説明

角形性に優れた希土類磁石の製造方法

【課題】高い保磁力を確保しつつ優れた角形性を有する希土類磁石を製造する。
【解決手段】下記の組成式:RvFewCoxByMz、R:Yを含む1種以上の希土類元素、M:Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Vの少なくとも1種、13≦v≦20、w=100−v−x−y−z、0≦x≦30、4≦y≦20、0≦z≦3、で表される希土類磁石組成の溶湯を急冷して、ナノ結晶から成る組織を有する急冷薄片を形成する工程、および上記急冷薄片を加圧下で焼結して、ナノ結晶から成る組織を有する焼結体にする工程、を含む角形性に優れた希土類磁石の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、角形性に優れた希土類磁石の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ネオジム磁石(NdFe14B)に代表される希土類磁石は、磁束密度が高く極めて強力な永久磁石として種々の用途に用いられている。優れた磁気特性、特に高い保磁力を得るためには、ナノサイズの結晶粒から成るナノ結晶組織とする必要がある。
【0003】
特許文献1には、希土類磁石の製造方法として、粉末を加圧成形し、ホットプレスあるいは熱間加工した後、粉砕して粉末にすることが記載されている。磁石組織は、ナノ結晶組織(高希土類相(粒界相)も軟磁性相も含まない)あるいはナノコンポジット組織(硬磁性相と軟磁性相のコンポジット)であって、等方性であっても異方性であってもよい。
【0004】
従来、焼結によりバルク体として得られる希土類磁石は、数μm程度の多磁区粒子(NdFe14B粒子など)を使用しているため、保磁力を発現させるためには、磁壁の移動・発生を妨げるために粒界相が必要であった。
【0005】
これを解決する手段として、急冷法によりNdFe14B相を単磁区粒径(200〜300nm程度)以下のナノサイズの微細集合組織とすることで保磁力を向上させる取り組みがなされているが、組織が不均質(ナノ結晶相、非晶質相、柱状相などが混合)であるため、角形性が低下してしまう。
【0006】
急冷薄片が非晶質である場合、高温で結晶化させて均質な結晶組織とすることは可能であるが、核生成頻度に対して、粒成長速度が速いため、全体として結晶粒径が大きくなり、平均結晶粒径をナノサイズに確保することが困難になり、高い保磁力を達成することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−527989(対応:US 2004/025974 A1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、急冷凝固によりナノ結晶組織を形成し、このナノ結晶組織を維持して焼結し、高い保磁力を確保しつつ優れた角形性を有する希土類磁石を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的は、本発明によれば、
下記の組成式:
RvFewCoxByMz、
R:Yを含む1種以上の希土類元素、
M:Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Vの少なくとも1種、
13≦v≦20、
w=100−v−x−y−z、
0≦x≦30、
4≦y≦20、
0≦z≦3、
で表される希土類磁石組成の溶湯を急冷して、ナノ結晶から成る組織を有する急冷薄片を形成する工程、および
上記急冷薄片を加圧下で焼結して、ナノ結晶から成る組織を有する焼結体にする工程
を含む異方性希土類磁石の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、規定の希土類磁石組成の溶湯を急冷してナノ結晶組織から成る急冷薄片を形成し、これを加圧下で焼結してナノ結晶組織から成る焼結体とすることにより、高い保磁力を確保しつつ優れた角形性を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、に(1)単ロール法および(2)双ロール法の場合の凝固方向と低融点相の形成位置との関係を模式的に示す。
