説明

親水性反射防止構造

【課題】光の反射防止機能と親水性とを兼ね備え、例えばフロントウィンドウパネルに適用することによって、メーターフードやデフロスターを不要にすることができる親水性反射防止構造と、このような親水性反射防止構造を備えた、自動車用部品などの構造体を提供する。
【解決手段】例えば、底面径Dが50〜380nmであって、アスペクト比(H/D)が1〜10の無数の円錐状微細突起1が50〜380nmのピッチPで配置されて成る反射防止微細構造において、上記微細突起1の表面における水滴に対する接触角が90°未満となるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の反射防止機能と、表面に付着した水が薄膜状に濡れ広がる親水性とを併せ持つ微細構造に係わり、このような微細構造を備え、低反射防曇パネルとして、例えば、車両、船舶、航空機などの各種ウィンドウパネルや、ミラー表面に好適に使用することができる親水性反射防止構造と、このような親水性反射防止構造を備えた構造体、例えば自動車用部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイやCRTディスプレイなど各種のディスプレイ装置、例えば家庭用テレビの画面に外光や室内の照明などの影が映り込むと、本来の映像の視認性が著しく低下することがある。
また、自動車の運転席には、スピードメータや燃料計などといった各種の計器類をまとめて収納したディスプレイ部があり、このディスプレイ部の像がフロントウィンドウに映り込むことによって、ドライバーの前方視界が妨げられることがある。
【0003】
このような光の反射を防止するための構造としては、例えば特許文献1、2に見られるような多層膜構造を用いた光学素子を用いる方法が従来から知られている。
このような光学素子は、通常、屈折率の異なる各種の膜を多層膜として基体上に積層したものであって、このような積層多層膜の総合的な光学特性を利用して、反射防止機能を実現している。
【特許文献1】特開平11−312330号公報
【特許文献2】特開2000−76685号公報
【0004】
一方、自動車や船舶、航空機等のフロントウィンドウにおいては、室内外の温度差による結露によって曇りが生じ、前方視界における障害物等の視認性が損なわれることがある。そのため、曇りを除去するための装置(デフロスター)を設置している。
【0005】
このようなデフロスターを設置することなく、フロントウィンドウの曇りを除去する方法としては、フロントウィンドウに親水性の材料を用いる方法が知られている。
すなわち、曇りの発生はパネル上に微小な水滴が付着することによって起こるため、パネル表面を親水性にし、水滴を形成させないようにすることによって曇りを防止することができる。
【0006】
このような親水表面の作成方法としては、例えばガラス表面をプラズマ処理することによって表面積を増やす方法が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
なお、デフロスターの設置は、内燃機関を搭載した自動車や船舶においては、エンジンの廃熱を利用できることから、部品点数が増すものの、さほどの負担とはならないのに対し、電気自動車や燃料電池車においては、電力の消費が増すことになるので、デフロスターを使用することなく曇りを防止できることが望ましい。
【非特許文献1】Chen et al.,Surface Science Reports 24(1996),p.1−54
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に記載の多層膜構造を自動車のフロントウィンドウに用いた場合、低反射機能は発揮されるものの、曇りを防止することができないことから、デフロスターの設置が必要となる。
また、フロントウィンドウパネルに、非特許文献1に記載されたようなプラズマ処理を施したものを使用した場合には、デフロスターは不要になるものの、反射防止機能がないため、ディスプレイ部からの出射光を遮ってフロントウィンドウへの映り込みを防止するために、メーターフードが必要となり、その結果、車体デザインの自由度が制限されることになる。
【0008】
本発明は、多層膜を用いた従来の反射防止構造や、プラズマ処理による親水性表面構造における上記課題を解決すべくなされたものであって、その目的とするところは、光の反射防止機能と親水性とを兼ね備え、例えば上記したようなフロントウィンドウパネルに適用することによって、メーターフードと共にデフロスターをも不要にすることができる親水性反射防止構造と、このような親水性反射防止構造を備えた、自動車用部品などの構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、鋭意検討を重ねた結果、反射防止機能を有する微細突起のアスペクト比と共に、当該微細突起の表面を構成する材料の水に対する接触角を制御することにより、上記目的が達成できる条件が存在することを見出し、本発明を完成するに到った。
【0010】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の親水性反射防止構造は、略円形又は多角形底面を有する錐状又は錐台状をなし、底面の直径(底面が円形の場合)又は底面に外接する円の直径(底面が多角形の場合)が50〜380nmであって、アスペクト比が1〜10の無数の微細突起が50〜380nmのピッチで配置されて成るものであって、上記微細突起表面の水滴に対する接触角が90°未満であることを特徴としている。
【0011】
