説明

親水コーティング剤

【課題】
水まわり設備等に適用される、水流への耐水性を備えた徐溶性被膜を形成する、親水コーティング剤を提供する。
【解決手段】
本発明の親水コーティング剤は、亜鉛(II)イオンの塩と、ポリアクリルアミドと溶媒としての水とを含んでなり、前記塩が0.01mM以上100mM以下、前記ポリアクリルアミドが液剤に対して0.001質量%以上10質量%以下含有されてなり、前記塩の物質量(mol)の、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する比率が1/100以上10以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水まわり部位に適用してなる親水コーティング剤に関する。より詳細には、小便器、大便器のボウル面、洗面化粧台の洗面器ボウル面、キッチンのシンク、浴室内各部などの一時的に水が流れる部位に対して持続的な親水性を付与する親水コーティング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に水洗トイレの便器内部や洗面器内部、浴室の洗い場における床・壁、台所シンク内部のような、一時的に水が流れる環境には、微生物汚れの発生や水垢汚れの付着が生じる。便器においては大便付着・黒ずみ・黄ばみ、浴室においては皮脂汚れ・石鹸カス汚れ・水垢汚れ・黒カビやピンクヌメリ等の微生物汚れ、台所のシンクでは黒ずみ・油汚れ等のような、各環境に特徴的な汚れが発生する。これらの不快な汚れの付着を防止したり、洗浄する方法としては下記のものが挙げられる。
【0003】
特許文献1には第1および第2の発明が開示されている。第1発明として、水溶性ポリマーと有効成分を便器に塗布して被膜を形成し、ポリマーが溶解することで被膜内部に保持した有効成分が溶出して、洗浄性を発揮する液剤組成物および洗浄方法が開示されている。洗浄性を発揮する有効成分としては界面活性剤が開示されている。
【0004】
また、第2発明として、第1発明の液剤とホウ砂を含有する液剤を、それぞれ、便器に塗布して反応させることで被膜を形成し、被膜が溶解しながら内部に保持した有効成分を溶出して洗浄性を発揮する液剤組成物および洗浄方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、床、タイル、壁、シンクなどの表面に形成することで、表面を親水性にするポリマーが提案され、具体的には、N−ビニルイミダゾールN−ビニルピロリドン(PVPVI)ポリマーなどのポリビニルピロリドンのコポリマーが挙げられ、さらに、これに多価金属イオンを添加することで、ポリマーと多価金属イオンとが相互に作用してポリマーの架橋が生じ均一なポリマーマトリクスを形成することで、組成物の粘度を下げることが記載されている。
【0006】
特許文献3には、抗菌性無機金属含有成分にカチオン性高分子および/または塩基性高分子を併用させることで、着色や沈殿を生じにくい抗菌性液体組成物が提案され、具体的には、アニオン性の銀ナノコロイドを担持した金属酸化物に、カチオン性のポリリジンを被覆させることで、直接光の影響を受けにくくなるため、着色や沈殿が生じにくくなることが開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の第1発明や特許文献2、3のような技術では、ポリマー成分の耐水性が小さく持続的な効果が得られない。
また特許文献1の第2発明のようにポリマーとホウ砂とを架橋させることで被膜の耐水性は改善するが、機械的強度が小さいため便器内部のように高頻度で大流速の水が流れる部位や浴室のように40℃以上に加温された温水が触れる部位では、速やかに被膜が溶解消失してしまい持続的に洗浄効果を発揮することは困難である。
【0008】
特許文献4には、トイレの便器内部や洗面器内部、浴室の洗い場における床・壁、台所シンク内部などの水と一時的に接する表面に徐溶性被膜を形成することで、洗浄性と防汚性が提案され、具体的には、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ヒドロキシセルロースの親水性ポリマーが挙げられ、さらに、これに水酸化物を形成する金属塩として、Al、Fe、Cu、Crの金属イオンを添加することで、ポリマーと金属イオンとが相互に作用し、水流への耐久性を備えた徐溶性被膜を形成することで、持続的な防汚効果と抗菌効果を発現することが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開2005−187511号公報
【特許文献2】特表2003−524681号公報
【特許文献3】特開2006−151907号公報
【特許文献4】特許第3826954号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明では、被適用箇所を着色させることなく、水流への耐久性を備えた徐溶性被膜を形成するための親水コーティング剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による親水コーティング剤は、亜鉛(II)イオンの塩と、ポリアクリルアミドと、溶媒としての水とを含んでなり、前記塩が0.01mM以上100mM以下、前記ポリアクリルアミドが液剤に対して0.001質量%以上10質量%以下含有されてなり、前記塩の物質量(mol)の、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する比率が、1/100以上10以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、無色透明な徐溶性の被膜を常温にて形成できるので、硬質表面の水と一時的に接する部位に、被適用箇所を着色させることなく、持続的に被膜表面の親水性を維持できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の理解を容易にするため、以下に本発明の詳細について解説を行う。
【0014】
(適用部位)