【図2】図2は、急冷薄帯を非晶質のものと結晶質のものとに分別する方法を模式的に示す。
【図3】図3は、ナノ結晶質および非晶質の各急冷薄片の減磁曲線を示す。
【図4】図4は、3種類の組織(ナノ結晶質、非晶質、両者混合組織)の焼結体の減磁曲線を示す。
【図5】図5は、ナノ結晶質のみの焼結体の減磁曲線を示す。
【図6】図6は、非晶質のみの焼結体および混合組織の焼結体の減磁曲線を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の適用対象とする希土類磁石組成は、下記の組成式:
RvFewCoxByMz、
R:Yを含む1種以上の希土類元素、
M:Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Vの少なくとも1種、
13≦v≦20、
w=100−v−x−y−z、
0≦x≦30、
4≦y≦20、
0≦z≦3、
で表される。
【0013】
本発明の希土類磁石は、上記各元素を意図した合金成分として含み、それ以外に原料および製造工程から不可避的に混入する不可避的不純物を含む。不可避的不純物は本発明の希土類磁石の特性および製造過程に実質的に影響を及ぼさないようにできるだけ含有量を少なくすることが望ましい。
【0014】
本発明の特徴は、1)規定の希土類磁石組成の溶湯を急冷してナノ結晶組織から成る急冷薄片を形成する工程、2)ナノ結晶組織の急冷薄片を加圧下で焼結してナノ結晶組織から成る焼結体とする工程にある。工程1)2)を以下に説明する。
【0015】
1)急冷凝固
急冷速度は、ナノ結晶組織を得るのに十分な速さであるが、非晶質組織が生成する速度よりは遅くする必要がある。この範囲より遅いと粗大な結晶組織となってしまい、逆にこの範囲より速いと非晶質が生成する。ナノサイズの結晶粒径とは、高い磁気特性を得るために単磁区粒径以下すなわち200nm〜300nm程度以下の微細粒径であり、望ましくは100nm程度以下、更に望ましくは50nm程度以下である。
【0016】
急冷は、ナノ結晶組織が得られれば特に限定する必要はなく、典型的には回転する冷却ロールの表面に溶湯を噴きつけることによって行う。これにより得られる急冷薄片は、典型的には厚さ15〜70μmである。ロール冷却法は一般に双ロール法、単ロール法があるが、本発明においては焼結温度を低減できる単ロール法が望ましい。単ロール法によれば、急冷薄片のロール接触面から反対側の自由面に向けて凝固が進行し、最終凝固部となる自由面に低融点相が形成される。この低融点相が低温焼結を促進する。この点は実施例において更に詳細に説明する。
【0017】
2)焼結
本発明においては、加圧下で焼結を行なう必要がある。加圧下で焼結を行なうことにより焼結反応が促進されるので、低温焼結が可能になり、ナノ結晶組織が維持できる。
【0018】
焼結組織の結晶粒が粗大化しないように、焼結温度への昇温速度も速い方が望ましい。この観点から、加圧を伴う通電加熱による焼結、例えば通称「SPS焼結」が望ましい。加圧により通電を促進し、焼結温度を低下することができ、かつ、短時間で焼結温度にまで昇温できるので、ナノ結晶組織を維持するのに最も有利である。
【0019】
ただし、SPS焼結に限定する必要はなく、ホットプレスを用いることもできる。
【0020】
また、ホットプレスの類型として、通常のプレス成形機等を用いて、高周波加熱と付属ヒーターによる加熱を組み合わせた方法も可能である。高周波加熱は、絶縁性ダイス・パンチを用いてワークを直接加熱するか、または、導電性ダイス・パンチを用いてダイス・パンチを加熱し、加熱されたダイス・パンチによりワークを間接的に加熱する。付属ヒーターによる加熱は、カートリッジヒーター、バンドヒーター等によりダイス・パンチを加熱する。
【実施例】
【0021】
本発明の方法により、組成Nd15Fe77Gaの希土類磁石を製造した。最終的に得られる組織は、主相:NdFe14相と、粒界相:Ndリッチ相(NdまたはNd酸化物)またはNdFe相とから成るナノ結晶組織である。Gaは粒界相中に富化して粒界の移動を阻止し、結晶粒の粗大化を抑制する。
