説明

触媒の製造

オキシラン化合物の製造用に適するTS−1触媒が、慣用法で生成したTS−1を粉砕などのサイズ減少処理にかけてTS−1の容積加重平均粒子サイズを直径が10ミクロン未満に減少させ、次いでサイズが縮小したTS−1を噴霧乾燥させることによって製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は触媒の製造に関し、特に、場合によりバインダーと共に、TS−1を噴霧乾燥することに関し、その特別な改良点は、噴霧乾燥に先立って噴霧乾燥器供給物中の固体粒子の容積加重粒子中央値を10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満に減少させることにある。
【背景技術】
【0002】
酸化プロピレン製造などのある一定の化学的方法において、使用される重要な触媒はTS−1、すなわちチタンシリカライトである。たとえば米国特許USP6,441,204B1、USP6,498,259B1、USP6,555,493B2などを参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
TS−1を乾燥前に200ミクロンより下のサイズに最初に粉砕する工程を含むTS−1を噴霧乾燥する方法が従来技術、たとえば米国特許4,824,976、6,551,546B1に教示されているけれども、今ではTS−1を噴霧乾燥前に従来の上限の200ミクロンより非常に小さい粒子径へのサイズ縮小が酸化プロピレン製造に使用するのに著しく改良された触媒をもたらすことがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明にしたがって、在来法で製造したTS−1結晶と、任意に付随するバインダーは噴霧乾燥を行う前に容積加重で10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満の中央値になるまでに固体粒子をサイズ縮小させるサイズ減少工程にかけられる。
(詳細な説明)
本発明の実施に使用されるチタンシリカライトは周知の方法によって製造される。チタンシリカライト製造の包括的な記述は米国特許USP4,833,260に示されている。
【0005】
そのように製造された粒状のTS−1は過酸化水素とオレフィンを反応させてオキシラン生成物を生成させる触媒として有用である。さらに、TS−1はパラジウムなどの貴金属を含浸させることができ、含浸した生成物は酸素、水素およびオレフィンの反応を触媒作用してオキシラン製品を生成させるのに使用できる。たとえば、日本特許公開番号4−352771、米国特許USP6,281,369、USP6,005,123、USP6,008,388などを参照されたい。
【0006】
TS−1すなわちチタンシリカライト触媒は、一般にオキシラン製品を生成させる実際反応中、適当な液体中で固体触媒粒子のスラリーすなわち懸濁液として使用される。TS−1と協同するシリカやアルミナなどのバインダーを供給して触媒粒子の物理特性を改善することが往々にして有利となる。
【0007】
噴霧乾燥技術はTS−1触媒粒子を製造するため従来方法で用いられている。上記に関連している米国特許USP4,824,976およびUSP6,551,546を参照されたい。
【0008】
噴霧乾燥前に普通に製造されそしてまたバインダーと混合されているTS−1は、容積加重粒子径中央値が10〜15ミクロンまたはそれよりかなり大きい硬い塊を相当程度含んでいることがわかった。さらにそのような比較的大きな塊は、そのような塊を含有するTS−1の噴霧乾燥で得られる触媒生成物に著しく非同質性を与え、機械的強度を弱める原因になることがわかった。
【0009】
本発明にしたがって、TS−1自身またはバインダーとの混合物で噴霧乾燥に先立って先ず容積加重粒子径中央値を10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満に減少させる粉砕などのサイズ減少工程にかけられる。次いでサイズが減少された材料をオレフィンをオキシラン誘導体に転化させるための触媒としてすぐれた効用を有する均一な粉体製品を形成させるために噴霧乾燥する。
【0010】
本発明にしたがって実施される噴霧乾燥以前のサイズ減少は、ボールミル粉砕、ジェットミル粉砕またはサイズ減少のための従来公知のすべての方法またはそれらの組合せを含むことができる。このサイズ減少操作は既知の気体式技術にしたがって水を添加しないで行われる。
【0011】
大事なことは、TS−1またはTS−1とバインダー混合物の容積加重粒子径中央値を噴霧乾燥前に10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満に減少させることである。
【0012】
