説明

記録装置

【課題】位置案内子が形成された基準面と、異なる深さ位置に形成された記録層とを有する光ディスク記録媒体に記録を行う場合、レンズシフト等に伴うスポット位置ずれで生じる記録マーク列の重なりやをATS(隣接トラックサーボ)で解決する際のサーボを安定化する。
【解決手段】基準面の位置案内子に基づき対物レンズを制御するトラッキングサーボループをマイナーループとして形成し、当該ループに対してATS制御系によるサーボ制御信号を与える構成とする。このとき、ATS制御系の位相補償については全積分や一次のLPFなどATSループの伝達特性ゲインにピークを発生させない構成を用い、またマイナーループの制御帯域はATSループの制御帯域より十分高く設定する。従来のATS単体とする場合に生じていたループ伝達特性ゲインのピークの発生を防止でき、トラッキング誤差の発散が防止されサーボの安定化が図られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置案内子が形成された基準面と当該基準面とは異なる深さ位置に形成された記録層とを有する光ディスク記録媒体に対して記録を行う記録装置に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0002】
【特許文献1】特開2008−135144号公報
【特許文献2】特開2008−176902号公報
【背景技術】
【0003】
光の照射により信号の記録/再生が行われる光ディスク記録媒体(光ディスク)として、例えばCD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disc)、BD(Blu-ray Disc:登録商標)などが普及している。
【0004】
これらCD、DVD、BDなど現状において普及している光ディスクの次世代を担うべき光ディスクに関して、先に本出願人は、上記特許文献1や上記特許文献2に記載されるようないわゆるバルク記録型のものを提案している。
【0005】
ここで、バルク記録とは、例えば図25に示すようにして少なくともカバー層101とバルク層(記録層)102とを有する光記録媒体(バルク型記録媒体100)に対し、逐次焦点位置を変えてレーザ光照射を行ってバルク層102内に多層記録を行うことで、大記録容量化を図る技術である。
【0006】
このようなバルク記録に関して、上記特許文献1には、いわゆるマイクロホログラム方式と呼ばれる記録技術が開示されている。
マイクロホログラム方式では、バルク層102の記録材料として、いわゆるホログラム記録材料が用いられる。ホログラム記録材料としては、例えば光重合型フォトポリマ等が広く知られている。
【0007】
マイクロホログラム方式は、ポジ型マイクロホログラム方式とネガ型マイクロホログラム方式とに大別される。
ポジ型マイクロホログラム方式は、対向する2つの光束(光束A、光束B)を同位置に集光して微細な干渉縞(ホログラム)を形成し、これを記録マークとする手法である。
また、ネガ型マイクロホログラム方式は、ポジ型マイクロホログラム方式とは逆の発想で、予め形成しておいた干渉縞をレーザ光照射により消去して、当該消去部分を記録マークとする手法である。具体的に、ネガ型マイクロホログラム方式では、記録動作を行う前に、予めバルク層102に対して干渉縞を形成するための初期化処理を行う。すなわち、平行光による光束C,Dを対向して照射し、それらの干渉縞をバルク層102の全体に形成しておくものである。そして、このように初期化処理により予め干渉縞を形成しておいた上で、消去マークの形成による情報記録を行う。具体的には、任意の層位置にフォーカスを合わせた状態で記録すべき情報に応じたレーザ光照射を行うことで、消去マークによる情報記録を行うものである。
【0008】
また、本出願人は、マイクロホログラム方式とは異なるバルク記録の手法として、例えば特許文献2に開示されるようなボイド(空孔、空包)を記録マークとして形成する記録手法も提案している。
ボイド記録方式は、例えば光重合型フォトポリマなどの記録材料で構成されたバルク層102に対して、比較的高パワーでレーザ光照射を行い、上記バルク層102内に空孔を記録する手法である。特許文献2に記載されるように、このように形成された空孔部分は、バルク層102内における他の部分と屈折率が異なる部分となり、それらの境界部分で光の反射率が高められることになる。従って上記空孔部分は記録マークとして機能し、これによって空孔マークの形成による情報記録が実現される。
【0009】
このようなボイド記録方式は、ホログラムを形成するものではないため、記録にあたっては片側からの光照射を行えば済むものとできる。すなわち、ポジ型マイクロホログラム方式の場合のように2つの光束を同位置に集光して記録マークを形成する必要は無いものとできる。
また、ネガ型マイクロホログラム方式との比較では、初期化処理を不要にできるというメリットがある。
なお、特許文献2には、ボイド記録を行うにあたり記録前のプリキュア光の照射を行う例が示されているが、このようなプリキュア光の照射は省略してもボイドの記録は可能である。
【0010】
ところで、上記のような各種の記録手法が提案されているバルク記録型(単にバルク型とも称する)の光記録媒体であるが、このようなバルク型の光記録媒体の記録層(バルク層)は、例えば反射膜が複数形成されるという意味での明示的な多層構造を有するものではない。すなわち、バルク層102においては、通常の多層ディスクが備えているような記録層ごとの反射膜、及び案内溝は設けられていない。
従って、先の図25に示したバルク型記録媒体100の構造のままでは、マークが未形成である記録時において、フォーカスサーボやトラッキングサーボを行うことができないことになる。
【0011】
このため実際において、バルク型記録媒体100に対しては、次の図26に示すような案内溝を有する基準となる反射面(基準面Ref)を設けるようにされている。
具体的には、カバー層101の下面側にピットやグルーブによる案内溝(位置案内子)が形成され、そこに選択反射膜103が成膜される。そして、このように選択反射膜103が成膜されたカバー層102の下層側に対し、図中の中間層104としての、例えばUV硬化樹脂などの接着材料を介してバルク層102が積層される。
【0012】
また、このような媒体構造とした上で、バルク型記録媒体100に対しては、次の図27に示されるようにしてマークの記録用のレーザ光(記録用レーザ光)とは別途に、位置制御用のレーザ光としてのサーボ用レーザ光を照射するようにされる。
図示するようにこれら記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とは、共通の対物レンズを介してバルク型記録媒体100に照射される。
【0013】
このとき、仮に、サーボ用レーザ光がバルク層102に到達してしまうと、当該バルク層102内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、従来よりバルク記録方式では、サーボ用レーザ光として、記録用レーザ光とは波長帯の異なるレーザ光を用いるものとした上で、案内溝形成面(基準面Ref)に形成される反射膜としては、サーボ用レーザ光は反射し、記録用レーザ光は透過するという波長選択性を有する選択反射膜103を設けるものとしている。
【0014】
以上の前提を踏まえた上で、図27を参照し、バルク型記録媒体100に対するマーク記録時の動作について説明する。
先ず、案内溝や反射膜の形成されていないバルク層102に対して多層記録を行うとしたときには、バルク層102内の深さ方向においてマークを記録する層位置を何れの位置とするかを予め設定しておくことになる。図中では、バルク層102内においてマークを形成する層位置(マーク形成層位置:情報記録層位置とも呼ぶ)として、第1情報記録層位置L1〜第5情報記録層位置L5の計5つの情報記録層位置Lが設定された場合を例示している。図示するように第1情報記録層位置L1は、案内溝が形成された選択反射膜103(基準面Ref)からフォーカス方向(深さ方向)に第1オフセットof-L1分だけ離間した位置として設定される。また、第2情報記録層位置L2、第3情報記録層位置L3、第4情報記録層位置L4、第5情報記録層位置L5は、それぞれ基準面Refから第2オフセットof-L2分、第3オフセットof-L3分、第4オフセットof-L4分、第5オフセットof-L5分だけ離間した位置として設定される。
【0015】
マークが未だ形成されていない記録時においては、記録用レーザ光の反射光に基づいてバルク層102内の各層位置Lを対象としたフォーカスサーボ、トラッキングサーボを行うことはできない。従って、記録時における対物レンズのフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御は、位置制御用光としてのサーボ用レーザ光の反射光に基づき、当該サーボ用レーザ光のスポット位置が基準面Ref上において案内溝に追従するようにして行うことになる。
【0016】
但し、記録用レーザ光は、マーク記録のために選択反射膜103よりも下層側に形成されたバルク層102に到達させる必要がある。このため、この場合の光学系には、対物レンズのフォーカス機構とは別途に、記録用レーザ光の合焦位置を独立して調整するためのフォーカス機構が設けられることになる。
【0017】
ここで、このような記録用レーザ光の合焦位置を独立して調整するための機構を含めた、バルク型記録媒体100の記録装置の内部構成例を図28に示しておく。
図28において、図中にLD1と示す第1レーザダイオード111は、記録用レーザ光の光源であり、LD2と示す第2レーザダイオード119はサーボ用レーザ光の光源である。先の説明からも理解されるように、これら第1レーザダイオード111と第2レーザダイオード119はそれぞれ異なる波長帯によるレーザ光を発光するように構成されている。
【0018】
図示するように第1レーザダイオード111より出射した記録用レーザ光は、コリメーションレンズ112を介して固定レンズ113・可動レンズ114・レンズ駆動部115から成るフォーカス機構に入射する。上記レンズ駆動部115によって上記可動レンズ114が記録用レーザ光の光軸に平行な方向に駆動されることで、図中の対物レンズ117に入射する記録用レーザ光のコリメーション状態(収束/平行/発散の状態)が変化し、記録用レーザ光の合焦位置を対物レンズ117の駆動による合焦位置の変化とは独立して調整することができる。
なお、この意味で、当該フォーカス機構については、記録光用フォーカス機構とも表記する。
【0019】
上記記録光用フォーカス機構を介した記録用レーザ光は、当該記録用レーザ光と同波長帯による光を透過しそれ以外の波長帯による光は反射するように構成されたダイクロイックミラー116に入射する。
図示するようにダイクロイックミラー116を透過した記録用レーザ光は、対物レンズ117を介してバルク型記録媒体100に対して照射される。対物レンズ117は、2軸アクチュエータ118によりフォーカス方向及びトラッキング方向に変位可能に保持されている。
【0020】
また、第2レーザダイオード119より出射されたサーボ用レーザ光は、コリメーションレンズ120を介した後、ビームスプリッタ121を透過し、上述したダイクロイックミラー116に入射する。サーボ用レーザ光は、当該ダイクロイックミラー117にて反射され、その光軸がダイクロイックミラー116を透過した記録用レーザ光の光軸と一致するようにして対物レンズ117に入射する。
対物レンズ117に入射したサーボ用レーザ光は、後述するサーボ回路125によるフォーカスサーボ制御によって2軸アクチュエータ118が駆動されることで、バルク型記録媒体100の選択反射膜103上(基準面Ref)に合焦するようにされている。また同時に、サーボ用レーザ光のトラッキング方向における位置は、サーボ回路125によるトラッキングサーボ制御によって2軸アクチュエータ118が駆動されることで、選択反射膜103に形成された案内溝に沿うようにされる。
【0021】
選択反射膜103からのサーボ用レーザ光の反射光は、対物レンズ117を介しダイクロイックミラー116で反射された後、ビームスプリッタ121にて反射される。ビームスプリッタ121にて反射されたサーボ用レーザ光の反射光は、集光レンズ122を介してフォトディテクタ123の検出面上に集光する。
【0022】
マトリクス回路124は、フォトディテクタ123による受光信号に基づきフォーカス、トラッキングの各エラー信号を生成し、それらの各エラー信号はサーボ回路125に供給される。
【0023】
サーボ回路125は上記各エラー信号からフォーカスサーボ信号、トラッキングサーボ信号を生成する。これらフォーカスサーボ信号、トラッキングエラー信号に基づき上述した2軸アクチュエータ118が駆動されることで、対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御が実現される。
【0024】
ここで、バルク型記録媒体100について予め設定された各情報記録層位置Lのうちから所要の情報記録層位置Lを対象としたマーク記録を行うとしたときには、レンズ駆動部115を駆動制御して、記録用レーザ光の合焦位置を、選択した情報記録層位置Lに対応するオフセットofに応じた分だけ変化させる。
具体的にこのような情報記録位置の設定制御は、例えば記録装置の全体制御を行うコントローラ126により行われる。すなわち、当該コントローラ126により、対象とする情報記録層位置Lxに応じて予め設定されたオフセット量of-Lxに基づいてレンズ駆動部115を駆動制御することで、記録用レーザ光による情報記録位置(合焦位置)を、上記対象とする情報記録層位置Lxに合わせるものである。
【0025】
また、記録時における記録用レーザ光のトラッキングサーボに関しては、上述のようにサーボ回路125がサーボ用レーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のトラッキングサーボ制御を行うことで、自動的に行われるものとなる。具体的に、記録用レーザ光のトラッキング方向におけるスポット位置は、基準面Refに形成された案内溝の直下となるように制御される。
【0026】
ちなみに、マーク記録が既に行われたバルク型記録媒体100について再生を行う際は、記録時のように対物レンズ117の位置を基準面Refからのサーボ用レーザ光の反射光に基づいて制御する必要はない。すなわち再生時においては、再生対象とする情報記録層位置Lに形成されたマーク列を対象として、再生用のレーザ光の照射を行うことで、当該再生用のレーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御を行うことができる。
【0027】
上記により説明したようにバルク記録方式においては、バルク型記録媒体100に対し、マークの記録光としての記録用レーザ光と、位置制御用光としてのサーボ用レーザ光とを、共通の対物レンズ117を介して(同一光軸上に合成して)照射するようにされている。その上で、サーボ用レーザ光の反射光に基づいて対物レンズ117のフォーカスサーボ制御、トラッキングサーボ制御を行うことで、バルク層102内に案内溝やそれが形成された反射面が形成されていなくとも、記録用レーザ光のフォーカスサーボ、トラッキングサーボを行うことができるように図られている。
【0028】
しかしながら、上記により説明したようなサーボ制御手法を採る場合には、バルク型記録媒体100の偏芯や光学ピックアップのスライド機構のガタ等に起因して生じる対物レンズ117のレンズシフトによって、トラッキング方向における情報記録位置のずれが生じてしまうという問題がある。
確認のため述べておくと、スライド機構のガタに伴うレンズシフトとは、スライドサーボ制御中において、当該スライド機構におけるメカ機構的なガタの発生に起因して光学ピックアップの位置が急激(瞬間的に)に変位したことに伴って、トラッキングサーボ制御中の対物レンズ117の位置がその変位の吸収ためにシフトされることを意味する。
【0029】
図29は、上記のようなレンズシフトに伴う情報記録位置のずれが生じる原理について説明するための図である。
図29において、図29(a)は、バルク型記録媒体100に偏芯やスライド機構のガタが無く対物レンズ117のレンズシフトが生じていない理想的な状態を、また図29(b)は紙面左方向(外周方向であるとする)のレンズシフトが生じた場合(+方向の偏芯と称する)、図29(c)は紙面右方向(内周方向であるとする)のレンズシフトが生じた場合(−方向の偏芯と称する)をそれぞれ示している。
【0030】
先ず、図中の中心軸cは、光学系を設計する上で設定された中心軸であり、図29(a)に示す理想状態においては、対物レンズ117の中心は当該中心軸cに一致する。
【0031】
これに対し、図29(b)に示すような+方向のレンズシフトが生じた場合は、対物レンズ117の中心が光学系の中心軸cに対して+方向にシフトする。
このとき、サーボ用レーザ光(図中の柄付きの光線)に関しては、対物レンズ117に対して平行光により入射するので、上記のような対物レンズ117の中心軸cからのシフトが生じても、その焦点位置のトラッキング方向における位置に変化は生じない。これに対し、記録用レーザ光(図中の白抜きの光線)は、前述のように、基準面Refよりも下層側のバルク層102内の所要の情報記録層位置Lに合焦させるために、対物レンズ117に対して非平行光により入射されるので、上記のような+方向への対物レンズ117のシフトに対しては、図のように、記録用レーザ光の焦点位置(情報記録位置)が、レンズシフト量に応じた分だけ+方向に変化してしまうこととなる(図中、ずれ量+d)。
【0032】
また、図29(c)に示すような−方向のレンズシフトが生じた場合には、記録用レーザ光による情報記録位置は、図のようにレンズシフト量に応じた分だけ−方向に変化することとなる(図中ずれ量−d)。
【0033】
このようにして,先の図28にて説明したバルク型記録媒体100についての記録装置の構成、すなわち、

