説明

親水性基材の色素の光褪色防止方法

【課題】食品等の親水性基材の光褪色を防止する方法を提供する。
【解決手段】ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下であって、すりみに塗布した後に色素を塗布し、3000ルクスで48時間光照射したときの、該色素の光照射前に対する光照射後の色調の褪色度合い(ΔE値=光照射後の色調−光照射前の色調)が5.3以下となる抗酸化剤を親水性基材に塗布した後に、色素を該親水性基材に塗布することを特徴とする親水性基材の色素の光褪色防止方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、色素で染着された食品、香粧品、医薬品等の親水性基材の褪色防止方法に関するものである。具体的には、光による褪色を効果的に防止する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品、香粧品、医薬品には、天然色素または合成色素により着色されているが、色素の褪色が従来より問題となっていた。特に飲食品においては、天然物由来の色素の使用が望まれているが、天然色素は変色しやすいため、特に優れた褪色防止方法が求められていた。
【0003】
色素の褪色防止方法として、抗酸化剤を食品等に添加する方法が知られている。 抗酸化剤としては、例えば、クロロゲン酸、カフェー酸、フェルラ酸等が知られているが、これらは、加熱による色素褪色を抑制する効果は比較的大きいが、光照射による色素褪色防止効果は必ずしも充分ではない。
一方、従来は、抗酸化剤及び色素を同時に食品に塗布していた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように、従来の褪色防止方法では、十分な効果が得らておらず、更なる褪色防止方法の改良が求められていた。特に、光に対する褪色防止方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、食品、香粧品、医薬品等の親水性基材に、最初に特定の抗酸化剤を塗布した後、色素を塗布すると、色素の褪色が効果的に防止できることを見出し、本発明に到達した。
【0006】
すなわち、本発明の要旨は、ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下であって、すりみに塗布した後に色素を塗布し、3000ルクスで48時間光照射したときの、該色素の光照射前に対する光照射後の色調の褪色度合い(ΔE値=光照射後の色調−光照射前の色調)が5.3以下となる抗酸化剤を親水性基材に塗布した後に、色素を該親水性基材に塗布することを特徴とする親水性基材の色素の光褪色防止方法に存する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の方法は、食品、香粧品、医薬品等の親水性基体の色素の褪色を効果的に防止する。特に、光に対する褪色を効果的に防止する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について、さらに詳細に説明する。
本発明おいては、ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下の抗酸化剤を使用する。ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下の抗酸化剤とは、30℃で、1Lのヘキサンに溶解する抗酸化剤の重量が、50g以下であることを意味する。ヘキサンへの溶解度は、30g/L(30℃)以下のものが好ましく、特には、10g/L(30℃)以下のものが好ましい。抗酸化剤は、一般的に非油溶性抗酸化剤といわれているものが好ましい。非油溶性とは、植物油等の天然の油脂への溶解性がほとんどない、すなわち、トリグリセリドに対する溶解度が0.1%以下のものをいう。特に、紫外線を吸収したり、一重項酸素及び活性酸素を除去する能力を持つものが望ましい。
【0009】
