説明

複数条植え移植機及び複数条植え移植機による植付け方法

【課題】畦クラッチ等による煩雑な植付け条調整操作および植付け条別苗量管理による煩雑な苗補給を要することなく、植付け作業能率の向上とともに機体構成の簡易化を可能とする複数条植え移植機および同複数条植え移植機による植付方法を提供する。
【解決手段】複数条植え移植機は、往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅Bをその一側端から所定の植付け条間寸法で且つ所定の植付け条数で複数条植え走行するように構成され、上記圃場幅Bを認識する認識手段と、該認識手段で認識する圃場幅Bを往復植付け行程の行程間ピッチDを前記所定の植付け条間寸法として等間隔に往復植付けするものとした場合に生じる植付け条数に満たない未植付け部分の幅に基づいて、前記圃場幅B全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできるように往復植付け行程の行程間ピッチDを演算する演算手段とを設けたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅をその一側端から往復走行して複数条ごとに植付け走行する複数条植え移植機および同複数条植え移植機による植付方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示すように、往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅をその一側端から移植機の植付け条間寸法で等間隔に複数条植え走行する複数条植え移植機が知られている。
この移植機は、2条単位で畦クラッチを備え、6条幅の植付け部を部分的に植付け動作可能に複数条植え走行することができる。したがって、往復植付けにおける移植機の植付け条数に満たない最終行程において植付け条数を調整して畦までの間の半端な条数の植付けを可能とするものである。
【0003】
しかし、上記移植機による往復植付けは、植付け条数を調整するための畦クラッチが必要となり、また該畦クラッチの操作のためにオペレータ又は操作手段を要し、また、植付け条数の調整に伴い植付け条別に植付け苗量が変動するので苗補給タイミングの煩雑化により植付け作業能率の低下を招くという問題点を内包していた。
【特許文献1】特開2004−105142号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする問題点は、畦クラッチ等による煩雑な植付け条調整操作および植付け条別苗量管理による煩雑な苗補給を要することなく、植付け作業能率の向上とともに機体構成の簡易化を可能とする複数条植え移植機および同複数条植え移植機による植付方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に係る発明は、往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅(B)をその一側端から所定の植付け条間寸法で且つ所定の植付け条数で複数条植え走行する複数条植え移植機において、上記圃場幅(B)を認識する認識手段と、該認識手段で認識する圃場幅(B)を往復植付け行程の行程間ピッチ(D)を前記所定の植付け条間寸法として等間隔に往復植付けするものとした場合に生じる植付け条数に満たない未植付け部分の幅に基づいて、前記圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできるように往復植付け行程の行程間ピッチ(D)を演算する演算手段とを設けたことを特徴とする。
上記演算手段で演算される往復植付け行程の行程間ピッチ(D)に基づく走行経路で植付け走行することにより、植付け範囲の圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできる。
【0006】
請求項2に係る発明は、往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅(B)をその一側端から所定の植付け条間寸法で且つ所定の植付け条数で複数条植え走行する複数条植え移植機による植付方法において、上記圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできる往復植付け行程の行程間ピッチ(D)で往復植付けすることを特徴とする。
