説明

覚醒度合検出装置

【課題】使用者が落ち着いて冷静な覚醒状態にある場合と居眠りの前段階にある場合とを明確に区別して、居眠りの前段階の状態を正確に検出することができる。
【解決手段】使用者の動脈血管の拍動を検知するセンサ部2と、この拍動から脈波を取得し、その脈波から脈波同期パルス列を生成し、脈波同期パルス列から最大エントロピー法を適用して脈波同期パルス列の揺らぎであるパワースペクトル密度を取得し、0.01Hz以上1.0Hz以下の周波数領域内に0.1Hz〜0.8Hzの周波数領域を含んで設定される第1の設定周波数領域に、パワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した場合に、入眠が予測される状態として検出する覚醒度合検出部6とを備える覚醒度合検出装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用者の居眠りが予測される前段階の状態等を検出する覚醒度合検出装置に係り、特に動脈血管の拍動から状態検出を行う覚醒度合検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
使用者の居眠りが予測される状態の検出を意図する装置として、特許文献1の耳掛け式脈拍計がある。特許文献1の耳掛け式脈拍計は、使用者の耳朶に装着される耳朶クリップに、耳朶部分の血流量の変化に基づき脈拍を検出する脈拍検出素子を設け、耳に掛けて装着されるフック付きケースに、音源とスピーカとスピーカ駆動部を設け、脈拍検出素子により使用者の脈拍数を検出し、検出した脈拍の脈拍数の一定時間毎の増加分が第1の判定値より大きくなる場合に吸気より呼気の時間を長くする呼吸法を指示する音声を発すると共に、脈拍数の一定時間毎の減少分が第2の判定値より大きくなる場合に呼気よりも吸気の時間を長くする呼吸法を指示する音声を発するものであり、後者は吸気の時間を長くして心拍数の減少を抑制し、居眠りの前段階の状態では居眠り状態になることを回避することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4087742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の耳掛け式脈拍計は、脈拍数の一定時間毎の増減に基づき使用者の状態を判定するものであるため、覚醒の度合が高い場合と低い場合を判定することは可能であるものの、例えば使用者が落ち着いて冷静な覚醒状態にある場合と居眠りの前段階の状態を正確に判別することは難しい。そのため、例えば自動車の運転者の覚醒を促す場合に、冷静な覚醒状態にある運転者に覚醒を促してしまい、運転者が煩わしく感じる事態も生ずる。
【0005】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、使用者が落ち着いて冷静な覚醒状態にある場合と居眠りの前段階にある場合とを明確に区別して、居眠りの前段階の状態を正確に検出することができる覚醒度合検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の覚醒度合検出装置は、使用者の動脈血管の拍動を検知するセンサ部と、前記拍動から脈波を取得し、前記取得した脈波から脈波同期パルス列(P−P)を生成し、前記生成した脈波同期パルス列(P−P)から最大エントロピー法(MEM)を適用して前記脈波同期パルス列(P−P)の揺らぎであるパワースペクトル密度(PSD)を取得し、0.01Hz以上1.0Hz以下の周波数領域内に0.1Hz〜0.8Hzの周波数領域を含んで設定される第1の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度(PSD)が異なる周波数で複数出現したことを認識した場合に、入眠が予測される状態として検出する覚醒度合検出部とを備えることを特徴とする。
前記構成では、第1の設定周波数領域にパワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことの認識により、入眠が予測される状態、即ち居眠りの前段階の状態を正確に検出することができる。従って、例えば居眠りの前段階の状態検出を利用して自動車の運転者等の使用者の覚醒を促す場合に、使用者が確実に居眠りの前段階の状態にある時に使用者の覚醒を促すことができ、落ち着いた覚醒状態で居眠りの前段階の状態にない使用者に覚醒を促して煩わしさを感じさせることを防止できる。
【0007】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した後に、0.15Hz以上0.8Hz以下の周波数領域内に0.2Hz、0.3Hz若しくは0.2Hzと0.3Hzとの間の所定周波数を含んで設定される第2の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度(PSD)が複数出現したことを認識した場合に、入眠状態として検出することを特徴とする。
