説明

複素環式化合物及びその用途

【課題】溶剤溶解性に優れた短波長領域に吸収特性を有する化合物、並びに化合物と樹脂から成る熱的安定性や耐水性に優れたインク組成物、およびそれを用いた光学フィルター及び光記録媒体を提供する。
【解決手段】化合物(1)


(式中、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を表す。)は、有機溶剤に可溶で、インク組成物とする事で安定性に優れた薄膜を形成加工しやすく、光学フィルターや光記録媒体等の短波長領域光吸収材料として高い性能を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外〜青の短波長領域に吸収特性を有する複素環式化合物に関する。より詳しくは、種々の溶剤に溶解する組成物や組成物に樹脂を混合したインク組成物、組成物を用いて作製した薄膜、これらを用いて作製した光学フィルターや光記録媒体に利用可能な複素環式化合物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
短波長の可視光を吸収する有機色素類は、繊維、樹脂の着・染色、インク用着色剤、フィルター用材等の広範囲の分野で多用されている。最近のエレクトロニクスの急速な進歩により、新しく見出された機能が実用化され、例えば、表示、情報記録などの材料として有機色素類の需要が増加している。
【0003】
現在、情報記録媒体は記録・再生が非接触で行われることや、ランダムアクセスが容易である点、メディアの単価が低コストであることなどからコンピューターのようなデータ処理装置における外部記録装置として近年、急速に普及している。
【0004】
近年になって扱うデータがそれまで文字データや静止画データのような比較的データ量の小さなものから映画のようなデータ量の多い動画データを記録するようになり、DVD−Rをもってしても記録容量が小さく、さらに大容量のデータを記録する要求が高まってきている。そこで青色レーザー等の短波長レーザーを用いた高速高密度の記録再生可能な光学記録媒体が提唱され、関連各社において研究開発がなされている。
【0005】
短波長レーザーを用いた高速高密度の記録媒体用色素としては特許文献1に記載のシアニン系などの色素が用いられているが、短波長レーザーは高エネルギーのため、照射時の色素の安定性が課題となる。
【0006】
下記式(2)は吸収波長が紫外〜青の短波長領域を吸収するという特徴を持っている。しかし、下記式(2)は溶剤からなる組成物やスピンコート法などの簡便な方法を用いた薄膜の形成など、加工性に難があった。
【化1】

【0007】
【特許文献1】WO2005/083011号公報
【非特許文献1】J.Am.Chem.Soc.,2006,128,12604−12605
【非特許文献2】Zh.Org.Khim.,1980,16,430−438
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は前述のような状況に鑑みてなされたものであり、各種有機溶剤に対する溶解性に優れており、かつ基板上に塗布して乾燥させた後も結晶化しにくい上、熱的安定性や耐水性に優れた特性を持つ複素環式化合物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは紫外〜青の短波長領域に吸収特性を有する下記式(1)に示す複素環式化合物に注目し、鋭意研究の結果、特定の構造を有する下記式(1)に示す複素環式化合物が、前記課題を解決しうるものであることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち本発明は、以下の構成を有する。
(1)下記一般式(1)で示される複素環式化合物。
【化2】

(式中、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を表す。R〜Rは水素原子もしくは各々独立に脂肪族炭化水素基を表すが、R〜Rの全てが水素原子である場合を除く。RとR、及び(又は)RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。)
(2)上記式(1)においてR〜Rが各々独立にアルキル基であることを特徴とする(1)に記載の複素環式化合物。
(3)上記式(1)においてX及びXが硫黄原子であることを特徴とする(1)乃至(2)に記載の複素環式化合物。
(4)上記式(1)においてR〜Rが各々独立にアルコキシ基を有していることを特徴とする(1)乃至(3)に記載の複素環式化合物。
(5)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の複素環式化合物及び溶剤を含有することを特徴とする組成物。
(6)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の複素環式化合物、溶剤及び樹脂を含有することを特徴とするインク組成物。
