説明

触媒組成物

【課題】燃料電池のカソード(酸素側電極)における酸素還元反応を活性化させ、より一層発電性能を向上させることができる触媒組成物を提供すること。
【解決手段】触媒組成物に、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物と、ポリピロールに由来する窒素および/またはポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属、および、遷移金属の単体を含有する遷移金属とを含ませる。この触媒組成物では、遷移金属の一部が、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物に含まれるポリピロールに由来する窒素および/またはポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、遷移金属の単体として含有される。そのため、この触媒組成物によれば、燃料電池の酸素側電極における酸素還元反応を活性化させることができ、その結果、燃料電池の発電性能を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在まで、燃料電池として、アルカリ型(AFC)、固体高分子型(PEFC)、リン酸型(PAFC)、溶融炭酸塩型(MCFC)、固体電解質型(SOFC)など、各種燃料電池が知られている。これらの燃料電池は、例えば、自動車用途など、各種用途での使用が検討されている。
【0003】
例えば、固体高分子型燃料電池は、燃料が供給される燃料側電極(アノード)と、酸素が供給される酸素側電極(カソード)とを備えており、これらの電極は、固体高分子膜からなる電解質層を挟んで対向配置されている。そして、この燃料電池では、アノードに水素ガスが供給されるとともに、カソードに空気が供給されることによって、アノード−カソード間に起電力が発生して、発電が行なわれる。
【0004】
このような燃料電池では、通常、発電の効率化を図るため、各電極に触媒が用いられており、より具体的には、固体高分子型燃料電池として、例えば、燃料側電極(アノード)と、触媒として、コバルトが担持されたポリピロールとカーボンとからなる複合体(カーボンコンポジット)を含む酸素側電極(カソード)と、アニオン成分を移動させることができる電解質とを備える燃料電池が、提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
このような燃料電池によれば、酸素側電極(カソード)にコバルトが担持されたポリピロールカーボンコンポジットを含有させることにより、酸素側電極(カソード)における酸素還元反応を活性化させ、発電性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開パンフレットWO2008/117485
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかるに、近年では、特許文献1に記載される燃料電池よりもさらに発電性能に優れる燃料電池が求められており、そのため、より優れた燃料電池を実現できる触媒が、要求されている。
【0008】
本発明の目的は、燃料電池のカソード(酸素側電極)における酸素還元反応を活性化させ、より一層発電性能を向上させることができる触媒組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明の触媒組成物は、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物と、遷移金属とを含み、前記遷移金属が、前記ポリピロールに由来する窒素、および/または、前記ポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属と、遷移金属の単体とを含有することを特徴としている。
【0010】
また、本発明の触媒組成物では、カーボンに担持されている前記ポリピロールおよび/または前記ポリピリジンに、前記遷移金属を配合し、中性雰囲気下または還元雰囲気下で焼成することにより得られることが好適である。
【0011】
また、本発明の触媒組成物では、前記遷移金属が、コバルトであることが好適である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の触媒組成物では、遷移金属の一部が、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物に含まれるポリピロールに由来する窒素および/またはポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、遷移金属の単体として含有される。
【0013】
そのため、本発明の触媒組成物によれば、燃料電池の酸素側電極における酸素還元反応を活性化させることができ、その結果、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の触媒組成物が採用される燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【図2】実施例2〜5における窒素原子についてのXPSスペクトルである。
【図3】実施例2〜5におけるコバルト原子についてのXPSスペクトルである。