前記構成では、第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度が複数出現したことの認識により、入眠状態を正確に検出することができる。従って、例えば居眠りの前段階の状態の使用者と入眠状態の使用者の覚醒を促す場合に、前者については比較的弱く、後者については強い出力で覚醒を促し、使用者の状態に適する覚醒の促しを行うことができる。
【0008】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度(PSD)が出現した後に、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第1の設定周波数領域と前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出することを特徴とする。
前記構成では、覚醒状態維持時間にパワースペクトル密度が出現しないことの認識により、安定的な覚醒復帰状態を正確に検出することができる。従って、例えば自動車の運転者等の使用者に居眠りの前段階等から安定的な覚醒復帰状態になったことを報知し、運転者等に良好な状態であることを認識させることができる。
【0009】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度(PSD)が出現した後に、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第1の設定周波数領域と前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識し、且つ0.00001Hz以上0.01Hzの以下の周波数領域内に0.0001Hz〜0.001Hzの所定周波数を含んで設定される第3の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度(PSD)が前記覚醒状態維持時間の間の解析時間間隔毎に持続的に出現していることを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出することを特徴とする。
前記構成では、覚醒状態維持時間にパワースペクトル密度が出現しないことの認識及び第3の設定周波数領域にパワースペクトル密度が持続的に出現することの認識により、安定的な覚醒復帰状態をより正確且つ確実に検出することができる。従って、例えば自動車の運転者等の使用者に居眠りの前段階等から安定的な覚醒復帰状態になったことを報知し、運転者等に良好な状態であることを認識させることができる。
【0010】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部が、前記脈波同期パルス列(P−P)に対し、5秒以内の解析時間間隔毎にサンプリングデータ数4096Hz以上で採取して前記最大エントロピー法(MEM)を適用することを特徴とする。
前記構成により、覚醒度合検出部が使用者の居眠りの前段階の状態や入眠状態を漏らすことなく、入眠予測状態や入眠状態を非常に確実に検出することができる。また、サンプリング周波数を4096Hz以上とすることによって、ペースメーカーを埋め込んでいる人の場合もP−Pの揺らぎを正確に識別することができる。
【0011】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部の検出結果に基づいて所定の出力を行う出力部と、前記覚醒度合検出部の検出結果に基づいて前記出力部の出力を制御する出力制御部とを備え、前記覚醒度合検出部が前記入眠予測状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から覚醒作用を有する第1の出力を行い、前記覚醒度合検出部が前記入眠状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から前記第1の出力よりも覚醒作用の大きい第2の出力を行うことを特徴とする。
前記構成により、居眠りの前段階の使用者に対して適度な覚醒作用を有する出力を行い、入眠状態の使用者に対して強い覚醒作用を有する出力を行い、使用者の状態に適する出力で使用者を覚醒させることができる。
【0012】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記出力部を、スピーカ、使用者に光を照射する光照射部若しくは使用者の座席に設けられ使用者に振動を与える振動部とし、前記第1の出力を、音、照射光若しくは振動とし、前記第2の出力を、前記第1の出力より覚醒作用の大きい音、照射光若しくは振動とすることを特徴とする。
前記構成では、使用者に音、照射光、振動を与えて使用者の覚醒を促すことができると共に、使用者の状態に適する音、照射光、振動で使用者を覚醒させることができる。