・記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とを共通の対物レンズ117を介して照射する
・対物レンズ117のフォーカスサーボ制御を、サーボ用レーザ光がバルク型記録媒体100の基準面Refに合焦するようにして行う
・記録用レーザ光の焦点位置(情報記録位置)を対物レンズ117に入射する記録用レーザ光のコリメーション状態を変化させて調整する
・対物レンズ117のトラッキングサーボ制御を、サーボ用レーザ光の焦点位置が基準面Refに形成された案内溝に沿うようにして行う

という構成においては、ディスクの偏芯やスライド機構のガタ等に起因して、記録用レーザ光による情報記録位置がトラッキング方向にずれてしまうという問題が生じる。
このとき、偏芯の大きさ等やトラックピッチ(案内溝の形成間隔)の設定によっては、隣接する案内溝同士で情報記録位置が重なってしまうこともある。このようであると、正しく記録信号を再生することはできなくなる。
【0034】
なお、上記では情報記録位置のずれの要因として対物レンズ117のレンズシフトを主なものとして説明したが、情報記録位置のずれは、ディスクチルトによっても同様に生じるものである。
【0035】
上記のような情報記録位置ずれの問題を回避するための1つの対策としては、情報記録位置の変動以上にトラックピッチを広げておくということを挙げることができる。
しかしながら、この手法では、レンズシフト等の最大発生量が不確定であるため、どの程度トラックピッチを広げるかも不確定であるという問題がある。また、何よりトラックピッチの拡大により記録容量の低下を招いてしまうことが問題となる。
【0036】
また、情報記録位置ずれを回避するための他の手法としては、ディスクを着脱不能なシステムとすることが挙げられる。
ここで、偏芯の原因としては、ディスク内径とスピンドルモータへのクランプ径との誤差が挙げられる。加工上、両者の誤差を完全にゼロにすることは不可能であるので偏芯は不可避である。また仮に、両者の誤差をゼロにできたとしても、ディスクの基準面における記録信号中心と記録装置のスピンドル軸中心とが同一になるとは限らないので、この面でもやはり偏芯が生じる。そこで、ディスクの着脱を不能としたシステムにすれば、偏芯による影響が同じとなるので、記録位置が重なる問題を回避できる。そしてこのことで、トラックピッチを詰めることができ、その分、記録容量の増大を図ることができる。
【0037】
しかしながら、当然、この手法ではディスクの交換が一切できないので、例えばディスク不良時にディスクだけを交換するといったことができなくなる。さらには、或る記録装置で記録したデータを別の記録装置で読み出すといったこともできない。つまりこれらの点で、利便性が損なわれる結果となる。
【0038】
そこで、これらの問題を回避するための有効な手法として、いわゆるATS(Adjacent Track Servo:隣接トラックサーボ)の手法を採ることが考えられる。このATSは、元々はハードディスクドライブにおけるセルフサーボトラックライタ(SSTW)として検討されていたものである。
【0039】
図30は、ATSについて説明するための図である。
図のようにATSでは、記録用スポットSrecと隣接トラックサーボ用スポットSatsとを記録媒体上に形成するようにされる。これらスポットSrecとスポットSatsは、それぞれその元となる光線を共通の対物レンズを介して記録媒体に照射することで形成される。このとき、スポット間の距離は固定にする。
【0040】
ATSでは、記録用スポットSrecを先行スポット(つまり記録の進行方向が内周→外周である場合には外周側)とし、隣接トラックサーボ用スポットSatsを後行スポットとして、記録用スポットSrecによって形成したマーク列を対象として、隣接トラックサーボ用スポットSatsによりトラッキングサーボをかける。つまりは、記録用スポットSrecが形成した1本前のトラックに、隣接トラックサーボ用スポットSatsが追従するように対物レンズのトラッキングサーボ制御を行うというものである。
【0041】
このようなATSによれば、トラックピッチは各スポットS間の距離で一定とできるので、偏芯等の影響によってトラックが重なってしまう(情報記録位置が重なってしまう)という問題は生じないようにできる。すなわち、上述のように偏芯等に起因する情報記録位置のずれを考慮してトラックピッチを余分に広げたり、或いはディスクを着脱不能とするシステムとするといった必要は無いものとできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0042】
しかしながら、ATSにおいて、隣接トラックサーボ用スポットSatsを用いたトラッキングサーボを従来行われているトラッキングサーボの手法と同様の手法で行った場合には、周回を重ねるごとにトラッキング誤差成分が次第に増大し、発散してしまうことが判明した。
以下、この点について説明する。
【0043】
図31は、ATS制御系を伝達関数ブロックにより表している。
図31において、K(z)と示す伝達関数ブロックは、トラッキングサーボ系における制御器としてのサーボ演算器(サーボフィルタ)の離散系伝達関数を表すものであり、またP(z)と示す伝達関数ブロックは、対物レンズを駆動するアクチュエータの離散系伝達関数を表している。
また、図中のrは制御目標位置であり、eはトラッキングエラー信号を表す。uは制御器の出力(トラッキングドライブ信号に相当)、ysは隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置を表す。
r-aは、記録用スポットSrecと隣接トラックサーボ用スポットSatsとの間の距離である。
【0044】
図示するように、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysと目標位置rとの差がエラー信号eである。一般的なトラッキングサーボ制御系と同様に、この場合のサーボ系においてもエラー信号eをゼロとするように制御器(K(z))が動作する。
【0045】
ここで、先の図30の説明からも理解されるように、ATSでは、1つ前のトラックを記録したときの記録用スポットSrecの位置が、現記録対象のトラックを記録するときの目標位置rとなる。図31ではこの前提を下に、目標位置rを、ディスク1周分の回転時間に相当する遅延時間要素z-kと距離dr-aとを用いて表している。具体的に、目標位置rは、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysに対して距離dr-aが加算されたものとして表すことのできる記録用スポットSrecの位置yrが、上記遅延時間要素z-kを介したものと表される。換言すれば、ディスク1回転分の時間だけ以前の記録用スポットSrecの位置が、目標位置rということである。
【0046】
この図31に示す制御系における目標位置rから位置ysへの伝達特性は、一般には、図32に示すような特性となる。
図32において、図32(a)は周波数−振幅特性、図32(b)は周波数−位相特性を示しているが、この図32を参照して分かるように、目標位置rから位置ysへの伝達特性(つまりATS制御系の伝達特性)としては、サーボ帯域近辺の帯域で伝達特性ゲインが0dBよりも大きくなる。また位相については、サーボ帯域近辺にて遅れが生じる傾向となる。
【0047】
上記のようにサーボ帯域近辺でゲインが0dBより大となる特性から、当該サーボ帯域の成分がディスクの周回ごとに増幅されてしまい、その結果、隣接トラックサーボ用スポットSatsの位置ysは、図33に示すように時間と共に発散してしまう。
【0048】
この点より、従来のATSでは、トラッキングサーボ制御を安定して行うことが非常に困難なものとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0049】
上記のような問題点に鑑み、本発明では記録装置として以下のように構成することとした。
すなわち、位置案内子が形成された基準面と当該基準面とは異なる深さ位置に形成された記録層とを有する光ディスク記録媒体に対して、上記記録層へのマーク記録を行うための記録光と、隣接トラックサーボ用のATS光と、上記基準面に形成された上記位置案内子に基づく位置制御を行うための位置制御用光とを共通の対物レンズを介して照射するように構成されると共に、上記ATS光の上記記録層からの反射光と、上記位置制御用光の上記基準面からの反射光とを個別に受光するように構成された光照射・受光部を備える。
また、上記対物レンズを上記光ディスク記録媒体の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に駆動するトラッキング機構を備える。
また、上記光照射・受光部により得られる上記位置制御用光についての受光信号に基づき、上記基準面に形成された位置案内子に対する上記位置制御用光の照射スポット位置の誤差を表す基準面側トラッキング誤差信号を生成する基準面側トラッキング誤差信号生成部を備える。
また、上記基準面側トラッキング誤差信号に対してトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して、上記基準面側トラッキング誤差信号が表すトラッキング誤差をキャンセルするための基準面側トラッキングサーボ信号を生成する基準面側トラッキングサーボ信号生成部を備える。
また、上記基準面側トラッキングサーボ信号に基づき上記トラッキング機構を駆動するトラッキング駆動部を備える。
また、上記光照射・受光部により得られる上記ATS光についての受光信号に基づき、上記記録層に記録されたマーク列に対する上記ATS光の照射スポット位置の誤差を表すATS側トラッキング誤差信号を生成するATS側トラッキング誤差信号生成部を備える。
また、上記ATS側トラッキング誤差信号に対してトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して、上記ATS側トラッキング誤差信号が表すトラッキング誤差をキャンセルするためのATS制御信号を生成するATS制御信号生成部を備える。
さらに、上記ATS制御信号を、上記基準面側トラッキングサーボ信号生成部を含むトラッキングサーボループに対して与える信号付与部を備えるようにした。
【0050】
上記のように本発明では、上記基準面側トラッキング誤差信号生成部と上記基準面側トラッキングサーボ信号生成部と上記トラッキング駆動部とを含み、上記基準面の位置案内子に基づくトラッキングサーボ制御を行う、基準面側トラッキングサーボ制御系が構成される。換言すれば、上記基準面の位置案内子に基づくトラッキングサーボ制御の行われるトラッキングサーボループが形成されるものである。
また、一方で本発明では、ATS(Adjacent Track Servo:隣接トラックサーボ)としての、1周前のマーク列を対象としたトラッキングサーボを行うためのトラッキング誤差信号を得るための構成として、上記ATS側トラッキング誤差信号生成部を備え、さらに当該ATS側トラッキング誤差信号生成部が生成するATS側トラッキング誤差信号からATSのための制御信号(ATS制御信号)を生成するATS制御信号生成部を備えるようにしている。
その上で本発明では、上記信号付与部によって、上記基準面の位置案内子に基づくトラッキングサーボ制御の行われるトラッキングサーボループに対し、上記ATS制御信号を付与するものとしている。すなわち、ATS制御系の出力を、上記基準面側のトラッキングサーボ制御系の目標値として与えるようにしているものである。これは、上記基準面側のトラッキングサーボループをマイナーループとし、当該マイナーループに対してATS制御系の出力を目標値として入力していると表現することもできる。
このような構成とすることで、従来のATS制御系単体とした場合に生じていた伝達特性ゲインのピークの発生を防止でき、トラッキングサーボループの伝達特性ゲインが全周波数帯域で0dBを超えないようにすることができる。
【発明の効果】
【0051】
本発明によれば、従来のATS単体とした場合における、サーボ帯域近辺で伝達特性ゲインが0dBよりも大となってしまうという特性を改善でき、結果、トラッキング誤差信号が時間と共に増大して発散してしまうといった事態の発生を防止できる。
これにより、記録マーク列の重なりや交差の発生を防止することのできるトラッキングサーボ制御を、従来のATS単体とする場合よりも安定なものとして実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施の形態で記録対象とする光ディスク記録媒体の断面構造図である。
【図2】実施の形態の記録装置が備える主に光学系の構成について説明するための図である。
【図3】実施の形態の記録装置全体の内部構成について説明するための図である。
【図4】実施の形態のトラッキングサーボ制御系の伝達特性を示した図である。
【図5】実施の形態で用いるバルク型記録媒体の基準面の表面を一部拡大して示した平面図である。
【図6】基準面全体におけるピットの形成態様について説明するための図である。
【図7】アドレス情報のフォーマットについて説明するための図である。
【図8】バルク型記録媒体の回転駆動に伴い基準面上をサーボ用レーザ光のスポットが移動する様子と、その際に得られるsum信号、sum微分信号、及びPP(プッシュプル)信号の波形との関係を模式的に示した図である。
【図9】ピークポジション検出の具体的手法について説明するための図である。
【図10】ピークタイミングを表すタイミング信号から生成されたクロックと、該クロックに基づき生成された各selector信号の波形と、基準面に形成された各ピット列(の一部)との関係を模式化して示した図である。
【図11】チルトやレンズシフトに伴う反射光の受光スポット位置ずれについて説明するための図である。
【図12】各トラッキングエラー信号の生成手法について説明するための図である。
【図13】スポット位置が半径方向に変位する際に得られる各トラッキングエラー信号の波形を示した図である。
【図14】線形トラッキング誤差信号の生成イメージ図である。
【図15】線形トラッキング誤差信号の具体的な生成手法について説明するための図である。
【図16】実施の形態の記録装置が備える信号生成部(基準面側トラッキング誤差信号生成部)の内部構成を主に示した図である。
【図17】クロック生成回路の内部構成を示した図である。
【図18】実施の形態の記録装置が備える各位相トラッキング誤差信号生成回路の内部構成を示した図である。
【図19】スポット位置が半径方向に移動している際に得られる各トラッキングエラー信号の波形図である。
【図20】レーザ光の照射スポットが所定のピット列上をトレースしている状態を示した図である。
【図21】変形例としての線形トラッキング誤差信号の生成手法において生成する各トラッキング誤差信号の波形図である。
【図22】変形例としての線形トラッキング誤差信号の生成手法について説明するための図である。
【図23】変形例としての光記録媒体の断面構造を示した図である。
【図24】変形例としての基準面の構造を示した図である。
【図25】バルク記録方式について説明するための図である。
【図26】基準面を備える実際のバルク型記録媒体の断面構造を例示した図である。
【図27】バルク型記録媒体に対するマーク記録時の動作について説明するための図である。
【図28】バルク型記録媒体に対して記録を行う従来例の記録装置の内部構成を示した図である。
【図29】レンズシフトにより情報記録位置のトラッキング方向における位置ずれが発生する原理について説明するための図である。
【図30】ATSについて説明するための図である。
【図31】従来のATS制御系を伝達関数ブロックにより表した図である。
【図32】従来のATS制御系の伝達特性を示した図である。
【図33】従来のATS制御系の時間経過に伴う出力特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下、発明を実施するための形態(以下実施の形態とする)について説明していく。
なお、説明は以下の順序で行うものとする。

<1.実施の形態のサーボ制御手法の概要>
[1-1.記録対象とする光ディスク記録媒体の例]
[1-2.実施の形態の記録装置の内部構成]
[1-3.サーボ制御手法]
<2.1/2トラック幅以上のスポット位置ずれが生じる場合への対策>
[2-1.スポット位置ずれに伴う問題点]
[2-2.基準面の構造]
[2-3.アドレス情報について]
[2-4.サーボ対象ピット列の選択手法]
[2-5.プッシュプル信号をサンプリングする手法の問題点とその対策]
[2-6.線形トラッキング誤差信号の生成手法]
[2-7.信号生成部の具体的構成例]
<3.変形例>
【0054】
<1.実施の形態のサーボ制御手法の概要>
[1-1.記録対象とする光ディスク記録媒体の例]

