説明

解析用試料、試料作製方法および試料解析方法

【課題】 微小な膜厚を有する解析対象膜を含む解析用試料を、その解析対象膜の結晶構造を変化させることなく高精度に形成することのできる試料作製方法を提供する。
【解決手段】 積層膜1Zを形成したのち、FIB法を用いて、解析対象膜10と隣接する第1および第2隣接部分23,33をそれぞれ残すように第1および第2可溶膜20Z,30Zのうちの厚み方向の一部をそれぞれ選択的に除去する。第1および第2可溶膜20Z,30Zを溶解可能な溶剤を用いることにより第1および第2隣接部分23,33の厚み方向の一部を溶解除去し、厚みt21,t31を精度良くさらに薄くする。これにより、例えばTEMを用いた解析をおこなうのに適した解析用試料1を作製することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解析対象膜を含む解析用試料ならびに、この解析用試料を作製するための試料作製方法およびこの解析用試料の解析を行う試料解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、薄膜形成プロセスを利用して形成される薄膜磁気ヘッドや半導体デバイス等の電子・磁気デバイス(以下、薄膜デバイスという。)においては、各種の薄膜パターンが多用されている。例えば、薄膜磁気ヘッドでは磁性薄膜等を積層した磁気抵抗効果(MR;Magnetoresistive)素子が用いられ、半導体デバイスにおいては、導電性薄膜からなる配線パターンが用いられる。このような各種の薄膜パターンを解析対象膜として、その特定領域の結晶粒径や組成分析などの解析をおこなう場合、一般的には透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いる。但し、TEMを用いる場合には、解析対象膜における解析対象領域の膜厚を、電子が透過可能な程度(例えば数百nm程度)に薄く加工する必要がある。
【0003】
TEM観察に適した厚みをなす解析対象膜を有する解析用試料の作製方法としては、集束イオンビーム(Focused Ion Beam)の照射によりエッチングをおこなう方法(FIBエッチング法)を利用したものが一般的である(例えば特許文献1参照。)。FIBエッチング法によれば、解析対象膜を有する解析用試料における特定領域(解析対象領域)のみを比較的均一に薄型加工することができる。
【特許文献1】特開平8−261894号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、近年、薄膜デバイスの小型化に伴い、それに含まれる薄膜パターンの薄型化が著しく進んでおり、例えば20nm以下の膜厚となっているものもある。このため、薄膜パターンの結晶粒径や組成分布などの物性が、薄膜デバイスとしての諸特性に対して従来よりも大きな影響を与えるようになってきている。こうした状況から、薄膜デバイスを構成する薄膜パターンに関し、特定領域の結晶粒径や組成分布などの物性を、より正確に解析する必要性が高まっている。
【0005】
しかしながら、上記のようなFIBエッチング法では、加工対象物の膜厚を約50nmとするのが限界である。これ以上薄くしようとすると、解析対象膜となるべき加工対象物がイオンビームによってダメージを受けてしまい、本来の結晶構造が損なわれてしまうからである。通常、薄膜デバイスにおける薄膜パターン(解析対象膜)は、保護膜等の非解析対象膜によって両面が覆われた状態となっている。このため、FIBエッチング法によってTEM観察に適した解析用試料を作製しようとすると、解析対象膜の膜厚がFIBエッチング法の加工限度を下回る(例えば50nm未満の)場合には、その解析対象領域においても解析対象膜を覆う非解析対象膜を十分に除去することができない。すなわち、解析対象膜が非解析対象膜に覆われた状態のままとなる。ここで、残存する非解析対象膜の膜厚が解析対象膜の膜厚と比べて著しく大きくなってしまうと、後出の図7(B)に示したようにモアレ像(縞模様の像)が発生し、解析対象膜の結晶粒径などを正確に測定できないなどの支障を来すこととなる。
【0006】
FIB法の替わりにアルゴンイオンミリングをおこなうようにすれば、解析用試料の全体の厚みを30nm程度まで薄くすることができる。しかし、この場合にはある領域の厚みを均一化することが困難であり、解析結果の正確性に欠ける。
【0007】
また、化学エッチングを利用する方法によれば、解析用試料を比較的均一に薄くすることができるものの、特定の領域のみをエッチングすることが難しく、解析用試料全体が薄くなってしまう。したがって、解析用試料自体の扱いが難しいうえ、解析をおこなう段階において所望の解析対象領域を特定することが困難である。