本発明の親水コーティング剤は、硬質表面を有する基材の、水と一時的に接する部位に適用できる。硬質表面を有する基材とは、自動車や自転車、自動二輪車の塗装面、タイルホイールのような金属表面、窓ガラスの表面、屋外のタイル建材表面や塗装表面、屋内の水まわり物品の表面などを指す。好ましくは屋内の水まわり物品、自動車車体の塗装面、窓ガラス等の、水と一時的に接する部位である。
水まわり物品の、水と一時的に接する部位とは、トイレ、浴室、台所、洗面所等の空間を構成する物品の、未使用状態では乾燥しているが、使用するときに水が流れる、あるいは水を流すことができる部位のことを指す。具体的には、便器や手洗いボウルの水が流れる表面、浴室の温水が流れる洗い場の壁や床や扉や鏡、調理や食器洗い時に水が流れる台所のシンク表面や排水口周辺、洗顔や歯磨きをする時に水が流れる洗面所のボウル部表面などを指す。
自動車車体の塗装面の、水と一時的に接する部位とは、普段は乾いているが、雨や雪が降ったときに水分と接する車体の塗装面のことを指す。
窓ガラスの、水と一時的に接する部位とは、具体的には、屋内側においては冬場の室内外の温度差が原因で結露水が発生する窓ガラス表面、屋外側においては、普段は乾いているが、雨や雪が降ったときに水分と接する、窓ガラス表面のことを指す。
【0015】
(徐溶性被膜)
徐溶性とは、水がかかったり水が流れた時に、被膜全体が一度に溶解せず、表面近傍の一部が溶解する性質のことである。被膜が徐溶性を有することで、水と接するたびに被膜表面が溶解し、付着した汚れと共に流れ去るため、持続的な防汚性と親水性を発揮することができる。
また、徐溶性被膜とは前記徐溶性を示す被膜である。本発明においては、ポリアクリルアミドと、亜鉛(II)イオンの塩とを含有することにより徐溶性被膜を得ることができる。一方で、例えば高ケン化度のポリビニルアルコールのみを用いても耐水性を備えた被膜形成は可能であるが、水が流れる環境では被膜全体が膨潤して軟化するために、基材と密着している界面から被膜が剥がれて押し流されてしまう。
【0016】
(親水コーティング剤)
本発明の親水コーティング剤は、亜鉛(II)イオンの塩と、ポリアクリルアミドと、溶媒としての水とを含んでなる。本発明の親水コーティング剤によって形成される被膜は、親水性表面を有し、優れた親水性を発現する。
さらには、本発明の親水コーティング剤によって形成される徐溶性被膜は、亜鉛(II)イオンの塩とポリアクリルアミドとを含むことで、水流に対する耐久性を発現し、水まわり部位において持続的な親水性が得られる。これは、亜鉛(II)イオンの塩とポリアクリルアミドが何らかの相互作用により、水流に対する耐久性を発現しているものと推察される。
【0017】
(ポリアクリルアミド)
本発明の親水コーティング剤に用いるポリアクリルアミドは、アクリルアミド、メタアクリルアミド、N−メチルアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、ダイアセトンアクリルアミド等の水溶性であるN置換アルキルアクリルアミドより選択される少なくとも1種のアクリルアミド系モノマーに由来する構成単位を含んでなる。また、ポリアクリルアミドは、無変性のポリアクリルアミド、変性ポリアクリルアミドのいずれも利用可能である。変性ポリアクリルアミドは、両性、アニオン性、カチオン性、およびノニオン性のポリアクリルアミドが挙げられ、ノニオン性基、カチオン性基、アニオン性基の群から選択される少なくとも1種の官能基をポリアクリルアミド分子中に含有する。このような変性ポリアクリルアミドは、例えば、上記モノマーや上記モノマーからなるマクロマーと、アニオン性基、カチオン性基、およびノニオン性基の少なくとも1種の官能基を有するモノマーもしくはマクロマーとの共重合体等が挙げられる。本発明に利用可能なポリアクリルアミドは、ポリアクリルアミドを構成単位とする、アクリルアミド系モノマーに由来する構成単位が10mol%以上100mol%以下含まれていることが望ましく、好ましい下限値は20mol%以上、より好ましくは30mol%以上である。
【0018】
アニオン性基を有するモノマーもしくはマクロマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等のモノカルボン酸系、マレイン酸、フタル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸系、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等のスルホン酸系、またはこれらの各種有機酸のナトリウム塩、カリウム塩、およびこれらの少なくとも1種を含むマクロマー等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0019】
カチオン性基を有するモノマーもしくはマクロマーの例としては、第三級アミノ基を有するモノマーであるジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル誘導体、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド−3−メチルブチルジメチルアミン等の(メタ)アクリルアミド誘導体、塩化ジメチルジアリルアンモニウムや塩化ジメチルジアリルアンモニウム等の、第三級アミノ基を有するモノマーの塩、およびこれらの少なくとも1種を含むマクロマーを挙げることができる。
なお、塩化ジメチルジアリルアンモニウムや塩化ジメチルジアリルアンモニウム等の、第三級アミノ基を有するモノマーの塩としては、塩酸、硫酸のような無機酸との塩でもよいし、ギ酸、酢酸のような有機酸との塩でもよい。さらに、メチルクロリド、メチルブロマイドのようなアルキルハライド、ベンジルクロリド、ベンジルブロミドのようなアルキルハライド、ジメチル硫酸、エピクドルヒドリンなどで第三級アミノ基を四級化した第四級塩でもよい。また、これらは単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
また、アクリルアミド・アクリル酸・2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド・2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド共重合物、アクリルアミド・2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド共重合物などの共重合物を用いても良い。
