説明

記録媒体

【課題】 本発明は、情報の高密度化を可能とする記録媒体、特に広い範囲での記録パワーに対して良好な記録信号特性を有する追記型光記録媒体を提供することを主目的とする。
【解決手段】 本発明は、記録層を有し、上記記録層を加熱することにより記録を行う記録媒体であって、上記記録層が、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において分解する物質Aと、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない物質Bとを含有することを特徴とする記録媒体を提供することにより、上記目的を達成するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記録層を加熱することにより記録を行う記録媒体に関する。特には、上記記録媒体がレーザー照射により記録を行う追記型光記録媒体であって、記録層がレーザー加熱による記録層の到達温度において分解する物質と化学反応等の変化を生じない物質とを含有することを特徴とする追記型光記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
文書、音声、画像等の情報を記録するための記録媒体として、磁気材料、光磁気材料、有機色素材料、無機材料からなる相変化材料、等を記録層に用いる記録媒体が従来から知られている。
【0003】
これら記録媒体は、光照射や通電(電流を流すこと)に伴う記録層の加熱や、記録層への磁界の印加等の外部因子を記録層に与えることにより、記録層の物理的パラメータ、例えば、屈折率、電気抵抗、形状、体積、密度等を変化させる。そして、これらの記録媒体は、通常、上記外部因子を記録層に与える前後での上記物理的パラメータ値の差分を利用して情報の記録ひいては再生を行うものである。
【0004】
このような記録媒体の一例として、レーザー光の照射により記録を行う光記録媒体がある。この光記録媒体は、さらに、1回のみ記録が可能で書き換えが不可能な追記型光記録媒体と、繰り返し記録が可能な書き換え型光記録媒体に大別できる。このような光記録媒体のうち、近年、追記型光記録媒体が、情報の改竄が不可能な公文書等の記録に適していること、高速記録に適していること、また製造コストを安価にすることが可能であること等から注目されている。
【0005】
追記型光記録媒体には有機化合物を用いたものや、無機材料を用いた相変化型、合金化型、穴あけ型など多数の方式が提案されているが、これらの中で、特許文献1で開示されているような、記録層薄膜にガスを放出する無機物質を含有させ、レーザー照射による加熱でガスを放出させ、その時に生じる変形により記録を行う方式が、信号振幅が大きくとれること、また繰り返し記録を防止する不可逆性が高いことから有望である。
【0006】
特許文献1によれば、記録層として酸化銀や窒化鉄などの加熱により分解してガスを放出する無機物質を用いると、レーザー照射による加熱でガスが放出され、発生したガスによる空隙、あるいは発生したガスの圧力による記録層界面の凹部が形成される。そして、これらの空隙や凹部などが生じることにより、記録照射部の光学定数や光路長等の光学的条件が変化し、反射率が低下することで大きな信号振幅が得られる。
【0007】
【特許文献1】特開平4−298389号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、上記追記型光記録媒体において、長時間の動画等の大容量データを記録・再生するために、従来と比較してさらなる情報の高密度化が可能となる追記型光記録媒体の開発が望まれている。
【0009】
本発明者の検討によれば、上記したさらなる高密度化が可能となる追記型光記録媒体を得ようとして、上記特許文献1に記載された技術を用いても、実用的に十分な性能を有する光記録媒体が得られないことが判明した。すなわち、レーザー光の照射による加熱で分解する酸化物や窒化物の単体を記録層に用いた光記録媒体では十分な記録特性を得ることができなかった。つまり、記録信号の振幅は十分に大きくとれるものの、良好な記録信号特性を得ることのできる記録パワーの範囲(パワーマージン)が極めて狭く、物質単体からなる記録層の分解を利用した記録媒体においては高密度化が困難であることがわかった。
【0010】
本発明の課題は、以上のような問題点を解決し、従来の記録媒体よりも高密度な記録媒体を実現することにある。特に、従来の追記型光記録媒体よりも高密度記録が必要となる追記型光記録媒体において、広い範囲での記録パワーに対して良好な記録信号特性を有する追記型光記録媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記実情に鑑み鋭意検討した結果、記録時の加熱温度により記録層が到達する温度において分解する物質と、その温度では化学反応等の変化を生じない物質とを含有させることにより、良好な記録信号特性が得られる記録パワーの範囲が広がり、情報の高密度化が可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、記録層を有し、上記記録層を加熱することにより記録を行う記録媒体であって、上記記録層が、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において分解する物質Aと、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない物質Bとを含有することを特徴とする記録媒体を提供する。
【0013】
本発明においては、記録層を加熱することにより情報の記録を行う記録媒体において、加熱時に分解する物質Aを記録層に含有させ、この物質Aの分解によって記録層の屈折率や形状等の物理的なパラメータ値を変化させる。そして、記録時の加熱によって化学反応又は相変化を起こすことのない安定な物質Bを記録層に共存させることで記録層全体に対する分解量を制御し、記録特性の安定化、記録密度の向上を行うことができる。
【0014】
上記発明においては、上記記録層が到達する温度において、上記物質Bが化学反応及び相変化を起こさないことが好ましい。この際、上記記録層が到達する温度において、上記物質Bが分解しない又は化合しないことが好ましい。また、上記記録層が到達する温度において、上記物質Bが融解しない又は昇華しないことが好ましい。物質Bとしてこのような性質を有するものを用いれば、物質Bの安定性をさらに高めることができるからである。
【0015】
また本発明においては、上記物質Aの分解温度と上記物質Bの分解温度又は融点との差が200℃以上であることが好ましい。物質Aの分解温度と物質Bの分解温度又は融点との差が上記範囲であれば、物質Aと物質Bとの役割をより明確にすることができるからである。
【0016】
さらに、本発明の記録媒体は、基板上に記録層を有し、レーザー照射により記録を行う追記型光記録媒体であることが好ましい。本発明の記録媒体が特に追記型光記録媒体である場合には、記録層を、レーザー照射による加熱で分解する物質Aと化学反応又は相変化を起こさない物質Bとの混合から形成することで、高密度な光記録媒体においても広い範囲での記録パワーに対して良好な記録信号特性を得ることが可能となるからである。
【0017】
また本発明においては、上記物質Aが1200℃以下に分解温度をもつ物質であり、上記物質Bが1500℃以下には分解温度及び融点をもたない物質であることが好ましい。レーザー照射による記録層の加熱は1200℃程度が実用的に上限であるので、物質Aは、分解温度を1200℃以下とすることが好ましいのである。また、物質Bとして1500℃以下に分解温度及び融点をもたない物質を用いれば、記録時の加熱やその他の環境変化により分解及びその他の変化が生じることがないからである。
【0018】
さらに本発明においては、上記物質A及び上記物質Bがそれぞれ、窒化物及び/又は酸化物であることが好ましい。窒化物及び酸化物は、粒径が小さく記録信号のノイズを低減できる上、適切な光学定数を有する物質を選択することもできる。さらには、窒化物及び酸化物を物質Aとして用いる場合は、分解による体積変化が大きくなり、より大きな信号振幅が得られる。また、窒化物及び酸化物を物質Bとして用いる場合は、融点が高く反応性の低い物質を選択できることから良好な記録信号特性が得られる。
【0019】
上記の場合、上記物質AがCr、Mo、W、Fe、Ge、Sn、及びSbからなる群から選ばれる1つの元素の窒化物であることが好ましい。また、上記物質BがTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の窒化物であることが好ましい。これらの元素の窒化物が物質A及び物質Bとして適度な範囲に分解温度及び融点をもつ物質であるからである。
【0020】
またこの際、上記物質Aの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素αと、上記物質Bの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素βとが、0.03≦(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))≦0.95の関係を満たすことが好ましい。特には、(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))≦0.7であることが好ましい。上記範囲とすることにより、記録信号の振幅を十分に確保しつつ、良好な記録信号特性が得られる記録パワーの範囲が広げることができるからである。
【0021】
さらに本発明においては、上記記録層の膜厚が4nm以上30nm以下であることが好ましい。この範囲とすることにより、入射レーザー光の吸収が十分であるため記録感度が良好なものとなり、記録信号の振幅も十分な大きさが得られるからである。一方、反射率も十分に確保でき、上記物質Aの分解によるガス放出量も適度な範囲となるので、上記構成の記録層とすることの効果が顕著となるからである。
【0022】
また本発明においては、上記記録層に接して密着層が設けられていることが好ましい。上記密着層を設けることにより、記録時において物質Aが分解する際に、記録層と、記録層に接する層とが剥離することを防ぐことができるからである。
【0023】
この際、上記密着層に接して保護層が設けられていることが好ましい。記録時に、上記記録層と上記保護層との剥離が起きやすいことから、両層の間に密着層を設けることによって層同士の剥離を防ぐことができるからである。
【0024】
また、上記密着層が上記物質Aよりも分解温度が高い物質を含有することが好ましい。上記密着層として、上記物質Aよりも分解温度が高い物質を含有することにより、記録時に上記物質Aが分解しても、上記密着層に含有される材料は分解せず、良好な記録状態を得ることができるからである。
【0025】
さらに、上記密着層がGeN、ZrO、ZnO、およびSiCからなる群から選択される少なくとも1種類を主成分とすることが好ましい。記録時に上記物質Aが分解しても、上記密着層はGeN、ZrO、ZnO、SiCのいずれかを主成分としているので分解せず、良好な記録状態を得ることができるからである。
【0026】
また本発明においては、上記記録層の記録レーザー波長における消衰係数が0.2以上1.6以下であることが好ましい。この範囲であれば、入射レーザー光の吸収が十分となるため記録感度が良好であり、また十分な反射率が得られるからである。
【0027】
なお、本発明において「化学反応」とは、物質がそれ自身あるいは他の物質との相互作用によってほかの物質に変化する現象をいう。具体的には、「物質Bが化学反応を起こす」とは、物質Bが分解すること、又は、物質Bが他の物質と化合することをいう。ここで、「化合」とは、2種以上の元素の原子が互いに化学結合力によって結合することをいう。従って、「物質Bが化合する」とは、物質Bが他の元素の原子や物質等と結合することをいう。
【0028】
