説明

触媒のクラック発生検知装置

【課題】高温状態となり得る触媒のクラックの発生をAE法により検知するクラック発生検知装置を提供する。
【解決手段】クラック発生検知装置101は、AE波を検出するAEセンサ3と、AEセンサ3と触媒1との間を仕切る遮熱板13と、遮熱板13を貫通して一端6aが触媒1に接触し且つ他端6bがAEセンサ3に接触するように配置され、一端6aから他端6bにAE波の伝達が可能なガイドシャフト6と、ガイドシャフト6の一端6aを触媒1に押し付けるようにガイドシャフト6を付勢するコイルスプリング12と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アコースティックエミッション(以下、AEと称する)法を用いて触媒のクラックの発生を検知するクラック発生検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に搭載される内燃機関には、排気ガスを浄化する排気浄化装置が設けられる。内燃機関の一例であるディーゼルエンジンには、例えば、排気ガスの有害成分(CO、HC、NOx等)を浄化するモノリス触媒等と、排気ガスに含まれる微粒子を捕捉することを主目的としたパティキュレートフィルタ(Diesel Particulate Filter。以下、DPFと称する)等とが設けられる。
【0003】
従来から、排気浄化装置の異常を検出する異常検出装置が知られている。特許文献1および2には、DPFを備えた内燃機関の排気浄化装置において、DPFの目詰まりや配管の亀裂等を検出することを目的とした異常検出装置が開示されている。特許文献1および2に開示された異常検出装置では、DPFの入口側と出口側とにおける排気ガスの圧力差を計測し、その圧力差に基づいて異常を検出する。
【0004】
DPFには、捕捉された微粒子が堆積する。DPFに目詰まりを生じると、上記圧力差は大きくなる。したがって、上記圧力差を計測することにより、DPFの目詰まりを容易に検出することができる。また、配管に亀裂が生じた場合にも、上記圧力差は大きく変化する。そのため、上記圧力差を計測することにより、配管の亀裂を容易に検出することができる。
【0005】
しかし、モノリス触媒にクラックが発生した場合、そのクラックが大規模なものでない限り、上記圧力差はさほど変化しない。したがって、上記圧力差に基づく方法では、触媒のクラックを検知することは難しい。従来、クラックの発生を検知するためには、触媒を装置から取り外し、その外観を観察するか、あるいは必要に応じて一部を切断して、その内部を観察しなければならなかった。
【0006】
本願発明者は、触媒を装置から取り外さなくてもクラックの発生を検知できるよう、AE法を応用して触媒のクラックの発生を検知することを考えた。特許文献3および4には、AE法に関する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−157200号公報
【特許文献2】特開2005−226519号公報
【特許文献3】特開平01−161146号公報
【特許文献4】特開平08−062337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
クラックが発生すると、弾性歪みエネルギーが解放され、弾性波が発生する。AE法では、検知対象物にセンサを貼り付け、このセンサで弾性波を検出することによって、クラックの発生を検知する。
【0009】
ところが、内燃機関の排気通路に配置された触媒は、排気ガスに晒されているため、高温である。そのため、触媒にセンサを直接貼り付けることは困難である。本願発明者は、触媒とセンサとの間に、弾性波を伝達可能なガイド、すなわちウェーブガイドを設けることを考えた。しかし、単に触媒とセンサとの間にウェーブガイドを介在させただけでは、触媒のクラックを良好に検知することは難しいことが分かった。
【0010】
そこで本発明は、高温状態になり得る触媒のクラックの発生をAE法により検知するクラック発生検知装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る触媒のクラック発生検知装置は、排気ガスを浄化する触媒のクラックの発生を検知するクラック発生検知装置であって、AE波を検出するAEセンサと、前記AEセンサと前記触媒との間を仕切る仕切部材と、前記仕切部材を貫通して一端が前記触媒に接触し且つ他端が前記AEセンサに接触するように配置され、前記一端から前記他端にAE波の伝達が可能なガイドシャフトと、前記ガイドシャフトの一端を前記触媒に押し付けるように前記ガイドシャフトを付勢する付勢部材と、を備えている。
【0012】
上記クラック発生検知装置によれば、AEセンサと触媒との間にはガイドシャフトが介在し、また、AEセンサと触媒との間は仕切部材によって仕切られている。したがって、触媒が高温状態となっても、AEセンサが触媒に熱せられて高温状態となることは抑えられる。また、ガイドシャフトは付勢部材によって触媒に押しつけられる。そのため、ガイドシャフトと触媒との接触状態が良好となり、クラックの発生に伴って触媒に生じるAE波は、ガイドシャフトに良好に伝達される。したがって、触媒からの熱の影響を受けにくいようにAEセンサを配置したにも拘わらず、触媒のクラックを正確に検知することができる。
【0013】
ここに開示される触媒のクラック発生検知装置の好ましい一態様では、前記ガイドシャフトを挿通させる貫通孔が形成されたホルダを備える。前記ホルダの長手方向の中間位置よりも一端側および他端側には、前記ガイドシャフトを径方向に支持する支持部がそれぞれ設けられる。前記付勢部材は、一端が前記ガイドシャフトに係合し且つ他端が前記ホルダに係合したスプリングによって構成されている。
【0014】
このことにより、ガイドシャフトは長手方向の一端側および他端側にて、ホルダに支持される。そのため、ガイドシャフトは安定して支持される。したがって、触媒のクラックの発生をより正確に検知することができる。
【0015】
他の好ましい一態様では、前記ホルダの前記他端側の支持部は、少なくとも前記ガイドシャフトの径方向に弾性変形可能な弾性体を有している。
【0016】
このことにより、たとえガイドシャフトに撓み変形が生じていたとしても、弾性体がガイドシャフトの径方向に弾性変形することにより、ガイドシャフトと支持部とにおけるガタの発生が抑制され、ガイドシャフトはより安定して支持される。
【0017】
他の好ましい一態様では、前記支持部は、前記ガイドシャフトを挿通させる挿通孔が形成された筒状部材によって構成されている。前記筒状部材の内周面上には、当該筒状部材よりも摩擦抵抗の低い材料からなるコーティング層が形成されている。
【0018】
このことにより、ガイドシャフトと支持部とのクリアランス(間隔)を極小に設定しても、ガイドシャフトの軸方向の動きを好適な状態で維持することができる。これにより、支持部とガイドシャフトとが接触することにより生じる2次的なAE信号の発生を抑制でき、且つ、触媒に対するガイドシャフトの押圧力を一定に保つことが容易になる。
【0019】
他の好ましい一態様では、前記ガイドシャフトの前記一端側の端面は、曲面状に形成されている。
【0020】
このことにより、ガイドシャフトの端面が尖っている場合に比べて、触媒がガイドシャフトによって削られることが抑制される。そのため、触媒とガイドシャフトとの接触状態は、より良好に保たれる。
【0021】
他の好ましい一態様では、前記ホルダの前記一端側の部分は、前記触媒を収容するケースに取り付けられる。クラック発生検知装置は、前記ホルダと前記触媒との間に介在する断熱材をさらに備えている。
【0022】
このことにより、ホルダが触媒からの熱を受けて高温状態となることが抑えられる。よって、AEセンサがホルダを介して加熱されることを抑制することができ、AEセンサが高温状態となることを抑えることができる。
【0023】
他の好ましい一態様では、予め定めた所定の状態にあるか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記所定の状態にあると判定すると前記触媒のクラックの発生の検知を開始する検知開始部とを有するコンピュータを備えている。
【0024】
例えば、ある一態様では、前記触媒が内燃機関の排気通路に配置され、前記所定の状態とは、前記内燃機関の燃料の噴射が停止された状態である。
