説明

触媒劣化検出装置

【課題】この発明は、触媒の下流側に限界電流式の空燃比センサを用い、触媒劣化を高精度で検出できるように改良した触媒劣化検出装置を提供する。
【解決手段】内燃機関の空燃比を理論空燃比近傍の目標空燃比に制御する空燃比フィードバック制御が行われている間、排気通路の触媒より下流に配置された空燃比センサの出力の、リッチ空燃比とリーン空燃比との間での変化の周期を検出又は推定する。触媒が正常に機能している場合、センサ出力の周期は比較的小さくなり、触媒に異常が生じている場合、センサ出力の周期は大きくなる。このことから、検出された周期に応じて、触媒の劣化の有無を判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒劣化検出装置に関し、より詳細には、排気浄化機能を有する三元触媒の劣化を検出する触媒劣化検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、排気通路の三元触媒の上流と下流とのそれぞれに、酸素センサが設置されたシステムが開示されている。このシステムでは、理論空燃比を中心に空燃比がリッチとリーンとの間で交互に変化するように空燃比フィードバック制御が行われる。
【0003】
また、特許文献1では、以下の触媒劣化検出の手法が開示されている。特許文献1のシステムでは、触媒劣化検出を行う際、空燃比フィードバック制御中のセンサ出力の軌跡長比と反転回数比とが求められる。ここで、軌跡長比は、上流側のセンサ出力の軌跡長に対する下流側のセンサ出力の軌跡長であり、軌跡長はセンサ出力の一定時間における変動軌跡の長さである。反転回数比は、上流側のセンサ出力の反転回数に対する下流側のセンサ出力の反転回数の比であり、反転回数は、センサ出力が一定時間に、基準出力値を横切った回数である。
【0004】
特許文献1では、この手法について次のように説明されている。三元触媒が正常であれば、三元触媒下流側には理論空燃比近傍まで浄化された排気ガスが流入する。従って、下流側のセンサ出力は緩やかに変化し、軌跡長や反転回数は、上流側のセンサ出力の変動に比べてごく小さな値となる。一方、触媒が劣化しているような場合には、触媒下流にも触媒上流と同様のリッチ、リーンガスを含む排気ガスが排出される。従って、下流側のセンサ出力は、上流側のセンサ出力と同様の変化を示すようになる。従って、触媒が劣化している場合の軌跡長比や反転回数比は、触媒が劣化していない場合の軌跡長比は反転回数比よりも大きなものとなる。このことから軌跡長比又は反転回数比が閾値を越えているか否かに基づいて触媒の劣化が検出される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−054226号公報
【特許文献2】特開平08−100637号公報
【特許文献3】特開2004−003405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の触媒浄化性能の向上等により、特に、理論空燃比近傍では、触媒の下流に排出される排気ガスのリッチ成分やリーン成分の濃度(以下、単に「濃度」とも称する)は極低濃度なものとなる。起電力式の酸素センサは、検出対象のガスの濃度が過度に低い状態となると、空燃比の変化に対する応答性が低下し、出力ずれが大きくなる。
【0007】
従って、上記特許文献1の触媒の上流側、下流側の酸素センサの出力に基づく触媒検出の手法により、高い浄化性能を有する触媒の劣化検出を行うとすると、下流側の酸素センサの出力ずれによる誤判定が生じることも考えられる。この点、触媒浄化性能の向上に対応し、排ガス濃度が極低濃度となる環境下でも触媒の劣化を検出できるシステムが望まれる。
【0008】
この点、高い浄化性能の触媒に対応するため、三元触媒の下流にも限界電流式の空燃比センサの設置することが提案されている。限界電流式の空燃比センサを用いた場合、検出対象のガスが極低濃度となる場合にも、ある程度、空燃比の変化に対応した出力を得ることができる。しかし、限界電流式の空燃比センサの特性は、起電力式の酸素センサの出力特性とは全く異なるものである。従って、例えば、上記特許文献1のような酸素センサを用いた触媒劣化検出の手法を、そのまま空燃比センサを用いたシステムに適用することは難しい。
【0009】