また、相変化における「相」とは、固相、液相、及び気相のいずれかを指す。従って、「相変化」とは、固相、液相、及び気相のうちのいずれか2つの相において、いずれか一方の相から他方への相への変化をいう。
【0029】
さらに、「物質」とは、単一の元素又は複数の元素で構成される化合物をいい、常温(25℃)、常湿(50%RH)で通常固体となる物質を有するものをいう。
【0030】
また、物質が「分解する」とは、物質が複数の元素で構成される化合物である場合においては「物質が2種以上のより簡単な物質に変化すること」をいう。
【0031】
物質の「分解温度」とは、物質が複数の元素で構成される化合物である場合においては「物質が2種以上のより簡単な物質に変化する温度」をいう。また、物質の「融点」とは、「物質が融解する温度」をいう。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、情報の高密度化に対応しうる記録媒体を得ることができる。特に、良好な記録信号特性を得られる記録パワー範囲の広い追記型光記録媒体が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができることはいうまでもない。
【0034】
本発明の記録媒体は、記録層を有し、上記記録層を加熱することにより記録を行う記録媒体であって、上記記録層が、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において分解する物質Aと、記録時の加熱によって上記記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない物質Bとを含有することを特徴としている。
【0035】
このような記録媒体は、記録層を加熱することにより屈折率や形状等の記録層の物理的パラメータを変化させ、この物理的パラメータの変化前後の差分を利用して情報の記録ひいては再生を行うものである。
【0036】
記録層の加熱は、例えば、記録媒体に局所的に光照射を行い、光照射によって発生する熱により記録層を加熱する方法(例えば、レーザー光の照射により記録媒体の記録層の加熱を行う方法)がある。また、記録層の加熱は、例えば、記録媒体に局所的に電圧を印加し、そのジュール熱により記録層を加熱する方法によって行ってもよい。記録層の加熱方法は特に限定されない。そして、記録層の加熱により到達した温度において物質Aを分解させて、屈折率、電気抵抗、形状、密度等の記録層の物理的なパラメータ値を変化させる。この場合に、物質Aのみを記録層に含有させると記録層の分解量の制御が困難となる。
【0037】
本発明においては、物質Aとともに記録層の加熱により到達した温度において安定な物質Bを記録層に含有させる。物質Bの存在により物質Aの分解量を制御し、情報記録部の形状(大きさ)の制御、情報の記録位置の制御等を良好に行うことが可能となる。例えば、物質A及び物質Bの含有量を調整することにより、記録マークの大きさや記録マークの形成位置の制御を容易なものとすることができる。
【0038】
具体的には、加熱により記録層が到達する温度において、物質Bが化学反応又は相変化を起こすことのないようにする。物質Bの性質を上記のようにすることにより、安定な記録を行うことができる。
【0039】
より安定な物質Bを得るために、物質Bは、加熱により記録層が到達する温度において、化学反応及び相変化を起こさないことが好ましい。
【0040】
ここで、「物質Bの化学反応」とは、例えば、物質Bが分解する場合、又は、物質Bが他の物質と化合する場合、が挙げられる。また、「物質Bの相変化」とは、例えば、物質Bが融解する場合、又は、物質Bが昇華する場合、が挙げられる。
【0041】
従って、記録層が到達する温度において物質Bが分解しない又は化合しないことが好ましい。同様に、記録層が到達する温度において物質Bが融解しない又は昇華しないことが好ましい。物質Bとして上記性質を有するものを用いることにより、記録マークの大きさや記録マークの位置制御がさらに良好に行えるようになるからである。
【0042】
物質Aと物質Bとの関係を良好に保つために、物質Aの分解温度と物質Bの分解温度又は融点との差は、200℃以上とすることが好ましく、より好ましくは300℃以上、さらに好ましくは500℃以上、特に好ましくは1000℃以上とする。上記範囲とすれば、本発明の効果が顕著に発揮されるからである。
【0043】
一方、物質Aの分解温度と物質Bの分解温度又は融点との差は、大きければ大きいほど好ましいが、現実的には3000℃以下となる。
【0044】
本発明に用いられる物質A及び物質Bは、記録時の加熱により記録層が到達した温度において上記特性を有する物質であれば特に限定されるものではない。このため、上述したような記録層の加熱方法により記録時に記録層が到達しうる温度に応じて、物質A及び物質Bを種々選択することができる。好ましい物質A及び物質Bの種類、物質Aと物質Bとの割合、記録層全体における物質A及び物質Bの割合等については、後述する追記型光記録媒体の記録層を一例としてさらに詳しく説明する。
【0045】
なお、追記型光記録媒体は、本発明に用いる記録媒体の好ましい一例である。従って、以下における物質A及び物質Bに関する説明は、追記型光記録媒体への適用に限定されるものではない。つまり、以下における物質A及び物質Bに関する説明は、追記型光記録媒体以外の記録媒体への適用が可能であることはいうまでもない。
【0046】
本発明の記録媒体の層構成は、少なくとも記録層を有するものであれば特に限定されるものではなく、記録方法に応じて適宜選択することができる。
【0047】
本発明において特に好ましいのは、上記記録媒体を、基板上に記録層を有し、レーザー照射により記録を行う追記型光記録媒体とすることである。追記型光記録媒体は、汎用性が高く高密度化の要請が強い。このため、本発明の記録媒体を追記型光記録媒体とすれば、本発明の効果が顕著に発揮される。
以下、この特に好ましい態様について本発明をより詳細に説明する。当然ながら、本発明に用いられる記録媒体は、下記の追記型光記録媒体の態様に限定されるものではない。
【0048】
[1]追記型光記録媒体
本発明において特に好ましい態様である追記型光記録媒体は、基板上に記録層を有し、一般的には上記記録層にレーザーを照射することにより記録を行うものである。以下、追記型光記録媒体を構成する記録層及び基板について詳しく述べる。
【0049】
(1)記録層
本発明に用いられる記録層は、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において分解する物質Aと、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない物質Bとを含有するものである。
【0050】
本発明においては、記録層に含有させる物質A及び物質Bの関係を以下のようにすることが好ましい。すなわち、物質Aを1200℃以下に分解温度をもつ物質とし、物質Bを1500℃以下には分解温度及び融点をもたない物質とすることが好ましい。以下、物質A及び物質Bを併用する理由、分解温度等を上記範囲とする理由について述べる。
【0051】
物質Aは、レーザー照射による記録層の昇温(通常、1200℃程度が昇温の限界である。)により分解する。低分解温度を有する窒化物や酸化物等、分解してガスを放出する物質を物質Aとして用い、この物質Aのみを記録層に用いて高密度記録を試みると、信号振幅を十分にとることはできる。しかしながら、このような記録層を用いた追記型光記録媒体は、ジッター値などの記録信号特性が不十分であったり、適切な記録信号特性を与える記録パワーの範囲が狭いなどの問題がある。これは、物質Aのみを記録層に用いると、記録マークの大きさを良好に制御できないためであると推測される。すなわち、物質Aのみを記録層に用いると、レーザー照射により生じるガス放出の量が多くなることによって、記録層の変形量が過大となる。このため、高密度記録に必要な小さな記録マークの大きさを精度よく制御することが困難となると考えられる。
【0052】
本発明においては、レーザー照射により分解する物質Aとして、例えばレーザー照射により分解しガスを放出する物質を用いることができる。そして、本発明においては、この物質Aとともに、レーザー照射により化学反応又は相変化あるいはその他の変化を生じない(記録層中に安定に存在する)物質Bを併用することで、高密度記録に適用しても広いパワーマージンが得られるようになる。
【0053】
すなわち、物質A単体からなる記録層と比較して、上記物質Aと上記物質Bとを併用した記録層においては、記録層膜厚が同じであればレーザーの照射による単位面積から放出されるガスの量を低減できる。このため、記録時の変形量も低減でき、記録マークの大きさを精度よく制御することが可能となる。
【0054】
上述のとおり、レーザー照射による記録層の加熱は1200℃程度が実用的に上限である。したがって、物質Aは、記録層の加熱によって記録層が到達する温度において分解する必要があるため、分解温度を1200℃以下とすることが好ましい。但し、物質Aの分解温度が極端に低いと、記録媒体の経時安定性が損なわれる場合があるため、物質Aの分解温度の下限は、通常100℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは200℃以上とする。物質Aの分解温度の下限は、記録媒体が用いられる用途に応じて十分マージンを有するように設定すればよい。
【0055】
一方、物質Bとして、1500℃以下に分解温度及び融点をもたない物質を用いることが好ましい。物質Bとして上記物質を用いれば、記録時の加熱やその他の環境変化により分解及びその他の変化が生じることなく好ましいからである。なお、物質Bの分解温度及び融点の上限は特に限定されないが、通常は3500℃以下に分解温度や融点を有する。
【0056】
(物質A及び物質Bの種類)
物質A及び物質Bとして用いる材料は、本発明における所定の性質を満足するものであれば特に限定されない。上記性質を満足しやすいという理由から、物質A、物質Bともに無機物質を用いることが好ましい。無機物質は、記録層の昇温によって分解する物質及び記録層の昇温によって分解することなく安定に存在する物質がそれぞれ得やすい利点がある。
【0057】
より具体的には、物質A及び物質Bはそれぞれ、窒化物及び/又は酸化物であることが好ましい。窒化物及び酸化物は、粒径が小さく記録信号のノイズを低減可能である点、適切な光学定数(屈折率及び消衰係数)をもつものが選択できる点で優れているからである。
【0058】
また物質Aとして、分解温度に達すると気体窒素又は気体酸素を放出する窒化物及び/又は酸化物を用いれば、このときの体積変化により記録層に大きな変形を生じさせること、また同時に大きな光学変化を生じさせることにより大きな信号振幅が得られるようになる。
【0059】
また物質Bとして、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、分解温度及び融点が1500℃以上の)酸化物及び/又は窒化物を用いれば、極めて安定な物質を選択することが可能となる。さらに、これらの物質は他の物質との反応性も低いため、極めて安定な記録媒体の作製が可能となる。
【0060】
上述したように物質A及び物質Bとしては、窒化物及び/又は酸化物を用いることが好ましい。物質Aとしては窒化物のみ、酸化物のみ、窒化物及び酸化物の混合物、いずれかを選択することができる。同様に、物質Bとしては窒化物のみ、酸化物のみ、窒化物及び酸化物の混合物、いずれかを選択することができる。
【0061】
上記の中でも、物質Aとしては、窒化物のみ、又は、酸化物のみを用いることが好ましい。物質Aとして窒化物及び酸化物の混合物を用いると、記録層を加熱したときに分解する反応が多段階となりマーク形状の制御が困難となる場合があるからである。
【0062】
一方、物質Bは、記録層が加熱された状態で安定に存在すればよいので、窒化物のみ、酸化物のみ、窒化物及び酸化物の混合物のいずれであってもよい。物質Bの種類を適宜選択することによって、記録層の光学特性等の制御を良好に行うことができるようになる。