【0025】
内燃機関において燃料の噴射が停止されると、触媒の温度は急激に低下し、触媒にクラックが発生しやすくなる。上記クラック発生検知装置では、クラックの検知を開始する所定の状態として、上記燃料噴射が停止された状態を設定している。これによって、クラックが発生しやすい状態に検知を行うので、無駄な検知を省略することができ、効率の良い検知を行うことが可能となる。
【0026】
また、他の一態様では、前記触媒が内燃機関の排気通路に配置され、前記所定の状態とは、前記内燃機関の回転数を調整するアクセルの開度の所定時間内における減少量が予め定めた基準値を上回った状態である。
【0027】
上記アクセルの開度が急激に小さくなると、触媒の温度は急激に低下し、触媒にクラックが発生しやすくなる。上記クラック発生検知装置では、クラックの検知を開始する所定の状態として、所定時間内におけるアクセルの開度の減少量が予め定めた基準値を上回った状態(アクセル開度が急激に小さくなった状態)を設定している。これによって、クラックが発生しやすい状態に検知を行うので、無駄な検知を省略することができ、効率の良い検知を行うことが可能となる。
【0028】
また、他の一態様では、前記触媒に1つ以上の温度センサが取り付けられており、前記所定の状態とは、前記温度センサから得られた前記触媒の推定温度の所定時間内における減少量が予め定めた基準値を上回った状態である。
【0029】
上述したように、触媒の温度が急激に低下すると、触媒にクラックが発生しやすくなる。上記クラック発生検知装置では、クラックの検知を開始する所定の状態として、所定時間内における触媒温度の減少量が予め定めた基準値を上回った状態(触媒の温度が急激に低下した状態)を設定している。これによって、クラックが発生しやすい状態に検知を行うので、無駄な検知を省略することができ、効率の良い検知を行うことが可能となる。
【0030】
他の好ましい一態様では、前記AE波に含まれる特性値に基づいて、前記触媒にクラックが発生しているか否かを判定する判定装置を備えている。
【0031】
例えば、ある一態様では、前記判定装置は、前記AE波に含まれる特性値として、前記AE波のヒット数を測定する。そして、前記ヒット数が予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定する。
【0032】
AE波を信号化したAE信号は波形信号である。この波形信号のうち、所定の閾値を超える強度を有する信号のことを「ヒット」と称する。上記「ヒット数」とは、所定の単位時間において上記ヒットが記録された数を指す特性値である。このヒット数は、触媒にクラックが生じることにより増加する傾向がある。すなわち、このヒット数に基づいてクラック発生の有無を判定することによって、触媒のクラックをより正確に検知することができる。
【0033】
また、他の一態様では、前記判定装置は、前記AE波に含まれる特性値として、前記AE波のエネルギーを算出する。そして、前記エネルギーが所定の予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定する。
【0034】
上記AE波のエネルギーとは、波形信号であるAE信号の強度が所定の閾値を超えてから、再び閾値未満になるまでの部分の面積の和を示す特性値である。このエネルギーは、触媒に生じるクラックの面積との間に相関関係を有している。すなわち、AE波のエネルギーに基づいてクラック発生の有無を判定することによって、触媒のクラックをより正確に検知できる。
【0035】
また、上記AE波に含まれる特性値として、エネルギーを用いる場合、前記判定装置は、算出された前記エネルギーに平滑化処理を行い、該平滑化処理されたエネルギーが予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定すると好ましい。
【0036】
AE波からエネルギーを測定する場合、誤測定や触媒以外の機器から生じた振動などによって、上記エネルギーに「異常値(過大ノイズ)」が含まれることがある。エネルギーに異常値が含まれているとクラックの正確な検知が難しくなる。上記態様のクラック発生検知装置では、「平滑化処理」を行うことによって、測定されたエネルギーから異常値を除外し、該平滑化処理されたエネルギーに基づいてクラック発生の有無を判定しているため、触媒に生じたクラックをさらに正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】実施形態1に係るクラック発生検知装置の構成図である。
【図2】実施形態2に係るクラック発生検知装置の一部を破断して示す側面図である。
【図3】実施形態2に係るガイドシャフトの一部を破断して示す側面図である。
【図4】実施形態2に係るホルダの一部を破断して示す側面図である。
【図5】実施形態3に係るクラック発生検知装置の一部を破断して示す側面図である。
【図6】実施形態3に係るクラック発生検知装置の側面図である。
【図7】ガイドシャフトを支持するボールプランジャの正面図である。
【図8】実施形態4に係るクラック発生検知装置の一部を破断して示す側面図である。
【図9】ガイドシャフトを挿通させる筒状部材(軸受け)の斜視図である。
【図10】実施形態5に係るクラック発生検知装置が設けられた内燃機関の排気通路を示す構成図である。
【図11】実施形態5に係るクラック発生検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【図12】実施形態6に係るクラック発生検知装置が設けられた内燃機関の排気通路を示す構成図である。
【図13】実施形態6に係るクラック発生検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【図14】実施形態6に係るクラック発生検知装置が設けられた内燃機関の排気通路を示す構成図である。
【図15】クラック発生検知装置によって検知されたAE信号を模式的に示す図。
【図16】実施形態7に係るクラック発生検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【図17】実施形態8に係るクラック発生検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【図18】実施形態9に係るクラック発生検知装置の動作を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0039】
<実施形態1>
図1は、実施形態1に係るクラック発生検知装置101の構成を表している。クラック発生検知装置101は、AE法を利用して触媒1のクラックの発生を検知する。触媒1は、例えば内燃機関の排気通路等に配置され、内燃機関から排出される排気ガスを浄化する。触媒1の種類は特に限定されない。触媒1は、例えば、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rd)等の貴金属が担持されたモノリス触媒であってもよい。また、触媒1は、貴金属が担持されたDPF等であってもよい。
【0040】
触媒1にクラックが発生すると、弾性歪みエネルギーが解放され、弾性波(以下、AE波という)が生じる。クラック発生検知装置101は、このAE波を検出することにより、触媒1のクラックの発生を検知する。クラック発生検知装置1は、AE波(例えば、数十kHz〜2MHz程度の振動波)を検出可能なAEセンサ3を備えている。AEセンサ3は、AE波を電気信号に変換する素子によって構成されている。このような素子として、例えば、PZT(チタン酸ジルコン酸鉛系の圧電セラミックス)等を好適に用いることができる。
【0041】
AEセンサ3には、信号線4を介してデータ処理装置5が接続されている。なお、AEセンサ3とデータ処理装置5との間には、必要に応じて、信号を増幅する増幅器、ノイズ成分を除去するためのフィルター回路等が設けられていてもよい。データ処理装置5は、AEセンサ3からの信号を記録、出力または解析等するための装置である。データ処理装置5は、専用のデータ処理装置であってもよいが、汎用的なコンピュータ等によって構成されていてもよい。データ処理装置5には、信号の波形を表示可能な表示装置18に接続されている。データ処理装置5および表示装置18は、互いに別体であってもよく、一体化されていてもよい。データ処理装置5および表示装置18は、例えば、ディスプレイ付きのコンピュータ(例えば、いわゆるノート型のパーソナルコンピュータ等)によって構成されていてもよい。