また、本発明の親水性反射防止構造体は、上記した親水性反射防止構造を基材の少なくとも一方の面に備えていることを特徴とし、本発明の自動車用部品は上記親水性反射防止構造を備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、所定のアスペクト比を有し、可視光線の波長よりも短いピッチで配列された無数の微細突起から成る微細構造によって光の反射防止機能が発揮されると共に、この微細構造の表面の水滴に対する接触角が90°に満たないことから、親水性を発揮し、反射防止性と撥水性とを両立させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の親水性反射防止構造やこれを適用した構造体について、その製造方法や実施形態などと共に、さらに詳細に説明する。
【0014】
本発明の親水性反射防止構造は、上記のように1〜10のアスペクト比を有し、可視光線の波長よりも小さい円形又は多角形底面を有する錐状又は錐台状の無数の微細突起から成り、これらが可視光線の波長よりも小さいピッチで配置された構造となっていることから、このような微細構造の厚み方向の各断面における材料の占有面積によって定まる厚み方向の屈折率が急激に変化することなく、空気の屈折率1.0から、材料の屈折率までなだらかに、連続的に変化するようになるため、当該微細構造に入射した光は、ほとんど回折や反射が生じることなく直進することになって、入射表面における光の反射率を効果的に低減することができる。
【0015】
本発明の親水性反射防止構造においては、上記した微細突起表面の水滴に対する接触角が90°未満とすることが必要であり、具体的には、このような接触角を有する材料を当該微細突起を構成する材料として用いることや、任意の材料により形成された微細突起の表面をこのような接触角を有する材料によってコーティング(表面処理)することによって、突起表面の水に対する接触角を90°未満に調整することができる。
【0016】
すなわち、平面上のある領域に上記のような微細突起を形成することによって表面積が増大し、領域内において見かけ上表面張力が増加する。そして、水に対する表面張力が空気に対する表面張力より小さい材料、つまり水に対する接触角が90°未満の材料の場合、表面積の増大によって水はより濡れ広がるようになり、無数の微細突起から成る構造の表面では親水化する。また、微細突起の形状やピッチを上記寸法にすることによって、水滴が完全に濡れ広がって薄膜状になるような超親水性とすることができる。
【0017】
図1〜6は、本発明の微細突起の形態例を示すものであって、本発明において、微細突起1の底面の大きさについては、図1や図2に示すように、その形状が円形の場合にはその直径D、図3に示すように多角形(図では四角形)である場合には当該底面を形成する多角形に外接する円の直径Dで表すものとし、この直径Dと共に微細突起1,1間のピッチPを光の波長程度、具体的には50〜380nmとすることが必要であるが、30〜300nmとすることがより好ましい。なお、D≦Pであることは言うまでもなく、平坦部の割合を少なくして反射率を低くする観点から、D=Pであることが望ましい。
ここで、上記直径DやピッチPが50nmより小さい場合、このような無数の突起1から成る微細構造を均一かつ工業的に得ることが極めて困難となる一方、380nmより大きくなると、拡散や回折が起こって、光の反射率が大きくなってしまうので好ましくない。
【0018】
上記微細突起1のアスペクト比、すなわち突起の高さHと直径Dの比(H/D)については、アスペクト比が1未満では、光反射防止の効果が得られ難く、10を超えると、微細突起1の成型や、成型後の離型が著しく困難となることから、1〜10の範囲とすることが必要である。
なお、アスペクト比が2以上の範囲では、成型及び成型後の離型が比較的容易であると共に、反射防止性能と親水性とを好適に両立することができる。
【0019】
微細突起1の形状としては、上記のような凸型錐状であることが望ましいが、底面から先端に向かって次第に体積が小さくなるような構造であれば、例えば図4に示す錐台状のように、先端が平面であってもよい。
また、各微細突起1の中心と頂点を結ぶ線は底面に対して必ずしも垂直である必要はなく、上記した数値を満たしている限り、図5に示すように傾いていてもよい。
【0020】
また、微細突起1の形状は、正確な円錐(母線が直線)や角錐(稜線が直線)のみならず、先細りとなっている限り、図6に示すように、母線や稜線形状が曲線をなし、側面が外側に膨らんだ曲面であるものであってもよい。また、成形性や耐破損性を考慮して、先端部を平坦にしたり、丸みをつけたりすることも可能である。
【0021】
なお、微細突起1の底面形状は、上記数値を満たしてさえいれば、上記したように真円や楕円などの円形、あるいは多角形でもよいが、反射防止効果に異方性がないようにするためには、円形であることが望ましい。
【0022】
さらに、上記微細突起1の配列については、各微細突起1の形状が上記数値範囲にある限り、規則的な配列であっても不規則なランダム配列であってもよく、また、これら微細突起1から成る微細構造中に、形状の異なる二種類以上の微細突起が含まれていても構わないが、反射防止構造の均一性を向上させるためには、同一形状の微細突起1から成り、微細突起1の間隔が均一であることが好ましく、さらには、図2〜4及び6に示したような正方配列、あるいは図1及び5に示したような六方細密配列とすることが好ましい。
【0023】
上記微細突起1の表面の水に対する接触角、言い換えると微細突起1の少なくとも表面を構成する材料の水に対する接触角は、上記したように90°未満とすることが必要であり、75°以下とすることがより好ましい。
すなわち、表面の水に対する接触角が90°以上では親水性を示さない一方、75°いかであれば、より良好な防曇効果が得られる。
【0024】