【0008】
本発明はかかる問題に鑑みてなされたもので、その第1の目的は、微小な膜厚を有する解析対象膜を含み、その解析対象膜の正確な解析に適した解析用試料を提供することにある。本発明の第2の目的は、上記の解析用試料を、解析対象膜の結晶構造を変化させることなく、より高精度に形成することのできる試料作製方法を提供することにある。本発明の第3の目的は、上記のような試料作製方法により作製した解析用試料を解析するための試料解析方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解析用試料は、解析対象領域および、この解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、この解析対象膜を挟んで対向する第1および第2の支持層とを含み、これら第1および第2の支持層が、それぞれ、支持領域に対応する領域においてのみ設けられ、または、支持領域に対応する領域よりも解析対象領域に対応する領域において小さな厚みを有するように設けられ、解析対象膜が、成膜時の結晶構造と同等の結晶構造を保持するようにしたものである。ここで、「成膜時の結晶構造と同等」とは、本解析用試料における解析対象膜について、成膜時と同等のTEM観察像が得られることを意味する。
【0010】
本発明の解析用試料では、解析対象膜を挟んで対向する第1および第2の支持層が、それぞれ、支持領域に対応する領域においてのみ設けられ、または、支持領域に対応する領域よりも解析対象領域に対応する領域において薄くなるように設けられているので、厚みの非常に薄い解析対象膜であっても支持領域において第1および第2の支持層によって支持されるうえ、解析対象領域における解析対象膜の解析をおこなうことが可能となっている。さらに、解析対象膜が成膜時の結晶構造と同等の結晶構造を保持するようにしたので、成膜当初の解析対象膜における結晶構造および諸物性についての解析が可能となっている。
【0011】
本発明の試料作製方法は、以下に示す(1)から(3)の各工程を含むようにしたものである。
(1)第1の可溶膜の上に、解析対象領域およびこの解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、第2の可溶膜とを順に積層する第1工程。
(2)ドライエッチング法を用いて、解析対象領域における解析対象膜と隣接する第1および第2の隣接部分をそれぞれ残すように第1および第2の可溶膜の厚み方向の一部をそれぞれ除去することにより、解析対象領域において、解析対象膜と第1および第2の隣接部分とを挟んで対向する第1および第2の凹部を形成する第2工程。
(3)第1および第2の可溶膜を溶解可能な溶剤を用いて、第1および第2の可溶膜のうち、支持領域に対応する部分をそれぞれ残しつつ第1および第2の隣接部分における厚み方向の少なくとも一部をそれぞれ溶解除去することにより、解析用試料を形成する第3工程。
ここで、「可溶膜」とは、所定の溶剤によって溶解することのできる無機材料または有機材料からなる膜である。
【0012】
本発明の試料作製方法では、上記の各工程を含むことにより、解析対象膜がエネルギービームの照射の影響を受けることなく、第1および第2の可溶膜のうちの解析対象領域に対応する部分(第1および第2の隣接部分)が薄型化されるので、成膜時と同等の結晶構造をなす解析対象膜を備えた解析用試料が形成される。さらに、第1および第2の可溶膜のうち、支持領域に対応する部分をそれぞれ残すようにしたので、支持領域において解析対象膜が第1および第2の可溶膜によって支持された解析用試料となり、取扱いが容易となると共に、解析対象領域の判別が容易となる。
【0013】
本発明の試料作製方法では、アルゴン(Ar)を1%以上含む酸化アルミニウムを用いて第1および第2の可溶膜を形成することが望ましい。その場合、溶剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を用いることが望ましい。
【0014】
また、本発明の試料作製では、第2工程において、集束イオンビームを照射することにより第1および第2の凹部を形成し、第1および第2の可溶膜のうちの第1および第2の隣接部分の厚みを50nm以上とすることが望ましい。
【0015】
本発明に係る試料解析方法は、解析用試料の作製をおこなう試料作製工程と、透過型電子顕微鏡を用いて解析用試料を解析する試料解析工程とを含むようにしたものである。上記試料作製工程は、以下に示す(1)から(3)の各工程を含んでいる。