図1は、実施の形態の記録装置が記録対象とする光ディスク記録媒体の断面構造図を示している。
実施の形態で記録対象とする光ディスク記録媒体は、いわゆるバルク記録型の光ディスク記録媒体とされ、以下、バルク型記録媒体1と称する。
光ディスク記録媒体としてのバルク型記録媒体1は、記録装置により回転駆動された状態にてレーザ光照射が行われてマーク記録(情報記録)が行われる。
なお、光ディスク記録媒体とは、光の照射により情報の記録(及び再生)が行われる円盤状の記録媒体を総称したものである。
【0055】
図1に示されるように、バルク型記録媒体1には、上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、中間層4、バルク層5が形成されている。
ここで、本明細書において「上層側」とは、後述する実施の形態としての記録装置(記録装置10)側からのレーザ光が入射する面を上面としたときの上層側を指す。
【0056】
また、本明細書においては「深さ方向」という語を用いるが、この「深さ方向」とは、上記「上層側」の定義に従った上下方向(縦方向)と一致する方向(すなわち記録装置側からのレーザ光の入射方向に平行な方向:フォーカス方向)を指すものである。
【0057】
バルク型記録媒体1において、上記カバー層2は、例えばポリカーボネートやアクリルなどの樹脂で構成され、図示するようにその下面側には、記録位置を案内するための位置案内子が形成されている。
この場合、上記位置案内子としては、連続溝(グルーブ)又はピット列による案内溝が形成され、図のように凹凸の断面形状が与えられる。ここで本例の場合、位置案内子としての上記案内溝はスパイラル状に形成されているとする。
カバー層2は、このような案内溝(凹凸形状パターン)が形成されたスタンパを用いた射出成形などにより生成される。
【0058】
また、上記案内溝が形成された上記カバー層2の下面側には、選択反射膜3が成膜される。
ここで、前述もした通り、バルク記録方式では、記録層としてのバルク層5に対してマーク記録を行うための記録光(記録用レーザ光)とは別に、上記のような案内溝に基づきトラッキングやフォーカスのエラー信号を得るためのサーボ光(位置制御用光、サーボ用レーザ光とも称する)を別途に照射するものとされている。
このとき、仮に、上記サーボ光がバルク層5に到達してしまうと、当該バルク層5内におけるマーク記録に悪影響を与える虞がある。このため、サーボ光は反射し、記録光は透過するという選択性を有する反射膜が必要とされている。
従来よりバルク記録方式では、記録光とサーボ光とはそれぞれ波長帯の異なるレーザ光を用いるようにされており、これに対応すべく、上記選択反射膜3としては、サーボ光と同一の波長帯の光は反射し、それ以外の波長帯による光は透過するという、波長選択性を有する選択反射膜が用いられる。
【0059】
上記選択反射膜3の下層側には、例えばUV硬化樹脂などの接着材料で構成された中間層4を介して、記録層としてのバルク層5が形成(接着)されている。
バルク層5の材料(記録材料)としては、例えば先に説明したポジ型マイクロホログラム方式やネガ型マイクロホログラム方式、ボイド記録方式など、採用するバルク記録の方式に応じて適宜最適なものが採用されればよい。
なお、本発明で対象とする光ディスク記録媒体に対するマーク記録方式は特に限定されるべきものではなく、バルク記録方式の範疇において任意の方式が採用されればよい。
以下、本例においては、ボイド記録方式が採用されるものとして説明を続ける。
【0060】
ここで、上記のような構成を有するバルク型記録媒体1において、上述の案内溝の形成に伴い凹凸断面形状パターンの与えられた選択反射膜3は、後述もするようにサーボ用レーザ光に基づく記録用レーザ光の位置制御を行うにあたっての基準となる反射面となる。この意味で、選択反射膜3が形成された面を以下、基準面Refと称する。
【0061】
先の図27においても説明したように、バルク型の光記録媒体においては、バルク状の記録層内に多層記録を行うために、予め情報記録を行うべき各層位置(情報記録層位置L)が設定される。バルク型記録媒体1においても、情報記録層位置Lについては、先の図27の場合と同様に、基準面Refからそれぞれ深さ方向に第1オフセットof-L1、第2オフセットof-L2、第3オフセットof-L3、第4オフセットof-L4、第5オフセットof-L5分だけ離間した第1情報記録層位置L、第2情報記録層位置L2、第3情報記録層位置L3、第4情報記録層位置L4、第5情報記録層位置L5が設定されているとする。
基準面Refからの各層位置Lへのオフセットof-Lの情報は、予め記録装置側に設定される。
【0062】
なお、情報記録層位置Lの数は5に限定されるべきものではない。
【0063】
[1-2.実施の形態の記録装置の内部構成]

図2は、図1に示したバルク型記録媒体1に対する記録を行う実施の形態としての記録装置が備える主に光学系の構成について説明するための図である。具体的には、記録装置が備える光学ピックアップOPの内部構成を主に示している。
【0064】
図2において、記録装置に装填されたバルク型記録媒体1は、当該記録装置における所定位置においてそのセンターホールがクランプされるようにしてセットされ、図示を省略したスピンドルモータによる回転駆動が可能な状態に保持される。
光学ピックアップOPは、上記スピンドルモータにより回転駆動されるバルク型記録媒体1に対して記録用レーザ光、サーボ用レーザ光、及び隣接トラックサーボ用スポットSats(図30)を形成するためのATS光を照射するために設けられる。
なお後の説明から明らかとなるように、本例の場合、ATS光は、再生時においてはマークにより記録された信号の再生を行うための再生光として用いられることになる。
【0065】
光学ピックアップOP内には、マークによる信号記録を行うためのレーザ光の光源となる記録用レーザ11rと、基準面Refに形成された位置案内子を利用した位置制御を行うための光としてのサーボ用レーザ光の光源であるサーボ用レーザ24とが設けられる。さらに、記録時におけるATS光の照射及び再生時における記録信号の読み出しを行うためのレーザ光を照射するための光源であるATS・再生時用レーザ11apが設けられる。
【0066】
ここで、先に述べたように、記録用レーザ光とサーボ用レーザ光とはそれぞれ波長帯の異なる光を用いる。本例の場合、記録用レーザ光の波長はおよそ405nm程度(いわゆる青紫色レーザ光)、サーボ用レーザ光の波長はおよそ650nm程度(赤色レーザ光)とされているとする。
また、ATS光や信号読み出しのための再生光として機能すべきATS・再生時用レーザ11apを光源とするレーザ光(以下、単にATS光と称する)は、選択反射膜3を透過してバルク層5内に到達させる必要があり、なお且つ記録再生波長は同等とすべきことから、その波長は記録用レーザ光と同波長とする。
【0067】
光学ピックアップOP内には、記録用レーザ光、サーボ用レーザ光、及びATS光のバルク型記録媒体1への共通の出力端となる対物レンズ20が設けられる。
さらには、ATS光のバルク型記録媒体1からの反射光を受光するための第1受光部23と、サーボ用レーザ光のバルク型記録媒体1からの反射光を受光するための第2受光部29とが設けられる。
【0068】
その上で、光学ピックアップOP内においては、記録用レーザ11rより出射された記録用レーザ光及びATS・再生時用レーザ11apから出射されたATS光を対物レンズ20に導くと共に、当該対物レンズ20に入射した上記バルク型記録媒体1からのATS光の反射光を第1受光部23に導くための光学系が形成される。
【0069】
具体的に、記録用レーザ11rより出射された記録用レーザ光、及びATS・再生時用レーザ11apから出射されたATS光は、共にコリメーションレンズ12を介して平行光となるようにされた後、偏光ビームスプリッタ13に入射する。偏光ビームスプリッタ13は、このように光源側から入射した記録用レーザ光・ATS光については透過するように構成されている。
【0070】
上記偏光ビームスプリッタ13を透過した記録用レーザ光・ATS光は、固定レンズ14、可動レンズ15、及びレンズ駆動部16から成るエキスパンダに入射する。このエキスパンダは、光源に近い側が固定レンズ14とされ、光源に遠い側に可動レンズ15が配置され、レンズ駆動部16によって上記可動レンズ15が入射光の光軸に平行な方向に駆動されることで、記録用レーザ光・ATS光について独立したフォーカス制御を行う。このエキスパンダは、前述した記録光用フォーカス機構に相当するものである。
後述もするように、当該記録光用フォーカス機構におけるレンズ駆動部16は、図3に示すコントローラ44によって、記録対象とする情報記録層位置Lに対応して設定されたオフセットof-Lの値に応じて駆動される。
【0071】
上記記録光用フォーカス機構を構成する固定レンズ14及び可動レンズ15を介した各レーザ光は、図のようにミラー17にて反射された後、1/4波長板18を介してダイクロイックプリズム19に入射する。
ダイクロイックプリズム19は、その選択反射面が、記録用レーザ光・ATS光と同波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するように構成されている。従って上記のようにして入射した各レーザ光は、ダイクロイックプリズム19にて反射される。
【0072】
ダイクロイックプリズム19で反射された各レーザ光は、図示するようにして対物レンズ20を介してバルク型記録媒体1に対して照射される。
【0073】
ここで、このように記録用レーザ光・ATS光が対物レンズ20を介して照射されることによっては、バルク層5内の対象とする情報記録層位置Lにおいて、先の図30に示したような記録用スポットSrec、隣接トラックサーボ用スポットSatsが形成される。
この場合の光学系は、これら記録用スポットS_recと隣接トラックサーボ用スポットS_atsとの位置関係が、予め設定された位置関係で固定となるように設計されている。
本例において、記録用スポットS_recと隣接トラックサーボ用スポットS_atsとの半径方向における離間距離は、基準面Refに形成されたトラックのピッチ(スパイラルのピッチ)と一致するように設定されているとする。
【0074】
対物レンズ20に対しては、当該対物レンズ20をフォーカス方向(バルク型記録媒体1に対して接離する方向)、及びトラッキング方向(上記フォーカス方向に直交する方向:バルク型記録媒体1の半径方向に平行な方向)に変位可能に保持する2軸アクチュエータ21が設けられる。
この場合の2軸アクチュエータ21には、フォーカスコイル、トラッキングコイルが備えられ、それぞれに駆動信号(後述する駆動信号FD、TD)が与えられることで、対物レンズ20をフォーカス方向、トラッキング方向にそれぞれ変位させる。
【0075】
ここで、記録時や再生時においては、上記のようにバルク型記録媒体1に対してATS光が照射されることに応じて、バルク層5内のマーク列からの当該ATS光の反射光が得られる。
このように得られたATS光の反射光は、対物レンズ20を介してダイクロイックプリズム19に導かれ、当該ダイクロイックプリズム19にて反射される。
ダイクロイックプリズム19で反射されたATS光の反射光は、1/4波長板18→ミラー17→記録光用フォーカス機構(可動レンズ15→固定レンズ14)を介した後、偏光ビームスプリッタ13に入射する。
【0076】
ここで、このように偏光ビームスプリッタ13に入射するATS光の反射光(復路光)は、1/4波長板18による作用とバルク型記録媒体1での反射時の作用とにより、ATS・再生時用レーザ11ap側から偏光ビームスプリッタ13に入射した光(往路光)とはその偏光方向が90度異なるようにされる。この結果、上記のようにして入射したATS光の反射光は、偏光ビームスプリッタ13にて反射される。
【0077】
このように偏光ビームスプリッタ13にて反射されたATS光の反射光は、集光レンズ22を介して第1受光部23の受光面上に集光する。
【0078】
ここで、図示による説明は省略するが、第1受光部23は複数の受光素子(この場合は4つであるとする)を備えて構成される。以下、第1受光部23としての複数の受光素子で得られる受光信号については、これらを総括して受光信号DT-apと表記する。
【0079】
また、光学ピックアップOP内には、上記により説明した記録用レーザ光・ATS光についての光学系の構成に加えて、サーボ用レーザ24より出射されたサーボ用レーザ光を対物レンズ20に導き且つ、上記対物レンズ20に入射したバルク型記録媒体1からのサーボ用レーザ光の反射光を第2受光部29に導くための光学系が形成される。
図示するようにサーボ用レーザ24より出射されたサーボ用レーザ光は、コリメーションレンズ25を介して平行光となるようにされた後、偏光ビームスプリッタ26に入射する。偏光ビームスプリッタ26は、このようにサーボ用レーザ24側から入射したサーボ用レーザ光(往路光)は透過するように構成される。
【0080】
偏光ビームスプリッタ26を透過したサーボ用レーザ光は、1/4波長板27を介してダイクロイックプリズム19に入射する。
先に述べたように、ダイクロイックプリズム19は、記録用レーザ光・ATS光と同波長帯の光は反射し、それ以外の波長による光は透過するように構成されているため、上記サーボ用レーザ光はダイクロイックプリズム19を透過し、対物レンズ20を介してバルク型記録媒体1に照射される。
【0081】
また、このようにバルク型記録媒体1にサーボ用レーザ光が照射されたことに応じて得られる当該サーボ用レーザ光の反射光(基準面Refからの反射光)は、対物レンズ20を介した後ダイクロイックプリズム19を透過し、1/4波長板27を介して偏光ビームスプリッタ26に入射する。
先のATS光の場合と同様に、このようにバルク型記録媒体1側から入射したサーボ用レーザ光の反射光(復路光)は、1/4波長板27の作用とバルク型記録媒体1での反射時の作用とにより、往路光とはその偏光方向が90度異なるものとされ、従って復路光としてのサーボ用レーザ光の反射光は偏光ビームスプリッタ26にて反射される。
【0082】
偏光ビームスプリッタ26にて反射されたサーボ用レーザ光の反射光は、集光レンズ28を介して第2受光部29の受光面上に集光する。
この第2受光部29としても複数の受光素子(例えば4つ)を備え、以下、第2受光部29としての複数の受光素子で得られる受光信号を総括して受光信号DT-svと表記する。
【0083】
ここで、図示による説明は省略するが、実際において記録装置には、上記により説明した光学ピックアップOP全体をトラッキング方向にスライド駆動するスライド駆動部が設けられ、当該スライド駆動部による光学ピックアップOPの駆動により、レーザ光の照射位置を広範囲に変位させることができるようにされている。
【0084】
図3は、実施の形態の記録装置の全体的な内部構成を示している。
なお図3において、光学ピックアップOPの内部構成については、図2に示した構成のうち記録用レーザ11r、レンズ駆動部16、2軸アクチュエータ21のみを抽出して示している。
【0085】
図3において、記録装置には、記録用レーザ光、ATS光に係る信号処理系として、図中の記録処理部31、マトリクス回路32、再生処理部33、再生時用サーボ回路34、及びATS側フィルタ35が設けられている。
【0086】
記録処理部31には、バルク型記録媒体1に対して記録すべきデータ(記録データ)が入力される。記録処理部31は、入力された記録データに対してエラー訂正符号の付加や所定の記録変調符号化、アドレス情報の付加を行うなどして、バルク型記録媒体1に実際に記録される例えば「0」「1」の2値データ列である記録変調データ列を得る。
そして、当該記録変調データ列に基づき生成した記録パルス信号RCPにより、光学ピックアップOP内の録再用レーザ11rを発光駆動する。
【0087】
マトリクス回路32には、前述した第1受光部23からの受光信号DT-apが入力される。
マトリクス回路32は、受光信号DT-apに基づき、マトリクス演算処理により必要な各種の信号を生成する。
【0088】
ここで、本例の場合、バルク層5にマーク列により記録された信号の再生時(ユーザデータの再生時)には、ATS光を、再生用のレーザ光として使用するものとしている。なお且つ再生時には、ATS光の反射光に基づき既記録マーク列を対象としたフォーカスサーボ制御及びトラッキングサーボ制御を行うものとしている。
【0089】
このことに対応してマトリクス回路32では、受光信号DT-apに基づき、上述した記録変調データ列の再生信号に相当する高周波信号(和信号:以下、再生信号RFとする)、フォーカスサーボ制御のためのフォーカスエラー信号FE-ap(マーク列に対するフォーカス誤差を表す信号)、トラッキングサーボ制御のためのトラッキングエラー信号TE-ap(隣接トラックサーボ用スポットSatsの既記録マーク列に対する半径方向における位置誤差を表す信号)を生成するように構成される。
【0090】
マトリクス回路32にて生成された再生信号RFは、再生処理部34に供給される。
また、フォーカスエラー信号FE-apは、再生時用サーボ回路34に対して供給される。
また、トラッキングエラー信号TE-apは、再生時用サーボ回路34に対して供給されると共に、後述する記録時における位置制御に用いられるべく、ATS側フィルタ35に対しても供給される。
【0091】
再生処理部33は、再生信号RFについて2値化処理や記録変調符号の復号化・エラー訂正処理など、上述した記録データを復元するための再生処理を行い、上記記録データを再生した再生データを得る。
また再生処理部33はマーク列により記録されたデータ中に埋め込まれたアドレス情報の検出も行う。図示は省略しているが、検出されたアドレス情報はコントローラ44に供給される。
【0092】
再生時用サーボ回路34は、コントローラ44からの指示に応じて、フォーカスエラー信号FE-ap、トラッキングエラー信号TE-apのそれぞれに基づき、フォーカスサーボ信号FS-ap、トラッキングサーボ信号TS-apを生成する。ここでフォーカスサーボ信号FS-apは、ATS光の合焦位置を再生対象とする情報記録層位置(マーク形成層位置)Lに追従させる(フォーカス誤差をキャンセルする)ための信号となる。またトラッキングサーボ信号TS-apは、ATS光のスポット位置をマーク列に追従させる(トラッキング誤差をキャンセルする)ための信号となる。
これらフォーカスサーボ信号FS-ap、トラッキングエラー信号TS-apは、再生時において使用されるものである。
図示するようにフォーカスサーボ信号FS-apはセレクタ40に供給され、トラッキングエラー信号TS-apはセレクタ41に対して供給される。
【0093】
ATS側フィルタ35は、コントローラ44からの指示に応じて、トラッキングエラー信号TE-apに基づきトラッキングサーボ信号TS-atsを生成する。
具体的に、ATS側フィルタ35は、トラッキングエラー信号TE-apに対し位相補償等のトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して、上記トラッキングエラー信号TE-apが表すトラッキング誤差をキャンセルするための上記トラッキングサーボ信号TS-atsを生成する。
このとき、ATS側フィルタ35としては、例えば全積分や一次のLPF(ローパスフィルタ)など、ATSのループにピークを生じさせない構成とする。
図示するようにトラッキングサーボ信号TE-atsは、加算部39に対して供給される。
【0094】
また、記録装置には、サーボ用レーザ光の反射光についての信号処理系として、信号生成部36、基準面側サーボフィルタ37、及び記録時用フォーカスサーボ回路38が設けられる。
【0095】
信号生成部36は、図2に示した第2受光部29における複数の受光素子からの受光信号DT-svに基づき、必要な信号を生成する。
具体的に信号生成部36は、受光信号DT-svに基づき、基準面Refに形成された位置案内子(トラック)に対するサーボ用レーザ光の照射スポット位置の半径方向における位置誤差を表すトラッキングエラー信号TE-svを生成する。
また信号生成部36は、記録時におけるフォーカスサーボ制御を行うための信号として、基準面Ref(選択反射膜3)に対するサーボ用レーザ光のフォーカス誤差を表すフォーカスエラー信号FE-svを生成する。
【0096】
なお、後の説明より明らかとなるように、本例の記録装置には、実際には、基準面Refに記録された位置情報を検出するための構成(図16におけるselector信号選択回路56、アドレス検出回路57)が設けられ、これに対応して信号生成部36は、位置情報検出用の信号も生成することになる。
図3では説明の便宜上、これら基準面Refの位置情報検出のための構成については省略しているが、その具体的説明については後に改めて行うこととする。
【0097】
信号生成部36により生成されたフォーカスエラー信号FE-svは、記録時用フォーカスサーボ回路38に対して供給される。
記録時用フォーカスサーボ回路38は、コントローラ44からの指示に応じ、フォーカスエラー信号FE-svに基づいてフォーカスサーボ信号FS-svを生成し、これを上述したセレクタ40に対して出力する。
【0098】
ここで、セレクタ40は、コントローラ44から指示に応じて、記録時には記録時用フォーカスサーボ回路38からのフォーカスサーボ信号FS-sv(つまりサーボ用レーザ光の焦点位置を基準面Refに追従させるためのサーボ制御信号)を選択するようにされ、再生時には、再生時用サーボ回路35からのフォーカスサーボ信号FS-ap(ATS光の焦点位置を再生対象とする情報記録層位置Lに追従させるためのサーボ制御信号)を選択するようにされる。
【0099】
セレクタ40により選択されたフォーカスサーボ信号FSは、フォーカスドライバ42に供給される。
フォーカスドライバ42は、供給されたフォーカスサーボ信号FSに基づき生成したフォーカス駆動信号FDにより2軸アクチュエータ21のフォーカスコイルを駆動する。
これにより、記録時に対応しては、対物レンズ20が、サーボ用レーザ光の焦点位置を基準面Refに追従させるようにして駆動され、また再生時に対応しては、対物レンズ20がATS光の焦点位置を再生対象とする情報記録層位置Lに追従させるようにして駆動されるようになる。
なお、後述もするように、記録時におけるATS光(及び記録用レーザ光)についてのフォーカス制御(記録対象とする情報記録層位置Lに合焦させるためのフォーカス制御)は、レンズ駆動部16の制御により実現されるものである。
【0100】
また、信号生成部36により生成されたトラッキングエラー信号TE-svは、基準面側サーボフィルタ37に供給される。
基準面側サーボフィルタ37は、コントローラ44からの指示に応じ、トラッキングエラー信号TE-svに基づいて、サーボ用レーザ光のスポット位置を基準面Ref上の位置案内子に追従させる(トラッキング誤差をキャンセルする)ためのトラッキングサーボ信号TS-svを生成する。
基準面側サーボフィルタ37は、トラッキングエラー信号TE-svに対して位相補償等のトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して上記トラッキングサーボ信号TS-svを生成する。
【0101】
基準面側サーボフィルタ37により生成されたトラッキングサーボ信号TS-svは、加算部39に対して供給される。
加算部39は、トラッキングサーボ信号TS-svと、前述のようにATS側フィルタ35から供給されるトラッキングサーボ信号TS-atsとを加算し、その結果をトラッキングサーボ信号TS-arfとしてセレクタ41に出力する。
【0102】
セレクタ41は、コントローラ44からの指示に応じ、記録時には上記加算部39からのトラッキングサーボ信号TS-arfを選択し、再生時には再生時用サーボ回路35からのトラッキングサーボ信号TS-apを選択するようにされる。
【0103】
セレクタ41により選択されたトラッキングサーボ信号TSは、トラッキングドライバ43に供給される。
トラッキングドライバ43は、供給されたトラッキングサーボ信号TSに基づき生成したトラッキング駆動信号TDにより、2軸アクチュエータ21のトラッキングコイルを駆動する。
これにより、再生時に対応しては、対物レンズ20が上記トラッキングサーボ信号TS-apに基づき、ATS光のスポット位置がマーク列に追従するように駆動されることとなる。
そして、記録時に対応しては、対物レンズ20が、上記トラッキングサーボ信号TS-arfとしての、ATS光のトラッキング誤差成分とサーボ用レーザ光のトラッキング誤差成分との双方を反映したサーボ制御信号に基づき駆動されることになる。
【0104】
コントローラ44は、例えばCPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などのメモリ(記憶装置)を備えたマイクロコンピュータで構成され、例えば上記ROM等に記憶されたプログラムに従った制御・処理を実行することで、記録装置の全体制御を行う。
例えばコントローラ44は、前述したように予め各層位置Lに対応して設定されたオフセットof-Lの値に基づいて、記録時における記録用レーザ光・ATS光の合焦位置の制御(設定)を行う。具体的には、記録対象とする情報記録層位置Lに対応して設定されたオフセットof-Lの値に基づき、光学ピックアップOP内のレンズ駆動部16を駆動することで、深さ方向における記録位置及びATS光の合焦位置の選択を行う。
【0105】
また、コントローラ44は、記録時と再生時とで、それぞれ対応する手法でのフォーカスサーボ、トラッキングサーボが行われるようにするための制御を行う。
具体的に、フォーカスサーボ側については、記録時において、サーボ用レーザ光の反射光に基づき対物レンズ20のフォーカスサーボ制御が実行されるように、記録時用フォーカスサーボ回路38にフォーカスサーボ信号FS-svを生成させ且つ、セレクタ40により当該フォーカスサーボ信号FS-svを選択させる。
また再生時には、ATS光のマーク列からの反射光に基づき対物レンズ20のフォーカスサーボ制御を実行させるべく、再生時用サーボ回路34にフォーカスサーボ信号FS-apを生成させ且つ、セレクタ40により当該フォーカスサーボ信号FS-apを選択させる。
【0106】
また、トラッキングサーボについては、記録時には、サーボ用レーザ光の反射光とATS光の反射光とに基づく対物レンズ20のトラッキングサーボ制御が実行されるように、基準面側サーボフィルタ37、ATS側フィルタ35にトラッキングサーボ信号TS-sv、トラッキングサーボ信号TS-atsの生成をそれぞれ実行させ且つ、セレクタ41に、これらの合成成分としてのトラッキングエラーTS-arfを選択させる。
また再生時には、ATS光の反射光に基づく対物レンズ20のトラッキングサーボ制御が実行させるべく、再生時用サーボ回路34にトラッキングサーボ信号TS-apを生成させ且つ、セレクタ41に当該トラッキングサーボ信号TS-apを選択させる。
【0107】
[1-3.サーボ制御手法]