【0013】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記覚醒度合検出部が前記安定的な覚醒復帰状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から安定的な覚醒復帰を意味する第3の出力を行うことを特徴とする。
前記構成により、例えば自動車の運転者等の使用者に居眠りの前段階の状態等から安定的な覚醒復帰状態になったことを報知し、運転者等の使用者に良好な状態であることを認識させることができる。
【0014】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記センサ部が、使用者の拡張期血圧値に略対応して内圧を65mmHg〜70mmHgに設定され、使用者の頸に装着される空気容積体と、前記空気容積体に設けられ、使用者の頚動脈の拍動を検知可能な拍動検知センサとから構成されることを特徴とする。
前記構成では、使用者の頸に装着する空気容積体の拍動検知センサにより、使用者の拍動を正確に検出することができる。また、脳に近い頚動脈の拍動は脳機能に直結した脳血流情報であるから、頚動脈の拍動を分析することにより覚醒状態の検出において非常に正確な情報を得ることができる。また、例えば心電図R−R波の情報等は心臓の拍出血流の微妙な変化(心房細動など)ないしは拍出血流のない不整脈(心室性期外収縮など)を含んでいるのに対して、また、不整脈でペースメーカーを埋め込んでいる人ではR−Rの揺らぎが見えなくなっているのに対して、血流脈波P−Pで、脳機能に直結した頸動脈の血流信号を用いることにより、脈波が欠落したり、脈波の規則性が不十分な不整脈の使用者にも対応でき、脈波の規則の揺らぎを正確に計測することができる。
【0015】
また、本発明の覚醒度合検出装置は、前記センサ部が、使用者から離間して設けられ、使用者の頚動脈に対して光若しくは超音波を照射して使用者の頚動脈の拍動を検知可能な拍動検知センサから構成されることを特徴とする。
前記構成では、センサ部を使用者から離間した状態で使用者の拍動を検出することができる。また、脳に近い頚動脈の拍動は脳機能に直結した脳血流情報であるから、頚動脈の拍動を分析することにより覚醒状態の検出において非常に正確な情報を得ることができる。また、例えば心電図R−R波の情報等は心臓の拍出血流の微妙な変化(心房細動など)ないしは拍出血流のない不整脈(心室性期外収縮など)を含んでいるのに対して、また、不整脈でペースメーカーを埋め込んでいる人ではR−Rの揺らぎが見えなくなっているのに対して、血流脈波P−Pで、脳機能に直結した頸動脈の血流信号を用いることにより、脈波が欠落したり、脈波の規則性が不十分な不整脈の使用者にも対応でき、脈波の規則の揺らぎを正確に計測することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の覚醒度合検出装置は、使用者が落ち着いて冷静な覚醒状態にある場合と居眠りの前段階にある場合とを明確に区別して、居眠りの前段階の状態を正確に検出することができる。従って、例えば居眠りの前段階の状態検出を利用して自動車の運転者等の使用者の覚醒を促す場合に、使用者が確実に居眠りの前段階の状態にある時に使用者の覚醒を促すことができ、居眠りの前段階の状態にない使用者に覚醒を促して煩わしさを感じさせることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施形態の覚醒度合検出装置の構成を示すブロック図。
【図2】センサ部の構成を示す平面図。
【図3】実施形態の覚醒度合検出装置の処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔実施形態の覚醒度合検出装置〕
本発明の実施形態の覚醒度合検出装置について説明する。実施形態の覚醒度合検出装置1は、図1に示すように、使用者の動脈血管の拍動を検知するセンサ部2と、CPU、ROMやRAM等の記憶部等で構成され、記憶部に設定されている制御プログラムに従って所定の処理動作を行う中央処理部3と、起動スイッチの開閉や操作入力等の入力をするための入力部4と、所定の出力を行う出力部5とを備える。中央処理部3は、センサ部2から入力される検知情報に所定の処理を施して使用者の覚醒状態を検出する覚醒度合検出部6と、覚醒度合検出部6の検出結果に基づいて出力部5の出力を制御する出力制御部7とを有し、出力制御部7の制御により、出力部5は覚醒度合検出部3の検出結果に基づいて所定の出力を行うようになっている。
【0019】
