説明

複雑形状プリフォームの製造方法

【課題】繊維強化織物等を高精度でかつ効率良く載置する方法。
【解決手段】マトリックス樹脂があらかじめ含浸されていない繊維強化織物の表面に樹脂粒子を付与した強化繊維基材からなるプリフォームの製造方法であって、前記強化繊維基材をテープ状とし、前記テープを巻き付けたクリール10から前記テープを間欠的に繰り出すとともに、繰り出された前記テープが所定の形状に沿うように、所定の間隔で点状または線状に加熱融着することを繰り返すプリフォームの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複雑形状プリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維を強化繊維として用いた炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)は、軽量でかつ高い耐久性を有するものであることから、自動車や航空機等などを構成する各種の構成部材として理想的な材料である。航空機の機体に使用される構造材には直線状のものは少なく、長手方向に湾曲した形状の複合材料構造体が必要となっている。例えば、航空機の胴体は円筒状に形成されているため、円弧状に形成された構造材を連結させて円環状で使用する用途などが挙げられる。
【0003】
これら円弧状の繊維強化プラスチック(FRP)を成形する方法としては、強化繊維の織物による製造方法が従来から知られている。例えば、特許文献1のようなやり方で強化繊維を多数の強化繊維張設用のピンを植設した複数のピン植設部材で固定し、これらピン植設部材同士の相対位置を変化させて湾曲させ、円弧形状の構造体を形成するという方法が提案されている。
しかしながら、この発明においてはピンの表面同士を結ぶ接線が強化繊維の方向となり、強化繊維はジグザグに配置され、隣接する強化繊維同士は厳密に平行にならず、折り返しの端部付近で繊維がピンに対し縦長に広がってしまう。これらを軽減するためには、細い繊維束と狭いピンのピッチが必要となるが、そのため生産効率が悪くなる。
【0004】
また、強化繊維は相対するピン同士を結ぶ直線で配置されるが、例えば強化繊維が円弧の長手軸線に対して90°の傾斜角を持つ場合は、強化繊維は常に直線でも長手軸線との角度90°を保つことができるが、円弧の長手軸線に対して直線強化繊維が直線45°の傾斜角を持つような場合では、円弧の内側から外側にかけて常に45°の角度を保つためには、強化繊維は直線でなく、曲線でなければならず、幅方向の両端をピンで支持する技術ではこれを達成することができないという問題がった。
【0005】
一方、織物を用いない成形方法として、強化繊維に予め高靭性のエポキシ樹脂を含浸させたプリプレグシートを徐々に繊維の角度を変えつつ順々に配置し、複数層にプリプレグシートを重ねて所望する円弧状の積層体に賦形して、オートクレープ(圧力釜)で加圧および加熱して硬化させるオートクレープ成形方法がある。
しかしながら、プリプレグシートは、強化繊維の長手方向へのせん断変形が困難であるため、特許文献2のように、プリプレグシートを強化繊維の長手方向へスリットし、円弧形状に変形させながら積層するという方法があるが、この場合は環状、湾曲状の強化繊維が寸断されている状態になってしまい、強化繊維による十分な強度が得られないという問題があった。
【0006】
そこで、近年では、従来のプリプレグシートを用いたオートクレープ成形より、安価で成形時間が短縮できる成形方法として、RTM(Resin Transfer Molding)成形方法等が注目されている。これは、マトリックス樹脂が含浸されていない、ドライな繊維強化織物などを成形型に配置し、低粘度の液状マトリックス樹脂を注入することにより、前記強化繊維にマトリックス樹脂を含浸させて複合材料を成形するものである。ここで、RTM成形方法で用いるドライな繊維強化織物等はタックがなく、形状追従性に富むため、複雑な3次元形状に沿わせて賦形することが可能となるが、一方で、形状安定性が悪く、高い精度で強化繊維の角度のズレや位置ズレなく載置することは非常に困難である。
【0007】
これを解決する手段として、繊維強化織物等を真空吸引等により固定するという方法があるが、紙やフィルムといったシート材では厚さ方向に空気を通さないが、繊維強化織物等は繊維束の間が密でなく空気を通してしまうため、形状安定性が悪く、高い精度で強化繊維の角度のズレや位置ズレなく載置することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−218133号公報