ここで、上記により説明した実施の形態の記録装置では、信号生成部36と、基準面側サーボフィルタ37と、トラッキングドライバ43とを有することで、基準面Refに形成された位置案内子に基づき対物レンズ20のトラッキングサーボ制御を行うサーボ制御系(基準面側サーボ制御系)が構成されている。つまりは、基準面Refの位置案内子に基づくトラッキングサーボ制御の行われるトラッキングサーボループが形成されているものである。
そして、本実施の形態では、記録時におけるトラッキングサーボ制御系として、このような基準面側サーボ制御系と共に、ATSによるサーボ制御系が構成されるようにしている。具体的には、ATS光の反射光に基づき当該ATS光のマーク列に対するトラッキング誤差を表すトラッキングエラー信号TE-apを生成するマトリクス回路32と、トラッキングエラー信号TE-apからトラッキングサーボ信号TS-atsを生成するATS側フィルタ35とを設けた上で、当該ATS側フィルタ35により生成されたトラッキングサーボ信号TS-atsを、加算部39によって、上記基準面側のトラッキングサーボループに対して与えるようにしている。
これは、上記トラッキングサーボ信号TS-atsを、上記基準面側サーボ制御系の目標値(制御目標値)として与えるように構成しているものである。或いは、上記基準面側サーボ制御系としてのトラッキングサーボループをマイナーループとして、上記トラッキングサーボ信号TS-atsを当該マイナーループの目標値として入力していると換言することもできる。
【0108】
このような構成とした場合、ATS制御系のトラッキング誤差は、主に、対物レンズ20のレンズシフト等によって生じる先の図29にて説明したようなスポット位置ずれ(この場合はサーボ用レーザ光とATS光との間のスポット位置ずれとなる)に起因して生じることになる。
そして、このようなATS側のトラッキング誤差情報が、上記基準面側サーボ制御系の制御目標値として与えられることで、ATS光のスポット位置が、マーク列に追従するように対物レンズ20が駆動されることになる。
このことからも理解されるように、本実施の形態のトラッキングサーボ制御手法としても、ATS単体とする場合と同様に、記録マーク列が隣接マーク列に重なったり交差するといった事態の発生を防止できるものとなる。
【0109】
ここで、上記説明からも理解されるように、基準面側サーボフィルタ37を含む上記基準面側サーボ制御系は、主に、通常の外乱成分(つまり上記のようなレンズシフト等に伴うスポット位置ずれの要因となるディスク偏芯成分等よりも高い周波数の外乱成分)に追従する機能を担わせるべきとなる。
この意味で、上記基準面側サーボ制御系の制御帯域は、通常のサーボ制御系とする場合と同等の制御帯域に設定する。具体的に本例の場合、上記基準面側サーボ制御系の制御帯域は10kHz程度に設定するものとしている。
【0110】
一方、ATS側フィルタ35を含むATS制御系については、上記通常の外乱成分への追従はさせるべきではないので、その制御帯域は、少なくとも上記基準面側サーボ制御系の制御帯域よりも低い周波数帯域に設定する。具体的に本例の場合、ATS制御系の制御帯域(ATS側フィルタ35のカットオフ周波数)としては1kHz程度に設定している。
【0111】
上記のように基準面側サーボ制御系としてのトラッキングサーボループ(マイナーループ)に対してATS制御系の制御信号としてのトラッキングサーボ信号TS-atsを付与するようにした実施の形態のトラッキングサーボ制御系によれば、従来のATS制御系単体とした場合に生じていた、先の図32に示したような伝達特性ゲインのピークの発生を防止することができる。
【0112】
図4は、実施の形態のトラッキングサーボ制御系の伝達特性についてのシミュレーション結果を示している。なお、図4(a)は周波数−振幅特性、図4(b)は周波数−位相特性を示している。
この図4を参照して分かるように、実施の形態のトラッキングサーボ制御系においては、その伝達特性ゲインが、その制御帯域の全域で0dBを超えないように抑制されるものとなる。つまりこれにより、従来のATS制御系単体とした場合における伝達特性ゲインのピークの発生が防止されているものである。
【0113】
このように伝達特性ゲインのピークの発生が防止されることで、トラッキング誤差信号が時間と共に増大して発散してしまうといった事態の発生を防止でき、その結果、記録マーク列の重なりや交差の発生を防止することのできるトラッキングサーボ制御を、従来のATS単体とする場合よりも安定なものとして実現することができる。
【0114】
[2-1.スポット位置ずれに伴う問題点]

ここで、上述もしたように、本実施の形態のトラッキングサーボ制御系では、ATS側のトラッキング誤差情報が基準面側サーボ制御系の制御目標値として与えられることで、ATS光のスポット位置がマーク列に対して追従するように制御されることになる。
すなわち、このことを裏返すと、基準面Ref上のサーボ用レーザ光のスポット位置は、上記ATS側のトラッキング誤差情報としての、前述のスポット位置ずれ量に応じた分だけサーボ対象とするトラックからオフセットされる場合があるということになる。
【0115】
この場合において、上記スポット位置ずれ量は、場合によっては複数トラック幅分に及ぶ可能性がある。すなわち、例えばバルク型記録媒体1の作製精度が比較的低く、ディスク偏芯やディスクチルトの発生量が比較的大となる場合には、スポット位置ずれ量としてもその分大となり、これに伴って1トラック幅以上のスポット位置ずれが生じる可能性もある。
【0116】
このようにスポット位置ずれ量が大であると、基準面側サーボ制御系におけるエラー信号も大となり、これに伴ってトラッキングサーボが外れてしまう可能性がある。これは、例えばプッシュプル信号等の通常のトラッキングエラー信号では、スポット位置が対象とするトラックから1/2トラック分以上離間してしまうとその波形に折り返しが生じ、これに伴ってトラッキングサーボ制御を適正に行うことが不能となるためである。
【0117】
そこで本実施の形態では、スポット位置ずれ量が基準面Ref上のトラック幅換算で1/2トラック分以上に生じる場合にも、トラッキングサーボ制御状態を維持できるようにするための対策を施すものとしている。具体的には、トラッキングエラー信号TE-svとして、1/2トラック幅以上のトラッキング誤差が生じた場合にも波形の折り返しを生じさせずその誤差量を線形に表すことのできる、線形トラッキング誤差信号を生成するというものである。
【0118】
[2-2.基準面の構造]

