説明

複素環化合物の結晶

本発明の主目的は、2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸の新規な特定の結晶を提供することにある。本発明として、例えば、粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも12.4度、17.1度、20.8度の回折角にピークを示す、2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸の結晶、及び、該結晶を有効成分として含有する冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬を挙げることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸(以下、化合物Aという)の結晶に関する。
【化1】

【背景技術】
【0002】
化合物Aは、血中トリグリセリド低下作用、及び低比重リポ蛋白質コレステロール(以下、LDL−Cという)低下作用を有し、さらに血糖低下作用、血中インスリン低下作用、又は高比重リポ蛋白質コレステロール(以下、HDL−Cという)増加作用若しくは動脈硬化指数〔非高比重リポ蛋白質コレステロールとHDL−Cの比であり、(総コレステロール値−HDL−C値)/HDL−C値で算出する。〕低下作用を有している。従って、冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬として有用である。このことは、特許文献1に記載されている。
しかし、特許文献1には、化合物Aが上記各疾患に対する治療薬等として有用であることが記載されているものの、結晶多形の存在の有無などについては記載も示唆もされていない。
医薬に結晶多形が存在する場合、結晶形の相違は、一般に当該医薬の有効性、安定性等に影響を与えるものであるから、かかる場合にはできる限り特定の結晶形のものを提供すべきである。
【0003】
化合物Aは、下記の方法により製造することができる(例えば、特許文献1参照。)。
【化2】

化合物Aは、合成中間体である化合物1をカラムクロマトグラフィーにより精製した後、加水分解することによって、高純度のものが製造されていた。しかしながら、工業スケールでの大量合成においてカラムクロマトグラフィーによる精製方法を用いることは、相当量のシリカゲル、溶媒を使用せざるを得なく、製造原価が高騰するとともに、使用済溶媒が環境に悪影響を与えることになる。更に、操作工程の煩雑性、困難性の点からも、化合物Aの別途合成法が切望されていた。
【特許文献1】国際公開第01/90087号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の主目的は、化合物Aの特定の新規結晶を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、化合物Aには、複数の結晶形が存在すること、及びこれら結晶が個々に製造しうることなどを見出し、本発明を完成した。
本発明としては、下記のものを挙げることができる。
(1)粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも4.9度、13.7度、19.7度の回折角にピークを示す、化合物Aの結晶、
(2)さらに15.5度、18.6度、21.0度の回折角にピークを示す、(1)記載の結晶、
(3)粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも12.4度、17.1度、20.8度の回折角にピークを示す、化合物Aの結晶、
(4)さらに13.3度、22.2度、25.9度の回折角にピークを示す、(3)記載の結晶、
(5)(1)又は(2)記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物、
(6)(3)又は(4)記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物、
(7)(1)又は(2)記載の結晶を有効成分として含有する、冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬、
(8)(3)又は(4)記載の結晶を有効成分として含有する、冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬、
(9)次の工程を有することを特徴とする(3)又は(4)記載の結晶の製造方法。
(i)2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸から(1)又は(2)記載の結晶を製造する工程、
