複数の結合インダクタを有する多相バックコンバータ
【課題】出力電流に低調波リップルを生じみくい多相コンバータを提供する。
【解決手段】多相コンバータは、2N+1個のインダクタと、並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む2N+1個のスイッチングコンバータとを備える。ここでNは偶数であり、上記インダクタの対が結合されて共通コアの周りに巻かれる。それぞれの結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、上記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合である。
【解決手段】多相コンバータは、2N+1個のインダクタと、並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む2N+1個のスイッチングコンバータとを備える。ここでNは偶数であり、上記インダクタの対が結合されて共通コアの周りに巻かれる。それぞれの結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、上記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電源回路に関し、より詳細には多相電源変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1Aを参照すると、2相バックコンバータが2個の並列接続されたコンバータを含み、その各コンバータにおいて、第1の制御スイッチS1、S2とシャントスイッチSHとがスイッチノード10で互いに接続されている。インダクタ12が、その一方の極でそれぞれのスイッチノード10に接続され、その他方の極で出力ノード14に接続されている。図1Aにおいて、インダクタ12どうしは磁気結合していない、すなわち共通のコアを共有していない。
【0003】
図1Bは、2相バックコンバータにおいて、インダクタ12どうしが結合したものを示している。すなわち、インダクタ12どうしが逆結合(inverse connected:逆接続ともいう)し、共通コアの周りに巻かれている。
【0004】
多相バックコンバータのような多相電圧レギュレータにおいて、電流キャンセルにより出力電流のリプルを低減し得ることが知られている。
【0005】
多相バックコンバータにおける電流キャンセルは、多相インダクタ結合によるインダクタおよびスイッチに拡張できる。例えば、図1Cに例示したように、2相バックコンバータにおいて、結合インダクタ(図1B)を実装すると、インダクタを流れるピークトゥピーク電流を効果的に低減できる。このため、結合インダクタを用いると、動的性能を犠牲にせずに定常状態損失を小さくすることが期待できる。また、インダクタどうしが結合していない多相バックコンバータ(図1A)に比べて、インダクタどうしが結合している場合、リプル電流の上昇を引き起こさずにインダクタのサイズを小さくできる。このため、コンバータの効率を犠牲にせずに、より高速な過渡応答が期待できる。
【0006】
従来技術による通常の多相コンバータは、共通コアの周りに巻かれた2個よりも多くのインダクタを含み得る。このような構成は本質的に非対称である。すなわち、その位相は、同一でない磁気特性を示す。磁気特性の変動は、低調波(sub-harmonic)出力リプルにつながり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多相コンバータにおける低調波出力リプルを低減することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの目的は、出力電流に低調波リプルを生じにくい多相コンバータを提供することである。
【0009】
本発明による電源変換装置は、複数の並列接続されたコンバータを含み、その各コンバータはそのスイッチノードでそれぞれのインダクタに直列接続され、これらのコンバータは、各コンバータ対が、逆結合され共通コアの周りに巻かれた2個のインダクタのうちの一方とそれぞれ接続される。したがって、本発明による多相コンバータは、1対の結合インダクタに関連づけられた少なくとも1対の並列接続されたコンバータを含むか、あるいは、複数の並列コンバータ対を含み各コンバータ対が1対の結合インダクタに関連づけられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成によれば、結合インダクタの対は物理的に対称であり、同一の磁気特性を示すように構成できるので、非対称性に起因する出力電流の低調波リプルを低減できるという点で有利である。
【0011】
電圧レギュレータにおいて、相数(phase number)は、効率、コスト等の最適化トレードオフに応じて決まる。電流定格を上げるには相数を増やすのが好ましい。しかし、相数は常に偶数とは限らない。本発明の一態様によれば、奇数個の並列コンバータにおいて、少なくとも1つのインダクタが他のインダクタに結合されず、他のコンバータは上記のような対称的磁気特性を有するように構成される。
【0012】
