説明

触媒及びその製造方法、並びにそれを用いたパラキシレンの製造方法

【課題】分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた新規触媒と、異性化工程及び/又は吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供する。
【解決手段】粒子径が10μm以下であるゼオライト粒子からなるコアと該コアを被覆するゼオライト層からなり、X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上であり、前記ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナモル比が300以下であり、かつ、前記ゼオライト層におけるアルミニウム濃度が外表面から内部に向かって増加していることを特徴とする触媒、並びに、該触媒とベンゼン及び/又はトルエンとを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うことを特徴とするパラキシレンの製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、合成ゼオライト触媒とその製造方法、並びに該触媒を用いた高純度パラキシレンの製造方法に関し、特には、外表面近傍のアルミニウム濃度勾配が制御されており、パラキシレン合成における選択性が極めて高く、生成物であるパラキシレンの異性化活性が抑制された合成ゼオライト触媒を使用することにより、効率よく高純度のパラキシレンを製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
芳香族化合物の中でも、キシレン類は、ポリエステルの原料となるテレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸などを製造する出発原料として、極めて重要な化合物である。これらのキシレン類は、例えば、トルエンのトランスアルキル化、不均化反応などによって製造されるが、生成物中には構造異性体であるp−キシレン、o−キシレン、m−キシレンが存在する。p−キシレンを酸化することによって得られるテレフタル酸は、ポリエチレンテレフタレートの主要原料として、o−キシレンから得られる無水フタル酸は、可塑剤などの原料として、また、m−キシレンから得られるイソフタル酸は、不飽和ポリエステルなどの主要原料としてそれぞれ使用されるので、生成物の中からこれらの構造異性体を効率的に分離する方法が求められている。
【0003】
しかしながら、p−キシレン(沸点138℃)、o−キシレン(沸点144℃)、m−キシレン(沸点139℃)の沸点には、ほとんど差がなく、通常の蒸留方法によって、これらの異性体を分離することは困難である。これに対し、これらの異性体を分離する方法としては、p−、o−及びm−異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、融点の高いp−キシレンを冷却結晶化させて分離する晶析分離方法や、分子篩作用を有するゼオライト系吸着剤を用いて、p−キシレンを吸着分離する方法等がある。
【0004】
晶析分離によって、p−キシレンを選択的に分離する方法では、構造異性体を含むキシレン混合物を精密蒸留した後に、冷却結晶化しなければならず、工程が多段階になり複雑になることや、精密蒸留や冷却結晶工程が製造コストを高める原因となる等の問題がある。そのため、この方法に代わって、吸着分離方法が現在もっとも広く実施されている。該方法は、原料のキシレン混合物が吸着剤の充填されている吸着塔を移動していく間に、他の異性体より吸着力の強いp−キシレンが吸着され、他の異性体と分離される方式である。ついで、脱着剤によりp−キシレンは系外に抜き出され、脱着後、蒸留により、脱着液と分離される。実際のプロセスとしては、UOPのPAREX法、東レのAROMAX法が挙げられる。この吸着分離法は、p−キシレンの回収率、純度が他の分離法と比較して高いが、その反面十〜二十数段に及ぶ疑似移動床からなる吸着塔により吸着と脱着を順次繰返し、吸着剤からp−キシレンを除去するための脱着剤を別途分離除去する必要があり、p−キシレンを高純度化する際には決して運転効率の良いものではなかった。
【0005】
このような非効率なプロセスに対し、パラキシレンの生産効率を飛躍的に向上させる試みが当業者らによっていくつかなされている。具体的には、パラキシレンをトルエンの選択的メチル化によって製造する方法などである。なお、ここでは、トルエンのメチル化にはトルエン自身の不均化反応によるパラキシレン・ベンゼンの生産も含むことにする。例えば、下記特許文献1には、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶と分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶とからなるゼオライト結合ゼオライト触媒が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示のゼオライト結合ゼオライト触媒は、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスまたはブリッジを形成するので、触媒活性を有する第一ゼオライト結晶のゼオライト結合ゼオライト触媒中に占める割合が小さくなり、触媒活性低下の原因となるだけでなく、分子篩作用を有する第二ゼオライト結晶が連続相的なマトリックスを形成する場合には、選択される分子の透過抵抗が大きくなりすぎて、分子篩作用が低下する傾向がある。さらに、形状保持のためのバインダー(担体)を使用せずに、第二ゼオライト結晶がバインダー(担体)としての役割を担うので、第一ゼオライト結晶が第二ゼオライト結晶によって凝集された又は塊状のゼオライト結合ゼオライト触媒が一旦得られる。凝集状または塊状の前記触媒は、使用に際して成形あるいは整粒する必要があると考えられるが、その場合にせん断・破砕によって第二ゼオライト結晶が剥離して、第一ゼオライト結晶が露出する部分が生じ、分子篩作用が低下する原因になる。
【0006】