【図4】実施例2の触媒組成物のFE−SEM画像である。
【図5】実施例3の触媒組成物のFE−SEM画像である。
【図6】実施例4の触媒組成物のFE−SEM画像である。
【図7】実施例5の触媒組成物のFE−SEM画像である。
【図8】比較例2の触媒組成物のFE−SEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の触媒組成物は、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物と、遷移金属とを含んでいる。
【0016】
ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物は、詳しくは後述するが、例えば、ピロールおよび/またはピリジンを重合させ、ポリピロールおよび/またポリピロールを製造した後、そのポリピロールおよび/またポリピロールを焼成することにより、得ることができる。
【0017】
遷移金属としては、例えば、スカンジウム(Sc)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、イットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、テクネチウム(Tc)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、ランタン(La)、ハフニウム(Hf)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、レニウム(Re)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)などの遷移金属が挙げられる。
【0018】
これら遷移金属は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0019】
遷移金属として、好ましくは、コバルトが挙げられる。
【0020】
そして、このような遷移金属は、触媒組成物において、上記のポリピロールに由来する窒素、および/または、上記のポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属と、遷移金属の単体とを含んでいる。
【0021】
すなわち、遷移金属は、その一部が、上記のポリピロールに由来する窒素、および/または、上記のポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、単体として存在している。
【0022】
遷移金属の一部が、ポリピロールおよび/またはポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、遷移金属の単体として含有されていれば、燃料電池の酸素側電極における酸素還元反応を活性化させることができ、その結果、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0023】
また、このような触媒組成物は、さらに、カーボンを含有することができる。
【0024】
より具体的には、例えば、ポリピロールおよび/またはポリピリジンと、カーボンとからなる複合体(以下、この複合体を「カーボンコンポジット」という。)を形成することができる。
【0025】
そのような触媒組成物としては、例えば、カーボンコンポジットの炭化物に、遷移金属が担持され、その一部が、上記のポリピロールに由来する窒素、および/または、上記のポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、単体として含有される触媒組成物などが挙げられる。
【0026】
以下において、このような触媒組成物を製造する方法について、詳述する。
【0027】
この方法では、まず、カーボンに、ポリピロールおよび/またはポリピリジンを担持させ、カーボンコンポジットを得る。
【0028】
カーボンとしては、例えば、カーボンブラックなど、公知のカーボンが挙げられる。
【0029】
カーボンに、ポリピロールおよび/またはポリピリジンを担持させるには、例えば、まず、カーボン100質量部に対して100〜1000質量部の溶媒を加え、溶媒を攪拌することによって、溶媒中にカーボンが分散したカーボン分散液を調製する。この際、必要により酢酸、シュウ酸などの有機酸を適宜添加してもよく、その添加量は、カーボン100質量部に対して、例えば、1〜50質量部である。
【0030】
溶媒としては、例えば、水、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの低級アルコール類など、公知の溶媒が挙げられる。
【0031】
また、攪拌温度は、例えば、10〜30℃、攪拌時間は、例えば、10〜60分間である。
【0032】
次いで、ピロール(単量体)および/またはピリジン(単量体)をカーボン分散液に加え、攪拌する。
【0033】
ピロールおよび/またはピリジンの配合量は、カーボン100質量部に対して、例えばそれらの総量として、1〜50質量部、好ましくは、10〜20質量部である。
【0034】
また、ピロールおよびピリジンが併用される場合には、それらの含有割合は、ピロールおよびピリジンの総量100質量部に対して、ピロールが、例えば、20〜80質量部、好ましくは、40〜60質量部であり、ピリジンが、例えば、20〜80質量部、好ましくは、40〜60質量部である。
