説明

記録装置、および、記録装置の制御方法

【課題】装置の大型化を招くことなく、記録媒体にインクを吐出して記録を行う場合のインクの乾燥時間を短縮できる記録装置、及び、記録装置の制御方法を提供する。
【解決手段】プリンター2は、記録媒体100を搬送する搬送機構と、サーマルヘッド40と、記録媒体100の搬送経路においてサーマルヘッド40よりも下流側に位置し、記録媒体100にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド50と、記録媒体100にインクジェット式記録ヘッド50によって記録を行う場合に、少なくともインクジェット式記録ヘッド50における記録媒体100の被記録領域の一部を、事前にサーマルヘッド40で加熱するCPU21とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット式記録ヘッドを備えた記録装置、および、この記録装置の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体の記録面にインクを吐出して記録を行うインクジェット式の記録装置が知られている。記録媒体に付着したインクが乾燥しない間に接触すると、インクが擦れて汚れる原因となるので、インクが乾燥するまでの時間が短いことが好ましい。このため、例えば、インクジェット式の記録装置にインクを乾燥させる乾燥装置を設けた構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−337912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の記録装置はインクジェットノズルでインクを吐出した後、下流側に設けた乾燥装置によってインクを乾燥させている。この構成では、インクの擦れや汚れが生じないように記録媒体に接触せず乾燥させる必要があり、大がかりな乾燥装置が必要になるので、記録装置の大型化を招くという問題があった。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、装置の大型化を招くことなく、記録媒体にインクを吐出して記録を行う場合のインクの乾燥時間を短縮できる記録装置、及び、記録装置の制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は、記録媒体を搬送する搬送手段と、サーマルヘッドと、前記記録媒体の搬送経路において前記サーマルヘッドよりも下流側に位置し、前記記録媒体にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドと、前記記録媒体に前記インクジェット式記録ヘッドによって記録を行う場合に、少なくとも前記インクジェット式記録ヘッドにおける前記記録媒体の被記録領域の一部を、事前に前記サーマルヘッドで加熱する記録制御手段とを備えることを特徴とする。
本発明によれば、サーマルヘッドを利用して、装置の大型化を招くことなくインクの乾燥に要する時間を短縮できる。これにより、インクによる汚損を防止でき、かつスループットの向上が期待できる。また、インクジェット式記録ヘッドより上流側にサーマルヘッドが位置し、インクジェット式記録ヘッドによる記録の前に記録媒体を加熱するので、記録媒体の記録面に付着したインクの擦れや剥離を防止できる。この場合、記録媒体がサーマルヘッドからインクジェット式記録ヘッドの記録位置へ搬送される間に、サーマルヘッドに加熱された記録媒体の領域は拡散するので、拡散を考慮して、少なくとも記録媒体の被記録領域の一部を加熱してもよい。
【0006】
また、本発明は、上記記録装置において、前記インクジェット式記録ヘッドをクリーニングするヘッドクリーニング手段を備え、前記記録制御手段は、前記記録媒体の被記録領域が前記サーマルヘッドにより加熱されてから前記インクジェット式記録ヘッドの記録位置に到達するまでの間に、前記インクジェット式記録ヘッドをクリーニング位置に移動させ、前記ヘッドクリーニング手段によるクリーニングを実行させることを特徴とする。
本発明によれば、インクジェット式記録ヘッドによる被記録領域が、サーマルヘッドで加熱されてから下流のインクジェット式記録ヘッドの位置まで搬送される間に、インクジェット式記録ヘッドのクリーニングを行える。このため、記録媒体の搬送と記録を開始してからクリーニングを開始して、待ち時間を利用して、スループットを低下させることなく、効率よくクリーニングを行える。ヘッドクリーニング手段は、ワイパーによるインク吐出面のワイピングや、インク吸収材に向けインクを吐出するフラッシング、吸引手段によるノズルの強制吸引などが含まれる。