【0042】
触媒1とAEセンサ3との間には、ガイドシャフト6が設けられている。すなわち、AEセンサ3は、触媒1に直接取り付けられているのではなく、ガイドシャフト6を介して触媒1に間接的に取り付けられている。ガイドシャフト6の一端6aは触媒1に接触している。ガイドシャフト6の他端6bはプレート状に広がっており、この他端6bはAEセンサ3に接触している。なお、ガイドシャフト6の一端6a、他端6bは、それぞれ触媒1、AEセンサ3に直接接触していることが好ましいが、AE波の伝達が可能である限り、他の部材を介して間接的に接触していてもよい。ガイドシャフト6は、一端6aから他端6bにAE波を伝達可能なものであれば足り、その材料や構造は特に限定される訳ではない。
【0043】
AEセンサ3は、ガイドシャフト6の他端6bとプレート7とに狭持されている。AEセンサ3とプレート7との間には緩衝材8が設けられている。これにより、AEセンサ3がプレート7から弾性波を検出してしまうことが抑制され、AEセンサ3が検出する信号にノイズが含まれにくいようになっている。プレート7とガイドシャフト6の他端6bとは、ボルト9によって固定されている。AEセンサ3は、プレート7とガイドシャフト6の他端6bとに狭持されることにより、所定の位置に配置されている。
【0044】
ガイドシャフト6の一端6aは、触媒1を削ってしまわないように曲面状に形成されている。言い換えると、ガイドシャフト6の一端6aには、丸みが設けられている。
【0045】
触媒1はケース2内に配置されている。触媒1とケース2の内面との間には、断熱材10が設けられている。ケース2には治具11が取り付けられている。治具11は、ガイドシャフト6をケース2に取り付けるためのものである。治具11と触媒1との間には、断熱材10が介在している。治具11は、ガイドシャフト6と同軸状に延びる有底円筒状に形成され、その底部11aには、ガイドシャフト6が挿通される貫通孔11bが形成されている。
【0046】
ガイドシャフト6の一端6aの近傍には、半径方向に広がった環状部6cが形成されている。環状部6cと治具11の底部11aとの間には、圧縮されたコイルスプリング12が配置されている。そのため、ガイドシャフト6はコイルスプリング12の付勢力を受け、ガイドシャフト6の一端6aは所定の力(例えば、2kgf〜6kgf)で触媒1に押し付けられている。これにより、ガイドシャフト6の一端6aは、触媒1に対して密着している。
【0047】
触媒1には高温の排気ガスが流れる。そのため、触媒1自体も高温となる。クラック発生検知装置101では、触媒1とAEセンサ3との間を仕切る仕切部材として、遮熱板13が設けられている。なお、遮熱板13は、排気ガスが流れる排気通路(例えば、排気管)の一部であってもよく、排気通路とは別に設けられた部材であってもよい。触媒1を収容するケース2の一部が仕切部材を兼ねていてもよい。
【0048】
触媒1にクラックが発生すると、触媒1の内部でAE波が生じる。このAE波は、ガイドシャフト6を通じて、AEセンサ8に伝達される。AEセンサ8にAE波が伝達されると、AEセンサ8からデータ処理装置5に電気信号が出力される。データ処理装置5は、AEセンサ8からの信号に基づいて、クラックの発生の有無を判定する。例えば、データ処理装置5は、AEセンサ8からの信号が、クラックの発生を示すものとして予め定められた所定の信号(例えば、出力値が所定値以上の信号)か否かを判定する。データ処理装置5は、AEセンサ8からの信号が所定の信号の場合には、表示装置18にクラックの発生を通知する所定の表示(例えば、警告メッセージの表示等)を出力させる。これにより、ユーザは触媒1を取り外さなくても、触媒1におけるクラックの発生を認識することができる。
【0049】
以上のように、クラック発生検知装置101によれば、AEセンサ3を用いて触媒1のクラックの発生を検知することができる。したがって、触媒1を取り外さなくても、触媒1のクラックの発生を検知することができる。
【0050】
触媒1に高温の排気ガスが流れることによって、触媒1は高温になる。しかし、クラック発生検知装置101によれば、触媒1とAEセンサ3との間にガイドシャフト6が介在し、また、触媒1とAEセンサ3との間が遮熱板13によって仕切られているので、触媒1が高温になっても、AEセンサ3が高温になることを抑制することができる。したがって、AEセンサ3が高温になることによって発生するおそれのあるセンサの破損や測定誤差を抑えることができる。また、クラック発生検知装置101によれば、コイルスプリング12により、ガイドシャフト6の一端6aが触媒1に押し付けられる。そのため、ガイドシャフト6の一端6aは、触媒1と密着する。よって、ガイドシャフト6と触媒1との接触状態を良好に保つことができ、接触部分でノイズが発生することを抑えることができる。したがって、クラック発生検知装置101によれば、AEセンサ3が高温となることを抑えつつ、触媒1のクラックの発生を良好に検知することができる。
【0051】
ガイドシャフト6は治具11によってケース2に取り付けられているが、治具11と触媒1との間には断熱材10が設けられている。そのため、治具11が触媒1の熱を受けて高温になることが抑制され、ひいては、AEセンサ3が治具11およびガイドシャフト6を介して触媒1の熱を受けることが抑えられる。したがって、AEセンサ3が高温になることを抑制することができる。
【0052】
ガイドシャフト6の一端6aは、円錐状に尖っていてもよいが、本実施形態では曲面状に形成されている。そのため、ガイドシャフト6で触媒1を削ってしまうおそれが少ない。また、ガイドシャフト6と触媒1との接触面で発生するノイズを低減することができる。したがって、ガイドシャフト6と触媒1との接触状態を良好に保つことができ、触媒1のクラックの発生を良好に検知することができる。
【0053】
<実施形態2>
図2は、実施形態2に係るクラック発生検知装置102の側面図である。なお、図2では、クラック発生検知装置102の一部を破断して示している。クラック発生検知装置102は、AEセンサ3と、ガイドシャフト6と、ガイドシャフト6を支持するホルダ20とを備えている。
【0054】
図3に示すように、本実施形態では、環状部6cはガイドシャフト6の長手方向の略中央部分に設けられている。実施形態1と同様、ガイドシャフト6の一端6aは触媒1と接触し、ガイドシャフト6の他端6bはAEセンサ3と接触するように配置される。環状部6cとガイドシャフト6の他端6bとの間には、コイルスプリング12と、プレッシャ部材13とが設けられている。コイルスプリング12は、ガイドシャフト6に挿通されている。プレッシャ部材13は、コイルスプリング12の他端側を受けるばね受け部材13aと、ホルダ20に固定される固定部材13bとから構成されている。図3に示すように、ばね受け部材13aおよび固定部材13bには、ガイドシャフト6が挿通される貫通孔13dが形成されている。ガイドシャフト6は、プレッシャ部材13に対して、軸方向の移動が自在に挿入されている。ガイドシャフト6の一部は、プレッシャ部材13によって径方向に支持されている。詳しくは、固定部材13bの貫通孔13dの周りに樹脂製のワッシャ15が嵌め込まれており、ガイドシャフト6の長手方向の中央位置よりも他端側の一部は、上記ワッシャ15によって径方向に支持されている。
【0055】
図2に示すように、ホルダ20の内部には、ガイドシャフト6の外径と略同一の内径を有する第1貫通孔21と、ばね受け部材13aの外径と略同一の内径を有する第2貫通孔22とが形成されている。第1貫通孔21は触媒1側に形成され、第2貫通孔22はAEセンサ3側に形成されている。
【0056】
ケース2は、触媒1を収容すると共に、排気ガスが流通する排気通路を形成している。なお、排気ガスは、図2の紙面表裏方向に流通する。ホルダ20は、排気ガスの流通方向と直交する方向に延びている。また、ケース2は、触媒1とAEセンサ3とを仕切る仕切部材としての役割を果たしている。ホルダ20の一端はケース2に取り付けられている。ケース2に対するホルダ20の取り付け方法は特に限定されず、例えば、ホルダ20をケース2に溶接してもよく、ボルト等の固定具を用いてホルダ20をケース2に固定してもよい。また、ホルダ20およびケース2の一方にねじ溝を有する差口を形成し、他方にねじ溝を有する受口を形成し、それら差口と受口とを係合させてもよい。