センサ部2は、図2に示すように、使用者の頸に装着される環状の空気容積体21と、空気容積体21に設けられる拍動検知センサ22とから構成される。空気容積体21は、平面視半円状で中空部材である本体211を一対有し、本体211内にはそれぞれ空気が充填されて、その内圧は使用者の拡張期血圧値に略対応して65mmHg〜70mmHgに設定されている。本体211の端部にはフック状の係止部と環状の被係止部が設けられ、この係止部と被係止部とで構成される留め具212で本体211・211の両端をそれぞれ留めることにより、空気容積体21は環状に構成されている。本体211の略中央の内面には、使用者の頚動脈の位置に対応して、例えば歪みセンサである拍動検知センサ22が貼付等で設けられており、拍動検知センサ22は使用者の頚動脈の拍動を検知可能である。拍動検知センサ22は図示省略するケーブルを介して中央処理部3に接続されており、中央処理部3を介した入力部4からの入力で起動、起動停止するようになっている。
【0020】
中央処理部3の覚醒度合検出部6は、所定制御プログラムに従って動作するCPUや所要データを記憶する記憶部等から構成され、センサ部2の検知する拍動から脈波を取得する脈波取得部61と、この脈波から脈波同期パルス列(P−P)を生成するパルス列生成部62と、この脈波同期パルス列(P−P)に最大エントロピー法(MEM)を適用して脈波同期パルス列(P−P)の揺らぎであるパワースペクトル密度(PSD)を取得するPSD取得部63と、このパワースペクトル密度(PSD)から居眠りの前段階である入眠予測状態、居眠りの状態である入眠状態或いは覚醒状態の覚醒度合を判定して検出する覚醒度合判定部64とから構成される。
【0021】
PSD取得部63は、脈波同期パルス列(P−P)に対し、所定の解析時間間隔毎にサンプリングデータ数4096以上でA/D変換し、デジタル変換して採取したサンプリングデータに対して最大エントロピー法(MEM)を適用してパワースペクトル密度(PSD)を取得し、その後の覚醒度合判定部64も前記所定の解析時間間隔毎に検出処理を行うようになっている。前記所定の解析時間間隔は、好適には5秒以内、より好適には1秒〜3秒、更に好適には1.5秒から2.5秒程度とすると良く、本例では2秒とする。
【0022】
覚醒度合判定部64は、0.01Hz以上1.0Hz以下の周波数領域内に0.1Hz〜0.8Hzの周波数領域を含んで設定される第1の設定周波数領域、好適には0.05Hz〜0.8Hzで設定される第1の設定周波数領域に、パワースペクトル密度(PSD)が異なる周波数で複数出現したことを認識した場合に、入眠が予測される状態として検出する。また、覚醒度合判定部64は、第1の設定周波数領域にパワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した後に、0.15Hz以上0.8Hz以下の周波数領域内に0.2Hz、0.3Hz若しくは0.2Hzと0.3Hzとの間の所定周波数を含んで設定される第2の設定周波数領域、好適には0.18Hz〜0.32Hzで設定される第2の設定周波数領域に、パワースペクトル密度(PSD)が複数出現したことを認識した場合に、入眠状態として検出する。第1の設定周波数領域、第2の設定周波数領域で出現を認識するパワースペクトル密度(PSD)の強度は0超であれば適宜であるが、例えば第2の設定周波数領域で出現を認識するパワースペクトル密度(PSD)は、1ms/Hz以上の強度を有するものとすると好適である。
【0023】
また、覚醒度合判定部64は、第1の設定周波数領域若しくは第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度(PSD)が出現した後に、第1の設定周波数領域と第2の設定周波数領域とにパワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出する。前記覚醒状態維持時間の長さは、安定的な覚醒復帰状態と判断できるものであれば適宜であるが、例えば5秒〜20秒程度の時間とすると好適である。
【0024】
出力制御部7は、覚醒度合判定部64が入眠予測状態を検出した場合に、出力部5から覚醒作用を有する第1の出力を行うように出力部5を制御し、覚醒度合判定部64が入眠状態を検出した場合に、出力部5から第1の出力よりも覚醒作用の大きい第2の出力を行うように出力部5を制御し、覚醒度合判定部64が安定的な覚醒復帰状態を検出した場合に、出力部5から安定的な覚醒復帰を意味する第3の出力を行うように出力部5を制御する。
【0025】
出力部5は、例えばスピーカとし、第1の出力を音楽或いは音声等の音、第2の出力を第1の出力より音量が大きい或いは周波数が大きい等の覚醒作用の大きい音、第3の出力を安定的な覚醒復帰を意味する音楽或いは音声等の音とすると良好である。出力部5をスピーカとし、覚醒度合検出装置1を車両に設ける場合には、車両の内蔵スピーカを出力部5として用いる構成とすると好適である。
【0026】
次に、実施形態の覚醒度合検出装置1による使用者の覚醒状態の検出処理について説明する。図3は実施形態の覚醒度合検出装置の処理を示すフローチャートである。
【0027】
先ず、使用者は、センサ部2の空気容積体21を頸の周りに装着し、拍動検知センサ22が頚動脈に位置するようにセンサ部2を設ける。そして、入力部4からの入力で中央処理部3、センサ部2、出力部5を起動し、センサ部2の拍動検知センサ22で使用者の頚動脈の拍動を検知する(S101)。検知された拍動は中央処理部3の覚醒度合検出部6に入力される。