【0007】
また、本発明は、上記記録装置において、外部の装置から送信される記録データを受信する受信手段を備え、前記記録制御手段は、前記受信手段によって前記インクジェット式記録ヘッドで記録する記録データを受信した場合に、受信した前記記録データに基づいて、前記サーマルヘッドが前記記録媒体の被記録領域を加熱するための記録データを生成することを特徴とする。
本発明によれば、外部の装置からインクジェット式記録ヘッドで記録すべき記録データを受信した場合に、この記録データに対応して、サーマルヘッドが被記録領域を加熱する。これにより、外部の装置が被記録領域を加熱するための特別な制御を必要とせず、単にインクジェット式記録ヘッドによる記録が指示された場合に、この記録の内容に合わせてインクが吐出された必要な部分だけサーマルヘッドで加熱し、インクの乾燥に要する時間を短縮でき、エネルギーも節約できる。
【0008】
また、本発明は、上記記録装置において、前記記録制御手段は、前記記録媒体が加熱により発色する感熱記録媒体である場合には、前記サーマルヘッドのみにより記録を行うことを特徴とする。
本発明によれば、加熱による発色をしない通常の記録媒体に対してはインクジェット式記録ヘッドによる記録を行い、感熱記録媒体にはサーマルヘッドによる記録を行うことができ、さらにインクジェット式記録ヘッドによる記録時にはインクの乾燥時間を短縮してスループットの向上を図ることができる。
【0009】
また、本発明は、上記記録装置において、前記記録制御手段は、前記インクジェット式記録ヘッドによる記録を行う際に前記記録媒体の被記録領域を加熱する際の前記サーマルヘッドの温度を、前記サーマルヘッドにより感熱記録媒体に記録を行う際の温度より高温に設定することを特徴とする。
本発明によれば、サーマルヘッドの温度を、感熱記録媒体に対しては記録品質と感熱記録媒体の発色特性に適合した温度とする一方、記録媒体が感熱記録媒体でない場合には高温にすることで、感熱記録媒体に対する記録品質の確保とインクの乾燥時間の短縮という2つの目的を同時に実現できる。
【0010】
また、本発明は、上記記録装置において、前記サーマルヘッドが前記感熱記録媒体に形成する有色のドットは、前記インクジェット式記録ヘッドがインクにより前記記録媒体に形成するドットより大きく、或いは同等の大きさであることを特徴とする。
本発明によれば、サーマルヘッドは、インクジェット式記録ヘッドが形成するドットより大きな領域または同等の大きさの領域を加熱するので、インクの乾燥時間をより効果的に短縮できる。
【0011】
また、上記目的を達成するために、本発明は、記録媒体を搬送する搬送手段と、サーマルヘッドと、前記記録媒体の搬送経路において前記サーマルヘッドよりも下流側に位置し、前記記録媒体にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドとを備えた記録装置を制御し、前記記録媒体に前記インクジェット式記録ヘッドによって記録を行う場合に、少なくとも前記インクジェット式記録ヘッドにおける前記記録媒体の被記録領域の一部を、事前に前記サーマルヘッドで加熱することを特徴とする。
本発明によれば、サーマルヘッドを利用して、装置の大型化を招くことなくインクの乾燥に要する時間を短縮できる。これにより、インクによる汚損を防止でき、かつスループットの向上が期待できる。また、インクジェット式記録ヘッドより上流側にサーマルヘッドが位置し、インクジェット式記録ヘッドによる記録の前に記録媒体を加熱するので、記録媒体の記録面に付着したインクのこすれや剥離を防止できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、インクの乾燥に要する時間を短縮し、スループットの向上を図るとともにインクによる汚損を防止できる。また、インクジェット式記録ヘッドより記録したインクのこすれや剥離を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態に係る記録システムの構成を示すブロック図である。
【図2】プリンターの記録部及び搬送機構の概略構成を示す要部側面図である。
【図3】プリンターの記録部及び搬送機構の概略構成を示す要部平面図である。
【図4】インクのドットと発熱素子の大きさを比較した説明図である。
【図5】プリンターの動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明を適用した実施形態に係る記録システム1の構成を示すブロック図である。