(ii)上記(i)で得られた結晶から(3)又は(4)記載の結晶を製造する工程。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】化合物AのI型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを表す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を示す。
【図2】化合物AのII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを表す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を示す。
【図3】25℃、93%RH条件下における化合物AのI型結晶の経時的重量変化を表す。縦軸は重量変化(%)を、横軸は保管期間(日数)を示す。
【図4】25℃、93%RH条件下における化合物AのII型結晶の経時的重量変化を表す。縦軸は重量変化(%)を、横軸は保管期間(日数)を示す。
【図5】25℃、93%RH条件下、14日間放置前後におけるI型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートの変化を表す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を示す。上方のスペクトルは保管前、下方のスペクトルは保管後の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
【図6】25℃、93%RH条件下、14日間放置前後におけるII型結晶の粉末X線回折スペクトルチャートの変化を表す。縦軸はピーク強度(cps)を、横軸は回折角(2θ[°])を示す。上方のスペクトルは保管前、下方のスペクトルは保管後の粉末X線回折スペクトルチャートを示す。
【図7】化合物AのI型結晶の示差走査熱量測定結果を示す。縦軸は熱流、横軸は温度を示す。グラフは、上から順に、昇温速度5、2、1度/分のときのチャートである。
【図8】化合物AのII型結晶の示差走査熱量測定結果を示す。縦軸は熱流、横軸は温度を示す。グラフは、上から順に、昇温速度5、7、10度/分のときのチャートである。
【図9】化合物AのII型結晶の示差走査熱量測定結果を示す。縦軸は熱流、横軸は温度を示す。グラフは、上から順に、昇温速度5、1度/分のときのチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
化合物AのI型結晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、4.9度、13.7度、15.5度、18.6度、19.7度、21.0度の回折角にピークを示すことを特徴とする。該ピークのうち、4.9度、13.7度、19.7度のピークがことさら特徴的である。
化合物AのI型結晶は、後記の試験例に示す通り、医薬原末として有用であるII型結晶の製造における重要な製造中間体である。
【0008】
化合物AのII型結晶は、粉末X線回折スペクトルにおいて、12.4度、13.3度、17.1度、20.8度、22.2度、25.9度の回折角にピークを示すことを特徴とする。該ピークのうち、12.4度、17.1度、20.8度のピークがことさら特徴的である。
II型結晶は、後記の試験例に示す通り、高湿度条件下において安定であり、また、再結晶溶媒中においても安定で、工業スケールにおける大量合成が容易である。
【0009】
I型結晶の製造
I型結晶は、例えば、次のようにして得ることができる。
(1)溶解工程
化合物Aを有機溶媒に加熱して溶解させる。該有機溶媒の種類は、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、トルエンが特に好ましい。該有機溶媒の使用量は化合物Aに対して5〜30倍(w/w)が好ましく、10〜20倍(w/w)がさらに好ましく、12〜15倍(w/w)が特に好ましい。加熱温度は、有機溶媒の種類及び使用量によって異なるが、通常、60〜90℃が好ましく、70〜80℃が特に好ましい。また、本工程を窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
用いられる化合物Aは、例えば、特許文献1に記載された方法により製造することができ、あらかじめ活性炭処理しておくのが好ましい。また、化合物Aは、いかなる結晶形又は非晶質でもよい。
不溶物を除去するために該溶液をろ過してもよい。ろ過中の結晶析出を防ぐために、ろ過は加圧下で、加温装置付きロートを用いて実施するのが好ましい。ろ過液に結晶析出が見られる場合には、ろ過後に再加熱して再溶解する。
【0010】
(2)冷却工程
該溶液を急速に冷却して結晶を析出させる。この工程には、析出物を溶解するための加温機能及び冷却するための撹拌機能付き晶析装置を使用することが好ましく、窒素、アルゴンなどの不活性ガス気流下に行うことが好ましい。