【0035】
また、このときの攪拌温度は、例えば、10〜30℃、攪拌時間は、例えば、1〜10分間である。
【0036】
続いて、カーボン分散液中のピロールおよび/またはピリジンを重合させる。ピロールおよび/またはピリジンを重合させるには、例えば、化学酸化重合、電解酸化重合などの酸化重合が用いられる。好ましくは、化学酸化重合が用いられる。
【0037】
化学酸化重合では、ピロールおよび/またはピリジンを含有したカーボン分散液に、酸化重合用触媒を加え、攪拌することによってピロールおよび/またはピリジンを重合させる。酸化重合用触媒としては、例えば、過酸化水素、過酸化ベンゾイルなどの過酸化物、例えば、過マンガン酸カリウム、過マンガン酸マグネシウムなどの過マンガン酸など、公知の酸化重合用触媒が挙げられ、好ましくは、過酸化水素が挙げられる。また、ピロールを重合させるときの攪拌温度(重合温度)は、例えば、10〜30℃、攪拌時間は、例えば、10〜90分間である。
【0038】
その後、カーボンとポリピロールおよび/またはポリピリジンとが分散した分散液を濾過して洗浄し、例えば、50〜100℃で真空乾燥する。これにより、カーボンコンポジットの乾燥粉末が得られる。
【0039】
次いで、この方法では、カーボンコンポジット(カーボンに担持されているポリピロールおよび/またはポリピリジン)に、遷移金属を配合し、担持させる。
【0040】
より具体的には、カーボンコンポジット100質量部に対して100〜3000質量部の溶媒を加え、攪拌する。これによって、溶媒中にカーボンコンポジットが分散したカーボンコンポジット分散液を調製する。なお、溶媒としては、例えば、上述した溶媒が挙げられる。
【0041】
一方、カーボンコンポジット100質量部に対して、1〜150質量部の遷移金属を、100〜1000質量部の溶媒に溶解させ、遷移金属含有溶液を調製する。そして、この遷移金属含有溶液を、カーボンコンポジット分散液に加え、攪拌することによって、遷移金属含有溶液とカーボンコンポジット分散液との混合液を調製する。このときの攪拌温度は、例えば、50〜100℃、攪拌時間は、例えば、10〜60分間である。
【0042】
続いて、遷移金属含有溶液とカーボンコンポジット分散液との混合液のpHが10〜12の範囲になるまで、還元剤を含有する還元剤含有溶液を混合液に加え、その後、混合液を、例えば、60〜100℃で、10〜60分間放置する。これによって、遷移金属をカーボンコンポジットに担持させる。
【0043】
なお、還元剤含有溶液に含まれる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジンなど、公知の還元剤が挙げられ、好ましくは、水素化ホウ素ナトリウムが挙げられる。例えば、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として用いる場合には、水素化ホウ素ナトリウムを水酸化ナトリウムとともに水に溶解させた水溶液として用い、かつ、窒素雰囲気下で混合液に加える。これによって、水素化ホウ素ナトリウムと酸素との接触を防止することができるので、水素化ホウ素ナトリウムが酸素と接触することによって分解されることを防止することができる。
【0044】
その後、放置した混合液を濾過して洗浄し、例えば、50〜100℃で真空乾燥する。これにより、遷移金属が担持されたカーボンコンポジットの乾燥粉末が得られる。
【0045】
遷移金属の担持濃度(遷移金属およびカーボンコンポジットの総量に対する、遷移金属の担持割合)は、例えば、0.1〜60質量%、好ましくは、1〜40質量%である。
【0046】
次いで、この方法では、遷移金属が担持されたカーボンコンポジットの乾燥粉末を、中性雰囲気(例えば、不活性ガス雰囲気など)下、または、還元雰囲気(例えば、水素ガス含有雰囲気)下において焼成する。
【0047】
焼成条件が酸化雰囲気(例えば、大気雰囲気など)である場合には、後述する遷移金属の単体を得ることができない場合がある。
【0048】
焼成温度としては、ポリピロールおよび/またはポリピリジンを炭化できる条件であればよく、例えば、加熱温度が、ポリピロールが含まれる場合には、その分解温度(400℃)以上、また、ポリピリジンが含まれる場合には、その分解温度(400℃)以上である。
【0049】
より具体的には、加熱温度が、例えば、400〜1000℃、好ましくは、600〜900℃であり、加熱時間が、例えば、0.5〜4時間、好ましくは、1〜2時間である。
【0050】
これにより、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物と、遷移金属とを含み、かつ、遷移金属が、上記のポリピロールおよび/またはポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属と、遷移金属の単体とを含んでいる触媒組成物を得ることができる。
【0051】
なお、触媒組成物において、カーボンコンポジットが、例えば、ポリピロールを含有する一方、ポリピリジンを含有しない場合にも、上記した焼成により、ポリピリジンの炭化物を形成することができる。
【0052】