また限界電流式の空燃比センサに関しても、排気ガス濃度が極低濃度な場合と、排気ガス濃度がある程度高い場合とで、センサの出力特性にずれが生じるものと考えられる。しかし、このような出力特性のずれの特性は、酸素センサの場合に生じるずれの特性とは異なるものである。
【0010】
従って、触媒の下流側にも限界電流式の空燃比センサを用いる触媒劣化検出装置に関しても、排気ガスが極低濃度となる環境におけるセンサの特性をも考慮し、触媒劣化検出の精度を高めることが望まれる。
【0011】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものである。即ち、触媒の下流側に限界電流式の空燃比センサを用いるシステムに適用でき、触媒の劣化を高精度に検出し得る触媒劣化検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、触媒劣化検出装置であって、
内燃機関の排気通路に配置され、排気ガスを浄化する触媒と、
内燃機関の空燃比を理論空燃比近傍の目標空燃比に制御する、空燃比フィードバック制御が行われている間の、前記排気通路の前記触媒より下流に配置された空燃比センサの出力の、リッチ空燃比とリーン空燃比との間での変化の周期を検出又は推定する手段と、
前記周期に応じて、前記触媒の劣化の有無を判定する手段と、
を備える。
【0013】
第2の発明は、第1の発明において、
前記周期を検出又は推定する手段は、前記周期に関連するパラメータとして、前記空燃比フィードバック制御が行われている間の一定期間における、前記空燃比センサの出力の反転回数を検出し、
前記触媒の劣化の有無を判定する手段は、前記反転回数が基準回数以下である場合に、前記触媒の劣化有りの判定をする。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、
前記排気通路の排気ガスの量を検出又は推定する手段と、
前記排気ガスの量に応じて、前記周期を補正する手段と、
を更に備える。
【0015】
第4の発明は、第1から第3のいずれかの発明において、
前記空燃比センサの素子部の温度を検出又は推定する手段と、
前記素子部の温度に応じて、前記周期を補正する手段と、
を更に備える。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、触媒下流に配置された空燃比センサの出力変化の周期に応じて、触媒の劣化の有無が判定される。ここで、空燃比センサは、検出対象となる排気ガスが極低濃度となると、僅かな濃度変化に敏感に反応するため、その応答性が向上する。つまり、検出対象の排気ガスが極低濃度な領域では、出力変化の周期が小さくなる。一方、排気ガス濃度が高くなると、濃度変化に対する応答性は遅くなり、出力変化の周期が大きくなる。また、触媒下流の排気ガスの濃度は、触媒の浄化性能に関連し、触媒の浄化性能の高いときには極低濃度となり、触媒が劣化し、浄化性能が低くなっている場合には、高濃度となる。従って、触媒下流に配置された空燃比センサの出力変化の周期に基づき、触媒の劣化を検出することができる。
【0017】
第2の発明によれば、空燃比センサの周期と関連するパラメータとして、一定期間中の出力の反転回数を検出する。これにより容易に空燃比センサの周期に応じた触媒劣化の有無の判定を行うことができる。
【0018】
第3、第4の発明によれば、排気ガス量あるいは素子温に応じた補正を行うことで、周期に与える影響を排除し、より正確に触媒の劣化を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態1の触媒劣化検出装置のシステム構成を説明するための式図である。
【図2】本発明の実施の形態1の空燃比センサについて説明するための模式図である。
【図3】本発明の実施の形態1の空燃比センサの出力特性について説明するための図である。
【図4】本発明の実施の形態1の空燃比フィードバック制御時の、触媒下流の空燃比センサの出力変化について説明するための図である。
【図5】本発明の実施の形態1において制御装置が実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態2において制御装置が実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
実施の形態1.
