説明

記録ヘッド

【課題】電気配線の腐食を抑制し、信頼性の高い記録ヘッドを提供する。
【解決手段】記録ヘッドは、基板H1110と流路形成部材H1101とから構成される記録素子基板H1051を有している。基板H1110は液体を吐出するエネルギを発生する記録素子H1103と、該記録素子H1103に電力を供給する配線層と、を有している。流路形成部材H1101は基板H1110の一の面H1120に接合され、貫通穴が形成されている。また、当該貫通穴によって、前記記録素子基板H1051には溝H1200が形成されている。溝H1200の底面が基板H1110の一の面H1120に最も近い配線層を構成する電気配線H1210の上面に位置し、かつ前記底面が該電気配線H1210の縁部にかからないように、溝H1200は配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体(例えば、インク。)を吐出して記録を行う記録ヘッドに関する。
【背景技術】
【0002】
記録ヘッドは、例えばインクのような液体を吐出して記録を行う。記録ヘッドの液体吐出方式の1つとして、インクジェット方式を挙げることが出来る。インクジェット方式の代表的な例として、記録素子である発熱抵抗体を発熱させ、液体を膜沸騰させることで液体を吐出させるものが知られている。このようにして、液体を記録媒体に向けて吐出すれば、記録媒体に記録を行うことができる。
【0003】
記録ヘッドは、少なくとも1つの吐出口が形成された流路形成部材、及び基板を有している。流路形成部材は基板に接合されている。基板には、液体供給口が開口されている。基板には、各々の吐出口と対応する位置に配設された記録素子が形成されている。また、基板には記録素子に電力を供給するための電気配線が形成されている。
【0004】
基板の液体供給口と流路形成部材の吐出口とは、流路により連通されている。液体は、液体供給口から流路に供給され、記録素子の作用によって液体吐出口から吐出される。
【0005】
特許文献1及び特許文献2には、記録ヘッドの製造方法が開示されている。これらの製造方法においては、記録素子が形成された基板に、流路形成部材となる被覆樹脂層を、例えばスピンコートによって塗布する工程を有している。
【0006】
流路形成部材となる被覆樹脂層は熱硬化される。熱硬化時の熱によって、流路形成部材には大きな応力が発生し、流路形成部材が基板から剥離しやすくなる。流路形成部材の剥離は、記録ヘッドが長尺化するほど、また流路形成部材が厚くなるほど、顕著に表れる。
【0007】
流路形成部材の剥離を抑制する手段が、特許文献3に記載されている。具体的には、流路形成部材の体積を減らすために、流路形成部材に多数の貫通穴や溝が設けられている。これにより、流路形成部材に生じる応力を緩和し、流路形成部材の剥離を抑制することができる。
【0008】
また、溝の側壁を鋸歯形状にすることで、流路形成部材の剥離が抑制されることも記載されている。
【特許文献1】特願平10−157150号公報
【特許文献2】特願平11−138817号公報
【特許文献3】特開2003−80717号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3では、流路形成部材に貫通穴が形成された記録ヘッドが記載されている。流路形成部材が基板に接合されることで、当該貫通穴によって溝が形成されるが、溝の底面の縁部には少なからず応力が生じる。この応力によって、流路形成部材が基板から若干剥離する場合がある。
【0010】
また、基板と流路形成部材とが接する面に凹凸が形成されている場合、溝の底面が基板の凹凸の激しい部分に位置すると、流路形成部材が若干剥離する場合がある。
【0011】
基板に形成されている電気配線は、基板と流路形成部材とが接する面に凹凸を形成する一要因である。つまり、電気配線の縁部には段差部が形成される。このような段差部を有する基板の表面に保護膜を塗布した場合、段差部を覆う保護膜の厚みは、平坦な面を覆う保護膜の厚みよりも薄くなる。
【0012】
本出願に係る発明者は、このような場合に以下のような課題があることを見出した。
【0013】
電気配線に高電圧が高頻度で印加されると、段差部を覆う薄い保護膜は熱変質し、脆弱化し、または亀裂が発生し易い。そのため、保護膜は、電気配線を保護する役割を失う可能性がある。
【0014】
この場合、流路形成部材を貫通する穴が形成されている部分、または流路形成部材が剥離している部分が保護膜の薄い部分に位置していると、液体や湿気が電気配線に晒された状態となる。この状態で電気配線に高電圧が印加されると、電気配線が電気分解されて、腐食に至る可能性がある。
【0015】