また、触媒組成物には、その焼成条件などにより、例えば、グラファイト構造を含有することができる。
【0053】
そして、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物において、ポリピロールに由来する窒素は、焼成前のポリピロールの窒素に相当し、例えば、アザシクロペンタン(ピロリジン)およびその部分不飽和骨格などに含まれる窒素である。また、ポリピリジンに由来する窒素は、焼成前のポリピロールおよび/またはポリピリジンの窒素に相当し、例えば、アザシクロヘキサン(ピペリジン)およびその部分不飽和骨格などに含まれる窒素である。
【0054】
触媒組成物におけるポリピロールとポリピリジンとの含有割合は、特に制限されず、製造条件などにより適宜設定される。
【0055】
また、触媒組成物中の遷移金属において、ポリピロールおよび/またはポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属と、遷移金属の単体との含有割合は、特に制限されず、製造条件などにより適宜設定される。
【0056】
また、触媒組成物において、遷移金属の単体は、焼成条件(例えば、酸化雰囲気下において焼成するなど)により、例えば、その表面が酸化遷移金属の皮膜で被覆される場合がある。このような場合において、表面が皮膜により被覆される遷移金属単体、および、表面が皮膜により被覆されない遷移金属単体の含有割合は、特に制限されず、製造条件などにより適宜設定される。
【0057】
そして、このような触媒組成物では、遷移金属の一部が、ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物に含まれるポリピロールに由来する窒素および/またはポリピリジンに由来する窒素に配位するとともに、一部が、遷移金属の単体として含有される。
【0058】
そのため、このような触媒組成物によれば、燃料電池の酸素側電極における酸素還元反応を活性化させることができ、その結果、燃料電池の発電性能を向上させることができる。
【0059】
図1は、本発明の触媒組成物が採用される燃料電池の一実施形態を示す概略構成図である。
【0060】
燃料電池1は、固体高分子型燃料電池であって、複数の燃料電池セルSを備えており、これらの燃料電池セルSが積層されたスタック構造として形成されている。なお、図1においては、図解しやすいように1つの燃料電池セルSのみを示している。
【0061】
燃料電池セルSは、燃料側電極2(アノード)と、酸素側電極3(カソード)と、電解質層4とを備えている。
【0062】
燃料側電極2は、特に制限されないが、触媒(燃料側触媒)を含んでいる。
【0063】
より具体的には、燃料側電極2は、例えば、触媒を担持した触媒担体により形成されている。
【0064】
触媒としては、特に制限されず、例えば、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt))、鉄族元素(鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni))などの周期表(IUPAC Periodic Table of the Elements(version date 22 June 2007)に従う。以下同じ。)第8〜10(VIII)族元素や、例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)などの周期表第11(IB)族元素などが挙げられる。
【0065】
これら触媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0066】
触媒として、好ましくは、周期表第8〜10(VIII)族元素、より好ましくは、鉄族元素、さらに好ましくは、ニッケルが挙げられる。
【0067】
触媒の担持濃度(触媒と触媒担体との総量に対する触媒の含有割合)は、例えば、1〜99質量%、好ましくは、2〜95質量%である。
【0068】
触媒担体としては、特に制限されず、例えば、アニオン交換基を有するアニオン交換樹脂などの樹脂、カーボンなどの多孔質物質などが挙げられる。
【0069】
これら触媒担体は、単独使用または2種類以上併用することができる。
【0070】
触媒担体として、好ましくは、樹脂、より好ましくは、アニオン交換基を有するアニオン交換樹脂が挙げられる。
【0071】
そして、触媒を担持した触媒担体を用いて燃料側電極2を形成するには、例えば、公知の方法により、電解質層4とともに膜−電極接合体を形成する。
【0072】
より具体的には、まず、燃料側電極2の形成に用いられる電極インクを調製する。電極インクの調製には、まず、上記した触媒担体100質量部に対して、触媒1〜60質量部を加え混合する。混合方法としては、例えば、乾式混合など、公知の混合方法が挙げられる。
【0073】
次いで、得られた混合物100質量部を、100〜10000質量部の溶媒に加え、攪拌することによって、触媒を担持した触媒担体の電極インクを調製する。
【0074】
溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノールなどの低級アルコール類、例えば、テトラヒドロフランなどのエーテル類、水など、公知の溶媒が挙げられる。これら溶媒は、単独使用または2種類以上併用することができる。.