記録システム1は、プリンター2にホストコンピューター10を接続して構成され、プリンター2がホストコンピューター10の制御によって記録媒体100に記録を行い、記録物(印刷物)を発行する。プリンター2は、記録媒体100に熱を与えて発色させることにより有色のドットを形成し、これにより文字、記号あるいは画像等を記録するサーマルヘッド40と、記録媒体100の記録面にインクを吐出してドットを形成し、文字、記号あるいは画像等を記録するインクジェット式記録ヘッド50とを備えている。
プリンター2が記録対象とする記録媒体100は、熱を受けて発色する感熱シート(感熱記録媒体)と、記録面においてインクを吸着可能な記録シートとがある。後者の中には、いわゆる普通紙も含まれる。また、感熱シート及び記録シートは定型サイズにカットされたカットシートだけでなく、ロール状に巻き回されたロール紙、所定サイズに折り畳まれたファンフォールド紙が挙げられる。
まず、プリンター2の機械的構成について概略を説明する。
【0015】
図2は、プリンター2の記録部及び搬送機構の概略構成を示す要部側面図である。また、図3はプリンター2の概略構成を示す要部平面図である。図3においては第1搬送部35,第2搬送部36の従動ローラー38等の図示を省略している。
プリンター2は、記録媒体100を搬送する搬送機構を構成する第1搬送部35及び第2搬送部36を備えている。第1搬送部35は、記録媒体100の上面すなわち記録面側に位置する従動ローラー38と、記録媒体100の下面側に位置する駆動ローラー39とが、記録媒体100の搬送路を挟んで対向配置されて構成される。従動ローラー38と駆動ローラー39とは図示しないばね等の付勢機構により、互いに近接する方向に付勢されており、記録媒体100は従動ローラー38と駆動ローラー39との間に挟持される。従動ローラー38は回転自在な従動ローラーである一方、駆動ローラー39は後述する搬送モーター33(図1)に連結され、搬送モーター33の回転力により駆動されて、記録媒体100を図中符号Fで示す方向に搬送する。従動ローラー38は、直接または記録媒体100を介して、駆動ローラー39に圧接しており、駆動ローラー39とともに回転して記録媒体100を搬送する。また、第2搬送部36は第1搬送部35と同様に、従動ローラー38及び駆動ローラー39を備えて構成される。
【0016】
記録媒体100の搬送路において上流側に位置する第1搬送部35と、下流側に位置する第2搬送部36との間には、第1記録部4と第2記録部5とが配置されている。第1記録部4は、複数の発熱素子を備え、これらの発熱素子により記録媒体100の記録面(図中上側)に熱を与えるサーマルヘッド40と、このサーマルヘッド40に対し、記録媒体100の搬送路を挟んで対向するローラープラテン45とを備えている。
サーマルヘッド40は、図3に示すように記録媒体100の幅方向すなわち搬送方向Fに直交する方向に延設された長手形状を有し、少なくとも記録媒体100における記録範囲の全幅をカバーする発熱素子を備えている。この発熱素子は、記録解像度に対応するピッチで、記録媒体100の幅方向に一列に並んでいる。
【0017】
ローラープラテン45は、後述する搬送モーター33の回転力により、駆動ローラー39とともに駆動され、記録媒体100を搬送する。つまり、プリンター2は、記録媒体100を搬送する搬送機構(搬送手段)として、搬送モーター33により一斉に駆動される第1搬送部35、第2搬送部36及びローラープラテン45を備えている。この搬送機構には搬送モーター33も含まれる。
サーマルヘッド40とローラープラテン45とは、図示しないばね等の付勢手段によって互いに近接する方向に付勢されている。このため、記録媒体100はローラープラテン45とサーマルヘッド40とに密着するので、サーマルヘッド40から記録媒体100に対して確実に熱が伝達されるほか、ローラープラテン45によって記録媒体100が滑りなく搬送される。
【0018】
第2記録部5が備えるインクジェット式記録ヘッド50は、インクカートリッジ52内の流動性のインクを、図示しないピエゾ素子により加圧して、ノズル部51から記録媒体100の表面すなわち記録面に噴射(吐出)する。インクジェット式記録ヘッド50はキャリッジ53に搭載され、キャリッジ53は、キャリッジ駆動モーター55(図1)の正転及び逆転動作によって、キャリッジガイド軸54に沿って往復走査される。キャリッジガイド軸54は、記録媒体100の幅方向すなわち搬送方向Fに直交する方向に延設されている。このため、インクジェット式記録ヘッド50は、記録媒体100の幅方向に走査しながら記録媒体100の表面にインクを噴射して付着させる。ノズル部51が配置されたインク吐出面に対向して、記録媒体100の下側には板状のプラテン58が配置されている。