【0063】
物質Aとして窒化物又は酸化物を用いる場合、用いる窒化物又は酸化物の種類は、1つであっても複数であってもよい。但し、物質A(例えば、1200℃以下に分解温度をもつ物質)は、1種類であることが好ましい。これはレーザー照射による昇温で分解する物質が複数種類あると、記録時の反応が多段階の反応となり、マーク形状の制御が困難となる場合も想定されるからである。
【0064】
一方、上述の通り、物質Bとして用いる、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下に分解温度及び融点をもたない)物質は、用いる窒化物や酸化物それぞれの種類が、1種類であっても複数種類を含有させていても構わない。物質Bに用いる窒化物や酸化物の種類は、記録層に求める特性に応じて適宜選択すればよい。
【0065】
物質Aと物質Bとの組み合わせとしては、窒化物同士、酸化物同士、窒化物と酸化物との組み合わせを用いることができるが、窒化物と窒化物との組み合わせ、又は、酸化物と酸化物との組み合わせとすることが好ましい。すなわち、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ窒化物と、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)窒化物との組み合わせが好ましい。また、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ酸化物と、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)酸化物との組み合わせが好ましい。これらの記録層の作製には反応性スパッタリング法を用いることが多いため、窒化物同士の組み合わせ、酸化物同士の組み合わせが作製上容易となるからである。
【0066】
また、物質Aと物質Bとの好ましい組み合わせとしては、同じ金属あるいは半導体の酸化物と窒化物との組み合わせを挙げることができる。すなわち、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ、金属あるいは半導体の窒化物と、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)、金属あるいは半導体の酸化物との組み合わせが好ましい。また、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ、金属あるいは半導体の酸化物と、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)、金属あるいは半導体の窒化物との組み合わせが好ましい。これらの記録層の作製には反応性スパッタリング法を用いることが多いため、反応性ガスとして酸素及び窒素を含有する混合ガスを利用することで作製上容易となるからである。
【0067】
物質Aとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ金属の窒化物又は半導体の窒化物を用いることが好ましい。このような窒化物としては、Cr、Mo、W、Fe、Ge、Sn、及びSbからなる群から選ばれる1つの元素の窒化物を挙げることができる。これらの中で、安定性、記録後のノイズの低さといった点から、Mo、Ge、Sn、及びSbの窒化物が好ましく、Sn、Sbの窒化物が特に好ましい。
【0068】
また、物質Aとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度(例えば、1200℃)以下に分解温度をもつ金属の酸化物又は半導体の酸化物を挙げることもできる。このような酸化物としては、Ir、Au、Ag、及びPtからなる群から選ばれる1つの元素の酸化物を用いることが好ましい。これらの中で、Au、Ag、Ptの酸化物が安定性、記録後のノイズの低さといった点で特に好ましい。
【0069】
これら、金属の窒化物、半導体の窒化物、金属の酸化物、半導体の酸化物は、記録時に記録層が到達する温度において、窒素又は酸素を放出し、金属又は半導体単体に分解する。
【0070】
物質Aとして上記で例示した金属の窒化物、半導体の窒化物、金属の酸化物、及び半導体の酸化物のいくつかについて、分解温度を表−1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
このように、物質Aとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において分解する性質を有する物質を用いる。当然ながら、記録時の記録層の加熱部分(所定の温度に到達する記録層の領域)中に存在する物質Aが全て分解する必要はない。これは、本発明においては、記録層における記録を行った領域(記録時に所定の温度に到達した領域)の物性値が所望の変化を起こせばよいからである。上記記録を行った領域中に存在する物質Aの分解量は、上記物性値の所望の変化を起こすような量であれば十分である。記録によって分解する物質Aの量は、通常、記録を行った領域中に存在する物質A全体の50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上である。一方、分解する物質Aの量は、多ければ多いほど好ましいが、通常99.9%以下となる。
【0073】
一方、物質Bとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)金属の窒化物又は半導体の窒化物を用いることが好ましい。このような窒化物としては、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の窒化物を挙げることができる。これらの中で、安定性や安価である点から、Ti、V、Nb、Ta、Al、及びSiの窒化物が好ましく、Ti、V、Nb、Ta、Siの窒化物が特に好ましい。最も好ましくは、V、Nbである。
【0074】
また、物質Bとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない(好ましくは、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない)金属の酸化物又は半導体の酸化物を挙げることもできる。このような酸化物としては、Zn、Al、Y、Zr、Ti、Nb、Ni、Mg、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物を用いることが好ましい。これらの中で、Zn、Al、Y、Zr、Nb、Siの酸化物が安定性、記録後のノイズの低さといった点で特に好ましい。
【0075】
物質Bとして上記で例示した金属の窒化物、半導体の窒化物、金属の酸化物、及び半導体の酸化物のいくつかについて、分解温度、融点を表−2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
このように、物質Bとしては、記録時の加熱によって記録層が到達する温度において化学反応(化学反応としては、例えば「分解」又は「化合」を挙げることができる。)又は相変化(相変化としては、例えば「融解」又は「昇華」を挙げることができる。)を起こすことのない物質を用いる。つまり、理想的には、物質Bは、記録時の加熱によって化学反応や相変化を全く起こさないことが好ましい。しかしながら、実際は、記録時の記録層の加熱部分(所定の温度に到達する記録層の領域)中に存在する物質Bは、微量であれば、化学反応又は相変化を起こしてもよい。つまり、記録品質(例えば記録マークの形状や位置)が良好に保たれる限りは、記録時の記録層の加熱部分(所定の温度に到達する記録層の領域)中に存在する物質Bは、全量が安定である必要はないのである。このような、記録によって化学反応又は相変化を起こす物質Bの量は、通常、記録を行った領域中に存在する物質B全体の10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下とする。一方、分解する物質Bの量は、少なければ少ないほど好ましいが、現実的には、0.01%程度の分解は発生すると推測される。
【0078】
(物質Aと物質Bとの割合)
物質A及び物質Bが、それぞれ窒化物及び/又は酸化物で構成される場合には、物質Aの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素αと、物質Bの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素βとが、0.03≦(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))≦0.95の関係を満たすことが好ましい。つまり、記録層中に存在する元素βの原子数が、元素αの原子数と元素βの原子数との合計に対して、0.03以上、0.95以下となることが好ましい。(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))は、0.03以上とするのが好ましいが、0.05以上とすることがより好ましい。この範囲とすることにより、物質Bを添加した効果が十分にあらわれるようになる。一方、(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))は、0.95以下とすることが好ましいが、0.9以下とすることがより好ましく、0.8以下とすることがさらに好ましく、0.7以下とすることが特に好ましい。この範囲とすることにより記録信号の振幅が十分にとれるようになる。
【0079】
物質A又は物質Bとして、窒化物及び/又は酸化物を2種類以上組み合わせて用いる場合は、以下のように考えればよい。すなわち、(αの原子数)を物質Aの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素の原子数の合計とする。また、(βの原子数)を物質Bの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素の原子数の合計とする。そして、(αの原子数)と(βの原子数)とが上記関係を満たすようにすることが好ましい。
【0080】
例えば、物質Aとして1200℃以下に分解温度をもつ窒化物又は酸化物を1種類のみ用い、物質Bとして1500℃以下には分解温度及び融点をもたない窒化物又は酸化物を2種類以上組み合わせて用いる場合、物質Aと物質Bとの割合を以下のようにすることが好ましい。
【0081】
すなわち、1200℃以下に分解温度をもつ窒化物あるいは酸化物をANあるいはAOと表し(例えばAは金属または半導体)、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない1種以上であるn種の窒化物あるいは酸化物をそれぞれB1Ny1・・・・BnNynあるいはB1Oy1・・・・BnOyn(B1・・・Bnは金属元素または半導体元素)と表したとき、下記(1)式で表される原子数比を、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、一方、好ましくは0.95以下、より好ましくは0.9以下、さらに好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下とする。
【0082】
(B1の原子数+・・・・+Bnの原子数)/(Aの原子数+B1の原子数+・・・・+Bnの原子数) (1)
【0083】
上記範囲とすることにより、1500℃以下には分解温度及び融点をもたない窒化物あるいは酸化物を添加した効果が十分に発揮される一方で、記録信号の振幅が十分にとれるようになる。
【0084】
これら記録層の組成の分析は、電子線マイクロアナリシス(EPMA)、X線電子分光分析装置(XPS)、オージェ電子分光法(AES)、ラザフォード・バック・スキャッタリング法(RBS)、誘導結合高周波プラズマ分光法(ICP)等、またはこれらの組み合わせにより同定することができる。
【0085】
(記録層全体における物質Aと物質Bとの割合)