また、このときの攪拌温度は、例えば、10〜30℃、攪拌時間は、例えば、1〜60分間である。
【0075】
そして、得られた電極インクを、電解質層4の一方の表面を覆うように、塗布する。
【0076】
電極インクの塗布方法としては、例えば、スプレー法、ダイコーター法、インクジェット法など公知の塗布方法が挙げられ、好ましくは、スプレー法が挙げられる。
【0077】
その後、塗布した電極インクを、例えば、10〜40℃で乾燥する。
【0078】
これによって、電解質層4の一方の表面に定着した燃料側電極2を得ることができる。
【0079】
なお、触媒の使用量は、例えば、0.01〜10mg/cmである。また、触媒を担持した触媒担体の使用量は、例えば、0.01〜10mg/cmである。また、電解質層4の一方の表面に定着した燃料側電極2の厚みは、例えば、0.1〜100μm、好ましくは、1〜10μmである。
【0080】
酸素側電極3は、上記の触媒組成物を含んでいる。
【0081】
そして、触媒組成物を含む酸素側電極3を形成するには、例えば、上述した燃料側電極2と同様の方法により電極インクを調製し、その電極インクを、電解質層4の他方(燃料側電極2が定着された一方に対する他方)の表面に塗布および乾燥させることにより、電解質層4とともに膜−電極接合体を形成する。
【0082】
これによって、電解質層4における、燃料側電極2が定着された一方の表面とは異なる他方の表面に定着した酸素側電極3を得ることができる。すなわち、酸素側電極3が、電解質層4の他方の表面に定着されることによって、燃料側電極2および酸素側電極3は、電解質層4を挟んで対向配置され、これにより、膜−電極接合体が形成される。
【0083】
また、酸素側電極3において、触媒組成物中の遷移金属の使用量は、例えば、0.09〜18mg/cm、好ましくは、0.18〜9mg/cmである。
【0084】
また、電解質層4の他方の表面に定着した酸素側電極3の厚みは、例えば、0.1〜100μmであり、好ましくは、1〜100μmである。
【0085】
電解質層4は、アニオン成分を移動させることができる層であり、例えば、アニオン交換膜を用いて形成されている。アニオン交換膜としては、酸素側電極3で生成されるアニオン成分である水酸化物イオン(OH)を、酸素側電極3から燃料側電極2へ移動させることができる媒体であれば、特に限定されず、例えば、4級アンモニウム基、ピリジニウム基などのアニオン交換基を有する固体高分子膜(アニオン交換樹脂)が挙げられる。
【0086】
燃料電池セルSは、さらに、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを備えている。燃料供給部材5は、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、燃料側電極2における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この燃料供給部材5には、燃料側電極2の全体に燃料を接触させるための燃料側流路7が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この燃料側流路7は、その上流側端部および下流側端部に、燃料供給部材5を貫通する供給口8および排出口9がそれぞれ連続して形成されている。
【0087】
また、酸素供給部材6も、燃料供給部材5と同様に、ガス不透過性の導電性部材からなり、その一方の面が、酸素側電極3における電解質層4と接触している表面とは反対側の表面に、対向接触されている。そして、この酸素供給部材6にも、酸素側電極3の全体に酸素(空気)を接触させるための酸素側流路10が、一方の面から凹む葛折状の溝として形成されている。なお、この酸素側流路10にも、その上流側端部および下流側端部に、酸素供給部材6を貫通する供給口11および排出口12がそれぞれ連続して形成されている。
【0088】
そして、この燃料電池1は、上述したように、燃料電池セルSが、複数積層されるスタック構造として形成されている。そのため、燃料供給部材5および酸素供給部材6は、図示されていないが、両面に燃料側流路7および酸素側流路10が形成されるセパレータとして構成される。
【0089】
なお、図1には表われていないが、燃料電池1には、導電性材料によって形成される集電板が備えられており、燃料電池1で発生した起電力は、集電板に備えられた端子から外部に取り出される。
【0090】
また、試験的(モデル的)には、燃料供給部材5と酸素供給部材6とを、外部回路13によって接続し、その外部回路13に電圧計14を介在させることにより、燃料電池1で発生する電圧を計測することもできる。