本発明の目的は、上述した課題を考慮し、電気配線の腐食を抑制することができる、信頼性の高い記録ヘッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上述した課題の少なくとも1つを達成するため、本発明に係る記録ヘッドは、液体を吐出するエネルギを発生する記録素子と該記録素子に電力を供給する配線層とを有する基板と、前記基板の一の面に接合され、貫通穴が形成された流路形成部材と、から構成される記録素子基板を有する記録ヘッドおいて、前記貫通穴によって前記記録素子基板に形成された溝の底面が、前記基板の前記一の面に最も近い前記配線層を構成する電気配線の上面に位置し、かつ前記底面が該電気配線の縁部にかからないように、該溝が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、電気配線の腐食を抑制し、信頼性の高い記録ヘッドを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0019】
本発明の記録ヘッドは、一般的なプリント装置のほか、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリント部を有するワードプロセッサ等の記録装置、あるいは、これらの記録装置を複合した多機能記録装置等に適用することができる。
【0020】
[第1の実施形態]
記録ヘッドは、液体を吐出するためのエネルギを発生する記録素子を有する記録素子基板を備えている。記録素子としては、一例として、液体に膜沸騰を生じさせる熱エネルギを発生する電気熱変換素子を用いることが出来る。
【0021】
図1(a)は一部破断した記録素子基板の模式的斜視図である。図1(b)は図1(a)の記録素子基板の溝H1200の端部近傍の一領域を、吐出口が形成された面である吐出口面から見たときの模式的平面図である。図1(c)は図1(b)の1C−1C線に沿った記録素子基板の模式的断面図である。
【0022】
記録素子基板H1051は、液体を吐出するエネルギを発生する記録素子H1103を有する基板H1110と、流路形成部材H1101と、から構成される。基板H1110を構成する材料としては、例えばシリコン(Si)を用いることができる。本実施形態では、記録素子基板H1051は一方向に長い、いわゆる長尺の形状である。
【0023】
基板H1110には、基板H1110を貫通する液体供給口H1102が形成されている。液体供給口H1102は、基板H1110を構成する材料の結晶方位を利用した異方性エッチングやサンドブラストなどの方法で形成することができる。
【0024】
流路形成部材H1101は、基板H1110の一の面H1120に接合されている。記録素子H1103は基板H1110の一の面H1120側に配されている。また、流路形成部材H1101は樹脂材料からなる。流路形成部材H1101には、フォトリソグラフィ技術によって、流路H1106や吐出口H1107が形成されている。
【0025】
流路H1106は、液体供給口H1102から、記録素子H1103が配されている液室へ、液体を導入するために形成される。吐出口H1107は、液室内の液体を外部へ吐出するための開口部である。
【0026】
基板H1110の一の面H1120とは反対側の、流路形成部材H1101の面に、吐出口H1107が形成されている。
【0027】
また、基板H1110には、電気配線、ヒューズ(不図示)、及び電極部H1104等が設けられている。電気配線に電力を供給するための電極部H1104には、例えば金(Au)から成るバンプH1105が形成されている。電気配線としては、例えばアルミニウム(Al)と銅(Cu)との合金や、アルミニウム(Al)などによって形成することができる。
【0028】
本実施形態では、一例として、流路形成部材H1101の厚みが約70μmであり、吐出口H1107の直径が約21.7μm、さらに厚み方向の流路(不図示)の幅が約52μmである。また、記録素子H1103は、一例として、吐出口面に平行な面内において、約34.8μm×約37.2μmの直方形状である。
【0029】
基板H1110の一の面H1120には、アライメントマークH1220が設けられている。アライメントマークH1220は、記録素子基板H1051を保持する後述の保持部材に対して、記録素子基板H1051を位置決めするために設けられている。
【0030】
流路形成部材H1101の長手方向に直交する方向の一端部には、流路形成部材H1101を貫通する貫通穴が形成されている。当該貫通穴と基板H1110によって、記録素子基板H1051に溝H1200が形成されている。図1では、直交方向の一端側のみに溝H1200が形成されているが、溝H1200は直交方向の両端側に形成されていても良い。溝H1200は流路形成部材H1101に生じる応力緩和のために設けられる。
【0031】