冷却温度は0〜20℃が好ましい。冷却温度に到達後の晶出時間は0.5〜5時間が好ましい。また、I型結晶を種晶として添加するのが好ましい。該種晶の添加量は、用いられる化合物Aに対して3〜5重量%が好ましい。冷却速度は、20〜40℃/分が好ましい。
【0011】
(3)結晶採取、乾燥工程
析出結晶をろ過、遠心分離など公知の手段によって採取し、乾燥させる。該乾燥は、減圧又は乾燥剤により行うことができ、特に減圧下に行うのが好ましく、例えば、50〜70℃で、10mmHg以下で6〜24時間行うことができる。
【0012】
II型結晶の製造
II型結晶は、例えば、次のようにして得ることができる。
(1)溶解工程
化合物Aを有機溶媒に加熱して溶解させる。該有機溶媒の種類は、メタノール、エタノール、2−プロパノールなどのアルコール系溶媒、酢酸エチル、酢酸イソプロピルなどのカルボン酸エステル系溶媒、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒、トルエンなどの芳香族炭化水素系溶媒が好ましく、酢酸イソプロピルが特に好ましい。その他の操作は、I型結晶と同様に行うことができる。
【0013】
(2)冷却工程
該溶液を徐々に冷却して結晶を析出させる。冷却温度は0〜20℃が好ましく、5〜10℃が特に好ましい。冷却温度に到達後の晶出時間は0.5〜5時間が好ましく、2〜3時間が特に好ましい。また、溶液が60℃に冷却された時に、II型結晶を種晶として添加するのが好ましい。該種晶の添加量は、用いられる化合物Aに対して3〜5重量%が好ましい。冷却速度は、種晶を添加する場合には、0.5〜5℃/分が好ましく、種晶を添加しない場合には、0.5〜1℃/分が好ましい。その他の操作は、I型結晶と同様に行うことができる。
【0014】
(3)結晶採取、乾燥工程
I型結晶と同様の工程により行うことができる。
【0015】
II型結晶の工業的製造
医薬原末として有用な高純度のII型結晶は、以下の工業的製造方法により合成することができる。
【化3】

化合物1は、特許文献1に記載の方法と同様に製造することができる。かかる化合物1はカラムクロマトグラフィーで精製することなく、そのまま加水分解(例えば、特許文献1参照。)を行い、化合物Aを製造する。得られた化合物Aを用いて、まず化合物AのI型結晶を製造(結晶化)し、かかるI型結晶を用いて再結晶することにより、高純度のII型結晶を製造することができる。なお、I型結晶及びII型結晶の製造方法は、上述の通りである。
本製造方法は、従来の製造方法と比べ、カラムクロマトグラフィーによる精製工程が不要であり、工業スケールでの大量合成法として非常に有用である。また、化合物AのI型結晶は、化合物AのII型結晶の製造において、重要な製造中間体である。
【実施例】
【0016】
以下に、本発明結晶にかかる参考例、実施例、及び試験例を掲げて本発明を更に詳しく説明する。
粉末X線回折スペクトルは、理学電機(株)のRAD−2B(ターゲット:Cu、電圧:40kV、電流:20mA、スキャンスピード:4度/分、測定誤差:2θ±0.2度)により測定した。
実施例1及び実施例2における示差走査熱量測定は、パーキンエルマー社のDSC7(昇温速度:10℃/分、測定範囲:50℃(定温1分)→180℃)により測定した。
試験例4における示差走査熱量測定は、島津製作所(株)のDSC−50(昇温速度:2℃/分、測定範囲:室温→220℃)により測定した。
試験例5における示差走査熱量測定は、パーキンエルマー社のDSC7(昇温速度が1℃/分の時の測定範囲は130℃→160℃、昇温速度が2、5、7、10℃/分の時は、測定範囲は120℃→170℃)により測定した。
試験例6における化合物Aの純度は、以下の方法により測定した。
装置 :Agilent 1100 Series(Agilent社)
カラム :Cadenza CD−C18 250×4.6mm(インタクト株式会社)
カラム温度:40℃
移動層 :アセトニトリル/水/メタンスルホン酸=550/450/1
流速 :0.7mL/分
検出器 :UV検出器
測定波長 :240nm
【0017】
参考例1 化合物Aの製造(1)
特許文献1記載の方法に準じて化合物1(化合物Aのメチルエステル体)を合成し、次いでかかる化合物1 250mgをメタノール2.5mlに溶解し、水酸化ナトリウム51mg/水0.6mlの溶液を加えて、1時間還流した。反応液を冷却し氷水に注ぎ、希塩酸で酸性とし、酢酸エチルで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥、濃縮した。残留物にジエチルエーテルを加え、析出物を濾取して化合物Aを231mg得た。
H−NMR(δ:CDCl
