説明

記録ヘッドの製造方法

【課題】 本発明は空気流を補助手段として用いた高密度でかつ長尺のフルマル
チヘッドに対応可能な、精度の良い空気吐出孔とインク吐出孔の製造方法を提供
しようとするものである。
【解決手段】 インク流路を形成する型部材の上にインク吐出孔部材となるべき
感光性部材を形成し、さらにその上に空気流路となるべき型部材を形成し、その
上に空気吐出孔部材を形成後それぞれの型部材を除去して記録ヘッドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインクジェット記録装置において、記録ヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録で空気流を補助的に用い、インク滴速度や階調性を上げる提案は、例えば圧電インクジェットとの組み合わせで特開昭52-82426や特開昭57-115354、サーマルインクジェットとの組み合わせで特開平5-201031、静電インクジェットとの組み合わせで特開平5-104716などがあり公知である。
【0003】
しかしながらこれらの提案は単独ノズルか、たかだかのマルチノズル化にしか対応できなかった。今後のインクジェットプリンタの高速化に必須な高密度(例えば600dpi以上)で紙幅分(例えば8インチないし12インチ)のフルマルチヘッドにはとても対応できるものでは無かった。
【0004】
たとえば空気吐出孔をインク吐出孔とは別部材のカバーにもうけたり(特開平05-201031)、空気吐出孔とインク吐出孔それぞれを形成した板を積層したり(特開平5-104716)しており600dpiで紙幅分のフルマルチヘッドに使える精度は得られなかった。
【0005】
また特開平6-91885には空気吐出孔とインク吐出孔を精度良く形成するために空気吐出孔とインク吐出孔を同時に加工し、その後空気吐出孔とインク吐出孔間にスリットを入れる方法が提案されている。しかしこの方法では空気吐出孔とインク吐出孔の間隔は、スリットを入れるダイサーの強度から狭くすることができず、600dpi以上の高密度で必要とされる微小間隔を得ることはできなかった。
【特許文献1】特開昭52−82426号公報
【特許文献2】特開昭57−115354号公報
【特許文献3】特開平5−201031号公報
【特許文献4】特開平5−104716号公報
【特許文献5】特開平6−91885号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって本発明は空気流を用いた高密度でかつ長尺のフルマルチヘッドに対応可能な精度の良い空気吐出孔とインク吐出孔の製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
液体インクを記録媒体に向かって吐出し記録を行なう記録ヘッドにおいて、基板上にインク分配流路をつくるための型材を構成する工程と、前記型材上にインク吐出孔部材となるべき感光性部材を配置する工程と、該インク吐出孔部材となるべき感光性部材に多数のインク吐出孔パターンを露光、現像する工程と、前記インク吐出孔部材となるべき感光性部材上に、空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材に前記空気分配流路のパターンを露光、現像しエッチングする工程と、前記空気分配流路をつくるための型材上に、空気吐出孔部材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材に、前記多数のインク吐出孔パターンに対向した空気吐出孔パターンを露光、現像する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材をエッチングする工程と、前記インク吐出孔部材となるべき感光性部材をエッチングする工程と、前記インク分配流路をつくるための型材と前記空気分配流路をつくるための型材を除去する工程からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
以上の説明でわかるように本発明により、空気流を用いた高密度な、長尺フルマルチヘッドを提供する事が出来る。
【0009】
フルマルチを使ったラインプリンタは1パスで画像形成しなければならず、シリアルプリンタのようにマルチパスで高画質を得る手法が使えない。したがって各ノズルの濃度むらや着弾精度に厳しい要求があるが、本発明による高精度の記録ヘッドを用い、空気流を使うことで十分な品質を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は本発明の製造方法により製造されるヘッドを示す平面図で、図2はそのA−A断面拡大図、図3は図2のB−B断面図、図4は図2のC−C断面図である。
【0011】
図1に示すように、ヘッドにはインク吐出孔5がピッチp=42.3μm(600dpi)で一列に配置され、ヘッドの有効長Lは約300mm(12インチ)で総計7200個のインク吐出孔5が並んでいる。ヘッドの幅Wは約20mmである。図2でさらに詳しく構成を説明すると、1はプラスチックの射出成形またはセラミックで作られたヘッド基体、2はシリコンのヒータ基板、3はヒータ基板2の表面に作られた発熱体、4−1、4−2、4−3は2の表面に作られたバンプ、5は前述したインク吐出孔、6はインク吐出孔部材、7は空気吐出孔、8は空気吐出孔部材、9は駆動ICチップ、10はFPC(フレキシブルプリント基板)である。ヘッド基体1には液室11、インク流入口12、空気室13、空気流入口14、ヒータ基板2にはインク流入孔15、空気流入孔16、インク吐出孔部材6にはインク分配流路17、空気吐出孔部材8には空気分配流路18が設けられている。インク流入口12、液室11、インク流入孔15、インク分配流路17、インク吐出孔5はインク19で満たされており、空気流入口14、空気室13、空気流入孔16、空気分配流路18、空気吐出孔7には空気流20が流れている。