【0019】
図3に示すように、インクジェット式記録ヘッド50は、キャリッジガイド軸54に沿って記録媒体100の全幅をほぼカバーする走査範囲Wで、往復走査され、記録媒体100に記録を行う。また、インクジェット式記録ヘッド50は、走査範囲Wよりも外側に設けられたホームポジションHPまで移動可能となっている。ホームポジションHPは、記録媒体100から外れた位置にあり、インクジェット式記録ヘッド50がホームポジションHPにある間はインクジェット式記録ヘッド50が記録媒体100に干渉せず、例えばインクの付着等が起きないようになっている。
インクジェット式記録ヘッド50は、記録を行わない間はホームポジションHPに位置し、記録開始時に走査範囲Wまで移動して、走査範囲W内を往復走査する。ホームポジションHPには、インクジェット式記録ヘッド50のノズル部51の先端面の状態を整えるヘッドクリーニング部61が配置されている。
ヘッドクリーニング部61は、ノズル部51の先端に付着した異物や固着したインクを除去し、ノズル部51の先端のメニスカスを整えるワイパー、このワイパーを動かすワイパー駆動部、ノズル部51からインクを吸引してノズル部51の詰まりを防止又は解消する吸引ポンプ、及び、吸引したインクを貯留する廃インクタンク等の図示しない構成部を備えている。後述するCPU21の制御によって、定期的にヘッドクリーニング部61によるインクジェット式記録ヘッド50のクリーニングが行われる。このクリーニングは記録中に行ってもよいが、スループットを低下させないために待機中に行うことが好ましい。但し、ノズル部51の状態を良好に保ち記録品質を保持するために、記録中にクリーニングを必要とする場合もある。
【0020】
図1に示すように、プリンター2は、所定の制御プログラムを実行して各種データを処理することによりプリンター2の各部を制御するCPU21、CPU21が実行する制御プログラム、及び、プリンター2の動作に関する設定値等のデータを記憶した不揮発性メモリー22、CPU21が実行するプログラムや処理対象のデータ等を一時的に記憶するワークエリアを形成するRAM23、CPU21の制御に従って後述する各モーターを駆動するモータードライバー24、及び、CPU21の制御に従って後述するサーマルヘッドを駆動するヘッドドライバー25を備えている。
【0021】
モータードライバー24は、例えばステッピングモーターで構成される搬送モーター33、キャリッジ駆動モーター55、及びヘッドクリーニング部61に接続されている。モータードライバー24は、CPU21の制御に従って搬送モーター33に駆動パルスと駆動電流を供給し、搬送モーター33を必要量だけ回転させて、第1搬送部35及び第2搬送部36の駆動ローラー39と、ローラープラテン45とを駆動し、記録媒体100を搬送する。また、モータードライバー24は、キャリッジ駆動モーター55に駆動パルスと駆動電流を供給して、キャリッジ44及びキャリッジ53を記録媒体100上で移動させる。なお、モータードライバー24は、図中の搬送方向Fに沿って記録媒体100を搬送するだけでなく、逆方向に記録媒体100を搬送することも可能である。さらに、モータードライバー24は、ヘッドクリーニング部61が備えるワイパー駆動部や吸引ポンプに駆動電流を供給し、インクジェット式記録ヘッド50のクリーニングを実行させる。
ヘッドドライバー25は、サーマルヘッド40及びインクジェット式記録ヘッド50の2つの記録ヘッドに接続され、サーマルヘッド40が備える発熱素子、及び、インクジェット式記録ヘッド50が備えるピエゾ素子に電力を供給して、記録媒体100への記録を実行させる。
サーマルヘッド40及びローラープラテン45は第1記録部4を構成し、インクジェット式記録ヘッド50及びキャリッジ駆動モーター55は第2記録部5を構成する。
【0022】
また、プリンター2は、本体外面に紙送りスイッチ等のスイッチ及びLED表示部を備えた操作パネル(図示略)を備えており、操作パネルのスイッチ操作を検出する入力部26及びLED表示部を制御して各種表示を行わせる表示部27がCPU21に接続されている。さらに、CPU21には、記録媒体100の搬送路上において記録媒体100の先端及び後端を検出する紙端センサー31と、記録媒体100の幅方向の端部を検出する紙幅センサー32とが接続されている。これら紙端センサー31及び紙幅センサー32により、CPU21は、記録媒体100の幅と長さとを検出できる。他にも、プリンター2は、ホストコンピューター10に接続され、ホストコンピューター10との間のコマンドやデータの送受信を制御する受信手段としてのインターフェース28、及び、その他の図示しない機能部を備え、これらはCPU21に接続されている。
