説明

触媒電極、燃料電池、機器、および、触媒電極の製造方法

【課題】燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善することを課題とする。
【解決手段】水素酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ平均粒径400nm以下の金属水素化物と、を含む触媒層を有する触媒電極、この触媒電極を燃料極10として用いる燃料電池1、および、燃料電池1を動力源として用いる機器を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒電極、燃料電池、機器、および、触媒電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、水素やメタノールを燃料とし、空気中の酸素と化学反応して生じるエネルギーを電気エネルギーとして取り出す電気化学エネルギーデバイスである。このような燃料電池は、Liイオン電池などの2次電池よりも高い理論エネルギー容量を持ち、自動車車載用電源、家庭や工場などの定置式分散電源、あるいは、携帯電子機器用の電源などとして利用することができる。
【0003】
燃料電池では、例えば燃料極に水素が供給され、この燃料極側で供給された水素を酸化する電気化学反応が起こる。なお、水素酸化反応は、比較的低温では進行しにくい反応であり、一般的には、白金(Pt)などの貴金属触媒により反応を促進させる。
【0004】
ここで、燃料電池は、低電流状態で用いられる時は、燃料極、空気極ともに平衡電位に近い状態を保ちながら安定した状態で発電を行うことが可能である。しかし、燃料電池を動力源として用いている機器の起動時、または、高電流出力運転時などには、過電圧にともない電圧が低下すると同時に、燃料極、空気極ともに、反応物の供給が一時的に追いつかず、急激な電圧降下により、不安定な電力供給状態を招くことがある。そして、このような不安定な電池動作により、電池の劣化が促進されるという問題がある。
【0005】
ここで、特許文献1および2には、水素を可逆的に貯蔵または放出することができる金属水素化物を含んだ電極、および、この電極を燃料極とした燃料電池が開示されている。また、特許文献2には、この金属水素化物の粒径を0.05〜1μmとすることが記載されている。そして、このような粒子径にすれば、金属水素化物の粒子径を他の電極層構成成分粒子と同程度とすることができるので、電極層内に均一に分布させやすくなると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−111307号公報
【特許文献2】特開2008−218269号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1および2に記載の技術の場合、適用される金属水素化物に比較的粒径が大きいものが含まれている。すなわち、電極に含まれている金属水素化物の表面積を十分な大きさとできない構成を含む。このような構成の場合、金属水素化物は十分な量の水素を吸蔵および放出することができず、結果、燃料電池の動作は不安定となり、電池の劣化が促進されてしまう。
【0008】
このような背景を踏まえて、本発明の目的は、燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善する機構を付与するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、水素酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ平均粒径400nm以下の金属水素化物と、を含む触媒層を有する触媒電極が提供される。
【0010】
また、本発明によれば、上記触媒電極を燃料極として用いる燃料電池が提供される。
【0011】
また、本発明によれば、上記燃料電池を動力源として用いる機器が提供される。
【0012】
また、本発明によれば、拡散層を準備する拡散層準備工程と、水素酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ金属水素化物と、を混合した混合物を作成後、前記混合物を分散液中に分散する分散液製造工程と、前記混合物を分散した前記分散液を前記拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する塗布乾燥工程と、を有する触媒電極の製造方法が提供される。
【0013】
すなわち、本発明では触媒電極上に、より詳細には触媒電極が有する触媒層に、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ金属水素化物を備える。
【0014】
触媒層とは、水素酸化反応を促進する触媒により構成される層であり、その構成形態は特段制限されないが、例えば、以下の実施形態で説明するように、カーボンクロスやカーボンペーパーなどで構成されるガス拡散層の表面に、触媒を担持した電気伝導体(カーボン粒子など)を付着することで構成した層であってもよい。または、シート状の電気伝導体(カーボンシートなど)の表面に触媒を担持させることで構成した層であってもよい。
