説明

触媒及び触媒の製造方法

本発明の触媒は、多孔質担体材料表面に分散された遷移金属又は遷移金属の化合物を含む少なくとも0.8mmの最小寸法を有する粒子形状の粒状触媒であって、前記触媒粒子が少なくとも35重量%の総遷移金属を含み、前記触媒の遷移金属表面積が遷移金属1g当たり、少なくとも110mであり、触媒粒子床のタップ嵩密度が少なくとも0.7g/mlであることを特徴とする粒状触媒である。触媒の製造方法は、多孔質担体に金属アンミン溶液を含浸させ、乾燥し、乾燥した材料をか焼し、還元するという複数の工程を含む。本触媒は水素化反応に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質担体表面に分散された1種以上の遷移金属を含む触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質担体材料表面に分散された金属及び金属化合物を含む触媒はこれまでよく知られており、化学原料の水素化及び脱水素化を含む様々な目的のために長年にわたり化学業界で使用されている。米国特許第4,490,480号には、様々な水素化反応に有用な、5〜40重量%のニッケルを担持した遷移アルミナ、特にγ−アルミナ担体よりなる触媒が記載されている。これらの触媒は、ニッケル1g当たり80mと300mの間、好ましくは、100〜250mの活性ニッケル表面積を有し、ニッケル結晶は1〜5nm、好ましくは、1.5〜3nmの平均粒径を有する。ニッケル結晶は少なくとも95%がアルミナの細孔内に分散されている。この特許には、ニッケルアンミン錯体水溶液に遷移アルミナを懸濁又は混合させた水溶液を暫くの時間、60〜100℃、好ましくは75〜95℃の温度に加熱し、それにより水酸化ニッケルを沈殿させることによる触媒の製造方法が記載されている。この触媒懸濁物を濾別し、所望により洗浄し、その後、乾燥、か焼して酸化ニッケルとし、必要に応じて還元する。あるいは、アルミナのペレット又は押出物にニッケルアンミン錯体の濃縮溶液を含浸させ、続いてニッケルを温度上昇によって析出させる。
【0003】
米国特許第4,920,089号により、活性ニッケル表面積がニッケル1g当たり80mと300mの間であり、遷移アルミナが特定のX線回折パターンを満足する5〜40重量%のニッケルを含有するニッケル担持遷移アルミナ触媒が提供される。好ましくは、前記触媒のBET全表面積は、触媒1g当たり50mと200mの間であり、2.0nm未満の半径を有する細孔を実質的に含まない。触媒は、成形θ−アルミナ粒子に、特に高いpH値、即ち9と11の間のpH値を有するアンモニア性ニッケル溶液を含浸させ、続いて含浸させたアルミナ粒子を蒸発乾燥させ、か焼及び還元することによって調製される。
【発明の概要】
【0004】
上記の従来技術特許に記載されている方法により、高度に分散された活性な金属触媒を形成することができ、これらの触媒は大きな成功を収めてきた。しかしながら、約33重量%を超える金属含有量を有し、高い圧壊強度と共に高度な金属分散度を有する、固定床型反応に適したペレット品や成形品の形状の触媒を調製することが未だできていないことに我々は気付いた。そのような触媒を提供することが本発明の目的である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】図1は、比較例1、実施例2及び比較例3で調製した触媒を用いた結果のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明によれば、我々は、多孔質担体材料表面に分散された遷移金属又は遷移金属の化合物を含む少なくとも0.8mmの最小寸法を有する粒子形状の粒状触媒であって、前記触媒粒子が少なくとも35重量%の総遷移金属を含み、前記触媒の遷移金属表面積が遷移金属1g当たり、少なくとも110mであり、触媒粒子床のタップ嵩密度が少なくとも0.7g/mlであることを特徴とする粒状触媒を提供する。
【0007】
本発明の第2の側面によれば、多孔質担体材料表面に分散された遷移金属又は遷移金属の化合物を含む触媒の製造方法であって、前記触媒が少なくとも35重量%の総遷移金属を含み、前記製造方法が、
遷移金属のアンミン錯体の溶液を供給する工程(a)と;