【0023】
以上のように構成されるプリンター2は、記録媒体100が感熱シートである場合に、サーマルヘッド40用の記録データがホストコンピューター10から送信されると、この記録データを受信して、サーマルヘッド40によって記録媒体100に記録を行う。この間、インクジェット式記録ヘッド50はホームポジションHP(図3)に位置し、待機する。また、記録媒体100が感熱シートでない、普通紙等の記録シートである場合に、インクジェット式記録ヘッド50用の記録データがホストコンピューター10から送信されると、この記録データを受信して、インクジェット式記録ヘッド50によって記録媒体100に記録を行う。このとき、プリンター2は、CPU21の制御により、記録媒体100においてインクジェット式記録ヘッド50がインクを付着させようとする領域を、上流側に位置するサーマルヘッド40によって加熱しておく。この動作により、インクジェット式記録ヘッド50は加熱により高温となった記録媒体100にインクを吐出するので、このインクは通常時より速やかに乾いて固着する。このため、インクの乾燥に要する時間を大幅に短縮できる。
【0024】
サーマルヘッド40は、記録媒体100に記録を行える記録ヘッドであるから、記録媒体100の幅方向において指定された位置にのみ正確に熱を加えることができる。このため、インクジェット式記録ヘッド50がインクを付着させようとする位置を特定し、この特定した位置にサーマルヘッド40が熱を与えるようにすれば、サーマルヘッド40の消費電力を抑え、効率よく、無駄なく記録媒体100を加熱できる。例えば記録媒体100の全体を加熱して乾燥するような乾燥装置に比べて、無駄が少なく効率がよい。
【0025】
記録媒体100が、普通紙等の比較的高温に耐え得る記録媒体である場合、サーマルヘッド40によって高温に加熱してからインクジェット式記録ヘッド50がインクを吐出すれば、インク乾燥時間の大幅な短縮が期待できる。一方、サーマルヘッド40を、感熱シートへの記録に使用する場合には、サーマルヘッド40の発熱素子の温度を、感熱シートの発色温度や発色特性に対応した温度にする必要がある。
そこで、CPU21は、インクジェット式記録ヘッド50による記録時に記録媒体100を加熱(加温)する場合には、サーマルヘッド40の温度を、サーマルヘッド40が感熱シートに記録する際の発熱素子の温度よりも高温にする。具体的には、感熱シートへの記録時には、サーマルヘッド40の発熱素子は例えば70℃程度になるので、インクジェット式記録ヘッド50の記録時にはサーマルヘッド40の発熱素子を80℃〜90℃程度にすることが考えられる。発熱素子の温度は、CPU21がヘッドドライバー25を制御して発熱素子への通電時間を調整するとともに、モータードライバー24を制御して、第1搬送部35,第2搬送部36及びローラープラテン45による記録媒体100の搬送速度を調整することで、実現できる。
【0026】
上記のように、サーマルヘッド40は、インクジェット式記録ヘッド50が記録する被記録領域を加熱すればよく、より詳細には、インクジェット式記録ヘッド50がインクを吐出する位置が加熱されていればよい。このため、サーマルヘッド40とインクジェット式記録ヘッド50とが全く同じ位置に、同じ大きさのドットを形成するようにすれば、制御がより簡単になる。
図4(A)、(B)は、インクジェット式記録ヘッド50が形成するドット59と、サーマルヘッド40が備える発熱素子41のサイズを比較した例を模式的に示す図である。図4(A)に示すように、ドット59の径S1と、発熱素子41の幅S2とが等しく、サーマルヘッド40のドットピッチとインクジェット式記録ヘッド50のドットピッチが等しい場合には、サーマルヘッド40とインクジェット式記録ヘッド50が同じ場所に同じ大きさのドットを形成できる。この場合、記録媒体100の記録面においてごく狭い範囲をサーマルヘッド40が加熱すると、この熱によりインクが早く乾くという効果が得られ、より効率がよい。
また、図4(B)に示すように、ドット59の径S1よりも発熱素子41の幅S2が大きい場合には、インクジェット式記録ヘッド50が吐出したインクの着弾位置及びその周辺が加熱されているので、より確実に、かつより多くの熱をインクに与え、より早くインクを乾燥させることができる。
【0027】
また、図2及び図3に示すように、記録媒体100の搬送路には、記録媒体100の裏面(記録面の反対側)に接するように断熱材60が配置されている。この板状の断熱材60は、記録媒体100の放熱を抑えるために、インクジェット式記録ヘッド50の下流側に配置されている。つまり、インクジェット式記録ヘッド50がインクを吐出した後、断熱材60の上を通過する間の記録媒体100の放熱を抑えることで、より速やかにインクを乾燥させることができる。このため、インクジェット式記録ヘッド50の下流側に位置する第2搬送部36が、記録媒体100を両面から挟持して搬送しても、インクが確実に乾燥しているため汚損のおそれはない。