また、微細突起1を構成する材料としては、後述する方法によってこのような微細構造を付与することができる材料であればよく、光の屈折率が2.0以下、より好滴には1.7以下であることが望ましい。
すなわち、反射防止機能を高める観点からは、屈折率が小さいほど望ましいが、現状の材料の中では、1.3程度が最小レベルである。
【0025】
このような材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニール、ポリスチレン、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ガラス強化ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、変性ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、フッ素樹脂、ポリアレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、熱可塑性ポリイミド等の熱可塑性樹脂や、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、シリコーン樹脂、ジアリルフタレート樹脂等の熱硬化性樹脂、あるいはこれらを2種以上ブレンドした材料、さらにはガラス、酸化ケイ酸、酸化アルミニウム等の透明無機材料や、上記樹脂に無機材料をコンポジット化した材料を用いることが可能である。
また、材料物性を向上させるために、上記の屈折率範囲を逸脱しない範囲で、例えば、酸化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化インジウム合金等を添加して用いてもよい。
【0026】
ナノインプリントの方法として、後述するように活性エネルギー線を用いる場合には、活性エネルギー線によって重合を開始する樹脂が用いられる。
このような樹脂としては、例えば紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート樹脂、紫外線硬化型エポキシ樹脂を挙げることができ、必要に応じて活性エネルギー線を照射することによってラジカルを発生する重合開始剤を用いることもでき、より強固に固めるためにイソシアネートのような硬化剤を加えることもできる。
このとき用いられる活性エネルギー線としては、一般に紫外線やX線、その他電子線、電磁波などが挙げられるが特に限定されるものではない。
【0027】
上記微細突起1が無数に配列されて成る微細構造を成形する方法については、特に限定されないが、熱プレス法(ホットエンボス法)、射出成形法などを挙げることができ、特に光の波長以下の微細突起1を容易に成形できる方法として、ナノインプリントを用いることができる。
このナノインプリントの方法としては、熱及び活性エネルギー線のどちらを用いる方法であってもよい。ここで、熱を用いる方法は、熱可塑性樹脂を加熱して、金型を押し当て形を転写するものであり、活性エネルギー線を用いる方法は、型に活性エネルギー線にて重合し硬化するポリマー又はオリゴマー、モノマーなどを入れ、紫外線などの活性エネルギー線を照射して、固める方法である。なお、本発明において、ナノインプリントとは、数nmから数10μm程度の大きさを有する微細構造の転写を言う。
【0028】
上記の成形に用いられるスタンパは、本発明の親水性反射防止構造に要求される微細構造を形成できる方法であれば、その製造方法には特に限定は無く、生産性、コストなどを考慮して適宜なものを使用すればよい。
【0029】
また、上記スタンパは、転写されるべき微細なパターンを有するものであり、スタンパにパターンを形成する方法については、特に制限されず、例えば、フォトリソグラフィや電子線描画法等、所望する加工精度に応じて選択することができる。
【0030】
上記スタンパの材料としては、シリコンウエハ、各種金属材料、ガラス、セラミック、プラスチック、炭素材料等、強度と要求される精度の加工性を有するものであればよく、具体的には、Si、SiC、SiN、多結晶Si、ガラス、Ni、Cr、Cu、C、あるいはこれらを1種以上含むものを例示することができる。
【0031】
本発明の親水性反射防止構造の成形に用いるプレス装置としては、加熱・加圧機構を有するものや、光透過性スタンパの上方より活性エネルギー線を照射できる機構を有するものがパターン転写を効率良く行う上で好ましい。
【0032】
表面処理によって親水性を付与する方法としては、微細突起1から成る構造を埋めてしまうような方法でありさえすれば、特に限定されず、例えば、LB法、PVD法、CVD法、自己組織化法、スパッタ法、単分子を溶剤で希釈したものを塗布する方法などを挙げることができる。また、微細構造形成前の平板に任意の厚さに親水処理を施してから、上記した方法によって微細構造を成形してもよい。
【0033】
本発明の親水性反射防止構造を備えた部品(親水性反射防止構造体)は、光に曝される場所に用いられることから、光による劣化を防止するために、材料に紫外線吸収剤や酸化防止剤、ラジカル補足剤などを添加しておくことが望ましい。
また、必要に応じて、樹脂の劣化による黄変を補うためのブルーイング剤や蛍光発色顔料を用いることもきる。
【0034】
本発明の親水性反射防止構造を形成する場合、少なくとも基材の片面側に形成するが、用途に応じて、光の入射面及び透過光の出射面の両面に形成してもよい。
このような微細構造の形成方法は、特に限定はなく、例えば、基材に直接形成する方法、あるいは基材と同じ屈折率で成形が容易な塗布物を塗布して薄膜を作り、そこに微細構造を転写する方法などを適用することができる。
【0035】
また、この親水性反射防止構造をウィンドウパネルに形成する際には、室内側に形成することが最も効果的であり、この構造を片面に付与すれば、その裏面側には、従来の反射防止方法を適用することもできる。
