説明

観察試料の作製方法

【課題】 変質のない良好な透過電子顕微鏡用観察試料の作成方法を提供すること。
【解決手段】 試料1を銅リング3に接着する際、試料1の向きを従来のそれに対して90°回転させることでFIB加工面をダイシング加工面1b方向にする。試料1のダイシング加工面1b側からトレンチ1cを含む領域をFIB加工する。FIB加工方向をこのように変更することで、埋め込みトレンチ1cを側面方向から薄片化できるため、加工深さはトレンチ幅(5μm)程度で済み、観察部位の非結晶化等は発生せず、良質なTEM用観察試料を作製可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、半導体デバイス等の特定箇所における試料の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体の微細化・高性能化を目的とし、デバイス界面のより厳密な制御を行うことが求められている。そのデバイス界面の情報を得ることは重要であり、情報を得るための手段として透過電子顕微鏡(以下TEMと表記)(TEM:Transmission Electron Microscope)による観察が不可欠である。TEMにより断面観察を行うためには、試料の観察対象部位を加速電子が透過できる厚さ(0.1μm程度)にまで薄膜化しなければならない。一般的に薄片化の方法としてFIB(収束イオンビーム)法が用いられており、以下図面を参照しながらTEM用観察試料作製方法について説明する。図1〜図5はFIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示したものである。図中の1はシリコン(以下Siと表記)基板をダイシング加工して得られた試料、2は試料1における断面形状をTEM観察する個所であり、この部分を透過電子線(加速電圧200kV)が透過可能な0.1μm程度まで薄片化する。
【0003】
加工方法はSi基板をダイシング加工により図1の形状に加工して試料1を用意する。次に試料1をFIB加工用治具に取り付けるために図2に示すように銅のリング3に試料1を接着剤にて固定する。次にFIBによる粗加工前処理として試料表面がイオンビームによりエッチングされるのを防ぐことを目的として特許文献1に記載されているように、試料1の表面にPt(白金)、W(タングステン)等の金属保護膜を形成する。例えば試料1(Si基板)の表面に金属保護膜としてPt(プラチナ)を成膜する場合、有機プラチナ(CH)(CH)Ptをガス化したものをSi基板表面に供給し、Si基板表面の特定個所にGa(ガリウム)収束イオンビームを照射することで、Ptと有機物を分離しPtのみを試料1の表面に成膜しPt保護層を形成する。
【0004】
次に図3のようにFIBにより試料1の観察個所2の付近の粗加工を行う。最後に図4に示すように試料1の観察個所の極周辺の仕上げ加工により厚さ0.1μm程度のTEM用の試料1を作成する。以上の方法で作成された試料1は図5(平面図)に示す配置でTEMによる観察が可能である。なお、厚さ0.1μm程度の薄膜観察部分の応力による変形を防ぐために、そこに切り込みを入れたり、柱を形成したりすることも行われている(特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2002−174571号公報
【特許文献2】特開平11−144659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば、図6のような、SJ(Super Junction:超接合)素子(MOSFET)のような非常に深い(25〜50μm)埋め込みトレンチを有する素子(図6中、4はゲート電極、5はソース電極、6はドレイン電極、7はゲート酸化膜、8はソース、9はドレイン、10はエピタキシャル層である)を観察対象とした場合、従来はダイシング加工後に試料表面側(トレンチ開口部側)から上記方法により集束イオンビーム加工を行っていた。この様子を図10に示す。すなわち、図10の(a)に示すように試料1を銅リング3に固定し、図10の(b)に矢印で示すように、Ga収束イオンビームと同方向(図10の(a)参照)から集束イオンビームを照射し加工するので、加工はトレンチ1cの開口部側から深さ方向に進んでいく。しかし、この方法では仕上げ加工時に(1)試料表面付近の欠陥や空隙等の上部形状によるFIB加工痕の発生(図7中、矢印参照)、(2)トレンチ開口部付近における観察個所の変質(非晶質化)、(3)応力による観察個所(トレンチ開口部付近)の変形(図8参照)などが度々発生し、観察個所全体に渡って良質なTEM用観察試料を作成することが難しかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、以上のような問題を解消した透過電子顕微鏡用観察試料の作成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の問題を解決するために、本発明は、観察試料のダイシング加工面側から集束イオンビームを入射することによって、前記試料をエッチング加工して、当該試料の観察対象部位を含む領域を薄膜化することを特徴とする。
【0009】
また、前記試料の観察対象部位を複数の領域に分けて集束イオンビーム加工し、各加工領域の間に仕切りを残すこともできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、集束イオンビーム加工面を試料表面からダイシング加工面へ変更することで、FIB加工深さを大幅に浅くすることができ、試料表面付近の観察部位の消失・観察部位の変質(非晶質化)・応力による試料表面付近観察部位の変形等のない良質なTEM用観察試料を作成可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の実施形態によれば、図9の(a),(b)に示すように、試料1を銅リング3に接着する際、試料1の向きを従来のそれ(図10参照)に対して90°回転させることでFIB加工面を従来の試料表面方向からダイシング加工面方向へ変更する。1aは試料1の表面、1bは試料1のダイシング加工面である。ついで、図11の(a)に示すように、試料1のダイシング加工面1bに対して例えばGa収束イオンビームを照射して金属保護膜を形成する。ついで、図11の(b)にFIB加工方向を矢印で示すように、試料1のダイシング加工面1b側からトレンチ1cを含む領域をFIB加工する。FIB加工方向をこのように変更することで、観察対象として例えば上記のSJ素子を選択した場合、埋め込みトレンチ1cを側面方向から薄片化できるため、加工深さはトレンチ幅(5μm)程度で済み、5μm程度の加工深さは従来から半導体分野で行われているFIB加工深さと同等であるため、観察部位の非結晶化等は発生せず、良質なTEM用観察試料を作製可能である。