(1)第1の可溶膜の上に、解析対象領域およびこの解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、第2の可溶膜とを順に積層する第1工程。
(2)ドライエッチング法を用いて、解析対象領域における解析対象膜と隣接する第1および第2の隣接部分をそれぞれ残すように第1および第2の可溶膜の厚み方向の一部をそれぞれ除去することにより、解析対象領域において、解析対象膜と第1および第2の隣接部分とを挟んで対向する第1および第2の凹部を形成する第2工程。
(3)第1および第2の可溶膜を溶解可能な溶剤を用いて、第1および第2の可溶膜のうち、支持領域に対応する部分をそれぞれ残しつつ第1および第2の隣接部分における厚み方向の少なくとも一部をそれぞれ溶解除去することにより、解析用試料を形成する第3工程。
【0016】
本発明の試料解析方法では、試料作製工程において、解析対象膜がエネルギービームの照射の影響を受けることなく、第1および第2の可溶膜のうちの解析対象領域に対応する部分(第1および第2の隣接部分)が薄型化されるので、成膜時と同等の結晶構造をなす解析対象膜を備えた解析用試料が形成される。さらに、第1および第2の可溶膜のうち、支持領域に対応する部分をそれぞれ残すようにしたので、支持領域において解析対象膜が第1および第2の可溶膜によって支持された解析用試料となり、取扱いが容易となると共に、解析対象領域の判別が容易となる。試料解析工程において、この解析用試料を透過型電子顕微鏡を用いて解析するようにしたので、成膜当初の解析対象膜における結晶構造および諸物性についての解析が、従来よりも簡便におこなわれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の解析用試料によれば、解析対象領域および、この解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、この解析対象膜を挟んで対向する第1および第2の支持層とを含み、第1および第2の支持層を、それぞれ、支持領域に対応する領域においてのみ設け、または、支持領域に対応する領域よりも解析対象領域に対応する領域において小さな厚みを有するように設けるようにしたので、解析対象膜の解析をおこなうにあたって、その厚みが非常に薄い場合でも容易に取扱うことができ、かつ、その解析対象領域を容易に判別することができる。さらに、解析対象膜が成膜時の結晶構造と同等の結晶構造を保持するようにしたので、成膜当初の解析対象膜における結晶構造および諸物性についての解析が可能となっている。この際、第1および第2の可溶膜が、解析対象領域に対応する領域において解析対象膜の厚みと同等以下の厚みをなすようにすれば、より正確な解析に適したものとなる。
【0018】
本発明の試料作製方法によれば、第1の可溶膜と解析対象膜と第2の可溶膜とを順に積層したのち、ドライエッチング法を用いて、解析対象領域における解析対象膜と隣接する第1および第2の隣接部分をそれぞれ残すように第1および第2の可溶膜の厚み方向の一部をそれぞれ除去することにより、解析対象領域において、解析対象膜と第1および第2の隣接部分とを挟んで対向する第1および第2の凹部を形成し、さらに、第1および第2の可溶膜を溶解可能な溶剤を用いて、第1および第2の可溶膜のうち、支持領域に対応する部分をそれぞれ残しつつ第1および第2の隣接部分における厚み方向の少なくとも一部をそれぞれ溶解除去するようにしたので、解析対象膜に対してエネルギービームの照射の影響を与えることなく、解析対象領域に対応する部分の第1および第2の可溶膜、すなわち第1および第2の隣接部分を高精度に薄く加工することができる。したがって、成膜時の結晶構造を保持した解析対象膜と、解析対象領域において高精度に薄型化された第1および第2の可溶膜とを有する解析用試料を形成することができる。この際、第1および第2の可溶層のうちの支持領域に対応する部分を残すようにしたので、解析対象膜の厚みが非常に薄い場合であっても容易に取扱うことができ、かつ、その解析対象領域を容易に判別することのできる解析用試料とすることができる。
【0019】
本発明の試料解析方法によれば、試料作製工程において、成膜時の結晶構造を保持した解析対象膜と、解析対象領域において高精度に薄型化された第1および第2の可溶膜とを有すると共に、その解析対象領域を容易に判別することができ、取扱いの容易な解析用試料を形成することができる。したがって、試料解析工程において、解析対象膜の諸物性に関する解析を、より簡便におこなうことができる。特に、解析対象領域において、解析対象膜の厚みに応じた第1および第2の可溶膜の厚みとなるようにすれば、より正確な解析をおこなうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0021】