【0020】
ノニオン性基を有するモノマーもしくはマクロマーとしては、例えばメタクリロニトリル、アクリルニトリル、アルキルアクリレート、ヒドロキシアクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α−メチルスチレン、およびこれらの少なくとも1種を含むマクロマーなどが挙げられ、これらはポリアクリルアミドの水溶性を阻害しない範囲で使用することが可能である。
【0021】
本発明に用いるポリアクリルアミドは、質量平均分子量が10000以上20000000以下のものが選ばれる。ただしここで言う質量平均分子量とは、ポリスチレンを標準試料とした、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる測定値を指す。このような範囲内であれば、所望の膜厚を得やすく、液剤調製時の操作性が良好であり、好ましい。分子量が20000000を超えると、液剤が糸を引きやすくなる等の不具合が起こり好ましくない。
【0022】
(ポリアクリルアミドの量)
本発明の親水コーティング剤に用いるポリアクリルアミドの量は、親水コーティング剤の液剤に対して、0.001質量%以上10質量%以下であり、好ましくは、0.001質量%以上8.0質量%以下、さらに好ましくは、0.001質量%以上4.0質量%以下である。このような範囲内であると、徐溶性を充分に発揮するための膜厚を得ることができるだけでなく、被膜形成の際にスプレーや塗り広げが容易となり、ハンドリングが良い。特にスプレーする場合は、0.001質量%以上2.0質量%以下が好ましく、より好ましくは0.001質量%以上1.0質量%以下である。このような範囲内であると、液剤が霧状に吐出し、施工効率が良い。
ここで述べるスプレーとは、液体に圧力をかけ、液滴を噴出させて吹きつけることを言う。また、コーティング液剤を基材に塗り広げる場合は、0.005質量%以上10質量%以下が好ましく、より好ましくは0.005質量%以上8.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以上8.0質量%以下である。このような範囲内であると、一度に厚膜を形成でき、かつ施工性が良い。
【0023】
(亜鉛(II)イオンの塩)
本発明の親水コーティング剤に用いる亜鉛(II)イオンの塩は、好ましくは20℃での水に対する溶解度が少なくとも0.01質量%の亜鉛(II)イオンの塩である。好ましい亜鉛(II)イオンの塩としては、有機酸塩および無機酸塩のうち、少なくともいずれかであり、有機酸塩としては、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛等が挙げられ、無機酸塩としては、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、りん酸塩等が挙げられる。
また、人体への安全性を確保する観点から塩のラットに対する経口投与のLD50値が300mg/kg以上であるのが好ましい。なお、経口投与のLD50値とは経口摂取における半数致死量のことを示し、一般的にはOECDガイドライン:OECD 420(2001年発効)に従い、動物実験によって測定された値を示す。上記有機酸塩はこの好適な範囲を満たしており、特に好ましい。
【0024】
(亜鉛(II)イオンの塩の量)
本発明の親水コーティング剤における亜鉛(II)イオンの塩(以下、「亜鉛塩」とする)の濃度は、0.01mM以上100mM以下であり、好ましくは、0.1mM以上30mM以下、より好ましくは、0.2mM以上30mM以下、さらに好ましくは、0.5mM以上20mM以下である。
そして、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する亜鉛塩の物質量(mol)の比率は、1/100以上10以下が好ましい。特に、霧状にスプレーする場合は、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する亜鉛塩の物質量(mol)の比率は、1/50以上10以下が好ましい。このような範囲にあると、膜厚保持率が高くなり、かつスプレーする際に都合が良い。さらに、スプレーにて、より高い抗微生物効果を得たい場合は、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する亜鉛塩の物質量(mol)の比率は、1/30以上10以下が好ましく、さらに好ましくは1/15以上10以下が好ましい。このような範囲であると、親水コーティング剤の濃度が低い場合においても、十分な亜鉛塩が含まれているため、より高い抗微生物効果と高い膜厚保持率を得ることができる。なお、該比率が10を超えると液剤の安定性が低下したり、あるいは塗膜が白濁しやすくなる。該比率の好ましい上限値は3以下である。
また、親水コーティング剤を基材に塗り広げる場合は、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する亜鉛塩の物質量(mol)の比率は、1/100以上1/2.5以下が好ましく、より好ましくは1/50以上1/10以下である。このような範囲であると、徐溶性が発現し、かつ親水コーティング剤の濃度が高い場合においても、透明な外観を維持しながら抗微生物効果を得ることができる。
なお、ポリアクリルアミドの単位構造とは、ポリアクリルアミドを構成する、上記アクリルアミド系モノマー由来の構造を指すものである。このような範囲内であると、液剤安定性に優れるとともに透明な被膜が得られ、さらには徐溶性の制御が可能となり、より持続的な防汚効果が得られる。即ち一定時間水流と接触した後の膜厚保持率が異なる被膜を設計することが可能になり、持続的な防汚効果を得ることができる。
【0025】
ここで、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)は、コーティング剤中に含まれるポリアクリルアミドの質量を「MPAA」、ポリアクリルアミドの平均構成単位の化学式量を「CMAA」、ポリアクリルアミドのアクリルアミド系モノマーに由来する構成単位のモル分率を「RAA」とすると、次式
ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)=MPAA/CMAA×RAA
によって求めることができる。アクリルアミド系モノマーに由来する構成単位が複数種類存在する場合は、個々のモル分率の合計から上記物質量を算出するものとする。
なお、上記の式中、ポリアクリルアミドの平均構成単位の化学式量(CMAA)は、ポリアクリルアミドを構成するモノマー由来の構成単位の平均化学式量を指す。したがって、ポリアクリルアミドが、化学式量a、b、cである構成単位A、B、Cを、x、y、zの比率で含む共重合体である場合、ポリアクリルアミドの平均構成単位の化学式量(CMAA)はa×x+b×y+c×zで求められる。ただしここで、x+y+z=1であり、A、B、Cはアクリルアミド系モノマー、アニオン性モノマー、カチオン性モノマー、ノニオン性モノマー等に由来する構成単位を示す。
【0026】
(液性)
実際に使用する場合、人体や周辺部材に対して安全性を考慮すると、液温20℃にて測定した親水コーティング剤のpHは3以上10以下であるのが好ましく、より好ましくは4以上8以下である。
【0027】
(溶媒)
溶媒は水を主成分とする。任意成分として、成分の溶解、乾燥性、貯蔵安定性等の目的により、有機溶媒を適宜配合することができる。
有機溶媒の具体例としては、メタノール、エタノール、n‐プロパノール、イソプロパノール、n‐ブタノール、s−ブタノール、t‐ブタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ジエチレングリコールモノエチレンエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールもノブチルエーテル、グリセリン、アルキルグリセリルエーテル、フェノキシエタノール等が挙げられ、なかでも、液の安定性、施工性、乾燥性を得るために、エタノール、プロパノールなどのアルコールが好ましい。これらの有機溶媒は、単独または2種以上を用いても良い。
有機溶媒の配合量は、0質量%以上20質量%以下が好ましく、より好ましくは0質量%以上10質量%以下である。20質量%を超えて含有すると、安定性の低下、部材への影響、顕著な溶剤臭の発生など、液剤の品質が低下する。
【0028】
(粘度)
本発明の親水コーティング剤は、B形粘度計(例えば東機産業株式会社製「TV‐10形粘度計」)を用いて、液温20℃、回転速度60rpm、回転時間30secの条件により測定した粘度が、1mPa・s以上2000mPa・s以下であるのが好ましい。なお、測定する粘度によりローターの種類を変えて測定する。粘度が10mPa・s未満の場合はLアダプタを用い、10mPa・s以上の場合は、ローターの測定レンジに応じて、適宜、最適なローターを選択して用いる。また、10mPa・s以上の場合は、40mm×120mm(胴径×全長)の110mL容量のガラス容器に親水コーティング剤を入れて測定する。1mPa・s以上の粘度では、水平でない各種部材への液剤の付着・残留性が良く所望の膜厚を得ることができる。
特にスプレーする場合は、1mPa・s以上1000mPa・s以下が好ましく、より好ましくは1mPa・s以上100mPa・s以下、さらに好ましくは1mPa・s以上50mPa・s以下が良い。50mPa・s以下の粘度ではスプレーパターンを形成でき施工効率が良い。
【0029】
(その他の任意成分)
本発明の親水コーティング剤には、亜鉛塩とポリアクリルアミドの他に、下記に例示する界面活性剤、香料、ポリアクリルアミド以外の水溶性高分子、亜鉛塩以外の抗微生物剤、安定化剤、天然抽出物、帯電防止剤、充填剤、消泡剤、脱臭剤などを任意に配合することができる。
【0030】
(界面活性剤)
基材への吸着性や表面張力を小さくして各基材へぬれ性を付与したり、あるいは洗浄性や起泡性等の目的より、界面活性剤を適宜配合することができる。界面活性剤としては、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤等、通常使用されるものを用いることができる。
具体例としては、陰イオン性界面活性剤では、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキル硫酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、α‐オレフィンスルホン酸塩、脂肪酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルキルリン酸塩等が挙げられ、対イオン(陽イオン)は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、アルカノールアミンイオン、アンモニウムイオン等が挙げられる。
両性界面活性剤では、塩化アルキルジアミノエチルグリシン、アルキルカルボキシベタイン、アルキルスルホベタイン等が挙げられる。
非イオン性界面活性剤では、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、脂肪酸ポリグリセリンエステル、脂肪酸ショ糖エステル、脂肪酸アルカノールアミド、アルキルアミンオキサイド、アルキルアミドアミンオキサイド等が挙げられる。
陽イオン性界面活性剤では、アルキルトリメチルアンモニウム塩型カチオン界面活性剤、ジアルキルジメチルアンモニウム塩型カチオン界面活性剤等が挙げられる。さらに具体的には、塩化トリメチルパルミチルアンモニウム、塩化ジメチルアンモニウムジステアリル、塩化ラウリルジメチルベンジルアンモニウム、ジデシルジメチルアンモニウムアジペート、1,4−ビス(3,3´−(1−デシルピリジニウム)メチルオキシ)ブタンジブロマイド等が挙げられる。
界面活性剤は、単独または2種以上を用いてもよい。
【0031】
(香料)
本発明の親水コーティング剤には、賦香等の目的より、香料を任意成分として、適宜配合することができる。