奇数相コンバータの場合、適切な位相シフトにより潜在出力リプル電流を除去できる。本発明の一態様によれば、位相シフト方式を実装することで、非結合インダクタ(uncoupled inductor;他のインダクタに結合されていないインダクタ)の存在に起因するリプルを低減する。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を参照して、本発明の以下の説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2を参照すると、本発明の好ましい実施形態による多相バックコンバータは、複数の並列接続されたコンバータ20を含む。各コンバータ20は、好ましくは、電源入力ノードVinとスイッチノード10との間に接続された制御スイッチS1〜S2N+1と、それぞれのスイッチノード10とグランド(接地、アース端子)との間に接続されたシャントスイッチ(分流スイッチ)SH1〜SH2N+1とを含む。本発明によるコンバータは、複数のインダクタL1〜L2N+1をさらに含み、各インダクタは、その一方の極がそれぞれのスイッチノード10に接続され、その他方の極がコンバータの出力ノード14に接続される。好ましくは、出力キャパシタ15が、その一方の極で出力ノード14に接続され、その他方の極でグランドに接続される。
【0015】
制御スイッチはパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)であるのが好ましいが、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)のような他のスイッチも、本発明の範囲および技術思想から逸脱することなく使用可能である。
【0016】
本発明の一態様によれば、インダクタが対でのみ結合されて共通コアの周りに巻かれ、各インダクタは、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続される。例えば、L1とL2が結合されて共通コアの周りに巻かれ、それぞれ、制御スイッチS1およびS2に関連するスイッチノードに接続される。なお、本明細書において、2個のインダクタの結合とは、インダクタが逆接続、すなわち逆並列接続(anti-parallel connected)されることを意味する。
【0017】
また、本発明の別の態様によれば、インダクタL2N+1は他のインダクタと結合されない。このため、N個の結合インダクタ(すなわち結合インダクタを用いた2相コンバータ)が、1個の非結合インダクタと組み合わされて、ハイブリッド型のコンバータが得られる。
【0018】
結合インダクタを用いたN個の2相コンバータを少なくとも1つの位相で非結合インダクタと組み合わせる場合、磁気結合から利益が得られる。実際、L2N+1→∞とすると、コンバータは2N相コンバータとして振る舞うことになる。
【0019】
次に図3を参照すると、各スイッチング周期において、各インダクタL1〜L2N+1が、それに関連する制御スイッチS1〜S2N+1をオンにすることにより順次通電される。例えば、L1はS1をオンにすることにより通電される等々となる。
【0020】
本発明の一態様によれば、従来技術とは異なり、結合インダクタが180度差で通電されるのではなく、また、すべてのインダクタが360/N度差で通電されるのではない(Nはインダクタの個数)。むしろ、最適の結果を得るため、インダクタが以下の位相シフト方式に従って通電されることで、非結合インダクタの存在に起因する出力リプル電流の潜在的増大をなくす。
【0021】
i)結合した2個のインダクタに対する位相シフトは式1によって規定される。
【0022】
【数1】
【0023】
この位相シフトは図3ではAで示されている。
【0024】
ここで、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスであり、L2k−1とL2k(k=1,2,...,N)が結合インダクタ、すなわち逆接続されたインダクタであり、S2k−1およびS2kはそれぞれ、その結合インダクタに関連する制御スイッチを表す。例えば、多相コンバータが1個のコンバータを含み、その2つの位相が1個の結合インダクタ対(N=1)に関連づけられている場合、S1およびS2はそれぞれL1およびL2の結合インダクタに接続され、S3はL3の非結合インダクタに接続される。なおこの例では、コンバータには3つの位相が存在する。
【0025】
ii)非結合インダクタの位相を除き、隣り合う2相コンバータに対する位相シフトは式2で表される。
【0026】
【数2】
【0027】
この位相シフトは図3ではBで示されている。
【0028】
このような構成を用いると、コンバータの等価インダクタンスは式3のように導出される。
【0029】
【数3】
【0030】
結合インダクタに対する1相あたりのピークトゥピークリプル電流は式4で与えられる。
【0031】
【数4】
【0032】
ここで、Voutは出力電圧、Dはデューティ比、Fsはスイッチング周波数、kは結合インダクタの励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比である。すべての位相で同じピークトゥピーク電流を得るためには、非結合インダクタL2N+1に対する好ましいインダクタンスは式5で表される。
【0033】
【数5】
【0034】
コンバータ出力リプル電流は式6で導出される。
【0035】
【数6】
【0036】
[設計例]
設計仕様:
Vin/Vout_no_load=12V/1.335V;
負荷ラインRo=1.25mohm;
最大出力電流Imax=130A;
スイッチング周波数Fs=660kHz
【0037】