[触媒劣化検出装置の構成]
図1〜図5を参照しながら、本発明の実施の形態1について説明する。なお、各図において、同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態1の触媒劣化検出装置とその周辺機器を含むシステムの全体構成を示す図である。図1に示される、本実施の形態1のシステムは、車両動力装置としての内燃機関10を備えている。内燃機関10の排気通路12にはS/C14が配置されている。S/C14は三元触媒を内蔵する。三元触媒は、これに流入する排気空燃比が理論空燃比(以下「ストイキ」とも称する)付近にある場合に排気中のHC、CO、NOxの3成分を効率的に浄化する。
【0022】
また、図1に示すようにS/C14の上流側には空燃比センサ16が配置され、S/C14の下流側には空燃比センサ18が配置されている。空燃比センサ16,18は、1セル型の限界電流式の空燃比センサであり、排気空燃比に応じた信号を出力する。なお、説明の簡略化のため、以下の実施の形態において、S/C14の上流側の空燃比センサを「上流センサ」とも称し、下流側の空燃比センサを「下流センサ」とも称するものとする。
【0023】
図2は、本実施の形態1における空燃比センサ16、18の素子部の構成について説明するための模式図である。本実施の形態1において、空燃比センサ16及び18は、同一の構成を有している。図2に示されるように、空燃比センサ16、18は、例えばジルコニア(ZrO)からなる固体電解質膜22と、その両側に設置された排気電極24と大気電極26とを有している。排気電極24側の、固体電解質膜22の表面には、拡散律速層28が形成されている。排気電極24は、拡散律速層28を通過した排気ガスに接する。
【0024】
再び、図1を参照し、本実施形態のシステムは、制御装置20を備えている。制御装置20の入力側には、上述した上流センサ16、下流センサ18や、その他車両や内燃機関10の制御に必要な各種のセンサが接続されている。一方、制御装置20の出力側には内燃機関10に燃料を噴射するインジェクタ(図示しない)などの各種アクチュエータが接続されている。
【0025】
[三元触媒による排気ガスの浄化について]
ところで、図1のシステムの三元触媒は、ハニカム状に成形したコージュライト担体に多孔質アルミナを塗布し、このアルミナに白金(Pt)、パラジウム(Pd)やロジウム(Rh)といった貴金属触媒を担持させたものである。三元触媒には、添加剤としての金属セリウム(Ce)が更に担持されている。金属セリウムは、S/C14に流入する排気空燃比がリーンのときに排気中の酸素と化合してセリア(CeO)を形成し、リッチのときに酸素を放出することで金属セリウムに戻る性質を有している。そのため、三元触媒は、この金属セリウムの作用により、排気空燃比がリーンのときに排気中の酸素を吸着貯蔵し、リッチとなったときに吸着貯蔵した酸素を放出する能力を有している。
【0026】
三元触媒が正常に機能しているとき、S/C14に流入する排気ガスに対する浄化反応が速やかに進行する。従って、排気ガスは極めて低濃度に浄化され、S/C14下流に排出される。一方、三元触媒が劣化して正常に機能していない場合、S/C14に流入した排気ガスは、未浄化、あるいは不十分な浄化状態でS/C14を通過する。従って、S/C14下流側にも高い濃度の排気ガスが排出されることとなる。
【0027】
[下流センサ18の出力特性について]
空燃比センサ16、18が使用される際には、排気電極24と大気電極26との間に限界電流が流れるよう設定された所定の大きさの電圧が印加される。電圧印加により、排気電極24が接する排気空燃比に応じた量の酸素イオンが固体電解質膜22中を移動する。空燃比センサ16、18は、このイオンの移動量に応じた限界電流を出力する。
【0028】
図3は、本発明の実施の形態1における下流センサ18の出力特性について説明するための図である。図3において、横軸は空燃比、縦軸は下流センサ18のセンサ出力であるセンサ電流を表している。図3において実線(a)は通常の濃度(例えば、触媒による浄化前の排気ガスの濃度)の排気ガス雰囲気下でのセンサ出力と空燃比との関係を示し、破線(b)は、ストイキ近傍かつ、極低濃度(例えば、触媒により正常に浄化された程度の低濃度)の排気ガス雰囲気下での、センサ出力と空燃比との関係を表している。
【0029】
検出対象となる排気ガスが比較的高濃度である場合、排気電極24上でのガス濃度も高く、また排気ガス中のリッチ成分、リーン成分の量も多くなる。従って固体電解質膜22中を移動する酸素イオン量がある程度確保される。このため下流センサ18は、実線(a)に示すように、空燃比の変化に対応して、ある程度大きく変化する特性を示す。