前記発明と同様に、上記往復植付け行程の行程間ピッチ(D)で往復植付け走行することにより、植付け範囲の圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできる。
【発明の効果】
【0007】
請求項1および請求項2の発明により、植付け範囲の圃場幅の植付け条数が行程間ピッチの調整によって移植機の植付け条数の整数倍となることから、両発明とも最終の行程について移植機の植付け条数を調整するための畦クラッチが不要で、また該畦クラッチ操作等による条数の調整を要することなく全行程の往復植付けが可能となり、また、移植機の植付け条別の苗量管理を要することなく全条一律の苗補給による植付け作業の効率化を図るとともに全条一律稼動によって機体構成の簡易化を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の実施の形態について以下に図面に基づいて詳細に説明する。
本発明の具体例を図1の斜視図に示す移植機について説明する。移植機1は、左右の操舵前輪2、2と左右の後輪3、3とによって4輪駆動可能に機体を支持し、操舵ハンドル4、オペレータシート5、その下方で不図示のエンジン、機体後部のロングマット苗適用の植付部7のほか、各種機器を制御するコントローラ8およびGPSシステム衛星信号を受けるGPSアンテナを備えて圃場の寸歩並びに来たいの位置を認識できるデファレンシャルGPS装置9a、ジャイロによる傾斜センサを内設した姿勢計測装置9b等を備えて無人走行可能に構成される。
【0009】
植付部7は、機体に支持した平行リンク等によって構成した不図示の昇降リンク部を介して昇降制御可能に取付け、図示せぬ植付クラッチを介して機体の走行に合わせて複数条植え(図例は6条植え)動作する植付機構11…のほか、それぞれの植付け動作と連動して苗を連続供給するためのロングマット13mから苗を順次送り出す苗移送機構13…、薬剤肥料を吐出する施肥機構14、均平整地用のフロート15…等を備える。走行系の動力伝動は、エンジンから動力を受ける前後進無段変速機(HST)を備えた変速伝動装置によって動力を変速するとともに前輪系、後輪系、作業機系に動力を伝動する。
【0010】
コントローラ8は、図2の入出力系統図に示すように、メインコンピュータ8a、プログラマブルコンピュータ8b、モータコントローラ8c等により構成され、デファレンシャルGPS装置9aと姿勢計測装置9bから機体の位置および機体の方位を受け、エンコーダリミットスイッチ8d等の動作モニタを介してアクチュエータ群Aを駆動制御する。モータコントローラ8cはアクチュエータ群Aの制御により、ステアリング、HSTレバー、クラッチ、左右ブレーキ、エンジンスロットル、作業機の昇降等の機器動作を駆動制御し、複数条植え移植機について往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅Bをその一側端から無人で複数条植え走行を行う。
【0011】
この往復植付け行程においては、圃場横長さ(植付け範囲の圃場幅寸法)Bに基づいて、移植機の植付け条数分の整数倍で過不足無く圃場全体に植付けできるように、各行程間の隣接行程間距離Dを設定する。
6条植えの場合の具体的な処理は、図3のフローチャートに示すように、圃場横長さおよび移植機条数の読み取り処理(S1、S2)、行程数計算処理(S3)、残り条数計算処理(S4)により、圃場横長さBについて移植機の植付け条間寸法で等間隔に往復植付けするものとした場合の移植機の植付け条数に満たない最終の行程に属する条数を計算する(S1〜S4)。
【0012】
上記行程数計算処理(S3)では、以下において積算記号を「*」、除算記号を「/」により表記するものとして、移植機の条間が0.3mで6条植えであれば「圃場横長さ/(0.3*6)」を整数化し、残り条数計算処理(S4)では、「横長さ−整数化値*0.3*6」によって残り長さを算出し、次いで、「残り長さ/0.3」により残り条数を算出する。
【0013】
上記処理に続き、上記残り条数が3条以下であるかの判別処理(S5)により、該当すればこれをなくすように各行程間隔を「残り長さ/行程数」だけ広く(S6a)し、非該当であれば各行程間隔を「残り長さ/行程数」だけ狭く(S6b)する。すなわち、3条以下であれば最終の行程を除いた行程数とし、また、4条、5条なら最終の行程を含む行程数として上記圃場幅Bを等分するように行程間ピッチDを決定する。
【0014】