【0012】
図2の構成で、図示されていない本体からの駆動信号がFPC10を介してバンプ4−3に与えられ、バンプ4−2から駆動ICチップ9に信号が流れる。駆動ICチップ9からの出力はバンプ4−1を介して発熱体3に負荷され、発熱体3は所定温度に発熱しそれによりインク分配流路17中のインクインク19は沸騰しその圧力でインク19はインク吐出孔5から吐出され、空気吐出孔7を通して流出する空気流20にのって図示していない記録媒体に向かって飛翔し、記録が行われる。
【0013】
図5でさらに詳しくその動作を説明する。図5(a)は非吐出状態を示し、インク19はインク吐出孔5の表面でメニスカスを形成し、空気流20は空気吐出孔7を通って一定の速度で流れている。図5(b)において、所定の駆動パルスが発熱体3に印加され、発熱体3が発熱するとインク19は沸騰しバブル21が発生する。21の圧力でインク19はインク滴22となってインク吐出孔5から吐出を始め、空気流20に押されながら加速される。駆動された後発熱体3は冷却し、21も収縮を始めるが、22は慣性と空気流20により加速されインク吐出孔5から飛出していく(図5(c)参照)。ここで注目すべきなのは、本実施例では発熱体3とインク吐出孔5の間が極めて狭く、その容積が小さいため、発熱体3に対向するインク19は殆どすべて22となって飛んでいくことである。その結果発熱体3の表面はインク吐出孔5を介して大気と連通する。
【0014】
つぎに本発明の空気吐出孔について述べる。図1ないし図3で述べた実施例のヘッドで空気吐出孔7の等価直径(正方形など各種形状を面積の等しい等価円として代替して考えた時の直径)を振ったものと、対象例として従来から提案されている空気吐出孔をスリットを含め調べたところ図8のような結果となった。したがって高密度、長尺のフルマルチに適した空気吐出孔等価直径daは従来提案されていたよりもはるかに小さい da ≦ 50μm、さらに望ましくは da ≦ 30μm 、特にインク滴が4pl以下の場合には da ≦ 20μm であることがわかった。またインク吐出孔5と空気吐出孔7の距離(空気層厚さ)haも ha < 20μm、さらに望ましくはha < 15μm、インク滴が4pl以下の場合には ha < 10μm が望ましいことがわかった。図8でインク滴速度が低速とは空気流でほとんど加速されなかったことを示し、必要空気量膨大とは7000ノズルもあるフルマルチプリンタで消費空気量が無視できないほど多く、大型で騒音の高いポンプが必要なことを示している。
【0015】
図9に本発明の空気吐出孔の等価直径daと発熱体の等価直径dhとの関係を示す。この結果から空気吐出孔の等価直径daと発熱体の等価直径dhが 0.5 * dh ≦ da ≦ 2 * dhであればインク滴が安定して加速され空気流の効果があることが判る。さらに 0.8 * dh ≦ da ≦ 1.5 * dhであればより安定した吐出が可能である。空気吐出孔の等価直径daが小さすぎるとインク滴が空気吐出孔を通過する時に空気流で粉砕されスプラッシュとして飛び散り、 空気吐出孔の等価直径daが大きすぎると空気流の効果が出ず、インク滴の加速が行われない。前述したように本発明のヘッドは発熱体3前面のほとんどのインクがインク吐出孔5から吐出されるから、インク吐出孔5の大きさに関わらず、吐出インク滴22の量は決まるから、 発熱体の等価直径dhと空気吐出孔の等価直径daの密接な最適関係を持つことが理解されよう。
【0016】
図6に本発明の記録ヘッドの製造方法を示す。
【0017】
ステップ(a)
シリコンからなるヒータ基板2の表面に所定の絶縁膜などを構成し、発熱体3、バンプ4−1、バンプ4−2、バンプ4−3等を作る。必要に応じ発熱体3表面に保護膜を構成する。
【0018】
ステップ(b)
インク分配流路17などの流路を構成すべき部分の型材となるべき感光性部材としてポジ型感光樹脂31をコーターにより所定の厚さに塗布し、その後露光、現像し、感光部をエッチングし流路を構成すべき部分を型として残す。
【0019】
ステップ(c)
インク吐出孔部材6となるべき感光性部材としてネガ型感光性樹脂32を前工程で型を形成した基板上にコーターで塗布、露光、現像する。
【0020】
ステップ(d)
その上に空気分配流路18などの流路を構成すべき部分の型材となるべき感光性部材としてポジ型感光樹脂33を塗布し、その後露光、現像、エッチングし流路を構成すべき部分を型として残す。
【0021】
ステップ(e)
その上に空気吐出孔部材8となるべき感光性部材としてネガ型感光性樹脂34を塗布、露光、現像する。
【0022】
ステップ(f)
ネガ型感光性樹脂32、ネガ型感光性樹脂34をエッチングする。この時空気吐出孔7も形成される。
【0023】
ステップ(g)
ヒータ基板2に異方性エッチングによりインク流入孔15、空気流入孔16を形成する。
【0024】
ステップ(h)
ポジ型感光樹脂33、ポジ型感光樹脂31をエッチング液で除去しインク分配流路17、空気分配流路18を形成する。このときのエッチング液はステップ(b)で使用したエッチング液とは異なり、硬化した非感光部を除去できるエッチング液を用いる。
【0025】
ステップ(i)
ネガ型感光性樹脂32をエッチングしインク吐出孔5および空気流路35を形成する。
【0026】
ステップ(j)
駆動ICチップ9およびFPC10をACF(異方性導電接着剤)によって電気的接続する。さらにアルミナ、またはノリル製のヘッド基体1を接着しヘッド体が完成する。
【0027】