本発明において、記録層は、物質A及び物質Bを主成分とすることが好ましい。
【0086】
ここで、本発明において、「所定材料(所定材料は、「所定物質」又は「所定組成」と読み替えてもよい)を主成分とする」とは、材料全体又は層全体のうち、上記所定材料の含有量が50重量%以上であることを意味する。
【0087】
本発明の効果を有効に発揮するためには、記録層全体のうち、物質Aと物質Bとの合計量が、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上含有される。
【0088】
また、記録層としては物質A及び物質Bの他に、記録層の光学定数及び熱伝導度を調整する目的で、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Co、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Al、Si、Ge、Sn、Sb、Bi及びランタノイド金属等の金属及び半導体の単体や半酸化物が、記録層全体のうち、30重量%以下、好ましくは20重量%以下、より好ましくは10重量%以下の割合で含まれていてもよい。一方、通常、上記金属及び半導体の単体や半酸化物を含有させる場合は、通常0.001重量%以上含有させる。上記範囲とすれば、上記金属及び半導体の単体や半酸化物を含有させる効果を良好に得ることができる。
【0089】
ここで、「半酸化物」とは酸化物の化学量論的な組成から酸素が欠損している状態のものをあらわす。
【0090】
これらの金属及び半導体の単体ならびに半酸化物はレーザー照射による昇温で溶融や酸化状態の変化が生じることがある。しかしながら、これらの変化は、一般的に物質Aの分解と比較して小さい変化である。このため、記録層全体に占める割合が上記範囲にあれば、上記変化は、記録特性に深刻な影響を与えない。そして、上記金属及び半導体の単体ならびに半酸化物を、光学定数や熱伝導度の調整といった目的に使用することができる。
【0091】
(記録層のその他の特性)
本発明において、記録層の消衰係数は、用途に応じて適宜決定されるものであるが、記録層の消衰係数の下限は、記録再生に用いるレーザーの波長において、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.3以上とする。この範囲とすれば、記録層での入射レーザー光の吸収が十分となり記録感度が良好になる。一方、上記消衰係数の上限は、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.4以下、特に好ましくは1.2以下とする。この範囲とすれば、記録層での光吸収が大きすぎて十分な反射率を得ることができなくなるということがなくなる。
【0092】
なお、本発明において、消衰係数の測定は、屈折率とともにエリプソメトリーにより測定することができる。
【0093】
また、記録層の膜厚は、用途に応じて適宜決定されるものである。記録層の膜厚の下限は、通常4nm以上、好ましくは6nm以上とする。この範囲とすることにより、入射したレーザー光の吸収が大きくなり感度が良好となる上、記録信号の振幅も十分にとれるようになる。一方、記録層の膜厚の上限は、通常30nm以下、好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下とする。この範囲とすることにより、記録層での吸収が大きくなりすぎて反射率が低下するということがなくなる、あるいは、ガス放出量が大きくなりすぎて物質B(好ましくは、1500℃以下に分解温度及び融点をもたない窒化物あるいは酸化物)を添加した効果が小さくなるということがなくなる。
【0094】
(記録層の製造方法)
本発明において記録層は、通常スパッタリング法によって製造される。例えば、真空チャンバー内で微量のArガスを流して所定の真空圧力にして、物質Aからなるターゲットと物質Bからなるターゲットとに、電圧を加え放電させ成膜するスパッタリング法によって製造することができる。また、例えば、真空チャンバー内で微量のArガスを流して所定の真空圧力にして、物質Aと物質Bとの混合物からなるターゲットに、電圧を加え放電させ成膜するスパッタリング法によって製造することができる。
【0095】
物質A及び物質Bとして、金属の窒化物や酸化物、又は半導体の窒化物や酸化物を用いる場合には、以下の反応性スパッタリング法による製造方法を用いることもできる。すなわち、真空チャンバー内で微量のAr、N又はOの混合ガスを流し、所定の真空圧力にする。そして、その窒化物又は酸化物が物質Aとなるような金属又は半導体と、その窒化物又は酸化物が物質Bとなるような金属又は半導体との混合物からなるターゲットに電圧を加え放電させる。そして、弾きだされた金属又は半導体の複合をNまたはOにて反応させて窒化物又は酸化物にして成膜することにより、反応性スパッタリングを行う。
【0096】
また、混合物のターゲットを用いず、複数の単体のターゲットから同時に放電させるコスパッタリング法により形成してもよい。
【0097】
(2)基板
本発明の記録媒体が特に追記型光記録媒体である場合は、上記記録層は基板上に形成される。
【0098】
本発明の追記型光記録媒体に用いられる基板としては、ポリカーボネート、アクリル、ポリオレフィンなどの樹脂;ガラス;アルミニウム等の金属;を用いることができる。通常、基板には深さ15〜250nm程度の案内溝が設けられているので、案内溝を成形によって形成できる樹脂製の基板が好ましい。また、記録再生用の集束光ビームが基板側から入射する、いわゆる基板面入射(図5、6参照)の場合は、基板は透明であることが好ましい。
【0099】
このような基板の厚さは、用途に応じて適宜決定されるものであり、通常下限が0.3mm以上、好ましくは0.5mm以上であり、上限が通常3mm以下、好ましくは2mm以下である。
【0100】
(3)その他の層
本発明の追記型光記録媒体は、少なくとも基板と記録層とを有するものであればよい。このため、層構成は特に限定されるものではない。例えば、本発明の追記型光記録媒体は、記録層の少なくとも一方の面に耐熱性の保護層を設けることもできる。また、例えば、本発明の追記型光記録媒体は、記録層のレーザー照射する面とは反対側に反射層を設けることもできる。このように、本発明の追記型光記録媒体は、特定の機能を有する層を積層した任意の多層構造とすることができる。
【0101】
また、これらの層はそれぞれ2層以上で形成されていてもよく、それらの間に中間層が設けられていてもよい。例えば、集束光ビームが基板側から入射する場合の基板/保護層間や、基板とは反対側から集束光ビームが入射する場合の保護層上に、半透明の極めて薄い金属、半導体、吸収を有する誘電体層等を設けてもよい。このような誘電体層により、例えば、記録層に入射する光エネルギー量を制御することが可能となる。以下、本発明の追記型光記録媒体の層構成について具体例を挙げて詳しく説明するが、本発明は下記具体例に限定されるものではない。
【0102】
[2]追記型光記録媒体の実施態様の一例
図1は本発明に用いることができる追記型光記録媒体の一例を示す拡大断面図である。図1に示すようにこの追記型光記録媒体は基板1上に反射層2、反射層側の保護層3、記録層4、レーザー光入射側の保護層5、光透過層6をこの順序で順次積層して構成されており、光透過層6側からレーザー光を入射して記録及び再生を行うものである。
【0103】
層構成は図1の構成に限定する必要はない。例えば、図2に示すように、図1の構成から反射層2と保護層3との間に拡散防止層7を設けた層構成を採用することもできる。あるいは図3、4に示すように図1、2で示す構成に基板1と反射層2の間に下地層8を設けた層構成を採用することもできる。あるいは図10に示すように記録層4と保護層3との間、記録層4と保護層5との間に密着層10を設けた層構成(当然ながら、密着層10は、記録層4と保護層3との間、又は、記録層4と保護層5との間のいずれか一方のみに設けてもよいことはいうまでもない。)を採用することもできる。さらには、図11に示すように保護層3を密着層10で置き換える層構成(当然ながら、保護層5を密着層10で置き換えてもよいことはいうまでもない。)を採用することもできる。ここで、求められる性能に応じて上記層構成と適宜組み合わせてよいことはいうまでもない。
【0104】
また図5、6に示すように図1、2で示す層構成を基板に対して逆順に積層することにより、基板面入射型光記録媒体とした層構成を採用することもできる。また、基板面入射型光記録媒体において、上記拡散防止層7や上記密着層10を適宜用いてもよいことはいうまでもない。
【0105】
その他、本発明の追記型光記録媒体としては、保護層や反射層を2層とした構成等も広く適用できる。以下、各層について詳しく説明する。
【0106】
(1)記録層4
記録層4は、上記[1]で説明したとおりである。
【0107】
(2)基板1
基板1は、上記[1]で説明したとおりである。
【0108】
(3)反射層2
反射層2は、Ag又はAg合金の他、例えばAl、Au及びこれらを主成分とする合金など種々の材料を用いることができる。
【0109】
反射層の材料としては、熱伝導率が高く放熱効果が大きいAgあるいはAlを主成分とする合金を用いるのが好ましい。
【0110】
本発明に適した反射層の材料をより具体的に述べると、純Ag、又はAgにTi、V、Ta、Nb、W、Co、Cr、Si、Ge、Sn、Sc、Hf、Pd、Rh、Au、Pt、Mg、Zr、Mo、Cu、Nd及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAg合金を挙げることができる。経時安定性をより重視する場合には、添加成分としてTi、Mg、Au、Cu、Nd又はPdを1種類以上用いることが好ましい。
【0111】
また、反射層の材料の他の好ましい例としては、AlにTa、Ti、Co、Cr、Si、Sc、Hf、Pd、Pt、Mg、Zr、Mo及びMnからなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を含むAl合金を挙げることができる。これらの合金は、耐ヒロック性が改善されることが知られているので、耐久性、体積抵抗率、成膜速度等を考慮して用いることができる。
【0112】
上記AgやAlに含有させる他の元素の量は、通常0.1原子%以上、好ましくは0.2原子%以上である。Al合金に関しては、上記元素の含有量が少なすぎると、成膜条件にもよるが、耐ヒロック性が不十分であることが多い。一方、上記元素の含有量は、通常5原子%以下、好ましくは2原子%以下、より好ましくは1原子%以下である。多すぎると反射層の抵抗率が高くなる(熱伝導率が小さくなる)場合がある。
【0113】
Al合金を用いる場合は、Siを0〜2重量%、Mgを0.5〜2重量%、Tiを0〜0.2重量%含有するAl合金を使用することもできる。Siは微細剥離欠陥を抑制するのに効果があるが、含有量が多すぎると経時的に熱伝導率が変化することがあるので、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下とする。またMgは、反射層の耐食性を向上させるが、含有量が多すぎると経時的に熱伝導率が変化することがあるので、通常2重量%以下、好ましくは1.5重量%以下とする。Tiの含有量は、通常0.2重量%以下とする。 Tiは、スパッタリングレートの変動を防ぐという効果がある。但し、Tiの含有量が多すぎると、反射層の熱伝導率が低下するとともに、Tiがミクロレベルで均一に固溶したバルクの鋳造が困難となり、ターゲットコストを上昇させる傾向がある。このため、Tiの含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0114】
反射層の厚さは、通常40nm以上、好ましくは50nm以上、一方、通常300nm以下、好ましくは200nm以下とする。膜厚が厚すぎると、面積抵抗率を下げることはできても十分な放熱効果は得られないのみならず、記録感度が悪化しやすい。これは、単位面積当たりの熱容量が増大しそれ自体の放熱に時間がかかってしまい、放熱効果がかえって小さくなるためと考えられる。また、膜厚を厚くするに従って成膜に時間がかかり、材料費も増える傾向にある。また、膜厚が薄すぎると、膜成長初期の島状構造の影響が出やすく、反射率や熱伝導率が低下することがある。