先ず、線形トラッキング誤差信号の生成にあたっては、基準面Refに形成される位置案内子として、以下で説明するようなピット列を形成することになる。
図5及び図6を参照して、本例のバルク型記録媒体1の基準面Ref上におけるピット列の形成態様について説明する。
図5は、バルク型記録媒体1における基準面Ref(選択反射膜3)の表面を一部拡大した平面図である。
この図5においては、紙面の左側から右側に向かう方向をピット列の形成方向、つまりはトラックの形成方向(線方向)としている。この場合、サーボ用レーザ光の照射スポットは、バルク型記録媒体1の回転駆動に伴い、紙面の左側から右側に移動するものとする。
また、上記ピット列の形成方向と直交する方向(紙面の縦方向)は、バルク型記録媒体1の半径方向である。
【0119】
また図5において、図中の白丸で示すA〜Fは、ピットの形成可能位置を表す。すなわち、基準面Refにおいて、ピットは、当該ピットの形成可能位置においてのみ形成されるものであって、ピットの形成可能位置以外にはピットの形成が行われない。
また、図中のA〜Fの符号の別はピット列の別(半径方向において配列されるピット列の別)を表し、これらA〜Fの符号に付される数字はピット列上におけるピットの形成可能位置の別を表す。
【0120】
ここで、図中の黒太線で表す間隔は、従来のバルク型記録媒体1において実現可能な最小トラックピッチ(従来限界トラックピッチ)を表している。このことからも理解されるように、本実施の形態のバルク型記録媒体1では、A〜Fの計6本のピット列が、従来限界の1トラック幅内に形成されている、すなわち半径方向における光学限界を超えるピッチで配列されていることになる。
【0121】
但し、従来限界の1トラック幅内にこれら複数のピット列を単純に配列したのみでは、ピット列形成方向においてピットの形成位置が重なってしまう虞があり、つまりはピット列形成方向におけるピットの間隔が光学限界を超えてしまう虞がある。
【0122】
そこで、本例においては、従来限界の1トラック幅内に配列される上記A〜Fの複数のピット列間で、ピット列形成方向におけるピット同士の間隔が光学限界を超えないようにするべく、以下のような条件を定めている。
すなわち、

1)A〜Fの各ピット列において、ピットの形成可能位置の間隔を所定の第1の間隔に制限する。
2)このようにピットの形成可能位置の間隔が制限されたA〜Fの各ピット列を、それぞれのピットの形成可能位置がピット列形成方向において所定の第2の間隔ずつずれたものとなるようにして配列する(つまり上記第2の間隔で各ピット列の位相をずらす)。

というものである。
【0123】
ここで、半径方向に配列されるA〜Fのピット列におけるそれぞれのピットの形成可能位置のピット列形成方向における間隔(上記第2の間隔)をnとおく。このとき、上記2)の条件が満たされるようにA〜Fの各ピット列が配列されることで、ピット列A−B、ピット列B−C、ピット列C−D、ピット列D−E、ピット列E−F、及びピット列F−Aの各ピット形成可能位置間の間隔は、図示するように全てnとなる。
また、A〜Fの各ピット列におけるピット形成可能位置の間隔(上記第1の間隔)は、この場合はA〜Fまでの計6つのピット列位相を実現するものとしているので、6nとなる。
【0124】
本例において、基準面Refにおけるサーボ用レーザ光による情報再生及びサーボ制御は、DVD(Digital Versatile Disc)の場合と同様の波長λ=650nm程度、開口数NA=0.65程度の条件で行うものとしている。このことに対応して本例では、各ピット形成可能位置の区間長はDVDにおける最短マークと同じ3T分(Tはチャネルビット)の区間長とし、またピット列形成方向におけるA〜Fの各ピット形成可能位置のエッジ間の間隔も、同様の3T分の長さに設定している。つまりこのことによると、n=6Tとなる。
この結果、上記1)2)の条件が満たされるものとなっている。
【0125】
ここで、基準面Ref全体におけるピットの形成態様について理解するために、図6を参照してより具体的なピット列の形成手法について説明する。
なお図6では、図示の都合上、ピット列の種類(位相)がA〜Cの3種のみとされた場合を例示している。
また図中において、黒丸はピット形成可能位置を表す。
【0126】
この図6を参照して分かるように、バルク型記録媒体1の基準面Refにおいては、それぞれ位相の異なる複数種のピット列(図6ではA〜Cの3種としているが実際にはA〜Fの6種となる)を1セットとし、該複数種のピット列の1セットがスパイラル状に形成されている。
このことで、上記複数種のピット列のうちの所要の1種のピット列を対象としたトラッキングサーボをかけ続けることで、スポット位置はスパイラル状の軌跡を描くことになる。
【0127】
また、基準面Refにおいて、ピットは、CAV(Constant Angular Velocity)方式により形成されたものとなる。このことから、図示するように複数種のピット列の個々は、半径方向において、そのピットの形成位置(ピットの形成可能位置)が同じ角度位置に揃えられるものとなる。
【0128】
ここで、このように基準面RefにてピットをCAV方式で記録するのは、ディスク上のどの領域においても図5に示したようなA〜Fの各ピット列の位相関係が保たれるようにするためである。
【0129】
[2-3.アドレス情報について]

続いて、図7により、基準面Refに記録されるアドレス情報のフォーマットの一例について説明する。
なお、以下、図10までの説明においては、便宜上、トラッキングエラー信号(個々のトラッキングエラー信号)としてはプッシュプル信号に基づく信号を生成することを前提とする。後の説明により明らかとなるように、実際の構成では、トラッキングエラー信号としてsum信号(和信号)に基づく信号を生成することになる。
【0130】
図7において、先ず図7(a)は、それぞれ異なるピット列位相を有するようにされた各ピット列(A〜F)のピット形成可能位置の関係を模式化して示している。なお図7(a)においては「*」マークによりピット形成可能位置を表している。
【0131】
ここで、後述もするように、実施の形態では、これらA〜Fのピット列のうちから1つのピット列を選択し、該選択した1つのピット列を対象としてトラッキングサーボをかけるようにされている。
但し、このとき問題となるのは、A〜Fの各ピット列は半径方向において光学限界を超えたピッチで配列されているという点である。すなわち、この場合においてサーボ用レーザ光の照射スポットがトラック上を移動(走査)して得られるトラッキングエラー信号(プッシュプル信号)としては、A〜Fの全てのピットを反映したものとなってしまうので、該トラッキングエラー信号に基づきトラッキングサーボをかけたとしても、選択した1つのピット列を追従することはできない。
このため、実施の形態では、選択したピット列におけるピット形成可能位置のタイミングにおけるトラッキングエラー信号をサンプルし、該サンプルしたトラッキングエラー信号の値に基づいて(いわば間欠的に)トラッキングサーボをかけるということをその基本概念とする。
【0132】
そして、これと同様に、アドレス情報を読む場合にも、選択したピット列に記録される情報のみが選択的に読み出されるように、該選択したピット列のピット形成可能位置のタイミングにおける和信号(sum信号)をサンプルし、その値に基づいてアドレス情報を検出するという手法を採る。
【0133】
このような情報検出の手法に対応するため、本例では、ピット形成可能位置におけるピットの形成有無により、チャネルビット(記録符号)の「0」「1」を表現するフォーマットを採用するものとしている。すなわち、1つのピット形成可能位置が、1チャネルビット分の情報を担うものである。
【0134】
その上で、このようなチャネルビットの複数個による「0」「1」のデータパターンにより、データビットの1ビットを表現するものとしている。
具体的に本例では、図7(b)に示されるように、チャネルビット4つ分でデータビットの「0」「1」を表現するものとし、例えば4チャネルビットのパターン「1011」がデータビット「0」、4チャネルビットのパターン「1101」がデータビット「1」を表すものとしている。
【0135】
このとき重要であるのは、チャネルビット「0」が連続しないという点である。つまり、チャネルビット「0」が連続してしまうということは、上述のようにトラッキングエラー信号を間欠的に用いてサーボを行うということを基本としたときに、エラー信号が得られない期間が連続してしまうということ意味するので、これに伴い、トラッキングサーボの精度を確保することが非常に困難となってしまうためである。
このため本例では、例えば上記のようなデータビットの定義により、チャネルビット「0」が連続しないという条件が満たされるようにしている。すなわち上記のようなデータビットの定義により、トラッキングサーボの精度低下が最小限に抑えられるようにしているものである。
【0136】
図7(c)は、シンクパターンの一例を示している。
例えばシンクパターンについては、図示するように12チャネルビットで表現するものとし、前半の8ビットを上記データビットの定義に当てはまらないチャネルビットパターン「11111111」とし、その後の4チャネルビットのパターンでシンクの別(種類)を表すものとしている。具体的に、上記8ビットに続く4チャネルビットのパターンが「1011」であればSync1、「1101」であればSync2としている。
【0137】
バルク型記録媒体1においては、アドレス情報が、上記のようなシンクの後に続けて記録されているものとする。
ここで前述もしたように、アドレス情報としては、ディスク上の絶対位置情報(半径位置の情報、及び回転角度情報)を記録する。
なお確認のために述べておくと、本例では従来限界の1トラック幅内にA〜Fの複数本のピット列を配列するものとしているが、アドレス情報の記録は、各ピット列の半径位置が個別に表されるように(各ピット列の識別が可能となるように)、ピット列ごとに個別の情報が割り振られるようにして行う。すなわち、従来限界の1トラック幅内に配列されるA〜Fの各ピット列に対し同じアドレス情報を記録するものではない。
【0138】
なお、図7の説明からも理解されるように、バルク型記録媒体1における基準面Refに対しては、ピットがポジション記録されていることになる。ポジション記録とは、ピット(或いはマーク)の形成部分をチャネルデータ「1」、それ以外の部分をチャネルデータ「0」とする記録手法を指すものである。
【0139】
[2-4.サーボ対象ピット列の選択手法]

上記のように従来の1トラック幅内に複数配列されるようにして形成されたピット列のうちから、任意のピット例を対象としてトラッキングサーボをかけるための手法は、具体的には以下で説明する手法をその基本とする。
【0140】
図8は、バルク型記録媒体1の回転駆動に伴い基準面Ref上をサーボ用レーザ光のスポットが移動する様子と、その際に得られるsum信号、sum微分信号、及びプッシュプル信号PP(PP信号とも表記する)の波形との関係を模式的に示している。
上記sum信号は、図2に示した第2受光部29としての複数の受光素子からの受光信号DT-svの和信号であり、上記sum微分信号はsum信号を微分して得られる信号である。
ここで、この図では説明の便宜上、図中の各ピット形成可能位置の全てにピットが形成されているものとする。
【0141】
図示するようにして、バルク型記録媒体1の回転に伴いサーボ用レーザ光のビームスポットが移動することに伴っては、sum信号は、A〜Fの各ピットのピット列形成方向における配置間隔に応じた周期でその信号レベルがピークを迎えることになる。つまりこのsum信号は、A〜Fの各ピットのピット列形成方向における間隔(形成周期)を表していることになる。
【0142】
ここで、この図の例ではサーボ用レーザ光のスポットがピット列A上に沿って移動するものとしているので、上記sum信号は、ピット列形成方向におけるピットAの形成位置の通過時にピーク値が最大(絶対値)となり、またピットB〜ピットDの各形成位置にかけて徐々にピーク値が減少していく傾向となる。そしてその後、ピットEの形成位置→ピットFの形成位置の順でピーク値は上昇傾向に転じ、再びピットAの形成位置に至ることでピーク値が最大となる。すなわち、ピット列形成方向における上記ピットE、Fの形成位置においては、外周側に隣接するピット列E、Fにおけるピットの影響を受けるので、sum信号のピーク値はピットE、Fの形成位置ごとで順に上昇することになる。
【0143】
また、上記sum信号を微分して生成されるsum微分信号、及びトラッキング誤差信号としてのPP信号としては、それぞれ図示するような波形が得られる。
上記sum微分信号は、各ピット列A〜Fのピット形成位置(厳密にはピット形成可能位置である)のピット列形成方向における間隔に応じたクロックCLKを生成するために用いられることになる。
【0144】
具体的に、クロックCLKとしては、sum微分信号を用いることで、各ピットのセンター位置(ピークポジション)に相当する位置(タイミング)を立ち上がり位置(タイミング)とする信号を生成する。
クロックCLKの生成手法としては、次の図9に示されるように、先ずは所定の閾値Th1でsum信号をスライスした信号と、同様に所定の閾値Th2でsum微分信号をスライスした信号とを生成する。そして、これらのANDをとることで、上記ピークポジションに相当する立ち上がりタイミングを有するタイミング信号を生成する。
クロックCLKは、このように生成したタイミング信号を入力信号(参照信号)としたPLL(Phase Locked Loop)処理を行うことで生成する。
【0145】
図10は、上記の手順により生成されたクロックCLKと、該クロックCLKに基づき生成された各selector信号の波形と、基準面Refに形成された各ピット列(の一部)との関係を模式化して示している。
この図からも明らかなように、クロックCLKとしては、ピットA〜Fの形成間隔に応じた周期を有する信号となる。具体的には、ピットA〜Fのピークポジションにその立ち上がりタイミングを有する信号となる。
【0146】
このようなクロックCLKから、A〜Fの個々のピット形成可能位置のタイミングを表す6種のselector信号を生成する。
具体的にこれらselector信号としては、それぞれ上記クロックCLKを1/6に分周して生成されたものとなっており、且つそれぞれの位相が1/6周期ずつずれたものとなっている。換言すれば、これら各selector信号は、それぞれの立ち上がりタイミングが1/6周期ずつずれたものとなるように、クロックCLKをそれぞれのタイミングで1/6に分周して生成されるものである。
【0147】
これらselector信号は、それぞれ、A〜Fの対応するピット列のピット形成可能位置のタイミングを表す信号となる。従って、これらselector信号を生成した上で、任意のselector信号を選択し、該選択したselector信号が表すタイミングでトラッキングエラー信号(プッシュプル信号)をサンプルホールドすることで、A〜Fのうちの1つのピット列に追従するためのトラッキングエラー信号を得ることができる。すなわち、このように生成したトラッキングエラー信号に基づき対物レンズ20についてのトラッキングサーボ制御を行うことで、A〜Fのピット列のうちの任意のピット列(つまりトラック)上にサーボ用レーザ光のスポットをトレースさせることが可能となる。
【0148】
[2-5.プッシュプル信号をサンプリングする手法の問題点とその対策]

ここで、上記の説明では、サーボ対象として任意のピット列を選択するにあたり、そのためのトラッキングエラー信号としてプッシュプル信号をサンプルホールドした信号を用いるものとしたが、このようにプッシュプル信号を用いる場合には、いわゆるチルト(skew)や対物レンズ20のレンズシフトに起因して、正確なトラッキング誤差情報を得ることができない虞がある。
【0149】
図11は、チルトやレンズシフトに伴う反射光の受光スポット位置ずれについて説明するための図であり、図11(a)はチルト・レンズシフトが生じていない理想状態における第2受光部29上の反射光スポット(受光スポット)を示し、図11(b)はチルト・レンズシフトが生じた場合における第2受光部29上の反射光スポットを示している。
なおこれら図11(a)(b)において、反射光スポット内に示した斜線部は、ディスク上に形成されたピットからの一次回折光成分の重畳領域(プッシュプル信号成分重畳領域)を表している。
【0150】
先ず前提として、プッシュプル信号(PP)は、図中の受光素子A,Bの組及び受光素子C,Dの組がそれぞれディスクの半径方向に対応する方向に隣接する組であるとした場合、

PP=(Ai+Bi)−(Ci+Di) ・・・[式1]