少なくとも0.5mmの最小寸法を有する粒子形状で、全細孔容積が1.0ml/g超である多孔質担体材料に前記アンミン錯体溶液を含浸させる工程(b)と;
工程(b)から得られた含浸担体粒子を乾燥する工程(c)と;
粒子中の遷移金属の量が必要なレベルになるまで、少なくとも更に4回、工程(b)及び工程(c)を繰り返し、かつ工程(c)の乾燥させた含浸担体粒子を、担体中の遷移金属化合物の少なくとも大部分を遷移金属酸化物に変換するのに十分な温度と時間で、か焼する工程(e)を含む工程(d)と;
所望により、残存する遷移金属化合物及び遷移金属酸化物の少なくとも50%を金属元素に還元する工程(f)と、を含む触媒の製造方法を、我々は提供する。
【0008】
遷移金属は、好ましくは、コバルト、ニッケル又は銅から選択され、複数の遷移金属を含んでもよい。
粒状触媒中の総遷移金属は少なくとも35重量%である。総遷移金属とは、全触媒質量に対する百分率で表した還元金属元素又は金属化合物として存在する金属の質量を意味する。金属の量は蛍光X線(XRF)又は誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP−AES)により測定することができる。本明細書に記載され、特許請求されている触媒の全金属含量を定量する目的のため、硫酸銅の内部標準を使用し、標準硫酸ニッケル溶液を用いて校正するICP−AESを我々は用いる。両方の方法は、このような触媒等の材料の金属含量を定量する際に使用することはよく知られており、当業者であれば、このような方法を利用できる。
【0009】
触媒のタップ嵩密度は、以下の方法を用いて測定する場合、少なくとも0.7g/mlである。(約)100gの触媒粒子試料を標準の250mlメスシリンダーに正確に量り込み、自動タップ嵩密度分析器の秤量台に置き、2000回軽くたたいた後、試料の体積を測定する。次に嵩密度を、軽く叩いた後の試料の体積で割った触媒の正確な重量(g)として計算する。本願文書に記した嵩密度は、Quantachrome Instruments社から市販されているQuantachrome Dual Autotap(商標)機器を用いて測定する。好ましくは、触媒粒子のタップ嵩密度は少なくとも0.75g/mlである。
【0010】
ニッケルを35%含有し、比較的高いニッケル金属表面積を有する触媒が粉末及び微細粒子の形で知られているが、我々は少なくとも0.8mmの最小寸法及び少なくとも0.7のタップ嵩密度を有する粒子形状の触媒は新規であると信じる。少なくとも0.8mmの最小寸法を有する粒子は、球状、円柱状、耳付き円柱状(即ち、3葉、4葉、又は5葉等の多葉円の横断面を有する形状)、車輪状、環状、鞍状及び他の既知の形状等の成形触媒を含む。一部の形は、溝、凹部や孔を含んでもよい。最小寸法は、そのときどきで、直径でも長さでもよい。好ましくは、最小寸法は少なくとも1mmである。通常は、触媒粒子の大きさを測定し、平均最小寸法を確定する。本願文書に使用されている最小寸法は、40個の触媒粒子を測定した最小寸法の平均値として計算される。
【0011】
粒子は、造粒、打錠、押出、或いは他の公知の方法により形成することができる。押出による粒子が好ましい。本発明の好ましい態様では、触媒粒子は押出による円柱形又は耳付き円柱形を含む。このような粒子は、原料化合物又は化合物の混合物を触媒粒子床の上及び/又は中を流す固定床反応装置での使用に適している。触媒床で使用するには、触媒粒子は触媒床の中で元の形を維持するだけの十分な強度を有することが必要である。好ましくは、触媒粒子は、少なくとも10N/mm、より好ましくは少なくとも12N/mmの、25個の粒子の平均圧壊強度として表される圧壊強度を有する。25個の粒子の圧壊強度は、Engineering System CT5、1/2トン圧壊試験機を用いて測定する。次いで単位長さ当たりの平均圧壊強度を、粒子の平均長で割った平均的な力から計算する。試験前に粒子をニッケルるつぼ中で500℃まで1時間加熱し、次いで水分の吸収を避けるために100℃に維持する。
【0012】