また、下記特許文献2には、固体酸触媒粒子に分子篩作用を有するゼオライト結晶をコーティングする方法が開示されている。しかしながら、この方法では、触媒粒子が平均粒径として0.3〜3.0mmと大きい上に、コーティング層が1〜100μmと厚いため、原料や生成物などの被処理体がシリケート膜を通過する際の抵抗が大きく、結果、反応効率が不十分になり、トルエンの転化率が低く、パラキシレンの収率も著しく低いものと思料される。一方、コーティング膜厚を薄くすると、物理的損傷等による被覆の損傷が懸念される。
【0007】
さらに、下記特許文献3には、結晶性硼珪酸塩を内核とし、それと同じ結晶構造をもつ酸化珪素(結晶性シリケート)を外殻とする触媒が開示されている。しかしながら、この触媒は外殻の結晶性シリケートについて外殻/内核の重量比を規定してはいるが、反応成績を決定するシリケートの厚みや均一性、欠陥等については何ら言及されていない。そして、内核の結晶性硼珪酸塩についても、粒子径あるいは結晶子径が規定されていない。このような触媒では、シリケート被覆膜厚の形成が不完全となり、著しく反応活性が低下するか、或いは、内核ゼオライトの外表面が一部露出することにより、高純度のパラキシレンを得るような高度に選択性を制御した反応を実現することは困難である。
【0008】
また、下記特許文献4には、粒子径100μm以下のMFI型ゼオライトを結晶性シリケートで被覆してなる触媒が開示されており、該結晶性シリケートで被覆してなる触媒が極めて高いパラキシレン選択性を示し、従来技術に比べて効率的にパラ置換芳香族炭化水素を生産できることが教示されている。しかしながら、該特許文献4に記載されている条件での反応速度は、商業化を目指すには充分とは言えず、より高い反応速度を持つ触媒の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2001−504084号公報
【特許文献2】特開2003−62466号公報
【特許文献3】特公平01−006816号公報
【特許文献4】国際公開第2009/119725号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように、従来の技術では、異性化工程及び/又は吸着分離工程のような複雑な工程を経ずに高純度のパラキシレンを効率よく製造するのに有用な触媒は提供されていなかった。唯一、特許文献4は、その可能性を示すものであるが、既存のトルエン不均化プロセス等に比べると反応速度が低く、商業化には更なる性能の向上が必要である。
【0011】
一般的に、パラキシレンを選択的に合成しようとした場合、表面を不活性な成分で被覆したり、異性化反応不活性成分を担持したりすることにより、表面活性を抑制することで、選択性の向上を実現するのが定法である。しかしながら、その場合には、転化率が低下してしまうという問題が発生する。このため、高選択性触媒は反応転化率が低くならざるを得ないという技術的課題がある。本発明者らは、この課題を解決するためには、触媒の微粒子化がもっとも有効であろうと推定した。しかしながら、大きなゼオライト粒子(10μm程度以上)を被覆処理することは容易であるものの、3μm以下の微粒子を均一かつ薄く表面被覆することは困難であった。
【0012】
本発明者らは、その原因を鋭意調査した結果、被覆処理がうまくいかなかった微粒子の表面は、結晶面が粗く、また細かな(結晶核となりうる)微粒子が多く付着しており、これにより、うろこ状や微細針状粒子の結晶(図1〜3参照)を多数生成し、被覆自体には成功しているものの、意図していた均一かつ薄い表面被覆の実現には及ばず、単位体積もしくは単位重量当りの触媒活性が向上しない原因となっていることを見出した。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、分子篩作用(又は形状選択性)を有し触媒活性に優れた新規触媒及びその製造方法と、該触媒を用いることにより、異性化工程及び/又は吸着分離工程を行わなくても、高純度のパラキシレンを効率よく製造することが可能な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意検討の結果、上記の目的に対して最適な触媒を調製することで、分離が容易となる画期的なパラキシレンの製造方法に想到した。具体的には、反応の主体となる触媒のコアのゼオライトを微粒子化しつつ、その結晶表面を滑らかにし、さらに均一な結晶成長の妨げとなる微粒子の付着を排除した上で、アルミニウム濃度を制御しながら、コアのゼオライト上に均一に結晶成長を行わせることにより、触媒を調製し、該触媒により問題を解決できることを見出した。本発明においては、触媒粒子内部で生成した生成物の特定構造の異性体のみが分子篩作用を有するゼオライト膜を選択的に通過するので、特定構造の異性体の選択率を高めることができ、また逆に、特定構造の異性体のみが選択的に触媒活性な触媒粒子内部へ浸入して、触媒粒子内部で選択的(特異的)な反応を起こすことができる。その結果、本発明によれば、効率よく高純度のパラキシレンを製造することができる。
【0015】
すなわち、本発明は、
(1)粒子径が10μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下のゼオライト粒子からなるコアと該コアを被覆するゼオライト層からなり、X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上であり、前記ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナモル比が300以下であり、かつ、前記ゼオライト層におけるアルミニウム濃度が外表面から内部に向かって増加していることを特徴とする触媒である。
【0016】
本発明の触媒においては、X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上、好ましくは1000以上であり、前記ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナ比モル比が300以下、好ましくは100以下、より好ましくは50以下である。ここで、最外表面のシリカ/アルミナモル比は、X線光電子分光法により測定した外表面から4.2nmの深さまでのシリカ/アルミナモル比を指し、コアの平均シリカアルミナモル比は、ICP発光分光分析法による組成分析による値である。
【0017】
なお、本発明の触媒においては、
(2)前記コアを被覆するゼオライト層の厚みが、10nm以上、1μm以下であることが好ましい。
【0018】
また、本発明の触媒においては、