により計算されるものである。但し[式1]において、Ai,Bi,Ci,Diはそれぞれ受光素子A,B,C,Dの受光信号である。
【0151】
ここで、サーボ用レーザ光の照射スポットは、対象とするピット列上を正確にトレースしていると仮定する。その場合において、チルト・レンズシフトが生じていない図11(a)の理想状態であれば、上記[式1]に従って計算されるプッシュプル信号PPの値は「0」となる。
これに対し、図11(b)に示すようなチルト・レンズシフトに伴う反射光スポット位置ずれが生じている場合、[式1]により計算されるプッシュプル信号PPの値は、本来得られるべき「0」とは異なる値となってしまい、誤差が生じるものとなる。
【0152】
このことからも理解されるように、プッシュプル信号PPには、チルトやレンズシフトに伴うオフセットが生じる。
【0153】
このようなチルトやレンズシフトに伴うオフセット成分が無視できる程度であれば、上記で説明したままのトラッキングエラー信号の生成手法は有効であるが、トラッキングサーボ制御の安定性の向上を図るにあたっては、トラッキングエラー信号には上記のようなオフセット成分が重畳しないことが望ましい。
【0154】
従来、チルトやレンズシフトに伴うオフセットの影響を回避するためのトラッキングエラー検出手法としては、いわゆる3スポット法が知られているが、該3スポット法は、グレーティング等の光学部品の追加が必要であり、その分、部品コストや調整コストの増加を招く。
また、上記オフセットの影響を回避するためのトラッキングエラー検出手法としてはDPP(Differential Push Pull)法も知られているが、該DPP法としても同様にグレーティング等の追加が必要であり、部品コスト、調整コストの増加を招く。
【0155】
これら従来のトラッキングエラー検出手法が有する問題点の解決を図りつつ、チルト・レンズシフトに伴うオフセット成分の影響を回避するために、本例では、以下で説明するようなsum信号を用いる手法によりトラッキングエラー信号を生成するものとしている。
【0156】
図12は、ピット列ごとの各トラッキングエラー信号の生成手法について説明するための図である。
なおこの図12では、基準面Refに形成された各ピット列A〜Fと、そのうちのピット列D上をトレースするようにトラッキングサーボがかけられている状態でのサーボ用レーザ光のスポット位置の移動軌跡(斜線部)と、該サーボ用レーザ光の移動に伴い得られるsum信号の波形とを示している。
【0157】
例えばこの図12に示されるように、サーボ用レーザ光のスポットがピット列D上を正確にトレースしている場合、sum信号の値としては、ピット列D上のピット形成位置と一致するタイミング(図中n)において最小値をとり、該ピット列Dに対する位相差が大となるピット列ほど、そのピット形成位置での値が徐々に大となる傾向となる。
このとき、sum信号の値は、ピット列Dに対しそれぞれ隣接する(つまり同じ位相差を有する)ピット列C、ピット列Eのそれぞれのピット形成位置と一致するタイミング(図中n−1、n+1)にて同じ値をとり、また、ピット列Dに対しそれぞれ同じ距離(半径方向における距離)だけ離間した(つまり同じ位相差を有する)ピット列B、ピット列Fのそれぞれのピット形成位置と一致するタイミング(図中n−2、n+2)においても同じ値をとることになる。
【0158】
ここで、図中に示す状態とは異なり、サーボ用レーザ光のスポットがピット列D上から半径方向にずれた位置をトレースしたとすると、上記ピット列Dに対する位相差が等しいそれぞれのピット列の組における各ピット形成位置でのsum信号の値には、ずれが生じることが分かる。
つまりこのことからも理解されるように、トラッキングサーボの対象とするピット列に対する位相差が等しい各ピット列の組における各ピット形成位置でのsum信号の値は、上記トラッキングサーボの対象とするピット列に対するトラッキング方向の誤差を反映していることになる。具体的に、トラッキング誤差情報は、上記位相差が等しい各ピット列の組における各ピット形成位置でのsum信号の値の差分を計算することで得ることができる。
【0159】
この点を踏まえ本例では、具体的に以下のようにしてsum信号に基づくトラッキングエラー信号の生成を行う。
すなわち、先ずは、トラッキング誤差の検出対象としたいピット列に対して位相差が等しい2つのピット列を選出する。具体的に本例の場合は、対象とするピット列にそれぞれ隣接するピット列を選出するものとする。
その上で、これら選出した各ピット列のピット形成可能位置に対応するタイミング(図12におけるn−1とn+1が該当)で、sum信号の値をサンプリングし、それらサンプリングしたsum信号の値の差分を計算する。該計算結果が、トラッキング誤差の検出対象としたいピット列についてのトラッキングエラー信号となる。
【0160】
[2-6.線形トラッキング誤差信号の生成手法]

上記のような手法により、ピット列A〜Fの各ピット列ごとのトラッキングエラー信号を生成することができる。
ここで、本例では、これらピット列A〜Fが従来の1トラック幅内に形成されていることから、ピット列A〜Fとしての各位相のピット列ごとのトラッキングエラー信号は、同時並行的に生成することができる。つまり、ピット列A〜Fの個々について、上記手法によるトラッキングエラー信号の生成を個々に行うトラッキングエラー信号生成部を設けることで、ピット列A〜Fの個々についてのトラッキングエラー信号を同時並行して得ることができるものである。
以下、このように同時並行的に得ることのできる、ピット列A,B,C,D,E,Fについての個々のトラッキングエラー信号のことを、それぞれトラッキングエラー信号TE_A,TE_B,TE_C,TE_D,TE_E,TE_Fと表記する。
【0161】
本実施の形態では、これらトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fを同時並行的に得るようにした上で、前述したスポット位置ずれに伴ってサーボ用レーザ光のスポット位置が半径方向に変位する際に、これらトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fのゼロクロス点近傍の波形を順次繋ぎ合わせるようにすることで、線形トラッキング誤差信号を得る。
【0162】
図13は、サーボ用レーザ光のスポット位置が半径方向に変位する際に得られるトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの各波形を示している。
この図13を参照して分かるように、前述したスポット位置ずれに起因してサーボ用レーザ光のスポット位置が半径方向に変位される際には、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの個々は、正弦波状に変化する。この場合、ピット列は1トラック幅内に6つ配列されるので、これらトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの位相は、図のように60°ずつずれた関係となる。
【0163】
ここで、仮に、ピット列Aを対象としたトラッキングサーボがかけられているとすると、スポット位置は、図中に示すトラッキングエラー信号TE_A上において、その負→正のゼロクロス点にあると表現することができる。
そしてその状態から、前述のスポット位置ずれに伴う制御目標値の変化によりスポット位置が徐々に半径方向に変位していくとすると、トラッキングエラー信号TE_Aの振幅が徐々に上昇していくことになる。
このとき、図中時点t1としての、スポット位置がピット列A上から1/12トラック分(30°)移動した時点では、ピット列Aに隣接するピット列Bに対するトラッキング誤差を表すトラッキングエラー信号TE_Bの振幅値(絶対値)が、トラッキングエラー信号TE_Aの振幅値(絶対値)と一致することが分かる。つまりこの時点t1は、スポット位置が、半径方向におけるピット列Aとピット列Bとの中間点に至った時点となる。
以降も同様に、図中の時点t2はピット列Bとピット列Cとの中間点、時点t3はピット列Cとピット列Dとの中間点、時点t4はピット列Dとピット列Eとの中間点、時点t5はピット列Eとピット列Fとの中間点、時点t6はピット列Fとピット列Aとの中間点を表すものとなる。
【0164】
この点からも理解されるように、スポット位置が半径方向に変位していく状態では、図中の黒太線で表すように、スポット位置が各エラー信号TE_A〜TE_Fの直線区間(ゼロクロス点近傍の区間)を順次通過していくことになる。
【0165】
本実施の形態ではこの点に着目して、次の図14に示すように、スポット位置が半径方向に移動していく際の各トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fのゼロクロス点近傍の波形を繋ぎ合わせることで、1/2トラック幅以上のトラッキング誤差を線形に表すことのできる線形トラッキング誤差信号を生成する。
なお、図14では、最初にサーボONとしたピット列(つまりサーボ対象とするピット列)がピット列Dとされた場合での線形トラッキング誤差信号の生成イメージを示している。
【0166】
図15は、図14に示したような線形トラッキング誤差信号(以下、リニアエラー信号とも称する)の具体的な生成手法について説明するための図である。
なお、この図15においては、サーボ用レーザ光のスポット位置が半径方向に移動している際に得られるトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの波形を示している。
【0167】
先ず、図15を参照して分かるように、スポット位置が半径方向に移動することに応じては、時間経過と共に、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの振幅の大小関係に変化が生じる。
リニアエラー信号の生成にあたっては、予め、これらトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの振幅の大小関係の別ごとにcase分けをしておく。具体的にこの場合は、ピット列位相が6種とされることに応じ、caseとしてはcase1〜case12に分けられることになる。
これらcase1〜case12の定義は、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの振幅をA〜Fとすると、以下に表すものとなる。

case1:E<F<D<A<C<B
case2:E<D<F<C<A<B
case3:D<E<C<F<B<A
case4:D<C<E<B<F<A
case5:C<D<B<E<A<F
case6:C<B<D<A<E<F
case7:B<C<A<D<F<E
case8:B<A<C<F<D<E
case9:A<B<F<C<E<D
case10:A<F<B<E<C<D
case11:F<A<E<B<D<C
case12:F<E<A<D<B<C
【0168】
本例では、各トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの振幅を逐次モニタし、上記のように定義される各caseの別を判定する。そして、このように判定したcaseごとに、以下で示す計算を行うことにより、リニアエラー信号を生成する。
なお、以下で示す計算例は、図15に示されるように最初にサーボONとしたピット列がピット列Dとされた場合を前提としている。換言すれば、当該ピット列D上にスポットが位置している状態がリニアエラー信号のゼロ点であることを前提としている。
ここで、下記計算例において、P(n)は各時刻におけるリニアエラー信号の出力値を表し、A〜Fはそれぞれトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの振幅値を表す。
また、Pprevは、直前のcaseからの切り替わりタイミングにおける、当該直前のcaseで選択されていたトラッキングエラー信号TE(TE_A〜TE_Fの何れか)の振幅値を表すものである。
さらに、HPKは、caseの切り替わりタイミングにおける、当該caseの切り替わりに応じて新たに選択されたトラッキングエラー信号TE(TE_A〜TE_Fの何れか)の振幅値を表すものである。

case1・・・P(n)=Pprev+D
case2・・・P(n)=Pprev−HPK+C
case3・・・P(n)=Pprev+C
case4・・・P(n)=Pprev−HPK+B
case5・・・P(n)=Pprev+B
case6・・・P(n)=Pprev−HPK+A
case7・・・P(n)=Pprev+A
case8・・・P(n)=Pprev−HPK+F
case9・・・P(n)=Pprev+F
case10・・・P(n)=Pprev−HPK+E
case11・・・P(n)=Pprev+E
case12・・・P(n)=Pprev−HPK+D
【0169】
この計算例を参照して分かるように、本実施の形態では、スポット位置が半径方向に移動する際の各位相のトラッキング誤差信号TE_A〜TE_Fの振幅の大小関係が変化する所定のタイミングごとに、スポット位置の移動方向側に隣接するピット列についてのトラッキング誤差信号TEを順次繋ぎ合わせていくことで、リニアエラー信号を生成するようにされている。
具体的に、本例では、上記所定のタイミングが、case1/case2の切り替わりタイミング、case3/case4の切り替わりタイミング、case5/case6の切り替わりタイミング、case7/case8の切り替わりタイミング、case9/case10の切り替わりタイミング、case11/case12の切り替わりタイミングとされた上で、これら所定のタイミングごとに、スポット位置の移動方向側に隣接するピット列についてのトラッキングエラー信号TEを順次選択するようにされる。そしてこれと共に、上記所定のタイミングごとに、その時点でリニアエラー信号として出力していた値(Pprev)から新たに選択したトラッキングエラー信号TEの上記所定のタイミングでの値(HPK)を減算して得た値を基準値(Pprev−HPK)とし、当該基準値に対して、上記新たに選択したトラッキングエラー信号の値を加算して得た値(P(n))を、リニアエラー信号の値として順次出力するようにされている。
【0170】
このような手法によって、スポット位置が半径方向(外周方向、内周方向の双方)に移動している状態において、先の図14に示したような各位相のトラッキングエラー信号TEのゼロクロス点近傍の波形を繋ぎ合わせたものとしてのリニアエラー信号を生成することができる。換言すれば、サーボONしたピット列(トラック)からのトラッキング誤差量が、トラッキングエラー信号TEの折り返しが生じるような誤差量であっても、そのトラッキング誤差量をほぼ線形な形で表すトラッキング誤差信号を生成できるものである。
【0171】
このようなリニアエラー信号(トラッキングエラー信号TE-sv)に基づくトラッキングサーボ制御が行われることで、前述のスポット位置ずれが1/2トラック幅以上に生じるような場合でも、トラッキングサーボが外れないようにすることができる。
【0172】
[2-7.信号生成部の具体的構成例]