また、基板H1110は電気配線から構成される配線層を少なくとも1層含んでいる。本実施形態では、基板H1110に2つの配線層が形成されている。図1(b)及び(c)では、一の面H1120に最も近い配線層を構成する電気配線H1210のみが示されている。
【0032】
基板H1110の一の面H1120には、保護膜H1119が形成されている。基板H1110の一の面H1120は、一の面H1120に最も近い配線層を構成する電気配線H1210によって、頂面H1122を有する凸条部H1121が形成されている。
【0033】
頂面H1122は、電気配線H1210の一の面H1120側の面に対応して形成されており、比較的平坦な面となっている(図1(c)参照。)。一方で、凸条部H1121の側面は急な斜面になる傾向があり、当該側面を覆う保護膜H1119の厚みは薄くなる。そのため、凸条部H1121の側面の保護膜H1119は、変形、脆弱化、亀裂などが生じ易い。
【0034】
本実施形態では、凸条部H1121の頂面H1122に、溝H1200の底面が位置している。つまり、溝H1200の底面は、電気配線H1210の上面に位置している。そして、溝H1200の幅は電気配線H1210の幅よりも小さく、溝H1200の底面は凸条部H1121の側面に位置していない。
【0035】
本実施形態では、一例として、溝H1200の幅を約30μmとした。
【0036】
上記の構成によると、凸条部H1121の側面に位置する保護膜H1119は、流路形成部材H1101によって厚く覆われている。従って、凸条部H1121の側面の保護膜H1119が熱変質し、脆弱化し、または亀裂が発生したとしても、電気配線H1210が外部の液体や湿気に晒されることを防ぐことが出来る。これにより、電気配線H1210が電気分解されて腐食することを抑制することができ、信頼性の高い記録ヘッドを提供することができる。
【0037】
一の面H1120に最も近い配線層とは別の配線層を構成する電気配線(不図示)は、基板H1110の一の面H1120の凹凸に大きく影響しない。それは、当該別の配線層を構成する電気配線と一の面H1120との間には、絶縁膜層や他の配線層など、複数の層が形成されているためである。
【0038】
本実施形態では、一例として、電気配線H1210の厚みを約0.35μmとした。また、電気配線H1210は記録素子基板H1051の長手方向に沿って形成されており、電気配線H1210の長手方向に直交する方向の幅は約63.5μmとした。
【0039】
仮に溝H1200の底面の縁部H1130における流路形成部材H1101が基板H1110に対して若干剥離したとしても、溝H1200の幅が電気配線H1210よりも小さいため、溝H1200の縁部H1130が凸条部H1121の側面まで達しない。つまり、保護膜H1119が薄い部分は流路形成部材H1101に覆われた状態のままである。そのため、電気配線の腐食を抑制することができる。
【0040】
上記の記録素子基板H1051を用いて、実際に記録ヘッドを製造し、流路形成部材H1101の剥離について調査した。記録ヘッドの製造後、詳細な調査を実施すると、溝H1200の底面の縁部H1130が若干剥離していることが確認された。ただし、流路形成部材H1101が剥離した領域は、凸条部H1121の側面まで達していなかった。
【0041】
上記の状態の記録ヘッドに対して、電気配線H1210の腐食に関する以下の試験を実施した。まず、上記の記録ヘッドの表面を、含有する色材がカーボンブラック顔料であるブラック液体に浸し、温度60℃、湿度90%の環境下で5日間放置した。続いて、電気配線H1210に電圧24Vを印加した状態で、温度60℃、湿度90%の環境下で300時間放置した。
【0042】
上記の試験の実施後、電気配線H1210を詳細に調査したところ、電気配線H1210は腐食していなかった。
【0043】
溝H1200は、溝H1200の底面が、電気配線H1210の縁部に位置していなければ、どこに配置されていても良い。そうすることより、凸条部H1121の側面の保護膜H1119は、流路形成部材H1101によって厚く覆われた状態となる。
【0044】
しかし、電気配線H1210は基板H1110のほぼ全域にわたって張り巡らされているため、電気配線H1210に起因する凸条部H1121を避けて、溝H1200を形成することは困難である。したがって、溝H1200は、上述のように電気配線H1210に沿って形成されることが好ましい。
【0045】
また、流路形成部材H1101には、吐出口H1107及び流路H1106を取り囲むように、別の溝H1150が形成されている。別の溝H1150は、流路H1106近傍の応力を緩和し、流路H1106近傍の流路形成部材H1101が基板H1110から剥離することを抑制する。
【0046】
次に、基板H1110に形成されている回路について説明する。図2は基板H1110に形成された回路の概略図である。
【0047】