(3)前記コアとなるゼオライト粒子及び該コアを被覆するゼオライト層がMFI構造を有し、該ゼオライト層が前記コアとなるゼオライト粒子に対してエピタキシーであることが好ましい。
【0019】
ここで、エピタキシーとは、化学大辞典編集検収委員会編、化学大辞典1縮刷版、第36刷、共立出版株式会社、1997年9月20日、p.961−962に示されているように、ある結晶の特定の面上に他種の結晶の特定の面が見かけ上くっついて重なり合って成長する現象であり、同形の結晶の場合には結晶軸を同じくする方向に成長する。すなわち、本願におけるエピタキシーとは、コア(内核)となるMFI型ゼオライトと同一の構造を有している被覆層が、コア(内核)となる結晶相と連続した結晶相を形成し、両者の細孔が連続している状態を意味する。後述する水熱合成により、コア(内核)となるMFI型ゼオライトの表面に同一結晶層を成長させることにより実現することができる。
【0020】
また、本発明は、
(4)アルミニウムを含有する粒子径が10μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下のゼオライト粒子をコアとし、シリカ源、アルミニウム源、及び構造規定剤を用いて水熱合成して、前記コアのゼオライト粒子の外表面に該ゼオライト粒子と同じ結晶構造のゼオライト層を析出させる触媒の製造方法において、
前記シリカ源を連続的もしくは断続的に追加しながら水熱合成を行い、合成溶液中のアルミニウム濃度を減少させながら、前記コアのゼオライト粒子表面に前記ゼオライト層を結晶成長させる、触媒の製造方法である。
【0021】
ここで、構造規定剤とは、R.F.Lobo et.al,Phenomena and Molecular Recognition in Chem., 21, 47 (1995)に例示されているように、水熱合成時にゼオライト構造(例えばMFI等)を決定付ける試薬のことであり、テンプレートあるいは鋳型分子とも言われ、通常は4級アンモニウム型の有機化合物である。
【0022】
更に、本発明は、
(5)上記(1)〜(3)のいずれかに記載の触媒とベンゼン及び/又はトルエンとを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行う、パラキシレンの製造方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の触媒は、最外表面ではアルミニウムを殆ど或いは全く含まず、パラキシレン合成活性並びにパラキシレン異性化活性を持たない。一方、本発明の触媒は、外表面から粒子内部に浸入するに従ってアルミニウム濃度が高まり、パラキシレン合成活性が向上する。しかしながら、粒子内部ではゼオライトの形状選択性から、パラキシレン異性化活性、並びに他の異性体の拡散速度は著しく小さくなる。この結果、本発明の触媒は、パラキシレンのような特定構造の異性体を選択的に製造するのに好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】微粒子結晶からなるコアと被覆層とが不整合・非連動である触媒の一例の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】微粒子結晶からなるコアと被覆層とが不整合・非連動である触媒の他の一例の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】微粒子結晶からなるコアと被覆層とが不整合・非連動である触媒の他の一例の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】触媒A、触媒B、触媒C、触媒D、触媒EのX線回折図である。
【図5−1】触媒Aの走査型電子顕微鏡写真である。
【図5−2】触媒Aの他の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】触媒Bの走査型電子顕微鏡写真である。
【図7】触媒Cの走査型電子顕微鏡写真である。
【図8】触媒Dの走査型電子顕微鏡写真である。
【図9】触媒Eの走査型電子顕微鏡写真である。
【図10】触媒Eの表面からの深さとSiO2/Al23(mol比)の関係を示すグラフである。
【図11】触媒Eの表面からの深さとAl/Si(mol%)の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[触媒]
本発明の触媒は、粒子径が10μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下のゼオライト粒子からなるコアと該コアを被覆するゼオライト層からなり、該ゼオライト層におけるアルミニウム濃度が外表面から内部に向かって増加していることを特徴とし、前記コアを被覆するゼオライト層の厚みは、10nm以上、1μm以下であることが好ましい。
【0026】
上記触媒のコアとして使用するゼオライト粒子は、MFI構造を有するゼオライトであることが好ましく、該MFI構造を有するゼオライトは、芳香族炭化水素同士または芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応により、パラキシレンを構造選択的に製造するのに優れた触媒性能を発揮する。該MFI型ゼオライトとしては、ZSM−5、TS−1、TSZ、SSI−10、USC−4、NU−4等各種のシリケート材料が、好適に用いられる。これらゼオライトは、細孔の大きさがパラキシレン分子の短径と同じ0.55nm程度であるため、パラキシレンと、パラキシレンよりわずかに分子サイズが大きいオルトキシレンやメタキシレンとを区別することができ、目的のパラキシレンを製造する場合には有効である。
【0027】
上記触媒のコアとなるゼオライト粒子は、粒子径が10μm以下、好ましくは3μm以下、より好ましくは1μm以下、特に好ましくは0.5μm以下であり、また、好ましくは0.1μm以上である。使用するゼオライト粒子の粒径は、小さいほど細孔内拡散の影響を軽減できるため望ましいが、0.1μmに満たない粒子の場合には、粒子同士の凝集等により、外表面をゼオライト層(結晶性アルミノシリケート層)で均一に被覆することが困難となる。また、ろ過・洗浄などの工程で著しく生産効率を低下させる原因となるため、好ましくない。一方、ゼオライト粒子の粒径が10μmよりも大きい場合、粒子内での反応基質(原料)の拡散が律速となり、反応に寄与する外表面近傍での体積当りの活性種のモル数が小さいため、反応の転化率が著しく低くなり、工業的に使用できない。なお、粒子径は、粒度分布計や走査型電子顕微鏡(SEM)等により測定することができる。