(7)(1)乃至(4)のいずれか一項に記載の複素環式化合物または(5)乃至(6)に記載の組成物からなる薄膜。
(8)(7)に記載の薄膜を用いた光学フィルター。
(9)(7)に記載の薄膜を用いた光記録媒体。
【発明の効果】
【0010】
本発明の複素環式化合物は、紫外〜青の短波長領域の範囲に吸収能を有し、さらに吸収波形の半値幅が狭いという特徴を持つ。そのため選択的に光を吸収するインク組成物や光学フィルターとして利用可能な色素である。
【0011】
特に、本発明の複素環式化合物は、405nm付近の波長領域に吸収領域を持つため、405nm付近の波長を持つ青色レーザーの波長に対応する吸収スペクトルを有しており、青色レーザーを用いた光記録媒体の記録層に用いる色素に適している。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の複素環式化合物は、下記式(1)で表される。
【化3】

【0013】
以下、順を追って上記式(1)について説明するが、その中で好ましい基等を記載した場合、該好ましい基同士を組み合わせたものはより好ましく、より好ましい基等を組合わせたものは更に好ましい複素環式化合物である。
【0014】
上記式(1)において、XおよびXはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子、好ましくは硫黄原子である。R〜Rは水素原子または脂肪族炭化水素基を表すが、R〜Rの全てが水素原子である場合を除く。尚、RとR、及び(又は)RとRは、互いに結合してそれぞれ独立に環を形成してもよい。
【0015】
〜Rが脂肪族炭化水素基である場合は、置換基を有していてもよく、その具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル及びペンチル等の直鎖のC1−C20のアルキル基、好ましくはC1−C6のアルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、tert−ペンチル及び1−メチルペンチル等の分岐鎖のC1−C20のアルキル基、好ましくはC1−C6アルキル基;イソプロペニル、1−プロペニル、2−プロペニル、2-プロピニル、2-ブテニル、1,3−ブタジエニル、及び2−ペンテンー4−イニル等の不飽和のC1−C20のアルキル基、好ましくはC1−C6のアルキル基;シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘキセニル等の飽和又は不飽和の環状C3−C20のアルキル基、好ましくはC3−C6アルキル基等が挙げられる。なかでも、R〜Rが飽和アルキル基であることが好ましく、より好ましくは直鎖のアルキル基である。
【0016】
前記脂肪族炭化水素基が置換基を有する場合、その具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基等のC1−C20のアルコキシ基、好ましくはC1−C6のアルコキシ基;アセトキシ等の脂肪族C2−C20のアシル基、好ましくはC2−C6のアシル基、メチルアミノ、エチルアミノ、プロピルアミノ、ブチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジプロピルアミノ、ジブチルアミノ等のモノ又はジC1−C20のアルキル鎖を持っていても良いアミノ基、好ましくはC1−C12の直鎖または分岐したアルキル鎖をもっていてもよいアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、n−プロピルスルホニルアミノ基等のC1−C20のアルキルスルホニルアミノ基、好ましくはC1−C6のアルキルスルホニルアミノ基;メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基等のC2−C20のアルキルカルボニル基、好ましくはC2−C6のアルキルカルボニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n−プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基等のC2−C20のアルコキシカルボニル基、好ましくはC2−C6のアルコキシカルボニル基;メトキシカルボニルオキシ基、エトキシカルボニルオキシ基、n−プロポキシカルボニルオキシ基、イソプロポキシカルボニルオキシ基、n−ブトキシカルボニルオキシ基等のC2−C20のアルコキシカルボニルオキシ基、好ましくはC2−C6のアルコキシカルボニルオキシ基;ヒドロキシ基、シアノ基及びニトロ基、ハロゲノ基さらにはこれらの組み合わせによる置換基が挙げられる。なかでも、R〜Rがアルコキシ基を持つ脂肪族炭化水素基が好ましい。アルコキシ基を持つ化合物は種々の溶媒に対する溶解性に優れており、かつ基板上に塗布して乾燥させた後も、結晶化しにくいという優れた特性を持つため、基板上に容易に記録層を形成させることが出来る。