記録素子H1103の一端には、VH電源を供給するためのVH電源パッドH1104cがVH電源配線H1114を介して接続されている。また、記録素子H1103の他端には、第1の駆動素子H1116が接続されている。
【0048】
第1の駆動素子H1116には、GNDH電源を供給するためのGNDH電源パッドH1104dが、GNDH電源配線H1113を介して接続されている。第1の駆動素子H1116は、基板H1110外部より信号が入力される信号線から、シフトレジスタ(S/R)、ラッチ回路(LT)、デコーダ、選択回路H1112を経て入力される信号に応じて記録素子H1103を駆動する。
【0049】
基板H1110にはさらに、記録ヘッド固有の情報を保持するためのヒューズH1117が形成されている。ヒューズH1117は、一例としてポリシリコン抵抗体で形成されており、液体供給口H1102の短辺側方に配置されている。
【0050】
各ヒューズH1117の一端には、IDパッドH1104aが接続され、また、ID電源パッドH1104bが読み出し抵抗H1111を介して接続されている。
【0051】
基板H1110は、各ヒューズH1117を選択的に溶断し、またその溶断の有無によって表される情報を選択的に読み出すための第2の駆動素子H1118を有している。第2の駆動素子H1118は、各ヒューズH1117の他端に接続されている。
【0052】
第2の駆動素子H1118は、第1の駆動素子H1116が成す列の延長方向に配置されている。第2の駆動素子H1118には、第1の駆動素子H1116への選択信号を生成する回路と同様な構造の回路が接続されている。
【0053】
本実施形態の構成では、第1の駆動素子H1116と第2の駆動素子H1118とで、シフトレジスタ(S/R)、ラッチ回路(LT)、デコーダが共用されている。したがって、第1及び第2の駆動素子H1116,H1118の動作は、外部からの、共通の信号線を介した信号によって同様に制御することができる。
【0054】
また、シフトレジスタなどより出力された信号線を経て、第2の駆動素子H1118を最終的に選択する選択回路は、第1の駆動素子H1116用の選択回路H1112と同様な形態である。
【0055】
なお、記録素子H1103にVH電源を供給するためのVH電源パッドH1104cから延びたVH電源配線H1114は記録素子H1103に接続されている。GNDH電源を供給するためのGNDH電源パッドH1104dから延びたGNDH電源配線H1113は、記録素子H1103に接続された第1の駆動素子H1116とヒューズH1117に接続された第2の駆動素子H1118とで共用されている。
【0056】
次に、ヒューズH1117の溶断、およびヒューズH1117からの情報の読み出しについて説明する。
【0057】
ヒューズH1117の溶断時には、IDパッドH1104aは、ヒューズH1117を溶断可能な電圧を印加するヒューズ切断電源端子として機能する。すなわち、IDパッドH1104aに、電圧(例えば記録素子の駆動電圧である24V。)が印加され、選択回路H1112を介して、選択された第2の駆動素子H1118を駆動し、対応するヒューズH1117が溶断される。
【0058】
このとき、ヒューズ読み出し用電源端子であるID電源パッドH1104bはオープンにしておく。
【0059】
一方、ヒューズによる情報の読み出し時には、IDパッドH1104aは、信号出力端子として機能する。具体的には、情報の読み出し時には、ID電源パッドH1104bに別の電圧(例えばロジック回路の電源電圧である3.3V)が印加される。このときに、対応するヒューズH1117が溶断されていればHiレベルが、溶断されていなければ、ヒューズH1117の抵抗値より明らかに大きい読み出し抵抗H1111のためにLoレベルが、IDパッドH1104aに出力される。
【0060】
次に、上記の記録素子基板H1051を有する記録ヘッドの一例について説明する。図3(a),(b)は本実施形態の記録ヘッドの模式的斜視図であり、図4(a),(b)は記録ヘッドの分解斜視図である。
【0061】
本実施形態における記録ヘッドH1000は、液体を貯留している液体貯留部と記録素子基板とが一体的に構成されたカートッリッジ型の記録ヘッドである。
【0062】
記録ヘッドH1000は、記録素子基板H1051、記録素子基板を保持する保持部材H1500、及び電気配線テープH1300を有している。保持部材H1500は、吐出する液体を貯留する液体貯留部を兼ねており、箱型の形状である。
【0063】
保持部材H1500の内部には、フィルタH1700及び液体吸収体H1600が設置されている。さらに、記録ヘッドH1000は、保持部材H1500に対する蓋部材H1900を有し、蓋部材H1900にはシール部材H1800が貼られている。
【0064】