このような反射防止方法としては、例えば、光の波長以下の微細突起から成る構造のみを形成してなる反射防止構造(水との接触角不問)を適用する方法や、反射防止層の膜厚を制御して、薄膜表面と基材接着面との反射光を干渉させ反射光を打ち消す方法などが挙げられる。
【0036】
本発明の親水性反射防止構造を備えた成形品(親水性反射防止構造体)としては、カメラのレンズ、携帯電話、電子手帳などのモバイル機器、看板、時計など、透明パネルや表示装置の最前面で反射防止を必要とし、曇りが生じる可能性があるようなものに使用される。
【0037】
表示装置の形式としては特に限定されず、例えば、アナログメーターのように機械的な表示と照明を組み合わせた方式、デジタルメーターやモニターのように液晶やLED、ELなどのバックライトや発光面を用いた方式に適用することができる。さらには、モバイル機器のように反射方式の液晶を用いることもある。
また、自動車用部材として、フロントウィンドウやリアウィンドウの室内側、サイドミラーの表面などに用いることができる。なお、これらの部材は自動車に限定されるものではなく、航空機、電車、船舶など、室内外が透明パネルによって仕切られるような場合に、好適に用いることができる。
【実施例】
【0038】
以下に、本発明を実施例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0039】
(実施例1)
まず、市販の電子線描画装置を用いて、開口径250nm、深さ500nmの円錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのSiOゾルゲル膜(水に対する接触角:40°、屈折率:1.45)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに六方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0040】
このようにして得られた親水性反射防止構造体について、以下の要領によって、反射防止機能、親水機能について評価した。この結果を表1に示す。
【0041】
〔平均反射率の測定〕
反射防止機能の評価方法としては、380〜780nmの各波長について、変角分光光度計(大塚電子製:可視・近赤外自動変角測定装置)により、入射角0°のときの反射率を測定し、得られた値から平均反射率を算出した。
【0042】
〔接触角の測定〕
親水機能の評価方法としては、接触角計(協和界面科学社製:CA−X)を用いて、得られた親水性反射防止構造体上に、10μLの水を滴下し、その接触角を測定した。なお、上記接触角計による測定下限値は5°であり、接触角が5°未満の場合には、表面に付着した水がほぼ薄膜状に濡れ広がり、ほとんど超親水性を示すものと判断される。
【0043】
当該実施例1で得られた親水性反射防止構造体の可視光範囲における平均反射率は0.06%、水との接触角は5°未満であった。
【0044】
(実施例2)
上記実施例1と同様の方法によって、四角形をなす開口部の対角線の長さが250nm、深さ750nmの四角錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのSiOゾルゲル膜(接触角:40°、屈折率:1.45)の表裏両面に、四角形底面に外接する円の直径D=250nm、高さH=750nmの四角錐形微細突起1(アスペクト比:3)がピッチP=250nmに六方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0045】
得られた親水性反射防止構造体について、上記した方法により、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.008%であり、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0046】
(実施例3)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径300nm、深さ3000nmの円錐状凹部がピッチ300nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMA(ポリメタクリル酸メチル、接触角:70°、屈折率:1.49)の表裏両面に、底面径D=300nm、高さH=3000nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:10)がピッチP=300nmに六方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0047】
得られた親水性反射防止構造体について、上記した方法により、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.009%であり、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0048】
(実施例4)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径250nm、深さ250nmの円錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMA(接触角:70°、屈折率:1.49)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=250nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:1)がピッチP=250nmに六方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0049】