【特許文献2】特開平07−081566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述したような点に対し、繊維強化織物等を高精度でかつ効率良く載置する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明に係るプリフォームの製造は以下の手段を採用するものである。
(1)マトリックス樹脂があらかじめ含浸されていない繊維強化織物の表面に樹脂粒子を付与した強化繊維基材からなるプリフォームの製造方法であって、前記強化繊維基材をテープ状とし、前記テープを巻き付けたクリールから前記テープを間欠的に繰り出すとともに、繰り出された前記テープが所定の形状に沿うように、所定の間隔で点状または線状に加熱融着することを繰り返すことを特徴とするプリフォームの製造方法。
(2)前記テープが載置台の載置面に沿って繰り出されることを特徴とする(1)に記載のプリフォームの製造方法。
(3)前記載置面に直接接する前記テープが載置面に融着固定されていることを特徴とする(1)または(2)に記載のプリフォームの製造方法。
(4)前記テープの長手方向に、強化繊維の糸条が少なくとも1本以上平行に延在することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
(5)前記強化繊維の少なくとも一部に炭素繊維が含まれることを特徴とする(4)に記載のプリフォームの製造方法。
(6)前記テープの長手方向を任意の角度で積層させることを特徴とする(1)〜(5)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
(7)前記樹脂粒子が、熱可塑性樹脂を主成分とすることを特徴とする(1)〜(6)のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、繊維強化織物等を高精度でかつ効率良く載置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明に係るプリフォームの製造方法によって得られた、単一平面上に扇状の形状を有するプリフォームの概略図である。
【図2】本発明に係るプリフォームの製造方法において、テープを繰り出しながら間欠的に固着させる態様を示す概略図である。
【図3】本発明に係るプリフォームの製造方法において、間欠的に固着させる方法を示す概略図である。
【図4】本発明に係るプリフォームの製造方法において、固着させたテープを切断する状態を示す概略図である。
【図5】本発明に係るプリフォームの製造方法において、複雑形状の載置台にテープを複数積層させる状態を示す概略図である。
【図6】本発明に係るプリフォームの製造方法において、テープ同士を重ねる状態を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について図を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るプリフォームの製造方法によって得られた、単一平面上に扇状の形状を有するプリフォーム100の概略図である。このプリフォーム100は、扇状に形成された強化繊維基材を複数層積層させてなるものである。本発明では、略同一幅のテープ状とした強化繊維基材を用いることが重要である。以下、本発明に用いる強化繊維基材をテープと呼ぶ。
【0015】
本発明に用いるテープ1は、マトリックス樹脂があらかじめ含浸されていない繊維強化織物の表面に樹脂粒子を付与した強化繊維基材をテープ状としたものである。このうち、樹脂粒子は熱可塑性樹脂を主成分とする樹脂粒子であるとともに、繊維強化織物を構成する強化繊維糸条が少なくとも長手方向に1本以上平行に延在されていることが好ましい。
【0016】
ここで、繊維強化織物とは、強化繊維糸条を長手方向と必要に応じてその垂直な方向に、同一の強化繊維あるいは異種の繊維から構成される織物の総称であり、強化繊維としては炭素繊維やガラス繊維、アラミド繊維などを用いることができる。高強度、高剛性が要求される部材に対しては、強化繊維の少なくとも一部に炭素繊維を用いることが好ましい。
【0017】
また、繊維強化織物の表面に付与される樹脂粒子は、繊維強化織物の片側面にのみ付与されてもよいし、裏表両面に付与されてもよい。繊維強化織物表面への付与量は特に制限されるものではないが、後述するように樹脂粒子を加熱融着のバインダーとして利用するために、片面あたり3g/mから50g/m付与させることが好ましく、載置面への十分な固着力と重量軽減のバランスを考慮して、5g/mから30g/mの範囲が好適に適用される。
【0018】