多孔質担体材料は、好ましくは遷移アルミナである。遷移アルミナとしては、δ−、η−、γ−、及び/又はθ−アルミナを挙げることができる。1つの好ましい態様では、主にγ相アルミナから成る遷移アルミナを使用する。担体材料は、触媒に関して上述したように一般的には成形(例えば押出)粒子の形態である。水銀侵入によって測定される多孔質担体材料の全細孔容積は、好ましくは、少なくとも1.0ml/gである。BET法によって測定される多孔質担体材料の全表面積は、好ましくは、少なくとも250m/gである。特に好ましい多孔質担体材料は、少なくとも1.0ml/gの細孔容積及び二峰性の細孔径分布を有する遷移アルミナ担体である。この種の触媒担体を使用することで、固定床での触媒の使用に対して十分な圧壊強度を維持しながら、単峰性細孔径分布を有する担体よりも、この担体材料により多量の遷移金属を導入することができることを我々は見出した。好ましい触媒担体の水銀圧入法により測定する細孔サイズ分布では、全細孔容積の少なくとも20%(より好ましくは少なくとも25%)は、100nm〜700nmの直径を有する細孔内に含まれ、かつ全細孔容積の少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%は、5nm〜20nmの直径を有する細孔に含まれる。
【0013】
本発明の方法による触媒の調製において使用する遷移金属アンミン錯体は、遷移金属化合物又は一定量の金属形態の遷移金属を、例えば、炭酸アンモニウム等のアンモニウム化合物のアンモニア水溶液に溶解して調製できる。遷移金属炭酸アンミン錯体が好ましいが、硫酸、酢酸若しくはギ酸等の他のアニオンも使用できる。
【0014】
コバルトアンミン錯体は、炭酸アンモニウムの水酸化アンモニウム水溶液に塩基性炭酸コバルトを溶解することで、その場の水溶液中で生成して所望のコバルト含量の生成物が得られるコバルトアンミン炭酸塩錯体が最も好ましい。また、あるいは、酢酸コバルト、又はギ酸コバルト等の有機塩を含む他のコバルト塩を使用することもできる。ニッケル及び銅のアンミン炭酸塩溶液も同様の方法で調製することができる。
【0015】
コバルトアンミン炭酸塩錯体は、所望のコバルト含量の生成物を得るように、塩基性炭酸コバルト、好ましくは実験式Co(OH)2−2x(COの塩基性炭酸コバルトを、炭酸アンモニウムの水酸化アンモニウム水溶液に溶解させた生成物である。コバルトアンミン炭酸塩溶液は、追加の水酸化アンモニウムを含む炭酸アンモニウム又はカルバミン酸アンモニウムの水溶液に塩基性炭酸コバルトを溶解することによって調製できる。相対的な量関係は溶液のpHが7.5〜12の範囲、好ましくは9〜12の範囲になるようにする。溶液は、好ましくは、1リットル当たり0.1〜2.5モルのコバルト錯体を含む。コバルトの濃度が増加すると共に、一般的には、塩基性炭酸コバルト原料中の水酸イオンに対する炭酸イオンの割合が増加する。溶液の粘度を下げる必要がある場合、更に水酸化アンモニウム溶液を添加してもよい。また、別の方法として、コバルトアンミン炭酸塩溶液は、酸素若しくは空気の存在下、金属コバルト、好ましくは粉末状の金属コバルトをpH11〜12のアンモニア水溶液に溶解し、炭酸アンモニウム若しくはCOガスを添加して調製できる。コバルトアンミン錯体溶液は、Co(II)錯体を少なくとも部分的にCo(III)錯体に変換するために、触媒担体に含浸させる前に酸素を豊富に含む気体と接触させる熟成か、又は化学的若しくは電気化学的酸化かのいずれかによって酸化してもよい。
【0016】
遷移金属がニッケルである場合、多孔質担体に適切な量のニッケルアンミン錯体水溶液を含浸させることで触媒を調製できる。ニッケルアンミン炭酸塩錯体は、所望のニッケル含量の生成物を得るように、塩基性炭酸ニッケルを炭酸アンモニウムの水酸化アンモニウム水溶液に溶解することによって調製できる。ニッケルアンミン錯体の溶液は好ましくは、9〜10.5の範囲のpHを有する。
【0017】
銅アンミン炭酸塩溶液は、追加の水酸化アンモニウムを含む炭酸アンモニウムの水溶液に塩基性炭酸銅を溶解することによって調製できる。相対的な量関係は溶液のpHが7〜12の範囲で、好ましくは8〜11の範囲であるようにする。溶液は、好ましくは1リットル当たり2〜5モル、特には、2〜4モルの銅錯体を含む。銅の濃度が増加すると共に、一般的には、塩基性炭酸銅原料中の水酸イオンに対する炭酸イオンの割合が増加する。