この例では、4相コンバータと5相コンバータを比較する。出力キャパシタを節約するため、結合インダクタの漏れインダクタンスとして65nHを選択した。励磁インダクタンスに関しては、励磁インダクタンスが高いほど、結合が強くなり、電流リプルのキャンセルが良好になることが知られている。しかし、励磁インダクタンスを高くすると、2つの結合位相間に小さいDC電流不整合がある場合に飽和になりやすい。図4から、励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比としてk=3を選択すると、結合がうまく利用され、結合とコア飽和に対するロバスト性との間の良好な妥協点が得られる。5相コンバータの場合、すべての位相の間でピークトゥピークリプル電流を近づけるために、式5に基づいて、非結合インダクタとして120nHの民生品の(COTS)インダクタを選択した。
【0038】
計算波形を図5A〜図5C(4相コンバータ)および図6A〜図6C(5相コンバータ)に示し、シミュレーション波形を図7A〜図7B(4相コンバータ)および図8A〜図8B(5相コンバータ)に示す。これらの波形は、各相でリプル電流が大幅に低減されていることを示している。
【0039】
[実験結果]
結合インダクタを有する2個の2相コンバータを用いて設計された1個の4相コンバータを作成した。このコンバータの電流波形を図9に示す。測定波形は、期待通り、位相リプル電流が大幅に低減されていることを示している。
【0040】
本発明によるコンバータは以下のことが可能である。
【0041】
1.1相あたりのRMS電流を低減してコンバータ効率を向上させる。
【0042】
2.コンバータ等価インダクタンスを低減することで、過渡要求の厳しいアプリケーションで必要とされる出力キャパシタンスを最小限にする。
【0043】
3.高調波出力リプル電流を除去する。
【0044】
4.2相結合インダクタを用いた多相コンバータ設計に対する制限をなくす。
【0045】
以上、具体的実施形態に関して本発明を説明したが、他の多くの変形および変更ならびに他の利用形態は当業者には明らかとなるであろう。したがって、本発明は、本明細書における具体的開示には限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】従来技術による多相コンバータを示す図である。
【図1B】従来技術による多相コンバータを示す図である。
【図1C】図1Aのコンバータと図1Bのコンバータとの間でリプル電流を比較したグラフ図である。
【図2】本発明による多相バックコンバータを示す図である。
【図3】本発明によるコンバータの制御スイッチに通電する制御方式を示すグラフ図である。
【図4】結合インダクタの励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比(k)に対して、結合インダクタの電流差の値(ΔI)を示すグラフ図である。
【図5A】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図5B】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図5C】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6A】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6B】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6C】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図7A】本発明による4相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図7B】本発明による4相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図8A】本発明による5相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図8B】本発明による5相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図9】本発明によるコンバータから実験的に得られる波形を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 スイッチノード
14 コンバータの出力ノード
15 出力キャパシタ
20 コンバータ
Vin 電源入力ノード
S1〜S2N+1 制御スイッチ
SH1〜SH2N+1 シャントスイッチ
L1〜L2N+1 インダクタ
【技術分野】
【0001】
本発明は電源回路に関し、より詳細には多相電源変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1Aを参照すると、2相バックコンバータが2個の並列接続されたコンバータを含み、その各コンバータにおいて、第1の制御スイッチS1、S2とシャントスイッチSHとがスイッチノード10で互いに接続されている。インダクタ12が、その一方の極でそれぞれのスイッチノード10に接続され、その他方の極で出力ノード14に接続されている。図1Aにおいて、インダクタ12どうしは磁気結合していない、すなわち共通のコアを共有していない。
【0003】
図1Bは、2相バックコンバータにおいて、インダクタ12どうしが結合したものを示している。すなわち、インダクタ12どうしが逆結合(inverse connected:逆接続ともいう)し、共通コアの周りに巻かれている。