【0028】
図5は、プリンター2の動作を示すフローチャートである。
プリンター2のCPU21は、ホストコンピューター10から送信される記録指示コマンドと、記録用のデータとを受信し(ステップS11)、サーマルヘッド40が記録を行うのか、それともインクジェット式記録ヘッド50が記録するためのデータであるかを判別する(ステップS12)。このステップS12の判別は、記録対象の記録媒体が感熱シートであるか記録シートであるかを判別することに等しい。具体的な判別方法は、例えば、ホストコンピューター10から受信した記録指示コマンドが指定する記録媒体の種類に基づいて判別する方法、記録指示コマンドが指定する記録ヘッドの情報に基づいて判別する方法である。
【0029】
サーマルヘッド40により記録を行う場合(ステップS12;Yes)、CPU21は、インターフェース28により受信した記録データをRAM23に展開し、サーマルヘッド40の記録解像度に適合した記録イメージを生成して(ステップS13)、このイメージの通りに第1記録部4によって記録を行って(ステップS14)、本処理を終了する。
【0030】
一方、インクジェット式記録ヘッド50により記録を行う場合(ステップS12;No)、CPU21は、インターフェース28により受信したコマンドと記録データとに基づいてインクジェット式記録ヘッド50が記録する被記録領域の位置およびサイズを取得する(ステップS15)。続いて、受信した記録データをRAM23に展開し、インクジェット式記録ヘッド50の記録解像度に適合させたイメージを生成する(ステップS16)。さらに、CPU21は、受信した記録データを元に、サーマルヘッド40の発熱素子を発熱させるためのイメージを生成する(ステップS17)。上述のようにサーマルヘッド40とインクジェット式記録ヘッド50の記録解像度が等しい場合には、ステップS16で生成したイメージをステップS17で用いることができ、効率がよい。
その後、CPU21は、記録媒体100の搬送を開始させ、被記録領域がサーマルヘッド40の記録位置PTに達したらサーマルヘッド40により加熱を開始し(ステップS18)、加熱された被記録領域がインクジェット式記録ヘッド50の記録位置PIに達したら、インクジェット式記録ヘッド50による記録を実行し(ステップS19)、記録完了後に本処理を終了する。
【0031】
図2に示すように、サーマルヘッド40の発熱素子が記録媒体100に熱を与える位置、すなわちサーマルヘッド40の記録位置PTは、インクジェット式記録ヘッド50がインクを付着させる位置すなわちインクジェット式記録ヘッド50の記録位置PIより上流にある。従って、CPU21が記録媒体100の搬送を開始させても、被記録領域が、記録位置PTから記録位置PIまでの距離Lを搬送される間は、インクジェット式記録ヘッド50はインクを吐出しないので、ホームポジションHPで待機することになる。
【0032】
そこで、CPU21は、インクジェット式記録ヘッド50の記録シーケンスを開始し、記録媒体100の搬送を開始してから、或いは、サーマルヘッド40が被記録領域への加熱を開始してから、被記録領域が記録位置PIに達するまでの間に、ヘッドクリーニング部61によってインクジェット式記録ヘッド50をクリーニングする。これにより、待ち時間を利用して、スループットを低下させることなく、効率よくクリーニングを行える。なお、インクジェット式記録ヘッド50のクリーニングに要する時間を、予めCPU21が取得可能な場合に、この必要時間だけ遡って、先にインクジェット式記録ヘッド50のクリーニングを開始してから記録媒体100の搬送を開始してもよい。この場合、クリーニングに時間がかかるとしても、インクジェット式記録ヘッド50が記録媒体100に最適なタイミングでインクを吐出するので、記録媒体100の温度が下がってしまう等の心配がない。
【0033】