尚、これらの置換基の結合位置は特に限定されず、置換基の数も無置換から複数個まで可能である。複数の置換基を有する場合、同種でも異なっていても良い。
【0017】
上記式(1)で表される複素環式化合物の具体例を化合物番号(3)乃至(50)、及び式(51)乃至式(67)として以下の表1及び表2にそれぞれ挙げるが、本発明はこれらに限定されない。以下の表に記載のR〜Rに関し、n−は「normal」の略で直鎖であること、またi−は「iso―」の略で分岐鎖であることをそれぞれ表し、cycは環状を意味する。また、メチル基をMe、エチル基をEt、プロピル基をPr、ブチル基をBu、ペンチル基をPn、ヘキシル基をHeとそれぞれ略記する。
【0018】
表1 本発明の複素環式化合物の具体例その1
化合物
番 号 X
3 S S Me H H H
4 S S Me Me H H
5 S S Me H Me H
6 S S Me Me Me H
7 O O Me Me Me Me
8 S S Me Me Me Me
9 Se Se Me Me Me Me
10 S S Et H H H
11 S S Et H Et H
12 S S Et Et Et H
13 S S Et Et Et Et
14 S S n−Pr n−Pr n−Pr n−Pr
15 S S i−Pr i−Pr i−Pr i−Pr
16 S S n−Bu n−Bu n−Bu n−Bu
17 S S i−Bu i−Bu i−Bu i−Bu
18 S S n−Bu n−Bu n−Bu n−Bu
19 S S i−Bu i−Bu i−Bu i−Bu
20 S S n−He n−He n−He n−He
20 S S i−He i−He i−He i−He
22 S S CHOMe CHOMe CHOMe CHOMe
23 S S COMe COMe COMe COMe
24 S S CHOEt CHOEt CHOEt CHOEt
25 S S COMe COMe COMe COMe
26 S S COEt COEt COEt COEt
27 S S CHOPr CHOPr CHOPr CHOPr
28 S S COH COH COH COH
29 S S COH COH COH COH
30 S S CHCN CHCN CHCN CHCN
31 S S CCN CCN CCN CCN
32 S S CCN CCN CCN CCN
33 S S CCN CCN CCN CCN
34 S S CHNO CHNO CHNO CHNO
35 S S CNONONONO
【0019】
表2 本発明の複素環式化合物の具体例その2
化合物
番 号 X
36 S S CNONONONO
37 S S CNONONONO
38 S S CHF H H H
39 S S CHF CHF H H
40 S S CHF H CHF H
41 S S CHF CHF CHF H
42 S S CHF CHF CHF CH
43 S S CHF CHF CHF CHF
44 S S CF CF CF CF
45 S S C
46 S S CCFCFCFCF
47 S S CCFCFCFCF
48 S S CCl CCl CCl CCl
49 S S CBr CBr CBr CBr
50 S S CI CI CI C
【0020】
その他の上記式(1)の定義を満足する具体的な複素環式化合物例を以下に列挙する。
【0021】
【化4】


【0022】
本発明の前記式(1)で表される複素環式化合物は公知の方法で製造することができる。
例えば、実験化学講座20(第4版 有機合成II)に記載の方法に準じて、下記式(A)で表される化合物と下記式(B)で表される化合物とで、下記式(1)の複素環式化合物が得られる。
【0023】
【化5】

(上記反応式において、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を表す。R〜Rは水素原子又は脂肪族炭化水素基を表す。R1−4は、R〜Rのいずれかを意味する。Yはハロゲン原子などの脱離基を表す。式(1)では、RとR、及び(又は)RとRは、互いに結合してそれぞれ独立に窒素原子と共に環を形成してもよい。)
上記式(1)の複素環式化合物は、非特許文献1、2などに記されている方法に準じてアミノ誘導体(A)(以下、化合物(A)と言う)を作成し、各々の誘導体を経由して容易に製造できる。つまり化合物(A)と脱離基を有する脂肪族炭化水素化合物(B)(以下、化合物(B)と言う)との反応を経ることにより、上記式(1)の複素環式化合物が得られる。
【0024】
化合物(B)の脱離基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子のハロゲノ基や置換基を有してもよいトシル基等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0025】
上記式(1)で表される複素環式化合物の合成は、化合物(A)及び化合物(B)をそれぞれ所定量加え、必要に応じて溶剤に溶解し、加熱及び攪拌しながら所定の温度で反応させればよい。