【0057】
ホルダ20の一端側には、ワッシャ23が設けられている。ワッシャ23は、ガイドシャフト6の一端側の部分を径方向に支持する。本実施形態では、ワッシャ23はセラミック製であるが、ワッシャ23の材料は特に限定される訳ではない。また、ガイドシャフト6の一端側部分を支持する部材は、ワッシャ23に限らず、AE波の伝達を阻害しない限り、滑り軸受等の他の部材を用いることも可能である。
【0058】
図2に示すように、ばね受け部材13aは第2貫通孔22に挿入されている。固定部材13bはホルダ20に固定されている。固定部材13bの固定方法は何ら限定されないが、例えば、固定部材13bをホルダ20にボルト等を用いて固定してもよく、ホルダ20に溶接等してもよい。ホルダ20の右端面と固定部材13bの左端面との間には、1または2以上のワッシャ14が配置されている。ワッシャ14は、ホルダ20の右端面と固定部材13bの左端面との間の距離Lを調整するためのものである。コイルスプリング12は、ガイドシャフト6の環状部6cとばね受け部材13aとの間に、圧縮された状態で配置されている。上記距離Lが変わると、ガイドシャフト6の環状部6cとばね受け部材13aとの間の距離が変化し、コイルスプリング12の収縮長さが変化する。したがって、上記Lを調整することにより、コイルスプリング12の付勢力を調整することができ、ひいては触媒1に対するガイドシャフト6の押圧力を調整することができる。なお、コイルスプリング12の付勢力を最大にする場合には、ワッシャ14は省略され、L=0となる。
【0059】
本実施形態においても、触媒1とAEセンサ3との間にはガイドシャフト6が介在し、触媒1とAEセンサ3とはケース2によって仕切られている。そのため、触媒1が高温になったとしても、AEセンサ3が高温になることを抑制することができる。また、コイルスプリング12の付勢力によって、ガイドシャフト6の一端6aは触媒1に押し付けられる。したがって、ガイドシャフト6の一端6aは触媒1と密着する。本実施形態に係るクラック発生検知装置102においても、AEセンサ3が高温になることを抑えつつ、触媒1のクラックの発生を良好に検知することができ、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0060】
さらに、本実施形態に係るクラック発生検知装置102では、以下に説明する効果も得ることができる。すなわち、本実施形態では、ガイドシャフト6はホルダ20によって二点支持されている。詳しくは、ガイドシャフト6の長手方向の中間位置よりも一端側の部分は、ワッシャ23(図2参照)を介してホルダ20に支持され、ガイドシャフト6の他端側の部分は、ワッシャ15(図3参照)およびプレッシャ部材13を介してホルダ20に支持されている。そのため、ガイドシャフト6を安定して支持することができ、AEセンサ3が検出する信号にノイズが含まれることを抑制することができる。したがって、触媒1のクラックの発生をより良好に検知することができる。
【0061】
また、本実施形態によれば、ワッシャ14の設置個数を調整することにより、触媒1の種類等に応じて、触媒1に対するガイドシャフト6の押し付け力を調整することができる。したがって、触媒1の種類等に応じて、ガイドシャフト6と触媒1との接触状態を調整することができ、触媒1のクラックの発生をさらに良好に検知することができる。
【0062】
なお、本実施形態においても、ガイドシャフト6の一端6aは、曲面状に形成されている。このことにより、ガイドシャフト6によって触媒1を削ってしまうことを抑制することができる。ただし、ガイドシャフト6の一端6aは、必ずしも曲面状でなくてもよく、例えば平面状等であってもよい。
【0063】
<実施形態3>
実施形態3に係るクラック発生検知装置103は、実施形態2に係るクラック発生検知装置102において、ガイドシャフト6の他端側を支持する部材として、ワッシャ15に代えて、ガイドシャフト6の径方向内向きに延びる3本のボールプランジャ30(図7参照)を備えたものである。
【0064】
図5および図6に示すように、本実施形態では、ガイドシャフト6の他端6bの近傍に、ホルダ31が設けられている。ホルダ31には、固定部材13bおよびガイドシャフト6が挿通されている。ホルダ31には、ボールプランジャ30を挿入するための貫通孔13cが形成されている。図示は省略するが、貫通孔13cはホルダ31の中心から放射状に延びている。各貫通孔13cにはボールプランジャ30が挿入され、各ボールプランジャ30はホルダ31に固定されている。ガイドシャフト6の外周面はボールプランジャ30の先端のボール30aに接触しており、ガイドシャフト6はボールプランジャ30によって軸方向の移動が自在に支持されている。図示は省略するが、ボールプランジャ30の内部には、ボール30aをガイドシャフト6の外周面に押し付けるスプリングが収容されている。ボール30aは上記スプリングにより、ガイドシャフト6の径方向に移動可能となっている。ボールプランジャ30は、ガイドシャフト6の径方向に弾性変形可能な弾性体を構成している。
【0065】
図5に示すように、固定部材13bは、ボルト32によってホルダ31に固定されている。プレッシャ部材13はホルダ20に固定されているので、ホルダ31はホルダ20に間接的に固定されている。その他の構成は実施形態2と同様であるので、その説明は省略する。
【0066】
本実施形態によれば、実施形態2の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。ガイドシャフト6は長手方向に長いため、撓み変形を生じることがある。そのため、ガイドシャフト6の他端側をワッシャ15(図3参照)で支持すると、ガイドシャフト6が若干撓んでいる場合、ガイドシャフト6の外周面とワッシャ15の内周面との間の隙間が、円周方向に関して均一にならないおそれがある。その結果、ガイドシャフト6とワッシャ15との間でがたつきが生じ、ノイズが発生するおそれがある。しかし、本実施形態によれば、ガイドシャフト6の他端側は、ボールプランジャ30によって3箇所で径方向に支持されている(図7参照)。ボールプランジャ30のボール30aは、ガイドシャフト6の径方向に弾性変形可能である。そのため、ガイドシャフト6が若干撓んでいても、ガイドシャフト6とボールプランジャ30のボール30aとの間に隙間が生じるおそれが少なく、がたつきが発生するおそれは少ない。したがって、ノイズの発生を抑制することができ、触媒1のクラックの発生をより正確に検知することができる。
【0067】
なお、本実施形態では、ボールプランジャ30はガイドシャフト6の円周方向に関して、互いに均等間隔に配置されている。ただし、ボールプランジャ30の配置間隔は不均等であってもよい。
【0068】
ボールプランジャ30は、ガイドシャフト6の径方向に弾性変形可能な弾性体の一例に過ぎず、そのような弾性体として他のものを使用することも勿論可能である。例えば、上記弾性体の他の例として、樹脂等からなるOリングや、ワッシャ15(図3参照)の内側に弾性変形可能なリング状部材を嵌め込んだもの等を使用することができる。
【0069】
なお、上記がたつきを防止する手段は、上記弾性体を用いたものに限定されない。例えば、上記弾性体を用いずに、ホルダ20の支持部とガイドシャフト6との間のクリアランスに他の部材を詰めることも可能である。例えば、実施形態1において、ガイドシャフト6の撓み等が原因となってワッシャ15とガイドシャフト6との間にクリアランスが生じている場合に、他の部材でそのクリアランスを埋めるようにしてもよい。
【0070】
<実施形態4>
実施形態4に係るクラック発生検知装置104は、実施形態2に係るクラック発生検知装置102(図3参照)におけるワッシャ15に代えて、支持部としてガイドシャフトを挿通させる筒状部材56によって構成される専用の軸受け50(図8、9参照)を配置したものである。
【0071】