【0004】
多相バックコンバータのような多相電圧レギュレータにおいて、電流キャンセルにより出力電流のリプルを低減し得ることが知られている。
【0005】
多相バックコンバータにおける電流キャンセルは、多相インダクタ結合によるインダクタおよびスイッチに拡張できる。例えば、図1Cに例示したように、2相バックコンバータにおいて、結合インダクタ(図1B)を実装すると、インダクタを流れるピークトゥピーク電流を効果的に低減できる。このため、結合インダクタを用いると、動的性能を犠牲にせずに定常状態損失を小さくすることが期待できる。また、インダクタどうしが結合していない多相バックコンバータ(図1A)に比べて、インダクタどうしが結合している場合、リプル電流の上昇を引き起こさずにインダクタのサイズを小さくできる。このため、コンバータの効率を犠牲にせずに、より高速な過渡応答が期待できる。
【0006】
従来技術による通常の多相コンバータは、共通コアの周りに巻かれた2個よりも多くのインダクタを含み得る。このような構成は本質的に非対称である。すなわち、その位相は、同一でない磁気特性を示す。磁気特性の変動は、低調波(sub-harmonic)出力リプルにつながり得る。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
多相コンバータにおける低調波出力リプルを低減することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の1つの目的は、出力電流に低調波リプルを生じにくい多相コンバータを提供することである。
【0009】
本発明による電源変換装置は、複数の並列接続されたコンバータを含み、その各コンバータはそのスイッチノードでそれぞれのインダクタに直列接続され、これらのコンバータは、各コンバータ対が、逆結合され共通コアの周りに巻かれた2個のインダクタのうちの一方とそれぞれ接続される。したがって、本発明による多相コンバータは、1対の結合インダクタに関連づけられた少なくとも1対の並列接続されたコンバータを含むか、あるいは、複数の並列コンバータ対を含み各コンバータ対が1対の結合インダクタに関連づけられる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の構成によれば、結合インダクタの対は物理的に対称であり、同一の磁気特性を示すように構成できるので、非対称性に起因する出力電流の低調波リプルを低減できるという点で有利である。
【0011】
電圧レギュレータにおいて、相数(phase number)は、効率、コスト等の最適化トレードオフに応じて決まる。電流定格を上げるには相数を増やすのが好ましい。しかし、相数は常に偶数とは限らない。本発明の一態様によれば、奇数個の並列コンバータにおいて、少なくとも1つのインダクタが他のインダクタに結合されず、他のコンバータは上記のような対称的磁気特性を有するように構成される。
【0012】
奇数相コンバータの場合、適切な位相シフトにより潜在出力リプル電流を除去できる。本発明の一態様によれば、位相シフト方式を実装することで、非結合インダクタ(uncoupled inductor;他のインダクタに結合されていないインダクタ)の存在に起因するリプルを低減する。
【0013】
本発明の他の特徴および利点は、添付図面を参照して、本発明の以下の説明から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図2を参照すると、本発明の好ましい実施形態による多相バックコンバータは、複数の並列接続されたコンバータ20を含む。各コンバータ20は、好ましくは、電源入力ノードVinとスイッチノード10との間に接続された制御スイッチS1〜S2N+1と、それぞれのスイッチノード10とグランド(接地、アース端子)との間に接続されたシャントスイッチ(分流スイッチ)SH1〜SH2N+1とを含む。本発明によるコンバータは、複数のインダクタL1〜L2N+1をさらに含み、各インダクタは、その一方の極がそれぞれのスイッチノード10に接続され、その他方の極がコンバータの出力ノード14に接続される。好ましくは、出力キャパシタ15が、その一方の極で出力ノード14に接続され、その他方の極でグランドに接続される。
【0015】
制御スイッチはパワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)であるのが好ましいが、IGBT(絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ)のような他のスイッチも、本発明の範囲および技術思想から逸脱することなく使用可能である。
【0016】
本発明の一態様によれば、インダクタが対でのみ結合されて共通コアの周りに巻かれ、各インダクタは、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続される。例えば、L1とL2が結合されて共通コアの周りに巻かれ、それぞれ、制御スイッチS1およびS2に関連するスイッチノードに接続される。なお、本明細書において、2個のインダクタの結合とは、インダクタが逆接続、すなわち逆並列接続(anti-parallel connected)されることを意味する。
【0017】
また、本発明の別の態様によれば、インダクタL2N+1は他のインダクタと結合されない。このため、N個の結合インダクタ(すなわち結合インダクタを用いた2相コンバータ)が、1個の非結合インダクタと組み合わされて、ハイブリッド型のコンバータが得られる。