1.00〜1.12(2H,m)1.26〜1.46(2H,m)1.57〜1.77(2H,m)1.57(3H,s)2.04(1H,m)2.31(3H,s)2.37(3H,s)2.52(2H,t)3.50(2H,t)3.98(2H,dd)7.23(2H,d)7.85(2H,d)9.38(1H,br)
【0018】
参考例2 化合物Aの製造(2)
工程1 c−5−[5−アセチル−5−(p−トルオイルアミノ)ペンチル]−2−メチル−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸の製造
特許文献1記載の合成方法に準じて合成したc−5−(4−ヨードブチル)−2−メチル−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸メチル64.0gと1−(p−トルオイルアミノ)−2−プロパノン34.4gをN,N−ジメチルホルムアミド192mLに溶解し、85%水酸化カリウム13.6gを加え、3時間室温で攪拌した。その後、反応液に水385mLを加え、トルエン385mLで有機層を抽出した。この有機層を1%塩酸水溶液137mL、水128mLで順に洗浄し、無水硫酸マグネシウムで乾燥して目的化合物のトルエン溶液を得た。
工程2 化合物1の製造
工程1で得られたc−5−[5−アセチル−5−(p−トルオイルアミノ)ペンチル]−2−メチル−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸のトルエン溶液に、オキサリルクロリド28.6gを加え、50℃で3時間反応した。反応後、水11.8g及び15%水酸化カリウム水溶液210gを順に加え有機層を洗浄後、再度水76mLで有機層を洗浄し、粗化合物1のトルエン溶液を得た。
工程3 化合物Aの製造
工程2で得られた化合物1のトルエン溶液に,水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム15.0g、水72.6gで調製)、メタノール36mLを加え50℃で攪拌した。反応後、濃塩酸で中和し、酢酸エチル363mLで抽出、有機層を水145mLで洗浄した。有機層を減圧濃縮した後、トルエン145mLを加え再度濃縮し、粗化合物Aを得た。
【0019】
実施例1 化合物AのI型結晶の製造
参考例1の製法で得られた化合物A(0.5g)にトルエン(6ml)を加えて攪拌下、90℃のオイルバスで過熱溶解した。均一になったことを目視確認して5分間保持した後、熱時加圧ろ過を行った。ろ過後、直ちに氷浴にて氷冷攪拌を行い、そのまま10分間攪拌した。析出した結晶をろ取し、トルエン(1ml)で洗浄し、60℃で減圧乾燥(5mmHg)して目的物(460mg)を得た。
融点154−157℃
かかる結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを図1に示す。I型結晶は、4.9度、13.7度、15.5度、18.6度、19.7度、21.0度の回折角にピークを示すことが明らかである。該ピークのうち、4.9度、13.7度、19.7度のピークがことさら特徴的である。
かかる結晶を示差走査熱量測定した結果、154〜156℃で吸熱が始まり、159〜160℃に吸熱ピークを示した。
【0020】
実施例2 化合物AのII型結晶の製造(1)
参考例1の製法で得られた化合物A(1.0g)にトルエン(12ml)を加えて攪拌下、90℃のオイルバスで加熱溶解した。均一になったことを目視確認して5分間保持した後、熱時加圧ろ過を行った。濾過後徐冷し25℃まで冷却して2時間保持した。析出した結晶をろ取し、トルエン(2ml)で洗浄し、60℃で減圧乾燥(5mmHg)して目的物(890mg)を得た。
融点150−153℃
かかる結晶の粉末X線回折スペクトルチャートを図2に示す。II型結晶は、12.4度、13.3度、17.1度、20.8度、22.2度、25.9度の回折角にピークを示すことが明らかである。該ピークのうち、12.4度、17.1度、20.8度のピークがことさら特徴的である。
かかる結晶を示差走査熱量測定した結果、149〜150℃で吸熱が始まり、153〜154℃に吸熱ピークを示した。
【0021】
実施例3 化合物AのII型結晶の製造(2)
参考例1の製法で得られた化合物Aの粗製物(10.0g)に酢酸イソプロピル(150ml)を加えて攪拌下、内温80〜90度で加熱溶解した。均一になったことを目視確認して30分間保持した後、熱時加圧ろ過を行った。ろ過後0.5度/分で10℃まで冷却して0.5時間保持した。析出した結晶をろ取し、酢酸イソプロピル(5ml)で洗浄し、60℃で減圧乾燥(5mmHg)して目的物(8.5g)を得た。
融点150−153℃
かかる結晶の粉末X線回折スペクトルは、実施例2と一致した。
【0022】
実施例4 化合物AのII型結晶の製造(3)