【0015】
本発明の金属水素化物は、上述のような触媒層の表面に付着してもよいし、または、上述の本発明の触媒電極の製造方法で実現されるように、触媒などの材料と同一層上に設けられてもよい。
【0016】
このような本発明によれば、燃料極(触媒電極)上の水素分圧が高い状態である間は、金属水素化物が水素を十分に吸収する。一方、燃料極(触媒電極)上の水素分圧が低い状態である間は、金属水素化物が水素を放出する。
【0017】
そして、本発明では、金属水素化物の平均粒径を400nm以下とすることで金属水素化物の表面積を十分に大きくしているので、金属水素化物は、燃料極上で安定した水素酸化反応が行われために十分な量の水素を吸蔵および放出することができる。その結果、本発明では、安定した発電を継続することが可能となる。
【0018】
なお、本発明では、燃料極(触媒電極)上の水素分圧が低い状態から高い状態に移ると、金属水素化物は、再び水素を吸蔵することとなる。すなわち、燃料極(触媒電極)上の水素分圧の安定化は、能動的かつ継続的に実現される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃料電池の電気化学エネルギーデバイスの一時的な高出力運転時の不安定動作を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の燃料電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】実施例と比較例を比較した電流−電圧プロファイルである。
【図3】実施例と比較例を比較した電流ステップ時の電位時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0022】
図1は本実施形態の燃料電池1の一例を模式的に示す断面図である。図に示すように、本実施形態の燃料電池1は、燃料極10と、高分子電解質膜20と、空気極30と、を有する。
【0023】
まず、本実施形態の燃料電池1の概要について説明する。
【0024】
燃料極10には、図示しない水素供給機構により水素が供給され、燃料極10上で水素酸化反応が起き、水素イオンと電子が発生する。高分子電解質膜20は、燃料極10で発生した水素イオンを、空気極30に移動する。空気極30では、高分子電解質膜20から受取った水素イオン、図示しない外部機構を経て燃料極10から移動してきた電子、および、酸素(例えば空気中の酸素)が反応して、水を生成する。
【0025】
ここで、図示した空気極30は、触媒層31と、触媒層31に接するガス拡散層32と、を有するが、ガス拡散層32を有さない構成とすることも可能である。また、電解液は、酸性溶液、アルカリ溶液、中性溶液のいかなる性質をもつものでも使用することが可能である。すなわち、本実施形態において空気極30および高分子電解質膜20の構成は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができる。よって、ここでの説明は省略する。
【0026】
次に、本実施形態の燃料極10の構成について説明する。
【0027】
燃料極10は、触媒層11を有する。なお、触媒層11と接する水素拡散層12をさらに有してもよい。水素拡散層12は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができ、例えば、カーボンクロスやカーボンペーパーなどで構成してもよい。
【0028】
触媒層11は、図1に示すように、触媒13を担持した電気伝導体15と、金属水素化物14と、を含む。なお、図1に示す拡大図は、触媒層11の平面、すなわち水素拡散層12と接する面における拡大図である。
【0029】
金属水素化物14は、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持ち、平均粒径は400nm以下である。なお、金属水素化物14の平均粒径は好ましくは100nm以下、さらに好ましくは50nm以下とすることができる。
【0030】
このような金属水素化物14としては、例えば、以下の(1)から(4)のいずれかに示す金属水素化物とすることができる。
【0031】
(1)AB型合金の水素化物(Aは、希土類元素(La、Pr、Ce、Ndなど)、未精製の希土類元素(ミッシュメタル;Mm)、または、Xn1n2・・・Xnm(X乃至Xは希土類元素、n1+n2+・・・+nm=1)。Bは、Ni。)、
上記AB型合金のAの一部がMg、CaおよびTiの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物、または、
上記AB型合金のBの一部がAl、Cr、MnおよびCoの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物。
