説明

触媒性を備えた液体燃料

【課題】触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類を液体燃料の中に加えて液体燃料の酸化活性を向上させるとともに、触媒の被毒を低減する。
【解決手段】この発明は、触媒能力を備えたイオンおよび/またはその塩類を液体燃料中に添加して、液体燃料の酸化活性を促進するものであり、前記液体燃料は、例を挙げて言えば、全ての有機液体燃料および/またはその他の還元性物質を含む液体燃料を含むことができる。この発明の触媒能力を備えるイオンおよび/またはその塩類の添加量は、僅かに必要とする微量だけで触媒酸化の目的を達成することができる。この発明が提供する触媒性を備える液体燃料は、確実に液体燃料の酸化活性を向上させることができるとともに、同時に現有する燃料電池の触媒転換率が低すぎること、触媒毒および触媒作用失効などの問題を克服することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、触媒性を備えた液体燃料(Catalytic Liquid Fuel)に関し、触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類を液体燃料の中に加えて液体燃料の酸化活性を向上させるとともに、触媒の被毒を低減する液体燃料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において、人類の科学技術の進歩が経済成長を導いてきた。しかし、大量生産、消費の結果もまた自然環境の復元能力が負荷に耐えきれず、公害汚染、資源の激減を引き起こし、甚だしくは人類の永続的な発展を脅かしている。そのうち、最も注目を集めているのは、地球温室化効果が日増しに深刻なものとなっていること、石油エネルギーが日を追って枯渇してきているなどの問題である。石油埋蔵量の不足が引き起こすエネルギー危機および核分裂エネルギーの高い危険性ならびにそこから派生する核廃棄物汚染の問題を回避するため、現在、世界各国政府は、更に先進的なエネルギー技術を極力発展させてきており、現在までのところ、いくつかの可能な方法が既に提案されている。例えば、太陽エネルギー発電(solar cell)、風力発電(wind power generator)、燃料電池(fuel cell)など代替性のあるエネルギー計画が、現在の石油を中心とするエネルギー生産システムに置き換えることができるだけでなく、それらは、さらに共通の特長、すなわち静寂かつ清潔であり、これらの生態環境に対する親和性こそが未来の人類のエネルギー利用についての重要な指標となっている。
【0003】
これらの新しい形態のエネルギー科学技術のうち、燃料電池(fuel cell)の発展がその前途を最も有望視されており、燃料電池が1つの化学エネルギーを電気エネルギーに直接転換できる装置となって、カルノーサイクル(Carnot cycle)の制限を解消することができ、発電効率が一般の従来発電方式より高く、しかも騒音が低く、汚染が少なく、供給原料も多く、用途が広いなどの利点がある。1839年に英国人Groveが燃料電池(fuel cell)の現象を発見した後、1960年代に米国のアポロおよびジェミニ(Gemini)など宇宙船が率先してこの技術を生命維持システムのエネルギーに応用した。この技術は、高い効率性および汚染がないという利点を備えているので、環境保護ならびにエネルギー効率を重要視する現代において、すでに最も有望なエネルギーシステムとみなされている。従来の主要な発電方式、例えば、水力、火力、核エネルギー発電または風力ならびに太陽エネルギーなどは、それぞれ異なる欠点、例えば、地形の制限(水力、風力、太陽エネルギー)、汚染問題(火力)および安全性の考慮(核エネルギー)などがある。しかも、以上は、いずれも集中式の発電システムであるから、長距離の電力伝送が大量の電力損耗を引き起こす。そして、燃料電池は、通常、水素および酸素(空気)であり、その産物は水であって、環境汚染の恐れがない。その他、燃料電池スタック(fuel cell stack)の数量をコントロールすることにより、小さいものは3C(Computer, Communication and Consumer Electronics)製品から大きいものは地域または大型発電所まで、各種の異なるシステムに応用することができる。また、一部の種類の燃料電池は、交通手段上に応用することもでき、現在のガソリンを主要な燃料とする自動車が排出する廃気を大幅に低減して、環境を改善し、生活品質を向上させることができる。
【0004】
そのうち、メタノールを燃料とするダイレクト、メタノール燃料電池(Direct Methanol Fuel Cell = DMFC)が最も潜在力を有しており、メタノールが廉価で安全な液体燃料であって、貯蔵ならびに運搬に便利であり、かつメタノールが炭素数の最も少ないアルコール類であり、電気活性が大きいので、早くも1950年代にメタノール燃料を電解液に直接混合する燃料電池の研究があり、その後、絶え間ない電極の改良が行われるとともに、イオン交換膜の発見によって、1970年代には灯台、雨量計などの電源として実用化された。ダイレクト、メタノール燃料電池は、電極触媒の存在により、電気化学反応を起こすことができ、酸化により二酸化炭素と水とになる故に、移動電源、例えば、電気自動車、電動オートバイに適用でき、また、携帯式電力として、例えば、携帯電話、ノート型パソコンに適用できるため、DMFCは、すでに未来において発展する新世代の自動車両および携帯式電力となる趨勢となっており、各国が力を尽くして研究する目標となっている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DMFCシステムについて言えば、通常は、貴金属である白金を陽極の触媒材料としている。但し、その欠点は、メタノールが低温時に白金上で酸化反応が不完全となり一酸化炭素(CO)を発生させて、白金表面に吸着され、触媒毒(catalyst poison)作用により活性を失い、その酸化作用を喪失して、陽極材料の電気化学性能が大幅に低下してしまうことにある。
