説明

触媒構造体及びそれを用いた触媒体

【課題】触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができる排ガス浄化用の触媒構造体及びそれを用いた触媒体を提供すること。
【解決手段】排ガス浄化用の触媒構造体3は、第1触媒成分43を含む第1触媒材料41を凝集してなる第1触媒層4と、第2触媒成分53を含む第2触媒材料51を凝集してなる第2触媒層5とを有している。第2触媒層5は、第1触媒層4を包含するように第1触媒層4の周囲を覆っている。第1触媒材料41の平均粒径は、第2触媒材料51の平均粒径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば排ガス浄化用の触媒構造体及びそれを用いた触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒体としては、触媒成分を担体(触媒担体)に担持させたものがある。
この触媒体としては、例えば多数のセルを有するハニカム構造のセラミック担体(モノリス担体)を基材として用い、そのセラミック担体に貴金属等の触媒成分を担持させたものがある。
【0003】
触媒成分としては、排ガス中のHC、CO、NOx等の有害成分を浄化するために、一般に、Pt、Pd、Rh等の貴金属が用いられる。
このような貴金属を複数種使用した場合には、排ガス中の複数の有害成分を浄化するのに非常に有効である。
【0004】
しかしながら、異種の貴金属(触媒成分)を同時に用いた場合には、1000℃付近といった高温下での使用においては、触媒成分自身が熱により移動し、触媒成分同士が結合(シンタリング、合金化)してしまうという問題がある。そのため、触媒成分の有する触媒機能が失われ、排ガス浄化性能が低下するおそれがある。また、必要な浄化性能を維持するために、必要量よりも過剰な量の触媒成分を予め担持させておくこともできるが、この場合には、環境負荷、コスト高という問題が生じる。
【0005】
そこで、特許文献1では、触媒成分への熱の伝熱効果を緩和するために、触媒成分の上にγアルミナを被覆することが提案されている。しかしながら、このような構造では、被覆層として用いたγアルミナ自身が形態変化を起こしてしまうおそれがある。また、被覆層を形成することによって圧力損失が増加するという問題も生じる。
【0006】
【特許文献1】特開昭53−22557号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができる排ガス浄化用の触媒構造体及びそれを用いた触媒体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、排ガス浄化用の触媒構造体であって、
該触媒構造体は、第1触媒成分を含む第1触媒材料を凝集してなる第1触媒層と、第2触媒成分を含む第2触媒材料を凝集してなる第2触媒層とを有しており、
該第2触媒層は、上記第1触媒層を包含するように該第1触媒層の周囲を覆っており、
上記第1触媒材料の平均粒径は、上記第2触媒材料の平均粒径よりも大きいことを特徴とする触媒構造体にある(請求項1)。
【0009】
本発明の触媒構造体は、第1触媒成分を含む第1触媒材料を凝集してなる第1触媒層と、第2触媒成分を含む第2触媒材料を凝集してなる第2触媒層とを有しており、該第2触媒層は、上記第1触媒層を包含するように該第1触媒層の周囲を覆っている。つまり、上記触媒構造体の内部側に上記第1触媒層が形成されており、その外側に上記第2触媒層が形成されている。
【0010】
そのため、上記触媒構造体は、内部の層とその外側の層とにおいて、それぞれ機能の異なる異種の触媒成分(第1触媒成分及び第2触媒成分)を備え、異なる触媒機能を持たせることができる。これにより、上記触媒構造体は、内部の層とその外側の層とにおいて、それぞれ異なる排ガス成分を浄化することが可能となる。また、上記触媒構造体は、内部の層とその外側の層とに上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分をそれぞれ配置することにより、上記第1触媒成分と上記第2触媒成分との会合、それに伴う合金化を抑制することができる。それ故、それぞれの触媒機能を維持することができると共に、触媒成分の使用量の増加を抑えることができる。
【0011】