香料成分には、特に限定するものではないが、具体例としては、脂肪族炭化水素、テルペン炭化水素、芳香族炭化水素等の炭化水素類、脂肪族アルコール、テルペンアルコール、芳香族アルコール等のアルコール類、脂肪族エーテル、芳香族エーテル等のエーテル類、脂肪族オキサイド、テルペン類のオキサイド等のオキサイド類、脂肪族アルデヒド、テルペン系アルデヒド、水素化芳香族アルデヒド、チオアルデヒド、芳香族アルデヒド等のアルデヒド類、脂肪族ケトン、芳香族ケトン等のケトン類、アセタール類、ケタール類、フェノール類、フェノールエーテル類、脂肪族、テルペン系カルボン酸、水素化芳香族カルボン酸、芳香族カルボン酸等の酸類、酸アマイド類、脂肪族ラクトン、大環状ラクトン、テルペン系ラクトン、水素化芳香族ラクトン、芳香族ラクトン等のラクトン類、脂肪族エステル、フラン系カルボン酸エステル、脂肪族環状カルボン酸エステル、シクロヘキシルカルボン酸族エステル、テルペン系カルボン酸エステル、芳香族カルボン酸エステル等のエステル類、ニトロムスク類、ニトリル、アミン、ピリジン類、キノリン類、ピロール、インドール等の含窒素化合物等々の合成香料および植物からの天然香料を挙げることができる。香料成分は、単独または2種以上を用いてもよく、通常複数が用いられる。
【0032】
(ポリアクリルアミド以外の水溶性高分子)
本発明の親水コーティング剤には、製膜補助や物理性改良、増粘性等の目的より、ポリアクリルアミド以外の水溶性高分子を任意成分として、適宜配合することができる。
水溶性高分子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ポリビニルピロリドン(PVP)、キサンタンガム等が挙げられる。水溶性高分子は、単独または2種以上を用いてもよい。
【0033】
(pH調整剤)
本発明の親水コーティング剤には、人体への刺激性や適用部材への汚染性の心配をなくすため、および貯蔵安定性等の目的より、pH調整剤を任意成分として、適宜配合することができる。
pH調整剤の具体例としては、塩酸や硫酸などの無機酸や、クエン酸、コハク酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、マロン酸、マレイン酸などの有機酸などの酸剤や、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、アンモニアやその誘導体、モノエタノールアミンやジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどのアミン塩など、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどのアルカリ剤を挙げることができる。pH調整剤は、単独または2種以上を用いてもよい。
【0034】
(抗微生物剤)
本発明の親水コーティング剤には、保存性等の目的により、抗微生物剤、すなわち、抗菌剤、抗カビ剤、または防腐剤を任意成分として、適宜配合することができる。
ここで述べる微生物とは、細菌、酵母、カビ等を指す。ここで述べる抗微生物効果とは、前記記載の微生物に対して、活動、代謝を抑制する、もしくは活動を停止させる、個体数を減じせしめる、または生存個体をなくすことを指す。
抗微生物剤の具体例としては、上記の陽イオン性界面活性剤や、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、ソルビン酸、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エステル、塩化ベンザルコニウム、フェノキシエタノール、イソプロピルメチルフェノール、EDTA、カプリン酸モノグリセライド、チアベンダゾール等を挙げることができる。これらの抗微生物剤は、単独または2種以上を用いてもよい。
【0035】
(親水コーティング剤の調製)
本発明の親水コーティング剤は、溶媒としての水と、亜鉛塩と、ポリアクリルアミドと、任意成分とを混合して調製する。
【0036】
(常温での被膜形成)
被膜形成のために親水コーティング剤を適用するには、水まわり物品の対象表面に、フローコートや図3に示すようにスプレーコートしたり、ウールローラーまたはスポンジのような補助具を用いて塗広げたり、液剤を含浸した不織布で前記部分を擦る方法など任意の手法を利用することができる。対象表面は乾燥していても、水で濡れていても問題なく施工できる。なお、適用前に適用部位の表面を予め洗浄しても良い。また、被膜形成には特に加熱工程は必要なく、常温で30分程度乾燥する養生条件にて、徐溶性を発揮する被膜を形成することができる。
【0037】
(膜厚)
本発明の親水コーティング剤は塗り重ねが可能で、形成した被膜は水流に接して表面から徐々に溶解するため、所望の効果持続期間に応じて、適宜膜厚を設定できる。例えば、スプレーにて、前記適用部位等に適用する場合、1nm以上10μm以下の膜厚が好ましく、長期持続性を必要とする場合10nm以上10μm以下の膜厚が好ましい。さらに好ましくは、20nm以上1.0μm以下が好ましい。なお、膜厚は、触針式表面粗さ計によって測定した膜厚である。例えば、東京精密株式会社製「SURFCOM 1500DX−12」を用い、断面観察モードにて測定したものである。
【0038】
(徐溶性の代用特性)
徐溶性は被膜の膜厚保持率を代用特性として表現している。直立させたスライドガラスに液剤をフローコートして、25℃にて12時間乾燥させたのもを試験片とする。なお、一度のフローコートにより、膜厚測定するための十分な膜厚が得られない場合は、何度か重ね塗りを行う。図1のように、形成した被膜の一部を剥離し、被膜表面とスライドガラス基材表面を探針で連続的に走査して断面形状を測定した膜厚Aを算出する。なお、実際に測定した被膜の膜厚は、0.01μm〜10μm程度の範囲である。次いで、同試験片を図2に示す条件で20℃のイオン交換水に10分間浸漬した後に膜厚Bを測定する。膜厚保持率(%)は、膜厚Aに対する膜厚Bの割合として、次式により算出する。
膜厚保持率(%)=[膜厚B/膜厚A]×100
膜厚保持率(%)は10%以上85%以下であることが好ましい。10%以上の場合、抗微生物効果を発現するために必要な被膜成分が基材表面に残存しているので抗微生物性と防汚性が持続し、85%以下の場合、物理的に付着した汚れを膜表層の溶解によって洗い去ることができる。膜厚保持率が前記範囲に設計されていることで、一時的に水が流れる部位に対しても、持続的な抗微生物効果と、徐溶性による持続的な防汚効果を発揮することが可能となる。