保持部材H1500には、装着ガイドH1560と、係合部H1930と、第1、第2、及び第3の突き当て部H1570,H1580,H1590と、が形成されている。
【0065】
装着ガイドH1560は、記録ヘッドH1000が搭載される後述のキャリッジに、記録ヘッドH1000を案内するために設けられる。この際、係合部H1930が、ヘッドセットレバーによりキャリッジに固定される。なお、キャリッジは記録ヘッドH1000を備えた記録装置に設けられている。
【0066】
突き当て部は、記録ヘッドH1000をキャリッジに対して位置決めするために設けられている。第1の突き当て部H1570はキャリッジの移動方向(図3中のX方向。)に対して、第2の突き当て部H1580は記録媒体の搬送方向(Y方向)に対して、第3の突き当て部H1590は液体の吐出方向(図3中のZ方向。)に対して、記録ヘッドH1000を位置決めする。
【0067】
上述した突き当て部により、記録ヘッドH1000がキャリッジに対して位置決めされることで、電気配線テープH1300上の外部信号入力端子H1302が、キャリッジ内に設けられた電気接続部のコンタクトピンと正確に電気的に接触される。
【0068】
次に、上述したカートリッジタイプの記録ヘッドを搭載可能な記録装置の一例について説明する。図5は、本実施形態の記録装置の一構成例を示す概略図である。図では、記録装置に積載された記録媒体108も描かれている。
【0069】
記録ヘッドH1000は、記録装置に備えられたキャリッジ102に位置決めされた状態で、交換可能に搭載される。キャリッジ102には、記録ヘッドH1000の外部信号入力端子を介して各記録素子に駆動信号を伝達するための電気接続部が設けられている。
【0070】
記録装置には、一方向に延在したガイドシャフト103が設置されている。キャリッジ102は、ガイドシャフト103に沿った方向(以下、主走査方向と呼ぶ。)に移動可能に支持されている。そして、キャリッジ102は、走査モータ104によりモータプーリ105、従動プーリ106およびタイミングベルト107等の駆動機構を介して駆動される。これにより、キャリッジ102の位置および移動が制御される。
【0071】
また、キャリッジ102にはホームポジションセンサ130が設けられている。ホームポジションセンサ130は、キャリッジ102の移動経路の所定の位置に配置された遮蔽板136を検知する。ホームポジションセンサ130が遮蔽板136上にくる位置が、キャリッジ102のホームポジションとなる。
【0072】
また、記録装置は、印刷用紙やプラスチック薄板等の記録媒体108を一枚ずつ分離して給送するオートシートフィーダ(ASF)132を有している。ASF132は、給送モータ135によってギアを介して回転駆動されるピックアップローラ131を有している。
【0073】
記録装置は搬送ローラ109を更に有している。記録媒体108は、搬送ローラ109の回転により、記録ヘッドH1000の吐出口面と対向する位置(以下、プリント部と呼ぶ。)を通って、主走査方向と略直交する方向(副走査方向)に搬送される。
【0074】
搬送ローラ109は、LFモータ134の回転がギアを介して伝達されることで回転される。
【0075】
記録媒体108の搬送経路には、記録媒体108の端部の位置を検出するペーパエンドセンサ133が設けられている。記録媒体108が給送されたかどうかの判定や、給送時の頭出し位置の確定などが、記録媒体108がペーパエンドセンサ133を通過したかどうかを示す検出信号によって行われる。
【0076】
さらに、記録媒体108の後端が実際にどこに有り、実際の後端から現在の記録位置を最終的に割り出すためにも、このペーパエンドセンサ133を使用することができる。
【0077】
なお、記録媒体108は、プリント部においてプラテン(不図示)により支持されている。これにより、プリント部における記録媒体108は平坦な面を形成した状態で保持される。
【0078】
このとき、キャリッジ102に搭載された記録ヘッドH1000は、吐出口面がキャリッジ102から下方へ突出し、記録媒体108に対向するように保持されている。
【0079】
記録ヘッドH1000の吐出口H1107は、副走査方向に沿って列を成して形成されている。そして、記録ヘッドを搭載したキャリッジ102が走査方向に移動しながら、吐出口H1107から液体を吐出して記録媒体108に記録を行なう。
【0080】
本実施形態では、記録素子H1103と吐出口H1107とが対向するように配置された、いわゆるサイドシュータ型の記録ヘッドについて説明したが、記録ヘッドの構成はこれに限定されず種々変更可能である。また、記録ヘッドはカートリッジ型である必要は無い。
【0081】
[第2の実施形態]
本実施形態に係る記録ヘッドは、第1の実施形態の記録ヘッドと比較して、記録素子基板H1051が有する流路形成部材H1101に形成された溝H1200の形状が異なっている。