【0022】
<合金インゴットの作製>
上記組成となるようにNd、Fe、FeB、Gaの各原料を所定量秤量し、アーク溶解炉にて溶解し、合金インゴットを作製した。
【0023】
<急冷薄片の作製>
合金インゴットを高周波炉で溶解し、得られた溶湯を銅製単ロールのロール面に噴射して急冷した。用いた条件を表1にまとめて示す。また、得られた急冷薄帯の厚さは30〜70μmであった。
【0024】
【表1】

【0025】
本実施例において、単ロール法を採用した理由を説明する。
【0026】
図1に(1)単ロール法および(2)双ロール法の場合の凝固方向と低融点相の形成位置との関係を模式的に示す。図中に吹き出し中に示したのは、急冷リボンの部分断面拡大図である。
【0027】
図1(1)の単ロール法では、溶湯ノズルNから単ロールRの外周面に合金溶湯を吐出させると、溶湯はロールRによって片側から急冷されて凝固し急冷リボンQRとしてロール回転方向RDに沿って単ロールRの外周面から飛び出す。吹き出し中に拡大して示したように、ロールRによる冷却方向SDはロールに接触するロール面RSからロールに接触しないフリー面FSに向かい、SD方向に沿って凝固が進行する。そのため、フリー面FSが最終凝固位置となり、断面内で最も低融点の組成となる。すなわち、このような急冷過程においても、急冷リボンQRの厚さ方向に沿って偏析が生じ、多結晶相CPの片面に低融点相LMが形成される。このように、単ロールによる急冷凝固を行なうと、焼結原料となる急冷リボンの片面に低融点相が形成され、低温焼結を促進する作用が得られる。
【0028】
図1(2)の双ロール法では、溶湯ノズルNから一対のロールR1とR2の外周面の間隙に溶湯を吐出させると、溶湯はロールR1、R2によって両側から凝固し急冷リボンQRとしてロール回転方向RDに沿って間隙から飛び出す。吹き出し中に拡大して示したように、一対のロールR1、R2による冷却方向SD1、SD2は、一対のロールR1、R2にそれぞれ接触する両側のロール面RSから急冷リボンQRの厚さの中心に向かい、凝固は急冷リボンQRの両面から厚さの中心に向かって進行する。そのため、急冷リボンQRの厚さ中心が最終凝固位置となり、断面内で最も低融点の組成となる。したがって、双ロールによる急冷凝固では、急冷リボンの表面に低融点相を形成することができず、低温焼結を促進する作用は得られない。
【0029】
<分別>
得られた急冷薄片は、ナノ結晶質のものと非晶質のものとが混在しているので、図2に示すように、弱磁石を用いて、急冷薄片を結晶質のものと非晶質のものとに分別する。すなわち、急冷薄片(1)のうち、非晶質急冷薄片は常磁性であり弱磁石で磁化されるので落下せず(2)、結晶質急冷薄片は強磁性であり弱磁石では磁化されないので落下する(3)。
【0030】
〔磁性評価〕
上記の方法で分別したナノ結晶質および非晶質の急冷薄片について、VSMにより磁気特性を測定した。測定結果を図3に示す。ナノ結晶質急冷薄片は高保磁力(Hc>20kOe)であり、且つ角型性が良好であること、非晶質急冷薄片は低保磁力(Hc≒0kOe)で高透磁率(高μ)の軟磁性であることを確認した。
【0031】
<焼結>
3種類の急冷薄片(ナノ結晶質のみ、非晶質のみ、ナノ結晶質薄片7+非晶質3の混合物)を表2に示した条件でSPS焼結した。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示したように、焼結時の面圧を100MPa負荷した。これは、通電を確保するための初期面圧は34MPaを超える大きな面圧であり、これにより焼結温度570℃、保持時間5分で焼結密度約98%が得られた。従来、同等の焼結密度を得るために、加圧なしでは1100℃程度の高温が必要であったのに対して、焼結温度を大幅に低下することができた。
【0034】
ただし、低温焼結の実現には、単ロール法によって急冷薄片の片面に低融点相が形成されたことも寄与している。融点の具体例として、主相NdFe14が1150℃であるのに対して、低融点相は例えばNdが1021℃、NdGaが786℃である。
【0035】