【0030】
一方、排気ガスが、触媒により正常に浄化された場合と同程度の極低濃度となると、排気電極24上でのガス濃度も極低濃度なものとなり、リッチ成分、リーン成分の量も少なくなる。このとき固体電解質膜22中を移動する酸素イオン量は全体として少なくなる。上記したように、通常、酸素イオンは、排気電極24と大気電極26との間の空燃比の差に応じて固体電解質膜22中を移動するものであり、従って、酸素イオンの移動量は、空燃比に応じたものとなる。しかし、ガス濃度が極端に低下し、各成分の量が極めて少なくなるストイキ近傍付近では、酸素イオンの移動量も、実際の空燃比に応じた移動量よりも少なくなる。特に低濃度の雰囲気では、図3の破線(b)に示すように、空燃比の変化に対するセンサ出力の変化量が、通常の場合((a)参照)に比べて、小さなものとなる。
【0031】
また、排気ガスの濃度が極低濃度であるため、僅かな、リッチ又はリーン成分の増減でも影響が大きく、センサも敏感に反応する。このため、排気ガス濃度が極低濃度となると、空燃比の変化に対する下流センサ18の応答性は速いものとなる。このように、極低濃度かつストイキ近傍での下流センサ18のセンサ出力と空燃比との関係は、通常の排気ガスに対するセンサ出力と空燃比との関係とは異なるものとなっている。なお、下流センサ18の場合を例示しているが、上流センサ16も同様の出力特性を有している。
【0032】
[本実施の形態1の触媒劣化検出]
本実施の形態1において、S/C14の触媒劣化検出判定は、目標空燃比をストイキとするフィードバック制御中に行われる。空燃比フィードバック制御では、上流センサ16の出力に応じた空燃比と、下流センサ18の出力に応じた空燃比とが用いられる。空燃比フィードバック制御の具体的な手法は周知であるのでここでの詳細な説明を省略する。空燃比フィードバック制御中、S/C14の上流側では、排気ガス空燃比はストイキを中心としてリッチ、リーンとの間で交互に変動する。
【0033】
図4は、本実施の形態1における、空燃比フィードバック制御中の下流センサ18のセンサ出力の変化について説明するための模式図であり、図4において、線(a)は、S/C14の触媒が正常に機能している場合を表し、線(b)は触媒が劣化している場合を表している。
【0034】
触媒が正常な場合、S/C14下流の排気ガスは、極低濃度にまで十分に浄化されたものとなる。しかし、S/C14の上流側での空燃比の変動に応じ、極低濃度に浄化された排気ガス中にもごく僅かにリッチ成分又はリーン成分が含まれている。上述したように、下流センサ18は、排気ガスが極低濃度である場合には、出力は小さくなるが、極僅かな濃度変化に対しても速い応答速度で反応し、出力が敏感に変化する。
【0035】
従って、空燃比フィードバック制御中、かつ、S/C14の触媒が正常に機能しているときは、下流センサ18のセンサ出力は、線(a)に示されるように、短い周期、小さい振幅で変化する。
【0036】
一方、触媒が劣化して触媒が正常に機能していない場合、S/C14下流に排出される排気ガスの濃度は比較的高濃度となり、また、排気ガス中のリッチ成分、リーン成分の量も多くなる。上述したように、下流センサ18は、排気ガスの濃度がある程度高くなると、ある程度大きな出力を発するようになるが、濃度変化に対する応答速度は、ごく低濃度の場合に比べて遅くなる。
【0037】
従って、空燃比フィードバック制御中、かつ、S/C14の触媒が劣化している場合、下流センサ18のセンサ出力は、線(b)に示されるように、大きな周期、かつストイキを中心とする大きな振幅で変化する。
【0038】
以上のことから、本実施の形態1では、目標空燃比をストイキとし、上流センサ16、下流センサ18の出力に応じた空燃比フィードバック制御を行っている間の、下流センサ18の出力が、リッチ空燃比とリーン空燃比との間で変化した変化の周期が、触媒の劣化が認められる程度に大きいか否かにより、触媒の劣化を判定する。
【0039】
具体的には、本実施の形態1では、空燃比フィードバック制御中の出力変化の周期と相関を有するパラメータとして、空燃比フィードバック中の基準時間内に、下流センサ18のセンサ出力が、リッチからリーン又はリーンからリッチに反転した反転回数を検出する。そして、検出された反転回数が基準回数以下である場合に、触媒の劣化と判定することとする。
【0040】
なお、基準回数は、実験等により触媒が劣化した場合に下流側に排出される排気ガスの想定される濃度変化に対するセンサ出力の変化を実験等により求め、これに基づいて設定することができる。また、ここで、排気ガスの想定される濃度変化は、触媒をどの程度で劣化と判定するかの劣化判定の厳格性等によって適宜設定すればよい。