【0018】
好ましくは、含浸工程(b)の総数は少なくとも5回、より好ましくは少なくとも6回であり、次いで各工程(b)から得られる含浸触媒を工程(c)で乾燥する。好ましい方法では、工程(b)及び(c)は3回実施、次いで工程(e)を実施し、次に工程(b)及び(c)を少なくとも更に1回(より好ましくは、少なくとも更に2回、特には更に3回)実施し、次に2回目のか焼工程(e)を実施する。好ましくは、実質的にすべての遷移金属化合物は、工程(e)において遷移金属酸化物に変換される。
【0019】
好ましくは、最終か焼工程(e)から得られるか焼触媒を水素含有ガス中で還元する。好ましくは、次いで、還元した触媒を、空気にさらす際には触媒温度が100℃を超えないようにして、従来の触媒不動態化方法により酸素含有ガスを用いて不動態化する。触媒を適切に不動態化することによって、よく知られている微細分割した金属粒子の自然発火性の性質に起因する着火をさせずに空気中で触媒の保存及び取り扱いができる。
【0020】
乾燥させた含浸担体粒子を、本方法の工程(e)に従って、好ましくは、少なくとも3回の含浸・乾燥工程後毎にか焼する。好ましくは、か焼工程は、十分な逐次含浸工程によって粒子中の遷移金属の量が必要なレベルに到達した時に実施される。
【0021】
触媒の遷移金属表面積は、遷移金属1g当たり少なくとも110mである。遷移金属の表面積は、金属をその元素状態に還元した後に測定する。遷移金属がニッケルの場合、所定の還元温度で1時間水素流中で触媒を還元した後に水素化学吸着により測定したニッケル金属表面積は、触媒中に存在する全ニッケル1g当たり、少なくとも110mである。還元工程は、表面積測定手順の一部であり、ニッケル化合物を水素化学吸着の測定のためのニッケル元素に還元する目的で行う。触媒中のニッケルが実質的に又は完全に酸化されたニッケル酸化物の場合は、所定の還元温度は430℃である。触媒中のニッケルが、概ね若しくは実質的に元素形態である場合、即ち触媒が予め還元され、不動態化されている場合は、所定の還元温度は240℃である。0.7〜0.8gの試料を正確に秤量し、化学吸着装置の試料セルに送る。試料セルを通過する水素の流量を250cm/分に設定する。次に、温度を3℃/分のランプ速度で選択した還元温度まで上昇させ、1時間の間、一定に維持する。
【0022】
還元に続いて、水素流を停止し、試料セルを真空下450℃で6時間脱気した。次いで真空を維持しながら50℃に冷却した。Hの化学吸着は、100トールと760トールの間の圧力範囲にわたって行われる。試料は、圧力毎に60秒間の間、各圧力での平衡状態とする。各圧力で化学吸着した水素の体積を圧力に対してプロットする。等温線の最も直線的な部分を選択、圧力ゼロの切片まで逆向きに外挿して単分子層容量を決定する。単分子層量は、g単位の試料重量で割った容量である。
【0023】
ニッケルの比表面積は、次の式から決定される。
Ni=[Nm×NA×S]/D
ここで、SNi:ニッケルの比表面積、m−1
Nm:単分子層量、molg−1
NA:アボガドロ定数、6×1023mol−1
S:2であると見なされるH吸着の化学量論
D:ニッケル原子の面密度、1.54×1019原子m−2
好ましくは、ニッケル金属表面積は、少なくとも120m/gである。
【0024】
コバルト表面積は、水素化学吸着によって測定する。遷移金属としてコバルトを含有する本発明の触媒に関する本明細書にコバルト表面積測定と記載されている場合は、(他に指定のない限り)この方法が用いられる。約0.2g〜0.5gの試料材料をまず脱気し、ヘリウム流中で10℃/分で140℃に加熱し、60分間140℃に保持することによって乾燥する。次に、脱気し、乾燥した試料を、50ml/分の水素流下、3℃/分の速度で140℃から425℃まで加熱し、次いで水素流を425℃で6時間保持することによって還元する。この還元に続いて、試料を真空下、10℃/分で450℃まで加熱し、2時間の間、これらの条件下に保持する。次いで、この試料を150℃まで冷却し、更に、30分間、真空下で保持する。次に純水素ガスを使用して化学吸着分析を150℃で行う。水素の100mmHgから760mmHgまでの圧力範囲にわたる全等温線を測定するために自動解析プログラムを用いる。分析は2回実施する。最初は“全”水素取込みを測定(即ち、化学吸着水素及び物理吸着水素を含む)し、最初の分析後、直ちに試料を真空下(<5mmHg)に30分間置く。次いで分析を繰り返して物理吸着した取込みを測定する。次に一次回帰を“全”取込みデータに適用し、逆向きに圧力ゼロまで外挿して化学吸着したガスの体積(V)を計算する。