【0115】
反射層は通常スパッタリング法や真空蒸着法で形成されるが、ターゲットや蒸着材料そのものの不純物量や成膜時に混入する水分や酸素量も含めて、全不純物量を2原子%未満とするのが好ましい。このために反射層をスパッタリング法によって形成する際、プロセスチャンバの到達真空度は1×10−3Pa未満とすることが望ましい。
【0116】
また、10−4Paより悪い到達真空度で成膜する場合、成膜レートを1nm/秒以上、好ましくは10nm/秒以上として不純物が取り込まれるのを防ぐことが望ましい。あるいは、意図的な添加元素を1原子%より多く含む場合は、成膜レートを10nm/秒以上として付加的な不純物混入を極力防ぐことが望ましい。
【0117】
さらなる高熱伝導と高信頼性を得るために反射層を多層化することも有効である。この場合、少なくとも1層は全反射層膜厚の50%以上の膜厚を有する上記材料とするのが好ましい。通常、この層は実質的に放熱効果を司り、他の層が耐食性や保護層との密着性、耐ヒロック性の改善に寄与するように構成される。
【0118】
(4)保護層3及び5
保護層3及び保護層5は、通常、以下の3つの役割を有する。すなわち、記録層での記録時に発生する熱が基板などの他の層に拡散するのを防止する役割、光記録媒体の反射率を干渉効果により制御する役割、及び、高温・高湿環境下での水分を遮断するバリア層としての役割である。
【0119】
保護層を形成する材料としては、通常、誘電体材料を挙げることができる。誘電体材料としては、例えば、Sc、Y、Ce、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、Al、Cr、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びTe等の酸化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びPb等の窒化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、及びSi等の炭化物;を挙げることができる。さらに、これら酸化物、窒化物及び炭化物の混合物を挙げることができる。また、誘電体材料としては、Zn、Y、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBi等の硫化物、セレン化物もしくはテルル化物、Mg、Ca等のフッ化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0120】
これら材料の中でも、ZnS−SiO、SiN、Ta、YS等が成膜速度の速さ、膜応力の小ささ、温度変化による体積変化率の小ささ及び優れた耐候性から広く利用される。
【0121】
保護層の膜厚は、光記録媒体中で保護層が用いられる位置によりその膜厚が異なる。但し、一般的には保護層の膜厚は、保護層として機能するために5nm以上が好ましい。一方、保護層を構成する誘電体自体の内部応力や接している膜との弾性特性の差を小さくし、クラックが発生しにくくするためには、膜厚を500nm以下とするのが好ましい。一般に、保護層を構成する材料は成膜レートが小さく成膜時間が長い。成膜時間を短くして製造時間を短縮することによりコストを削減するためには、保護層膜厚を300nm以下に抑えるのが好ましい。保護層の膜厚は、より好ましくは200nm以下とする。
【0122】
保護層は光記録媒体中で保護層が用いられる位置により、その求められる機能が異なるので、保護層が用いられる位置によりその膜厚が異なる。
【0123】
図1〜6及び図10〜12におけるレーザー光入射側の保護層5の膜厚は、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、より好ましくは30nm以上である。上記範囲とすれば、基板や記録層の熱による変形を抑制する効果が十分となり、保護層の役目を十分果たすようになる。一方、通常500nm以下、好ましくは300nm以下、より好ましくは200nm以下である。膜厚が過度に厚すぎると膜自体の内部応力によりクラックが発生しやすくなり生産性も劣ることとなる。上記範囲とすればクラックの発生を防ぎ、生産性も良好に保つことができるようになる。
【0124】
一方、図1〜6、図10及び図12における反射層側の保護層3の膜厚は、通常2nm以上、好ましくは4nm以上、より好ましくは6nm以上とする。この範囲とすれば、記録層の過度の変形を有効に抑制できるようになる。一方、反射層側の保護層3の膜厚は、通常100nm以下、好ましくは80nm以下である。この範囲とすれば、記録層に対する冷却効果が得られ、記録マーク長の制御性を確保できるようになる。
【0125】
保護層は通常スパッタリング法で形成されるが、ターゲットそのものの不純物量や成膜時に混入する水分や酸素量も含めて、全不純物量を2原子%未満とするのが好ましい。このために保護層をスパッタリング法によって形成する際、プロセスチャンバの到達真空度は1×10−3Pa未満とすることが望ましい。
【0126】
(5)光透過層6
光透過層6は、スパッタ膜を水分や塵埃から保護すると同時に薄い入射基板としての役割も必要とされる。したがって、記録・再生に用いられるレーザー光に対して透明であると同時にその厚さは50μm以上150μm以下が好ましい。また、光透過層6の膜厚分布は、光記録媒体内で5μm以内の均一な厚み分布を実現することが好ましい。光透過層6は、通常、紫外線硬化樹脂をスピンコート法により塗布した後硬化することで、あるいは透明シートを貼り合せることで形成される。
【0127】
(6)拡散防止層7
拡散防止層7は、反射層側保護層3に用いられる誘電体の成分の金属反射層2への拡散を防止することを一目的とする。反射層2には優れた熱伝導性や経済性の点から銀または銀合金が広く利用されている。一方で反射層側の保護層3としては成膜後の膜応力が小さいこと、耐熱性に優れていること、成膜レートが速いこと、等からZnS−SiOが広く利用されている。この両者を図1、3、5に示すように反射層2、反射層側保護層3として直接に接して設けた場合、反射層側の保護層3のZnS−SiO中の硫黄が銀または銀合金からなる反射層2へと拡散し、反射率の低下、あるいは反射層の熱伝導度の低下といった弊害を招くおそれがある。このため拡散防止層7を設けることで、上記拡散を防止し保存安定性を向上させることが好ましい。
【0128】
したがって、拡散防止層7の材料は、それ自身が極めて安定であり、反射層材料(特に銀又は銀合金)に対して拡散しにくい(特に銀又は銀合金との物質や固溶体を形成しにくい)材料を用いる。他方で、拡散防止層7の材料は、保護層に含まれる硫黄との反応性が低いか、その硫化物が化学的に安定なものが用いられる。
【0129】
拡散防止層7の材料としては、反射層内に拡散しにくい、反射層との密着性がよい、保護層材料を拡散しにくい、保護層との密着性がよい、等の条件を満たすものが好ましい。これらの条件を満たす限り、拡散防止層7の材料は、金属、半導体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、半導体酸化物、半導体窒化物、半導体炭化物、フッ化物、非晶質カーボン等などの単体もしくは混合物から適宜選択して用いることができる。上記条件を満たす金属及び半導体としては、例えばSi、Ti、Cr、Ta、Nb、Pd、Ni、Co、Mo、W等が挙げられる。これらの中でCr、Ta、Nb、Ni、Moが密着性及び反射層と反応性が低い点で好ましい。また化合物としてはSiN、SiO、SiC、GeN、ZnO、Al、Ta、TaN、Nb、ZrO、希土類元素酸化物、TiN、CrN、CaF、MgF等が挙げられる。これらの中ではSiN、GeN、ZnO、Nbが密着性及び反射層と反応性が低い点で好ましい。
【0130】
以上単体からなる例を挙げたが、これらの混合物を挙げることもできる。このような物質の代表例としてGe−Nを用いた例を示すと、Ge−Si−N、Ge−Sb−N、Ge−Cr−N、Ge−Al−N、Ge−Mo−N、Ge−Ti−N等が挙げられる。すなわち、Geとともに、Al、B、Ba、Bi、C、Ca、Ce、Cr、Dy、Eu、Ga、In、K、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Si、Sb、Sn、Ta、Te、Ti、V、W、Yb、Zn、及びZr等を含有したものが挙げられる。
【0131】
拡散防止層7は1層のみから構成されていても、2層以上からなる多層構造であってもよい。また、拡散防止層は通常スパッタリング法又は反応性スパッタリング法により形成される。
【0132】
このような拡散防止層7の厚さは、用途に応じて適宜決定されるものであり、通常下限が1nm以上、好ましく2nm以上であり、上限が20nm以下、好ましくは10nm以下である。
【0133】
(7)下地層8
下地層8は、通常、基板1と反射層2の間の剥離を抑制する効果がある。このため、より耐候性に優れた記録媒体を得ることが可能となるので、下地層8を基板1と反射層2との間に設けることが好ましい。前述のとおり、下地層8は、温度変化時に生じる基板1と反射層2の界面で膜剥離を抑制する目的で形成されている。
【0134】
下地層8の材料は、上記目的を満たすものであれば特に制限されない。例えば、下地層8の材料としては、基板1及び反射層2に対し良好な密着性をもち、反射層2を腐蝕させず、また反射層2に対して拡散せず、成膜表面の平坦性に優れたものが好ましい。下地層8の材料は、上記条件を満たす限り、金属、半導体、金属酸化物、金属窒化物、金属炭化物、半導体酸化物、半導体窒化物、半導体炭化物、フッ化物、非晶質カーボン等などの単体もしくは混合物から適宜選択して用いることができる。上記を満たす金属及び半導体としては、例えばSi、Ti、Cr、Ta、Nb、Pd、Ni、Co、Mo、W等が挙げられる。これらの中でCr、Ta、Nb、Niが密着性及び反射層と反応性が低い点で好ましい。また、化合物としてはSiN、SiO、SiC、GeN、ZnO、Al、Ta、TaN、Nb、ZrO、希土類元素酸化物、TiN、CrN、CaF、MgF等が挙げられる。これらの中ではSiN、GeN、ZnO、Nbが密着性及び反射層と反応性が低い点で好ましい。
【0135】
以上単体からなる例を挙げたが、これらの混合物を挙げることもできる。このような物質の代表例としてGe−Nを用いた例を示すと、Ge−Si−N、Ge−Sb−N、Ge−Cr−N、Ge−Al−N、Ge−Mo−N、Ge−Ti−N等を挙げることができる。すなわち、Geとともに、Al、B、Ba、Bi、C、Ca、Ce、Cr,Dy、Eu、Ga、In、K、La、Mo、Nb、Ni、Pb、Pd、Si、Sb、Sn、Ta、Te、Ti、V、W、Yb、Zn、及びZr等を含有したものが挙げられる。
【0136】
また下地層8は必ずしも単一材料の1層構成である必要はなく、複数の材料を積層した多層構造であってもよい。例えば基板上にZnS−SiOの混合物、Ge−Ce−Nを積層した2層構成が考えられる。この構成ではZnS−SiOが基板との密着性に優れ、さらにGe−Cr−Nが存在することで反射層に銀や銀合金を用いた場合においてもZnS−SiO中の硫黄による腐蝕を防止することができる。
【0137】
下地層8は基板1上に均一に形成される厚さで十分であり、逆に厚くなると製造コスト・製造時間の増大の他、基板1の溝形状の変化などが生じる。よって膜厚は2nm以上20nm以下が好ましい。また他の層と同じくスパッタリング法又は反応性スパッタリング法により作製する。
【0138】
(8)保護コート層9
基板面入射型の追記型光記録媒体とする場合は、図5、6に示すように、その最表面側に、空気との直接接触及び異物との接触による傷を防ぐため、保護コート層9を設けるのが好ましい。保護コート層9の材料は、上記機能を有するものであれば特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂、UV硬化性樹脂等の有機材料や、SiO、SiN、MgF、SnO等の無機材料を用いることができる。