なお本実施例で示したポジ型感光樹脂31とポジ型感光樹脂33に同一の感光性樹脂を用いれば塗布、露光、現像、エッチングが同一装置によりほぼ同じ条件で製造でき、量産上有利である。同様にネガ型感光樹脂32とネガ型感光樹脂34も同一材料であることが望ましい。
【0028】
なお本実施例ではそれぞれの感光性樹脂の塗布にコーターを使用したが、基板が小さい場合はスピンナーを用いてもよい。
以上の実施例で判るように、本発明ではフォトプロセスでヘッドの重要部分を製造するから空気吐出孔7の等価直径da、インク吐出孔5の等価直径di、発熱体の等価直径dhやインク吐出孔高さhiが極めて精度よく作られ、また空気吐出孔7とインク吐出孔5との心ずれもほとんど無い。またコーターを使うことで空気層厚さhaも充分な精度で形成できる。
【0029】
以上の実施例では発熱体の加熱によるインクの沸騰を利用してインク吐出を行う記録ヘッドを示したが、本発明は図7に示すように圧電素子を用いた記録ヘッドにも適用できる。この実施例ではシリコン基板の背面に振動板と圧電素子を積層し、圧電素子に荷電することでたわませインク吐出を行う。なお一般的に圧電素子を用いた記録ヘッドは圧電素子の出力エネルギーが小さいため、発熱体を用いたインクジェットよりも高密度化は難しい。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明により製造される記録ヘッドを示す平面図である。
【図2】そのA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】図2のC−C断面図である。
【図5】本発明により製造される記録ヘッドの動作を示す摸式断面図である。
【図6】本発明の記録ヘッドの製造プロセスを示す模式図である。
【図7】本発明の記録ヘッドの構造の他の実施例を示す摸式図である。
【図8】空気吐出孔の等価直径を振った特性を示す表である。
【図9】空気吐出孔の等価直径daと発熱体の等価直径dhとの関係を示す表である。
【符号の説明】
【0031】
1 ヘッド基体
11 液室
12 インク流入口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体インクを記録媒体に向かって吐出し記録を行なう記録ヘッドにおいて、基板上にインク分配流路をつくるための型材を構成する工程と、前記型材上にインク吐出孔部材となるべき感光性部材を配置する工程と、該インク吐出孔部材となるべき感光性部材に多数のインク吐出孔パターンを露光、現像する工程と、前記インク吐出孔部材となるべき感光性部材上に、空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材に前記空気分配流路のパターンを露光、現像しエッチングする工程と、前記空気分配流路をつくるための型材上に、空気吐出孔部材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材に、前記多数のインク吐出孔パターンに対向した空気吐出孔パターンを露光、現像する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材をエッチングする工程と、前記インク吐出孔部材となるべき感光性部材をエッチングする工程と、前記インク分配流路をつくるための型材と前記空気分配流路をつくるための型材を除去する工程からなる事を特徴とする記録ヘッドの製造方法。
【請求項2】
前記基板上に前記インク分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記インク分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材に前記インク分配流路のパターンを露光、現像しエッチングする工程とを有する事を特徴とする請求項1に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記多数のインク吐出孔と対向して前記基板表面に多数の発熱体を形成する工程を有する事を特徴とする請求項1乃至2に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記基板はシリコンであり、前記インク分配流路と連通すべきインク流入孔と、前期空気分配流路と連通すべき空気流入孔を異方性エッチングで形成する事を特徴とする請求項1乃至3に記載の記録ヘッドの製造方法。
【請求項5】
液体インクを記録媒体に向かって吐出し記録を行なう記録ヘッドにおいて、多数のインク吐出孔を形成するインク吐出孔部材上に、空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気分配流路をつくるための型材となるべき感光性部材に、前記空気分配流路のパターンを露光、現像、エッチングする工程と、前記空気分配流路をつくるための型材上に、空気吐出孔部材となるべき感光性部材を配置する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材に、前記多数のインク吐出孔パターンに対向した空気吐出孔パターンを露光、現像する工程と、前記空気吐出孔部材となるべき感光性部材をエッチングする工程と、前記空気分配流路をつくるための型材を除去する工程からなる事を特徴とする記録ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2007−301935(P2007−301935A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−135237(P2006−135237)
【出願日】平成18年5月15日(2006.5.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】