【0032】
(2)AB型合金の水素化物(Aは、Ti、Zr、または、Tin1Zrn2(n1+n2=1)。Bは、Cr、Mn、V、Ni、または、Crn1Mnn2n3Nin4(n1+n2+n3+n4=2)。)、または、
上前記AB型合金のBの一部がCoおよび/またはFeで置き換わったものの水素化物。
【0033】
(3)AB型合金の水素化物(Aは、Ti。Bは、FeまたはCo。)、
上記AB型合金のAの一部が、Laおよび/またはVで置き換わったものの水素化物、または、
上記AB型合金のBの一部が、Mnで置き換わったものの水素化物。
【0034】
(4)Vの水素化物、または、Vの一部がTi、CrおよびMnの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物。
【0035】
LaNiをはじめとするAB型希土類・Ni系合金は六方晶系のCaCu型構造を持つ金属間化合物であり、母体結晶の構造と組成を大きく変化させること無く、可逆的に水素を吸蔵・放出する。また、水素の吸蔵量は水素分圧に応じて変化し、高水素分圧下では水素を吸蔵、低水素分圧下では水素を放出する。また、Aの希土類元素の構成要素を多元化することで水素化物が不安定化し、水素解離圧が高められる。また、BのNiの一部をAl、Cr、MnおよびCoの中のいずれか1つ以上で置き換えると、水素化物は安定化し、水素解離圧が低下する。また、Aの多元化、Niの一部置換化は耐酸化性、熱的安定性の向上につながる。
【0036】
TiCr、ZrCr、TiMn、ZrMn、ZrV、ZrNi等で表されるAB型合金は六方晶系のラーベス相を有する金属間化合物であり、高水素分圧下で水素を吸蔵、低水素分圧下では水素を放出できる。また、吸蔵できる水素密度が高く、高容量化が可能である。また、Aの構成要素をTin1Zrn2(n1+n2=1)のように多元化したり、Bの構成要素をCrn1Mnn2n3Nin4(n1+n2+n3+n4=2)のように多元化したり、また、Bの一部をCoおよび/またはFeで置き換えた多元系化合物にすることで水素解離圧を調整でき、用途に合った水素解離圧に最適化できる。
【0037】
TiFe、TiCo等で表わされるAB型合金は比較的空隙の多い体心立方晶の金属間化合物で、水素分圧が高い状態では水素を吸収し、より水素濃度の高い水素化物が形成され、水素分圧が低い状態では水素を放出し、水素濃度の低い水素化物が形成される。また、Aの一部をLaおよび/またはVで置き換え、および/または、Bの一部をMnで置き換え多元化することで、水素濃度変化に対する水素解離圧の一定度(プラトー特性)が改善し、水素を一定の速度で放出する時に適当である。
【0038】
Vは水素と効率よく反応し水素化物(VH)を形成する。水素密度が高く、高容量化が可能である。常温下、大気圧付近において水素分圧が高い状態では、水素を吸収し、より水素濃度の高い水素化物が形成され、水素分圧が低い状態では、水素を放出し、水素濃度の低い水素化物が形成される。Vの一部をTi、CrおよびMnの中のいずれか1つ以上で置き換えるとプラトー特性を改善させ、常温常圧下でより多くの水素を放出できる。
【0039】
触媒13および電気伝導体15は従来技術を利用したあらゆる形態とすることができる。例えば、触媒13は水素酸化反応を促進するものであれば特段制限されず、白金触媒、または、白金合金触媒などであってもよい。また、電気伝導体15としては、例えば、カーボン粒子であってもよい。さらに、電気伝導体15に触媒13を担持させる手段についても同様に、従来技術を利用して実現することができる。
【0040】
このような触媒13を担持した電気伝導体15、および、金属水素化物14は、触媒層11の平面方向全体に均一に分散しているのが望ましい。また、触媒層11における金属水素化物14の含有量は、20v%以下であることが望ましい。
【0041】
次に、図1を用いて、本実施形態の燃料極10および燃料電池1の作用効果について説明する。
【0042】
まず、本実施形態の燃料電池1を動力源として用いている機器の運転状態が比較的低い低電流出力状態である場合を考える。かかる場合、水素供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給された水素の量は所望の運転のために十分な量であるため、燃料極10上では高い水素分圧状態が維持される。本実施形態では、このような状態の際、金属水素化物14が水素を十分に吸収する。
【0043】
次に、本実施形態の燃料電池1を動力源として用いている機器の運転状態が高電流出力状態である場合を考える。かかる場合、水素供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給された水素がある程度残存している間は、水素酸化を促進する触媒13上で、水素酸化反応が熱力学的平衡状態に近い状態で起こる。しかし、水素供給機構(図示せず)からの水素の供給が、燃料極10上での水素の消費に追い付かなくなると、電圧が下がり始めると同時に、低水素分圧状態になる。本実施形態では、このような状態の際、金属水素化物14が水素を放出する。すると、燃料極10上では、この放出された水素を利用した水素酸化反応が行われ、結果、発電が安定的に継続されることとなる。