参考例2で得られた粗化合物Aにトルエン145mlを添加後加熱溶解し,冷却撹拌下、I型の種晶0.7gを添加し室温まで冷却した。該懸濁液をろ過後,結晶を50℃で減圧乾燥してI型の化合物Aを24.2g得た。かかる化合物のI型結晶に酢酸イソプロピル360mLを添加し、80℃で加熱溶解後、0.5−1.0℃/分の速度で室温まで撹拌下冷却し,懸濁液をろ過した。結晶を減圧下50℃で乾燥し,化合物AのII型結晶を19.8g得た。
【0023】
試験例1 吸湿性に関する検討
化合物AのI型結晶及びII型結晶それぞれ約1gを秤量びんに精密に量り,25℃93%RHのデシケーター中に保管し,3日,7日及び14日後の重量変化を測定することにより吸湿量を測定した。また、保管前後の粉末X線回折スペクトルを測定した。その結果を図3(I型結晶の重量変化)、図4(II型結晶の重量変化)、図5(I型結晶の粉末X線回折スペクトル)、図6(II型結晶の粉末X線回折スペクトル)に示す。
I型結晶は、図3に示す通り、吸湿に起因する約2.3%の重量増加が認められた。また、図5に示す通り、結晶形の転移(I型→II型)が認められた。
一方、II型結晶は、図4に示す通り、吸湿に起因する重量増加が認められなかった。また、図6に示す通り、結晶形の転移(II型→I型)も認められなかった。
以上の結果より、I型結晶と比較して高湿度条件下において非常に安定であり、結晶形の転移も生じないII型結晶は、医薬原末として有用であることが示唆された。
【0024】
試験例2 化合物Aの再結晶に用いる溶媒についての検討
化合物Aの所定量を精密に量り、種々の溶媒を所定量加え、加熱(80〜90℃)溶解した。その後該溶液を冷却し、析出した結晶の粉末X線回折スペクトルを測定して、析出晶の結晶形を調べた。その結果を表1に示す。
【表1】

表1に示す通り、II型結晶は、トルエンの他、種々の溶媒で再結晶することができ、容易に製造し得るが、I型結晶は、トルエン溶媒で再結晶する場合のみ製造することができる。
また、トルエンを用いた再結晶では、I型結晶のみならずII型結晶も得られたことから、トルエンを用いた再結晶についてさらに検討を行った。その結果を次の試験例3、4で述べる。
【0025】
試験例3 冷却工程についての検討
化合物Aをトルエンで再結晶する場合における、冷却工程が結晶形に及ぼす影響を検討した。
化合物Aの所定量を精密に量り、トルエンを所定量加え、加熱(80〜90℃)溶解した。その後、種々の速度で室温まで冷却し、析出した結晶の粉末X線回折スペクトルを測定し、析出晶の結晶形を調べた。その結果を表2に示す。
【表2】

表2に示す通り、I型結晶を製造するためには、溶液を急速に冷却(20〜40℃/分)して晶析する必要があるが、II型結晶を製造するためには、溶液を除々に冷却(0.5〜5℃/分)晶析すれば製造することができ、大量合成も容易である。
【0026】
試験例4 溶媒媒介転移についての検討
トルエン(溶媒)が化合物Aの結晶形に及ぼす影響を検討した。
化合物AのI型及びII型結晶を50mg量り、それぞれトルエン1ml中に懸濁させて終夜攪拌した。その後、結晶を濾別して乾燥し、示差走査熱量測定により結晶形の確認を行った。その結果、II型結晶は終夜攪拌後も結晶形の転移は生じず、攪拌前の結晶形を維持したが、I型結晶はII型結晶に転移することが明らかとなった。
以上の結果より、I型結晶と比較して再結晶溶媒中で安定なII型結晶は、医薬原末として有用であることが示唆された。
【0027】
試験例5 熱力学的安定性についての検討
示差走査熱量測定による化合物Aの結晶の熱力学的安定性を検討した。
化合物AのI型結晶を昇温速度1、2、5度/分、II型結晶を昇温速度1、5、7、10度/分で示差走査熱量測定を行った。その結果を図7(I型結晶の示差走査熱量測定チャート)、図8及び図9(II型結晶の示差走査熱量測定チャート)に示す。
図7に示す通り、I型結晶は昇温速度に関係なく、ただ一つの吸熱ピークのみを与えた。一方、図8、図9に示す通り、II型結晶は昇温速度が10度/分のときにはI型結晶のピークを確認できないが、7、5度/分と昇温速度が緩やかになるとI型結晶に由来するピークが認められ、その面積も大きくなり、1度/分の場合ではこの結果はさらに顕著なものとなった。
【0028】
試験例6 粗化合物Aの精製方法についての検討
上述の通り、従来は、化合物Aの製造過程において、カラムクロマトグラフィーによる精製が必須であった。かかる工程を工業的生産工程から排除すべく、結晶化及び再結晶による精製方法について検討した。