【0039】
(得られる諸機能と用途)
本発明の親水コーティング剤を用いることで、芳香性、抗菌性、抗カビ性、防臭性、消臭性、防汚性、親水性などの機能性を発現できる。
用途としては下記のものが考えられる。
【0040】
(防汚性)
例えばトイレの洗浄水が流れることで被膜表層部が溶解して付着していた汚れが剥離して表面が更新されるため、トイレ洗浄のたびに清浄な表面が得られる。同様の作用を利用して、屋内の水まわりの物品としては、小便器、大便器のボウル面、洗面化粧台の洗面器のボウル面、キッチンのシンク、浴室内各部位に適用できる。また、自動車車体の塗装面、屋内外に面した窓ガラス表面にも使用できる。大便、水垢、ウォーターマーク、皮脂汚れ、石鹸かす、油汚れなどの汚れ防止に効果を発揮する。
【0041】
(抗微生物性/防臭性)
本発明の親水コーティング剤によって形成される被膜は、亜鉛(II)イオンの塩を含有している。そのため被適用箇所を着色させることが無く、かつ、水まわり部位で発生する黒カビやピンクヌメリ等の微生物汚れに対して、優れた抗微生物効果を発現する。さらに、上記の徐溶効果によって、被膜表面部が溶解するたびに亜鉛(II)イオンの塩や任意成分として含有されている抗微生物剤が徐放されるため、水と接する部位に発生しやすい菌・カビの微生物の繁殖を抑制することができる。さらには、水がかかるたびに清浄な表面が形成されるため、微生物の栄養となる皮脂汚れ、石鹸カス汚れ等の付着を抑制でき、より効果的に抗微生物効果を発現できる。また、微生物繁殖が原因で発生する腐敗臭を防臭することもできる。このような用途としては、小便器、大便器のボウル面、洗面化粧台の洗面器のボウル面、キッチンのシンクや排水口周辺、浴室内各部位などに適用できる。
【0042】
(親水性/水膜形成性)
本発明の被膜は、表面が親水性であるため、洗面台の鏡、浴室内の鏡等へ使用することにより持続的な防曇効果を発揮する。さらには、水がかかるたびに清浄な表面が形成されるため、微生物の栄養となる皮脂汚れ、石鹸カス汚れ等の付着を抑制でき、黒カビやピンクヌメリ等の微生物の繁殖を抑制できる。したがって水まわり部位で発生する汚れ(皮脂汚れ、石鹸カス汚れ、水垢汚れ、微生物汚れ等)を抑制可能な防曇剤を提供できる。また、本発明の親水コーティング剤を適用してなる被膜は、表面が親水性または水膜を形成するため、水洗時に洗浄水が表面に濡れ広がりやすく、より少ない水量で付着した汚染物質を洗い流すことが可能となる。さらに、徐溶性を有するため、親水性が長期に持続する。
【0043】
(芳香性)
任意成分として香料を添加すると、上記の徐溶効果によって、香料が徐放されるため、空間に芳香を付与することができる。適用できる用途としては、悪臭が気になる大便器や小便器、浴室やキッチンの排水口周辺部などが挙げられる。
【0044】
(消臭性)
任意成分として消臭剤を添加すると、上記の徐溶効果によって、水がかかるたびに消臭剤が徐放されるため、水がかかるたびに悪臭を消臭することができる。適用できる用途としては、悪臭が気になる大便器や小便器、浴室やキッチンの排水口周辺部などが挙げられる。
【0045】
(噴霧装置)
本発明の親水コーティング剤は、噴霧装置を備えた容器に充填することができる。噴霧装置にはエアゾール式、トリガー式、手動式ポンプ等のスプレーヤーを用いることができ、なかでも手動噴霧装置であるトリガー式または手動式ポンプ等のスプレーヤーが好ましく、特にトリガー式のスプレーヤーが好ましい。手動式噴霧装置は、液温20℃にて、1回のスプレーで0.1g以上2.0g以下、好ましくは0.2g以上1.5g以下、特に好ましくは0.3g以上1.3g以下の組成物が噴出するものが良好である。さらに基材から20cm離れた場所から液温20℃の組成物をスプレーしたとき、1回のスプレーで基材に該組成物が付着する面積は2.5cm以上200cm以下、好ましくは10cm以上200cm以下、より好ましくは20cm以上120cm以下、さらに好ましくは30cm以上100cm以下になる噴霧装置が好ましい。また、本発明に適用可能な噴霧装置は、液剤が吐出される吐出口を密栓する部材を備えていることが好ましい。密栓部材の好ましい態様は、保管時に吐出口の内部の液剤乾燥を防ぐための蓋であり、蓋は取り外しまたは開閉が可能であることが好ましい。
【実施例】
【0046】
親水コーティング剤の原料として以下のものを用意した。
亜鉛塩成分
・酢酸亜鉛(II)二水和物
・グルコン酸亜鉛(II)三水和物
・クエン酸亜鉛二水和物
・乳酸亜鉛三水和物
これらの亜鉛塩はいずれも試薬特級か同等グレードのものを使用した。
水溶性高分子成分
・ポリアクリルアミド(質量平均分子量1600万、変性なし)
・ポリアクリルアミド(質量平均分子量800万、変性なし)
・ポリアクリルアミド(質量平均分子量100万、変性なし)
・カチオン性ポリアクリルアミド(質量平均分子量400万、アクリルアミド・2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド共重合物、アクリルアミド 60mol%)
・カチオン性ポリアクリルアミド(質量平均分子量50万、ホフマン分解物(アクリルアミド・ビニルアミン共重合物)、アクリルアミド 90mol%)

・アニオン性ポリアクリルアミド(質量平均分子量290万、アクリルアミド 90mol%、ポリアクリルアミドの平均構成単位の化学式量:70.8)
・ポリビニルアルコール(ケン化度95%、重合度1700、変性なし)
・カチオン性ポリアクリルアミド(質量平均分子量500万、アクリルアミド・アクリル酸・2−(アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド・2−(メタクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド共重合物、アクリルアミド40mol%、ポリアクリルアミドの平均構成単位の化学式量:148.7)
溶媒
・水(蒸留水)
・エタノール(試薬特級)
界面活性剤
・両性界面活性剤(主成分:塩化アルキルジアミノエチルグリシン)
・ノニオン性界面活性剤(主成分:ポリオキシエチレンラウリルエーテル)
