説明

親杭横矢板工法および山留めユニット治具

【課題】横矢板の取り付け作業性を向上する安価な親杭横矢板工法および山留めユニット治具を提供する。
【解決手段】親杭横矢板による山留め工法であって、予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地盤6中に埋設された一対の親杭としての形鋼8間の掘削壁面6aに、連接配置された横矢板2を備える山留めユニット治具10を打ち込み、この横矢板2のみを掘削壁面6aに残して山留めユニット治具10を引き上げることによって、横矢板2を掘削壁面6aに取り付け、山留め壁を構築するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親杭横矢板工法およびこの親杭横矢板工法に用いる山留めユニット治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、地盤を掘削した際の掘削壁面を、略鉛直な状態に保持するための簡易な山留め工法として、親杭横矢板による山留め工法が広く知られている(例えば、特許文献1および2参照)。この工法は、例えば、H形鋼からなる親杭を、予定する山留め壁面に沿って所定の間隔をおいて複数地中に埋設し、掘削の進行に伴って隣接する親杭間に横矢板を上下方向に並べて連接配置することにより、掘削壁面を覆う簡易な山留め壁を構築するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−218320号公報
【特許文献2】特開2001−131977号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、掘削壁面への横矢板の取り付け作業は、掘削壁面が崩落しない深さ(例えば、2m程度)まで地盤を掘削した後、この掘削底に降りた作業員が手作業にて横矢板を一枚づつ親杭間に嵌め込むことにより行っていた。このため、多大な手間と時間を要していた。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、横矢板の取り付け作業性を向上する安価な親杭横矢板工法および山留めユニット治具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の請求項1に係る親杭横矢板工法は、親杭横矢板による山留め工法であって、予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地中に埋設された一対の親杭としての形鋼間の掘削壁面に、連接配置された横矢板を備える山留めユニット治具を打ち込み、この横矢板のみを掘削壁面に残して前記山留めユニット治具を引き上げることによって、横矢板を掘削壁面に取り付け、山留め壁を構築することを特徴とする。
【0007】
また、本発明の請求項2に係る親杭横矢板工法は、上述した請求項1において、前記山留めユニット治具は、横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなることを特徴とする。
【0008】
また、本発明の請求項3に係る親杭横矢板工法は、上述した請求項1または2において、前記山留めユニット治具をバイブロハンマで打ち込むことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の請求項4に係る親杭横矢板工法は、上述した請求項1〜3のいずれか一つにおいて、バイブロハンマで把持した前記山留めユニット治具の下端を山留め壁の背面の裏込め土に当てて、この裏込め土を締め固めることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の請求項5に係る親杭横矢板工法は、上述した請求項1〜4のいずれか一つにおいて、前記形鋼はH形鋼であり、このH形鋼の一方のフランジを予定する山留め壁面に沿って配置しつつ、このH形鋼を地中に埋設したことを特徴とする。
【0011】
また、本発明の請求項6に係る山留めユニット治具は、親杭横矢板工法において親杭間に横矢板を取り付けるために用いる山留めユニット治具であって、横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の請求項7に係る山留めユニット治具は、上述した請求項6において、横矢板と前記ガイド部とを仮固定する釘部材を通すための挿通孔を前記ガイド部に設けたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項8に係る山留めユニット治具は、上述した請求項6または7において、前記平板部の下端を、親杭横矢板工法により構築された山留め壁の背面の裏込め土を突き固め可能な形状に構成したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の親杭横矢板工法によれば、親杭横矢板による山留め工法であって、予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地中に埋設された一対の親杭としての形鋼間の掘削壁面に、連接配置された横矢板を備える山留めユニット治具を打ち込み、この横矢板のみを掘削壁面に残して前記山留めユニット治具を引き上げることによって、横矢板を掘削壁面に取り付け、山留め壁を構築するので、掘削底で横矢板を一枚づつ取り付けずにすみ、横矢板の取り付け作業性を向上することができるという効果を奏する。
【0015】
また、本発明の山留めユニット治具によれば、親杭横矢板工法において親杭間に横矢板を取り付けるために用いる山留めユニット治具であって、横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなるので、この山留めユニット治具を用いることにより掘削底で横矢板を一枚づつ取り付けずにすみ、横矢板の取り付け作業性を向上することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本発明に係る山留めユニット治具の実施例を示す斜視図である。