本実施形態に係るクラック発生検知装置104で用いられる軸受け50は、図9に示すように、挿通孔52が形成された筒状部材56によって構成されている。かかる軸受け50の筒状部材56は、例えば、ステンレス、アルミニウムなどで構成されていると好ましい。また、この軸受け50の筒状部材56の内周面上(すなわち、挿通されたガイドシャフト6に接する面)には、コーティング層54が形成されている。このコーティング層54は、上記筒状部材56よりも摩擦抵抗が低い材料で構成されている。コーティング層54を構成する材料は、ガイドシャフト6や筒状部材56との関係を考慮して、好適な素材を適宜選択することができる。具体的な例を挙げると、コーティング層54を構成する材料には、摩擦抵抗(摩擦係数)が0.1以下のものを好ましく用いることができる。例えば、フッ素樹脂(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、グラファイト、二硫化モリブデン、窒化ホウ素等のコンポジットめっき、DLCコーティングなどが好ましい。
【0072】
上記軸受け50は、ホルダ20のAEセンサ3側の端部20bに配置されている。この軸受け50の筒状部材56の挿通孔52にはガイドシャフト6が挿通されており、コーティング層54はガイドシャフト6の表面に接している(図8参照)。
【0073】
本実施形態によれば、実施形態2の効果に加えて、以下の効果を得ることができる。ガイドシャフト6は、エンジン全体の振動などによって振動する。その際、ガイドシャフト6と該ガイドシャフト6を支持する部材とのクリアランス(間隔)が大きいと、ガイドシャフト6が径方向に振動して当該支持する部材と衝突することにより、2次的なAE信号が生じるおそれがある。一方、2次的なAE信号の発生を抑制するために、上記クリアランスを極小に設定すると、金属同士(ガイドシャフト6と該ガイドシャフト6を支持する部材)が接触した状態になるため、触媒1の基材の膨張/収縮に応じたガイドシャフト6の軸方向の動きが制限され、触媒1に対するガイドシャフト6の押圧力を一定に保つことが難しくなる。これに対して、本実施形態では、筒状部材56から構成されている支持部50において、筒状部材56の内周面上に、上記筒状部材56よりも摩擦抵抗が低い材料からなるコーティング層54が形成されている。これによって、上記2次的なAE信号の発生を抑制するためにクリアランスを極小に設定した場合であっても、触媒1の基材の膨張/収縮に応じたガイドシャフト6の軸方向の動きを確保でき、触媒1に対するガイドシャフト6の押圧力を一定に保つことが容易になる。したがって、触媒1のクラックの発生をより正確に検知することができる。
【0074】
なお、図8に示される構成では、ホルダ20のAEセンサ3側の端部20bに支持部(軸受け)50が配置されているが、ガイドシャフト6を支持できるのであれば、支持部(軸受け)50が他の部位に配置されていてもよい。例えば、ホルダ20の触媒1側の端部に支持部50が配置されていてもよいし、ホルダ20の長手方向における中間部分に支持部50が配置されていてもよい(この場合、支持部50とコイルスプリング12とが接触しないように配置すると好ましい)。
【0075】
<実施形態5>
本発明に係るクラック発生検知装置は、各種用途に用いられる触媒のクラックの検知に利用することができる。図10に示すように、以下に説明する実施形態は、内燃機関41の排気通路43に設けられた触媒1に、本発明に係るクラック発生検知装置100を適用したものである。なお、クラック発生検知装置100には、前記実施形態に係るクラック発生検知装置101〜104のいずれをも利用することができる。クラック発生検知装置100は、前記実施形態のクラック発生検知装置101〜104と同様であるので、その説明は省略する。
【0076】
本実施形態では、内燃機関41はディーゼルエンジンである。排気通路43には、小型酸化触媒としての触媒1と、排気浄化触媒としての触媒45とが設けられている。触媒1は触媒45の活性化を促すものであり、触媒45の上流側に配置されている。触媒1および触媒45は、白金等の貴金属が担持されたモノリス触媒である。触媒1の上流側には、燃料噴射弁42が配置されている。
【0077】
燃料噴射弁42から触媒1に燃料Fが噴射されると、燃料Fは触媒1内で酸化する。この際、触媒1内で酸化反応熱が生じ、触媒1の温度が上昇する。その結果、排気ガスGが触媒1によって加熱され、触媒45に対して、より高温の排気ガスGが供給されることになる。したがって、触媒45の温度も上昇し、触媒45の活性化が促進される。また、触媒45が活性化しているときに、より多くの燃料Fを触媒1に供給すると、供給された燃料Fの一部は触媒1によって改質される。改質された燃料は触媒45に供給され、酸化する。その結果、触媒45の温度はさらに上昇することになり、触媒45の活性化がさらに促進される。
【0078】
触媒1に対する燃料Fの供給を停止すると、触媒1の温度が急激に低下する。この際に、触媒1にクラックが発生しやすい。そこで、本実施形態では、燃料噴射弁42の燃料の噴射を停止した時、すなわち燃料カット時に、触媒1のクラックの検知を開始することとしている。
【0079】
データ処理装置5は、ECU44と通信可能に接続されている。データ処理装置5は、ECU44から信号を受信し、エンジン回転数、エンジンの負荷率、および燃料噴射量の情報を取得する。
【0080】
次に、図11のフローチャートを参照しながら、本実施形態における触媒1のクラックの検知方法を説明する。まず、ステップS1において、データ処理装置5は、エンジン回転数および負荷率がそれぞれ所定値以上か否かを判定する。判定結果がYESであればステップS2に進み、NOであればステップS1に戻る。ステップS2では、データ処理装置5は、燃料噴射弁42の燃料噴射が停止しているか(ECUから燃料噴射停止信号が受信されているか)否かを判定する。すなわち、データ処理装置5は、燃料噴射がないかどうかを判定する。判定結果がYESであればステップS3に進み、NOであればステップS1に戻る。
【0081】
ステップS3において、データ処理装置5はAE波の検出を開始する。続いてデータ処理装置5は、ステップS4において、AEセンサ3からの信号が、クラックが発生したときの信号として予め定められた信号(例えば、出力値が所定値以上の信号)と一致するか否かを判定する。言い換えると、データ処理装置5は、AE波に関する予め定められた信号(AE信号)が検出されたか否かを判定する。判定結果がNOであれば、ステップS2に戻り、再びステップS2以降の処理を繰り返す。判定結果がYESであればステップS5に進み、データ処理装置5はクラックが発生したとして、表示装置18に異常が発生した旨を表示させる。
【0082】
なお、クラックの発生検知は、燃料カットを開始してから所定時間行ってもよく、燃料カットの間中(すなわち、燃料の噴射を停止してから再開するまでの間中)行ってもよい。
【0083】
以上のように、本実施形態では、触媒1のクラックが発生しやすい燃料カット後に、クラックの検知を行うこととした。したがって、通常はクラックが発生しないような運転状態における無駄な検知動作を省略することができる。よって、クラックの発生の検知を効率的に行うことができる。
【0084】
ただし、クラックの発生の検知を常時行うことは勿論可能である。本発明には、クラックの発生の検知を常時行うものも含まれる。
【0085】
上記実施形態は、内燃機関の一例としてディーゼルエンジンを用いたものであった。しかし、本発明に係るクラック発生検知装置が適用される内燃機関の種類は何ら限定されず、ディーゼルエンジン以外の内燃機関であってもよい。例えば、内燃機関はガソリンエンジンであってもよい。
【0086】
ガソリンエンジンでは通常、高負荷領域では触媒温度を下げるために空燃比をリッチにしている。すなわち、空燃比を理論空燃比よりも小さくしている。しかし、そのことが高負荷領域における燃費悪化の原因となっている。燃費向上のためには、ストイキ燃焼をさせる領域を高負荷側の領域にまで拡げることが好ましい。ところが、その場合、触媒温度が上昇してしまう。このような状態でアクセルオフ等によって燃料カットが行われると、触媒温度が急激に低下し、クラックが発生しやすくなる。そこで、内燃機関がガソリンエンジンの場合にも、上記実施形態と同様に、燃料カット後にクラックの検知を行うこととしてもよい。これにより、クラックの発生検知を効率的に行うことができる。
【0087】
<実施形態6>