すなわち、本実施例においては、加圧焼結(面圧100MPa)の加圧自体による焼結温度低下の効果に加えて、急冷薄片の片面にある低融点相による焼結温度低下の効果が複合して、上記570℃という低温焼結が達成できた。
【0036】
〔磁性評価〕
表3および図4〜6にVSMによる焼結体の磁気特性の測定結果を示す。ここで、減磁界Hkと保磁力Hcの比(Hk/Hc)は角形性を表す。
【0037】
【表3】

【0038】
<保磁力>
表3および図4に示すように、ナノ結晶質のみの組織およびナノ結晶質+非晶質の混合組織の場合、焼結体は20kOeを超える高い保磁力を示した。しかし、非晶質のみの組織の場合、焼結体の保磁力は20kOeに満たなかった。
【0039】
<角形性>
表3および図5、図6に示すように、ナノ結晶質のみの場合、焼結体の角形性(Hk/Hc)は最も高いことが分かった。以下、混合組織(ナノ結晶質7+非晶質3)の場合、そして非晶質のみの場合の順であり、非晶質のみの場合が最も角形性が劣ることが分かった。
【0040】
<ナノ結晶組織の確認>
本発明のサンプルについて、透過電子顕微鏡写真上でラインインターセプト法により、急冷薄片、焼結体の各段階において結晶粒径を測定した。ライン長200nm〜500nm、ライン本数10本〜12本、インターセプト結晶粒の個数70〜130個であった。その結果、粒径20nm〜50nmのナノ結晶組織が確認された。
【0041】
ラインインターセプト法を具体的に説明する。例えば、弱磁性体によりナノ結晶組織と分別された本発明例について、急冷薄片の1サンプルの透過電子顕微鏡写真上で、ライン長200nm、ライン本数10本、インターセプト結晶粒の個数84個の場合、ライン両端に掛かっている結晶粒2個を1個とみなすと、ライン総長2000nm当たり結晶粒個数74個となり、平均結晶粒径は2000nm/74=27μmとなる。同様にナノ結晶組織に分別された本発明のサンプルについて、焼結体の1サンプルで、ライン長500nm、ライン本数12本、インターセプト結晶粒の個数140個となり、ライン両端に掛かっている結晶粒2個を1個とみなすと、ライン総長6000nm当たり結晶粒個数128個となり、平均結晶粒径は6000nm/128=47nmとなる。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明によれば、急冷薄片を出発材料として、ナノ結晶組織を有し異方性を高めることにより、高い保磁力を確保しつつ残留磁化を向上させた異方性希土類磁石を製造する方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の組成式:
RvFewCoxByMz、
R:Yを含む1種以上の希土類元素、
M:Ga、Zn、Si、Al、Nb、Zr、Ni、Cu、Cr、Hf、Mo、P、C、Mg、Vの少なくとも1種、
13≦v≦20、
w=100−v−x−y−z、
0≦x≦30、
4≦y≦20、
0≦z≦3、
で表される希土類磁石組成の溶湯を急冷して、ナノ結晶から成る組織を有する急冷薄片を形成する工程、および
上記急冷薄片を加圧下で焼結して、ナノ結晶から成る組織を有する焼結体にする工程
を含む角形性に優れた希土類磁石の製造方法。
【請求項2】
請求項1において、上記組成式において、
13≦v≦17、
5≦y≦16、
であることを特徴とする角形性に優れた希土類磁石の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2において、上記焼結として、加圧を伴う通電加熱による焼結を行なうことを特徴とする角形性に優れた希土類磁石の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−23192(P2012−23192A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−159698(P2010−159698)
【出願日】平成22年7月14日(2010.7.14)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】