【0028】
覚醒度合検出部6の脈波取得部61は、入力された使用者の頚動脈の拍動から脈波を取得する(S102)。そして、パルス列生成部62は、この脈波から脈波同期パルス列(P−P)を生成する(S103)。この頚動脈の拍動から脈波同期パルス列(P−P)を取得するパルス列生成部62は、例えばV−F変換回路又は2次微分回路であり、頚動脈の拍動に対してV−F変換操作又は二次微分操作によって脈波同期パルス列(P−P)を取得する。
【0029】
次いで、PSD取得部63は、この脈波同期パルス列(P−P)に最大エントロピー法(MEM)を適用して脈波同期パルス列(P−P)の揺らぎであるパワースペクトル密度(PSD)を取得する(S104)。そして、覚醒度合判定部64が、第1の設定周波数領域にパワースペクトル密度(PSD)が異なる周波数で複数出現したか否かを判定し(S105)、パワースペクトル密度(PSD)が異なる周波数で複数出現したことを認識した場合に、入眠が予測される状態として検出する(S106)。前記異なる周波数で出現するパワースペクトル密度の個数は複数個であれば適宜であるが、異なる周波数で5個以上、好ましくは10個以上とすると良好である。そして、入眠予測状態の検出に応じて、出力制御部7は出力部5を制御し、出力部5から覚醒作用を有する第1の出力を行う(S107)。
【0030】
また、覚醒度合判定部64は、第1の設定周波数領域にパワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した後に、これに続いて第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度(PSD)が複数出現したか否かを判定し(S108)、パワースペクトル密度(PSD)が複数出現したことを認識した場合に、入眠状態として検出する(S109)。そして、入眠状態の検出に応じて、出力制御部7は出力部5を制御し、出力部5から第1の出力よりも覚醒作用の大きい第2の出力を行う(S110)。
【0031】
また、覚醒度合判定部64は、第1の設定周波数領域若しくは第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度(PSD)が出現した後に、図示省略するタイマーで時間を計測して、第1の設定周波数領域と第2の設定周波数領域とにパワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないか否かを判定し(S111)、第1の設定周波数領域と第2の設定周波数領域とにパワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出する(S112)。そして、安定的な覚醒復帰状態の検出に応じて、出力制御部7は出力部5を制御し、出力部5から安定的な覚醒復帰を意味する第3の出力を行う(S113)。
【0032】
第1実施形態の覚醒度合検出装置1は、第1の設定周波数領域にパワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことの認識により、居眠りの前段階の状態を正確に検出することができると共に、第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度が複数出現したことの認識により、居眠り状態を正確に検出することができる。従って、居眠りの前段階の使用者の覚醒を促し、居眠り運転の防止等を図ることができ、更には、例えば居眠りの前段階の使用者と入眠状態の使用者の覚醒を促す場合に、前者については比較的弱く、後者については強い出力で覚醒を促し、使用者の状態に適する覚醒の促しを行うことができる。また、覚醒状態維持時間にパワースペクトル密度が出現しないことの認識により、安定的な覚醒復帰状態を正確に検出することができ、例えば自動車の運転者等に安定的な覚醒復帰状態になったことを報知し、良好な状態であることを認識させることができる。
【0033】
また、覚醒度合検出部6が、脈波同期パルス列(P−P)に対し、5秒以内の解析時間間隔毎にサンプリングデータ数4096Hz以上で採取して前記最大エントロピー法(MEM)を適用する場合には、使用者の居眠りの前段階の状態や入眠状態を漏らすことなく、入眠予測状態や入眠状態を非常に確実に検出することができる。また、使用者の頸に装着され、使用者の拡張期血圧値に略対応して内圧を設定されている空気容積体と拍動検知センサにより、使用者の頚動脈の拍動を正確に検出することができる。また、脳に近い頚動脈の拍動は脳機能に直結した脳血流情報であるから、頚動脈の拍動を分析することにより覚醒状態の検出において非常に正確な情報を得ることができる。また、例えば心電図R−R波の情報等は心臓の拍出血流の微妙な変化(心房細動など)ないしは拍出血流のない不整脈(心室性期外収縮など)を含んでいるのに対して、また、不整脈でペースメーカーを埋め込んでいる人ではR−Rの揺らぎが見えなくなっているのに対して、血流脈波P−Pで、脳機能に直結した頸動脈の血流信号を用いることにより、脈波が欠落したり、脈波の規則性が不十分な不整脈の使用者にも対応でき、脈波の規則の揺らぎを正確に計測することができる。