最初に、図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態に係る解析用試料の構成を説明する。図1は、本実施の形態の解析用試料1の概略構成を表す斜視図であり、図2は、解析用試料1の、図1における矢視方向IIから眺めた平面図である。
【0022】
解析用試料1は、アルティック(Al23・TiC)などの基板40上に、第1支持層20と解析対象膜10と第2支持層30とが順に積層された積層体であり、その積層断面(YZ平面)の一部がH型(図2)を呈するように、一対の凹部21,31が形成されている。解析対象膜10は例えば金属からなる単層膜または積層膜であり、具体例としては、薄膜磁気ヘッドにおける磁気抵抗効果素子である。解析対象膜10は成膜時の結晶構造と同等の結晶構造を保持しており、その厚みt10は例えば20nmである。解析対象膜10は積層面内に広がる解析対象領域10Rおよび支持領域10Sを含んでおり、例えばTEMを用いて解析対象膜10の解析をおこなう場合には、その解析対象領域10Rに電子を透過させることとなる。
【0023】
第1および第2支持層20,30は、例えばアルゴン(Ar)を1%以上含有した非晶質の酸化アルミニウム(Al23)により構成されており、それぞれ、解析対象領域10Rに対応する領域に凹部21,31を有している。このため、解析対象領域10Rに対応する領域の厚みt21,t31は、支持領域10Sに対応する領域の厚みt20,t30よりも薄くなっている。厚みt21,t31は、例えばそれぞれ5nm以下であり、厚みt20,t30はそれぞれ100nm以上である。
【0024】
続いて、図3〜図5を参照して、上記の解析用試料1を形成するための試料作製方法について説明する。図3〜図5は、図2に対応する断面図である。本実施の形態の試料作製方法は、集束イオンビーム(FIB)エッチング法と化学的エッチング法とを併用するものである。
【0025】
まず、図3に示したように、基板40の上に、第1可溶膜20Zと解析対象膜10と第2可溶膜30Zとを順に積層することにより積層膜1Zを形成する(第1工程)。ここでは、例えばスパッタリング法を用いるようにする。
【0026】
積層膜1Zを形成したのち、第1および第2可溶膜20Z,30Zのうち、解析対象領域10Rに対応する部分にFIBを照射し、解析対象膜10と隣接する第1および第2隣接部分23,33をそれぞれ残すように第1および第2可溶膜20Z,30Zの厚み方向(Z方向)の一部をそれぞれ除去する(図4)。この場合、例えば、解析対象領域10Rを保護膜で覆ったのちFIBを照射する。こうすることにより、解析対象領域10Rにおいて、解析対象膜10と第1および第2隣接部分23,33とを挟んで対向する一対の凹部21,31を形成することができる(第2工程)。この際、解析対象膜10がFIBの照射の影響を受けないようにするため、第1および第2隣接部分23,33の厚みt21,t31が、それぞれ50nmよりも薄くならない程度にエッチングをおこなう。なお、ここでは、解析対象領域10Rに対応する領域の基体40についても、第1可溶膜20Zと併せて選択的にエッチングをおこなう。
【0027】
続いて、第1および第2可溶膜20Z,30Zを溶解可能な溶剤(例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)や水酸化カリウム(KOH)などのアルカリ溶剤)を用いて、支持領域10Sに対応する部分の第1および第2可溶膜20Z,30Zを一部残しつつ、第1および第2隣接部分23,33の一部をさらに厚み方向に溶解除去する。これにより、厚みt21,t31がさらに薄くなり、それぞれ5nm以下となる。以上により、FIBの照射の影響を受けることなく成膜時の結晶構造を保持した解析対象膜10と、解析対象領域10Rにおいて高精度に薄型化された第1および第2支持層20,30とを有する解析用試料1の形成が終了する(第3工程)。
【0028】
続いて、図6を参照して、本発明の一実施の形態に係る試料解析方法を説明する。本実施の形態の試料解析方法は、上記の試料作製方法によって得られた解析用試料1を、TEMを用いて解析するものである。
【0029】
図6は、本実施の形態の試料解析方法において使用するTEM60の構成を表すものである。TEM60は、解析用試料10を透過させることによって得られる解析用試料1の情報を有する電子線を用いて、その内部の微細構造の観察をおこなうものである。TEMでは、数万倍以上の投影像を得ることにより原子レベルの観察を行うことができるうえ、電子線を照射することにより解析用試料1が反射電子、オージェ電子あるいはX線(特性X線および連続X線)を放出するので、これを利用して各種の解析をおこなうことができる。例えば、特性Xを検出することにより、元素分析(元素の定性分析や元素の分布状態の調査)をおこなうことができる。