【0139】
保護コート層9は、通常スピンコート法やキャスト法等の塗布法、又はスパッタリング法等により形成される。保護コート層9の材料として熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などを用いる場合は、適当な溶剤に溶解して塗布し、乾燥することにより形成される。UV硬化性樹脂を用いる場合は、そのままか、適当な溶剤に溶解して塗布し、UV光を照射して硬化させることにより形成される。これらの材料は1種単独で用いても、2種類以上を組み合わせて用いることもできる。また、保護コート層9を2層以上からなる多層膜とすることもできる。保護コート層9の厚さは、用途に応じて適宜決定されるものであり、通常下限が0.1μm以上、好ましくは0.5μm以上であり、上限が通常100μm以下、好ましくは50μm以下である。
【0140】
(9)密着層10
記録層4と保護層3及び/又は保護層5との間に密着層を設けてもよい。本発明の記録媒体に用いる記録層においては、記録時に記録層が到達する温度において物質Aが分解するが、この物質Aの分解時に、記録層4とそれに接する層(図1〜6においては保護層3又は保護層5)とが剥がれる場合がある。具体的には、追記型光記録媒体に対してレーザーを照射して記録を行うと保護層3又は保護層5が記録層4から剥離する場合がある。このような場合、記録層4に接して密着層10を設けることが好ましい。そして、この密着層10に接して保護層3及び/又は保護層5を設けることが好ましい。具体的には、図10に示すように密着層10を、記録層4と保護層3との間、及び/又は、記録層4と保護層5との間に設けることが好ましい。特に、記録層4とその前に成膜される保護層(図10では保護層3となる。)との間において記録後の剥離が起きやすい傾向にあるため、記録層4と保護層3との間に密着層10を挿入することがより好ましい。
【0141】
また、密着層10の材料として保護層3又は保護層5としても用いることができる材料を用いる場合には、保護層3及び/又は保護層5の代わりに密着層10を用いてもよい。このような光記録媒体の一例として、図11に、保護層3の代わりに密着層10を用いた光記録媒体を示す。
【0142】
密着層10の材料としては、通常、誘電体材料を挙げることができる。誘電体材料としては、例えば、Sc、Y、Ce、La、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Zn、 Al、Cr、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びTe等の酸化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Sb、及びPb等の窒化物;Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Zn、B、Al、Ga、In、及びSi等の炭化物;を挙げることができる。さらに、上記酸化物、上記窒化物、及び上記炭化物の混合物を挙げることができる。また、誘電体材料としては、Zn、Y、Cd、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、及びBi等の硫化物、セレン化物もしくはテルル化物、Mg、Ca等のフッ化物、又はこれらの混合物を挙げることができる。
【0143】
これらの材料のうち、耐熱性や記録層4と保護層3及び保護層5との接着性や工業的な得やすさの点から好ましい材料は以下の通りである。すなわち、Y、Zr、Nb、Zn、Al、Si、及びSnからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の酸化物;Ge及び/又はCrの窒化物;Siの炭化物;である。無論、上記酸化物、窒化物、炭化物の混合物を用いることも好ましい。工業的により好ましいのは、Sn−Nbの酸化物(Sn酸化物とNb酸化物との混合物であってもよい)、Zrの酸化物、Yの酸化物、Siの酸化物、Znの酸化物、Alの酸化物、Geの窒化物、Ge−Crの窒化物(Ge窒化物とCr窒化物との混合物であってもよい)、Siの炭化物である。特に好ましいのは、GeN、ZrO、ZnO、およびSiCからなる群から選択される少なくとも1種類を主成分(密着層全体の50原子%以上含有)とすることである。また、混合物として用いる場合の工業的に特に好ましい組み合わせは、Zrの酸化物、Yの酸化物、及びSiの酸化物の組み合わせ、又は、Znの酸化物とAlの酸化物との組み合わせである。
無論、上記材料は任意の組み合わせ及び比率で複数用いてもよいことはいうまでもない。
【0144】
密着層10に用いる材料として特に好ましいのは、記録層に用いる物質Aよりも分解温度の高い物質を用いることである。つまり、密着層10に用いる材料の分解温度が物質Aの分解温度以下である場合には、室温において、密着層10の材料の分解が一部起こり追記型光記録媒体の保存安定性が低下する傾向となる。また、記録時に記録層が到達する温度において、物質Aが分解する以前又は物質Aが分解すると同時に密着層10に含有される材料が分解すると、所望の記録状態を得ることができない場合もある。この場合、密着層10に用いる材料は、記録層に用いる物質Aに比較して相対的に分解温度が高い材料であればよい。例えば、物質AとしてSn窒化物(表−1より分解温度が340℃程度)を用いる場合には、Ge窒化物(表−1より分解温度は700℃程度)やCr窒化物(表−1より分解温度は1080℃程度)のように、物質Aとして一般的に用いることができる材料も密着層10に用いることができる。
【0145】
上記材料の密着層10中での含有量は、通常50重量%以上、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、特に好ましくは90重量%以上、最も好ましくは95重量%以上とする。記録層4と保護層3又は保護層5との接着性を確保する観点から、上記材料の含有量は多ければ多いほど好ましいが、密着層形成時に不可避的に含有される不純物(例えば酸素)が存在するため、上記材料の含有量の上限は99.9重量%程度となるのが通常である。
【0146】
密着層10の膜厚は、通常1nm以上、好ましくは2nm以上、より好ましくは3nm以上、一方、通常50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下とする。膜厚を上記範囲とすれば、記録層4と保護層3又は保護層5との接着性を良好に確保することができ、記録層へのレーザーの透過率を十分確保することもできる。
【0147】
密着層10の製法としては、公知のスパッタリング法を用いればよい。具体的には、真空チャンバー内で微量のArガスを流し、所定の真空圧力にして、密着層に含有させる所定の材料からなるターゲットに電圧を加え放電させ成膜するスパッタリング法によって製造することができる。
【0148】
また、密着層10が酸化物、窒化物、窒酸化物から形成される場合には、以下に示すような反応性スパッタリング法を用いることができる。すなわち、真空チャンバー内で微量のAr、N及び/又はOの混合ガスを流し、所定の真空圧力にする。そして、所定の材料からなるターゲットに電圧を加え放電させる。そして、ターゲットから弾きだされた元素単体または複数の元素の複合をN及び/又はOで反応させ窒化物、酸化物、窒酸化物にして成膜するのである。上記反応性スパッタリングを用いると、真空チャンバー内に流すAr、N及び/又はO混合ガスのN分圧及び/又はO分圧(具体的には、ArとN及び/又はOとの混合ガス全体に対する、N及び/又はO混合ガスの流量)を変化させることで窒化量、酸化量を変化させることが可能となる。
【0149】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0150】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明する。
(実施例1)
本実施形態の例として、図4に示した構成の光記録媒体を作製した。基板1には厚さ1.1mm、直径120mmのディスク状ポリカーボネート樹脂を用いた。下地層8にはTaを用いた。反射層2には、Ag−Cu−Ndからなる合金を用いた。拡散防止層7にはGe−Cr−Nを用いた。保護層3、5にはZnS−SiOからなる混合物を用いた。記録層4には物質Aとして窒化スズ(Sn窒化物)、及び物質Bとして窒化タンタル(Ta窒化物)を用いた。
【0151】
光透過層6については、粘度3000mPa・sの未硬化(未重合)のアクリル酸エステル系紫外線硬化剤を、保護層の中央付近に2.5g滴下し、1500rpmで6秒間回転延伸した後に、紫外線を照射し硬化(重合)することで作製した。紫外線照射時には酸素による重合阻害作用を防止するため、窒素パージにより酸素濃度を5%以下とした。光透過層6の膜厚は、95〜105μmの範囲になるようにした。なお、膜厚の測定は、光透過層6の硬化後に機械的に光透過層を剥離しマイクロメータを用いて測定した。
【0152】
基板1と光透過層6以外の多層膜作製にはスパッタリング法を用いた。各層の成膜条件及び膜厚は、以下のとおりとした。
【0153】
(A)下地層8
・スパッタリングターゲット Ta
・スパッタ電力 DC500W
・Arガス圧 0.18Pa
・膜厚 10nm
(B)金属反射層2
・スパッタリングターゲット Ag97.4Cu0.9Nd0.7(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 80nm
(C)拡散防止層7
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+Nガス圧 0.18Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.5
・膜厚 3nm
(G)反射層側保護層3
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 22nm
(D)記録層4
・スパッタリングターゲット Sn及びTa(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC210W
Ta RF300W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
(G)レーザー光入射側保護層5
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 50nm
【0154】
上記構成の光記録媒体を実施例1とする。このとき記録層におけるSnとTaとの組成比はEPMA法にて組成分析を行った結果、原子数比Ta/(Sn+Ta)で0.04であった。
【0155】
さらに実施例1において記録層のみを以下の条件に変え成膜した他は同じ構成をもつ実施例2〜4を作製した。
【0156】
(実施例2)
・スパッタリングターゲット Sn及びTa(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC210W
Ta RF500W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0157】
(実施例3)
・スパッタリングターゲット Sn及びTa(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC210W
Ta RF700W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0158】
(実施例4)
・スパッタリングターゲット Sn及びTa(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC210W
Ta RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0159】