【0034】
〔実施形態の変形例等〕
本明細書開示の発明には、各発明や実施形態等の構成の他に、これらの部分的な構成を本明細書開示の他の構成に変更して特定したもの、或いはこれらの構成に本明細書開示の他の構成を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な構成を部分的な作用効果が得られる限度で削除して特定した上位概念化したものも含まれ、下記のような変形例も包含される。
【0035】
例えばセンサ部2は、上記実施形態の構成にも使用者の動脈血管の拍動を検知可能な構成であれば適宜であり、例えば使用者の頚動脈に対して光若しくは超音波を照射して使用者の頚動脈の拍動を検知可能な拍動検知センサを、車両のピラーに設置する等により使用者から離間して設けるようにしてもよい。前記構成により、センサ部2を使用者から離間した状態で、脳機能に直結した頚動脈の拍動を検知することが可能となり、覚醒状態の検出において非常に正確な情報を得ることができる。尚、本発明に於ける拍動検知センサ22、或いはセンサ部2に用いる拍動検知センサには、歪みセンサ、加速度センサ、光センサ、インピーダンスセンサ等を適宜用いることが可能である。また、センサ部2は、使用者の腕、手首若しくは耳に空気容積体21を巻いて装着する等により、これらの各部の動脈血管の拍動を検出する構成とすることも可能である。また、センサ部2を、使用者の異なる2部位に取り付けられて各部位で動脈の拍動を検知するものとし、覚醒度合検出部6が、一方の部位の拍動と他方の部位の拍動との時間差を測定し、前記2部位間の距離を前記時間差で割って脈波伝搬速度を取得する構成としてもよい。
【0036】
また、覚醒度合検出部6である覚醒度合判定部64が、使用者の安定的な覚醒復帰状態を検出する際に、上述の第1の設定周波数領域若しくは第2の設定周波数領域にパワースペクトル密度(PSD)が出現した後に、第1の設定周波数領域と第2の設定周波数領域とにパワースペクトル密度(PSD)が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことの認識に加え、0.00001Hz以上0.01Hzの以下の周波数領域内に0.0001Hz〜0.001Hzの所定周波数を含んで設定される第3の設定周波数領域、好適には0.0001Hz〜0.003Hzで設定される第3の設定周波数領域に、パワースペクトル密度(PSD)が覚醒状態維持時間の間の解析時間間隔毎に持続的に出現していることを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出すると、より正確且つ確実に覚醒復帰状態を検出することができて好適である。
【0037】
また、出力部5は、スピーカ以外にも、使用者に向けて直接的若しくは間接的に光を照射する光照射部、或いは使用者の座席に設けられ、使用者に振動を与える振動部等、或いはスピーカ、光照射部、振動部等の少なくとも2つの組み合わせとすることも可能である。出力部5を光照射部とする場合、第1の出力を照射光、第2の出力を第1の出力より光量の大きい覚醒作用の大きな照射光、第3の出力を安定的な覚醒復帰を意味する点滅光などの照射光とすると良好である。また、出力部5を振動部とする場合、第1の出力を使用者のお尻若しくは背中等に与える振動とし、第2の出力を振幅が大きい等の振動エネルギーが大きく覚醒作用の大きな振動とし、第3の出力を安定的な覚醒復帰を意味するパターン化された小さな振動とすると良好である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、例えば自動車を運転する運転者の居眠りが予測される前段階の状態を検出し、運転者の覚醒を促す場合に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
1…覚醒度合検出装置 2…センサ部 21…空気容積体 211…本体 212…留め具 22…拍動検知センサ 3…中央処理部 4…入力部 5…出力部 6…覚醒度合検出部 61…脈波取得部 62…パルス列生成部 63…PSD取得部 64…覚醒度合判定部 7…出力制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の動脈血管の拍動を検知するセンサ部と、
前記拍動から脈波を取得し、前記取得した脈波から脈波同期パルス列を生成し、前記生成した脈波同期パルス列から最大エントロピー法を適用して前記脈波同期パルス列の揺らぎであるパワースペクトル密度を取得し、0.01Hz以上1.0Hz以下の周波数領域内に0.1Hz〜0.8Hzの周波数領域を含んで設定される第1の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した場合に、入眠が予測される状態として検出する覚醒度合検出部と、