本発明に使用できる抗酸化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール等の紫外線吸収剤、ニッケル錯体、BHT(2,6-di-tert-butyl-4-hydroxytoluene)、BHA(tert-butyl-4-hydroxyanisole )類縁体等の合成抗酸化剤、カテキン等のフラボノイド系、タンニン、ブドウ種子物等のオリゴフラボノイド系、没食子酸、ロスマリン酸等のフェノールカルボン酸系、ジテルペン系のローズマリー抽出物等の天然抗酸化剤が挙げられる。また、抗酸化剤として、ぶどう種子物あるいは茶抽出物のようなオリゴマーを有するもの、ローズマリー抽出物、ヤマモモ抽出物も例示できるが、中でもローズマリー抽出物が好ましく、特に水溶性のローズマリー抽出物が好ましい。
【0010】
本発明に使用できる色素としては、例えば、アゾ染料、トリフェニルメタン系染料、キサンテン系染料等の合成色素及びカロチノイド系、カルコン系、ジケトン系、アントシアニン系、ベタシアニン系、ポリフェノール系、ポルフィリン系、キノン系、アザフィロン系、フィコシアニン系、イリドイド系、カラメル系等の天然色素が挙げられる。中でも、アントシアニン系、ベタシアニン系、アザフィロン系、フィコシアニン系、イリドイド系、カロテノイド系が好ましい。
本発明は、色素が抗酸化剤より親水性が低い場合に、特に優れた効果を発揮する。
本発明では、色素は、水への溶解度が300g/L(30℃)以下で、かつ、エタノールへの溶解度が100g/L(30℃)以上であることが好ましい。
【0011】
本発明に使用される親水性基材としては、必ずしも水溶性でなくてもよいが、少なくとも基材表面に、カルボキシレート基、水酸基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基等の極性基及びカルボキシレートイオン基、スルホン酸イオン基、アンモニウムイオン基等のイオン性基等の親水性基を有するものである。親水性基材としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン等の水溶性高分子やセルロース系水溶性化合物、アミロース等のでんぷん、ペクチン等の多糖類、練り製品として用いられる蛋白質等が挙げられる。本発明は、親水性の食品、香粧品、医薬品に実施できるが、食品に特に適している。食品としては、加工食品、練り製品、水産加工品等が挙げられ、具体的には、漬け物、麺、蒲鉾等が例示できる。中でも、本発明は、蒲鉾への使用に適している。香粧品には、化粧品の他、ブレスケア粒剤等が含まれる。
【0012】
本発明では、親水性基材に特定の抗酸化剤を塗布し、抗酸化剤を十分に基材になじませた後、次いで親水性基材に色素を塗布する。親水性基材に対する抗酸化剤の塗布方法は、インクジェット、スプレー等による吹き付け、はけぬり、感熱転写、浸漬等が挙げられる。親水性基材に対する色素の塗布方法も、同様の方法が使用できる。尚、抗酸化剤の塗布方法と、色素の塗布方法は、同一でも、異なっていても良い。
【0013】
本発明の塗布方法により、優れた褪色効果が得られる理由は以下の様に推定される。ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下の抗酸化剤を最初に親水性基材に塗布すると、この抗酸化剤は親水性が高いので、基材表面の親水性基と、親和力で結合し、基材の表面に抗酸化剤の膜が形成される。その後に基材に色素を塗布すると、色素が基材表面に形成された抗酸化剤の膜により浸透を妨げられ、基材の表面、すなわち抗酸化剤の膜上に止まることになる。これにより、抗酸化剤と色素が常に同一層状に位置することになり、抗酸化剤の色素に対する褪色防止効果が有効に働くことになる。
【0014】
これに対し、従来法の通り、抗酸化剤と色素を同時に塗布すると、抗酸化剤の膜が基体表面に形成される前に、色素が基材の内部に浸透する場合がある。特に、基材に対する色素と抗酸化剤の浸透速度に差が大きい場合には、この傾向が強くなる。その結果、抗酸化剤と色素が基材の中で分離して存在し、抗酸化剤の色素褪色防止効果が十分に発揮されないものと思われる。
【0015】
抗酸化剤、色素の基材への塗布量は、基材の種類によって適宜選択される、抗酸化剤は、一般には、食品100重量部に対して、0.001〜10重量部、好ましくは0.001〜2重量部塗布される。色素は、一般には、食品100重量部に対し、0.01〜 50重量部、好ましくは0.01〜10重量部塗布される。
【0016】
抗酸化剤は、色素100重量部に対して、一般に0.1〜20重量部、好ましくは0.1〜15重量部、特に好ましくは、5〜10重量部塗布される。
【実施例】
【0017】
使用する各種抗酸化剤、各種色素を以下に示す。
<抗酸化剤>