また、上記第1触媒材料の平均粒径は、上記第2触媒材料の平均粒径よりも大きい。つまり、上記第1触媒材料よりなる上記第1触媒層は、その外側の層(第2触媒層)よりも疎な状態、すなわち密度が低く、空隙の大きい層となる。そのため、上記第2触媒層よりも内部側におけるガス拡散性を向上させることができる。
【0012】
一方、上記第2触媒材料よりなる上記第2触媒層は、その内部の層(第1触媒層)よりも密な状態、すなわち密度が高く、空隙の小さい層となる。そのため、上記第2触媒層に含まれる上記第2触媒成分の拘束力を高い状態にすることができる。これにより、上記第2触媒成分の熱による移動、さらには上記第2触媒成分同士のシンタリングを抑制することができる。
また、上記第2触媒層は、上記第1触媒層に比べて外側にあり、熱に曝され易い。そのため、上記の効果をより一層有効に発揮することができる。
【0013】
さらに、例えば、排ガス中における分子サイズが小さく、上記触媒構造体の内部まで拡散可能なCOガスを、上記第1触媒層において上記第1触媒成分により浄化し、分子サイズが大きく、上記触媒構造体の内部まで拡散困難なHCガスやNOxガスを、上記第2触媒層において上記第2触媒成分により浄化する構造とすることができる。それ故、上記触媒構造体は、内部の層とその外側の層とにおいて、異なる排ガス成分を効率よく浄化することが可能となる。
【0014】
このように、本発明によれば、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができる排ガス浄化用の触媒構造体を提供することができる。
【0015】
第2の発明は、多数の細孔を有する多孔質基材の表面に、上記第1の発明の触媒構造体を担持してなることを特徴とする触媒体にある(請求項15)。
【0016】
本発明の触媒体は、上記多孔質基材の表面に、上記第1の発明の触媒構造体、すなわち触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができる触媒構造体を担持してなる。そのため、上記触媒体は、排ガス成分を効率よく浄化することができるものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
上記第1の発明において、上記触媒構造体は、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用いられる。上記触媒構造体は、一般に、基材となる担体(触媒担体)に担持させて用いられる。
また、上記触媒構造体の平均粒径は、0.2〜10μmであることが好ましい。
【0018】
また、上記第1触媒材料の平均粒径は、上記第2触媒材料の平均粒径よりも大きく、その平均粒径の10倍以下であることが好ましい(請求項2)。
上記第1触媒材料の平均粒径が上記第2触媒材料の平均粒径よりも小さい場合には、上記第1触媒層におけるガス拡散性を充分に確保することができないおそれがある。一方、上記第2触媒材料の平均粒径の10倍を超える場合には、上記触媒構造体全体のサイズが大きくなり、該触媒構造体を例えば触媒担体等に担持させることが困難となるおそれがある。
【0019】
また、上記第2触媒材料の平均粒径は、8〜70nmであることが好ましい(請求項3)。
上記第2触媒材料の平均粒径が8nm未満の場合には、上記第2触媒材料よりなる上記第2触媒層は、空隙の小さい緻密な層となるため、上記第2触媒層におけるガス拡散性を充分に確保することができないおそれがある。一方、70nmを超える場合には、上記第2触媒層は、空隙の大きい層となるため、上記第2触媒成分に対する拘束力が低下し、上記第2触媒成分の熱による移動や該第2触媒成分同士のシンタリングを抑制することができないおそれがある。
【0020】
また、上記第1触媒材料は、第1基材粒子と該第1基材粒子に担持された上記第1触媒成分とからなり、上記第2触媒材料は、第2基材粒子と該第2基材粒子に担持された上記第2触媒成分とからなり、
上記第1基材粒子の平均粒径は、上記第2基材粒子の平均粒径よりも大きいことが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記第1基材粒子を含む上記第1触媒層は、その外側の層(第2触媒層)よりも疎状態の層となる。一方、上記第2基材粒子を含む上記第2触媒層は、その内部の層(第1触媒層)よりも密状態の層となる。そのため、上記触媒構造体は、上述のとおり、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができるという上記第1の発明の効果を得ることができる。
【0021】