【0041】
[具体的な制御のルーチン]
図5は、本発明の実施の形態1において制御装置20が実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図5のルーチンは、内燃機関10の運転中、一定期間ごとに繰り返し実行されるルーチンである。
【0042】
図5のルーチンでは、まず、触媒劣化検出の条件が成立しているか否かが判別される(S102)。触媒劣化検出の条件は、安定的に触媒劣化検出を実行するための条件として予め定められたものである。具体的な条件としては、ストイキを目標空燃比とする空燃比フィードバック制御実行中であることに加え、例えば、内燃機関10の暖機後であること、上流センサ16及び下流センサ18が正常かつ活性状態であること、内燃機関の回転数が所定範囲内であること、負荷が所定範囲内であること、F/C(燃料カット)運転後、所定時間が経過していること、などが挙げられる。
【0043】
ステップS102において、触媒劣化検出の条件の成立が認められない場合、今回のルーチンは一旦終了する。一方、ステップS102において触媒劣化検出の条件成立が認められた場合、触媒劣化検出の制御が開始され、下流センサ18のセンサ出力の反転回数のカウントが開始される(S104)。反転回数は、下流センサ18の出力がリッチからリーン、リーンからリッチに切り替わった回数であり、制御装置20により下流センサ18の出力がモニターされ、カウントされる。
【0044】
次に、反転回数のカウント開始してからの経過時間tが、基準時間を越えたか否かが判別される(S106)。基準時間は、触媒劣化検出に際し、センサ出力の反転回数を検出するための一定時間として予め定められた時間であり、制御装置20に記憶されている。
【0045】
ステップS106において経過時間t>基準時間の成立が認められない場合、再びステップS106に戻り、経過時間t>基準時間の成立が認められるか否かが判別される。ステップS106において、経過時間t>基準時間の成立が認められるまで、S106の判別が繰り返され、この間、センサ出力の反転回数のカウント状態が維持される。
【0046】
その後、ステップS106において、経過時間t>基準時間の成立が認められると、次に、反転回数のカウントが終了される(S108)。これにより、基準時間内でのセンサ出力の反転回数が検出される。
【0047】
次に、反転回数が基準回数より大きいか否かが判別される(S110)。基準回数は、触媒の劣化を判定するための基準値であり、予め制御装置20に記憶されている。ステップS110において反転回数が基準回数より大きい場合、センサ出力は小さい周期で変動していることを意味する。従って、ここでは、触媒は正常と判定される(S112)。
【0048】
一方、ステップS110において、反転回数が基準回数より大きいことが認められない場合、センサ出力は大きな周期で変化していることを意味する。従って、ここでは触媒が劣化していると判定される(S114)。ステップS112又はS114の触媒の正常/劣化の判定の後、今回の処理は終了する。
【0049】
以上説明したように、本実施の形態1によれば、空燃比フィードバック制御が実行されている状態での、下流センサ18の出力変化の周期に応じて、触媒の劣化の有無が判定される。これにより、高い浄化性能を有する触媒が配置されて排気ガス空燃比が極めて低濃度となった場合における空燃比センサの出力特性に応じて、より正確に触媒劣化の検出を行うことができる。
【0050】
なお、本実施の形態1では、センサ出力の変化の周期(反転回数)のみに基づいて触媒の劣化判定を行う場合について説明した。しかし、この発明はこれに限るものではない。例えば、周期が基準の周期より大きくなった場合、かつ、基準時間中に下流センサ18がストイキを示した回数が基準回数より少ない場合にのみ、触媒の劣化と判定するようにしてもよい。
【0051】
理想的なストイキ空燃比フィードバック制御下では、S/C14下流でのセンサ出力は、ほぼストイキを示すと考えられる。従って、触媒を劣化と判定するにあたり、下流センサ18がストイキを示した回数が基準回数より少ないという条件を追加することで、触媒劣化検出の制御の、より高い精度を担保することができる。これは、以下の実施の形態についても同様である。
【0052】