【0082】
本実施形態の記録ヘッドの基本構成は、第1の実施形態と同様である。図6(a)は、本実施形態の一部破断した記録素子基板の模式的斜視図であり、図6(b)は吐出口面から見た記録素子基板の模式的平面図である。
【0083】
記録素子基板H1051には、記録装置の保持部材H1500と位置決めするためのアライメントマークH1220が形成されている。
【0084】
電気配線H1210は、基板H1110の長手方向とは直交する方向の端部近傍に形成されている。電気配線H1210は、長手方向に延びて形成されているが、アライメントマークH1220が形成されている領域では、アライメントマークH1220を避けるように形成されている。
【0085】
本実施形態においても、流路形成部材H1101を貫通する貫通穴によって記録素子基板H1051に形成される溝H1200は、電気配線H1210に沿って形成されている。具体的には、溝H1200の底面が、基板H1110の一の面H1120に形成された凸条部H1121の頂面H1122に位置している。
【0086】
そのため、溝H1200は、保持部材H1500に接合する際の位置決めに支障をきたさないよう、アライメントマークH1220を避けるように曲部を有している。
【0087】
本実施形態では、一例として、溝H1200の幅を約63.5μmとした。
【0088】
上記のように、溝H1200が曲部を有している場合、当該曲部は滑らかな曲線状に形成されることが好ましい。これは、例えば直角に形成された曲部と比較すると、曲部に集中する応力が緩和されると考えられるからである。
【0089】
本実施形態では、溝H1200の曲部が円弧形状であり、円弧の内径が約51.5μm、外径が約81.5μmである。
【0090】
記録素子基板H1051に設けられた電極部H1104は、保持部材H1500と接合する際の電気配線テープH1300と電気的に接合される(図4参照。)。その後、電極部H1104とその近傍は、エポキシ樹脂を主成分とする封止材(不図示)により封止される。
【0091】
したがって、上記の封止材が溝H1200の内部に流れ込まないように、溝H1200の長手方向の両端部は電極部H1104と十分な距離を置いて形成されていることが好ましい。
【0092】
上記の記録素子基板H1051を用いて、実際に記録ヘッドを作製し、流路形成部材H1101の剥離について調査した。記録ヘッドの作製後、詳細な調査を実施したところ、流路形成部材H1101の底面の縁部に大きな剥離は認められなかった。
【0093】
本実施形態の記録ヘッドに対して、第1の実施形態に記載の試験と同様の試験を実施した。そして、電気配線H1210を詳細に調査したところ、電気配線H1210の腐食は確認されなかった。
【0094】
[第3の実施形態]
本実施形態に係る記録ヘッドは、第1の実施形態の記録ヘッドと比較して、記録素子基板H1051が有する流路形成部材H1101に形成された溝H1200の形状が異なっている。
【0095】
本実施形態の記録ヘッドの基本構成は、第1の実施形態と同様である。図7(a)は、本実施形態の一部破断した記録素子基板の模式的斜視図であり、図7(b)は吐出口面から見た記録素子基板の模式的平面図である。
【0096】
流路形成部材H1101に形成された溝H1200は、第1の実施形態と同様に、電気配線H1210に沿って形成されている。溝H1200は、長手方向に直交する方向の一端部に設けられている。
【0097】
そして、溝H1200の側面は鋸歯状に形成されている。本実施例では、溝H1200の、記録素子基板H1051の中心部(吐出口が形成されている領域。)に近い方の側面が、鋸歯状になっている。
【0098】
本実施形態では、一例として、鋸歯状を成す1つの歯の高さを約15μmとし、歯のピッチを約21μmとした。また、溝H1200の長手方向に直交する方向の幅の最大値が約35μmであり、溝H1200の長手方向に直交する方向の幅の最小値が約20μmである。
【0099】
本形態に限らず、溝H1200の側面全体が鋸歯状に形成されていても良い。
【0100】
上記の記録素子基板H1051を用いて、実際に記録ヘッドを製造し、流路形成部材H1101の剥離について調査した。記録ヘッドの作製後、詳細な調査を実施したところ、流路形成部材H1101の底面の縁部が若干剥離していた。具体的には、鋸歯状の先端部の流露形成部材が若干剥離していた。
【0101】
しかし、第1の実施形態における記録ヘッドと比較すると、流路形成部材H1101の剥離の程度は小さかった。流路形成部材H1101が剥離した領域は、凸条部H1121の側面に達していなかった。
【0102】
本実施形態の記録ヘッドに対して、第1の実施形態で記載した試験と同様の試験を行った後、電気配線H1210を詳細に調査したところ、電気配線H1210の腐食は確認されなかった。