また、上記第1基材粒子の平均粒径は、上記第2基材粒子の平均粒径よりも大きく、その平均粒径の10倍以下であることが好ましい(請求項5)。
上記第1基材粒子の平均粒径が上記第2基材粒子の平均粒径よりも小さい場合には、上記第1触媒層におけるガス拡散性を充分に確保することができないおそれがある。一方、上記第2基材粒子の平均粒径の10倍を超える場合には、上記触媒構造体全体のサイズが大きくなり、該触媒構造体を例えば触媒担体等に担持させることが困難となるおそれがある。
【0022】
また、上記第2基材粒子の平均粒径は、5〜50nmであることが好ましい(請求項6)。
上記第2基材粒子の平均粒径が5nm未満の場合には、上記第2基材粒子を含む上記第2触媒層は、空隙の小さい緻密な層となるため、上記第2触媒層におけるガス拡散性を充分に確保することができないおそれがある。一方、50nmを超える場合には、上記第2触媒層は、空隙の大きい層となるため、上記第2触媒成分に対する拘束力が低下し、上記第2触媒成分の熱による移動や該第2触媒成分同士のシンタリングを抑制することができないおそれがある。
【0023】
また、上記第1基材粒子及び上記第2基材粒子は、積層状態で存在していることが好ましい。
この場合には、上記第1触媒層及び上記第2触媒層におけるガス拡散性を向上させることができる。
特に、上記第1触媒層は、その外側の層(第2触媒層)よりも疎状態の層である。そのため、上記第2触媒層よりも内部側におけるガス拡散性をより一層促進する構造とすることができる。
【0024】
また、上記第1触媒成分は、上記第1基材粒子間の隙間に配置されており、上記第2触媒成分は、上記第2基材粒子間の隙間に配置されていることが好ましい(請求項7)。
この場合には、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、それぞれ上記第1基材粒子及び上記第2基材粒子によって拘束された状態となり、移動が困難となる。そのため、上記第1触媒成分同士の会合及び上記第2触媒成分同士の会合が困難となり、シンタリングを抑制することができる。さらには、上記第1触媒成分と上記第2触媒成分との会合、それに伴う合金化も抑制することができる。
特に、上記第2触媒層は、その内部の層(第1触媒層)よりも密状態の層である。そのため、特に上記第2触媒成分を密に拘束することができる。これにより、上記第2触媒成分同士のシンタリングや上記第2触媒成分が上記第1触媒成分と会合して合金化することを阻害する構造とすることができる。
【0025】
また、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、それぞれ上記第1基材粒子及び上記第2基材粒子によって取り囲まれており、互いに入れ子状態で存在していることが好ましい。
この場合には、上記第1触媒成分同士、及び上記第2触媒成分同士の会合がさらに困難となり、また、上記第1触媒成分と上記第2触媒成分との会合もさらに困難となる。そのため、シンタリングや合金化をより一層抑制することができる。
【0026】
また、上記第1基材粒子及び上記第2基材粒子は、Al23、TiO2、MgO2、SiO2及びこれらの組成物から選択される1種又は2種以上の化合物であることが好ましい(請求項8)。
この場合には、上記触媒構造体は、耐熱性に優れたものとなる。そのため、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒として用いられる場合には、高温下で使用されるため、耐久性を向上させることができる。
特に、SiO2を選択した場合には、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分との密着性が向上し、高温下での長時間の使用において、触媒成分の凝集等による触媒劣化、つまりシンタリングを抑制することができる。その結果、触媒成分の活性を高い状態で持続することが可能となり、高温下における耐久性を向上させることができる。
【0027】
また、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、貴金属触媒として、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir及びOsから選ばれる1種又は2種以上の元素を含むことが好ましい(請求項9)。
この場合には、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分によって排ガスを有効に浄化することができる。