【0018】
結合インダクタを用いたN個の2相コンバータを少なくとも1つの位相で非結合インダクタと組み合わせる場合、磁気結合から利益が得られる。実際、L2N+1→∞とすると、コンバータは2N相コンバータとして振る舞うことになる。
【0019】
次に図3を参照すると、各スイッチング周期において、各インダクタL1〜L2N+1が、それに関連する制御スイッチS1〜S2N+1をオンにすることにより順次通電される。例えば、L1はS1をオンにすることにより通電される等々となる。
【0020】
本発明の一態様によれば、従来技術とは異なり、結合インダクタが180度差で通電されるのではなく、また、すべてのインダクタが360/N度差で通電されるのではない(Nはインダクタの個数)。むしろ、最適の結果を得るため、インダクタが以下の位相シフト方式に従って通電されることで、非結合インダクタの存在に起因する出力リプル電流の潜在的増大をなくす。
【0021】
i)結合した2個のインダクタに対する位相シフトは式1によって規定される。
【0022】
【数1】
【0023】
この位相シフトは図3ではAで示されている。
【0024】
ここで、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスであり、L2k−1とL2k(k=1,2,...,N)が結合インダクタ、すなわち逆接続されたインダクタであり、S2k−1およびS2kはそれぞれ、その結合インダクタに関連する制御スイッチを表す。例えば、多相コンバータが1個のコンバータを含み、その2つの位相が1個の結合インダクタ対(N=1)に関連づけられている場合、S1およびS2はそれぞれL1およびL2の結合インダクタに接続され、S3はL3の非結合インダクタに接続される。なおこの例では、コンバータには3つの位相が存在する。
【0025】
ii)非結合インダクタの位相を除き、隣り合う2相コンバータに対する位相シフトは式2で表される。
【0026】
【数2】
【0027】
この位相シフトは図3ではBで示されている。
【0028】
このような構成を用いると、コンバータの等価インダクタンスは式3のように導出される。
【0029】
【数3】
【0030】
結合インダクタに対する1相あたりのピークトゥピークリプル電流は式4で与えられる。
【0031】
【数4】
【0032】
ここで、Voutは出力電圧、Dはデューティ比、Fsはスイッチング周波数、kは結合インダクタの励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比である。すべての位相で同じピークトゥピーク電流を得るためには、非結合インダクタL2N+1に対する好ましいインダクタンスは式5で表される。
【0033】
【数5】
【0034】
コンバータ出力リプル電流は式6で導出される。
【0035】
【数6】
【0036】
[設計例]
設計仕様:
Vin/Vout_no_load=12V/1.335V;
負荷ラインRo=1.25mohm;
最大出力電流Imax=130A;
スイッチング周波数Fs=660kHz
【0037】
この例では、4相コンバータと5相コンバータを比較する。出力キャパシタを節約するため、結合インダクタの漏れインダクタンスとして65nHを選択した。励磁インダクタンスに関しては、励磁インダクタンスが高いほど、結合が強くなり、電流リプルのキャンセルが良好になることが知られている。しかし、励磁インダクタンスを高くすると、2つの結合位相間に小さいDC電流不整合がある場合に飽和になりやすい。図4から、励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比としてk=3を選択すると、結合がうまく利用され、結合とコア飽和に対するロバスト性との間の良好な妥協点が得られる。5相コンバータの場合、すべての位相の間でピークトゥピークリプル電流を近づけるために、式5に基づいて、非結合インダクタとして120nHの民生品の(COTS)インダクタを選択した。
【0038】
計算波形を図5A〜図5C(4相コンバータ)および図6A〜図6C(5相コンバータ)に示し、シミュレーション波形を図7A〜図7B(4相コンバータ)および図8A〜図8B(5相コンバータ)に示す。これらの波形は、各相でリプル電流が大幅に低減されていることを示している。
【0039】
[実験結果]
結合インダクタを有する2個の2相コンバータを用いて設計された1個の4相コンバータを作成した。このコンバータの電流波形を図9に示す。測定波形は、期待通り、位相リプル電流が大幅に低減されていることを示している。
【0040】
本発明によるコンバータは以下のことが可能である。
【0041】
1.1相あたりのRMS電流を低減してコンバータ効率を向上させる。
【0042】
2.コンバータ等価インダクタンスを低減することで、過渡要求の厳しいアプリケーションで必要とされる出力キャパシタンスを最小限にする。
【0043】
3.高調波出力リプル電流を除去する。
【0044】
4.2相結合インダクタを用いた多相コンバータ設計に対する制限をなくす。
【0045】
以上、具体的実施形態に関して本発明を説明したが、他の多くの変形および変更ならびに他の利用形態は当業者には明らかとなるであろう。したがって、本発明は、本明細書における具体的開示には限定されず、添付の特許請求の範囲によってのみ限定されるものである。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1A】従来技術による多相コンバータを示す図である。