また、本実施の形態1では、センサ出力の変化の周期(反転回数)に応じて触媒劣化検出を行う場合について説明した。しかし、この発明において、劣化の判定方法はこれに限るものではない。上述したように、排気ガスの濃度がある程度高濃度である場合には、センサ出力の振幅が大きくなり、排気ガスの濃度が極低濃度となる場合には、センサ出力の振幅が小さくなる。従って、空燃比フィードバック制御中のセンサ出力の振幅に基づいても、触媒の劣化を検出することができる。具体的には、たとえば、リッチ出力とリーン出力との幅をセンサの振幅とし、一定時間の間、振幅を繰り返し検出する。そして、この振幅の平均値を求め、振幅の平均値が基準幅よりも大きい場合に触媒を劣化と判定する。これは、以下の実施の形態においても同様である。
【0053】
また、このような下流センサ出力の振幅に基づく触媒劣化検出は、センサ出力の振幅のみに基づいて行うものであってもよいし、実施の形態1に説明したセンサ出力の周期(反転回数)に基づく劣化検出と組み合わせてもよい。周期に基づく劣化検出と組み合わせる場合、例えば、センサ出力の周期が基準値より大きいと判定された場合であって、かつ、振幅が基準の幅よりも大きい場合にのみ触媒の劣化と判定する。これにより、触媒劣化検出の精度を高く確保することができる。これは、以下の実施の形態においても同様である。
【0054】
また、例えば、下流センサ18の出力変化量は、触媒劣化時の方が大きくなる。従って、基準時間における下流センサ18にセンサ出力の変化量の平均値を算出し、この変化量が基準量を上回った場合に触媒の劣化と判定することもできる。これについても、上述した周期に基づく触媒劣化検出に組み合わせ、周期が基準周期より大きいと判定された場合であって、かつ変化量が基準量よりも大きい場合にのみ触媒の劣化と判定するようにしてもよい。これは、以下の実施の形態においても同様である。
【0055】
また、本実施の形態1では、センサ出力の周期と関連するパラメータとして、基準時間中のセンサ出力の反転回数を検出し、この反転回数と基準回数とを比較することで触媒の劣化検出を行う場合について説明した。しかし、この発明においてはこれに限るものではなく、他の手法により周期又はこれに関連するパラメータを検出し、これに基づき、センサ出力の周期が基準周期よりも大きいか否かと同等の判断するものであってもよい。
【0056】
また、本実施の形態1では、S/C14の上流側にも下流側にも同一の構成の空燃比センサ16、18を設置する場合について説明した。しかし、この発明においてはこれに限るものではなく、上流側の空燃比センサ16に替えて、空燃比を検出しうる他のセンサ等を用いてもよい。
【0057】
また、本実施の形態1では、排気通路12に三元触媒を有するS/C14が配置され、その下流に下流センサ18が設置される場合について説明した。しかし、この発明において触媒はこれに限るものではなく、例えば、直列かつ一体的に配置された2つの触媒を有するタンデム触媒を排気通路12に配置したものに適用することもできる。この場合、空燃比フィードバック制御や触媒劣化検出の精度の向上の観点等から、上流センサ16をタンデム触媒上流に配置し、下流センサ18をタンデム触媒内の2つの触媒の間に配置するのが好ましい。但し、空燃比センサ16、18の設置位置は必ずしもこれに限られるものではない。これは以下の実施の形態についても同様である。
【0058】
実施の形態2.
図6を参照して、本発明の実施の形態2について説明する。なお図6において、図5と同一または相当する部分には同一符号を付してその説明を簡略化ないし省略する。
【0059】
実施の形態2のシステムは、図1のシステムと同様の構成を有している。実施の形態2のシステムは、劣化検出において検出された反転回数を、劣化検出制御中の排気ガス量と下流センサ18の素子部の温度(素子温)で補正する機能を有する点を除き、実施の形態1のシステムと同じものである。
【0060】
排気ガスが低濃度な場合、センサ出力は排気ガス量による影響を受ける。具体的には、排気ガス量が多い場合、センサ出力の応答性は遅くなる。従って、仮に触媒が正常に機能していて、下流センサ周囲の雰囲気が十分に浄化されて極低濃度となっている場合でも、センサ出力の周期は比較的大きなものとなる。つまり反転回数は少なくなる。
【0061】
従って、本実施の形態2では、排気ガス量が基準量に対し増減した場合に、排気ガス量の増減によって、センサ出力の反転回数が増減した分を相殺する処理を行う。具体的には、排気ガス量に応じた第1補正係数を求め、これを反転回数に乗じる処理を行う。例えば、排気ガス量が基準量より大きい場合には、第1補正係数は1より大きい値であり、反転回数が大きくなるように補正される。一方、排気ガスが基準量より小さい場合、第1補正係数は1より小さな値であり、これにより反転回数は、小さくなるように補正される。
【0062】
ここで、第1補正係数は、排気ガス量によるセンサ出力の変化を相殺しうる値である。具体的な排気ガス量と第1補正係数との適正な関係は予め実験等により求められ、マップ等として制御装置20に記憶される。