まず、カラムクロマトグラフィーによる精製を行っていない粗化合物Aを用いた、化合物AのII型結晶の結晶化及び再結晶を検討した。具体的には、粗化合物Aに対して5倍容量(w/w)のトルエンを加え、加熱溶解した後、0.5−1.0℃/分の速度で室温まで撹拌下冷却し,懸濁液をろ取した。得られた結晶を減圧下50℃で乾燥し,化合物AのII型結晶を得た(結晶化)。得られた化合物AのII型結晶に、再度15倍容量(w/w)の酢酸イソプロピルを加え、加熱溶解した後、0.5−1.0℃/分の速度で室温まで撹拌下冷却し,懸濁液をろ取した。結晶を減圧下50℃で乾燥し,化合物AのII型結晶を得た(再結晶)。その結果を表3に示す。
【表3】

表3に示す通り、II型結晶の結晶化及び再結晶では、不純物の除去効果が低く、計2回の結晶化・再結晶によっては、医薬原末として望ましい純度99%以上のものを得ることができなかった。
そこで、本発明者らは、最初の結晶化でII型結晶を得るのではなく、I型結晶を得ることによって精製効率を高めることができないかと考え、かかる検討を行った。具体的には、粗化合物Aに5倍容量(w/w)のトルエンを加え、加熱溶解した後、種晶を加え、氷冷攪拌下、急速に冷却し,懸濁液をろ取した。得られた結晶を減圧下50℃で乾燥し、化合物AのI型結晶を得た(結晶化)。得られた化合物AのI型結晶に、再度15倍容量(w/w)の酢酸イソプロピルを加え、加熱溶解した後、0.5−1.0℃/分の速度で室温まで撹拌下冷却し,懸濁液をろ取した。結晶を減圧下50℃で乾燥し,化合物AのII型結晶を得た(再結晶)。その結果を表4に示す。
【表4】

表4に示す通り、最初にI型結晶で結晶化させることにより、精製効率が飛躍的に向上することを見出した。かかる結晶を再度II型結晶で再結晶することにより、純度99%以上のII型結晶を製造することができた。
これらの結果より、大量合成に不適なカラムクロマトグラフィーによる精製を行うことなく、結晶化・再結晶により純度99%以上の粗化合物AのII型結晶を製造する方法を確立することができた。従って、化合物AのI型結晶は、医薬原末として有用なII型結晶の重要な製造中間体であることは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0029】
化合物AのII型結晶は、高湿度条件下においても安定であり、また、再結晶溶媒中においても安定で、工業スケールにおける製造が容易である。
一方、化合物AのI型結晶は、医薬原末として有用なII型結晶を製造する上で重要な製造中間体である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも4.9度、13.7度、19.7度の回折角にピークを示す、2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸の結晶。
【請求項2】
さらに15.5度、18.6度、21.0度の回折角にピークを示す、請求項1記載の結晶。
【請求項3】
粉末X線回折スペクトルにおいて、少なくとも12.4度、17.1度、20.8度の回折角にピークを示す、2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸の結晶。
【請求項4】
さらに13.3度、22.2度、25.9度の回折角にピークを示す、請求項3記載の結晶。
【請求項5】
請求項1又は2記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項3又は4記載の結晶を有効成分として含有する医薬組成物。
【請求項7】
請求項1又は2記載の結晶を有効成分として含有する、冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬。
【請求項8】
請求項3又は4記載の結晶を有効成分として含有する、冠動脈疾患、脳梗塞、高脂血症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧、若しくは肥満に対する予防薬又は治療薬。
【請求項9】
次の工程を有することを特徴とする、請求項3又は4記載の結晶の製造方法。
(i)粗2−メチル−c−5−{4−[5−メチル−2−(4−メチルフェニル)−1,3−オキサゾール−4−イル]ブチル}−1,3−ジオキサン−r−2−カルボン酸から請求項1又は2記載の結晶を製造する工程、
(ii)上記(i)で得られた結晶から請求項3又は4記載の結晶を製造する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【国際公開番号】WO2005/026160
【国際公開日】平成17年3月24日(2005.3.24)
【発行日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−513906(P2005−513906)
【国際出願番号】PCT/JP2004/013209
【国際出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(000004156)日本新薬株式会社 (46)
【Fターム(参考)】