【0028】
また、上記ゼオライト粒子のシリカ/アルミナ比は、20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。また、上記ゼオライト粒子のシリカ/アルミナ比は、300以下が好ましく、100以下がより好ましく、50以下が最も好ましい。シリカ/アルミナ比が20より低い場合は、MFI構造を安定的に保持することが難しく、一方、300より高い場合は、反応活性点である酸量が少なく、反応活性が低下してしまうため好ましくない。
【0029】
本発明の触媒は、粒子径が10μm以下、好ましくは3μm以下のゼオライト粒子からなるコアと該コアを被覆するゼオライト層からなり、該ゼオライト層におけるアルミニウム濃度が外表面から内部に向かって増加、好ましくは単調に増加していく組成分布を有する触媒であり、前記コアを被覆するゼオライト層の厚みは、10nm以上、1μm以下であることが好ましい。また、本発明の触媒においては、コア(内核)となるゼオライト粒子及び該コアを被覆するゼオライト層の両方がMFI構造を有し、ゼオライト層がコアとなるゼオライト粒子に対してエピタキシーであることが好ましい。すなわち、この外表面近傍のゼオライト層もまた、分子篩作用を有し、コアのMFI型ゼオライトの細孔と連続していることが好ましい。この構造により、外表面近傍に被覆層を形成することによって齎される細孔閉塞や拡散抵抗による触媒活性低下を抑制でき、また、必要な形状選択性を実現できる被覆層の厚みを薄く出来る。なお、細孔の連続性を確認する方法としては、分子サイズの異なる炭化水素の拡散速度もしくは浸透の可否を測定する方法等が挙げられる。
【0030】
なお、エピタキシャルな結晶構造を形成するためには、下地となるコアの結晶表面の状態が重要である。高性能な触媒開発の為に、まず、触媒活性種でありコア(内核)となるゼオライト微粒子、好ましくは粒子径が3μm以下のゼオライト微粒子を合成するが、その際に、微粒子表面を滑らかで、均一かつ薄く表面被覆しやすい形態のゼオライト粒子を生成するように合成条件を設定することが好ましい。例えば、水熱合成条件をpH=11−12.5近辺に制御することで、球形に近く表面が滑らかな結晶を得ることが出来る。また、結晶合成時に同時に生成した小さなSiO2粒子(もしくは、ゼオライト前駆体)が表面に付着して、滑らかな結晶表面を乱すことがない様に、合成・結晶化の後に遠心分離・洗浄などの操作により、余分な微粒子を取り除くことが好ましい。
【0031】
この微粒子合成操作に引き続いて、Siに富んだ(Alの少ない)結晶成長液に浸して水熱合成を行い、種結晶表面にシリカに富んだ結晶を成長させることが出来る。この際、当初はAl(該Alは、種結晶の表面から強アルカリ溶液により溶出させたAl成分でも良い)を多く含む水熱合成溶液と接触させ、そこにSi源を含む溶液を徐々に、また継続的もしくは断続的に追加することによって、次第に溶液中のAl濃度を低下させるようにして、結晶を成長させることが重要である。この方法によって、表面に生成したゼオライト層中のSi/Al比を徐々に上昇させることが出来る。ここで、急激にSi/Al比を上昇させると、結晶成長が均一に起こらず、場合によっては、種結晶上での結晶成長を起こさずに単独でシリカライトを析出してしまい、狙いとする触媒を製造することが出来ない。
【0032】
具体的なSi源の添加方法としては、コアとなるゼオライト結晶に対して、SiO2重量で5%〜1000%、好ましくは10%〜400%、より好ましくは30%〜200%に相当するSi源を、5時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは24時間以上掛けて、ゆっくりと連続的に、もしくは断続的に添加することが好ましい。この際の水熱合成温度は、Siの結晶化速度を左右する因子であり、極めて重要であるが、Si源の添加量比率にも拠るが、90℃〜250℃、より好ましくは110℃〜180℃が好適に用いられる。
【0033】
また、外表面近傍のゼオライト層は、少なくとも最外表面では、不均化反応及びアルキル化反応に不活性であることが望ましく、アルミナ成分を含まない純シリカゼオライト(シリカライト−1)であることが特に好ましい。シリカライト−1は、酸点がほとんど無いため、外表面での触媒反応を進行させないので、特に好適である。なお、純シリカゼオライト膜(シリケート膜)の珪素は、部分的にガリウム、ゲルマニウム、リン、又はホウ素等の他の元素で置換されていても良いが、その場合においても目的とする反応の副反応に対して、表面の不活性状態が維持されることが重要である。
【0034】
本発明の触媒において、上記外表面近傍のゼオライト層の厚みは、10nm以上1μm以下、好ましくは20〜500nm、特には50〜200nmである。上記外表面近傍のゼオライト層の厚みが10nm未満では、コア(内核)となるMFI型ゼオライトと外表面修飾層との不整合が起きやすく、触媒活性を高く保つことが出来ないばかりか、修飾に欠陥を生じる可能性が高くなり、分子篩作用を十分に発揮させることができなくなる。一方、外表面近傍のゼオライト層の膜厚が1μmを超えると、外表面近傍のゼオライト層の厚みが厚すぎて、原料や生成物などが通過する際の抵抗が大きくなりすぎ、反応の転化率を低下させるため好ましくない。ここで、上記外表面近傍のゼオライト層の厚みは、ゼオライト粒子の粒子径と、ゼオライト粒子からなるコアをゼオライト層で被覆してなる触媒の粒子径の差から求めることができる。また、上記外表面近傍のゼオライト層のシリカアルミナモル比は、以下の方法で測定することができる。
【0035】
X線光電子分光装置(XPS)によって、外表面近傍2〜5nmまでの組成に関する情報が得られる。この外表面近傍の情報は、X線を照射して放出される光電子の取り出し角を変化させることにより、検出できる光電子の脱出深さを変えることが出来る、いわゆる角度分解XPS分析法により、得ることが出来る。より深い位置の情報は、粒子表面をエッチングや研磨等により、表面を削り出した後で再度、(角度分解)XPS分析法を適用することで得られる。本願では、標準的なX線光電子分光装置(XPS)での分析条件である取り出し角45度、すなわち深さ4.2nmまでの組成分析結果を持って、外表面近傍のゼオライト層の組成分析結果とした。なお、本願では、水熱合成の途中で結晶粒子を取り出し、その都度、表面(取り出し角45度=深さ4.2nmまで)の組成をX線光電子分光装置(XPS)によって分析することによって、粒子の深さ方向の分析データを得た。