【図1B】従来技術による多相コンバータを示す図である。
【図1C】図1Aのコンバータと図1Bのコンバータとの間でリプル電流を比較したグラフ図である。
【図2】本発明による多相バックコンバータを示す図である。
【図3】本発明によるコンバータの制御スイッチに通電する制御方式を示すグラフ図である。
【図4】結合インダクタの励磁インダクタンスの漏れインダクタンスに対する比(k)に対して、結合インダクタの電流差の値(ΔI)を示すグラフ図である。
【図5A】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図5B】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図5C】本発明による4相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6A】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6B】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図6C】本発明による5相コンバータの計算波形を示す図である。
【図7A】本発明による4相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図7B】本発明による4相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図8A】本発明による5相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図8B】本発明による5相コンバータのシミュレーション波形を示す図である。
【図9】本発明によるコンバータから実験的に得られる波形を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
10 スイッチノード
14 コンバータの出力ノード
15 出力キャパシタ
20 コンバータ
Vin 電源入力ノード
S1〜S2N+1 制御スイッチ
SH1〜SH2N+1 シャントスイッチ
L1〜L2N+1 インダクタ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2N+1個のインダクタと、
並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む2N+1個のスイッチングコンバータと
を備え、ここでNは偶数であり、前記インダクタの対が結合されて共通コアの周りに巻かれ、それぞれの該結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、前記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合であることを特徴とする多相コンバータ。
【請求項2】
前記インダクタが、それぞれの前記共通コアによって、少なくとも1対で、対としてのみ結合されていることを特徴とする請求項1に記載の多相コンバータ。
【請求項3】
複数のインダクタと、
並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む複数のスイッチングコンバータと
を備え、前記インダクタが、それぞれの共通コアの周りに、少なくとも1対で、対としてのみ結合され、それぞれの該結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、前記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合であることを特徴とする多相コンバータ。
【請求項4】
2N+1個の前記インダクタが存在し、Nは偶数であり、該インダクタのうちの1個のみが非結合であることを特徴とする請求項3に記載の多相コンバータ。
【請求項5】
前記コンバータがバックコンバータであることを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項6】
各前記コンバータが、電源入力と前記スイッチノードとの間に接続された制御スイッチと、該スイッチノードとグランドとの間に接続されたシャントスイッチとを含むことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項7】
前記制御スイッチおよび前記シャントスイッチがパワーMOSFETであることを特徴とする請求項6に記載の多相コンバータ。
【請求項8】
前記制御スイッチおよび前記シャントスイッチがパワーIGBTであることを特徴とする請求項6に記載の多相コンバータ。
【請求項9】
前記Nが少なくとも4であることを特徴とする請求項2または3に記載の多相コンバータ。
【請求項10】
前記インダクタが順次通電されることを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項11】
Nは前記結合インダクタの対の個数であり、該結合インダクタが次の関係式
【数1】
によって規定される位相角シフトで通電され、ここでφは位相角であり、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスである、ことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項12】