一般に、図4の圃場の一例を示す平面図における圃場横長さBについては、最終行程で植付け条の端数(6条植え移植機で1条〜5条)が出るとオペレータが畦クラッチを切ったり、1条の供給苗を外して奇数条植えとして調整する必要があったが、上述のように、最終行程が4条、5条なら6条植えできるように各行程間隔を詰め、また、1〜3条ならこれをなくすように各行程間隔を広げるように最初から行程間ピッチDを調整することにより、最終行程で畦クラッチ操作等の調整作業が不要となり、また、奇数条植えのためのロングマットを外す必要もなくなることから、植付機構11…の選択稼働のための畦クラッチを要しない簡易な構成のGPS無人移植機に適用することにより、ロングマット苗による超省力化のメリットを生かすことができる。
【0015】
次に、上記GPS無人移植機についての苗の補給作業について説明する。
ロングマット式の無人移植機は、6条植えなら30a(アール)の圃場面積を無補給で植付けできるが、それを超える圃場において残り苗が無くなった場合に、圃場の中で無人移植機が苗補給要求を検出しても補給対応ができないという問題があった。
【0016】
そこで、無人移植機が往復植え行程において苗供給側の畦に到達した時点で次に進めるべき作業を決定するべく、図5のフローチャートに示すように、残り株数計算(S11)と1往復株数計算(S12)により残り苗量が1往復植えに必要な残り苗量が有るかを判別(S13)し、可能なら作業を続行し、不可なら植付部7を畦側に向けて自動停止(S14)するように制御処理を構成する。
【0017】
上記制御処理における残り株数計算処理(S11)では、入力された縦取り量(例えば、0.11m)とセンサによる?取り回数により、例えば、「(6m−無駄長さ−?取り回数*縦取り量)*20/縦取り量」により残り株数Aを算出する。また、1往復株数計算処理(S12)では「縦長さ*7/株間距離」により植付けの株間距離(例えば、0.18m)を使用して1往復株数Bを算出することにより次の作業を決定することができる。
【0018】
また、自動停止の要領は、こちら側の畦到着時に残り苗量からあと1往復植えられるかどうかを判断し、不可なら停止とすることにより、停止する場合は必ず苗供給側の畦で自動停止してくれるので、圃場の中や向こう側の畦まで補給のロングマット苗を持って行く必要がない。
【0019】
上記の場合における苗補給位置を判りやすくするためには、ロングマット式無人移植機による植付け作業中に苗消費量を計算し、その結果から、図6の端末機斜視図に示すように、ロングマット苗の補給位置(図例では、右側端から28.8m)Sを監視者の携帯端末Tに圃場地形図Mを表示してあらかじめ明らかにするように構成する。
【0020】
苗補給位置についての具体的な処理手順は、図7のフローチャートに示すように、供給株数算出(S21)と消費株数算出(S22)とから得られる行程数を整数化処理(S23,S23a)により算出し、偶数行程の対応位置を算出(S24〜S25)した上で携帯端末Tに発信(S26)する。
【0021】
上記処理における供給株数の算出処理(S21)では、例えば、「(6m−無駄長さ)/縦取り量」により供給株数Aを算出する。消費株数計算処理(S22)では「圃場縦長さ/(3.3/(0.3*栽植密度))」により消費株数Bを算出する。また、行程数処理(S23)ではA/Bにより行程数Iを算出し、整数化処理(S23a)ではINT(I)により行程数Iを整数化する。次いで、行程数Iの奇数判別処理(S24)により該当すれば「I=1」(S24a)として「(I−1)*1.8+0.9」の算出処理(S25)によって偶数行程の苗補給位置を得ることができる。
【0022】
上記のようにして、苗補給の場所Sが、移植機による植付け作業中に監視者の携帯端末Tの画面に地図表示されるので、ロングマット式無人移植機も苗補給時期が来ると畦のどこかで補給する必要があることからその場所にロングマット苗をあらかじめ運んでおくことができるので時間のロスが無くなってさらに能率的になる。
【0023】
次に、田植え後の圃場管理作業のための制御処理について説明する。
田植え後における水田除草作業や米糠ペレット散布作業は、移植機の走行跡を走るのが基本である。これは、条が合うこと、土の移動の稲列への影響が少ないこと、車輪が車輪跡の溝に填り操舵し易いこと等の理由によるものである。しかし、圃場に植えた苗列は等間隔なので、往復行程走行時の機体回行後どこに前輪を進入したらよいか迷って移植機の走行跡から外れる場合がある。
【0024】
そこで、図8の斜視図に示すように、ディスプレイ9cを運転台に設けて田植え時の車輪跡を画面に表示するように構成する。