【0026】
上記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、オクタン、石油ベンジン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;四塩化炭素、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,2−ジブロモエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、α―ジクロロベンゼンなどのハロゲン化物;メタノール、エタノール、2,2,2−トリフルオロエタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、3−エトキシエタノール、フェノール、ベンジルアルコール、クレゾール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類及びフェノール類;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン、アニソール、1,2−ジメトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジシクロヘキシル−18−クラウン−6、メチルカルビトールなどのエーテル類;酢酸、無水酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸等の酢酸類;酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のエステル類;ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと省略)、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン(以下、NMPと省略)等のアミド類;ヘキサメチル燐酸トリアミド及び燐酸トリエチルなどのリン酸アミド及びリン酸エステル類;アセトニトリル、プロピオニトリル、スクシノニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;ジメチルスルホキシド、スルホランなどの含硫化合物、及び水などが挙げられ、必要に応じて、単独又は複数を組み合わせて用いる。溶剤は特に限定されないが、好ましくはDMFやNMPなどが挙げられる。
【0027】
通常、化合物(A)1モルに対し、化合物(B)を4〜16モル、好ましくは4〜10モル使用することで、上記式(1)で表される複素環式化合物は0.3〜0.95モル得られる。
【0028】
前記反応において、溶剤を用いる場合、一般に、溶剤を多量に用いると反応効率が低下し、少量だと均一に攪拌及び/又は加熱するのが困難な上に副反応伴う等の可能性があり、目的化合物の収率及び/又は純度が低下することがある。したがって、使用する溶剤量の目安は、化合物(A)及び化合物(B)の総量を1とした場合、重量比で通常100倍まで、好ましくは0.5〜50倍とするのがよい。
【0029】
反応温度は通常30〜200℃、好ましくは50〜140℃の範囲がよい。反応時間の目安はおおよそ24時間以内であり、好ましくは10〜60分で目的の化合物が生成するように溶剤及び反応温度を適宜調整するのがよい。
【0030】
反応の進行状況は、例えば、薄層クロマトグラフィー、ガスクロマトグラフィー、及び高速液体クロマトグラフィーなどの一般的な方法によってモニターすることができる。
【0031】
本発明の複素環式化合物は、短波長領域の400nm付近に主たる吸収波長を有し、吸収極大波長における分子吸光係数も5×10程度と大きいことから、短波長領域の可視光を効率良く吸収することが出来る。なお、「吸収極大波長における分子吸光係数」は、以下において「ε」と略記することがある。また、光情報記録媒体等を作成する際に汎用される、例えば、アミド系、アルコール系、ケトン系、ニトリル系及びハロゲン系等の溶剤に対して、本発明の複素環式化合物は実用上支障のない溶解性を有する。
【0032】
上記式(1)中の脂肪族炭化水素基R〜Rがアルキル基やアルコキシアルキル基である場合、種々の溶剤に溶解し、安定な薄膜を形成出来ることが判明した。特に脂肪族炭化水素基R〜Rがアルコキシアルキル基の場合、2,2,3,3−テトラフルオロ−1−プロパノール(以下、TFPと省略)に対する溶解性は極めて顕著であり、樹脂を併用してインク組成物とする事で基板上へも容易に塗布する事が可能となった。さらに基板上のインク組成物を乾燥させた後も結晶化しにくく加工性に優れた特徴があるため、極めて簡便に安定な薄膜を形成することも可能となった。
【0033】
上記のような特性を有する本発明の複素環式化合物は、紫外〜青領域を吸収することによって、これを遮断することができる。また該可視光のエネルギーを利用する光吸収材料としても極めて優れており、産業上の応用範囲も広い。例えば、情報記録、印刷、印刷回路及び太陽光発電を始め、電気機械器具、電気通信器具、工学器具、衣料、建寝装用品、保健用品及び農業資材等の多様な分野において使用することが可能であり、本発明の複素環式化合物は極めて有用である。特に、紫外〜青の短波長領域の光を選択的に吸収するインク組成物や光学フィルターとして有用である。