【0036】
具体的に、本願で検討した条件において、取り出し角による脱出深さは、以下の通りである。なお、測定には、サンプル(粉体)をプレス成型したものを用いた。
<分析条件>
装置:アルバック・ファイ株式会社製5600MC
到達真空度:6.9×10-8 Torr
励起源:MgKα
出力:400W
検出面積:800μmφ
入射角:45度
取り出し角:15度〜60度(角度分解測定)
中和銃使用
【0037】
【表1】

【0038】
本発明の触媒は、X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上、好ましくは1000以上であり、ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナモル比が300以下、好ましくは100以下である。X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上であれば、触媒の最外表面に酸点がほとんど無く、最外表面での触媒反応、例えば、不均化反応、アルキル化反応及び異性化反応を進行させないので好適である。また、ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナモル比が300以下であれば、触媒内部に十分な量の酸点が存在し、十分な反応速度で、パラキシレンを選択的に生成させることが可能となる。
【0039】
本発明において、ゼオライト粒子の外表面近傍のゼオライト層の組成を制御する方法としては、Si原料を連続的に追加投入しつつ水熱合成を行う手法が好ましい。例えば、まず、Si原料としては、無定形シリカ、アモルファスシリカ、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)などが用いられる。これらのシリカ源、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドなどの構造規定剤、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物などの鉱化剤などを水やエタノールなどに溶かして水熱合成用の水溶液もしくはゾルを調製する。ここで、適切な比率のシリカ原料と構造規定剤を用いることで適切なゼオライト層を形成することができる。なお、コアとなるゼオライト粒子表面上に均一にムラ無く結晶成長させるために、被覆合成の開始時には、硝酸アルミニウムやアルミン酸ソーダ等のアルミニウム源を添加しても良い。また、被覆合成液中のアルミニウム濃度を減少させ、その濃度を制御するためには、Si原料の追加投入に合わせて、遠心分離やデカンテーション等の固液分離操作に引き続いて上澄み液を抜き取る方法も有効である。
【0040】
なお、使用するシリカ原料としては、エアロジル、ヒュームドシリカ、カボジル等のケイ酸化物がいずれも好適に用いられるが、オルトケイ酸テトラエチル、オルトケイ酸テトラメチル、オルトケイ酸テトライソプロピル等のテトラアルコキシシランやコロイダルシリカ等の超微粒子シリカを形成しやすい原料が好ましい。該シリカ原料は、水熱合成溶液へのシリカ溶出速度を適切に制御することを目的として、平均粒径が好ましくは1nm以上1.0μm未満、より好ましくは3nm以上0.5μm未満である。シリカ原料の平均粒径が1nmより小さい場合は、溶解速度が大きすぎるために結果的に結晶析出速度が加速され、シリカ源同士での結晶化もしくは析出が起こり、シリカ原料が被覆に利用されなくなるため好ましくない。一方、1.0μm以上の場合は溶解速度が小さく、ゼオライト被覆層の形成が非常に遅くなるため好ましくない。
【0041】
また、構造規定剤としては、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩が好ましい。
【0042】
上記ゼオライト被覆層形成用の水熱合成溶液のpHは9以上13未満が望ましい。水溶液のpHが前記範囲以外ではゼオライト被覆層の形成反応が充分に進行しないため好ましくない。
【0043】
次に、前記ゼオライト被覆層形成用水溶液にコアとなるゼオライト粒子を浸漬し、又は、前記ゼオライト被覆層形成用水溶液をコアとなるゼオライト粒子の個々に塗布することにより、ゼオライト粒子個々の表面をゼオライト被覆層形成用水溶液で処理する。次いで、水熱処理を行うことにより、ゼオライト粒子個々の表面全体にゼオライト被覆層を形成させる。
【0044】
前記水熱処理は、ゼオライト被覆層形成用の水熱合成溶液で処理したコアのゼオライト粒子を熱水中に浸漬することにより、または加熱水蒸気中に放置することにより行うことができる。具体的には、コアのゼオライト粒子をゼオライト層形成用水溶液に浸漬したままオートクレーブ内にて加熱を行ってもよく、コアのゼオライト粒子とゼオライト被覆層形成用水溶液を入れた耐熱密閉容器をオーブンに直接入れて加熱してもよい。
【0045】
前記水熱処理は、好ましくは90℃以上250℃以下、より好ましくは110℃以上180℃以下で、また、好ましくは0.5時間以上72時間以下、より好ましくは1時間以上48時間以下行う。必要に応じて、この水熱処理を1から10回程度繰り返す。その際、Si源を徐々に添加し、水溶液中のアルミニウム濃度を徐々に低下させてゆく。また、このような水熱処理を繰り返す代わりに、Si源の添加を、水熱合成の最中に、連続的或いは断続的に実施しても良い。その際に、遠心分離やデカンテーション等の固液分離操作に引き続いて上澄み液を抜き取って、水熱合成溶液中のアルミニウム濃度を低下させても良い。このように水熱合成処理をすることで、コアのゼオライト結晶上にアルミニウム濃度勾配を制御したゼオライト被覆層をエピタキシャルに成長させることができる。
【0046】
前記水熱処理の後、得られたゼオライト触媒を取り出して乾燥し、さらに熱処理を行うことによって、構造規定剤などを焼成・除去する。該焼成は、必要に応じて0.1〜10℃/分の昇温速度で昇温し、その後500〜700℃の温度で0.1〜10時間熱処理することにより行えばよい。該焼成処理の後、必要に応じ、Naなどのアルカリ金属成分等を低減・除去するため、或いは性能向上を意図して各種の遷移金属元素を導入するために、イオン交換処理を行ってもよい。
【0047】