【0091】
次に、燃料電池1の発電について説明する。
【0092】
燃料電池1では、酸素側流路10に空気が供給されるとともに、燃料側流路7に燃料が供給されることによって、発電が行なわれる。
【0093】
燃料側流路7に供給される燃料としては、少なくとも水素を含む化合物、例えば、水素(H)、例えば、メタン(CH)、エタン(C)、プロパン(C)などの炭化水素類、メタノール(CHOH)、エタノール(COH)などのアルコール類、ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、炭酸ヒドラジン((NHNHCO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、モノメチルヒドラジン(CHNHNH)、ジメチルヒドラジン((CHNNH、CHNHNHCH)、カルボンヒドラジド((NHNHCO)などのヒドラジン類、例えば、尿素(NHCONH)、例えば、アンモニア(NH)、例えば、イミダゾール、1,3,5−トリアジン、3−アミノ−1,2,4−トリアゾールなどの複素環類、例えば、ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)などのヒドロキシルアミン類などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上併用してもよい。
【0094】
上述した燃料化合物のうち、好ましくは、炭素を含まない化合物、すなわち、ヒドラジン(NHNH)、水加ヒドラジン(NHNH・HO)、硫酸ヒドラジン(NHNH・HSO)、アンモニア(NH)、ヒドロキシルアミン(NHOH)、硫酸ヒドロキシルアミン(NHOH・HSO)が挙げられる。燃料が、炭素を含まない化合物であれば、COによる触媒の被毒がないので耐久性の向上を図ることができ、実質的なゼロエミッションを実現することができる。
【0095】
また、燃料は、上述した燃料化合物をそのまま供給してもよいし、例えば、水および/またはアルコール(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール)などの溶液として供給してもよい。この場合、溶液中の燃料化合物の濃度は、燃料化合物の種類によっても異なるが、例えば、1〜90質量%、好ましくは、1〜30質量%である。さらに、燃料は、上述した燃料化合物をガス(例えば、蒸気)として供給してもよい。
【0096】
そして、燃料電池1における発電を、より具体的に説明すると、燃料が供給された燃料側電極2では、燃料から水素(H)が生成し、この水素(H)の酸化反応によって、水素(H)から電子(e)が解放され、プロトン(H)が生成する。水素(H)から解放された電子(e)は、外部回路13を経由して酸素側電極3に到達する。つまり、この外部回路13を通過する電子(e)が、電流となる。一方、酸素側電極3では、電子(e)と、外部からの供給もしくは燃料電池1における反応で生成した水(HO)と、酸素側流路10を流れる空気中の酸素(O)とが反応して、水酸化物イオン(OH)が生成する(下記反応式(2)参照)。そして、生成した水酸化物イオン(OH)は、電解質層4を通過して燃料側電極2に到達する。水酸化物イオン(OH)が燃料側電極2に到達すると、燃料側電極2では、水酸化物イオン(OH)と、燃料中の水素(H)とが反応して、電子(e)と水(HO)が生成する(下記反応式(1)参照)。生成した電子(e)は、燃料供給部材5から外部回路13を介して酸素供給部材6に移動して、酸素側電極3へ供給される。このような燃料側電極2および酸素側電極3における電気化学的反応が連続的に行なわれることによって、燃料電池1内に閉回路が形成されて起電力が生じ、発電が行なわれる。
(1) 2H+4OH→4HO+4e (燃料側電極2における反応)
(2) O+2HO+4e→4OH (酸素側電極3における反応)
(3) 2H+O→2HO (燃料電池1全体としての反応)
なお、この燃料電池1の運転条件は、特に限定されないが、例えば、燃料側電極2側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、酸素側電極3側の加圧が100kPa以下、好ましくは、50kPa以下であり、燃料電池セルSの温度が30〜100℃、好ましくは、60〜90℃として設定される。
【0097】
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明は、他の形態で実施することが可能である。
【0098】