サイズを減少されたTS−1は、水性媒体中に分散され、既知の技法にしたがって噴霧乾燥される。後続のエポキシ化反応に使用するため、約30〜40ミクロンの容積加重粒子径中央値を有する製品を製造するのに適当な条件下で噴霧乾燥を行うことが一般に有利である。所望の製品を製造するため調節できる噴霧乾燥の変数には供給スラリーの液滴サイズ、乾燥器への供給速度ならびに乾燥用空気温度および蒸発速度がある。
【0013】
発明者らは、供給速度が速ければ速い程液滴が大きく、かつ、得られる粒子が大きいことを実験的に見出した。これは高い供給速度でディスク上を回転するスラリー層を濃縮することで起り、噴霧化工程中で薄膜や液滴を濃縮する。また、供給速度が速ければ速い程、粒子間および液滴間、ならびに液滴/粒子の衝突割合が大きい;乾燥器中の液滴および粒子の密度は供給速度とともに上昇し、粒子間衝突がおそらくおき易くなる。発明者らはより大きな粒子はサイズだけの効用で本来的に弱くなり、表面積/容積比が小さいと乾燥中の粒子が表面の孔を吹く水蒸気の流出発散によって膨むことを見出した。これは形の悪いことと弱い粒子の原因となる。これらの考察により概略6インチ直径の噴霧化用回転盤に対してはスラリー供給速度が0.15〜0.20ガロン/分に制限される。0.8ガロン/分までの高い供給速度が用いられたが、この場合粒子の形はひどく悪く、かつ、強度が非常に劣化した。
【0014】
良好な製品はたとえば700〜800°Fの空気供給温度で作られている。総体的に、供給空気温度が高い程、乾燥器中の水蒸発領域が熱く蒸発速度が速い。しかしながら蒸発が速過ぎる場合は粒子が水蒸気の圧力によって内部応力を受けて亀裂が生じ、粒子の側面に孔が吹き通されるかあるいは粒子の本体が分解してポップコーンのような砕片となる。したがって850°F以下、好ましくは800°Fまたはより良好には700°Fの空気供給温度が必要とされる。
【0015】
ここに使用されるTS−1は、たとえば米国特許USP4,833,260に記載されているように慣用方式で形成される。本発明にしたがって、随意にシリカなどのバインダーと混合物であるTS−1は、容積加重粒子径中央値を10ミクロン未満、好ましくは5ミクロン未満に減少させる粉砕などのサイズ縮小手段にかけられ、そのあとサイズが減少された粒子を噴霧乾燥させて、たとえば酸化プロピレンなどのオキシラン製造用触媒として有用な製品を形成させる。
【0016】
本発明の例証として次の実施例が提供される。
実施例1
40重量%の水酸化テトラプロピルアンモニウム(TPAOH)水溶液400gを水で25重量%に稀釈し、氷浴中で冷却した。冷却攪拌したテトラエチルオルトシリケート(TEOS)364gに冷却したテトラエチルオルトチタネート(TEOT)8gを混合を続けながら徐々に加えた。25重量%のTPAOH溶液をTEOS/TEOT混合物にゆっくり加え、得られた混合物を室温に戻す。次いでこの混合物を金属のオートクレーブ中に入れ、温度を170℃までゆっくり上げてTS−1の結晶を生成させながら170℃に3日間保持した。得られたスラリーをオートクレーブから回収し、TS−1結晶を濾過により分離して水で洗浄した。TS−1結晶を110℃で乾燥し、550℃でか焼した。
【0017】
か焼したTS−1は20ミクロンをかなり超す容積加重粒子径中央値を有し、通常、容積加重粒子は100ミクロンをかなり超す粒子径を有する。随意にバインダーと混合された乾燥TS−1粒子は、必要に応じて固体リサイクルと一緒に、容積加重平均粒子径が5ミクロン未満に減少するまで空気媒体によって狭いプレート間隔を有するセラミックジェットミルを通過する。これはMalvern(モルバン)粒子径分析計または同等物あるいは走査電子顕微鏡を使用してチェックされる。
【0018】
攪拌機を有するタンク(水槽)中に80ポンドの水、か焼してジェットミルにかけた16ポンドのTS−1、および4ポンドの無定形シリカ(このものは高純度で平均粒子径が5nm(ナノメータ)のコロイドシリカである)を混合する。得られたスラリーは、可変速ポンプおよび移動ラインを通って8フィート直径のNiro Atomizer Corporationの噴霧乾燥器にステンレス鋼翼噴霧盤によって連続的に供給される。噴霧乾燥器は上部の円筒部およびこの円筒部と隣接する下部の円錐部からなる。天然ガス(メタン)燃焼によって800°F(427℃)に予熱された空気が噴霧乾燥器頂部に供給される。噴霧乾燥された粒子は回転星型排出弁を通って乾燥器の円錐部基部の容器に集められ、この容器の口は回転式排出弁の底部フランジに留められている。消費された加熱空気は乾燥器の円錐部側面から出て行き、水洗浄器、バッグフィルターおよびバッグハウス(bag house)を通して空気の流れを維持する第2のファンによって大気中に排出する。噴霧乾燥された製品は容積加重で40ミクロンの粒子径中央値および数量加重で25ミクロンの粒子径中央値を有する。直径が10ミクロン未満の製品はほとんどないかまたは全然ない。この粒子は僅かの部分が小さなくぼみまたはへこみ穴を有する多孔性の球である。形態上裂け目や他の欠陥は走査電子顕微鏡で測定してまれである。噴霧乾燥したTS−1の理論的組成は、完全乾燥後、80重量%TS−1と20重量%無定形シリカである。