Nは前記結合インダクタの個数であり、2つの隣り合う該結合インダクタ対が次の関係式
【数2】
によって規定される位相角シフトで通電され、ここでφは位相角であり、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスである、ことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項1】
2N+1個のインダクタと、
並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む2N+1個のスイッチングコンバータと
を備え、ここでNは偶数であり、前記インダクタの対が結合されて共通コアの周りに巻かれ、それぞれの該結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、前記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合であることを特徴とする多相コンバータ。
【請求項2】
前記インダクタが、それぞれの前記共通コアによって、少なくとも1対で、対としてのみ結合されていることを特徴とする請求項1に記載の多相コンバータ。
【請求項3】
複数のインダクタと、
並列接続されてそのそれぞれがスイッチノードを含む複数のスイッチングコンバータと
を備え、前記インダクタが、それぞれの共通コアの周りに、少なくとも1対で、対としてのみ結合され、それぞれの該結合インダクタが、その一方の極でそれぞれのスイッチノードに接続され、その他方の極で出力ノードに接続され、前記インダクタの少なくとも1つが他のインダクタとは非結合であることを特徴とする多相コンバータ。
【請求項4】
2N+1個の前記インダクタが存在し、Nは偶数であり、該インダクタのうちの1個のみが非結合であることを特徴とする請求項3に記載の多相コンバータ。
【請求項5】
前記コンバータがバックコンバータであることを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項6】
各前記コンバータが、電源入力と前記スイッチノードとの間に接続された制御スイッチと、該スイッチノードとグランドとの間に接続されたシャントスイッチとを含むことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項7】
前記制御スイッチおよび前記シャントスイッチがパワーMOSFETであることを特徴とする請求項6に記載の多相コンバータ。
【請求項8】
前記制御スイッチおよび前記シャントスイッチがパワーIGBTであることを特徴とする請求項6に記載の多相コンバータ。
【請求項9】
前記Nが少なくとも4であることを特徴とする請求項2または3に記載の多相コンバータ。
【請求項10】
前記インダクタが順次通電されることを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項11】
Nは前記結合インダクタの対の個数であり、該結合インダクタが次の関係式
【数1】
によって規定される位相角シフトで通電され、ここでφは位相角であり、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスである、ことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【請求項12】
Nは前記結合インダクタの個数であり、2つの隣り合う該結合インダクタ対が次の関係式
【数2】
によって規定される位相角シフトで通電され、ここでφは位相角であり、Lkは結合インダクタの漏れインダクタンスである、ことを特徴とする請求項1または3に記載の多相コンバータ。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【図1B】
【図1C】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5A】
【図5B】
【図5C】
【図6A】
【図6B】
【図6C】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図9】
【公開番号】特開2007−68392(P2007−68392A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−203864(P2006−203864)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(591074389)インターナショナル・レクチファイヤー・コーポレーション (24)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL RECTIFIER CORPORATION
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−203864(P2006−203864)
【出願日】平成18年7月26日(2006.7.26)
【出願人】(591074389)インターナショナル・レクチファイヤー・コーポレーション (24)
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL RECTIFIER CORPORATION
【Fターム(参考)】
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