図16は、実施の形態の記録装置が備える信号生成部36の内部構成を主に示した図である。
なお図16では、先に述べた位置情報(アドレス情報)検出のために実施の形態の記録装置に備えられる構成として、selector信号選択回路56とアドレス検出回路57を併せて示している。また、図3に示したコントローラ44も併せて示している。
【0173】
図示するように信号生成部36内には、マトリスク回路50、クロック生成回路51、selector信号生成回路52、エラー信号生成回路53、case判定回路54、及びリニアエラー信号生成回路55が設けられている。
【0174】
マトリスク回路50は、図2に示した第2受光部29における複数の受光素子からの受光信号DT-svに基づき、前述したフォーカスエラー信号FE-sv、及び和信号としてのsum信号を生成する。
先に説明したように、フォーカスエラー信号FE-svは記録時用フォーカスサーボ回路38に対して供給される。
sum信号は、図示するようにクロック生成回路51、エラー信号生成回路53、及びアドレス検出回路57に対して供給される。
【0175】
クロック生成回路51は、先に説明した手順に従ってクロックCLKを生成する。
図17は、クロック生成回路51の内部構成を示している。
図17において、クロック生成回路51内にはスライス回路51A、sum微分回路51B、スライス回路51C、ANDゲート回路51D、及びPLL回路51Eが設けられる。
sum信号は、図示するようにスライス回路51Aとsum微分回路51Aとに入力される。スライス回路51Aは、設定された閾値Th1に基づき上記sum信号をスライスし、その結果を上記ANDゲート回路51Dに出力する。
上記sum微分回路51Bは、sum信号を微分して先に説明したsum微分信号を生成する。上記スライス回路51Cは、設定された閾値Th2に基づき、上記sum微分回路51Bにより生成されたsum微分信号をスライスし、その結果を上記ANDゲート回路51Dに出力する。
ANDゲート回路51Dは、上記スライス回路51Aからの出力と上記スライス回路51Cからの出力とのANDをとり、これによって先に説明したタイミング信号を生成する。
PLL回路51Eは、このようにANDゲート回路51Dで得られたタイミング信号を入力信号としてPLL処理を行って、クロックCLKを生成する。
【0176】
図16に戻り、クロック生成回路51により生成されたクロックCLKは、selector信号生成回路52に対して供給される。
selector信号生成回路52は、クロックCLKに基づき、A〜Fの各ピット列のそれぞれのピット形成可能位置のタイミングを表す6種のselector信号を生成する。具体的にselector信号生成回路52は、クロックCLKを1/6に分周した信号として、それぞれ位相が1/6周期ずつずれた信号を生成することで、上記6種のselector信号を得る。
以下、これら6種のselector信号についてはそれぞれselector信号S_A,S_B,S_C,S_D,S_E,S_Fと表記する。
【0177】
selector信号S_A〜S_Fは、エラー信号生成回路53に供給されると共に、selector信号選択回路56に対しても供給される。
【0178】
エラー信号生成回路53は、上記selector信号S_A〜S_Fとsum信号とに基づき、ピット列A〜Fのそれぞれについてのトラッキングエラー信号TE(TE_A〜TE_F)を生成する。
【0179】
図18は、エラー信号生成回路53の内部構成を示している。
この図18を参照して分かるように、エラー信号生成回路53内には、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fとしての6種のエラー信号TEを生成するために、2つのサンプルホールド回路と減算部とによるエラー信号生成部がsum信号に対して6つ並列に設けられている。
具体的には、サンプルホールド回路SH-A1とサンプルホールド回路SH-A2と減算部53Aとによりトラッキングエラー信号TE_Aを生成するエラー信号生成部と、サンプルホールド回路SH-B1とサンプルホールド回路SH-B2と減算部53Bとによりトラッキングエラー信号TE_Bを生成するエラー信号生成部と、サンプルホールド回路SH-C1とサンプルホールド回路SH-C2と減算部53Cとによりトラッキングエラー信号TE_Cを生成するエラー信号生成部と、サンプルホールド回路SH-D1とサンプルホールド回路SH-D2と減算部53Dとによりトラッキングエラー信号TE_Dを生成するエラー信号生成部と、サンプルホールド回路SH-E1とサンプルホールド回路SH-E2と減算部53Eとによりトラッキングエラー信号TE_Eを生成するエラー信号生成部と、サンプルホールド回路SH-F1とサンプルホールド回路SH-F2と減算部53Fとによりトラッキングエラー信号TE_Fを生成するエラー信号生成部とが設けられている。
【0180】
サンプルホールド回路SH-A1はselector信号S_Fが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-A2はselector信号S_Bが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Aはサンプルホールド回路SH-A1の出力からサンプルホールド回路SH-A2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Aを生成する。
また、サンプルホールド回路SH-B1はselector信号S_Aが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-B2はselector信号S_Cが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Bはサンプルホールド回路SH-B1の出力からサンプルホールド回路SH-B2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Bを生成する。
また、サンプルホールド回路SH-C1はselector信号S_Bが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-C2はselector信号S_Dが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Cはサンプルホールド回路SH-C1の出力からサンプルホールド回路SH-C2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Cを生成する。
また、サンプルホールド回路SH-D1はselector信号S_Cが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-C2はselector信号S_Eが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Dはサンプルホールド回路SH-D1の出力からサンプルホールド回路SH-D2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Dを生成する。
また、サンプルホールド回路SH-E1はselector信号S_Dが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-E2はselector信号S_Fが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Eはサンプルホールド回路SH-E1の出力からサンプルホールド回路SH-E2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Eを生成する。
また、サンプルホールド回路SH-F1はselector信号S_Eが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、サンプルホールド回路SH-F2はselector信号S_Aが表すタイミングでsum信号をサンプルホールドし、減算部53Fはサンプルホールド回路SH-F1の出力からサンプルホールド回路SH-F2の出力を減算することで、トラッキングエラー信号TE_Fを生成する。
【0181】
説明を図16に戻す。
エラー信号生成回路53により生成されたトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fは、case判定回路54に供給されると共に、リニアエラー信号生成回路55にも供給される。
【0182】
case判定回路54は、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fに基づき、先に説明したcase1〜case12の別を判定し、その判定結果を表す判定信号Dcsをリニアエラー信号生成回路55、及びselector信号選択回路56に供給する。
具体的にこの場合は、各caseの切り替わりタイミングを検出し、上記判定信号Dcsとしてはcaseの切り替わりタイミングとcaseの別とを表す信号を生成・出力する。
【0183】
リニアエラー信号生成回路55は、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fと判定信号Dcsとに基づき、前述したリニアエラー信号を生成する。具体的には、先に計算例として示した各caseごとの計算式のうち、上記判定信号Dcsが表すcaseに対応する計算式に従った計算を行うことで、リニアエラー信号としてのトラッキングエラー信号TE-svを生成する。
なお、リニアエラー信号生成回路55に対しては、コントローラ44より、基準面側サーボ制御系のトラッキングサーボがONとされるタイミングに応じてリセット信号が与えられ、リニアエラー信号生成回路55は当該リセット信号に応じて、上記リニアエラー信号としてのトラッキングエラー信号TE-svの値を0リセットする。
リニアエラー信号生成回路55により生成されたトラッキングエラー信号TE-svは、図3に示される基準面側サーボフィルタ37に供給される。
【0184】
selector信号選択回路56は、selector信号生成回路52から供給されるselector信号S_A〜S_Fのうちから、判定信号Dcsに基づく1つのselector信号をselector信号S_Adとして選択し、当該selector信号S_Adをアドレス検出回路57に出力する。
具体的に、selector信号選択回路56は、判定信号Dcsにより表されるcase1〜case12についての各切り替わりタイミングのうちの所定のタイミングで、selector信号S_Adとして出力するselector信号Sを、それまで出力していたselector信号Sに隣接するselector信号S(つまりそれまで出力していたselector信号Sがそのピット形成可能位置のタイミングを表すピット列に対して、スポットの移動方向側に隣接するピット列に対応するselector信号S)に切り替える。つまり本例の場合は、case1/case2の切り替わりタイミング、case3/case4の切り替わりタイミング、case5/case6の切り替わりタイミング、case7/case8の切り替わりタイミング、case9/case10の切り替わりタイミング、及びcase11/case12の切り替わりタイミングにおいて、selector信号S_Adとして出力するselector信号Sを、それまで出力していたselector信号Sに隣接するselector信号Sに切り替える。
【0185】
アドレス検出回路57は、selector信号S_Adが表すピット形成可能位置のタイミング(この場合はselector信号S_AdがHレベルの区間)で、sum信号の値をサンプリングした結果に基づき、基準面Refに記録されたアドレス情報を検出する。
ここで、先の図7を参照して説明したように、本例の場合、各ピット列のアドレス情報は、そのピット列におけるピット形成可能位置でのピット形成有無を1チャネルビットの情報として記録されるものである。これに応じアドレス検出回路57は、上記selector信号S_Adの立ち上がりタイミングでsum信号の値を識別することで、1チャネルビットの「0」「1」のデータ識別を行い、その結果に基づき、先の図7で説明したフォーマットに従ったアドレスデコード処理を行うことで、記録されたアドレス情報の検出(再生)を行う。
アドレス検出回路57で検出されたアドレス情報は、コントローラ44に対して供給される。
【0186】
ここで、上記のselector信号選択回路56の動作によれば、selector信号S_Adとしては、スポット位置に最寄りのピット列についてのselector信号Sが選択されることになる。
これによりアドレス検出回路57は、スポット位置に最寄りのピット列に記録されたアドレス情報を適正に検出することができる。
【0187】
コントローラ44は、上記のような信号処理部36の構成に対応して、以下の処理も行うようにされる。
すなわち、コントローラ44は、サーボ用レーザ光についてのトラッキングサーボに関して、サーボ対象とするピット列をピット列A〜Fの何れかに選択する(つまりサーボONとするピット列を選択する)としたときは、リニアエラー信号生成回路55に対し、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fのうちサーボ対象とすべきとして選択したピット列についてのトラッキングエラー信号TEを選択出力するように指示を行う。
また、前述もしたように、このように或るピット列を対象にサーボONしたことに応じては、リニアエラー信号(TE-sv)の振幅を0リセットするための指示をリニアエラー信号生成回路55に対して行うことになる。
【0188】
上記のような構成により、基準面側サーボ制御系によるトラッキングサーボ制御が、線形トラッキング誤差信号に基づき行われるようにすることができる。これにより、前述したレンズシフト等に伴うサーボ用レーザ光とATS光とのスポット位置ずれが1/2トラック幅以上に生じるような場合でもトラッキングサーボが外れないようにできる。つまりこれにより、偏芯等の抑制のために要求されるバルク型記録媒体1の作製精度の緩和が図られるようにでき、その結果、バルク型記録媒体1の製品コストの削減を図ることができる。
【0189】
<3.変形例>

以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明としてはこれまでで説明した具体例に限定されるべきものではない。
例えばこれまでの説明では、基準面Refに図5や図6に示したようなピット列を形成する場合において、skewや対物レンズ20のレンズシフトへの対策として、sum信号のサンプルホールド値の差分によるトラッキングエラー信号TEを生成するものとしたが、skewやレンズシフトに伴うスポット位置ずれの補正手段を設けるなど、skewやレンズシフトに伴う影響が無視できるような場合には、トラッキングエラー信号TEとしてプッシュプル信号をサンプルホールドした信号を用いるようにもできる。
【0190】
また、これまでの説明では、リニアエラー信号の生成にあたり、先の図14に示したようにトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fをそのまま用いる場合を例示したが、リニアエラー信号の生成手法としては、以下のような変形例としての手法も可能である。
【0191】
図19〜図22は、変形例としてのリニアエラー信号の生成手法について説明するための図である。
先ず、図19では、スポット位置が半径方向に移動している際に得られるトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの波形を示すと共に、該波形図上でピット列Aの真上にスポットが位置するタイミングとしての時点tA、及びピット列Dの真上にスポットが位置するタイミングとしての時点tDをそれぞれ示している。
また、図20では、基準面Ref上においてスポットがピット列A上をトレースしている様子(図20(a))とピット列D上をトレースしている様子(図20(b))とを示している。
ここで、図20に示すように、線方向(ピット列形成方向)においてスポットがピット列A上のピット形成可能位置に一致するタイミングをts1とおく。同様に、線方向においてスポットがピット列B上、ピット列C上、ピット列D上、ピット列E上、ピット列F上のピット形成可能位置にそれぞれ一致するタイミングをts2、ts2、ts3、ts4、ts5、ts6とおく。
【0192】
先ず、図19を参照すると、ピット列Aについてのトラッキングエラー信号TE_Aとピット列Dについてのトラッキングエラー信号TE_Dとは、その位相が反転した関係、換言すればその極性が逆転した関係となっていることが分かる。すなわち、常にA=−Dの関係が得られている。
本変形例は、トラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fのうちに、このように互いの極性が逆の関係となるトラッキングエラー信号TEの組が存在することを利用した手法となる。
【0193】
ここで、図20(a)に示すスポットがピット列A上をトレースする状態は、図19に当て嵌めれば、時点tAでのスポット位置が該当することになる。同様に図20(b)に示すスポットがピット列D上をトレースする状態は、図19における時点tDでのスポット位置が該当する。
つまりこのことからも理解されるように、スポット位置が半径方向に移動することに伴っては、図20(a)に示すスポット位置の状態から図20(b)に示すスポット位置の状態への遷移(或いは逆の遷移)が生じることになる。
【0194】
この点を踏まえた上で、図19における時点tA、すなわち図20(a)の状態に相当する状態では、トラッキングエラー信号TE_Aは、対象とするピットAの真上を通過するスポットの反射光に基づき生成されるものとなる。しかしながら、スポット位置が半径方向に移動して時点tD、つまり図20(b)に相当する状態となったときは、トラッキングエラー信号TE_Aは、対象とするピットAから最も離れたところにスポットが位置する状態で生成されることになる。
トラッキングエラー信号TE_Dについても同様のことが言え、図19における時点tD(図20(b)に相当する状態)では対象とするピットDの真上を通過するスポットの反射光に基づき生成できるが、時点tA(図20(a)に相当する状態)では対象とするピットDから最も離れたところにスポットが位置する状態で生成されることになる。
【0195】
このようにトラッキングエラー信号TEは、スポットが半径方向に変位される状況下では、スポット位置がその対象ピット列から遠ざかると当該対象ピット列から離れたスポットの反射光に基づき生成されるものである。そしてこのとき、対象ピット列から離れた区間では、その値の信頼性が低くなる虞がある。
【0196】
ここで、トラッキングエラー信号TE_A,TE_Dの関係性について見ると、トラッキングエラー信号TE_Aは、スポット位置が対象ピット列から最も遠ざかる時点tDにおいて、トラッキングエラー信号TE_Dが対象とするピット列Dの真上にスポット位置があることになる。
この点と、上述のようにトラッキングエラー信号TE_A、TE_Dが逆位相の関係(A=−D)である点とを考慮すると、トラッキングエラー信号TE_Aについては、対象とするピット列Aの近傍にスポット位置がある状態ではトラッキングエラー信号TE_Aをそのまま使用し、ピット列Aからスポット位置が遠ざかった状態ではトラッキングエラー信号TE_Dの反転値を使用することとすれば、結果として、トラッキングエラー信号TE_Aと同等の波形による信号を、常に、対象ピット列の近傍にスポットがある状態で生成した信号により得ることができる。
【0197】
同様のことが、トラッキングエラー信号TE_C,TE_Eについても言える。すなわち、トラッキングエラー信号TE_Cについては、これと逆位相の関係となるトラッキングエラー信号TE_Fをペアとして、対象とするピット列Cの近傍にスポット位置がある状態ではトラッキングエラー信号TE_Cをそのまま出力し、ピット列Cからスポット位置が或る程度遠ざかった状態ではトラッキングエラー信号TE_Fの反転値を出力する。
また、トラッキングエラー信号TE_Eについてはこれと逆位相の関係となるトラッキングエラー信号TE_Bをペアとして、対象とするピット列Eの近傍にスポット位置がある状態ではトラッキングエラー信号TE_Eをそのまま出力し、ピット列Eからスポット位置が或る程度遠ざかった状態ではトラッキングエラー信号TE_Bの反転値を出力する。
【0198】
ここで、上記のようにトラッキングエラー信号TE_A,TE_Dの組、トラッキングエラー信号TE_E,TE_Bの組、トラッキングエラー信号TE_C,TE_Fの組をそれぞれ用いて生成するトラッキングエラー信号TEを、それぞれトラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rとおく。
これらの波形は、図21に示すものとなる。
【0199】
これらトラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rの具体的な生成手法を以下に示す。
なお下記の計算式において、s1〜s6は、図20に示したタイミングts1〜ts6でのsum信号の振幅値を表す。
また、Aはトラッキングエラー信号TE_Aの振幅値、Dはトラッキングエラー信号TE_Dの振幅値である。同様にE、B、C、Fはトラッキングエラー信号TE_E、TE_B、TE_C、TE_Fの振幅値をそれぞれ表す。

s1<s4 → TE_p=A
s1≧s4 → TE_p=−D

s5<s2 → TE_q=E
s5≧s2 → TE_q=−B

s3<s6 → TE_r=C
s3≧s6 → TE_r=−F
【0200】
なお、トラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rの生成手法は上記に限定されるものでなく、例えば、

s6+s2<s3+s5 → TE_p=A
s6+s2≧s3+s5 → TE_p=−D

などのようにすることもできる。
【0201】
図22は、トラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rを用いた変形例としてのリニアエラー信号の具体的生成手法について説明するための図である。
先ず、この場合も各エラー信号TEの振幅大小関係の別ごとにcase分けを行う。具体的にこの場合は、使用するエラー信号TEの位相の種類が3つとされることに応じ、caseとしてはcase21〜case26の6つに分けられることになる。
これらcase21〜case26の定義は、トラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rの振幅をそれぞれp、q、rとすると以下のようになる。

case21:p<q<r
case22:q<p<r
case23:q<r<p
case24:r<q<p
case25:r<p<q
case26:p<r<q
【0202】
本変形例では、トラッキングエラー信号TE_p、TE_q、TE_rの振幅を逐次モニタして上記定義による各caseの判定を行う。そして、このように判定したcaseごとに以下で示す計算を行うことで、リニアエラー信号を生成する。
なお、以下の計算例においては、最初にサーボONとしたピット列がピット列Eとされ、当該ピット列E上にスポットが位置している状態がリニアエラー信号のゼロ点に設定される場合を前提としている。
また下記計算例において、P(n)、Pprev、及びHPKの定義については実施の形態の場合と同様である。