・アニオン性界面活性剤(主成分:ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム

・カチオン性界面活性剤(主成分:ジデシルジメチルアンモニウムアジペート)
香料
・天然精油 PEPPERMINT OIL(豊玉香料(株)製)
【0047】
溶媒としての水に、事前溶解させた各種亜鉛成分と各種水溶性高分子成分、および前述したその他の成分を表1〜3に示す濃度となるように添加して、混合した。
本発明の実施例および比較例の液剤組成を表1〜3にまとめる。得られた各種液剤について、下記の評価試験を行った。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
評価1:徐溶性の評価
例1〜例29の各種親水コーティング剤について、徐溶性の評価試験を段落(0038)に記載の手順に従って評価した。判定は膜厚保持率にて行い、保持率10%以上かつ85%以下を「OK」、保持率10%未満および85%を超えるものを「NG」とした。
【0052】
評価2:被膜の外観評価
各種親水コーティング剤について、被膜の外観評価を次のようにして行った。例1〜例21、例23〜例26の各種親水コーティング剤をガラス板にフローコートし、25℃で12時間乾燥させ試験片を作製した。作製した試験片の外観が、目視にて透明であるものを「OK」とし、目視にて被膜が着色または白濁しているものを「NG」とした。
【0053】
評価1、評価2の評価結果を表4にまとめる。
【0054】
【表4】

【0055】
表4に示すように、例1例19、例24〜29の液剤を用いて作製した被膜の膜厚保持率はすべて10%以上85%以下であり、溶解性が適切に制御された徐溶性を発揮している。
一方、例20〜23(比較)の液剤で形成した被膜は溶解性試験後に被膜は検出できなかった。
【0056】
評価3:抗カビ性の評価
各種親水コーティング剤について、抗カビ性の評価試験を次のようにして行った。各種親水コーティング剤をガラス板に塗り広げ、25℃で12時間乾燥させて試験片を作製した。次いで耐湯試験を行なう前後の抗カビ性を評価した。耐湯試験は、50℃イオン交換水に試験片を10分間浸漬して行なった。試験には実際の浴室から単離したCladosporium sp.を供試した。試験片上に、グルコース0.8質量%、ペプトン0.2質量%含有する栄養液を1/50に希釈した栄養液を500μlとCladosporium sp.の胞子5×10個/mlを接種して、温度27℃湿度90%以上で1週間培養した。判定は、溶解試験前の試験結果が、抗カビレベル1のものを「OK」(良好)、抗カビレベル2以上のものを「NG」(良好ではない)と評価し、溶解試験後の試験結果が、抗カビレベル2以下のものを「OK」(良好)、抗カビレベル3以上のものを「NG」(良好ではない)と評価した。
「抗カビレベル1」:試験片の接種部位に肉眼にてカビの発育が確認できない。
「抗カビレベル2」:試験片の接種部位に肉眼にてわずかにカビの発育が認められる。
「抗カビレベル3」:ブランク片とほぼ同等のカビの発育が認められる。
「抗カビレベル4」:ブランク片以上のカビの発育が認められる。
【0057】
評価3の評価結果を表5にまとめる。
【0058】
【表5】

【0059】
表5に示すように例5、例7〜例15、例17、例18、例27の液剤をコートした試験片では、溶解試験を実施する前後で被膜表面の抗カビレベルは「OK」であった。例20(比較)、例21(比較)、例23(比較)の液剤をコートした試験片は、初期の抗カビレベルで「NG」であった。
【0060】
評価4:抗菌性の評価
親水コーティング剤について、抗菌性の評価試験を次のようにして行った。各種親水コーティング剤をガラス板に塗り広げ、25℃で12時間乾燥させて試験片を作製した。段落(0038)に記載の溶解試験を行う前後の抗菌性能を、JIS Z 2801を参照して大腸菌(IFO3972)を用いて評価した。下式で算出される溶解試験後の試験片被膜面の抗菌活性値Rが、2以上であるものを「OK」とし、2未満であるものを「NG」とした。
【0061】
抗菌活性値R=Log10(Cs/Cb)
Cs:24時間培養後の液剤コート面の大腸菌数
Cb:24時間培養後の未コートガラス面の大腸菌数
【0062】
評価4の評価結果を表6にまとめる。
【0063】
【表6】

【0064】
表6に示すように、例1、例2、例5、例7〜例9、例11、例12、例14、例17、例18、例25〜例27の液剤をコートした試験片では、溶解試験を実施する前後で被膜表面の抗菌性は「OK」であった。
【0065】
評価5:浴室における抗微生物性評価
例11、例27の親水コーティング剤について、浴室空間内に微生物汚れが発生すると答えたモニターによる、浴室部位に対する抗微生物性の評価を行った。まず、例11、例27の親水コーティング剤をトリガータイプスプレーポンプ(Z−305シリーズ、株式会社三谷バルブ製)に充填した。次いで親水コーティング剤を浴室空間の床、壁、排水口まわり、風呂ふた、風呂椅子等の微生物汚れが発生しやすい部位に対して、1日1回満遍なくスプレーした(図3)。そして、2週間経過時の対象部位が、スプレーしていない部位に対して、目視にて微生物汚れが認められないものを「OK」とし、スプレーしていない部位と同等に目視にて微生物汚れが認められたものを「NG」とした。
【0066】
評価5の結果より、例11、例27の親水コーティング剤をスプレーした対象部位においては、2週間経過時において、微生物汚れが認められなかった。一方、スプレーしていない部位においては、黒カビやピンクヌメリ等の微生物汚れが認められた。
【0067】
評価6:水垢付着抑制効果の評価
例1の液剤を10cm角のニッケルクロムメッキ板に塗り広げ、25℃で12時間乾燥して得た被膜表面に、水垢付着を促進させるために、硬度297.5の「エビアン」(登録商標)を5回スプレーした。そして、25℃で12時間経過後に目視にて水垢付着汚れが認められないものを「OK」とし、目視にて水垢付着汚れが認められたものを「NG」とした。
【0068】
例1の液剤を塗布したニッケルクロムメッキ板においては、水垢付着汚れが認められず、「OK」であった。一方、未処理のニッケルクロムメッキ板においては、水垢付着汚れが認められ、「NG」であった。