【図2】図2は、本発明に係る山留めユニット治具の正面図である。
【図3】図3は、本発明に係る山留めユニット治具の背面図である。
【図4】図4は、本発明に係る山留めユニット治具の右側面図である。
【図5】図5は、本発明に係る山留めユニット治具の左側面図である。
【図6】図6は、本発明に係る山留めユニット治具の上面図である。
【図7】図7は、本発明に係る山留めユニット治具の底面図である。
【図8】図8は、山留めユニット治具に横矢板を連接配置した斜視図である。
【図9】図9は、山留めユニット治具の他の実施例を示す斜視図である。
【図10】図10は、山留めユニット治具の他の実施例を示す斜視図である。
【図11】図11は、山留めユニット治具に、運搬および落下防止用の係合孔を設けた場合を示す図である。
【図12】図12は、本発明に係る親杭横矢板工法の工程1を示す図である。
【図13】図13は、本発明に係る親杭横矢板工法の工程2を示す図である。
【図14】図14は、本発明に係る親杭横矢板工法の工程3を示す図である。
【図15】図15は、本発明に係る親杭横矢板工法の工程4を示す図である。
【図16】図16は、本発明に係る親杭横矢板工法の工程5を示す図である。
【図17】図17は、本発明により構築された山留め壁の斜視図である。
【図18】図18は、本発明により構築された山留め壁の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明に係る親杭横矢板工法および山留めユニット治具の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施例によりこの発明が限定されるものではない。
【0018】
[山留めユニット治具]
まず、本発明に係る山留めユニット治具について図1〜図11を参照しながら説明する。本発明に係る山留めユニット治具10は、親杭横矢板工法において親杭間に横矢板を取り付けるために用いるものであり、図1の斜視図、図2〜図7の六面図に示すように、平板部12と、横矢板押さえ部14と、ガイド部16と、把持部18とからなる。
【0019】
平板部12は、図1および図8に示すように、横矢板2を上下方向に連接配置するための配置面12aを有する平板であり、厚さ22mmの鉄板で構成してある。平板部12の下端20は、山留め壁の背面の裏込め土を突き固め可能な形状に形成してある。また、図8に示すように、配置面12aに載せられる横矢板2どうしは互いに桟木4で上下方向に緊結してある。
【0020】
横矢板押さえ部14は、横矢板2の上方向への移動を拘束するためのものであり、配置面12aの上側に溶接等によって固定された100mm×100mmのH形鋼14aと、このH形鋼14aの下フランジ下面側に溶接され、ウェブ面に沿って下方に張り出した鋼板14bとで構成される。鋼板14bは、図8に示すように、横矢板2が配置面12aから脱落しないように横矢板2の上端を係止するためのものである。
【0021】
ガイド部16は、横矢板2の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するためのものであり、配置面12aの左右両側に溶接等によって固定された30mm×30mmの山形鋼で構成してある。ガイド部16の下端部分は斜めにカットしてある。
【0022】
ガイド部16の下側には、図1に示すように、横矢板とガイド部16とを仮固定する釘(釘部材)を通すための挿通孔22が設けてある。これは、治具10をバイブロハンマ等で吊り込んだ際に、横矢板が配置面12aから脱落しないようにしたものである。なお、掘削壁面への打ち込み時にはその振動で釘(釘部材)が折れるようにしてあり、横矢板とガイド部16との仮固定が解かれて、横矢板を掘削壁面に残したまま、治具10のみを掘削壁面から引き抜くことができるようになっている。
【0023】
把持部18は、治具10をバイブロハンマ等で把持するためのものであり、平板部12の上端に設けてある。把持部18は、50mm×100mmの溝形鋼で構成され、ウェブ外面の下側を、平板部12の裏面に溶接等によって固定してある。なお、図9に示すように、把持部18の上端のウェブ外面に、別の溝形鋼18aを溶接した構成としてもよい。こうすることで、バイブロハンマ等による把持性能を向上することもできる。
【0024】
なお、平板部12、横矢板押さえ部14、ガイド部16、把持部18の規格・材質・寸法は、上記の規格・材質・寸法に限るものではなく、横矢板やこれを取り付ける掘削壁面の深さなどの施工条件に応じて適宜選択可能である。例えば、横矢板押さえ部14を溝形鋼等で構成してもよいし、平板部12に対するその取り付け角度を変えてもよい。例えば、図10に示すように、横矢板押さえ部14をH形鋼14c単体で構成し、そのフランジ外面を配置面12aに溶接等で固定した態様としてもよい。
【0025】
また、山留めユニット治具10の運搬および施工中の落下防止等のフェールセーフとするため、治具10をバイブロハンマ側に固定する機構を設けてもよい。この場合、例えば、図11(1)に示すように、横矢板押さえ部14に、係合孔26を有する突出片24を設け、図11(2)に示すように、この係合孔26にバイブロハンマ側に固定されたワイヤ28を接続した構造としてもよい。
【0026】
[親杭横矢板工法]
次に、本発明に係る親杭横矢板工法について図12〜図18を参照しながら説明する。
図12(工程1)および図13(工程2)に示すように、本発明に係る親杭横矢板工法は、親杭横矢板による山留め工法であって、予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地盤6中に埋設された一対の親杭としてのH形鋼8間のフランジ8aの裏面側の掘削壁面6aに、連接配置された横矢板2を備える山留めユニット治具10をバイブロハンマ(不図示)で打ち込んでいくものである。図14(工程3)は、山留めユニット治具10を掘削壁面6aに完全に打ち込んだ状態を示している。