さらにまた、樹脂粒子の主成分である熱可塑性樹脂は、特に限定されるものではないが、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアリーレンオキシド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリエーテルエーテルスルホン樹脂など、いわゆるエンジニアリングプラスチックスに属する樹脂が好ましく用いられる。またこのほかに、部分的に結晶性を有していても良く、これらも好ましく用いられる。例えば、ポニフェニレンスルフィド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂等を挙げることが出来る。また、かかる熱可塑性樹脂は、末端または側鎖に液状エポキシ樹脂組成物と反応しうる官能基( 具体的にはカルボキシル基、アミノ基、フェノール性水酸基、エポキシ基など) を有することが好ましい。反応しうる官能基を有することで、液状エポキシ樹脂組成物とともに硬化し、繊維強化複合材料の耐衝撃性が向上する。また、上記した以外の任意の成分、例えば酸化防止剤、ゴム粒子、無機粒子などを適宜含ませることができる。
【0019】
また、樹脂粒子は、ガラス転移温度が50℃以上であることが必要である。50℃より低いと保管中に樹脂粒子状の組成に不都合が起こる恐れがあるためである。
【0020】
樹脂粒子は、平均粒径が30〜200μmであることが好ましい形態の一つである。平均粒径を30μm以上とすることで、強化繊維基材の製造時において、繊維強化織物の強化繊維糸条中に粒子が入り込み過ぎず、強化繊維糸条の表面にも十分な量の粒子を残し、少量のバインダー組成物でも強化繊維基材同士を結着させる効果を効率よく発現させることができ、取扱いを容易にすることができる。一方、平均粒径を200μm以下とすることにより、プリフォームとしたときにうねりが生じて繊維強化プラスチックの物性に悪影響を及ぼすのを防ぐことができる。
【0021】
上記のように構成した強化繊維基材を複雑形状プリフォームに容易に加工するために、強化繊維の糸条が少なくとも長手方向に1本以上平行に延在するテープとすることが好ましい。ここで、テープの幅(長手方向と垂直方向の長さ)は特に限定されるものではないが、取り扱い性の観点から、1mmから300mmが好ましく、強化繊維の特性を十分に発現させかつ、複材形状への追従性も付与させるようにするために、2mmから200mmが好適に適用される。
【0022】
また、テープの厚みは特に限定するものではなく、目的に応じて適宜使用することができる。テープを複数層積層したプリフォームの積層厚みも目的に応じて適宜設定され、なかでも航空機用部材用途や自動車部材用途に対しては、0.3mmから30mmの範囲が好適に適用される。
【0023】
次に、本発明に係るプリフォームの製造方法について説明する。
【0024】
本発明に係るプリフォームの一例として、図1に示すような扇状のプリフォームの製造方法について説明する。図1(a)に示す扇状のプリフォーム100は、図1(b)に示すようにテープ層が複数層(図では101、102、103、104の4層としている)積層されたものであり、各テープ層は、テープの長手方向(強化繊維糸条の延在方向)が扇状プリフォームの円周方向2に沿うように屈曲させられたテープ層や、強化繊維糸条の延在方向を扇状プリフォームの半径方向3に沿うように配置したテープ層や、テープの長手方向が扇状プリフォームの円周方向から任意角度4を有するテープ層等を、目的とする繊維強化プラスチックの強度等を発現できるように適宜組み合わせて配置されたものである。以下、図2以降で具体的な製造方法について説明する。
【0025】
図2は、クリール10からテープ1を間欠的に繰り出しながら、テープ固着部11により間欠的にテープ1を載置台30の載置面31に融着固定する工程を示した図である。テープ1は、目的とするプリフォームの形状となるように、間欠的に繰り出すことが重要である。
【0026】
以下、各工程について詳細に説明する。
【0027】
本発明のプリフォーム100の製造方法に適用するテープ1を供給する方法としては、特に限定されるものではないが、生産性向上が要求される場合、テープ1をロール状に巻いたクリール10から解反することで、テープ1を連続的に供給することが好ましい。本発明では、曲面状のような複雑形状のプリフォーム100を精度よく製造することを目的としており、各層に応じてあらかじめテープ1の必要長さを想定して切り出しておくと、厚みや曲面に応じて目的とする長さが不足することも懸念される。逆に不足分を見越して長めに切り出しておくと、プリフォーム100の製造後に後加工で端部の切り落としが必要になり、作業時間や作業工数のロスが増加する。このようなロスをなくすためにも、テープ1は連続的に供給できることが好ましい。