【0044】
なお、本実施形態では金属水素化物14の平均粒径を400nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下とすることで、金属水素化物14の表面積を十分に大きくしている。このため、金属水素化物14は、燃料極10上で安定した水素酸化反応が行われるために十分な量の水素を、吸蔵および放出することが可能である。かかる場合、安定した発電を継続することが可能となる。
【0045】
なお、本実施形態では、高電流出力状態での運転から、低電流出力状態での運転に戻り、水素供給機構(図示せず)から燃料極10上に供給される水素の量が所望の運転のために十分な量になると、燃料極10上は高い水素分圧状態となり、金属水素化物14は、再び水素を吸蔵することとなる。
【0046】
すなわち、高出力運転時の水素不足を補う効果は、能動的かつ継続的に利用することが可能である。
【0047】
また、本実施形態では、(1)金属水素化物14の平均粒径を400nm以下、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下とする構成に、(2)触媒13を担持した電気伝導体15、および、金属水素化物14を触媒層11の平面方向全体に均一に分散する構成、および/または、(3)触媒層11における金属水素化物14の含有量を20v%以下とする構成、を組み合わせることで、触媒13および触媒13を担持した電気伝導体15の有効面積の減少を抑制するとともに、水素などの反応種の拡散が妨げられない構成を実現し、結果、燃料極10上での安定した水素酸化反応を実現することができる。
【0048】
なお、水素の放出、吸蔵能力は、各々の物質によって異なるため、金属水素化物14に用いる物質は、燃料極10の大きさ、燃料電池1を使用する機器の運転出力などに応じて選択することが可能である。
【0049】
また、水素の吸蔵、あるいは、放出速度をコントロールするために、燃料極10に加熱冷却機構を追加してもよい。かかる場合、出力電流の増大と連動して金属水素化物14を含む燃料極10を加熱して、水素放出速度を速めることができ、逆に、出力電流の減少と連動して金属水素化物14を含む燃料極10を冷却して、水素の吸蔵を促すことができる。
【0050】
このような作用効果を有する本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1によれば、安定した発電を継続することが可能となるとともに、低水素分圧状態で運転することに起因して引き起こされる電極劣化を抑制することが可能となる。
【0051】
また、このような本実施形態の場合、従来技術のように水素分圧を測定する装置を設置して水素分圧を検知し、別途水素供給装置を追加するような手段よりも省スペース化が可能であると同時に、余分な用力も不要であり、コスト削減の効果もある。
【0052】
ここで、本実施形態の燃料極10の製造方法は特段制限されないが、例えば、以下のような工程を有する製造方法であってもよい。
【0053】
(拡散層準備工程)拡散層(例:カーボンクロスやカーボンペーパーなど)を準備する。
【0054】
(分散液製造工程)水素酸化反応を促進する触媒を担持した粒子状の電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ平均粒子径が400nm以下の金属水素化物と、を混合した混合物を作成後、混合物を分散液中に分散する。
【0055】
(塗布乾燥工程)混合物を分散した分散液を拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する。
【0056】
このような製造方法によれば、触媒13を担持した電気伝導体15と金属水素化物14とをともに十分に分散させた状態で、水素拡散層12の第1の面上に塗布することが可能となる。結果、第1の面上において、部分的に、触媒13、触媒13を担持した電気伝導体15および金属水素化物14の中のいずれか1つ以上の有効面積が減少するのを効果的に抑制することができる。また、触媒13を担持した電気伝導体15、および、金属水素化物14を触媒層11の平面方向全体に均一に分散することが可能となる。ここで、分散液は、混合物を十分に分散できるものであれば特段制限されず、例えば、ポリマーを溶液中に分散したものであってもよい。また、分残液を塗布する手段は特段制限されず、例えば、噴霧塗装や、ロールコータ塗装などの手段を利用してもよい。
【0057】