【0006】
白金触媒は、メタノールの酸化不完全による触媒毒作用を受けやすく、単一の白金金属触媒の発展が制限されてしまうため、触媒の抗CO能力を如何に向上させるかが主要な研究方向となっており、また、このために多くの学者をバイメタルまたはマルチメタル触媒方面の研究へと向かわせることになっているが、バイメタルまたはマルチメタルは、やはり修飾(modify)される金属の溶出問題という欠点が存在しており、バイメタルおよびマルチメタル触媒の応用が制限を受けるものとなっている。
【0007】
従来、液体燃料を使用する燃料電池は、多くが白金(Pt)または遷移金属の修飾を経た白金触媒、例えばPt/C, PtRu/C, PtCo/Cなどのバイメタル、あるいはマルチメタル触媒、例えばPtRuSn, PtRuTi, PtRuMoまたは遷移金属の化合物により液体燃料に接触酸化させて酸化電流を発生させるが、これらの触媒は、CO被毒または修飾金属(Ru, Ti, Co, Zn, Mo...)の溶出問題を克服することができず、触媒の転化率が使用時間とともに低下するものとなっている。従って、この発明は、触媒性を備える液体燃料を提出して、上記触媒の欠点を改善することに用いるものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
そこで、この発明は、触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類の液体燃料を提供して、燃料電池の使用に提供することができ、その酸化活性が従来のバイメタルまたはマルチメタル触媒よりも優れており、比較的高い液体燃料の酸化活性を有するものである。この発明の添加する触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類は、その触媒性イオンを全ての無機イオンを含むものとし、あるいはその塩類が酸化物、水酸化物、窒素酸化物、硫化物、シアン化物、ハロゲン化物、有機酸塩、無機酸塩およびその混合物から選ばれるものを含むものであり、そのうち、ハロゲン化物は塩化物が好ましく、有機酸は蟻酸、酢酸、プロピオン酸などが好ましい。
【0009】
この発明に言う液体燃料は、メタノール、蟻酸、酢酸、エタノール、プロパノール、C〜Cのアルキルアルコール類、C〜Cの有機酸類など又はその混合物から選ばれるものを含むものである。
【0010】
この発明に言う液体燃料は、また、還元性物質を備える液体燃料を含むものであり、例を挙げて言えば、N4、NaBH、LiBHなどの還元性物質の溶液を含むものであり、前記溶液が水溶液または有機分子溶液中で解離する塩類であることができるものである。
【0011】
この発明の添加する触媒性を備える物質の添加量は特別に制限せず、コストを考慮して僅かな必要とする微量で良く、また異なる触媒に対して、その必要とする添加量にも差異があり、必要とする効果があるまで添加することを主なものとする。例えば、この発明の一実施例により説明すると、10−9MのRuCl3を5%のメタノール有機分子燃料中に添加する時、メタノールの酸化電流を0.5mAから5mA(Pt/C電極)に上昇させることができ、この発明の提供する触媒性物質が液体燃料の酸化活性を確実に向上させることを顕著に示すとともに、同時に現行の燃料電池の触媒転化率が低すぎること、触媒毒および触媒作用の失効などの問題を解決することができる。
【発明の効果】
【0012】
この発明の触媒性を備えた液体燃料は、触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類を液体燃料の中に加えて液体燃料の酸化活性を向上させるとともに、触媒の被毒を低減することができる。また、この発明は、触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類の液体燃料を提供して、燃料電池の使用に提供することができ、その酸化活性が従来のバイメタルまたはマルチメタル触媒よりも優れており、比較的高い液体燃料の酸化活性を有するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、この発明の最良の形態を図面に示された実施例に基づいて説明するが、この実施例は、発明の一形態を説明するためのものであって、この発明を制限するためのものではない。
<実施例1>
1.0.0031g Johnson-Matthey Pt-black粉末を取り500μL希釈の0.5%(wt%)のNafion(ナフィオン:1970年代に米国・デュポン社が開発した全フッ素化イオマーの商品名)溶液中に分散させた。
2.7μLNafion溶液を0.1964cmのGCF(glassy carbon fiber)上に滴下するとともに、80℃のオーブン中に置いて乾燥させた。
3.電極を5%メタノール溶液中に置くとともに、10−9のSnCl2および0.5M硫酸溶液をメタノール溶液中に加え、対照例は、同一の電極を使用し、メタノール溶液中に触媒性のイオン塩類を加えなかった。
4.サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)テストは、Pt-black/GCFを工作電極(working electrode)、白金電極をカウンター電極(counter electrode)および標準甘汞(がんこう)電極(カロメル電極 calomel electrode とも言う)を参考電極とし、走査範囲を-0.24Vから0.85V、走査範囲を5mVs-1とし、測定結果を図1に示した。
【0014】
図1から判るように、触媒性のイオン塩類SnCl2を加えると、メタノールの酸化電流を増加させることができ、元の0.001Aから0.0013Aに上昇して、酸化電流が約30%向上し、SnCl2イオン塩類が確実に有機分子燃料の酸化活性を有効に向上させることが顕著に示された。尚、図1において、aは、 SnCl2添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリーを示し、図1におけるbは、 SnCl2未添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリーを示す。更に詳細に述べると、aは、10−9のSnCl2またはRuCl2を5%メタノール有機燃料中に添加して、白金黒触媒GCF電極で行ったサイクリックボルタンメトリーグラフを示し、bは、5%メタノール有機燃料中で、白金黒触媒GCF電極で行ったサイクリックボルタンメトリーグラフを示す。