【0028】
テープ1をクリール10から繰り出す手段は、手動で繰り出してもよいし自動であってもよい。テープ1は、後述する理由により、間欠的に繰り出すことが本発明では重要である。クリール10または/および載置台30に自動または手動の可動手段を持たせることで、曲面状等の複雑な形状に追従できるようになり、シワなく寸法精度の高いプリフォーム100を製造することができる。可動手段の一例としてATL(Auto Tape Lay−up machine)を用いると、自動で複数層積層させることができる。
【0029】
ここでテープ1をクリール10から間欠的に繰り出すとは、金属または樹脂からなる任意形状を有する載置台30の載置面31上に、1層分の長さを一度に繰り出すのではなく、適宜間隔をあけて融着固定する融着部20の繰り出し長さ21に相当する長さに応じてテープ1を繰り出すことを意味している。このように繰り出し長さ21ずつ繰り出すことにより、直線状のテープ1を、図1(a)のような扇状にシワなく曲線状に曲げることができる。繰り出し長さ21は、目的とするプリフォーム100の形状に応じて適宜間隔を決めることができる。曲線状に曲げる際は、繰り出し長さ21を短くしてシワを発生させにくくし、直線状に固定する場合は繰り出し長さ21を長くして作業時間を短縮することもできる。
【0030】
融着部20は、後述する加熱条件で、樹脂粒子(図示せず)を溶融させてバインダーのように活用させることにより、テープ1の形状を固定させる役割を果たす。
【0031】
テープ1は、テープ固着部11により加熱固定される。テープ固着部11は、クリール10と一体化して連動するようにしてもよいし、クリール10とは独立に移動できるようにしてもよい。テープ固着部11の内部に加熱ヒーターおよび温調装置を内蔵することで、テープ固着部11の先端をテープ1に押し当てて、テープ1の表面に付与した樹脂粒子を溶融させることができる。加熱温度は特に限定されるものではないが、樹脂粒子をバインダーとして利用するためには、50℃から250℃の範囲が好ましい。昇温時間の短縮とバインダーとしての接着力を発揮させる時間のバランスを考慮して、60℃から200℃の範囲がより好ましく、バインダーとしての接着力が特に要求されない場合は、60℃から180℃が更に好ましい範囲である。
【0032】
また、テープ1を加熱固定させる工程において、テープ1の全面を加熱すると、複雑形状への追随性が悪化し、テープ1にシワが発生する可能性が高くなる。シワが発生すると、製品の剛性や強度特性がシワのない場合に比べて著しく低下するため、シワの発生を防止する必要がある。また更に、テープ1の全面を加熱すると加熱面積が大きくなるため、プリフォーム100の製造に要する作業時間が増大するデメリットもある。従って、テープ1を載置面に固定させる場合、テープ1の全面を加熱固定しないことが好ましく、点状あるいは線状に固定させることが更に好ましい。
【0033】
ここで、固着させる線や点の形状、大きさは、特に制限されるものではなく、製造するプリフォーム100の形状や厚み、テープ1の幅などを考慮して様々な形状、大きさを選択できる。特に複雑形状の載置面31に載置する場合、テープ1を確実に固定するため、線状に固定させる方法を選択した場合、テープ1の長手方向に対して、図3に示すように、(a)略垂直方向、(b)任意の角度に傾斜、(c)略平行方向いずれの方向も選択することができる。点状あるいは線状に固定する方法としては、テープ固着部11の先端を突起状としたり、複数の突起部を設けた凹凸状にしたりすることができる。
【0034】
固着させる面積としては、1本のテープ、1箇所あたり、1mmから90,000mmが好ましく、複材形状への良好な追随性を発現するために、1本のテープ、1箇所あたり、1mmから22,500mmが好ましく、さらに固着させるための加熱時間を短縮させるためには、固着範囲をさらに小さくすることが必要なので、1mmから2,500mmが更に好適に適用される。
【0035】
テープ1を間欠的に繰り出して1層分の形状が形成されると、カッター12を用いてテープ1を切断する。カッター12は強化繊維を容易に切断できる材質であれば特に制限はない。カッター12は手動で切断することも可能であるし、図4に示すように、テープ固着部11と一体連動させることにより、自動で切断可能とすることも好ましい。
【0036】