case21・・・P(n)=Pprev+q
case22・・・P(n)=Pprev−HPK−p
case23・・・P(n)=Pprev−HPK+r
case24・・・P(n)=Pprev−HPK−q
case25・・・P(n)=Pprev−HPK+p
case26・・・P(n)=Pprev−HPK−r
【0203】
このようにして変形例のリニアエラー信号生成手法としても、スポット位置が半径方向に移動する際の各位相のトラッキング誤差信号TEの振幅の大小関係が変化する所定のタイミングごとに、スポット位置の移動方向側に隣接するピット列についてのトラッキング誤差信号TEを順次繋ぎ合わせていくことでリニアエラー信号を生成する手法であることが分かる。
具体的に、変形例の場合は、スポット位置が半径方向に移動する際の各位相のトラッキング誤差信号TEの振幅の大小関係の変化が生じるごとに、スポット位置の移動方向側に隣接するピット列についてのトラッキングエラー信号TE(TE_qはピット列E、TE_rはピット列C、TE_pはピット列Aをそれぞれ対象とするものである)を順次選択するものとしている。そしてこれと共に、上記振幅の大小関係の変化が生じるタイミング(上記所定のタイミング)ごとに、その時点でリニアエラー信号として出力していた値(Pprev)から新たに選択したトラッキングエラー信号TEの上記所定のタイミングでの値(HPK)を減算して得た値を基準値(Pprev−HPK)とし、当該基準値に対して、上記新たに選択したトラッキングエラー信号TEの値を加算して得た値(P(n))を、リニアエラー信号の値として順次出力するようにされている。
【0204】
なおこのような変形例としてのリニアエラー信号の生成手法について、図22と先の図14とを対比すると、case21で選択されるトラッキングエラー信号TE_qはトラッキングエラー信号TE_Eに相当し、case24で選択されるトラッキングエラー信号TE_qはトラッキングエラー信号TE_Bに相当するものであることが分かる。また、case22で選択されるトラッキングエラー信号TE_pはトラッキングエラー信号TE_Dに相当しcase25で選択されるトラッキングエラー信号TE_pはトラッキングエラー信号TE_Aに相当するものであり、さらに、case23で選択されるトラッキングエラー信号TE_rはトラッキングエラー信号TE_Cに相当しcase26で選択されるトラッキングエラー信号TE_rはトラッキングエラー信号TE_Fに相当するものであることが分かる。
このことからも理解されるように、変形例のリニアエラー信号生成手法としても、基準面Refに形成された各位相のピット列A〜Fのそれぞれ対応するトラッキングエラー信号TE_A〜TE_Fの、それぞれのゼロクロス点近傍の波形を繋ぎ合わせる手法に該当するものである。
【0205】
上記により説明した変形例としてのエラー信号生成手法によれば、トラッキングエラー信号TEとしてプッシュプル信号をサンプルホールドした信号を用いる場合に、各トラッキングエラー信号TEとしてより対象ピット列に近い位置にスポットがある状態でサンプルホールドした信号を用いることができるので、アドレス変調によってピットの無い部分が生じる場合にもより信頼性の高いトラッキングエラー信号TEを得ることができる。
【0206】
また、これまでの説明では、基準面Refにおいて各ピット列がそれぞれ従来の1トラック幅によるピッチでスパイラル状に形成されることに対応して、或るピット列を対象としたトラッキングサーボをかけ続けることで、スポット位置がスパイラル状に移動されるようにする場合を例示したが、例えば以下で説明するような手法を採ることで、スポット位置を任意のピッチによるスパイラル状に移動させることもできる。
すなわち、所定の傾きを有するオフセット信号を、基準面側サーボ制御系のトラッキングサーボループに対して付与することで、スポット位置を半径方向に徐々に変位させていくというものである。このとき、上記オフセット信号の傾きの設定により、スパイラルピッチを任意に設定できる。
なおこのことは、基準面Refにおける各ピット列を、スパイラル状でなく同心円状に形成しても、バルク層5内にマーク列をスパイラル状に記録できるということを意味する。
【0207】
また、これまでの説明では、それぞれが異なるピット列位相を有する複数のピット列として、A〜Fの計6つを設定するものとし、半径方向においてはこれら6つのパターン(ピット列位相)によるピット列が繰り返し形成されるものとしたが、上記複数のピット列の数は6つに限定されるべきものではなく、より多くの本数、或いはより少ない本数とすることもできる。
【0208】
また、ピット列における各ピット形成可能位置の区間長は3T分の区間長とし、またピット列形成方向における各ピット形成可能位置のエッジ間の間隔も同様の3T分の長さに設定する(つまりn=6Tに設定する)場合を例示したが、これらはあくまで一例を示したものに過ぎない。これら各ピット形成可能位置の区間長、及びピット列形成方向における各ピット形成可能位置のエッジ間の間隔については、先に挙げた1)2)の条件が満たされるようにして設定されればよいものである。
【0209】
またこれまでの説明では、それぞれが異なるピット列位相を有する複数のピット列に関して、外周側ほどピット列位相が進み内周側ほどピット列位相が遅れるようにピット列を配列したが、例えば逆に内周側ほどピット列位相が進み外周側ほどピット列位相が遅れるようにピット列を配列するなど、上記複数のピット列の配列パターンは、ピット列形成方向において光学限界を超えないという条件の下で様々なパターンの設定が可能である。
【0210】
また、これまでの説明では言及しなかったが、本例では基準面RefにCAV方式でピット列が記録され、これに対応してバルク型記録媒体1を一定回転速度で回転駆動するようにされる。このため、この場合における記録層では、外周側となるほど記録密度が疎となってしまうが、これを対策するため、例えば半径位置に応じて連続的に記録クロック周波数を変化させるなど、記録密度を一定(或いは一定と見なすことのできる状態)とするための構成を付加することもできる。
【0211】
また、これまでの説明では、記録時における記録用レーザ光・ATS光の合焦位置を記録対象とする情報記録層位置L(つまり記録済みマーク列)に一致させるために、サーボ用レーザ光が基準面Refに合焦するように対物レンズ20位置を制御しつつ、レンズ駆動部16をオフセットof-Lに基づき駆動するものとしたが、記録時における記録用レーザ光・ATS光の合焦位置制御(フォーカス制御)は、ATS光のマーク列からの反射光に基づいてレンズ駆動部16を駆動することで行うこともできる。すなわち、記録時のATSが行われる際にはATS光の記録済みマーク列からの反射光が得られるので、当該反射光を受光して生成したフォーカスサーボ信号FS-apに基づき、レンズ駆動部16を駆動制御するように構成することで、記録用レーザ光・ATS光を記録対象の情報記録層位置Lに合焦させるフォーカスサーボ制御が行われるようにすることもできる。
【0212】
また、これまでの説明では、本発明において記録対象とする光記録媒体がバルク型の光記録媒体とされる場合を例示したが、本発明としては、バルク層5ではなく、例えば次の図23に示されるような複数の記録膜が形成された多層構造を有する記録層が設けられた光記録媒体(多層記録媒体60とする)に対しても好適に適用できる。
図23において、多層記録媒体60は、上層側から順にカバー層2、選択反射膜3、及び中間層4が形成される点は図1に示したバルク型記録媒体1と同様となるが、この場合はバルク層5に代えて、図のように半透明記録膜61と中間層4とが所定回数繰り返し積層された層構造を有する記録層が積層される。図のように最下層に形成された半透明記録膜61は、基板62上に積層されている。なお、最下層に形成される記録膜については全反射記録膜を用いることができる。
ここで、注意すべきは、上記半透明記録膜61には、ピット列の形成に伴う位置案内子が形成されていないという点である。つまりこの多層記録媒体60としても、スパイラル状又は同心円状の位置案内子は、基準面Refとしての1つの層位置に対してのみ形成されているものである。
【0213】
このような多層記録媒体60の記録層においては、反射膜として機能する半透明記録膜61が形成されているため、マークが未記録状態であっても反射光を得ることができる。
【0214】
また、これまでの説明では、ピット列がスパイラル状に形成される場合の例として、先の図6のようにA〜Fの各位相のピット列がそれぞれ独立したスパイラルで形成される場合(多重スパイラル構造)を例示したが、ピット列は、次の図24に示すように1本のスパイラルで形成されるようにすることもできる(シングルスパイラル構造)。なお、この図24においても図示の都合上、ピット列の位相はA〜Cの3種のみを示している。
図のように、この場合はディスク上の或る回転角度位置を基準位置として定めておき、当該基準位置を基準として定まる各周回ごとに、ピット列の位相を順次変化させていく。例えば先の図5のように外周側から内周側に向けてピット列A→B→C→・・・が配列される(つまり外周側となるにつれて徐々にピット列位相を進ませる)フォーマットとする場合には、図のようにn周回目はピット列Aの位相、n+1周回目はピット列Cの位相、n+2周回目はピット列Bの位相・・・という具合に、周回ごとに徐々にピット列の位相を進ませるようにしてピットを形成していく。
先の図6と対比して分かるように、このようなシングルスパイラル構造とすることによっても、半径方向において配列される各ピット列の位相関係としては図6の場合と同様とすることができる。
【0215】
ここで、図6に示されるような多重スパイラル構造によるディスクを作成するにあたっては、A〜Fの各ピット列のカッティングを同一原盤に対してそれぞれ個別に行うという手法を採ることが考えられるが、この場合には、個々のピット列のカッティングをその開始位置を半径方向に僅かにずらしながら順次行うこととなり、精度の面で困難性を伴う虞がある。
これに対し図24のようなシングルスパイラル構造とすれば、カッティングの回数は1度で済み、また精度の面においてもピットの形成タイミングを正確にコントロールしさえすれば良く、技術的困難性は格段に低くできる。
【0216】
なお、図24に示すようなシングルスパイラル構造とした場合、或る位相のピット列を対象としたトラッキングサーボを1周以上かけ続けるということはできない。そこでこの場合には、所定の傾きによるオフセット信号をトラッキングサーボループに対して与えることで、記録層に対する記録が所定ピッチのスパイラル状に行われるようにする。
【0217】
また、これまでの説明では、ピット列が形成される基準面は、記録層の上層側に対して設けるものとしたが、基準面は記録層の下層側に設けることもできる。
【0218】
またこれまでの説明では、本発明が光ディスク記録媒体(記録層)に対する記録及び再生の双方を行う記録再生装置に適用される場合を例示したが、本発明は光ディスク記録媒体(記録層)に対する記録のみが可能とされた記録専用装置(記録装置)にも好適に適用できる。
【符号の説明】
【0219】
1 バルク型記録媒体、2 カバー層、3 選択反射膜、Ref 基準面、4 中間層、5 バルク層、L マーク形成層位置(情報記録層位置)、OP 光学ピックアップ、11r 記録用レーザ、11ap ATS・再生時用レーザ、12,25 コリメーションレンズ、13,26 偏光ビームスプリッタ、14 固定レンズ、15 可動レンズ、16 レンズ駆動部、17 ミラー、18,27 1/4波長板、19 ダイクロイックプリズム、20 対物レンズ、21 2軸アクチュエータ、22,28 集光レンズ、23 第1受光部、24 サーボ用レーザ、29 第2受光部、31 記録処理部、32,50 マトリクス回路、33 再生処理部、34 再生時用サーボ回路、35 ATS側フィルタ、36 信号生成部、37 基準面側サーボフィルタ、38 記録時用フォーカスサーボ回路、39 加算部、40,41 セレクタ、42 フォーカスドライバ、43 トラッキングドライバ、44 コントローラ、51 クロック生成回路、51A,51C スライス回路、51B sum微分回路、51D ANDゲート回路、51E PLL回路、52 selector信号生成回路、53 エラー信号生成回路、SH-A1〜SH-F2 サンプルホールド回路、53A〜53F 減算部、54 case判定回路、55 リニアエラー信号生成回路、56 selector信号選択回路、57 アドレス検出回路、60 多層記録媒体、61 半透明記録膜、62 基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置案内子が形成された基準面と当該基準面とは異なる深さ位置に形成された記録層とを有する光ディスク記録媒体に対して、上記記録層へのマーク記録を行うための記録光と、隣接トラックサーボ用のATS光と、上記基準面に形成された上記位置案内子に基づく位置制御を行うための位置制御用光とを共通の対物レンズを介して照射するように構成されると共に、上記ATS光の上記記録層からの反射光と、上記位置制御用光の上記基準面からの反射光とを個別に受光するように構成された光照射・受光部と、
上記対物レンズを上記光ディスク記録媒体の半径方向に平行な方向であるトラッキング方向に駆動するトラッキング機構と、
上記光照射・受光部により得られる上記位置制御用光についての受光信号に基づき、上記基準面に形成された位置案内子に対する上記位置制御用光の照射スポット位置の誤差を表す基準面側トラッキング誤差信号を生成する基準面側トラッキング誤差信号生成部と、
上記基準面側トラッキング誤差信号に対してトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して、上記基準面側トラッキング誤差信号が表すトラッキング誤差をキャンセルするための基準面側トラッキングサーボ信号を生成する基準面側トラッキングサーボ信号生成部と、
上記基準面側トラッキングサーボ信号に基づき上記トラッキング機構を駆動するトラッキング駆動部と、
上記光照射・受光部により得られる上記ATS光についての受光信号に基づき、上記記録層に記録されたマーク列に対する上記ATS光の照射スポット位置の誤差を表すATS側トラッキング誤差信号を生成するATS側トラッキング誤差信号生成部と、
上記ATS側トラッキング誤差信号に対してトラッキングサーボのためのフィルタ処理を施して、上記ATS側トラッキング誤差信号が表すトラッキング誤差をキャンセルするためのATS制御信号を生成するATS制御信号生成部と、
上記ATS制御信号を、上記基準面側トラッキングサーボ信号生成部を含むトラッキングサーボループに対して与える信号付与部と
を備える記録装置。
【請求項2】
上記基準面側トラッキング誤差信号に基づくトラッキングサーボ制御を行う基準面側サーボ制御系の制御帯域が、上記ATSトラッキング誤差信号に基づくトラッキングサーボ制御を行うATS制御系の制御帯域よりも高く設定されている
請求項1に記載の記録装置。
【請求項3】
上記光ディスク記録媒体における上記基準面は、
1周回におけるピットの形成可能位置の間隔が第1の間隔に制限されたピット列がスパイラル状又は同心円状に形成され、半径方向に配列されるピット列において上記ピットの形成可能位置のピット列形成方向における間隔が所定の第2の間隔ずつずれた位置に設定されて、複数のピット列位相を有するようにされており、
上記基準面側トラッキング誤差信号生成部は、
上記位置制御用光についての受光信号に基づき、上記ピットの形成可能位置の間隔に応じたクロックを生成するクロック生成回路と、
上記クロック生成回路により生成されたクロックに基づき、上記基準面に形成された各位相のピット列についての上記ピットの形成可能位置のタイミングをそれぞれ表す複数のタイミング選択信号を生成するタイミング選択信号生成回路と、
上記位置制御用光についての上記受光信号と、上記タイミング選択信号生成回路が生成した上記タイミング選択信号とに基づき、上記基準面に形成された各位相のピット列ごとのトラッキング誤差をそれぞれ表す複数のトラッキング誤差信号を生成する各位相トラッキング誤差信号生成回路とを有すると共に、
上記位置制御用光の照射スポットが半径方向に移動する際に得られる上記複数のトラッキング誤差信号のゼロクロス点近傍の区間の信号を順次繋ぎ合わせることで、上記基準面側トラッキング誤差信号として、トラッキング誤差量を線形に表す線形トラッキング誤差信号を生成する
請求項2に記載の記録装置。
【請求項4】
上記基準面側トラッキング誤差信号生成部は、
上記複数のトラッキング誤差信号の振幅の大小関係が変化する所定のタイミングごとに、上記照射スポットの移動方向側に隣接するピット列についてのトラッキング誤差信号を順次繋ぎ合わせることで、上記線形トラッキング誤差信号を生成する
請求項3に記載の記録装置。
【請求項5】
上記基準面側制御系の制御帯域が10kHz程度、上記ATS側制御系の制御帯域が1kHz程度に設定されている請求項2に記載の記録装置。
【請求項6】
上記光照射・受光部は、
上記記録層としてバルク状態の記録層を有する上記光ディスク記録媒体に対して上記記録光と上記ATS光と上記位置制御用光とを照射する
請求項1に記載の記録装置。
【請求項7】
上記光照射・受光部は、
上記記録層として深さ方向の複数位置に記録膜が形成された多層構造を有する記録層を有する上記光ディスク記録媒体に対して上記記録光と上記ATS光と上記位置制御用光とを照射する
請求項1に記載の記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図20】
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【図21】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図19】
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【図22】
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【公開番号】特開2012−104187(P2012−104187A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−251573(P2010−251573)
【出願日】平成22年11月10日(2010.11.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】