通常、この種の触媒は成形して用いられる。成形の手法は各種考えられるが、本触媒は表面ゼオライト被覆層を損傷することなく成形する必要があるため、具体的には転動造粒、プレス成形、押出し成形等が好適である。成形においては、必要に応じて各種の有機もしくは無機のバインダーならびに成形助剤を用いてもよい。
【0048】
[芳香族炭化水素の不均化・アルキル化]
本発明のパラキシレンの製造方法は、上述の触媒の存在下で、芳香族炭化水素同士の反応(不均化)あるいは芳香族炭化水素とアルキル化剤との反応(アルキル化)により、パラキシレンを選択的に製造することを特徴とする。
【0049】
原料の芳香族炭化水素としては、ベンゼン及びトルエンが挙げられる。なお、原料の芳香族炭化水素は、ベンゼン及びトルエン以外の炭化水素化合物を含んでいてもよい。ただし、パラキシレンが目的生成物であることから、原料にメタキシレン、オルトキシレンならびにエチルベンゼンを含むものは好ましくない。
【0050】
本発明に用いるアルキル化剤としては、メタノール、ジメチルエーテル、炭酸ジメチル、酢酸メチルなどが挙げられる。これらは、市販品を利用することもできるが、例えば、水素と一酸化炭素との混合ガスである合成ガスから製造したメタノールやジメチルエーテル、あるいはメタノールの脱水反応で製造したジメチルエーテルを出発原料としてもよい。なお、ベンゼン、トルエン及びメタノール、ジメチルエーテル中に存在する可能性がある不純物としては、水、オレフィン、硫黄化合物及び窒素化合物が挙げられるが、これらは少ない方が好ましい。
【0051】
前記アルキル化反応におけるアルキル化剤と芳香族炭化水素の比率については、メチル基と芳香族炭化水素のモル比として5/1〜1/20が好ましく、2/1〜1/10がより好ましく、1/1〜1/5が特に好ましい。芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に多い場合は、望ましくないアルキル化剤同士の反応が進行してしまい、同時に触媒劣化の原因となるコーキングを引き起こす可能性があるため好ましくない。また、芳香族炭化水素に対してアルキル化剤が極端に少ない場合には、芳香族炭化水素へのアルキル化反応の転化率が著しく低下する。また、芳香族炭化水素としてトルエンを使用した場合はトルエン同士の不均化反応が進行することになる。
【0052】
上記不均化反応またはアルキル化反応は、原料の芳香族炭化水素を液空間速度(LHSV)0.01h-1以上、より好ましくは0.1h-1以上であり、10h-1以下、より好ましくは5h-1以下で供給して、上述の触媒と接触させることにより行うことが望ましい。不均化反応またはアルキル化反応の反応条件は、特に限定されるものではないが、反応温度が好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上、特に好ましくは250℃以上であり、好ましくは550℃以下、より好ましくは530℃以下、特に好ましくは510℃以下であり、また、圧力が好ましくは大気圧以上、より好ましくは0.1MPaG以上、特に好ましくは0.5MPaG以上、好ましくは20MPaG以下、より好ましくは10MPaG以下、さらに好ましくは5MPaG以下である。
【0053】
不均化反応またはアルキル化反応の際には、窒素やヘリウムのような不活性ガスやコーキングを抑制するための水素を流通、または加圧してもよい。なお、反応温度が低すぎると、芳香族炭化水素やアルキル化剤の活性化が不充分であることなどから、原料芳香族炭化水素の転化率が低く、一方、反応温度が高すぎると、エネルギーを多く消費してしまうことに加え、触媒寿命が短くなる傾向がある。
【0054】
上記触媒の存在下で、トルエンのメチル化反応または不均化反応が進行すると、目的生成物のパラキシレンの他、構造異性体であるオルトキシレン、メタキシレン及びエチルベンゼン、未反応のトルエン、メチル化が進行した炭素数9以上のアルキルベンゼン類及び軽質ガスの生成が想定される。この中で、炭素数8の芳香族炭化水素のうちパラキシレンの構成比率は高いほど好ましく、当反応一段工程で85mol%以上が好ましく、95mol%以上がより好ましく、99mol%以上がより一層好ましく、99.5mol%以上が特に好ましく、99.9mol%以上が最も好ましい。
【0055】
反応生成物は、既存の方法で分離・濃縮してもよいが、本発明では純度の極めて高いパラキシレンが選択的に得られるため、既存の方法を用いた場合でも、より効率的な処理が可能となる。特にパラキシレンの純度が高い場合には、簡便な蒸留方法のみで単離することが可能である。また、パラキシレンよりも高沸点留分の生成量が極めて少ない場合は、軽質分の留去のみで高純度パラキシレンを単離することができる。
なお、未反応のトルエンは原料として再反応してもよい。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0057】
<コアとなるゼオライト触媒の調製>
(触媒Aの調製)
シリカ源として、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)を26.1g、及びコロイダルシリカを10.0g採取し、アルミニウム源として、硝酸アルミニウム・9水和物を4.37g採取した。これらを10%テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液を50.9g、及びイオン交換水を29.3gに溶解した。さらに、pH調整のために28%アンモニア水約10gを添加した。このときの水溶液のpHは11.0であった。この水溶液をテフロン(登録商標)製の水熱合成容器に入れ、1.4℃/minの昇温速度で110℃まで加熱し、同温度で24時間保持し、その後、180℃まで36時間で昇温し、180℃で8時間保持することによって水熱合成を行った。水熱合成後の水溶液のpHは11.8となった。得られた沈殿物Aの平均粒子径を、日機装株式会社製粒度分布計MI−3000により測定したところ、0.44μmであった。また、その沈殿物AはX線回折分析の結果、MFI型ゼオライトであることが確認でき、その結晶子径は67nmであった(図4参照)。一方、沈殿物を取り除いた後の水熱合成水溶液の残液中のアルミニウム濃度は、520ppm(0.52g/L)であった。なお、この結晶のシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))は、組成分析結果から35であった。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて2時間焼成し、触媒Aを得た。XPSによって測定した触媒A最表面(取り出し角45度=深さ4.2nm)の組成は、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))で29であった。