なお、本実施形態の燃料極10の製造方法は上記した例に限定されない。例えば、水素拡散層12の第1の面に金属水素化物14を付着させた後、その上から、触媒13を担持した電気伝導体15を付着させる処理を行ってもよい。または、水素拡散層12の第1の面に触媒13を担持した電気伝導体15を付着させた後、その上から、金属水素化物14を付着させてもよい。この処理は、例えば、水素拡散層12の第1の面に触媒13を担持した電気伝導体15を付着させた後、燃料極10、高分子電解質膜20および空気極30をこの順に積層し、例えば熱圧着する際に、燃料極10と高分子電解質膜20との間に、金属水素化物14を挟みこむ処理であってもよい。
【0058】
本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1の製造方法は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの説明は省略する。
【0059】
ここで、本実施形態の燃料極10を有する燃料電池1は、あらゆる機器の動力源として利用することができる。例えば、自動車車載用電源、携帯電子機器用の電源などとして利用することができる。本実施形態の燃料電池1を動力源して用いた機器によれば、高電流出力状態における急激な電圧降下を抑制することができるので、安定した動作を実現することができる。なお、本実施形態の機器が燃料電池1を動力源として用いる手法および機器の製造方法は、従来技術に準じて実現できるので、ここでの説明は省略する。
【0060】
以下、本実施形態の詳細を具体的に実施例において示す。なお、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0061】
<実施例1>
(LaNiの合成)
不活性雰囲気内で原子比La:Ni=1:5となるように、LaおよびNiを秤量し、乳鉢の中で粉砕混合した。その後、アルゴンガス中、1000℃で48時間焼成し、LaNiを作製した。構造および、組成は、粉末X線回折により確認した。得られた合金は、遊星ボールミルを用いて、100nm以下に粉砕した。
【0062】
(燃料電池の製造)
1.燃料極の製造
まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したものを用意した。
【0063】
次に、上記で作製したLaNi合金を、50wt%白金担持触媒(触媒担体は、ケッチェンブラック)に対し、10wt%の割合で混合した。次いで、この混合粉末を、ナフィオン溶液(ポリマー分5%wt、シグマアルドリッチ社製)と混合することで、分散溶液を作成した。その後、撥水化処理された拡散層の表面にこの分散溶液を塗布・乾燥することで、燃料極を得た。
【0064】
2.空気極の製造
まず、拡散層として、カーボンクロスの表面にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)ディスパージョンで撥水化したカーボンブラックを塗布し、撥水化処理したもの用意した。
【0065】
次に、PtCo(1:1)触媒(触媒担体はケッチェンブラック)をナフィオン溶液(ポリマー分5%wt、シグマアルドリッチ社製)と混合することで、分散溶液を作成した。その後、撥水化処理された拡散層の表面にこの分散溶液を塗布・乾燥することで、空気極を得た。
【0066】
3.接合
その後、燃料極および空気極の触媒層(触媒塗布により形成された層)を内側にし、電解質膜(厚さ約50μmのナフィオン(登録商標)膜、デュポン社製)を間に挟んで熱圧着し、膜電極接合体(MEA)を得た。さらに、MEAをグラファイト板にガス流路を設けた集電体で挟んで、試験電池とした。
【0067】
<比較例1>
実施例1と同様の方法で、LaNi合金を用いずに燃料極を作製した。その後、実施例1と同様の方法で試験電池を作製した。
【0068】
<実施例1と比較例1の比較>
まず、実施例1および比較例1の試験電池に対して、電流−電圧プロファイル、および限界電流の測定を行った。
【0069】
燃料極には、水素ガスを燃料として流量5ml/s、水素圧1.1atmで供給し、空気極側には、酸素ガスを流量10ml/s、酸素圧1.5atmで供給した。発電試験は、開回路端電圧を測定した後、徐々に電流値を増大させ、最終的に電圧が零になる(限界電流値)まで測定した。その結果を図2に記載した。
【0070】
図2に示すように、電圧が零となる電流値は、実施例1の場合、3.5Aであったのに対し、比較例1の場合、2.6Aであった(矢印B参照)。また、電圧が0.3Vとなる電流値は、実施例1の場合、2.6Aであったのに対し、比較例1の場合、2.2Aであった(矢印A参照)。以上の結果から、実施例1は、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。なお、0.3Vで比較したのは、実際の発電時によく用いる電圧であるからである。
【0071】
次に、実施例1および比較例1の試験電池に対して、電流ステップ(10mAから500mA)の測定を行い、水素不足状態の回復時間の測定を行った。具体的には、10mAの電流値で30分間保持した後、500mAに電流を瞬時に上げた後の時間に対する電圧値のプロファイルを記録して水素不足状態の回復時間の測定を行った。その結果を図3に示す。
【0072】