例えば、上述の実施形態では、固体高分子型燃料電池を例示して本発明を説明したが、本発明は、例えば、電解質層4としてKOH水溶液やNaOH水溶液などを用いるアルカリ型、例えば、溶融炭酸塩型、固体電解質型など、各種燃料電池にも適用することができる。
【0099】
そして、本発明の燃料電池の用途としては、例えば、自動車、船舶、航空機などにおける駆動用モータの電源や、携帯電話機などの通信端末における電源などが挙げられる。
【実施例】
【0100】
次に、本発明を実施例および比較例に基づいて説明するが、本発明は下記の実施例によって限定されるものではない。
(実施例1)
1)ポリピロールカーボンコンポジット(PPy−C)の作製
純水75mlに、カーボン(E−TEK社製 Vulcan XC−72、比表面積250m/g)10gと酢酸(酢酸濃度100%)2.5mlとを加え、室温(約25℃)で20分間攪拌して、カーボンが分散したカーボン分散液を調製した。次いで、このカーボン分散液にピロール(Aldrich社製)2gを加え、室温で5分間攪拌した。さらに、このカーボン分散液に濃度10%の過酸化水素10mlを加え、室温で1時間攪拌することにより、ピロールを酸化重合させた。その後、このカーボン分散液を濾過して温水洗浄し、90℃で真空乾燥した。これにより、カーボン上にピロールが重合したPPy−C乾燥粉末を得た。
【0101】
2)コバルト担持PPy−Cの製造
1)で得られたPPy−C乾燥粉末2gを、純水44mlに加え、80℃まで加熱しながら30分間攪拌して、PPy−Cが分散したPPy−C分散液を得た。
【0102】
次いで、硝酸コバルト(II)六水和物1.1gを、11mlの純水に溶解させ、コバルト含有水溶液を調製した。そして、このコバルト含有水溶液を、PPy−C分散液に加え、80℃で30分間攪拌することによって、コバルト−PPy−C混合液を得た。
【0103】
続いて、水素化ホウ素ナトリウム5.23gと水酸化ナトリウム0.37gとを、500mlの純水に溶解させ、アルカリ水溶液を調製した。次いで、コバルト−PPy−C混合液のpHが11.1になるまで、アルカリ水溶液を徐々に加えた後、このコバルト−PPy−C混合液80℃で30分間放置した。なお、2)におけるこの操作(アルカリ水溶液を加える操作)に至るまでの操作は全て、窒素雰囲気で行なった。その後、コバルト−PPy−C混合液を濾過して温水洗浄し、90℃で真空乾燥した。これにより、PPy−Cにコバルトが担持されたコバルト担持PPy−C(コバルトの担持濃度:10質量%)の乾燥粉末を得た。
【0104】
3)コバルト担持PPy−Cの焼成
2)で得られたコバルト担持PPy−Cの乾燥粉末2gを、窒素雰囲気中で、700℃において4時間焼成した。これにより、触媒組成物を得た。
(実施例2)
硝酸コバルト(II)六水和物1.1gに代えて、硝酸コバルト(II)六水和物0.748gを用いた以外は、実施例1と同様にして、コバルト担持PPy−C(コバルトの担持濃度:6.8質量%)の乾燥粉末を得た。
【0105】
その後、コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末2gを、700℃において4時間焼成した。これにより、触媒組成物を得た。
(実施例3)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、700℃において2時間焼成した以外は、実施例2と同様にして、触媒組成物を得た。
(実施例4)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、600℃において2時間焼成した以外は、実施例2と同様にして、触媒組成物を得た。
(実施例5)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、800℃において2時間焼成した以外は、実施例2と同様にして、触媒組成物を得た。
(実施例6)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、還元雰囲気(10体積%H含有N雰囲気)で焼成した以外は、実施例3と同様にして、触媒組成物を得た。
(比較例1)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、焼成しなかった以外は、実施例1と同様にして、触媒組成物を得た。
(比較例2)
コバルト担持PPy−Cの乾燥粉末を、焼成しなかった以外は、実施例2と同様にして、触媒組成物を得た。
<触媒組成物のXPSによる同定>