以下、実施形態6に係るクラック発生検知装置について説明する。なお、この実施形態において説明するクラック発生検知装置には、上述した実施形態に係るクラック発生検知装置101〜104のいずれをも利用することができる。したがって、ここではクラック発生検知装置の構造に関する説明は省略する。
【0088】
実施形態6に係るクラック発生検知装置は、コンピュータを備えている。当該コンピュータは、CPUなどからなる演算部と、不揮発性メモリーなどからなる記憶部とを備えており、予め設定されたプログラムに沿って種々の電子的な演算処理を行なうことで、触媒1のクラック検知における種々の判定を行う。本実施形態では、図12(若しくは図14)に示すように、上記コンピュータとしてデータ処理装置5を備えている。
【0089】
上記データ処理装置(コンピュータ)5は、少なくとも後述する判定部5aおよび検知開始部5bとして機能する。判定部5aは、後述する「所定の状態」に基づいて各種の判定を行う。「所定の状態」は予め定められた状態であり、例えば、記憶部に記憶されたデータまたはコンピュータプログラム中に格納されている。また、検知開始部5bは、判定部5aが上記「所定の状態」であると判定した場合にクラックの発生の検知を開始する。
【0090】
ここで、上記「所定の状態」として、触媒1が急冷されるような状態を設定すると好ましい。例えば、「内燃機関の燃料の噴射が停止された状態」、「アクセル開度が急激に小さくなった状態」、「触媒の温度が急激に低下した状態」などが挙げられる。以下で詳述するが、上述の何れの状態が生じた場合でも触媒1にクラックが生じやすくなるので、これらの状態において、クラックの検知を試みることによって、無駄な検知を省略することができ、効率の良い検知を行うことが可能となる。なお、判定部5aは、上記各々の状態のうち一つのみを判定してもよいし、複数の状態を複合して判定を行ってもよい。
以下、上述した「所定の状態」の具体例について説明する。
【0091】
図12に示すように、内燃機関41の排気通路43に設けられた触媒1に、本発明に係るクラック発生検知装置が適用されている場合、上記「所定の状態」として「内燃機関の燃料の噴射が停止した状態」を採用することができる。燃料Fの噴射が停止すると、触媒1の温度が急激に低下しやすくなり、クラックが生じやすくなる。したがって、このような状態が生じたときに、クラックの検知を開始することで、効率の良い検知を行うことが可能となる。
上記「内燃機関の燃料の噴射が停止した状態」と判定したときに、クラック検知を開始させるには、例えば、「燃料噴射停止信号」をECU44から判定部5aに送信できるような構成を採用するとよい。そして、判定部5aに「ECU44で作成される燃料噴射停止信号を受信したときにクラックの検知を開始する」と予め設定するとよい。これによって、判定部5aは、「燃料の噴射が停止した状態」にあるか否かを判定することができる。「燃料の噴射が停止した状態」にあると判定した場合に検知開始部5bがクラックの検知を開始する。
【0092】
また、図12に示す構成の場合、上記「所定の状態」として「アクセルの開度が急激に小さくなった状態」を設定することもできる。アクセル開度が急激に小さくなると、内燃機関41からの排気ガスGの温度が低下し、触媒1の温度が急激に低下しやすくなり、クラックが生じやすくなる。したがって、このような状態が生じたときに、クラックの検知を開始することで、効率の良い検知を行うことが可能となる。
上記「アクセルの開度が急激に小さくなった状態」と判定されたときにクラック検知を開始させるには、判定部5aにアクセル開度の減少量に対する基準値を予め定めるとともに、所定時間内におけるアクセル開度に関する情報をECU44から判定部5aに送信できるような構成を採用するとよい。そして、判定部5aに「所定時間内におけるアクセル開度の減少量が、上記基準値を上回ったときにクラックの検知を開始する」と設定する。これによって、判定部5aは、「アクセルの開度が急激に小さくなった状態」にあるか否かを判定することができ、「アクセルの開度が急激に小さくなった状態」にあると判定した場合に検知開始部5bがクラックの検知を開始する。
【0093】
また、図14に示す構成のように、触媒1に1つ以上の温度センサ9を取り付けている場合、触媒1の推定温度を測定することができるようになるため、上記「所定の状態」として「触媒の温度が急激に低下した状態」を設定できる。この場合、温度センサ9で測定した触媒の温度が急激に低下したときに、クラックの検知を開始することによって、効率の良い検知を行うことが可能となる。なお、図14に示す構成では、1つの温度センサ9が触媒1に取り付けられているが、これに限定されるものではなく、複数の温度センサを触媒1に取り付けてもよい。
上記「触媒の温度が急激に低下した状態」と判定したときにクラック検知を開始させるには、判定部5aに、所定時間における触媒1の推定温度の減少量に対する基準値(例えば15℃/sec〜80℃/sec(好ましくは40℃/sec〜80℃/sec)を予め定めるとともに、所定時間内における触媒の推定温度が温度センサ9から判定部5aに送信できるような構成を採用するとよい。そして、「所定時間内における触媒の推定温度の減少量が予め定めた基準値を上回ったときにクラックの検知を開始する」と予め設定する。これによって、判定部5aは、「触媒の温度が急激に低下した状態」にあるか否かを判定することができ、「触媒の温度が急激に低下した状態」にあると判定した場合に検知開始部5bがクラックの検知を開始する。
【0094】
また、本実施形態に係るクラック発生検知装置は、判定装置5cを備えている。本実施形態では、判定装置5cは、上記判定部5aと検知開始部5bとともに、データ処理装置(コンピュータ)5内に設けられている。この判定装置5cは、AEセンサ3にて検出されたAE波に含まれる特性値に基づいて、触媒1にクラックが発生しているか否かを判定する。本実施形態に係るクラック発生検知装置では、上記AE波に含まれる特性値として、「強度S」、「ヒット数N」、「エネルギーE」を測定することができる。
【0095】
「強度S」とは、図15に示すように、基準値Bから見たAE波の振れ幅を示す値である。基準値Bは任意に設定することができる。例えば、AE信号が検出されていない状態の値を基準値Bとして設定できる。また、本実施形態の判定装置5cには、その他の特性値(「ヒット数N」、「エネルギーE」)を測定するために、上記強度Sに対して所定の閾値Thが予め定められている。なお、強度Sに対する閾値Thは、測定状況(ノイズ等)を考慮して適宜変更することができる。この閾値Thは、例えば、20db〜50db(好ましくは30db〜40db)の範囲内にある値に設定するとよい。
【0096】
「ヒット数N」とは、図15に示すように、波形信号であるAE信号のうち、上記閾値Thを超えた強度Sを有する信号(ヒット)が記録された数を示す特性値である。一般的に、ヒット数Nは、触媒1にクラックが発生することにより増加する傾向がある。したがって、上記「所定の状態」を判定した時間内に(所定の単位時間内に)測定されたヒット数Nと、予め定めた基準値とを比較することによって、触媒1におけるクラックの有無を判定することができる。上記ヒット数Nを測定する際の単位時間は、5秒〜120秒(好ましくは10秒〜60秒)の範囲内の値に設定するとよい。また、上記強度Sに対する閾値Thを40dbに設定した場合、「ヒット数N」に対する基準値は、0回/秒(上記単位時間内に少なくとも1回)〜30回/秒(より好ましくは4回/秒〜10回/秒)の範囲内の値に設定するとよい。
【0097】
「エネルギーE」とは、波形信号であるAE信号の強度Sが上記閾値Thを超えてから、再び閾値Th未満になるまでの部分(図15中の斜線部分)の面積の和を示す特性値である。かかるエネルギーEは、例えば、所定の単位時間内において、上記閾値Thを超えた信号の絶対値を持続時間にわたって積分することによって算出することができる。エネルギーEは、触媒に生じるクラックの面積との間に相関関係を有している。したがって、測定されたエネルギーEと、予め定めた基準値とを比較することによって、触媒1におけるクラックの有無を判定することができる。例えば、φ100×L100の触媒基材を触媒1として用いた場合、「エネルギーE」に対する基準値は、4×10〜4×10(より好ましくは1×10〜4×10)の範囲内の値に設定すると好ましい。
【0098】