コバルトの表面積は、いずれの場合も下記の等式を用いて計算した。
Coの表面積=(6.023×1023×V×SF×A)/22414
式中、V=ml/gで表したHの取込み
SF=化学量論的因子(CoへのH化学吸着の場合は2と仮定する)
A=1個のコバルト原子による占有面積(0.0662nmと仮定する)
この式は、以下に記載されている:Operators Manual for the Micromeretics ASAP 2010 Chemi System V 2.01, Appendix C, Part No. 201-42808-01, October 1996(マイクロメリティックスASAP2010ケミシステムV2.01のオペレーター用マニュアル、附録C、品番201-42808-01、1996年10月)。
【0025】
銅の表面積は、亜酸化窒素分解法によって手軽に定量される。例えば、"Applied Catalysis", 7, (1983), 75-83にEvansらにより記述され、特に適している手法が欧州特許第0202824号に記述されている。前記の方法は窒素分子1個の放出を伴う銅表面の亜酸化窒素分子1個の分解に基づく。次の式において、添字sは表面原子を示す。
【0026】
O(気体)+2Cu→N(気体)+(Cu−O−Cu)
試料の還元は銅表面積の定量に先立って行い、アルゴンで希釈した水素流(体積で67%H/33%Ar)中、200K/hの速度で試料を393K(120℃)に加熱し、この温度に30分間保持し、次に100K/hの速度で所望の還元温度まで上昇させ、その所望の温度に1時間保持することによって行う。還元した後、試料を90℃に冷却し、この温度で亜酸化窒素の分解を、亜酸化窒素とアルゴン(体積で1%NO/99%Ar)の混合物を用いて行う。Cu/Oadsの吸着化学量論は2であると仮定すると、1銅原子の占有面積は、5.18Å、即ち73%の充填密度で、1.46×1019表面銅原子/mとなる。
【0027】
本発明の触媒は水素化反応、即ち、オレフィン化合物又は芳香族化合物中の不飽和、及びカルボニル化合物、ニトロ基及びニトリルを含む官能基を含む水素化が可能な有機化合物の水素化、並びにエステルの水素化分解等に有用である。これらの触媒は、例えば、溶媒の脱芳香族に特に有用である可能性がある。
【0028】
比較例1
250gの炭酸アンモニウムを1リットルの33%アンモニア水溶液に3時間撹拌して溶解した。次に、350gの塩基性炭酸ニッケルを炭酸アンモニウム溶液に50gずつ添加し、毎回添加後は30分間撹拌した。得られたニッケルヘキサミン溶液を必要になるまで保存する。
【0029】
使用される担体は、1.2mmの公称直径、2.9mmの平均長の3葉形で、0.67ml/gの細孔容積、単峰型細孔径分布及び110m/gのBET表面積を有する押出遷移アルミナ(θ/δ)触媒担体である。100gの担体をビーカーに入れ、その触媒ペレットを覆い、2分間の浸漬時間覆い続けるのに必要な最低量のニッケルヘキサミン溶液を加えた。次に過剰の溶液を水圧下で濾別し、湿ったペレットを回転式焼成管中、空気流下で150℃で30分間乾燥した。ニッケルヘキサミン錯体は、この乾燥段階で、アンモニアを発生して分解し、担体の細孔内に分散された「緑色の」ヒドロキシ炭酸ニッケルを生成する。浸漬と乾燥を更に2回繰り返し、次に生成物を、空気中、280℃で45分間か焼してヒドロキシ炭酸ニッケルを酸化ニッケルに変換した。次に、最終的に少なくとも90%の還元度を達成するために、触媒を450℃に加熱しながら水素流で還元した。還元した後、触媒を空気中で安定になるまで、制御された窒素/酸素混合物中で不動態化した。ニッケル含量は21%で、Ni金属比表面積は、140m/gであった。タップ嵩密度は、0.73であった。
【0030】
実施例2:本発明による触媒の調製