【0015】
<実施例2>
1.0.0031g Johnson-Matthey Pt-black粉末を取り500μL希釈の0.5%(wt%)のNafion(ナフィオン:1970年代に米国・デュポン社が開発した全フッ素化イオマーの商品名)溶液中に分散させた。
2.7μLNafion溶液を0.1964cmのGCF(glassy carbon fiber)上に滴下するとともに、80℃のオーブン中に置いて乾燥させた。
3.電極を5%メタノール溶液中に置くとともに、10−9のRuCl2および0.5M硫酸溶液をメタノール溶液中に加え、対照例は、同一の電極を使用し、メタノール溶液中に触媒性のイオン塩類を加えなかった。
4.サイクリックボルタンメトリー(cyclic voltammetry)テストは、Pt-black/GCFを工作電極(working electrode)、白金電極をカウンター電極(counter electrode)および標準甘汞(がんこう)電極(カロメル電極 calomel electrode とも言う)を参考電極とし、走査範囲を-0.24Vから0.85V、走査範囲を5mVs-1とし、測定結果を図2に示した。
【0016】
図2から分かるように、触媒性のイオン塩類RuCl2を加えると、メタノールの酸化電流を増加させることができ、元の0.001Aから0.005Aに上昇して、酸化電流が約500%向上し、RuCl2イオン塩類が確実に有機分子燃料の酸化活性を有効に向上させることが顕著に示された。尚、図2において、aは、 SnCl2添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリーを示し、図2におけるbは、 SnCl2未添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリーを示す。更に詳細に述べると、aは、10−9のSnCl2またはRuCl2を5%メタノール有機燃料中に添加して、白金黒触媒GCF電極で行ったサイクリックボルタンメトリーグラフを示し、bは、5%メタノール有機燃料中で、白金黒触媒GCF電極で行ったサイクリックボルタンメトリーグラフを示す。
【0017】
以上のごとく、この発明を最良の実施形態により開示したが、もとより、この発明を限定するためのものではなく、当業者であれば容易に理解できるように、この発明の技術思想の範囲内において、適当な変更ならびに修正が当然なされうるものであるから、その特許権保護の範囲は、特許請求の範囲および、それと均等な領域を基準として定めなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】SnCl2添加およびSnCl2未添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリー図である。
【図2】RuCl2添加およびRuCl2未添加のメタノール溶液のサイクリックボルタンメトリー図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類が添加され、酸化活性を向上するようにされた触媒性を備えた液体燃料。
【請求項2】
前記触媒性を備えたイオンが、金属イオンである請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項3】
前記触媒性を備えた金属塩類が、酸化物、水酸化物、窒素酸化物、硫化物、シアン化物、ハロゲン化物、有機酸塩、無機酸塩などから選ばれるものである請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項4】
前記ハロゲン化物が、塩化物である請求項3記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項5】
前記液体燃料が、全ての有機液体燃料または還元性物質を含有した液体燃料およびその混合物から選ばれたものを含む請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項6】
前記有機液体燃料が、メタノール・エタノール・プロパノール・C〜Cのアルキルアルコール類・C〜Cの有機酸類など又はその混合物:から選ばれたものを含む請求項5記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項7】
前記液体燃料中の還元性物質が、N・NaBH・LiBHなどの還元性物質またはその混合物から選ばれるものを含む請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項8】
前記イオン塩類が、水溶液または有機分子溶液中で解離できる塩類である請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項9】
前記触媒性を備えたイオンおよび/またはその塩類の添加量が、特別に制限されるものではなく、必要とする効果を有する範囲内まで添加される請求項1記載の触媒性を備えた液体燃料。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の触媒性を備えた液体燃料を用いた燃料電池。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2007−332371(P2007−332371A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−151256(P2007−151256)
【出願日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【出願人】(503378235)国立台湾科技大学 (32)
【Fターム(参考)】