図3に示すように、実施例1の回復時間は約10秒であった。これに対し、比較例1の回復時間は約70秒であった。以上の結果から、実施例1は、比較例1に比べて、急激な電流上昇時の触媒近傍のメタノール欠乏による電圧降下から迅速に回復でき、電力不安定動作の改善やメタノール欠乏から生じる触媒内の電圧不均一分布に起因する触媒劣化の低減による高耐久化に効果を及ぼす。
【0073】
<他の実施例>
実施例1と同様の合成方法で、表1乃至4に示すような化合物を合成し、その後、実施例1と同様の方法を用いて試験電池を作製した。そして、これらの試験電池に対して、上記と同様の手段により、電流−電圧プロファイルおよび限界電流の測定を行った。
【0074】
測定結果を表1乃至4に示す。表に示すB点の電流値(A)は、電圧が零となる電流値のことであり、A点の電流値(A)は、電圧が0.3Vとなる電流値のことである。これらの結果から分かるように、他の実施例の試験電池においても、比較例1に比べて高電流出力時の電圧降下が抑制されていることがわかる。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】

【0077】
【表3】

【0078】
【表4】

【0079】
上記の結果から明らかなように、本発明によれば、燃料電池の一時的な高出力運転時の不安定動作を改善する機構を実現することが可能である。
【符号の説明】
【0080】
1 燃料電池
10 燃料極
11 触媒層
12 水素拡散層
13 触媒
14 金属水素化物
15 電気伝導体
20 高分子電解質膜
30 空気極
31 触媒層
32 ガス拡散層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ平均粒径400nm以下の金属水素化物と、を含む触媒層を有する触媒電極。
【請求項2】
請求項1に記載の触媒電極において、
前記金属水素化物は、
AB型合金の水素化物(Aは、希土類元素、未精製の希土類元素(ミッシュメタル;Mm)、または、Xn1n2・・・Xnm(X乃至Xは希土類元素、n1+n2+・・・+nm=1)。Bは、Ni。)、
前記AB型合金のAの一部がMg、CaおよびTiの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物、または、
前記AB型合金のBの一部がAl、Cr、MnおよびCoの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物である触媒電極。
【請求項3】
請求項1に記載の触媒電極において、
前記金属水素化物は、
AB型合金の水素化物(Aは、Ti、Zr、または、Tin1Zrn2(n1+n2=1)。Bは、Cr、Mn、V、Ni、または、Crn1Mnn2n3Nin4(n1+n2+n3+n4=2)。)、または、
前記AB型合金のBの一部がCoおよび/またはFeで置き換わったものの水素化物である触媒電極。
【請求項4】
請求項1に記載の触媒電極において、
前記金属水素化物は、
AB型合金の水素化物(Aは、Ti。Bは、FeまたはCo。)、
前記AB型合金のAの一部が、Laおよび/またはVで置き換わったものの水素化物、または、
前記AB型合金のBの一部が、Mnで置き換わったものの水素化物である触媒電極。
【請求項5】
請求項1に記載の触媒電極において、
前記金属水素化物は、
Vの水素化物、または、Vの一部がTi、CrおよびMnの中のいずれか1つ以上で置き換わったものの水素化物である触媒電極。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の触媒電極において、
前記触媒層における前記金属水素化物の含有量は、20v%以下である触媒電極。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか1項に記載の触媒電極において、
前記触媒層に接して水素ガス拡散層が設けられている触媒電極。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の触媒電極を燃料極として用いる燃料電池。
【請求項9】
請求項8に記載の燃料電池を動力源として用いる機器。
【請求項10】
拡散層を準備する拡散層準備工程と、
水素酸化反応を促進する触媒を担持した電気伝導体と、高水素分圧下で水素を吸蔵し、かつ、低水素分圧下では水素を放出する性能を持つ金属水素化物と、を混合した混合物を作成後、前記混合物を分散液中に分散する分散液製造工程と、
前記混合物を分散した前記分散液を前記拡散層の第1の面上に塗布後、乾燥する塗布乾燥工程と、
を有する触媒電極の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2011−198467(P2011−198467A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60252(P2010−60252)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】