実施例2〜5で得られた触媒組成物の構造を、X線光電子分光法(XPS)により解析した。具体的には、触媒組成物に含まれる窒素原子、コバルト原子および酸素原子について、それぞれXPSスペクトルを求めた。窒素原子についてのXPSスペクトルを図2に、コバルト原子についてのXPSスペクトルを図3に、それぞれ示す。
【0106】
図2より、触媒組成物には、ポリピロールに由来する窒素、および、ポリピリジンに由来する窒素の両方が含有されていることが確認された。
【0107】
また、図3より、コバルト単体の存在が確認されるとともに、単体は異なる状態のコバルト(上記のポリピロールに由来する窒素、および、ポリピリジンに由来する窒素に配位しているコバルト)が確認された。
<触媒組成物のSEMによる撮影>
実施例2〜5および比較例2で得られた触媒組成物を、FE−SEM(電界放射型走査電子顕微鏡:Field Emission−Scanning Electron Microscope)により撮影した。
【0108】
実施例2の触媒組成物のFE−SEM画像を図4に、実施例3の触媒組成物のFE−SEM画像を図5に、実施例4の触媒組成物のFE−SEM画像を図6に、実施例5の触媒組成物のFE−SEM画像を図7に、比較例2の触媒組成物のFE−SEM画像を図8に、それぞれ示す。
【0109】
図4〜8により、各触媒組成物に、コバルト単体が含有されることが確認された。
<評価>
1)テストピースの製造
各実施例および各比較例で得られた触媒組成物10mg、純水800μL、および、2−プロパノール200μLを混合し、第1インクを調製した。
【0110】
次いで、得られた第1インク100μL、純水700μL、2−プロパノール150μL、および、ナフィオン(商標登録 デュポン社)溶液(イオン交換樹脂 商品名:Nafion 5wt.% dispersion 70160(製品番号)、Aldrich社製)を水で10倍希釈した溶液50μLを混合し、第2インクを調製した。
【0111】
その後、第2インク10μLをマイクロピペットで秤取して、グラッシーカーボン電極上に滴下した。その後、このグラッシーカーボンを乾燥することにより、テストピースを得た。
【0112】
テストピースにおいて、電極におけるコバルトの担持量は、30μg/cmとした。
2)酸素側電極の活性測定
酸素側電極の活性は、回転ディスク電極による電気化学測定法(サイクリックボルタンメトリー)で測定した。
【0113】
より具体的には、窒素バブリングによって酸素を脱気した1mol/Lの水酸化カリウム水溶液中で電位を走査し、テストピースの安定化およびバックグラウンド測定を行なった。
【0114】
次いで、この水溶液中に、酸素をバブリングすることによって酸素を飽和させ、ポテンシオスタット(対極:Pt線)(商品名:Pt wire、ニラコ社製)で電位を走査し、酸素還元反応(反応式:O+2HO+4e→4OH)を惹起させ、各テストピースの電極(酸素側電極)の酸素還元活性を測定した(電極回転数:1600rpm)。
【0115】
−0.01mAにおける電位、および、飽和電流を、表1に示す。
【0116】
【表1】

【0117】
表1より、各実施例の触媒組成物は、各比較例の触媒組成物に比べ、燃料電池の酸素側電極における酸素還元反応を活性化できることが確認された。
【符号の説明】
【0118】
1 燃料電池
2 燃料側電極
3 酸素側電極
4 電解質層
5 燃料供給部材
6 酸素供給部材
S 燃料電池セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリピロールおよび/またはポリピリジンの炭化物と、遷移金属とを含み、
前記遷移金属が、
前記ポリピロールに由来する窒素、および/または、前記ポリピリジンに由来する窒素に配位する遷移金属と、
遷移金属の単体と
を含有することを特徴とする、触媒組成物。
【請求項2】
カーボンに担持されている前記ポリピロールおよび/または前記ポリピリジンに、前記遷移金属を配合し、中性雰囲気下または還元雰囲気下で焼成することにより得られることを特徴とする、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記遷移金属が、コバルトであることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−110839(P2012−110839A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−262139(P2010−262139)
【出願日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】