【0063】
更に、センサ出力は、素子温によっても影響を受ける。具体的には素子温が高くなると、センサの応答性は速くなる。つまり、素子温が高くなると、センサ出力の周期は小さくなり、反転回数としては多くなる。
【0064】
従って、本実施の形態2では、下流センサ18の素子温が基準温度に対して変動した場合に、素子温変化よってセンサ出力の反転回数が増減した分を相殺する処理を行う。具体的には、素子温に応じた第2補正係数を求め、これを反転回数に乗じる処理を行う。例えば、素子温が基準温度より高い場合には、第2補正係数は1より小さい値であり、反転回数が小さくなるように補正される。一方、素子温が基準温度より低い場合には、第2補正係数は1より大きな値であり、これにより反転回数は、大きくなるように補正される。
【0065】
ここで第2補正係数は、素子温によるセンサ出力の応答性の変化を相殺しうる値である。具体的な、素子温と第2補正係数との関係は、予め実験等により求められ、マップ等として制御装置20に記憶される。
【0066】
なお、素子温は、素子インピーダンスと相関を有する。従って、本実施の形態2では、下流センサ18の素子インピーダンスを検出することで、素子温を求めるものとする。
【0067】
図6は、本発明の実施の形態2において制御装置20が実行する制御のルーチンについて説明するためのフローチャートである。図6のルーチンは、図5のルーチンのステップS104とS106との間に、S202、S204の処理を有し、ステップS108の後にS206〜S210の処理を有し、ステップS110に替えてステップS212の処理を実行する点を除き、図5のルーチンと同一である。
【0068】
具体的に、図6のルーチンでは、触媒劣化検出条件が成立し(S102)、反転回数のカウントが開始(S104)された後、排気ガス量が求められる(S202)。排気ガス量は、例えば、排気通路に流量センサを設置しておき、この流量センサの出力に基づいて検出する。
【0069】
次に、下流センサの18の素子温を検出する(S204)。素子温は、下流センサ18の素子インピーダンスに応じて検出される。
【0070】
次に、反転回数カウント開始(S104)からの経過時間tが基準時間を越えたか否かが判別される(S106)。実施の形態2では、経過時間t>基準時間の成立が認められない場合には、ステップS202に戻り、排気ガス量の検出(S202)、素子温の検出(S204)が行われた後、再びステップS106の判定が行われる。ステップS106において、経過時間t>基準時間の成立が認められるまで、排気ガス量、素子温の検出(S202、S204)と、ステップS106の判定処理が繰り返し行われる。
【0071】
一方、ステップS106において、経過時間t>基準時間の成立が認められると、次に、反転回数のカウントが終了され(S108)、その後、排気ガス量と、素子温との平均値がそれぞれ演算される(S206)。ここでは、経過時間t>基準時間の成立が認められるまでの間、ステップS202、S204において繰り返し検出された排気ガス量、素子温それぞれについての平均値が演算される。
【0072】
次に、排気ガス量に応じて反転回数が補正される(S208)。具体的には、ステップS206で演算された平均排気ガス量に応じ、マップ等に従って、第1補正係数が求められる。この第1補正係数が反転回数に乗じられることで反転回数が補正される。
【0073】
次に、素子温に応じて、反転回数が補正される(S210)。具体的には、ステップS206で演算された平均素子温に応じて、第2補正係数がもとめられる。この第2補正係数が、ステップS208で補正された反転回数に更に、乗じられる。これにより補正反転回数が算出される。
【0074】
次に、補正反転回数が基準回数より大きいか否かが判別される(S212)。基準回数は、実施の形態1で説明したものと同じである。ステップS212において、補正反転回数>基準回数の成立が認められた場合、触媒は正常と判定され(S112)、補正反転回数>基準回数の成立が認められない場合、触媒は劣化と判定される(S114)。これらの判定の後、今回の処理は終了する。
【0075】
以上説明したように、本実施の形態2では、劣化の判定に用いられるパラメータである反転回数が、排気ガス量及び素子温に応じて補正される。従って、排気ガス量や素子温が、センサ出力に与える影響をふまえ、より正確に触媒劣化の判定を行うことができる。
【0076】
なお、本実施の形態2では、反転回数に第1、第2補正係数をそれぞれ乗じることで、反転回数を補正する場合について説明した。しかし、補正の方法はこれに限るものではなく、排気ガス量に応じて、あるいは素子温に応じて、反転回数を補正する他の方法であってもよい。