【0030】
TEM60は、図示しない筐体の内部に、電子線源としての電子銃61と、照射レンズ系62と、結像レンズ系63と、撮像素子64とが順に配設されたものである。解析用試料1は、照射レンズ系62と結像レンズ系63との間に設けられる。電子銃61は、熱電子放射型と呼ばれる電子線源であり、カソード(フィラメント)61A、ウェーネルト61Bおよびアノード(加速電極)61Cを備えている。カソード61Aは例えばタングステン(W)からなり、電圧の印加によって加熱され、電子を放出するようになっている。また、アノード61Cをアース電位として、カソード61Aにはマイナスの電圧が印加される。ウェーネルト61Bに対しては、カソード61Aよりも僅かに低いマイナス電圧(バイアス電圧)が印加される。ウェーネルト61Bは、カソード61Aからの電子を集束して電子密度の高い電子線束を形成するものである。ウェーネルト61Bを通過した直後の電子線束の直径は、例えば10μm〜30μm程度である。アノード61Cは、ウェーネルト61Bからの電子線束を加速するように機能する。
【0031】
照射レンズ系62は、第1および第2の集束レンズ62A,62Bを有し、電子銃61からの電子線束を解析用試料1に照射するものである。結像レンズ系63は、解析用試料1を透過した電子線束を拡大するための対物レンズ63Aおよび中間レンズ63Bと、撮像素子64の上に結像させるための投影レンズ63Cとを有している。撮像素子64は、例えば電荷結合素子(CCD;Charge Coupled Device )である。
【0032】
このような構成のTEM60においては、まず、筐体の内部を真空状態とする。次に、カソード61Aを加熱することにより電子を放出させ、ウェーネルト61Bにおいてこれを収束して電子密度の高い電子線束を形成し、さらにアノード61Cによってその電子線束を加速して照射レンズ系62へ向けて放射させる。電子線束を、照射レンズ系62によって微小なスポット径に絞り込み、解析用試料1へ照射する。照射された電子線束は解析用試料1を透過するので、これを結像レンズ系63を介して撮像素子64へ投影することにより、解析用試料1の内部構造の観察像を得ることができる。なお、撮像素子64のかわりに蛍光板を用いるようにしてもよい。
【0033】
以上のように、本実施の形態によれば、まず、FIB法を用いて、解析対象領域10Rにおける解析対象膜10と隣接する第1および第2隣接部分23,33をそれぞれ残すように第1および第2可溶膜20Z,30Zのうちの厚み方向の一部をそれぞれ選択的に除去することにより、解析対象領域10Rにおいて、解析対象膜10を挟んで対向する一対の凹部21,31を形成するようにしたので、例えばフォトリソグラフィ法などと比べ、より高い寸法精度を確保することができるうえ、より短時間で簡便に加工をおこなうことができる。
【0034】
こののち、第1および第2可溶膜20Z,30Zを溶解可能な溶剤を用いることにより第1および第2隣接部分23,33の厚み方向の一部を溶解除去し、厚みt21,t31を精度良くさらに薄くするようにしたので、TEMを用いた解析をおこなうのに適した解析用試料1を作製することができる。ここでは、解析対象膜10に対してFIBの照射の影響を与えないようにしたので、解析対象膜10の結晶構造を変化させることがない。さらに、第1および第2支持層20,30が、解析対象領域10Rに対応する領域よりも支持領域10Sに対応する領域において大きな厚みを有するようにしたので、解析対象膜10が支持領域10Sにおいて第1および第2支持層20,30によって支持されることとなる。よって、解析対象膜10の厚みt10が非常に薄い場合であっても容易に取扱うことができ、かつ、その解析対象領域10Rを容易に判別することができる。
【0035】
さらに、このような解析用試料1の解析対象領域10Rについて、TEMを用いて解析するようにしたので、成膜時の結晶構造を保持した解析対象膜10における面内の状態について、正確な解析を容易におこなうことができる。
【実施例】
【0036】
続いて、上記の実施の形態における具体的な実施例について説明する。本実施例では、上記の実施の形態における試料作製方法に基づき、解析用試料1を作製し、TEMにより解析対象領域10Rの観察をおこなった。
【0037】