実施例2〜4においても同様に記録層におけるSnとTaとの組成比はEPMA法にて組成分析を行った結果、それぞれ原子数比Ta/(Sn+Ta)で0.09、0.15、0.23であった。
【0160】
(実施例5〜8)
実施例1において、記録層4で用いる物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化バナジウム(V窒化物)に変更したこと以外は実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例5)。
【0161】
実施例1において、記録層4で用いる物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化ニオブ(Nb窒化物)に変更したこと以外は実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例6)。
【0162】
実施例1において、記録層4で用いる物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化チタン(Ti窒化物)に変更したこと以外は実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例7)。
【0163】
実施例1において、記録層4で用いる物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化チタン(Ti窒化物)及び窒化ケイ素(Si窒化物)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例8)。
【0164】
但し、いずれの実施例においても、保護層5の膜厚は、記録媒体の反射率を調整するために、記録層4に対する熱的な影響を与えることのない40nm〜50nmの範囲において適宜制御した。また、実施例5〜8の記録層の成膜には、実施例1と同様にスパッタリング法を用いたが、各実施例における記録層の成膜条件は以下の通りとした。
【0165】
<実施例5における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット Sn及びV(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC90W
V RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0166】
<実施例6における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット Sn及びNb(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn DC90W
Nb RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0167】
<実施例7における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット SnTi混合物(Sn33.3Ti66.7(原子%))
・スパッタ電力 Sn33.3Ti66.7(原子%) RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0168】
<実施例8における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット SnTi混合物(Sn33.3Ti66.7(原子%))及びSi(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sn33.3Ti66.7(原子%) RF900W
Si DC150W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0169】
なお、実施例5〜7において記録層の組成比は、EPMAにて組成分析を行った結果、それぞれ、V/(Sn+V)=0.47(実施例5)、Nb/(Sn+Nb)=0.49(実施例6)、Ti/(Sn+Ti)=0.58(実施例7)であった。
【0170】
また、実施例5〜8の記録層については、エリプソメーターを用いて波長405nmでの屈折率n及び消衰係数kを測定したところ、n=2.60、k=0.97(実施例5)、n=2.84、k=0.89(実施例6)、n=2.92、k=1.01(実施例7)、n=2.80、k=0.76(実施例8)であった。
【0171】
(比較例1)
比較例として、記録層を物質Aである窒化スズ(Sn窒化物)単体から作製した他は、実施例1と全く同じ構成の光記録媒体を作製した。記録層の成膜条件は以下のとおりである。
・スパッタリングターゲット Sn
・スパッタ電力 Sn DC210W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0172】
(実施例9、10)
実施例1において、物質Aを窒化スズ(Sn窒化物)から窒化アンチモン(Sb窒化物)に変更し、物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化バナジウム(V窒化物)に変更したこと以外は実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例9)。
【0173】
実施例1において、物質Aを窒化スズ(Sn窒化物)から窒化アンチモン(Sb窒化物)に変更し、物質Bを窒化タンタル(Ta窒化物)から窒化ニオブ(Nb窒化物)に変更したこと以外は、実施例1と同様にして光記録媒体を作製した(実施例10)。
【0174】
但し、いずれの実施例においても、保護層5の膜厚は、記録媒体の反射率を調整するために、記録層4に対する熱的な影響を与えることのない40nm〜50nmの範囲において適宜制御した。また、実施例9、10の記録層の成膜には、実施例1と同様にスパッタリング法を用いたが、各実施例における記録層の成膜条件は以下の通りとした。
【0175】
<実施例9における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット Sb及びV(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sb DC85W
V RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0176】
<実施例10における記録層の成膜条件>
・スパッタリングターゲット Sb及びNb(コスパッタリング)
・スパッタ電力 Sb DC85W
Nb RF900W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0177】
実施例9、10において記録層の組成比は、EPMAにて組成分析を行った結果、それぞれ、V/(Sb+V)=0.27(実施例9)、Nb/(Sb+Nb)=0.40(実施例10)であった。
【0178】
(比較例2)
比較例として、記録層を物質Aである窒化アンチモン(Sb窒化物)単体から作製した他は、実施例1と全く同構成の光記録媒体を作製した。記録層の成膜条件は以下のとおりである。
・スパッタリングターゲット Sb
・スパッタ電力 Sb DC85W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 15nm
【0179】
(評価)
実施例1〜10及び比較例1、2の光記録媒体に対して、光源波長405nm、開口数NA0.85の評価器を使用して、線速5.7m/sec.、RLL1−7変調、チャンネルクロック66MHzからなる条件でランダム信号の記録を行った。この条件で記録を行った場合の、ジッターの記録パワー依存性を図7〜9にそれぞれ示す。ジッターは、記録信号をリミットイコライザーにより波形等化した後2値化を行い、2値化した信号の立ち上がりエッジ及び立ち下がりエッジと、周期クロック信号の立ち上がりエッジと、の時間差の分布をタイムインターバルアナライザにより測定した(データ.トゥー.クロック.ジッター Data to Clock Jitter)。
【0180】
図7〜9に示すように、各実施例の光記録媒体は比較例に比べて、良好な記録信号特性を得られる記録パワーの範囲が向上していることがわかる。
【0181】
次に密着層の効果を明らかにするため、図4に示した構成の光記録媒体を実施例11として、またこの構成に密着層を追加した図12に示した構成の光記録媒体を実施例12〜18として下記のように作製した。
【0182】
(実施例11)
基板1及び光透過層6については実施例1〜10と同様のものとした。多層膜については、下地層8にTa、反射層2にAg−Cu−Auからなる合金、拡散防止層7にはGe−Cr−N、保護層3、5にはZnS−SiOからなる混合物を用いた。記録層4には物質Aとして窒化スズ(Sn窒化物)、及び物質Bとして窒化ニオブ(Nb窒化物)からなる物質を用いてスパッタリング法により作製した。
各層の成膜条件及び膜厚は以下のとおりとした。
【0183】
(A)下地層8
・スパッタリングターゲット Ta
・スパッタ電力 DC500W
・Arガス圧 0.18Pa
・膜厚 5nm
(B)金属反射層2
・スパッタリングターゲット Ag97CuAu(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 80nm
(C)拡散防止層7
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+Nガス圧 0.18Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.5
・膜厚 3nm
(G)反射層側保護層3
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 27nm
(D)記録層4
・スパッタリングターゲット Sn50Nb50(重量%)
・スパッタ電力 Sn RF500W
・Ar+Nガス圧 0.35Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.75
・膜厚 13nm
(G)レーザー光入射側保護層5
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 60nm
【0184】
(実施例12〜18)
実施例11の構成から反射層側保護層3と記録層4の間に密着層10を設けた光記録媒体を作製した。実施例12〜18の層構成は表−3に示すとおりである。
【0185】
【表3】

【0186】
実施例12〜18の各層について、下地層8、金属反射層2、反射層側保護層3、記録層4、及びレーザー光入射側保護層5については実施例11と同じ材料、成膜条件を用いた。
【0187】
また実施例12では拡散防止層にGeCrN、密着層10にSnNbOを用いた。さらに実施例13〜18では拡散防止層7と密着層10を同じ材料、同じ成膜条件で作製した。また、実施例13ではGeCrNを、実施例14,15ではZrO−Y−SiO、実施例16,17ではZnO−Al、実施例18ではSiCをそれぞれ用いた。GeCrNの成膜条件については実施例11と同様であり、その他のSnNbO、ZrO−Y−SiO、ZnO−Al、SiCについて下記の成膜条件により作製した。
【0188】
<SnNbO>
・スパッタリングターゲット Sn50Nb50(重量%)
・スパッタ電力 Sn RF500W
・Ar+N+Oガス圧 0.35Pa
・流量比 Ar:N:O=5:15:5
【0189】
<ZrO−Y−SiO
・スパッタリングターゲット ((ZrO)97(Y80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF1000W
・Arガス圧 0.35Pa
【0190】
<ZnO−Al
・スパッタリングターゲット (ZnO)97(Al(mol%)
・スパッタ電力 RF1000W
・Arガス圧 0.35Pa
【0191】
<SiC>
・スパッタリングターゲット SiC