【0077】
あるいは、本発明では、反転回数を補正するものに限るものではなく、例えば、劣化反転の基準となる基準回数を、排気ガス量あるいは素子温に応じて設定するものであってもよい。この補正は、排ガス量や素子温の変化に起因するセンサ出力の変化を相殺するためのものであるから、例えば排気ガス量が多い場合には基準回数は小さな値となり、素子温が高い場合に基準回数はより大きな値となるように、排気ガス量あるいは素子温と基準回数との関係を設定しておく。
【0078】
また、本実施の形態2では、排気ガス量、素子温の両方を検出し、それぞれに応じた補正を行う場合について説明した。しかし、この発明においては、これに限るものではなく、排気ガス量、あるいは素子温のいずれかに応じた補正のみを行うものであってもよい。
【0079】
また、例えば、排気ガス量が大きくなると、周期や振幅は大きくなる。従って、本実施の形態2において、反転回数に替えて、触媒劣化検出を下流センサ18のセンサ出力の周期や振幅をパラメータとした劣化検出を行う場合には、排気ガス量が多い場合ほど、これらのパラメータが小さくなる方向に補正されるように設定された補正係数により、これらのパラメータを補正する。
【0080】
また、例えば、素子温が高くなると、振幅は大きくなり、周期は短くなる。従って、本実施の形態2において、反転回数に替えて、触媒劣化検出を下流センサ18のセンサ出力の周期をパラメータとして劣化検出を行う場合には、素子温が高い場合ほど、周期が大きくなる方向に補正されるように設定された補正係数により、周期を補正する。また、振幅をパラメータとして劣化検出を行う場合には、素子温が高い場合ほど、振幅が小さくなる方向に補正されるよう設定された補正係数により、振幅を補正する。
【0081】
また、本実施の形態2において説明した排気ガス量、素子温の検出方法は、この発明を拘束するものではなく、他の手法によりこれらを検出するものであってもよい。
【0082】
また、以上の実施の形態において各要素の個数、数量、量、範囲等の数に言及した場合、特に明示した場合や原理的に明らかにその数に特定される場合を除いて、その言及した数に、この発明が限定されるものではない。また、この実施の形態において説明する構造等は、特に明示した場合や明らかに原理的にそれに特定される場合を除いて、この発明に必ずしも必須のものではない。
【符号の説明】
【0083】
10 内燃機関
12 排気通路
14 S/C
16 空燃比センサ(上流センサ)
18 空燃比センサ(下流センサ)
20 制御装置
22 固体電解質膜
24 排気電極
26 大気電極
28 拡散律速層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、排気ガスを浄化する触媒と、
内燃機関の空燃比を理論空燃比近傍の目標空燃比に制御する、空燃比フィードバック制御が行われている間の、前記排気通路の前記触媒より下流に配置された空燃比センサの出力の、リッチ空燃比とリーン空燃比との間での変化の周期を検出又は推定する手段と、
前記周期に応じて、前記触媒の劣化の有無を判定する手段と、
を備えることを特徴とする触媒劣化検出装置。
【請求項2】
前記周期を検出又は推定する手段は、前記周期に関連するパラメータとして、前記空燃比フィードバック制御が行われている間の基準時間中の前記空燃比センサの出力の反転回数を検出し、
前記触媒の劣化の有無を判定する手段は、前記反転回数が基準回数以下である場合に、前記触媒の劣化有りの判定をすることを特徴とする請求項1に記載の触媒劣化検出装置。
【請求項3】
前記排気通路の排気ガスの量を検出又は推定する手段と、
前記排気ガスの量に応じて、前記周期を補正する手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の触媒劣化検出装置。
【請求項4】
前記空燃比センサの素子部の温度を検出又は推定する手段と、
前記素子部の温度に応じて、前記周期を補正する手段と、
を更に備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の触媒劣化検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−108455(P2013−108455A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−255174(P2011−255174)
【出願日】平成23年11月22日(2011.11.22)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】