【0103】
このように、溝H1200の側面を鋸歯状にすることにより、流路形成部材H1101の剥離を低減することができる。そのため、電気配線の腐食がさらに抑制され、さらに信頼性の高い記録ヘッドを提供することが可能となる。
【0104】
以上、本発明の望ましい実施形態について提示し、詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、要旨を逸脱しない限り、さまざまな変更及び修正が可能であることを理解されたい。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】(a)は第1の実施形態の記録ヘッドが有する一部破断した記録素子基板の模式的斜視図であり、(b)は吐出口が形成された面から見た記録素子基板の模式的平面図であり、(c)は(b)の1C−1C線に沿った記録素子基板の模式的断面図である。
【図2】記録ヘッドが有する基板の概略図。
【図3】(a)及び(b)は、本実施形態における記録ヘッドの模式的斜視図である。
【図4】(a)及び(b)は、本実施形態における記録ヘッドの分解斜視図である。
【図5】記録ヘッドを備えた記録装置の構成を示す概略図。
【図6】(a)は第2の実施形態に係る記録ヘッドが有する一部破断した記録素子基板の模式的斜視図であり、(b)は吐出口が形成された面から見たときの記録素子基板の模式的平面図である。
【図7】(a)は第3の実施形態に係る記録ヘッドが有する一部破断した記録素子基板の模式的斜視図であり、(b)は吐出口が形成された面から見たときの記録素子基板の模式的平面図である。
【符号の説明】
【0106】
H1000 記録ヘッド
H1051 記録素子基板
H1101 流路形成部材
H1103 記録素子
H1107 吐出口
H1110 基板
H1119 保護膜
H1120 一の面
H1121 凸条部
H1122 頂面
H1200 溝
H1210 電気配線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出するエネルギを発生する記録素子と該記録素子に電力を供給する配線層とを有する基板と、前記基板の一の面に接合され、貫通穴が形成された流路形成部材と、から構成される記録素子基板を有する記録ヘッドおいて、
前記貫通穴によって前記記録素子基板に形成された溝の底面が、前記基板の前記一の面に最も近い前記配線層を構成する電気配線の上面に位置し、かつ前記底面が該電気配線の縁部に位置しないように、該溝が配置されていることを特徴とする、記録ヘッド。
【請求項2】
前記基板の前記一の面には、前記電気配線によって凸条部が形成されており、
前記凸条部の側面に前記溝の底面が位置しないように、前記溝が配置されていることを特徴とする、請求項1に記載の記録ヘッド。
【請求項3】
前記溝が前記電気配線に沿って形成されていることを特徴とする、請求項2に記載の記録ヘッド。
【請求項4】
前記溝の幅が前記電気配線の幅よりも小さいことを特徴とする、請求項3に記載の記録ヘッド。
【請求項5】
前記溝が、前記流路形成部材の長手方向に延びて形成されていることを特徴とする、請求項1から4のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項6】
前記溝が、前記流路形成部材の長手方向と直交する方向における前記流路形成部材の端部近傍に形成されていることを特徴とする、請求項1から5のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項7】
前記溝の側面が鋸歯状に形成されていることを特徴とする、請求項1から6のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項8】
前記基板の前記一の面には、保護膜が形成されていることを特徴とする、請求項1から7のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項9】
前記流路形成部材が樹脂で構成されていることを特徴とする、請求項1から8のいずれか1項に記載の記録ヘッド。
【請求項10】
前記溝は曲部を有し、
該曲部が曲線状に形成されていることを特徴とする請求項1から9のいずれか1項に記載の記録ヘッド。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−30151(P2010−30151A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−194873(P2008−194873)
【出願日】平成20年7月29日(2008.7.29)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】