【0058】
なお、結晶子径の測定条件を以下に示す。
測定装置:理学電機株式会社製RAD−1C
X線源:Cukα1(λ=0.15nm)
管電圧:30kV
管電流:20mA
測定条件 スキャン速度:4°/min
ステップ幅:0.02°
スリット:DS=1.0°、RS=0.3mm、SS=1.0°
【0059】
(触媒Bの調製)
「触媒Aの調製」と同様に、コアのゼオライト合成を行い、沈殿物Aを含む合成水溶液を得た。ここで、得られた合成水溶液を3000rpmで3分間遠心分離にかけ、その上澄み液を除去し、そこに新たにオルトケイ酸テトラエチル(TEOS)30.6g、10%−TPAOH水溶液7.11g、エタノール25.8g、イオン交換水86.1gを混合した被覆溶液を加え、再度、水熱合成容器に密閉した後、180℃まで加熱し、同温度で12時間、水熱合成を実施した。反応後の水溶液のpHは11.9であった。さらにこの遠心分離から水熱合成の処理をもう一度繰り返して、沈殿物Bを得た。得られた沈殿物Bの平均粒子径を測定したところ、0.51μmであった。粒子径から計算した被覆層の厚みは、35nmであった。また、その沈殿物BはX線回折分析の結果、MFI型ゼオライトであることが確認でき、その結晶子径は70nmであった(図4参照)。一方、沈殿物Bを取り除いた後の水熱合成水溶液の残液中のアルミニウム濃度は、52ppm(0.052g/L)であった。なお、沈殿物Bのシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))は、ICP発光分光法による組成分析結果から59であった。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて2時間焼成し、触媒Bを得た。XPSによって測定した触媒B最表面(取り出し角45度=深さ4.2nm)の組成は、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))で311であった。
【0060】
(触媒Cの調製)
「触媒Bの調製」と同様に、コアのゼオライト合成と2回の被覆処理を行い、沈殿物Bを含む合成水溶液を得た。ここで、さらに「触媒Bの調製」と同様に2回の被覆処理を行い、沈殿物Cを得た。反応後の水溶液のpHは12.0であった。得られた沈殿物Cの平均粒子径を測定したところ、0.54μmであった。粒子径から計算した被覆層の厚みは、50nmであった。また、その沈殿物Cもまた、X線回折分析の結果、MFI型ゼオライトであることが確認でき、その結晶子径は71nmであった(図4参照)。一方、沈殿物Cを取り除いた後の水熱合成水溶液の残液中のアルミニウム濃度は、19ppm(0.019g/L)であった。なお、沈殿物Cのシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))は、ICP発光分光法による組成分析結果から68であった。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて2時間焼成し、触媒Cを得た。XPSによって測定した触媒C最表面(取り出し角45度=深さ4.2nm)の組成は、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))で983であった。
【0061】
(触媒Dの調製)
「触媒Cの調製」と同様に、コアのゼオライト合成を行い、沈殿物Cを含む合成水溶液を得た。ここで、さらに「触媒Bの調製」と同様に2回の被覆処理を行い、沈殿物Dを得た。反応後の水溶液のpHは11.8であった。得られた沈殿物Dの平均粒子径を測定したところ、0.62μmであった。粒子径から計算した被覆層の厚みは、90nmであった。また、その沈殿物Dもまた、X線回折分析の結果、MFI型ゼオライトであることが確認でき、その結晶子径は71nmであった(図4参照)。一方、沈殿物Dを取り除いた後の水熱合成水溶液の残液中のアルミニウム濃度は、1ppm(0.001g/L)未満であった。なお、沈殿物Dのシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))は、ICP発光分光法による組成分析結果から105であった。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて2時間焼成し、触媒Dを得た。XPSによって測定した触媒D最表面(取り出し角45度=深さ4.2nm)の組成は、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))で1000以上(Alの検出限界から1000以上は測定が出来ない)であった。
【0062】
(触媒Eの調製)
「触媒Dの調製」と同様に、コアのゼオライト合成を行い、沈殿物Dを含む合成水溶液を得た。ここで、さらに「触媒Bの調製」と同様に2回の被覆処理を行い、沈殿物Eを得た。反応後の水溶液のpHは11.8であった。得られた沈殿物Eの平均粒径を測定したところ、0.65μmであった。粒子径から計算した被覆層の厚みは、105nmであった。また、その沈殿物Eもまた、X線回折分析の結果、MFI型ゼオライトであることが確認でき、その結晶子径は83nmであった(図4参照)。一方、沈殿物Eを取り除いた後の水熱合成水溶液の残液中のアルミニウム濃度は、1ppm(0.001g/L)未満であった。なお、沈殿物Eのシリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))はICP発光分光法による組成分析結果から122であった。得られた生成物を洗浄ろ過して、乾燥後、550℃にて2時間焼成し、触媒Eを得た。XPSによって測定した触媒E最表面(取り出し角45度=深さ4.2nm)の組成は、シリカ/アルミナ比(SiO2/Al23(mol比))で1000以上(Alの検出限界から1000以上は測定が出来ない)であった。
【0063】