【0069】
評価7:親水性、水膜形成性の評価
例1の液剤を直径140mmの鏡板に塗り広げ、トリガースプレーでイオン交換水を5回噴霧し、目視にて鏡全体が親水になるもの、または水膜を形成するものを「OK」とし、目視にて撥水するもの、水膜を形成しないものを「NG」とした。
【0070】
例1の親水コーティング剤を塗布した鏡板においては、鏡全体に水膜を形成しており、「OK」であった。一方、未処理の鏡板においては、水膜を形成せず、「NG」であった。
【0071】
評価8:防曇性の評価
例1の液剤をφ140mmの鏡板に塗り広げ、スチーム発生機から発生する水蒸気を1分間あてた後、目視にて鏡全体が曇っていないものを「OK」とし、目視にて鏡全体が曇っているもの「NG」とした。
【0072】
例1の液剤を塗布した鏡板においては、鏡全体が曇っていなく、「OK」であった。一方、未処理の鏡板においては、鏡全体が曇っており、「NG」であった。
【0073】
評価9:大便付着防止性の評価
例1の液剤を、予めブラシ洗浄した便器内の陶器表面の半分にまんべんなく刷毛で塗布し、60分間乾燥した。その後に、トイレの使用を開始し、未処理の表面と比較し、大便付着がないもの、または少ないものを「OK」とし、未処理の表面と同様に大便付着があるものを「NG」とした。
【0074】
評価の結果、未処理の表面には大便付着がみられたが、例1の液剤をコートした表面には大便付着がみられなく、「OK」であった。例1の液剤をコートすることで、持続的な防汚性が発現した。
【0075】
評価10:液剤安定性の評価
例1、例2、例4、例5、例6、例8、例9、例10、例12、例13、例16、例17、例18、例22の液剤を常温の室内に3ヶ月間放置して、目視による外観や状態変化を評価した。沈殿やゲル化、着色の外観変化がないものを「OK」とし、沈殿やゲル化、着色の外観変化が生じているものを「NG」とした。
【0076】
評価10の評価結果を表7に示す。
【0077】
【表7】

【0078】
例1、例2、例4、例5、例6、例8、例9、例10、例12、例13、例16、例17、例18の液剤は、外観や状態の変化は認められず優れた保管安定性を有しており「OK」であった。一方、例22(比較)の液剤は白色の沈殿物が発生しており「NG」であった。
【0079】
評価11:スプレーパターンの評価
例9、例13、例16、例23、例27の液温20℃の液剤とイオン交換水を、トリガータイプスプレー(TS01−MC190P、河野樹脂工業株式会社製)に充填し、トリガー噴霧口から20cm離れた箇所に、噴霧口に対して垂直に吸水紙を配置し、組成物を1回スプレーした。吸水紙に該組成物が付着した面積が10cm以上200cm以下の範囲のものを「○」、付着した面積が10cm未満、または200cmを超えるものを「△」、トリガー噴霧口から吸水紙まで届かず、吸水紙に該組成物が付着しなかったものを「×」とした。
【0080】
液剤は、構成原料を表に記載の組成で処方後、1日間静置した後に、各種評価に用いた。ここで、粘度は、段落(0028)に記載の条件に従って評価した。
【0081】
評価11の評価結果を表8にまとめる。
【0082】
【表8】

【0083】
表8に示すように、例9、例13、例16、例23、例27の液剤をスプレーした場合、どれも吸水紙に液剤が付着した。さらに、例9、例13、例16、例27の液剤については、吸水紙に付着した面積が、どれも10cm以上200cm以下の範囲であった。また、粘度が100mPa・s以上の例23については、吸水紙に付着した面積が、2.5cm以上10cm未満であった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】形成した被膜の膜厚評価方法を模式的に示した図
【図2】表面に被膜を形成した試験片の溶解処理方法を模式的に示した図
【図3】浴室の部材への塗布方法を示した図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛(II)イオンの塩と、ポリアクリルアミドと、溶媒として水とを含んでなり、
前記塩が0.01mM以上100mM以下、前記ポリアクリルアミドが液剤に対して0.001質量%以上10質量%以下含有されてなり、前記塩の物質量(mol)の、ポリアクリルアミドの単位構造の物質量(mol)に対する比率が1/100以上10以下である、親水コーティング剤。
【請求項2】
前記塩は、20℃での水に対する溶解度が少なくとも0.01質量%である、請求項1に記載の親水コーティング剤。
【請求項3】
前記塩が、酢酸亜鉛、グルコン酸亜鉛、乳酸亜鉛、およびクエン酸亜鉛からなる群から選択される、請求項1または2に記載の親水コーティング剤。
【請求項4】
前記ポリアクリルアミドが、ノニオン性基、カチオン性基、アニオン性基、の群から選択される少なくとも1種の官能基を含有してなる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の親水コーティング剤。
【請求項5】
前記ポリアクリルアミドの質量平均分子量(ポリスチレンを標準試料とした、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによる測定値)が10000以上20000000以下である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の親水コーティング剤。
【請求項6】
3〜10のpHを有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の親水コーティング剤。
【請求項7】
溶媒として、炭素数2または3のアルコールをさらに含んでなる、請求項1〜6のいずれか1項に記載の親水コーティング剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−13621(P2010−13621A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−325496(P2008−325496)
【出願日】平成20年12月22日(2008.12.22)
【出願人】(000010087)TOTO株式会社 (3,889)
【Fターム(参考)】