具体的には、まず、シリコン(Si)からなる基板40の上に、スパッタリング法により、200nm厚のAl23からなる第1可溶膜20Zと、20nm厚のイリジウムマンガン合金(IrMn)からなる解析対象膜10と、200nm厚のAl23からなる第2可溶膜30Zとを順に積層し、積層膜1Zを形成した。次いで、ダイシングにより積層膜1Zを切り出したのち、厚みt20,t30がそれぞれ50nmとなるように、FIBエッチング法を用いて第1および第2可溶膜20Z,30Zを選択的に除去した。こののち、40℃に保持された4規定(N)のNaOHの中に10分間浸漬させ、第1および第2可溶膜20Z,30Zの一部を溶解除去することにより、厚みt20,t30をそれぞれ5nm以下とした。また、これと併せて、上記の積層膜1ZについてFIBエッチングのみを施すことにより解析対象領域10Rの厚みt1が30nmとなるように加工し、比較例としての解析用試料を作製した。
【0038】
以上のように作製した本実施例の解析用試料1について、TEMにより観察をおこなったところ、図7(A)に示したように、モアレ像の少ない観察像が得られ、結晶粒径などの正確な解析が可能であることが確認できた。これに対し、FIBエッチング法のみによって作製した比較例としての解析用試料の場合には、図7(B)に示したように、モアレ像が発生してしまい、結晶粒径などの正確な解析が困難であった。
【0039】
このように、本実施例によれば、FIBエッチング法と化学的エッチング法とを併用することにより、解析対象膜10の結晶構造を変質させることなく解析対象領域10Rにおける第1および第2可溶膜20Z,30Zを十分に薄く加工するようにしたので、TEMによる解析を実施するにあたってモアレ像の少ない観察像が得られ、解析対象膜10の諸物性についての正確な解析が可能であることが確認できた。
【0040】
以上、いくつかの実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されず、種々の変形が可能である。例えば、上記実施の形態および実施例では、解析対象領域に対応する領域の第1および第2の可溶膜を、解析対象膜を挟んで覆うように薄く残すようにしたが、解析対象膜の酸化等の劣化が問題とならない場合には、解析対象領域に対応する領域の第1および第2の可溶膜を完全に除去し、支持領域に対応する領域においてのみ残すようにしてもよい。その場合には、モアレ像の発生を完全に防ぐことができる。
【0041】
また、本実施の形態および実施例では、Al23により第1および第2の可溶膜を構成すると共に、これを溶解する溶剤としてNaOHを用いるようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、シリコン(Si)により第1および第2の可溶膜を構成するようにしてもよい。
【0042】
また、上記実施の形態では、ドライエッチング法としてFIBエッチング法を用いるようにしたが、他のドライエッチング法を用いるようにしてもよい。あるいは、ドライエッチング法と併せて、レーザ光を照射するレーザエッチング法を用いるようにしてもよい。
【0043】
また、上記実施の形態では、TEMを用い、電子線を照射して解析用試料の解析を行う場合について説明するようにしたが、これに限定されるものではない。例えば、X線やイオンビームを照射して解析を行う解析手法を用いることもできる。そのような解析手法の例としては、X線光電子分光法(XPS;X-ray Photoelectron Spectroscopy)、2次イオン質量分析法(SIMS;Secondary Ion Mass Spectrometry)またはラザフォード後方散乱分析法(RBS;Rutherford Backscattering Spectrometry )などが挙げられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明の試料作製方法および試料解析方法は、例えば、半導体素子や磁気抵抗効果素子
などの電子・磁気デバイスに含まれる各種の薄膜パターンの解析に好適に用いることがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明の一実施の形態に係る解析用試料の概略構成を表す斜視図である。
【図2】図1に示した解析用試料の平面構成を表す平面図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る試料作製方法における一工程を表す平面図である。
【図4】図3に続く一工程を表す断面図である。
【図5】図4に続く一工程を表す平面図および断面である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る試料解析方法において用いるTEMの構成を表す概略図である。