【0028】
また、上記第1触媒成分の貴金属触媒は、Ptであることが好ましい(請求項10)。
この場合には、上記第1触媒成分によって、特に排ガス中におけるCOガスを有効に浄化することができる。
【0029】
また、上記第2触媒成分の貴金属触媒は、Pd又はRhであることが好ましい(請求項11)。
上記第2触媒成分の貴金属触媒としてPdを用いた場合には、特に排ガス中におけるHCガスを有効に浄化することができる。また、Rhを用いた場合には、特に排ガス中におけるNOxガスを有効に浄化することができる。
【0030】
また、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分における貴金属触媒の平均粒径は、10nm以下であることが好ましく、1nm以下であることがより好ましい。
この場合には、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分の貴金属触媒の比表面積をより大きく確保することができ、活性点を増やすことができる。
【0031】
また、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、助触媒として、酸素吸蔵放出能を有するCeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことが好ましい(請求項12)。
この場合には、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスのような酸化雰囲気と還元雰囲気とを繰り返す変動条件下においても、その雰囲気を調整し、排ガスの浄化を効率よく行うことができる。
【0032】
また、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分における助触媒の平均粒径は、3〜50nmであることが好ましく、3〜10nmであることがより好ましい。
この場合には、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分の助触媒の比表面積をより大きく確保することができ、酸素吸蔵放出能を有効に発揮することができる。
【0033】
また、上記触媒構造体は、さらに第3触媒成分を含む第3触媒材料を凝集してなる第3触媒層を有しており、
該第3触媒層は、上記第2触媒層を包含するように該第2触媒層の周囲を覆っており、
上記第2触媒材料の平均粒径は、上記第3触媒材料の平均粒径よりも大きい構成とすることができる(請求項13)。
【0034】
この場合には、上記触媒構造体は、密度の異なる3つの層を有することになる。そして、この3層を用いて異種の触媒成分を配置することができ、触媒機能の異なる層を構成することができる。これにより、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができるという上記第1の発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【0035】
また、上記第3触媒材料は、第3基材粒子と該第3基材粒子に担持された上記第3触媒成分とからなることが好ましい(請求項14)。
この場合には、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができるという上記第1の発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【0036】
また、上記第3基材粒子は、上記第1及び第2基材粒子と同様の材料を用いることができる。
また、上記第3触媒成分における貴金属触媒及び助触媒は、上記第1及び第2触媒成分における貴金属触媒及び助触媒と同様の材料を用いることができる。
【0037】
また、上記第1〜第3触媒成分の貴金属触媒は、異なる種類の材料であることが好ましい。この場合には、異なる排ガス成分をさらに効率よく浄化することができる。
また、上記第2触媒成分の貴金属触媒がRhであり、上記第3触媒成分の貴金属触媒がPdであることが好ましい。もちろん、上記第2触媒成分の貴金属触媒がPdであり、上記第3触媒成分の貴金属触媒がRhであってもよい。
【0038】