【0034】
上記インク組成物などの組成物の作成方法としては、本発明の複素環式化合物を各種溶剤あるいは各種の樹脂に含有させる方法等がある。
【0035】
本発明の複素環式化合物を含有した組成物について以下の通りに説明する。
組成物は各種溶剤に本発明の色素を含有させて提供する。各種溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系、蟻酸メチル、蟻酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどのエステル系、ジエチルエーテル、ジブチルエーテルなどのエーテル系、トルエン、ベンゼン、キシレンなどの芳香族系、フロン、トリクロロエタン、クロロホルム、塩化メチレンなどのハロゲン化アルキル系、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系、アセトニトリルなどのニトリル系等の溶媒が挙げられるが、特に限定されるものではない。また、水と混合した溶媒を用いても良い。
【0036】
本発明の組成物において、本発明の複素環式化合物の溶剤中の濃度は、これら溶剤中に溶解する限度内であれば良いが、一般に溶剤中に0.01〜70重量%、好ましくは0.1〜10重量%である。
【0037】
本発明の複素環式化合物を含有したインク組成物について説明する。
本発明のインク組成物は、本発明の組成物を樹脂に含有させて提供する。本発明の組成物を含有させる樹脂としては、例えばポリエステル樹脂、共重合ポリエステル樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、アモルファスポリオレフィン、ポリイソシアネート、ポリアリレート、ポリアセチルセルロース等の透明なプラスチック樹脂が挙げられる。
【0038】
色素の該樹脂に対する添加量は、通常高分子樹脂の固形分に対し、0.01〜10重量%、好ましくは0.01〜1.5重量%程度である。
【0039】
ここにおいて樹脂と組成物を溶解させる方法としては、通常の攪拌機やニーダーが用いられるが、これに限るものではない。
【0040】
本発明の複素環式化合物を薄膜にする方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、CVD法等の気相法がある。しかし、生産性や経済的な面で問題がある。
【0041】
上記問題を解決するために、本発明のインク組成物を用いた薄膜形製法がある。例えばドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法等の液相法が挙げられる。また、インク組成物をマイクログラビアコーター、グラビアコーター、リバースコーター、フローコーター、コンマコーター、T−ダイ等のコーターやインクジェット等により塗布後に乾燥機で溶剤を離散させて薄膜を形成する方法もある。
【0042】
本発明の光学フィルターは、上記方法により樹脂の薄膜を透明フィルムの上に形成させて提供する。コーティングの厚みは2−3μmがよい。コーティングのスピードは毎秒数mから数10mである。
【0043】
透明フィルムの材質としては、例えばセルローストリアセテート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリオレフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
本発明の複素環式化合物は様々な有機溶剤に溶解するため、追記型の光情報記録媒体の記録材料として特に有用である。本発明の光情報記録媒体は、記録層に本発明の複素環式化合物を少なくとも一種含有することを特徴とする他は、同公報等に記載の公知の製造方法に準じて製造すればよい。
即ち、本発明の複素環式化合物をTFP等に溶解した本発明のインク組成物をポリカーボネート製の基板に塗布し、乾燥して本発明の複素環式化合物を含有する記録膜を形成する。
【0045】
本発明の複素環式化合物を光記録媒体基板に塗布する有機溶剤としては、ケトン系、エステル系、エーテル系、芳香族系、ハロゲン化アルキル系、アルコール系等の溶媒が挙げられる。本発明の複素環式化合物を基板に塗布するには、基板を侵さない溶剤であれば良く、メタノール、エタノール、プロパノールなどの脂肪族アルコール系、TFP、オクタフルオロペンタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、ヘキサフルオロヒドロキシアセトン等の、フッ化アルコール類が好ましい。更に好ましくはTFPが好ましい。
【0046】
本発明の光記録媒体を作製するため、本発明の複素環式化合物を記録層に含有させる方法としては本発明の薄膜の形成と同様の方法が一般的であるが、好ましくはコスト面でスピンコート法が望ましい。