1本のテープ幅より広幅の大型プリフォームを製造する場合には、プリフォームを構成する各層について、複数枚のテープ1を用いて1つの層を形成することができる。具体的には、図5(a)〜(c)に示すように、1つの層を、複数のテープを並べることで形成することも可能である。図5(a)のように1枚目のテープ110aを載置面31に融着固定させた後、図5(b)に示すように、左に順に110b、110cと並べることにより、より幅の広い層が得られる。このようにして得られた層を図5(c)に示すように複数層積層させることにより、目的とするプリフォームを得ることができる。
【0037】
最初に、図5(a)に示すように、1枚目のテープ110aを、前述したようにテープ1を間欠的に繰り出しながら、テープ固着部11でテープ110aを、点状または線状に載置面31上に固定する。載置面31に直接接する第1層のテープは、載置面31と接する面側に樹脂粒子が付与されるように配置し、載置面31に直接加熱固定することが好ましい。このように第1層を載置面31に直接固定することにより、目的とするプリフォーム形状のベースとなる部分を精度よく固定できるので、後述するように第2層、第3層、と積層しても、プリフォーム全体として形状を保持することができる。載置面31の材質によってはプリフォーム製造後に剥離が困難となる場合は、載置面31上に離型シートをあらかじめ固定しておくこともできる。この場合、離型シートが固定されているので、テープ110aは加熱固定した後、ズレやシワを発生することもなく、また積層後も容易に剥離できるので、載置面31の洗浄等が不要になり、繰り返しプリフォームを製造することができる。
【0038】
1枚目のテープ110aの加熱固定を終えたら、引き続きテープ110aの長手方向に隣接するように、2枚目のテープ110bを1枚目のテープ110aと同様の手段で加熱固定することができる。以後、3枚目のテープ110c等を、所定の幅が得られるまで複数枚のテープを順に貼り付けることで、プリフォーム100の第1のテープ層110とすることができる。
【0039】
ここで、テープの長手方向に隣接するとは、図6(a)に示すように、少なくとも2つ以上のテープ120a、120bが互いに一部オーバーラップする形態であってもよいし、図6(b)に示すように少なくとも2つ以上のテープ130a、130b、130cがオーバーラップすることなく、隣接する形態であってもよい。また、1つの層の中で、オーバーラップあり/なしを組み合わせることも可能である。
【0040】
第2のテープ層111は、図5(c)に示すように、第1のテープ層110の上に、第1のテープ層110と同様の手段でテープを順に加熱固定していく。第3のテープ層112以降もこれらの操作を繰り返すことにより、広幅で複雑形状を有する大型のプリフォームを、寸法精度よく、かつシワやズレもなく製造することができる。
【0041】
ここで、積層する方法としては、図6(c)に示すように、各テープ層(図では140、141、142の3層を示している)がほぼ重なるように厚み方向に配置する形態であってもよいし、図6(d)に示すように、上方のテープ層151の一部が直下のテープ層150の上を横切るように配置してもよい。載置面31の表面積がプリフォーム100の表面積に対して十分に確保される場合には、載置面31に積層する各層をそれぞれ作成しておき、要求される強度等に応じて目的とするテープ長手方向となるように向きを変えて積層させることもできる。
【0042】
積層するテープの長手方向は、得ようとする複合材料成形品に要求される強度、剛性に応じて自由に選択できる。例えば図1のような扇状のプリフォームの場合、第1層のテープ長手方向は扇状プリフォームの円周方向2に沿った方向とし、第2層のテープ長手方向は扇状プリフォームの円周方向から任意角度4を有する方向としてもよい。このようなプリフォームを製造する場合には、第2層を形成する際に、クリール10または載置台30の向きを変えることで、選択したテープの長手方向となるようにテープ1が繰り出されるようにすればよい。この結果、製品形状において、各層毎、部位毎に強化繊維の積層角度を任意に選定することができる。
【0043】
載置台30の載置面31の形状は特に限定されるものではないが、本発明の技術は、図1に示す扇状を始め、お椀状形(半球形)、円筒形、球形を始めとする3次元形状にも適用可能である。本発明に用いるクリール10はこのような3次元形状に対して追従性がよく、特に好適である。
【実施例】
【0044】
以下に、本発明の望ましい実施形態を以下に説明する。
【0045】
テープの長手方向に強化繊維として炭素繊維を配置し、同じくテープの長手方向と長手方向と垂直方向それぞれにRTM成形時のマトリックス樹脂流路用のガラス繊維を配置した繊維強化織物に、ナイロン樹脂からなる樹脂粒子を両面に付与した強化繊維基材からなるテープを用いて、以下の方法により単一平面上に円弧状の形状を有するプリフォームを製造した。