【図7】図1に示した解析用試料の解析対象領域におけるTEM観察像である。
【符号の説明】
【0046】
1…解析用試料、1Z…積層膜、10…解析対象膜、10R…解析対象領域、10S…支持領域、20…第1支持層、20Z…第1可溶膜、21,31…凹部、22,32…底面、23,33…隣接部分、30…第2支持層、30Z…第2可溶膜、40…基板、60…TEM、61…電子銃、62…照射レンズ系、63…結像レンズ系、64…撮像素子。






【特許請求の範囲】
【請求項1】
解析対象領域および、この解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、
前記解析対象膜を挟んで対向する第1および第2の支持層と
を含み、
前記第1および第2の支持層は、それぞれ、前記支持領域に対応する領域においてのみ設けられ、または、前記支持領域に対応する領域よりも前記解析対象領域に対応する領域において小さな厚みを有するように設けられ、
前記解析対象膜は、成膜時の結晶構造と同等の結晶構造を保持している
ことを特徴とする解析用試料。
【請求項2】
前記第1および第2の支持層は、アルゴン(Ar)を1%以上含有した非晶質の酸化アルミニウムからなる
ことを特徴とする請求項1に記載の解析用試料。
【請求項3】
第1の可溶膜の上に、解析対象領域およびこの解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、第2の可溶膜とを順に積層する第1工程と、
ドライエッチング法を用いて、前記解析対象領域における解析対象膜と隣接する第1および第2の隣接部分をそれぞれ残すように前記第1および第2の可溶膜の厚み方向の一部をそれぞれ除去することにより、前記解析対象領域において、前記解析対象膜と前記第1および第2の隣接部分とを挟んで対向する第1および第2の凹部を形成する第2工程と、
前記第1および第2の可溶膜を溶解可能な溶剤を用いて、前記第1および第2の可溶膜のうち、前記支持領域に対応する部分をそれぞれ残しつつ前記第1および第2の隣接部分における厚み方向の少なくとも一部をそれぞれ溶解除去することにより、解析用試料を形成する第3工程と
を含むことを特徴とする試料作製方法。
【請求項4】
アルゴン(Ar)を1%以上含む酸化アルミニウムを用いて前記第1および第2の可溶膜を形成する
ことを特徴とする請求項3に記載の試料作製方法。
【請求項5】
前記溶剤として、水酸化ナトリウム(NaOH)溶液を用いる
ことを特徴とする請求項4に記載の試料作製方法。
【請求項6】
集束イオンビームを照射することにより前記第1および第2の凹部を形成する
ことを特徴とする請求項3から請求項5のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項7】
前記第2工程において、前記第1および第2の可溶膜のうちの前記第1および第2の隣接部分の厚みを50nm以上とする
ことを特徴とする請求項3から請求項6のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項8】
前記第1工程において、20nm以下の厚みをなすように前記解析対象膜を形成する
ことを特徴とする請求項3から請求項7のいずれか1項に記載の試料作製方法。
【請求項9】
解析用試料の作製をおこなう試料作製工程と、
透過型電子顕微鏡を用いて前記解析用試料を解析する試料解析工程とを含み、
前記試料作製工程は、
第1の可溶膜の上に、解析対象領域およびこの解析対象領域以外の支持領域を含む解析対象膜と、第2の可溶膜とを順に積層する第1工程と、
ドライエッチング法を用いて、前記解析対象領域における解析対象膜と隣接する第1および第2の隣接部分をそれぞれ残すように前記第1および第2の可溶膜の厚み方向の一部をそれぞれ除去することにより、前記解析対象領域において、前記解析対象膜と前記第1および第2の隣接部分とを挟んで対向する第1および第2の凹部を形成する第2工程と、
前記第1および第2の可溶膜を溶解可能な溶剤を用いて、前記第1および第2の可溶膜のうち、前記支持領域に対応する部分をそれぞれ残しつつ前記第1および第2の隣接部分における厚み方向の少なくとも一部をそれぞれ溶解除去することにより、解析用試料を形成する第3工程と
を含むことを特徴とする試料解析方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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