【0047】
光記録媒体基板に用いられる材料としては、400nm〜900nmの光に対して透明な材料であれば良い。例えば、硝子、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ブチラール樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ジアリルフタレート樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、シリコン樹脂、ポリスルホン樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体樹脂、ビニルピロリドン樹脂、ニトロセルロース、などが挙げられるが、特に限定されるものではない。これらは単独また共重合体ポリマーとして1種または2種以上混合して用いても良い。また、表面はホトポリマーあるいは電子線により処理されていても良い。経済的理由によりポリカーボネート樹脂系熱可塑性樹脂が好ましい。また、基板はトラッキングの溝を有しても良い。
【0048】
次いで、金、銀又は銅などの金属からなる反射層、及び紫外線硬化樹脂などからなる保護層を、順次密着させて形成することによって本発明の光情報記録媒体を作成することができる。
現在の光情報記録媒体は、記録膜上の特定の微小面積部分にレーザー光を集光させ、該特定部分の性状を変えることにより記録を行い、該記録部分と未記録部分との反射光量の違いによって記録の再生を行う。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例中、「部」、「%」は特に特定しない限り、重量基準である。
必要に応じ、以下の各種の測定を行った。なお各測定に用いた測定機器を併記する。
1.吸光特性
商品名UV−3150、(株)島津製作所製
なお、特に断りの無い限り、極大吸収波長とεとを測定結果として記載した。
2.マススペクトル
商品名LCMS−2010A、(株)島津製作所製
3.H−NMRスペクトル
商品名Gemini2000、バリアンテクノロジーズ製
なお内部標準物質としてTMS(テトラメチルシラン)を用いた。
【0050】
実施例1
反応容器にNMP30部を入れ、式(2)で表される化合物2.7部、n−ブチルブロミド14.7部、炭酸カリウム11.1部を加えた後、120〜130℃で12時間攪拌した。反応混合物にメタノールを400部加え、濾別後、メタノール400部、水200部で洗浄した。カラムクロマトグラフィー(トルエン)を行い、アセトニトリル30部とメタノール200部で再結晶し、表1の化合物番号16の本発明の化合物2.87部を得た。
得られた化合物のマススペクトルは、目的化合物の質量と一致した。
吸光特性(DMF溶液):吸収極大は380nm付近。
ε=5.39×10
【0051】
実施例2
反応容器にNMP30部を入れ、式(2)で表される化合物2.7部、2−メトキシエチルブロミド11.12部、炭酸カリウム11.06部を加えた後、攪拌しながらヨウ化カリウム0.83部を加えた。120〜130℃で2時間攪拌後、2−メトキシエチルブロミドを11.12部加え、更に2時間攪拌した。室温に冷却後、反応混合物をろ過し、濾液に酢酸エチル300部、水400部を加え、有機層を濃縮した。濃縮後、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)を行い、表1の化合物番号23の本発明の化合物1.35部を得た。
得られた化合物のマススペクトルは、目的化合物の質量と一致した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は370nm付近。
ε=5.09×10
H−NMRスペクトル(クロロホルム−D1):δ3.37(s、12H)、3.63−3.59(m、16H)、6.88(dd、2H)、7.14(s-like、2H)、7.58(d、2H)
【0052】
比較例1
比較例として以下に式(68)を挙げる。
吸光特性(DMF溶液):吸収極大は390nm付近。
ε=4.88×10
【化6】

【0053】
溶解性試験
実施例1及び2で得られた式(16)及び式(23)、比較例1の式(68)で表される各有機化合物、式(2)で表される有機化合物をそれぞれ0.1部をとり、各種有機溶剤を加え、溶解性試験を行った。以下にその結果を示す。
【0054】
表3 溶解性試験
有機溶剤 TFP MEK トルエン
化合物番号
式(2) × × ×
比較例1(68) × × ×
実施例1(16) × △ ○
実施例2(23) ○ △ ○
【0055】
式(2)で表される有機化合物や比較例にある式(68)で表される有機化合物はトルエンにまったく溶解しなかったのに対し、実施例1で得られた本発明の複素環式化合物はトルエンに容易に溶解した。さらに、実施例2で得られた化合物はトルエンだけではなく、光記録媒体の記録層に色素を含有させる際に基板を傷つけずに色素を溶解させる溶剤として最適なTFPにも容易に溶解することが明らかとなった。