比較例1に記載の通り、ニッケルヘキサミン炭酸溶液を調製した。使用する担体は、265m/gのBET表面積を有する1.2mm直径の押出3葉形の遷移アルミナであった。細孔容積は1.1ml/gで、細孔分布は二峰性であった。
【0031】
100gの担体を、比較例1に記載のように、浸漬と乾燥を3回行い、続いてか焼を行うことで、ニッケルヘキサミン溶液を含浸させた。得られた触媒を次に更に3回浸漬し、これまでと同様に、毎回浸漬工程の後には乾燥工程を行った。最後の乾燥工程後、生成物をか焼し、還元し、不動態化した。ニッケル含量は39%で、ニッケル金属比表面積は120m/gであった。タップ嵩密度は0.86であった。圧壊強度は22N/mmであった。
【0032】
比較例3
か焼工程に続いて、か焼した材料に対して含浸と乾燥を更に3回行った以外は比較例1の記載と同様に触媒を調製した。次に材料を比較例1に記載と同じ手順に従い、再びか焼、次いで還元して不動態化した。全ニッケル含量は30.2%及びNi金属比表面積は121m/gであった。タップ嵩密度は0.89であった。
【0033】
触媒活性試験
試料は、全体の粒子として下降流式固定床炉(内径22.22mm)で試験をする。触媒は全粒子の形態で試験する。触媒粒子(50cm)を24gの炭化珪素と混合して触媒床を形成し、反応炉もまた触媒床の各端部に炭化珪素の床を含む。触媒を50リットル/時(1BarG圧)で流れる水素中で、1℃/分でゆっくり120℃に加熱し、1時間その温度を安定に保持し、次に2℃/分で230℃に温度を上げ、次いでその温度を1時間維持した。次に、水素流を維持しながら、触媒を室温まで冷却した。試験は、30BarG水素圧、200℃床温度、及び4.5/時のLHSV(液空間速度)で行った。用いた原料は、ベンゾチオフェノンの添加によりS含量が24ppmのナフサ溶剤であるエクソン社のバーソル(Varsol)(商標)120であった。原料は凡そ30%の芳香族化合物を含有していた。使用したH/原料比は89であった。試験は6kgの原料が触媒を通過するまで行う。液体生成物を反応時間中、間隔を置いて採取し、芳香族化合物を多波長UVによって分析する。各試料の変換率(%)は下式から得られる:
変換率(%)=[(AIN−AOUT)/AIN]×100
(AIN=Aromatics In(芳香族化合物:入)、AOUT=Aromatics Out(芳香族化合物:出)
処理した原料に対して変換率をプロットし、一次回帰により最良適合直線を引く。比較例1、実施例2及び比較例3で調製した触媒を用いた結果のプロットを図1に示す。実施例2の触媒は、比較例1の触媒よりも試験期間を通して高い活性を有し、比較例3の触媒よりも長い期間にわたって高い活性を維持することがグラフに示されている。比較例3の触媒を実施例2の触媒と同じ方法で調製したが、完成した触媒中のニッケル量はかなり少なかった。理論によって束縛されることを望まないが、実施例2の触媒の調製に使用される担体がより大きな細孔容積を有することで、より多くのニッケルが触媒担体の細孔構造中に吸収されると我々は考えている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質担体材料表面に分散された遷移金属又は遷移金属の化合物を含む、少なくとも0.8mmの最小寸法を有する粒子形状の粒状触媒であって、該触媒粒子が少なくとも35重量%の総遷移金属を含み、該触媒の遷移金属表面積が遷移金属1g当たり少なくとも110mであり、該触媒粒子床のタップ嵩密度が少なくとも0.7g/mlであることを特徴とする粒状触媒。
【請求項2】
多孔質担体が遷移アルミナを含む、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
多孔質担体材料が二峰性細孔径分布を有する、請求項1又は請求項2に記載の触媒。
【請求項4】
多孔質担体材料が、全細孔容積の少なくとも20%は、100nm〜700nmの直径を有する細孔内に含まれ、かつ全細孔容積の少なくとも30%は、5nm〜20nmの直径を有する細孔内に含まれる、水銀圧入法により測定される細孔径分布を有する、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