・スパッタ電力 RF1000W
・Arガス圧 0.28Pa
【0192】
(評価)
実施例11〜18の光記録媒体において、(実施例1〜10の光記録媒体の評価に用いたものとは異なる)波長光源406nm、開口数NA0.85の評価機を使用して、線速4.92m/sec.、17PP変調、チャンネルクロック66MHzからなる条件で半径方向に0.5mmの幅で記録を行った。その後、80℃/85%Rhの環境下にて100時間保存した(環境試験)。そして、環境試験の前後で記録部中央部分のジッター値を測定した。ジッター値は、実施例1〜10と同様にして測定した。なお記録時のパワーは、ジッターが最も小さくなる記録パワーを選択した。
【0193】
実施例11では環境試験前に良好なジッター値を示していたが、環境試験後には記録信号にスパイク状に高反射率部が存在しジッターの測定が困難であった。この環境試験後の光記録媒体を光学顕微鏡で観察すると数多くの明欠陥が観察された。この明欠陥は記録層4と反射層側保護層3との間に剥離が生じたことに起因すると考えられる。
これに対して実施例12〜18に関しては、表−4に示すように、環境試験前後でのジッター値の変化は1%以内に抑えられている。またこれらの環境試験後の光記録媒体を光学顕微鏡で観察しても実施例11のような欠陥は確認できなかった。
【0194】
【表4】

【0195】
以上により密着層10を設置することで記録層4に接する部分での剥離を抑制することが可能となり、より耐候性に優れた光記録媒体が得られることが明らかとなった。
【0196】
(実施例19)
さらに記録層に窒化物と酸化物とが混在する例として実施例11の構成から記録層を窒化物と酸化物との混合物とした光記録媒体を作製した。
【0197】
基板1及び光透過層6については実施例1〜18と同様のものとした。多層膜については下地層8にNbを用いたこと、記録層4にSnの窒化物、Snの酸化物、Nbの窒化物及びNbの酸化物の混合を用いたことの他は実施例11と同じ構成とした。
各層の成膜条件及び膜厚は以下のとおりである。
【0198】
(A)下地層8
・スパッタリングターゲット Nb
・スパッタ電力 DC500W
・Arガス圧 0.18Pa
・膜厚 5nm
(B)金属反射層2
・スパッタリングターゲット Ag97CuAu(原子%)
・スパッタ電力 DC1000W
・Arガス圧 0.15Pa
・膜厚 80nm
(C)拡散防止層7
・スパッタリングターゲット Ge80Cr20(原子%)
・スパッタ電力 RF300W
・Ar+Nガス圧 0.18Pa
・N/(Ar+N)流量比 0.5
・膜厚 3nm
(G)反射層側保護層3
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 25nm
(D)記録層4
・スパッタリングターゲット Sn50Nb50(重量%)
・スパッタ電力 Sn50Nb50 DC500W
・Ar+N+Oガス圧 0.30Pa
・流量比 Ar:N:O=25:73.75:1.25
・膜厚 14nm
(G)レーザー光入射側保護層5
・スパッタリングターゲット (ZnS)80(SiO20(mol%)
・スパッタ電力 RF2000W
・Arガス圧 0.25Pa
・膜厚 50nm
【0199】
(評価)
実施例19の光記録媒体の記録特性評価を、実施例11〜18と同様に(実施例1〜10の光記録媒体の評価に用いたものとは異なる)波長光源406nm、開口数NA0.85の評価機を使用して行った。具体的には、線速4.92m/sec.、チャンネルクロック66MHzからなる条件で17PP変調コードからなるランダム信号を記録し、ジッター値を測定することによって評価をおこなった。
【0200】
図13にジッター値の記録パワー依存性を示す。図13に示すように、記録密度を高くした条件において良好なジッター値及び良好なジッター値が得られる広い記録パワー範囲が存在した。
【0201】
記録層成膜にAr、N、Oの混合ガスを使用することにより、記録層は、窒化スズ、酸化スズ、窒化ニオブ、酸化ニオブの混合になると考えられる。実施例19において酸化物を混合させた目的は、記録層に窒化スズ、窒化ニオブと比較して吸収の小さい酸化スズ、酸化ニオブを混合させることで記録層全体の吸収を小さくし、光記録媒体の反射率を高くすることにある。実際に、実施例19の光記録媒体においては、未記録の状態で21%という高い反射率が得られた。
【0202】
ここで、記録層中の酸化物比率を正確に求めることは困難である。なぜなら、EPMAなどの分析手段では大気中に存在するガス元素成分を同定するのが困難だからである。しかしながら、実施例19においては成膜ガス中の酸素の占める比率が1.25%とごく僅かであるため、記録層全体に占める酸化物の比率は各化合物のモル比で30%以下であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0203】
本発明によれば、情報の高密度化に対応しうる記録媒体を得ることができる。特に、良好な記録信号特性を得られる記録パワー範囲の広い追記型光記録媒体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0204】
【図1】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図2】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図3】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図4】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図5】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図6】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図7】本発明の実施例に係る追記型光記録媒体のジッターの記録パワー依存性を示す図である。
【図8】本発明の別の実施例に係る追記型光記録媒体のジッターの記録パワー依存性を示す図である。
【図9】本発明の更に別の実施例に係る追記型光記録媒体のジッターの記録パワー依存性を示す図である。
【図10】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図11】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図12】本発明に係る追記型光記録媒体の構造例の模式図である。
【図13】本発明のまた更に別の実施例に係る追記型光記録媒体のジッターの記録パワー依存性を示す図である。
【符号の説明】
【0205】
1…基板
2…反射層
3、5…保護層
4…記録層
6…光透過層
7…拡散防止層
8…下地層
9…保護コート層
10…密着層


【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録層を有し、前記記録層を加熱することにより記録を行う記録媒体であって、前記記録層が、記録時の加熱によって前記記録層が到達する温度において分解する物質Aと、記録時の加熱によって前記記録層が到達する温度において化学反応又は相変化を起こすことのない物質Bとを含有することを特徴とする記録媒体。
【請求項2】
前記記録層が到達する温度において、前記物質Bが化学反応及び相変化を起こさないことを特徴とする請求項1に記載の記録媒体。
【請求項3】
前記記録層が到達する温度において、前記物質Bが分解しない又は化合しないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録媒体。
【請求項4】
前記記録層が到達する温度において、前記物質Bが融解しない又は昇華しないことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の記録媒体。
【請求項5】
前記物質Aの分解温度と前記物質Bの分解温度又は融点との差が200℃以上であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項6】
前記記録媒体が、基板上に記録層を有し、レーザー照射により記録を行う追記型光記録媒体であることを特徴とする請求項1から請求項5までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項7】
前記物質Aが1200℃以下に分解温度をもつ物質であり、前記物質Bが1500℃以下には分解温度及び融点をもたない物質であることを特徴とする請求項1から請求項6までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項8】
前記物質A及び前記物質Bがそれぞれ、窒化物及び/又は酸化物であることを特徴とする請求項1から請求項7までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項9】
前記物質AがCr、Mo、W、Fe、Ge、Sn、及びSbからなる群から選ばれる1つの元素の窒化物であることを特徴とする請求項8に記載の記録媒体。
【請求項10】
前記物質BがTi、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Al、及びSiからなる群から選ばれる少なくとも1つの元素の窒化物であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の記録媒体。
【請求項11】
前記物質Aの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素αと、前記物質Bの構成元素のうち窒素及び酸素以外の元素βとが、0.03≦(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))≦0.95の関係を満たすことを特徴とする請求項8から請求項10までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項12】
(βの原子数)/((αの原子数)+(βの原子数))≦0.7であることを特徴とする請求項11に記載の記録媒体。
【請求項13】
前記記録層の膜厚が4nm以上30nm以下であることを特徴とする請求項1から請求項12までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項14】
前記記録層に接して密着層が設けられていることを特徴とする請求項1から請求項13までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項15】
前記密着層に接して保護層が設けられていることを特徴とする請求項14に記載の記録媒体。
【請求項16】
前記密着層が前記物質Aよりも分解温度が高い物質を含有することを特徴とする請求項14又は請求項15に記載の記録媒体。
【請求項17】
前記密着層がGeN、ZrO、ZnO、およびSiCからなる群から選択される少なくとも1種類を主成分とすることを特徴とする請求項14から請求項16までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。
【請求項18】
前記記録層の記録レーザー波長における消衰係数が0.2以上1.6以下であることを特徴とする請求項6から請求項17までのいずれかの請求項に記載の記録媒体。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2006−18981(P2006−18981A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−238290(P2004−238290)
【出願日】平成16年8月18日(2004.8.18)
【出願人】(501495237)三菱化学メディア株式会社 (105)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】