そして、得られた親水性反射防止構造体について、上記同様の方法により、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.86%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0050】
(実施例5)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径50nm、深さ200nmの円錐状凹部がピッチ200nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMA(接触角:70°、屈折率:1.49)の表裏両面に、底面径D=50nm、高さH=200nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:4)がピッチP=200nmに正方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0051】
そして、得られた親水性反射防止構造体について、上記同様の方法によって、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.62%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0052】
(実施例6)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径350nm、深さ1050nmの円錐状凹部がピッチ350nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMA(接触角:70°、屈折率:1.49)の表裏両面に、底面径D=350nm、高さH=1050nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:3)がピッチP=350nmに正方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0053】
得られた親水性反射防止構造体について、上記した方法により、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.08%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0054】
(実施例7)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径250nm、深さ750nmの円錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPS(ポリスチレン、接触角:91°、屈折率:1.6)基板の片面にシリカ(接触角:30°、屈折率:1.45)による表面処理を施した基板の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=750nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:3)がピッチP=250nmに正方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0055】
得られた親水性反射防止構造体について、上記した方法により、反射防止機能及び親水機能を調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.19%、シリカ処理面における水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0056】
(実施例8)
上記実施例1と同様の方法により、開口径250nm、深さ750nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMAに酸化チタンを分散させたもの(接触角:60°、屈折率:1.7)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=750nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:3)がピッチP=250nmに正方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0057】
得られた親水性反射防止構造体について、反射防止機能及び親水機能を同様の要領で調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.08%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0058】
(実施例9)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径250nm、深さ750nmの円錐状凹部がピッチ250nmに正方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMAに酸化チタンを分散させたもの(接触角:60°、屈折率:2.0)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=750nmの円錐形微細突起(アスペクト比:3)がピッチP=250nmに正方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0059】
そして、得られた親水性反射防止構造体について、反射防止機能及び親水機能を同様の要領で調査した結果、可視光範囲での平均反射率は0.23%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0060】