また、上記触媒構造体は、内側の層が外側の層に比べて平均粒径の大きい触媒材料(基材粒子)で構成されていれば、上述した2層構造、3層構造に限られることなく、それ以上の層を有する構造とすることができる。この場合においても、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができるという上記第1の発明の効果と同様の効果を得ることができる。
【0039】
上記第2の発明において、上記触媒体は、例えば自動車等の内燃機関から排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒体として用いられる。
また、上記多孔質基材は、排ガス浄化用触媒を担持させる担体(触媒担体)として用いられる。
【0040】
また、上記多孔質基材は、コージェライトセラミックスよりなることが好ましい(請求項16)。
この場合には、上記多孔質基材は、熱膨張係数が低く、耐熱衝撃性に優れたものとなる。そのため、高温下での使用においても、優れた耐久性を有する。また、上記多孔質基材を排ガス浄化用触媒体の触媒担体として用いることにより、その性能をより一層発揮することができる。
【0041】
また、上記多孔質基材は、ハニカム構造体よりなることが好ましい(請求項17)。
ここで、上記ハニカム構造体とは、例えばハニカム(蜂の巣)状のセル壁と該セル壁に囲まれた多数のセルとを有する構造のものである。この場合には、上記多孔質基材の表面積を増やすことが可能であり、上記多孔質基材に流入する排ガスと担持されている上記触媒成分との接触機会を増やすことができ、排ガスを効果的に浄化することができる。
なお、上記ハニカム構造体の形状としては、種々の形状を採用することができるが、例えば円筒形状等とすることができる。また、上記セルの断面形状としては、種々の形状を採用することができるが、例えば三角形、四角形、六角形等とすることができる。
【実施例】
【0042】
本発明の実施例にかかる排ガス浄化用の触媒構造体及びそれを用いた触媒体について説明する。
本例の触媒体1は、図1〜図4に示すごとく、自動車のエンジンから排出される排ガスを浄化するための排ガス浄化用触媒体として用いられるものであり、多数の細孔を有する触媒担体としての多孔質基材2の表面200に、触媒構造体3が担持されている。
以下、これを詳説する。
【0043】
図1に示すごとく、多孔質基材2は、四角形格子状のセル壁21とセル壁21に囲まれた多数のセル22とを有する円筒形状のハニカム構造体である。本例の多孔質基材2は、コージェライトセラミックスよりなる。
また、図2(a)、(b)に示すごとく、多孔質基材2(セル壁21)の表面200には、触媒構造体3が担持されている。触媒構造体3の平均粒径(以下、単に粒径という)は2μmである。なお、図2(b)は、多孔質基材2の表面200周辺を模式的に表した図である。
【0044】
図3に示すごとく、触媒構造体3は、第1触媒材料41を凝集してなる第1触媒層4と、その外側に設けられた第2触媒材料51を凝集してなる第2触媒層5とを有している。つまり、触媒構造体3は、内部に第1触媒層4を有し、外表面に第2触媒層5を有している。そして、第2触媒層5は、第1触媒層4を包含するように第1触媒層4の周囲を覆っている。
また、第1触媒材料41の粒径は、第2触媒材料51の粒径よりも大きい。本例では、第1触媒材料41の粒径は約140nm、第2触媒材料51の粒径は約100nmである。
【0045】
同図に示すごとく、第1触媒材料41は、第1基材粒子42と第1基材粒子42に担持された第1触媒成分43とからなる。一方、第2触媒材料51は、第2基材粒子52と第2基材粒子52に担持された第2触媒成分53とからなる。
また、第1基材粒子42及び第2基材粒子52は、共にアルミナ粒子であり、第1基材粒子42の粒径は、第2基材粒子52の粒径よりも大きい。本例では、第1基材粒子42の粒径は約100nm、第2基材粒子52の粒径は約60nmである。
【0046】
また、第1触媒成分43は、貴金属触媒431と助触媒432とからなり、互いに密着した状態で存在している。本例では、助触媒432の粒子の表面に貴金属触媒431の粒子が担持された状態で存在している。
本例の第1触媒成分43の貴金属触媒431は、貴金属であるPtであり、その粒径は約1nmである。また、助触媒432は、酸素吸蔵放出能を有するCe/Zr複合酸化物であり、その粒径は20nmである。
【0047】
一方、第2触媒成分53も、貴金属触媒531と助触媒532とからなり、互いに密着した状態で存在している。そして、助触媒532の粒子の表面に貴金属触媒531の粒子が担持された状態で存在している。
