちの第1の端末において、前記第1のアンテナからの第1の受
信レベルが前記所定の基準以上であり、かつ、前記第2のアンテナからの第2の受信レベルが前記所定の基準より小さい場合に、前記第1の端末で測定された前記第1の受信レベルと前記第2の受信レベルとの差分を表す差分受信レベルを算出し、
前記差分受信レベルが所定の値より大きいときに、前記第1のアンテナを用いて前記第1の端末にデータを送信し、
前記第2のアンテナを用いてから第2の端末にデータを送信する
ことを特徴とする付記1に記載の送信方法。
(付記6)第1のアンテナと、
前記第1のアンテナから実質的に異なる無線エリアを形成する、離間して設けられた第2のアンテナと、
前記基地局と通信可能な端末が前記第1のアンテナからの信号を測定することにより得られる第1の受信レベルを表す情報、および前記端末が前記第2のアンテナからの信号を測定することにより得られる第2の受信レベルを表す情報を前記端末から受信する受信部、を備え、
前記第1の受信レベルおよび第2の受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナを用いてMIMO送信を行い、前記第1の受信レベルおよび第2の受信レベルの双方が前記所定の基準より小さい場合に、前記第1のアンテナおよび第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行う、
ことを特徴とする基地局装置。
(付記7)複数の端末のうちの第1の端末において、前記第1のアンテナからの受信レベルが前記所定の基準以上であり、前記第2のアンテナからの受信レベルは前記所定の基準より小さいとき、前記第1のアンテナを用いて前記第1の端末にデータを送信し、前記第2のアンテナを用いて第2の端末にデータを送信する
ことを特徴とする付記6に記載の基地局装置。
(付記8)前記第1の受信レベルと第2の受信レベルとの差を表す差分値を算出する算出部と、
前記第1の受信レベル、第2の受信レベル、差分値を用いて前記端末との通信方法を決定する通信方法制御部
をさらに備えることを特徴とする付記6に記載の基地局装置。
(付記9)基地局が備える第1のアンテナおよび第2のアンテナの各々から受信する信号の受信レベルをアンテナごとに計測する計測部と、
前記計測部により計測された受信レベルを前記基地局に報告する報告部と、
前記報告部が報告した前記受信レベルに基づいて前記基地局で決定された通信方法が通知されると、その通知された前記通信方法でデータを受信する受信部と、
を備えることを特徴とする端末装置。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】アンテナからの受信電力に従ったエリア分割の例を示す図である。
【図2】基地局と移動端末の間のMIMO通信を説明する図である。
【図3】基地局と移動端末の間のダイバーシティ通信を説明する図である。
【図4】アンテナがそれぞれ別の移動端末と通信を行うときの実施形態を説明する図である。
【図5】実施形態に用いられる基地局の構成の例を示す図である。
【図6】移動端末がアンテナから受信する電力を測定し、受信電力を基地局に通知するときの動作を説明する図である。
【図7】受信電力測定および受信電力の報告の際に、移動端末と基地局の間で送受信されるパケットを示す図である。
【図8】実施形態における一対のダウンリンクパケットとアップリンクパケットを詳細に示した図である。
【図9】基地局と移動端末の間の通信方式と各アンテナからの受信電力の関係を説明する図である。
【図10】移動端末から受信電力情報を受信したときの基地局の動作を説明するフローチャートである。
【図11】ダウンリンクパケットを生成する際の基地局装置の動作を説明するフローチャートである。
【図12】各移動端末についての各アンテナからの受信電力および通信方式が格納されているデータベースの例を示す図である。
【図13】実施形態のパケットの生成方法によって生成されるパケットの構成を表す図である。
【図14】各アンテナからの受信電力およびアンテナ間での受信電力の差を用いて通信方式を決定する実施形態を説明する図である。
【図15】5本のアンテナを有する基地局のセル中に存在する移動端末の受信電力として考えられる組み合わせを示す表である。
【図16A】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図16B】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図16C】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図16D】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図16E】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図16F】基地局からデータ送信することができる移動端末を選択する場合に可能な組み合わせを説明する表である。
【図17】基地局に備えられた複数のアンテナ間の距離が短い場合にMIMO通信を行うときの例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
1 アンテナ
2 移動端末
3 エリア
40 基地局
41 スプリッタ
42 エンコーダ
43 送信用バッファ
44 受信用バッファ
45 デコーダ
46 メモリ
50 コントローラ
51 送信制御部
52 受信制御部
53 データベース
54 待ち行列
60 ダウンリンクパケット
61 同期信号
62 MAPデータ
63 移動端末宛データ
70 アップリンクパケット
71 空き領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に異なる無線エリアを形成する、離間して設けられた第1のアンテナと、第2のアンテナのそれぞれから送信される信号を端末が受信して受信環境を測定し、
該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてMIMO送信を行い、該測定の結果、該第1のアンテナからの受信レベルと該第2のアンテナからの受信レベルの双方が所定の基準以下であり、前記端末が該第1のアンテナ、該第2のアンテナ双方から信号を受信できる場合に、該第1のアンテナ、該第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行う、
ことを特徴とする送信方法。
【請求項2】
前記第1のアンテナからの受信レベルと前記第2のアンテナからの受信レベルの差を表す差分受信レベルを算出し、
前記差分受信レベルが所定の値より大きく、かつ、前記第2のアンテナからの受信レベルが前記第1のアンテナからの受信レベルよりも大きい場合に、前記第1のアンテナを用いることなく前記第2のアンテナを用いて前記端末との通信を行う
ことを特徴とする請求項1に記載の送信方法。
【請求項3】
複数の端末のうちの第1の端末において、前記第1のアンテナからの受信レベルが前記所定の基準以上であり、前記第2のアンテナからの受信レベルが前記所定の基準より小さいとき、前記第1のアンテナを用いて前記第1の端末にデータを送信し、前記第2のアンテナを用いて第2の端末にデータを送信する
ことを特徴とする請求項1に記載の送信方法。
【請求項4】
第1のアンテナと、
前記第1のアンテナから実質的に異なる無線エリアを形成する、離間して設けられた第2のアンテナと、
前記基地局と通信可能な端末が前記第1のアンテナからの信号を測定することにより得られる第1の受信レベルを表す情報、および前記端末が前記第2のアンテナからの信号を測定することにより得られる第2の受信レベルを表す情報を前記端末から受信する受信部、を備え、
前記第1の受信レベルおよび第2の受信レベルの双方が所定の基準以上である場合に、前記第1のアンテナおよび前記第2のアンテナを用いてMIMO送信を行い、前記第1の受信レベルおよび第2の受信レベルの双方が前記所定の基準より小さい場合に、前記第1のアンテナおよび第2のアンテナを用いてダイバーシティ送信を行う、
ことを特徴とする基地局装置。
【請求項5】
基地局が備える第1のアンテナおよび第2のアンテナの各々から受信する信号の受信レベルをアンテナごとに計測する計測部と、
前記計測部により計測された受信レベルを前記基地局に報告する報告部と、
前記報告部が報告した前記受信レベルに基づいて前記基地局で決定された通信方法が通知されると、その通知された前記通信方法でデータを受信する受信部と、
を備えることを特徴とする端末装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16A】
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【図16B】
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【図16C】
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【図16D】
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【図16E】
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【図16F】
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【図17】
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【公開番号】特開2009−212691(P2009−212691A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−52266(P2008−52266)
【出願日】平成20年3月3日(2008.3.3)
【出願人】(000005223)富士通株式会社 (25,993)
【Fターム(参考)】