【0027】
次に、図15(工程4)に示すように、横矢板2のみを掘削壁面に残して山留めユニット治具10を引き上げる。こうすることで、横矢板2が掘削壁面に取り付けられる。
【0028】
続いて、図18に示すように、横矢板2の背面に裏込め土30を充填する。図16(工程5)に示すように、山留めユニット治具10をバイブロハンマ(不図示)で把持し、この山留めユニット治具10の下端をこの裏込め土30に突き当て、あるいは差し込んだ状態とし、バイブロハンマによる振動を伝達して裏込め土30を締め固める。このように、バイブロハンマによる振動を与えることで裏込め施工を簡便かつ確実に実施することができる。これにより、図17に示すような山留め壁が短時間で築造され得る。
【0029】
このように、本発明によれば、掘削底で横矢板を一枚づつ取り付けずにすみ、従来の親杭横矢板工法よりも短時間で横矢板の取り付け作業を行える。したがって、横矢板の取り付け作業性を向上することができ、施工期間の短縮と労務費用の節減とを図ることができる。また、横矢板を取り付けるために掘削底に人が立ち入る必要がないので、安全性の向上に寄与することもできる。
【0030】
以上説明したように、本発明の親杭横矢板工法によれば、親杭横矢板による山留め工法であって、予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地中に埋設された一対の親杭としての形鋼間の掘削壁面に、連接配置された横矢板を備える山留めユニット治具を打ち込み、この横矢板のみを掘削壁面に残して前記山留めユニット治具を引き上げることによって、横矢板を掘削壁面に取り付け、山留め壁を構築するので、掘削底で横矢板を一枚づつ取り付けずにすみ、横矢板の取り付け作業性を向上することができる。
【0031】
また、本発明の山留めユニット治具によれば、親杭横矢板工法において親杭間に横矢板を取り付けるために用いる山留めユニット治具であって、横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなるので、この山留めユニット治具を用いることにより掘削底で横矢板を一枚づつ取り付けずにすみ、横矢板の取り付け作業性を向上することができる。
【産業上の利用可能性】
【0032】
以上のように、本発明に係る親杭横矢板工法および山留めユニット治具は、横矢板の取り付け作業性を向上するのに有用であり、特に、親杭間に横矢板を短時間で取り付けるのに適している。
【符号の説明】
【0033】
2 横矢板
4 桟木
6 地盤
6a 掘削壁面
8 H形鋼(親杭)
8a フランジ
10 山留めユニット治具
12 平板部
14 横矢板押さえ部
16 ガイド部
18 把持部
20 平板部の下端
22 挿通孔
24 突出片
26 係合孔
28 ワイヤ
30 裏込め土

【特許請求の範囲】
【請求項1】
親杭横矢板による山留め工法であって、
予定する山留め壁面に沿って所定間隔をおいて地中に埋設された一対の親杭としての形鋼間の掘削壁面に、連接配置された横矢板を備える山留めユニット治具を打ち込み、この横矢板のみを掘削壁面に残して前記山留めユニット治具を引き上げることによって、横矢板を掘削壁面に取り付け、山留め壁を構築することを特徴とする親杭横矢板工法。
【請求項2】
前記山留めユニット治具は、横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなることを特徴とする請求項1に記載の親杭横矢板工法。
【請求項3】
前記山留めユニット治具をバイブロハンマで打ち込むことを特徴とする請求項1または2に記載の親杭横矢板工法。
【請求項4】
バイブロハンマで把持した前記山留めユニット治具の下端を山留め壁の背面の裏込め土に当てて、この裏込め土を締め固めることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の親杭横矢板工法。
【請求項5】
前記形鋼はH形鋼であり、このH形鋼の一方のフランジを予定する山留め壁面に沿って配置しつつ、このH形鋼を地中に埋設したことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の親杭横矢板工法。
【請求項6】
親杭横矢板工法において親杭間に横矢板を取り付けるために用いる山留めユニット治具であって、
横矢板を上下方向に連接配置するための配置面を有する平板部と、
前記配置面の上側に設けられ、横矢板の上方向への移動を拘束する横矢板押さえ部と、
前記配置面の左右両側に設けられ、横矢板の左右方向への移動を拘束し、上下方向への移動を案内するガイド部と、
前記平板部の上端に設けられ、前記平板部を把持するための把持部とからなることを特徴とする山留めユニット治具。
【請求項7】
横矢板と前記ガイド部とを仮固定する釘部材を通すための挿通孔を前記ガイド部に設けたことを特徴とする請求項6に記載の山留めユニット治具。
【請求項8】
前記平板部の下端を、親杭横矢板工法により構築された山留め壁の背面の裏込め土を突き固め可能な形状に構成したことを特徴とする請求項6または7に記載の山留めユニット治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−158926(P2012−158926A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−19787(P2011−19787)
【出願日】平成23年2月1日(2011.2.1)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)
【Fターム(参考)】