を備えることを特徴とする覚醒度合検出装置。
【請求項2】
前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が異なる周波数で複数出現したことを認識した後に、0.15Hz以上0.8Hz以下の周波数領域内に0.2Hz、0.3Hz若しくは0.2Hzと0.3Hzとの間の所定周波数を含んで設定される第2の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度が複数出現したことを認識した場合に、入眠状態として検出することを特徴とする請求項1記載の覚醒度合検出装置。
【請求項3】
前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が出現した後に、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第1の設定周波数領域と前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出することを特徴とする請求項1又は2記載の覚醒度合検出装置。
【請求項4】
前記覚醒度合検出部が、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が出現した後に、前記第1の設定周波数領域若しくは前記第1の設定周波数領域と前記第2の設定周波数領域に前記パワースペクトル密度が所定の覚醒状態維持時間の間に出現しないことを認識し、且つ0.00001Hz以上0.01Hzの以下の周波数領域内に0.0001Hz〜0.001Hzの所定周波数を含んで設定される第3の設定周波数領域に、前記パワースペクトル密度が前記覚醒状態維持時間の間の解析時間間隔毎に持続的に出現していることを認識した場合に、安定的な覚醒復帰状態として検出することを特徴とする請求項1又は2記載の覚醒度合検出装置。
【請求項5】
前記覚醒度合検出部が、前記脈波同期パルス列に対し、5秒以内の解析時間間隔毎にサンプリングデータ数4096Hz以上で採取して前記最大エントロピー法を適用することを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の覚醒度合検出装置。
【請求項6】
前記覚醒度合検出部の検出結果に基づいて所定の出力を行う出力部と、
前記覚醒度合検出部の検出結果に基づいて前記出力部の出力を制御する出力制御部とを備え、
前記覚醒度合検出部が前記入眠予測状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から覚醒作用を有する第1の出力を行い、
前記覚醒度合検出部が前記入眠状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から前記第1の出力よりも覚醒作用の大きい第2の出力を行うことを特徴とする請求項2〜5の何れかに記載の覚醒度合検出装置。
【請求項7】
前記出力部を、スピーカ、使用者に光を照射する光照射部若しくは使用者の座席に設けられ使用者に振動を与える振動部とし、
前記第1の出力を、音、照射光若しくは振動とし、
前記第2の出力を、前記第1の出力より覚醒作用の大きい音、照射光若しくは振動とすることを特徴とする請求項6記載の覚醒度合検出装置。
【請求項8】
前記覚醒度合検出部が前記安定的な覚醒復帰状態を検出した場合に、前記出力制御部の制御により、前記出力部から安定的な覚醒復帰を意味する第3の出力を行うことを特徴とする請求項6又は7記載の覚醒度合検出装置。
【請求項9】
前記センサ部が、
使用者の拡張期血圧値に略対応して内圧を65mmHg〜70mmHgに設定され、使用者の頸に装着される空気容積体と、
前記空気容積体に設けられ、使用者の頚動脈の拍動を検知可能な拍動検知センサと、
から構成されることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の覚醒度合検出装置。
【請求項10】
前記センサ部が、
使用者から離間して設けられ、使用者の頚動脈に対して光若しくは超音波を照射して使用者の頚動脈の拍動を検知可能な拍動検知センサから構成されることを特徴とする請求項1〜8の何れかに記載の覚醒度合検出装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−24656(P2011−24656A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−170900(P2009−170900)
【出願日】平成21年7月22日(2009.7.22)
【出願人】(509207302)株式会社最新松本技研 (1)
【Fターム(参考)】