本例の第2触媒成分53の貴金属触媒531は、貴金属であるRhであり、その粒径は約1nmである。また、助触媒532は、酸素吸蔵放出能を有するCe/Zr複合酸化物であり、その粒径は20nmである。
【0048】
また、本例では、図4(a)に示すごとく、第1基材粒子42は、第1触媒層4において積層された状態で存在している。また、図4(b)に示すごとく、第1触媒成分43は、第1基材粒子42間の隙間420に配置されている。つまり、第1触媒成分43は、第1基材粒子42によって取り囲まれており、第1基材粒子42と第1触媒成分43とは互いに入れ子状態で存在している。
【0049】
同様に、図4(a)に示すごとく、第2基材粒子52は、第2触媒層5において積層された状態で存在している。また、図4(b)に示すごとく、第2触媒成分53は、第2基材粒子52間の隙間520に配置されている。つまり、第2触媒成分53は、第1基材粒子52によって取り囲まれており、第2基材粒子52と第2触媒成分53とは互いに入れ子状態で存在している。
【0050】
なお、図4(a)は、第1触媒層4(第2触媒層5)における第1基材粒子42(第2基材粒子52)の積層状態を模式的に表したものである。実際には、第1基材粒子42(第2基材粒子52)は、ある程度不規則な配列によって凝集した状態で第1触媒層4(第2触媒層5)を形成している。
また、図4(b)は、第1基材粒子42(第2基材粒子52)と第1触媒成分43(第2触媒成分53)との配置関係を模式的に表したものである。
【0051】
次に、本例の触媒体1の製造方法について説明する。
まず、溶媒としての水1000ml中にCe/Zr複合酸化物を25g添加して溶解させ、Ce/Zr複合酸化物含有スラリーを得た。そして、Ce/Zr複合酸化物含有スラリーに対して、超音波発生器(ソノリアクター)により超音波(25kHz)を照射しながら30分間撹拌した。これにより、Ce/Zr複合酸化物をナノオーダーに微細化すると共に分散させた。
【0052】
次いで、Ce/Zr複合酸化物含有スラリーに貴金属原料としてのPtCl2を0.1g添加し、超音波を照射しながら撹拌した。さらに、PtCl2におけるPtへの還元助剤としてアルカノールアミンを約10ml添加し、超音波を照射しながら30分間撹拌した。これにより、PtCl2を還元し、貴金属触媒としてのPt粒子が助触媒としてのCe/Zr複合酸化物粒子上に密着した触媒成分を含む混合溶液を得た。
【0053】
次いで、混合溶液に対して遠心分離機による洗浄を行った。これにより、触媒成分の前駆体としての固形物を得た。その後、硝酸及び水を加え、溶液のpHを約1〜2に調整し、超音波を照射することにより、触媒成分をナノオーダーに微細化すると共に分散させた。これにより、Pt成分分散溶液を得た。
また、Ce/Zr複合酸化物含有スラリーに貴金属原料としてのRhCl3溶液を0.157ml添加し、上記と同様の手順でRh成分分散溶液を得た。
【0054】
次いで、粒子径約100nmのアルミナ粒子をPt成分分散溶液に混合し、スプレードライ法にてPt成分がアルミナ粒子上に担持された粒子径約140μmのPt担持触媒材料を得た。その後、これを400℃にて仮焼した。
次いで、粒子径約60nmのアルミナ粒子とRh成分分散溶液とを純水中に分散させたRh含有アルミナスラリーを作製した。このスラリーに上記Pt担持触媒材料を投入し、遠心分離を行った。遠心分離後に残った固形物を400℃にて仮焼することにより、本例の触媒構造体3を得た。
【0055】
次いで、触媒構造体3を純水中に分散させ、その中に多孔質基材2を浸漬させた。その後、多孔質基材2を熱風発生器により150℃で乾燥させ、500℃で2時間焼成した。これにより、多孔質基材2に触媒構造体3を担持させた。
以上により、本例の触媒体1を得た。
【0056】
次に、本例の触媒構造体3及びそれを用いた触媒体1における作用効果について説明する。
本例の触媒構造体3は、第1触媒成分43を含む第1触媒材料41を凝集してなる第1触媒層4と、第2触媒成分53を含む第2触媒材料51を凝集してなる第2触媒層5とを有しており、第2触媒層5は、第1触媒層4を包含するように第1触媒層4の周囲を覆っている。つまり、触媒構造体3の内部に第1触媒層4が形成されており、外表面に第2触媒層5が形成されている。
【0057】