以上のように、本発明を適用した実施形態に係る記録システム1を構成するプリンター2は、記録媒体100を搬送する搬送機構と、サーマルヘッド40と、記録媒体100の搬送経路においてサーマルヘッド40よりも下流側に位置し、記録媒体100にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッド50と、記録媒体100にインクジェット式記録ヘッド50によって記録を行う場合に、少なくともインクジェット式記録ヘッド50における記録媒体100の被記録領域の一部を事前にサーマルヘッド40で加熱するCPU21とを備えるので、サーマルヘッド40を利用して、装置の大型化を招くことなくインクの乾燥に要する時間を短縮できる。これにより、インクによる汚損を防止でき、かつスループットの向上が期待できる。また、インクジェット式記録ヘッド50より上流側にサーマルヘッド40が位置し、インクジェット式記録ヘッド50による記録の前に記録媒体100を加熱するので、記録媒体100の記録面に付着したインクのこすれや剥離を防止できる。
【0034】
また、プリンター2は、インクジェット式記録ヘッド50をクリーニングするヘッドクリーニング部61を備え、CPU21の制御により、記録媒体100の被記録領域がサーマルヘッド40の記録位置PTからインクジェット式記録ヘッド50の記録位置PIに搬送されるまでの間に、インクジェット式記録ヘッド50をホームポジションHP(クリーニング位置)に移動させ、ヘッドクリーニング部61によるクリーニングを実行させるので、記録媒体100が記録位置PIまで搬送される間に、待ち時間を利用して、スループットを低下させることなく、効率よくクリーニングを行える。
【0035】
さらに、CPU21は、ホストコンピューター10から送信される記録データをインターフェース28により受信すると、受信した記録データがインクジェット式記録ヘッド50用のデータである場合には、この受信した記録データに基づいて、サーマルヘッド40が記録媒体100の被記録領域を加熱するための記録データを生成し、サーマルヘッド40により加熱する。これにより、ホストコンピューター10が被記録領域を加熱するための特別な制御を行う必要がなく、単にインクジェット式記録ヘッド50による記録を指示すると、この記録の内容に合わせてサーマルヘッド40で加熱し、インクの乾燥に要する時間を短縮できる。
【0036】
また、CPU21は、記録媒体100が加熱により発色する感熱シートであり、ホストコンピューター10からサーマルヘッド40用の記録データを受信した場合には、サーマルヘッド40のみにより記録を行うので、普通紙と感熱シートの両方に対して適切な記録を行うことができ、インクジェット式記録ヘッド50による記録時にはインクの乾燥時間を短縮してスループットの向上を図ることができる。
【0037】
さらに、CPU21は、インクジェット式記録ヘッド50による記録を行う際に記録媒体100の被記録領域を加熱する際のサーマルヘッド40の温度を、サーマルヘッド40により感熱シートに記録を行う際の温度より高温に設定する。すなわち、サーマルヘッド40の温度を、感熱シートに対しては記録品質と感熱シートの発色特性に適合した温度とする一方、記録媒体100が感熱シートでない場合には高温にすることで、感熱シートに対する記録品質の確保とインクの乾燥時間の短縮という2つの目的を同時に実現できる。
また、サーマルヘッド40の発熱素子41は、インクジェット式記録ヘッド50がインクにより記録媒体100に形成するドット59より大きいか、同等の大きさである。このため、サーマルヘッド40は、インクジェット式記録ヘッド50が形成するドットより大きな領域または同等の大きさの領域を加熱するので、インクの乾燥時間をより効果的に短縮できる。
【0038】
なお、上述した実施の形態は、あくまでも本発明の一態様を示すものであり、本発明の範囲内で任意に変形および応用が可能である。例えば、上記実施の形態においては、直線状の搬送路の上流から、第1搬送部35、第1記録部4、第2記録部5、及び第2搬送部36の順に配置し、記録媒体100が搬送方向Fに一方向で搬送される構成を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば一つの挿入排出口から記録媒体100を挿入し、この記録媒体100を往復搬送して上記挿入排出口から排出する構成としてもよく、この場合には、インクジェット式記録ヘッド50が記録する場合の搬送方向において、インクジェット式記録ヘッド50よりもサーマルヘッド40が上流側に位置していればよい。また、搬送機構を構成するモーター及びローラーの数は任意であり、例えば、第1搬送部35及び第2搬送部36の他に、従動ローラー38及び駆動ローラー39からなる搬送部をさらに設けてもよい。
さらに、上記実施形態では、ホストコンピューター10とプリンター2とが一対一で接続され、このホストコンピューター10から入力されるコマンド及びデータに従ってプリンター2が記録を行う構成を例に挙げて説明したが、プリンター2に対して複数のホストコンピューター10を接続する構成としてもよい。また、プリンター2においてCPU21が実行する動作を制御するプログラムを不揮発性メモリー22に記憶する構成に限らず、通信回線を介してプリンター2に接続された記憶装置や、外部の記録媒体からCPU21が上記プログラムを読み取って実行してもよい。