【0046】
幅20mm、長さ100mのテープをロール状に巻き上げたクリールから繰り出し、幅200mm、円周長さ4m、円周半径3mの円弧状に載置した。このとき、テープ上のシワ発生を抑制するために、テープを50mmずつ繰り出しながら、テープの長手方向に対して10mm、垂直方向に20mm(固着面積200mm)からなる線状の固着部分でテープを固定した。このとき、テープ固着部に内蔵したヒーター加熱装置で80℃に加熱することで、テープに付与した樹脂粒子は1分以内に固着させることができた。テープを所定の長さまで載置面に固定した後は、カッターでクリールから切り離した。
【0047】
上記の動作を繰り返し、16層からなる扇状プリフォームを製造した。内訳は、テープの長手方向が扇の円周方向に沿わせた層を厚みの25%、テープの長手方向が円周方向と垂直方向に沿わせた層を厚みの25%、テープの長手方向が円周方向に45°の角度を有する方向に沿わせた層を厚みの25%、テープの長手方向が円周方向に−45°の角度を有する方向に沿わせた層を厚みの25%となるようにそれぞれ配置して、図1に示す円弧状の形状を有するプリフォームを製造することができた。得られたプリフォームの厚みは3mmであった。
【0048】
得られたプリフォームは、扇状部分にシワの発生もなく、樹脂粒子による積層間も強固に固定されたプリフォームであった。このプリフォームにマトリックス樹脂を含浸させ、加熱硬化により得られた繊維強化プラスチックは、目的とする強度や剥離強度を発現することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の製造方法は、航空機、自動車用途を始めとする繊維強化複合材料部材の製造分野に適用される可能性がある。
【符号の説明】
【0050】
1、110a、110b、110c、120a、120b、130a、130b、130c:テープ
2:扇状プリフォームの円周方向
3:扇状プリフォームの半径方向
4:円弧状プリフォームの円周方向に対する任意角度
10:クリール
11:テープ固着部
12:カッター
20:融着部
21:繰り出し長さ
30:載置台
31:載置面
100:プリフォーム
101、102、103、104、110、111、112、140、141、142、150、151:テープ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス樹脂があらかじめ含浸されていない繊維強化織物の表面に樹脂粒子を付与した強化繊維基材からなるプリフォームの製造方法であって、
前記強化繊維基材をテープ状とし、前記テープを巻き付けたクリールから前記テープを間欠的に繰り出すとともに、
繰り出された前記テープが所定の形状に沿うように、所定の間隔で点状または線状に加熱融着することを繰り返すことを特徴とするプリフォームの製造方法。
【請求項2】
前記テープが載置台の載置面に沿って繰り出されることを特徴とする請求項1に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項3】
前記載置面に直接接する前記テープが載置面に融着固定されていることを特徴とする請求項1または2に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項4】
前記テープの長手方向に、強化繊維の糸条が少なくとも1本以上平行に延在することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項5】
前記強化繊維の少なくとも一部に炭素繊維が含まれることを特徴とする請求項4に記載のプリフォームの製造方法。
【請求項6】
前記テープの長手方向を任意の角度で積層させることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂粒子が、熱可塑性樹脂を主成分とすることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のプリフォームの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−253873(P2010−253873A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108909(P2009−108909)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】