そのため、触媒構造体3は、内部と外表面とにおいて、それぞれ機能の異なる異種の触媒成分(第1触媒成分43及び第2触媒成分53)を備え、異なる触媒機能を持たせることができる。これにより、触媒構造体3の内部と外表面とにおいて、それぞれ異なる排ガス成分を浄化することが可能となる。また、触媒構造体1の内部に第1触媒成分43、外表面に第2触媒成分53を配置することにより、第1触媒成分43と第2触媒成分53との会合、それに伴う合金化を抑制し、それぞれの触媒機能を維持することができると共に、触媒成分の使用量の増加を抑えることができる。
【0058】
また、第1触媒材料41の粒径は、第2触媒材料51の粒径よりも大きい。そのため、触媒構造体1の内部にある第1触媒材料41(主に第1基材粒子42)よりなる第1触媒層4は、外表面よりも疎な状態、すなわち密度が低く、空隙の大きい層となる。そのため、触媒構造体3の内部におけるガス拡散性を向上させることができる。
【0059】
一方、触媒構造体3の外表面にある第2触媒材料51(主に第2基材粒子52)よりなる第2触媒層5は、内部よりも密な状態、すなわち密度が高く、空隙の小さい層となる。そのため、第2触媒層5に含まれる第2触媒成分53の拘束力を高い状態にすることができる。これにより、第2触媒成分53の熱による移動、さらには第2触媒成分53同士のシンタリングを抑制することができる。また、このような層を熱に曝され易い触媒構造体3の外表面に有していることにより、上記の効果をより一層有効に発揮することができる。
【0060】
さらに、例えば、排ガス中における分子サイズが小さく、触媒構造体3の内部まで拡散可能なCOガスを、第1触媒層4において第1触媒成分43により浄化し、分子サイズが大きく、触媒構造体3の内部まで拡散困難なHCガスやNOxガスを、第2触媒層5において第2触媒成分53により浄化する構造とすることができる。それ故、触媒構造体3は、内部と外表面とにおいて、異なる排ガス成分を効率よく浄化することが可能となる。
【0061】
また、本例では、第1基材粒子42及び第2基材粒子52は、積層状態で存在している。そのため、第1触媒層4及び第2触媒層5におけるガス拡散性を向上させることができる。特に、触媒構造体3の内部にある第1触媒層4は、外表面よりも疎状態の層である。そのため、触媒構造体3の内部におけるガス拡散性をより一層促進する構造とすることができる。
【0062】
また、第1触媒成分43は、第1基材粒子42間の隙間420に配置されており、第2触媒成分53は、第2基材粒子52間の隙間520に配置されている。そのため、第1触媒成分43及び第2触媒成分53は、それぞれ第1基材粒子42及び第2基材粒子52によって拘束された状態となり、移動が困難となる。そのため、第1触媒成分43同士の会合、及び第2触媒成分53同士の会合が困難となり、シンタリングを抑制することができる。さらには、第1触媒成分43と第2触媒成分53との会合、それに伴う合金化も抑制することができる。
特に、触媒構造体3の外表面にある第2触媒層5は、内部よりも密状態の層である。そのため、熱に曝され易い触媒構造体3の外表面において、特に第2触媒成分53を密に拘束することができる。これにより、第2触媒成分53同士のシンタリングや第2触媒成分53が第1触媒成分43と会合することを阻害する構造とすることができる。
【0063】
また、第1触媒成分43及び第2触媒成分53は、それぞれ第1基材粒子42及び第2基材粒子53によって取り囲まれており、互いに入れ子状態で存在している。そのため、第1触媒成分43同士、及び第2触媒成分53同士の会合がさらに困難となり、また、第1触媒成分43と第2触媒成分53との会合もさらに困難となる。そのため、シンタリングや合金化をより一層抑制することができる。
【0064】
このように、本例によれば、触媒成分のシンタリング・合金化を抑制しながら異種の触媒成分を備えることができ、排ガス成分を効率よく浄化することができる排ガス浄化用の触媒構造体及びそれを用いた触媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】実施例における、触媒体の構造を示す説明図。
【図2】実施例における、(a)触媒体の径方向断面を示す説明図、(b)図2(a)のA部を示す説明図。
【図3】実施例における、触媒構造体の構造を示す説明図。
【図4】実施例における、(a)第1及び第2基材粒子の配列状態を示す説明図、(b)第1及び第2触媒成分の配置状態を示す説明図。
【符号の説明】
【0066】
1 触媒体
3 触媒構造体
4 第1触媒層
41 第1触媒材料
43 第1触媒成分
5 第2触媒層
51 第2触媒材料