以上の結果(各触媒の粒子径と表面のXPSによるSiO2/Al23(mol比)のデータ;粒子成長と各々の粒子径での表面アルミニウム濃度の結果)を元に、最終的に得られた触媒Eの深さ方向のアルミニウムの濃度分布をグラフにすると、図10のようになる。図10から、SiO2/Al23(mol比)は外表面近傍に向かって急激に上昇しており、従って、アルミニウムの濃度は図11のように低下している様子が確認できる。この結果では、表面から100nmすなわち0.1μmの間で、均一にアルミニウムの濃度を変化させることが出来たことがわかる。一方で、本願ではアルミニウム濃度を連続的に低下させる方法で最外表面層の結晶化を進めたことから、SEM写真でみて、若干の遊離したシリカライト結晶は見られるものの、析出させた結晶層の剥離や断絶は見られなかった。
【0064】
<トルエンの不均化>
(比較例1)
上記触媒Aにバインダーとしてシリカ(東ソー・シリカ株式会社製、ニップジェルAZ−200)を加えて成形し(触媒A/バインダーの質量比=80/20)、16−24meshで整粒した後、内径10mmφの固定層反応容器に3.0g充填した。そして、水素分圧3MPa、WHSVを5.0h-1、水素/トルエン比を1.1mol/molとして、350℃、400℃、及び450℃でトルエンの不均化反応を行った。反応容器出口の生成物をガスクロマトグラフィーにより分析し、各異性体の生成割合を求めた。結果を表2に、ガスクロマトグラフィーの測定条件を以下に示す。
【0065】
測定装置:島津製作所製GC−2014
カラム:キャピラリーカラムXylene Master、内径0.32mm、50m
温度条件:カラム温度50℃、昇温速度2℃/分、検出器(FID)温度250℃
キャリアーガス:ヘリウム
【0066】
トルエン転化率(mol%)=100−(トルエン残存モル/原料中トルエンモル)×100
8中パラキシレン選択率(mol%)=(パラキシレン生成モル/C8芳香族炭化水素生成モル)×100
パラキシレン収率(mol%)=(パラキシレン生成モル/原料中トルエンモル)×100
【0067】
(比較例2)
触媒として、上記触媒Bを使用した以外は、比較例1と同様の条件でトルエンの不均化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件も、比較例1と同様の条件である。結果を表2に示す。
【0068】
(実施例1)
触媒として、上記触媒Cを使用した以外は、比較例1と同様の条件でトルエンの不均化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件も、比較例1と同様の条件である。結果を表2に示す。
【0069】
(実施例2)
触媒として、上記触媒Dを使用した以外は、比較例1と同様の条件でトルエンの不均化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件も、比較例1と同様の条件である。結果を表2に示す。
【0070】
(実施例3)
触媒として、上記触媒Eを使用した以外は、比較例1と同様の条件でトルエンの不均化反応を行った。ガスクロマトグラフィーの測定条件も、比較例1と同様の条件である。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
実施例1〜3に記載のとおり、触媒として本願に基づくゼオライト触媒(触媒C、触媒D、触媒E)を用いることにより、p−キシレンの選択率は85%以上(反応温度350℃)と熱力学的平衡組成(約24%)と比較して極めて高くなり、p−キシレンが選択的に製造されていることは明らかである。また、実施例3においては、p−キシレンの選択率が98%以上であるため、生成油は原料のトルエン(沸点110℃)の他、実質的にはベンゼン(沸点80℃)、パラキシレン(沸点138℃)及び微量の炭素数9以上の芳香族炭化水素(沸点165〜176℃)のみとなるため、蒸留により高濃度パラキシレンを得ることができる。
【0073】
一方、比較例1〜2に示すような表面アルミニウム濃度が高い触媒を用いた場合では、パラキシレン選択率が実施例1〜3に比べて大幅に低下することが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子径が10μm以下であるゼオライト粒子からなるコアと該コアを被覆するゼオライト層からなり、X線光電子分光法により測定した最外表面のシリカ/アルミナモル比が800以上であり、前記ゼオライト粒子からなるコアの平均シリカ/アルミナモル比が300以下であり、かつ、前記ゼオライト層におけるアルミニウム濃度が外表面から内部に向かって増加していることを特徴とする触媒。
【請求項2】
前記コアを被覆するゼオライト層の厚みが、10nm以上、1μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
前記コアとなるゼオライト粒子及び該コアを被覆するゼオライト層がMFI構造を有し、該ゼオライト層が前記コアとなるゼオライト粒子に対してエピタキシーであることを特徴とする請求項1に記載の触媒。
【請求項4】
アルミニウムを含有する粒子径が10μm以下であるゼオライト粒子をコアとし、シリカ源、アルミニウム源、及び構造規定剤を用いて水熱合成して、前記コアのゼオライト粒子の外表面に該ゼオライト粒子と同じ結晶構造のゼオライト層を析出させる触媒の製造方法において、
前記シリカ源を連続的もしくは断続的に追加しながら水熱合成を行い、合成溶液中のアルミニウム濃度を減少させながら、前記コアのゼオライト粒子表面に前記ゼオライト層を結晶成長させることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載の触媒とベンゼン及び/又はトルエンとを接触させて、アルキル化又は不均化反応を行うことを特徴とするパラキシレンの製造方法。

【図4】
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【図10】
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【図11】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−206614(P2011−206614A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73756(P2010−73756)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】