(1) 水溶性ローズマリー抽出物(三菱化学フーズ社製 商品名;RM21Abase):ヘキサンへの溶解度 0.1g/L(30℃)
(2) 油溶性ローズマリー抽出物(三菱化学フーズ社製 商品名;RM21Bbase):ヘキサンへの溶解度 10g/L(30℃)
(3) ぶどう種子物(常磐植物科学研究所社製 商品名;ビノフェン):ヘキサンへの溶解度 25g/L(30℃)
(4) 茶抽出物(常磐植物科学研究所社製 商品名;ティアカロン:ヘキサンへの溶解度 8g/L(30℃)
(5) アスコルビン酸(東京化成社製):ヘキサンへの溶解度 0.1g/L(30℃) (6) ヤマモモ抽出物(三栄源社製 商品名;サンメリー):ヘキサンへの溶解度 1g/L(30℃)
【0018】
<色素>
(1) 紅麹色素(アザフィロン系色素 三菱化学フーズ社製 商品名;ルビルカ)
(2) クチナシ黄色素(カロテノイド系色素 三菱化学フーズ社製 商品名:イエロシン)
(3) 赤ダイコン色素(アントシアニン系色素 三菱化学フーズ社製 商品名;レッドカラーAD)
(4) 赤キャベツ色素(アントシアニン系色素 三菱化学フーズ社製 商品名;レッドカラーDC)
(5) スピルリナ色素(フィコシアニン系色素 三菱化学フーズ社製 商品名;リナブルー)
【0019】
実施例1
すりみ60.0g、塩0.2g、卵白40.0gに水15.0gを加え、ミキサーで完全につぶがなくなるまで混合し、シート状に基材を形成した。前記抗酸化剤(1) 〜(6) を、10%エタノール水溶液に溶解して、抗酸化剤の1%溶液を調製した。この溶液を基材にスプレーして、均一に塗布した(抗酸化剤の合計塗布量;1.152g)。その後、前記色素(1) の紅麹色素:エタノール:水=45:5:50の溶液を調製し、この溶液を基材にスプレーして、均一に塗布した(色素の合計塗布量;11.52g)。作成した基材に、光照射機(3000ルクス、25℃)で48時間照射し、褪色の度合いを調べた。結果を表1に示す。
【0020】
比較例1
すりみ60.0g、塩0.2g、卵白 40.0gに水15.0gを加え、ミキサーで完全につぶがなくなるまで混合し、シート状に基材を形成した。色素溶液(前記色素(1) の紅麹色素:エタノール:水=45:5:50)100重量部に、前記抗酸化剤(1) 〜(6) 各4.5重量部を添加し、これを混合溶解させた。この溶液を、基材にスプレーして、均一に塗布した(色素の合計塗布量;11.52g、抗酸化剤の合計塗布量;1.152g)。作成した基材に、実施例1と同様に光照射を行い、褪色の度合いを調べた。結果を表1に示す。
【0021】
【表1】

【0022】
尚、各色素および各抗酸化剤を塗布した時の褪色度合い(ΔE値)は、光照射前の色調と、光照射後の色調の差を表した値で、値が大きいものほど、色の変化が大きい。
表1から、本発明の方法は、従来の方法と比較し、相対的に、色素の褪色が小さいことが解る。
【0023】
紅麹色素の代わりに前記色素(2) 〜(5) (クチナシ黄色素、赤ダイコン色素、赤キャベツ色素、スピルリナ色素)を用いることを除いて、実施例1及び比較例1と同様に行った。ただし、色素の褪色度合いは、目視により確認した。その結果、抗酸化剤を基材に塗布した後に、色素を基材に塗布した方が、褪色度合いは小さかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘキサンへの溶解度が50g/L(30℃)以下であって、すりみに塗布した後に色素を塗布し、3000ルクスで48時間光照射したときの、該色素の光照射前に対する光照射後の色調の褪色度合い(ΔE値=光照射後の色調−光照射前の色調)が5.3以下となる抗酸化剤を親水性基材に塗布した後に、色素を該親水性基材に塗布することを特徴とする親水性基材の色素の光褪色防止方法。
【請求項2】
親水性基材が食品、香粧品、または医薬品である請求項1に記載の親水性基材の色素の光褪色防止方法。

【公開番号】特開2006−68023(P2006−68023A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−318204(P2005−318204)
【出願日】平成17年11月1日(2005.11.1)
【分割の表示】特願2000−344587(P2000−344587)の分割
【原出願日】平成12年11月13日(2000.11.13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】