また、本実施形態に係る判定装置5cは、上記エネルギーEに平滑化処理を行うことができる。「平滑化処理」とは、誤測定や触媒以外の機器から生じた振動などによる「異常値(過大ノイズ)」を、測定されたエネルギーEから除外するための処理である。上記平滑化処理としては、種々の方法を採用することができる。
【0099】
上記平滑化処理の一例として以下の処理が挙げられる。この処理では、先ず、検出された信号のうち、最も強度Sが高かった値(最大値)から所定の値をカットする。そして、当該最大値から所定の値がカットされた信号に基づいてエネルギーEを算出する。この処理における上記所定の値は、信号全体に対して1%〜20%(好ましくは10%)に設定するとよい。
【0100】
次に、図13のフローチャートを参照しながら、本実施形態におけるクラック検知を説明する。
【0101】
本実施形態に係るクラック発生検知装置では、先ず、データ処理装置5の判定部5aが上記「所定の状態」にあるか否かについて判定する(S10)。このときの判定結果がNOであれば、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESであった場合、触媒1がクラック検出範囲内にあると判定し、ステップS20に進む。ステップS20では、クラックの検知を開始するべく、検知開始部5bがAE信号の検出を開始する。
【0102】
検知開始部5bによって検出されたAE信号は判定装置5cに送られる。判定装置5cは、送られてきたAE信号に基づいて強度S、ヒット数N、エネルギーEを測定する(S30)。そして、測定したヒット数Nが、予め定められた基準値を上回っているか否かを判定する(S40)。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはヒット数Nがクラック発生領域内にあると判定し、次のステップS50に進む。
【0103】
ステップS50において、判定装置5cは、上記ステップS30で測定されたエネルギーEに平滑化処理を行い、測定されたエネルギーEから異常値(過大ノイズ)を除外する。次に、判定装置5cは、異常値を除いたエネルギーEが予め定めた基準値を上回っているか否かについて判定する(S60)。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはエネルギーEがクラック発生領域内にあると判定し、ステップS70へ進み、触媒1にクラックが発生したと判定し、表示装置18に異常が発生した旨を表示させる。
【0104】
本実施形態によれば、以下のような効果を得ることができる。
本実施形態に係るクラック発生検知装置では、予め定めた「所定の状態」(例えば、「内燃機関の燃料の噴射が停止された状態」、「アクセル開度が急激に小さくなった状態」、「触媒の温度が急激に低下した状態」など)にあると判定部5aが判定した場合に検知開始部5bがクラックの検知を開始する。この「所定の状態」と判定したときのみに、クラックの検知を開始することによって、無駄な検知を省略し、効率の良い検知を行うことが可能となる。
【0105】
また、本実施形態に係るクラック検知装置では、AE波に含まれる特性値(ヒット数N、エネルギーE)に基づいて、判定装置5cが触媒にクラックが生じているか否かを判定している。上記ヒット数Nは、触媒にクラックが生じた場合に増加する傾向がある。また、エネルギーEは、触媒に生じたクラックの面積との間に相関関係を有している。すなわち、これらの特性値に基づいて判定を行うため、触媒に生じたクラックを非破壊的に、且つ、正確に検知することができる。
【0106】
また、本実施形態では、上記エネルギーEに対して平滑化処理を行い、該平滑化処理されたエネルギーEが予め定めた基準値を超えた場合に触媒においてクラックが発生していると判定する。これによって、異常値(過大ノイズ)を除外したエネルギーEに基づいてクラックが生じているか否かの判定を行うことができるため、より正確にクラックの検知をすることができる。
【0107】
また、本実施形態では、ヒット数NとエネルギーEの両方に基づいてクラックが発生しているか否かを判定している(図13のS40、S60)。このため、「ヒット数N」と「エネルギーE」の何れか一方のみに基づいて判定を行うよりも正確にクラックの発生を検知できる。
【0108】
<実施形態7>
実施形態7に係るクラック発生検知装置について説明する。なお、この実施形態において説明するクラック発生検知装置には、上述した実施形態6に係るクラック発生検知装置と同様の構成を採用することができる。したがって、ここではクラック発生検知装置の構成に関する説明は省略する。以下、図16に示すフローチャートを参照しながら、実施形態7のクラック発生検知装置におけるクラック検知について説明する。
【0109】
本実施形態に係るクラック発生検知装置では、先ず、データ処理装置5の判定部5aが「所定の状態」にあるか否かについて判定する(S10)。このときの判定結果がNOであれば、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESである場合、触媒1がクラック検出範囲内にあると判定し、ステップS20に進む。ステップS20では、クラックの検知を開始するために、検知開始部5bがAE信号の検出を開始する。
【0110】
検知開始部5bによって検出されたAE信号は判定装置5cに送られる。判定装置5cは、送られてきたAE信号に基づいて強度S、エネルギーEを測定する(S32)。そして、ステップS50において、測定されたエネルギーEに平滑化処理を行い、「異常値(過大ノイズ)」を除外する。次に、判定装置5cは、異常値を除いたエネルギーEが予め定めた基準値を上回っているか否かについて判定する(S60)。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはエネルギーEがクラック発生領域内にあると判定し、ステップS70へ進み、触媒1にクラックが発生したとみなし、表示装置18に異常が発生した旨を表示させる。
【0111】
本実施形態では、上記実施形態6と異なり、AE信号からヒット数Nを測定する工程(図13のS30参照)と、測定されたヒット数Nを判定する工程(図13のS40参照)を含んでいない。しかし、本発明のクラック発生検知装置は、AE信号のエネルギーEのみに基づいた場合であっても、触媒1に生じるクラックを検知することができる。
【0112】
<実施形態8>
実施形態8に係るクラック発生検知装置について説明する。なお、この実施形態において説明するクラック発生検知装置には、上述した実施形態6に係るクラック発生検知装置と同様の構成を採用することができる。したがって、ここではクラック発生検知装置の構成に関する説明は省略する。以下、図17に示すフローチャートを参照しながら、実施形態8のクラック発生検知装置におけるクラック検知について説明する。
【0113】
本実施形態に係るクラック発生検知装置では、先ず、データ処理装置5の判定部5aが「所定の状態」にあるか否かについて判定する(S10)。このときの判定結果がNOであれば、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、触媒1がクラック検出範囲内にあると判定し、ステップS20に進む。ステップS20では、クラックの検知を開始するために、検知開始部5bがAE信号の検出を開始する。
【0114】
検知開始部5bによって検出されたAE信号は判定装置5cに送られる。判定装置5cは、送られてきたAE信号に基づいて強度S、ヒット数N、エネルギーEを測定する(S30)。そして、測定したヒット数Nが、予め定められた基準値を上回っているか否かを判定する(S40)。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはヒット数Nがクラック発生領域内にあると判定し、次の工程(S62)に進む。
【0115】
ステップS62において、判定装置5cは、上記ステップS30で測定されたエネルギーEが予め定めた基準値を上回っているか否かについて判定する。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはエネルギーEがクラック発生領域内にあると判定し、ステップS70へ進み、触媒1にクラックが発生したとみなし、表示装置18に異常が発生した旨を表示させる。
【0116】