この車輪跡表示処理の詳細な手順は、図9のフローチャートに示すように、直進制御を行うGPSを備えた多目的移植機において、田植え時に「田植えボタン」を押すと、番号で特定(S31a)した圃場別に走行した車輪跡を記憶(S32a)する。田植え後の除草作業や米糠ペレット散布、溝切り作業時には「除草(管理)ボタン」を押すと、番号で特定(S31b)した圃場別に田植え時の車輪跡を画面に表示(S32b)する。この車輪跡の表示処理(S32b)では、図10の作業時の画面表示例のように、作業と連動して自己位置と前輪(図例では、第4行程)を表示する。
【0025】
このように、管理作業時は除草ボタンを押すと田植え時に記憶した車輪跡が画面に表示されるので、オペレータは回行時に前輪をその表示位置Pに合わせるように回行操舵することができる。また、回行時の車輪による踏み荒らしを少なくするために、6条飛ばしや8条飛ばしで回行する場合も、画面から一目で判るのでので、素早くその場所(位置)Pに移動することができる。
【0026】
また、このような水田除草作業においては、機体の走行による踏み荒らしの多少が収量に影響することから、この踏み荒らしを減らすために6条飛ばしや8条飛ばしで大きく回行する場合があり、その結果、走行経路が交錯し、どこが済んでどこが残っているかオペレータが判らなる事態を招くことがある。
【0027】
そこで、上述の車輪跡表示処理に際し、除草作業の済んだ行程の車輪跡を順次消去するように構成する。詳細には、図11のフローチャートに示すように、田植え時に「田植えボタン」により車輪跡を記憶(S32a)し、田植え後の除草作業時等には「除草ボタン」により番号で特定(S31b)した圃場別に田植え時の車輪跡を画面に表示(S32b)した後、1行程単位で車輪跡を消去(S33,S34)する。
【0028】
上記車輪跡の消去処理(S34)により、図12の作業時の画面表示例のように、作業の済んだ車輪跡表示から順次消去(図例では、第1行程から第7行程までの奇数行程を消去)し、残った作業行程(第6行程から第2行程までの偶数行程)の車輪跡が常に表示されるので、画面が見やすく判りやすいことから迅速に進入位置Pを判断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】移植機の斜視図である。
【図2】制御部の入出力系統図である。
【図3】フローチャートである。
【図4】圃場の一例を示す平面図である。
【図5】苗補給制御処理のフローチャートである。
【図6】携帯端末による苗補給位置の表示例である。
【図7】苗補給位置についてのフローチャートである。
【図8】多目的移植機の斜視図である。
【図9】車輪跡表示処理のフローチャートである。
【図10】作業時の画面表示例である。
【図11】車輪跡表示消去処理のフローチャートである。
【図12】作業時の消去による画面表示例である。
【符号の説明】
【0030】
1 移植機
2 前輪
3 後輪
7 植付部
8 コントローラ(制御部)
9a デファレンシャルGPS装置
9b 姿勢計測装置
13m ロングマット苗
B 圃場幅
D 隣接行程間距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅(B)をその一側端から所定の植付け条間寸法で且つ所定の植付け条数で複数条植え走行する複数条植え移植機において、
上記圃場幅(B)を認識する認識手段と、該認識手段で認識する圃場幅(B)を往復植付け行程の行程間ピッチ(D)を前記所定の植付け条間寸法として等間隔に往復植付けするものとした場合に生じる植付け条数に満たない未植付け部分の幅に基づいて、前記圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできるように往復植付け行程の行程間ピッチ(D)を演算する演算手段とを設けた複数条植え移植機。
【請求項2】
往復植付け行程による植付け範囲の圃場幅(B)をその一側端から所定の植付け条間寸法で且つ所定の植付け条数で複数条植え走行する複数条植え移植機による植付方法において、
上記圃場幅(B)全体を植付け条数の整数倍の条数で植付けできる往復植付け行程の行程間ピッチ(D)で往復植付けする複数条植え移植機による植付方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2007−209271(P2007−209271A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−33643(P2006−33643)
【出願日】平成18年2月10日(2006.2.10)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】