(実施例10)
上記実施例1と同様の方法により、開口径250nm、深さ750nmの円錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmの酸化チタン(接触角:5°未満、屈折率:2.6)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=750nmの円錐形微細突起1(アスペクト比:3)がピッチP=250nmに六方配列された微細構造を転写し、本例の親水性反射防止構造体を得た。
【0061】
得られた親水性反射防止構造体について、反射防止機能及び親水機能を同様の方法により調査した結果、可視光範囲での平均反射率は1.17%、水滴の接触角は5°未満であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0062】
(比較例1)
上記実施例1と同様の方法により、開口径200nm、深さ180nmの円錐状凹部がピッチ200nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのPMMA(接触角:70°、屈折率:1.49)の表裏両面に、底面径D=200nm、高さH=180nmの円錐形微細突起(アスペクト比:0.90)がピッチP=200nmに六方配列された微細構造を転写し、本比較例の構造体を得た。
【0063】
そして、得られた構造体の反射率及び接触角を同様の方法により測定した結果、可視光範囲での平均反射率は1.4%、水滴の接触角は50°であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0064】
(比較例2)
上記実施例1と同様の方法によって、開口径250nm、深さ500nmの四角錐状凹部がピッチ250nmに六方配列したスタンパを作製し、このスタンパを用いて、厚さ2mmのポリスチレン(接触角:91°、屈折率:1.6)の表裏両面に、底面径D=250nm、高さH=500nmの四角錐形微細突起(アスペクト比:2)がピッチP=250nmに六方配列された微細構造を転写した。
【0065】
得られた構造体の性能について、反射率及び接触角を同様の方法により測定した結果、可視光範囲での平均反射率は0.11%、水滴の接触角は146°であった。これらの結果を表1に併せて示す。
【0066】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の親水性反射防止構造の形態例として、円錐状をなす微細突起が六方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【図2】同じく本発明の親水性反射防止構造の形態例として、円錐状をなす微細突起が正方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【図3】同じく本発明の親水性反射防止構造の形態例として、四角錐状をなす微細突起が正方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【図4】同じく本発明の親水性反射防止構造の形態例として、円錐台状をなす微細突起が正方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【図5】同じく本発明の親水性反射防止構造の形態例として、傾斜した円錐状をなす微細突起が六方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【図6】同じく本発明の親水性反射防止構造の形態例として、曲線の母線を有する略円錐状をなす微細突起が正方配列された例を示す側面図及び平面図である。
【符号の説明】
【0068】
1 微細突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円形又は多角形底面を有する錐状又は錐台状をなし、底面又は底面に外接する円の直径が50〜380nm、アスペクト比が1〜10の無数の微細突起が50〜380nmのピッチで配置されて成り、上記微細突起表面の水滴に対する接触角が90°未満であることを特徴とする親水性反射防止構造。
【請求項2】
上記微細突起を構成する材料の水滴に対する接触角が90°未満であることを特徴とする請求項1に記載の親水性反射防止構造。
【請求項3】
上記微細突起を構成する材料の屈折率が2.0以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の親水性反射防止構造。
【請求項4】
上記微細突起のアスペクト比が2以上であり、表面の水滴に対する接触角が75°以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の親水性反射防止構造。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の親水性反射防止構造を基材の少なくとも一方の面に備えていることを特徴とする親水性反射防止構造体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1つの項に記載の撥水性反射防止構造を備えていることを特徴とする自動車用部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−158293(P2008−158293A)
【公開日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−347426(P2006−347426)
【出願日】平成18年12月25日(2006.12.25)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】