【0056】
薄膜作製
化合物番号(23)の化合物を0.1部をとり、TFP9.9部を加え、室温下にて超音波を5分間印加して溶解させ、0.45μmフィルターでろ過して微細なゴミを取り除き、本発明の組成物を得た。この組成物を用いて、縦10cm、横10cm、厚さ1.0mmのポリカーボネート樹脂基板上にピペットにて滴下し、スピンコーターにより2000回転で10秒間で塗布、塗布後、80℃で30分間乾燥させることによって、ポリカーボネート基板上に塗布膜を形成させた。80℃で加熱乾燥させた前後で薄膜の吸収特性に変化が無いことから熱的にも安定であることが明らかとなった。図1に化合物番号(23)の化合物で作製した薄膜の吸収スペクトルを示す。
【0057】
耐水性試験
上記で作製した塗布膜の設けられたポリカーボネート基板を20℃の水中に入れ、30分後に塗布膜の吸収スペクトルを波長200〜700nmの領域で測定した。その後、70℃の水で30分毎に90分間、吸収スペクトルの測定を行った。塗布膜を水に入れる前の吸収極大の吸光度I0と、水に入れた後の吸収極大の吸光度I1とをそれぞれ測定し、(I1/I0)×100(%)により算出された値を、色素残存率とし、耐水性の判定の目安とした。この色素残存率の数値が大きいほど、耐水性が良好であることを示す。
【0058】
測定結果
上記により得られた塗布膜の設けられたポリカーボネート基板における塗布膜の吸収極大波長及び色素残存率の結果を表1に示す。
尚、比較例として下記式(69)の結果も合わせて示す。
比較例2
比較例2として下記式(69)で示される化合物(比較用シアニン色素)を特許文献1に記載の方法に基き合成した。
吸光特性(メタノール溶液):吸収極大は波長448nm付近。
ε=7.08×10
【0059】

【0060】
表4 測定結果
吸収極大波長(nm) 色素残存率(%)
化合物(23) 383 78
比較用シアニン色素(69) 448 47
【0061】
表2の結果からも明らかな様に、比較例2のシアニン色素(69)を含有した組成物から得られた薄膜は、70℃の水中において、90分後に色素残存率が47%に減少した。これに対して化合物(23)を含有した本発明の組成物から得られた薄膜は、70℃の水中で、78%という色素残存率があった。本発明の組成物から得られた薄膜は、比較例2のシアニン色素(69)を含有した組成物から得られた薄膜とは外見的にも全く異なるものであり、試験前後の短波長領域の可視光吸収能が殆ど低下せず、高い耐水性を示した。従って、本願発明の複素環式化合物は光学材料の用途にも極めて有用なものであると言える。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】化合物23の薄膜の紫外〜可視吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式で示される複素環式化合物。
【化1】

(式中、X及びXはそれぞれ独立に酸素原子、硫黄原子、又はセレン原子を表す。R〜Rは水素原子もしくは各々独立に脂肪族炭化水素基を表すが、R〜Rの全てが水素原子である場合を除く。RとR、及び(又は)RとRは、互いに結合して環を形成してもよい。)
【請求項2】
上記式(1)においてR〜Rが各々独立にアルキル基であることを特徴とする請求項1に記載の複素環式化合物。
【請求項3】
上記式(1)においてX及びXが硫黄原子であることを特徴とする請求項1乃至請求項2に記載の複素環式化合物。
【請求項4】
上記式(1)においてR〜Rが各々独立にアルコキシ基を有していることを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の複素環式化合物。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の複素環式化合物及び溶剤を含有することを特徴とする組成物。
【請求項6】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の複素環式化合物、溶剤及び樹脂を含有することを特徴とするインク組成物。
【請求項7】
請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の複素環式化合物または請求項5乃至請求項6に記載の組成物からなる薄膜。
【請求項8】
請求項7に記載の薄膜を用いた光学フィルター。
【請求項9】
請求項7に記載の薄膜を用いた光記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−95644(P2010−95644A)
【公開日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−268488(P2008−268488)
【出願日】平成20年10月17日(2008.10.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】