【0019】
次に酸化プロピレン製造用触媒を形成させるため噴霧乾燥した材料にPdを加える。噴霧乾燥されたTS−1組成物は110℃で乾燥され、酸素含有雰囲気中550℃でか焼される。乾燥してか焼した噴霧乾燥TS−1組成物の70gを、脱イオン水250g中にパラジウムテトラミンジクロライドモノハイドレート(palladium tetramine dichloride mono hydrate)の0.259gを含む溶液と最小限の機械的攪拌を使用して混合する。この混合物を30℃に加熱し、16時間浸漬してPdイオン交換を行う。次いで公称10ミクロンフィルターを使用して液から固体を分離するためこの混合物を濾過する。濾過した固体を脱イオン水で3回洗浄し、オーブン中、減圧下50℃で乾燥後110℃に加熱して2時間保持する。乾燥した製品を2℃/分の割合で300℃まで温度を上げ、300℃に4時間保持してか焼する。得られた固体を冷却し、窒素ガスでフラッシュする。この触媒を50℃で4時間、窒素中4%の水素ガスと接触させて還元する。装置を窒素で流して水素を除去する。理論的なPd量は0.149重量%であり、仕上げ触媒の実験的Pd量は0.10重量%である。
【0020】
噴霧乾燥に先行する粒子サイズの減少結果として、噴霧乾燥後のTS−1の活性が大いに増加する。さらに、噴霧乾燥した触媒のエポキシ化活性は予想したよりも高い。酸化プロピレンの容積−比生産率が増加し、これにより装置のコストに関係のある生産率が増加する。
【0021】
このようにして製造された触媒が既知の方法にしたがって酸化プロピレンの製造を触媒作用させるのに使用される。実例として、上述したその場で仕上った触媒の10重量%を含む懸濁液が形成される。モル比で約2対1対1.3の水素、酸素およびプロピレンがこの懸濁液に供給され、約65℃、850psig(ポンド/インチ2、ゲージ)の圧力で反応させて酸化プロピレンを生成させる。反応混合物は既知の方法にしたがって製品酸化プロピレンを回収するため使われる。
【0022】
上述の実験方法は、TS−1製造に際してTi化合物の量を変えることによってTiの割合を変化させること;使用するTPAOHの相対量を変化させること;既にか焼した場合は噴霧乾燥の前にTS−1にPdを適用する(含浸させる)こと;噴霧乾燥製品とともに残った水酸化テトラプロピルアンモニウム鋳型を有するTS−1を噴霧乾燥させ、その後鋳型を除去するためか焼すること;無定形アルミナや無定形アルミナとシリカの混合物などの他のバインダーを使用すること;パラジウムの後に加えることができる金などの追加触媒成分を使用すること;硝酸亜鉛や酸化亜鉛などの他の物質をTS−1と一緒に噴霧乾燥することができ、その場合か焼が亜鉛を酸化亜鉛に変化させること;などを含む幾多の方法で変えることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
オキシラン化合物の製造用に好適なTS−1触媒粒子の製造方法において、TS−1粒子の容積加重平均直径を10ミクロン未満に減少させ、この減少TS−1粒子の水性懸濁液を噴霧乾燥させる改良を特徴とする、前記TS−1触媒粒子の製造方法。
【請求項2】
触媒が請求項1記載の方法によって製造されることを特徴とする、オレフィンを触媒反応により過酸化水素とエポキシ化することを含む、オキシラン化合物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の方法によって製造したTS−1上に担持された貴金属を含む触媒の存在下のエポキシ化条件においてオレフィン、水素および酸素を反応させることを含む、オキシラン化合物の製造方法。
【請求項4】
触媒粒子がさらにバインダーも含む、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記オレフィンがプロピレンである、請求項2記載の方法。
【請求項6】
前記オレフィンがプロピレンである、請求項3記載の方法。
【請求項7】
前記貴金属がパラジウムである、請求項3記載の方法。

【公表番号】特表2007−519521(P2007−519521A)
【公表日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551073(P2006−551073)
【出願日】平成16年12月13日(2004.12.13)
【国際出願番号】PCT/US2004/041808
【国際公開番号】WO2005/075443
【国際公開日】平成17年8月18日(2005.8.18)
【出願人】(505341095)ライオンデル ケミカル テクノロジー、 エル.ピー. (61)
【氏名又は名称原語表記】LYONDELL CHEMICAL TECHNOLOGY, L.P.
【Fターム(参考)】