53 第2触媒成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排ガス浄化用の触媒構造体であって、
該触媒構造体は、第1触媒成分を含む第1触媒材料を凝集してなる第1触媒層と、第2触媒成分を含む第2触媒材料を凝集してなる第2触媒層とを有しており、
該第2触媒層は、上記第1触媒層を包含するように該第1触媒層の周囲を覆っており、
上記第1触媒材料の平均粒径は、上記第2触媒材料の平均粒径よりも大きいことを特徴とする触媒構造体。
【請求項2】
請求項1において、上記第1触媒材料の平均粒径は、上記第2触媒材料の平均粒径よりも大きく、その平均粒径の10倍以下であることを特徴とする触媒構造体。
【請求項3】
請求項2において、上記第2触媒材料の平均粒径は、8〜70nmであることを特徴とする触媒構造体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、上記第1触媒材料は、第1基材粒子と該第1基材粒子に担持された上記第1触媒成分とからなり、上記第2触媒材料は、第2基材粒子と該第2基材粒子に担持された上記第2触媒成分とからなり、
上記第1基材粒子の平均粒径は、上記第2基材粒子の平均粒径よりも大きいことを特徴とする触媒構造体。
【請求項5】
請求項4において、上記第1基材粒子の平均粒径は、上記第2基材粒子の平均粒径よりも大きく、その平均粒径の10倍以下であることを特徴とする触媒構造体。
【請求項6】
請求項5において、上記第2基材粒子の平均粒径は、5〜50nmであることを特徴とする触媒構造体。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1項において、上記第1触媒成分は、上記第1基材粒子間の隙間に配置されており、上記第2触媒成分は、上記第2基材粒子間の隙間に配置されていることを特徴とする触媒構造体。
【請求項8】
請求項4〜7のいずれか1項において、上記第1基材粒子及び上記第2基材粒子は、Al23、TiO2、MgO2、SiO2及びこれらの組成物から選択される1種又は2種以上の化合物であることを特徴とする触媒構造体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、貴金属触媒として、Pt、Pd、Rh、Ru、Ir及びOsから選ばれる1種又は2種以上の元素を含むことを特徴とする触媒構造体。
【請求項10】
請求項9において、上記第1触媒成分の貴金属触媒は、Ptであることを特徴とする触媒構造体。
【請求項11】
請求項9又は10において、上記第2触媒成分の貴金属触媒は、Pd又はRhであることを特徴とする触媒構造体。
【請求項12】
請求項9〜11のいずれか1項において、上記第1触媒成分及び上記第2触媒成分は、助触媒として、酸素吸蔵放出能を有するCeO2、ZrO2、Al23、TiO2、SiO2、MgO及びこれらの組成物から選ばれる1種又は2種以上の化合物を含むことを特徴とする触媒構造体。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項において、上記触媒構造体は、さらに第3触媒成分を含む第3触媒材料を凝集してなる第3触媒層を有しており、
該第3触媒層は、上記第2触媒層を包含するように該第2触媒層の周囲を覆っており、
上記第2触媒材料の平均粒径は、上記第3触媒材料の平均粒径よりも大きいことを特徴とする触媒構造体。
【請求項14】
請求項13において、上記第3触媒材料は、第3基材粒子と該第3基材粒子に担持された上記第3触媒成分とからなることを特徴とする触媒構造体。
【請求項15】
多数の細孔を有する多孔質基材の表面に、請求項1〜14のいずれか1項に記載の触媒構造体を担持してなることを特徴とする触媒体。
【請求項16】
請求項15において、上記多孔質基材は、コージェライトセラミックスよりなることを特徴とする触媒体。
【請求項17】
請求項15又は16において、上記多孔質基材は、ハニカム構造体よりなることを特徴とする触媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−45545(P2009−45545A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213345(P2007−213345)
【出願日】平成19年8月20日(2007.8.20)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】