本実施形態では、上記実施形態6とは異なり、測定されたエネルギーEに平滑化処理を行う(異常値を除外する)ステップ(図12のS50参照)を含んでおらず、測定されたエネルギーEに基づいてクラックの有無を判定している。しかし、この場合であっても、触媒1に生じるクラックを検知することができる。
【0117】
<実施形態9>
実施形態9に係るクラック発生検知装置について説明する。なお、この実施形態において説明するクラック発生検知装置には、上述した実施形態6に係るクラック発生検知装置と同様の構成を採用することができる。したがって、ここではクラック発生検知装置の構成に関する説明は省略する。以下、図18に示すフローチャートを参照しながら、実施形態9のクラック発生検知装置におけるクラック検知について説明する。
【0118】
本実施形態に係るクラック発生検知装置では、先ず、データ処理装置5の判定部5aが「所定の状態」にあるか否かについて判定する(S10)。このときの判定結果がNOであれば、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、触媒1が「クラック検出範囲内」にあると判定し、ステップS20に進む。ステップS20では、クラックの検知を開始するために、検知開始部5bがAE信号の検出を開始する。
【0119】
検知開始部5bによって検出されたAE信号は判定装置5cに送られる。判定装置5cは、送られてきたAE信号に基づいて強度Sおよびヒット数Nを測定する(S34)。そして、測定したヒット数Nが、予め定められた基準値を上回っているか否かを判定する(S40)。このときの判定結果がNOの場合には、ステップS10に戻り、「所定の状態」になるかを監視し続ける。一方、判定結果がYESの場合、判定装置5cはヒット数Nがクラック発生領域内にあると判定し、次の工程(S70)に進み、触媒1にクラックが発生したとみなし、表示装置18に異常が発生した旨を表示させる。
【0120】
本実施形態では、上記実施形態6とは異なり、AE信号からエネルギーEを測定するステップ(図12のS30参照)を含んでおらず、エネルギーEに基づいてクラック発生領域を判定するステップ(図12のS60参照)も行っていない。しかし、本発明のクラック発生検知装置は、ヒット数のみに基づいた場合であっても、触媒1に生じるクラックを検知することができる。
【0121】
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1 触媒
2 ケース
3 AEセンサ
5 データ処理装置
6 ガイドシャフト
10 断熱材
12 コイルスプリング(付勢部材)
13 遮熱板(仕切部材)
15 ワッシャ(支持部)
20 ホルダ
23 ワッシャ(支持部)
30 ボールプランジャ
41 ディーゼルエンジン(内燃機関)
42 燃料噴射弁
43 排気通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気ガスを浄化する触媒のクラックの発生を検知するクラック発生検知装置であって、
AE波を検出するAEセンサと、
前記AEセンサと前記触媒との間を仕切る仕切部材と、
前記仕切部材を貫通して一端が前記触媒に接触し且つ他端が前記AEセンサに接触するように配置され、前記一端から前記他端にAE波の伝達が可能なガイドシャフトと、
前記ガイドシャフトの一端を前記触媒に押し付けるように前記ガイドシャフトを付勢する付勢部材と、
を備えた触媒のクラック発生検知装置。
【請求項2】
前記ガイドシャフトを挿通させる貫通孔が形成されたホルダを備え、
前記ホルダの長手方向の中間位置よりも一端側および他端側には、前記ガイドシャフトを径方向に支持する支持部がそれぞれ設けられ、
前記付勢部材は、一端が前記ガイドシャフトに係合し且つ他端が前記ホルダに係合したスプリングによって構成されている、請求項1に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項3】
前記ホルダの前記他端側の支持部は、少なくとも前記ガイドシャフトの径方向に弾性変形可能な弾性体を有している、請求項2に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項4】
前記支持部は、前記ガイドシャフトを挿通させる挿通孔が形成された筒状部材によって構成され、
前記筒状部材の内周面上には、当該筒状部材よりも摩擦抵抗の低い材料からなるコーティング層が形成されている、請求項2に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項5】
前記ガイドシャフトの前記一端側の端面は、曲面状に形成されている、請求項1〜4のいずれか一項に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項6】
前記ホルダの前記一端側の部分は、前記触媒を収容するケースに取り付けられ、
前記ホルダと前記触媒との間に介在する断熱材をさらに備えている、請求項1〜5のいずれか一項に記載の触媒にクラック発生検知装置。
【請求項7】
予め定めた所定の状態にあるか否かを判定する判定部と、前記判定部が前記所定の状態にあると判定すると前記触媒のクラックの発生の検知を開始する検知開始部とを有するコンピュータを備えている、請求項1〜6のいずれか一項に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項8】
前記触媒は、内燃機関の排気通路に配置され、
前記所定の状態とは、前記内燃機関の燃料の噴射が停止された状態である、請求項7に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項9】
前記触媒は、内燃機関の排気通路に配置され、
前記所定の状態とは、前記内燃機関の回転数を調整するアクセルの開度の所定時間内における減少量が予め定めた基準値を上回った状態である、請求項7又は8に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項10】
前記触媒に1つ以上の温度センサが取り付けられており、
前記所定の状態とは、前記温度センサから得られた前記触媒の推定温度の所定時間内における減少量が予め定めた基準値を上回った状態である、請求項7〜9のいずれか一項に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項11】
前記AE波に含まれる特性値に基づいて、前記触媒にクラックが発生しているか否かを判定する判定装置を備えている、請求項1〜10のいずれか一項に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項12】
前記判定装置は、前記AE波に含まれる特性値として、前記AE波のヒット数を測定し、前記ヒット数が予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定する、請求項11に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項13】
前記判定装置は、前記AE波に含まれる特性値として、前記AE波のエネルギーを算出し、前記エネルギーが予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定する、請求項11又は12に記載の触媒のクラック発生検知装置。
【請求項14】
前記判定装置は、算出された前記エネルギーに平滑化処理を行い、該平滑化処理されたエネルギーが予め定めた基準値を超えた場合に前記触媒においてクラックが発生していると判定する、請求項13に記載の触媒のクラック発生検知装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−68230(P2012−68230A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−160129(P2011−160129)
【出願日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【出願人】(000004695)株式会社日本自動車部品総合研究所 (1,981)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】