【0012】
さらに、トレンチの深さが深い場合に観察部位(トレンチ)を一度に加工すると、加工面積が大きいため、集束イオンビームのビーム電流密度が低下してしまい、加工に多大な時間を要するため観察部位の変質等も起き易くなってしまうこともある。そこで、試料厚さ0.5μm程度までは観察部位を一度に加工し、仕上げ加工では、図12に示すように、加工領域を(トレンチの深さ方向に)複数に分けて(例えば幅5μm毎)加工することで単一個所の加工時間を大幅に短縮し、観察部位の変質を防ぐことが可能である。また、TEMの高倍率時では一度に観察できる範囲は限られているため、上記方法で作製した試料をTEMで観察した場合、観察個所の位置(トレンチ開口部からの深さ)が分からないといった問題が発生する。そのため、上記の加工領域を複数に分けて仕上げ加工する際には加工領域の間に柱(仕切り)1dを形成することが望ましい(図12参照)。この柱1dをトレンチ開口部からその深さ方向に等間隔に形成することで、TEM観察時に目印的な役割を果たすことができ、観察個所のトレンチ開口部からの位置を把握することが可能となる。
【0013】
なお、TEM用観察試料としてSJ素子を挙げたが、本発明の適用範囲はこれに限定されるものではない。観察部位が試料表面から十分深い位置にあり、従来の方法では作製困難な場合は本発明を適用することで良質なTEM用観察試料を作成可能となる。
【0014】
(実施例1)
本発明の実施例を以下に示す。確認実験用に、SJ素子から作成した試料における幅5μm、深さ25μmの埋め込みトレンチにて上記方法によりFIB加工およびTEM観察を行った。実際に上記方法によりFIB加工を行った場合の試料のTEM観察結果を図13に示し、図14にその拡大図を示す。図13、図14のTEM観察結果から深さ25μmのトレンチ全体に渡って均一な加工がなされていることが確認でき、変質等のない良質なTEM像を得ることができた。本実験では観察部位を一度に加工した場合の例を示したが、さらに加工深さが深い場合には上記のように加工領域を複数に分け、加工領域問に柱を形成することで観察個所の位置を特定可能で良質なTEM用観察試料を作成できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】FIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示す図である。
【図2】FIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示す別の図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図3】FIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示すさらに別の図である。
【図4】FIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示すさらに別の図である。
【図5】FIBを用いた従来のTEM用観察試料作製方法を示すさらに別の図である。
【図6】SJ素子を構造例を示す図である。
【図7】FIB加工痕を示す図である。
【図8】観察箇所の変形を示す図である。
【図9】本発明の実施形態における試料の固定の態様を示す図であって、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図10】(a)は試料に対する従来のFIB加工におけるイオンビームの照射方向を説明する図、(b)はFIB加工部とFIB加工方向を説明する図である。
【図11】(a)は試料に対する本発明実施形態のFIB加工におけるイオンビームの照射方向を説明する図、(b)はFIB加工部とFIB加工方向を説明する図である。
【図12】本発明実施形態におけるFIB加工部の別の例を説明する図である。
【図13】本発明の実施例において作成した実際の試料のFIB加工部の断面写真を表す図である。
【図14】図13の拡大図である。
【符号の説明】
【0016】
1 試料
1a 試料表面
1b ダイシング加工面
1c トレンチ
1d 柱
2 観察個所
3 銅リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察試料のダイシング加工面側から集束イオンビームを入射することによって、前記試料をエッチング加工して、当該試料の観察対象部位を含む領域を薄膜化することを特徴とする観察試料の作製方法。
【請求項2】
請求項1において、前記試料の観察対象部位を複数の領域に分けて集束イオンビーム加工し、各加工領域の間に仕切りを残すことを特徴とする観察試料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図7】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2006−29974(P2006−29974A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−209131(P2004−209131)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】