多孔質担体材料が少なくとも1.0ml/gの細孔容積を有する、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項6】
多孔質担体が押出による円柱形又は耳付き円柱形である、請求項1〜請求項5のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項7】
遷移金属がコバルト、ニッケル又は銅から選択され、複数の遷移金属を含んでもよい、請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項8】
遷移金属がニッケルを含む、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項9】
触媒の金属表面積が、遷移金属1g当たり少なくとも120mである、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載の触媒。
【請求項10】
多孔質担体材料表面に分散された遷移金属又は遷移金属の化合物を含む触媒の製造方法であって、該触媒が少なくとも35重量%の総遷移金属を含み、該製造方法が、
該遷移金属のアンミン錯体溶液を供給する工程(a)と;
少なくとも0.8mmの最小寸法を有する粒子形状で、全細孔容積が1.0ml/g超である多孔質担体材料に該アンミン錯体溶液を含浸させる工程(b)と;
工程(b)から得られた含浸担体粒子を乾燥する工程(c)と;
粒子中の遷移金属の量が必要なレベルになるまで、少なくとも更に4回、工程(b)及び工程(c)を繰り返し、かつ工程(c)の乾燥させた含浸担体粒子を、担体中の含浸した遷移金属化合物の少なくとも大部分を遷移金属酸化物に変換するのに十分な温度と時間で、か焼する工程(e)を含む工程(d)と;
所望により、残存する遷移金属化合物及び遷移金属酸化物の少なくとも50%を金属元素に還元する工程(f)と、を含む触媒の製造方法。
【請求項11】
アンミン錯体溶液がニッケルアンミン炭酸塩溶液である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
工程(b)及び工程(c)を3回行い、次いで工程(e)を行い、次いで更に工程(b)及び工程(c)を3回行い、次いで2回目の工程(e)を行う、請求項10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
最終の工程(e)で得られたか焼した触媒を水素含有ガス中で還元し、次に空気にさらす時に触媒の温度が100℃を超えないようにして酸素含有ガスを用いて不動態化する、請求項10〜請求項12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
水素化可能な有機化合物の水素化反応を該水素化可能な有機化合物を水素含有ガスに接触させることにより実施する方法であって、該接触を請求項1〜請求項9のいずれか一項に記載の粒状触媒の存在下で実施する方法。
【請求項15】
水素化可能な有機化合物の水素化反応を該水素化可能な有機化合物を水素含有ガスに接触させることにより実施する方法であって、該接触を請求項10〜請求項14のいずれか一項に記載の方法によって製造された粒状触媒の存在下で実施する方法。

【図1】
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【公表番号】特表2013−516306(P2013−516306A)
【公表日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−546504(P2012−546504)
【出願日】平成22年12月23日(2010.12.23)
【国際出願番号】PCT/GB2010/052203
【国際公開番号】WO2011/080515
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(590004718)ジョンソン、マッセイ、パブリック、リミテッド、カンパニー (152)
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】