また、上記実施の形態においては、本発明をプリンター2及びプリンター2を有する記録システム1に適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、他の機器(複写機等)に組み込まれた記録装置に適用することも可能である。その他、上記実施の形態に係る他の細部構成についても、任意に変更可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1…記録システム、2…プリンター(記録装置)、10…ホストコンピューター(外部の装置)、21…CPU(記録制御手段)、28…インターフェース(受信手段)、33…搬送モーター(搬送手段)、35…第1搬送部(搬送手段)、36…第2搬送部(搬送手段)、40…サーマルヘッド、41…発熱素子、45…ローラープラテン(搬送手段)、50…インクジェット式記録ヘッド、100…記録媒体、F…搬送方向。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
記録媒体を搬送する搬送手段と、
サーマルヘッドと、
前記記録媒体の搬送経路において前記サーマルヘッドよりも下流側に位置し、前記記録媒体にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドと、
前記記録媒体に前記インクジェット式記録ヘッドによって記録を行う場合に、少なくとも前記インクジェット式記録ヘッドにおける前記記録媒体の被記録領域の一部を、事前に前記サーマルヘッドで加熱する記録制御手段と、
を備えることを特徴とする記録装置。
【請求項2】
前記インクジェット式記録ヘッドをクリーニングするヘッドクリーニング手段を備え、
前記記録制御手段は、前記記録媒体の被記録領域が前記サーマルヘッドにより加熱されてから前記インクジェット式記録ヘッドの記録位置に到達するまでの間に、前記インクジェット式記録ヘッドをクリーニング位置に移動させ、前記ヘッドクリーニング手段によるクリーニングを実行させることを特徴とする請求項1記載の記録装置。
【請求項3】
外部の装置から送信される記録データを受信する受信手段を備え、
前記記録制御手段は、前記受信手段によって前記インクジェット式記録ヘッドで記録する記録データを受信した場合に、受信した前記記録データに基づいて、前記サーマルヘッドが前記記録媒体の被記録領域を加熱するための記録データを生成することを特徴とする請求項1または2記載の記録装置。
【請求項4】
前記記録制御手段は、前記記録媒体が加熱により発色する感熱記録媒体である場合には、前記サーマルヘッドのみにより記録を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の記録装置。
【請求項5】
前記記録制御手段は、前記インクジェット式記録ヘッドによる記録を行う際に前記記録媒体の被記録領域を加熱する際の前記サーマルヘッドの温度を、前記サーマルヘッドにより感熱記録媒体に記録を行う際の温度より高温に設定することを特徴とする請求項4記載の記録装置。
【請求項6】
前記サーマルヘッドが前記感熱記録媒体に形成する有色のドットは、前記インクジェット式記録ヘッドがインクにより前記記録媒体に形成するドットより大きく、或いは同等の大きさであることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の記録装置。
【請求項7】
記録媒体を搬送する搬送手段と、サーマルヘッドと、前記記録媒体の搬送経路において前記サーマルヘッドよりも下流側に位置し、前記記録媒体にインクを吐出するインクジェット式記録ヘッドとを備えた記録装置を制御し、
前記記録媒体に前記インクジェット式記録ヘッドによって記録を行う場合に、少なくとも前記インクジェット式記録ヘッドにおける前記記録媒体の被記録領域の一部を、事前に前記サーマルヘッドで加熱すること、
を特徴とする記録装置の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162053(P2012−162053A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25933(P2011−25933)
【出願日】平成23年2月9日(2011.2.9)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】