説明

設備の異常診断方法及び装置

【課題】診断対象が稼動中に発する異常音により設備異常診断を行なう際に、当該設備の周辺騒音が診断の外乱となるような場合においても、簡単な構成で、当該設備の稼動音のみを選択的に収集して、異常診断の精度を向上させる。
【解決手段】診断対象設備10の稼動音を収集するための集音マイク12と、周辺騒音を拾うための騒音マイク14とを用いて、該騒音マイク14で拾った周辺騒音を、前記集音マイク12で収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設備の異常診断方法及び装置に係り、特に、診断対象が稼動中に発する異常音により設備の異常診断を行なう際に、当該設備の周辺騒音が診断の外乱となるような場合においても、騒音の外乱を受けずに正しく異常診断を行なうことが可能な、設備の異常診断方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
機械設備や電気設備の安定稼動のためには、設備が異常になってから異常を検知するのではなく、重大な異常状態に至る前の異常が軽微なうちに異常の兆候を検知して、予防保全を行なうことが重要である。設備が異常になったり劣化した場合には、振動音や摺動音等の異常音が発生して、異常状態を確認できることが広く知られ、設備の異常状態や劣化状態を、設備の稼動音に含まれる異常音により保全員が診断する設備異常診断が実施されている。
【0003】
しかしながら、保全員の聴音による設備異常診断の場合、ベテラン保全員の経験に頼る部分が大きく、人によるばらつきが大きい。又、設備稼動時には設備に近づけず、当該設備の稼動音を聴くことが困難な場合も多い。
【0004】
このため、設備に触れることなく遠隔から収集した稼動音を診断装置により解析して、正常状態と比較したり、異常状態の特徴量だけを抽出して、異常判定を行なうことが実施されている。
【0005】
しかしながら、実設備が稼動している工場内においては、試験室のように当該設備が単体で稼動していることは稀であり、周辺設備が発する騒音(例えば設備の動作音や送風ファンの風切り音)が大きく、当該設備の異常音が騒音に埋もれて認識できないといった問題があった。
【0006】
そこで、診断対象からの稼動音のみを収集するために、一般的に強指向性のマイクを採用したり、対象設備に直接ピックアップを取り付けたりすることが行なわれているが、工場のように周辺騒音の大きい場所では、周辺騒音の回り込みや当該設備による反射を完全に無くすのは困難である。又、診断対象に直接ピックアップを取り付ける方法では、周辺騒音がかなり改善されるが、対象設備毎にピックアップの取り付けが必要となり、診断の対象が多い場合には費用が膨大となる。
【0007】
このような問題点を解決するべく、特許文献1には、対象機器が正常運転時に発生する正常音と、機器の異常に伴って発生する異常音と、機器の異常に無関係な、作業員の作業等に伴って発生する外乱音とを、音の持続時間及び音響レベルに基づいて区別して、揺らぎのある正常音の元で外乱音を除去し、様々な性質の異常音の検出を行なうことが提案されている。
【0008】
又、特許文献2や3には、診断対象設備の稼動音を収集するための集音マイクに加えて、周辺騒音を拾うための騒音マイクを設け、集音マイクで集めた音と騒音マイクで集めた音をそれぞれ別々に分析して、異常診断を行なうことが記載されている。
【0009】
【特許文献1】特開平9−229762号公報
【特許文献2】特開2000−214052号公報
【特許文献3】特開2002−139377号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、マイクを1個しか用いていないので、外乱音の除去に限界がある。
【0011】
一方、特許文献2や3に記載した技術では、集音マイクで集めた音と騒音マイクで集めた音をそれぞれ別々に解析しているため、解析機器が高価となったり、あるいは、解析に時間がかかるという問題点を有する。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、比較的簡単な構成で、診断対象の稼動音のみを選択的に収集して、騒音の外乱を受けずに正しく異常診断を行なえるようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、診断対象が稼動中に発する異常音により設備の異常診断を行なう際に、騒音マイクで拾った周辺騒音を、集音マイクで収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルすることにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
本発明は、又、診断対象が発する異常音により設備の異常診断を行なうための設備の異常診断装置において、診断対象の稼動音を収集するための集音マイクと、周辺騒音を拾うための騒音マイクと、該騒音マイクで拾った周辺騒音を、前記集音マイクで収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルする手段と、を備えたことを特徴とする設備の異常診断装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、騒音マイクで拾った周辺騒音を、集音マイクで収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルするようにしたので、簡単な構成で、診断対象の稼動音のみを選択的に収集することができ、騒音の外乱を受けずに正しく異常診断を行なうことが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0017】
本発明を実施するための設備の異常診断装置の実施形態は、図1に示す如く、診断対象設備(機械設備や電気設備)10の稼動音を収集するための指向性の強い集音マイク12と、周辺騒音を拾うための指向性の弱い騒音マイク14と、前記騒音マイク14で拾った音を加工するための、例えばバンドパスフィルタ等のフィルタ22、該フィルタ22で加工した音を前記集音マイク12で収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルするための加算器24、及び、該加算器24の出力に基づいて、例えば特許文献1乃至3等に記載した方法で解析・診断を行なう解析・診断装置26を含む異常診断装置20とを備えている。
【0018】
前記集音マイク12は、診断対象設備10から発生する音だけを集音すべく、一般的には指向性の強いマイクが用いられるが、当該設備から発生する音よりも大きな周辺騒音が発生している場合には、当該設備からの反射等により周辺騒音を拾ってしまう。
【0019】
そこで、前記集音マイク12とは別に指向性の弱い騒音マイク14を設け、周辺騒音を集音マイク12と逆位相にして加算することにより、図2に例示する如く、騒音をキャンセルする。このとき、工場内の広さ、反響特性等により、騒音マイク14で拾った音をバンドパスフィルタ等のフィルタ22で加工し、更に加算器24の出力を保全員がモニタ30で確認しながら、当該設備から発生する異常音と、周辺騒音とのS/N比が最大になるように、フィルタ22の特性パラメータを調整すれば、より効果的である。
【0020】
又、騒音の状況により、騒音マイク14の指向特性を変えたり、複数個設けたりすることも効果的である。
【0021】
このようにして、簡単な構成で、異常診断の外乱となる周辺騒音を打ち消して、当該設備の稼動音のみを選択的に収集することができ、外乱の無い異常診断を行なって、異常診断の精度を向上させることができる。
【0022】
なお、診断対象は工場内の機械設備や電気設備に限定されず、工場外の機械設備や電気設備等の設備一般の異常診断にも同様に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明を実施するための設備の異常診断装置の実施形態を示すブロック図
【図2】本発明の実施例を示す図
【符号の説明】
【0024】
10…診断対象設備
12…集音マイク
14…騒音マイク
20…異常診断装置
22…フィルタ
24…加算器
26…解析・診断装置
30…モニタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
診断対象が稼動中に発する異常音により設備の異常診断を行なう際に、
騒音マイクで拾った周辺騒音を、集音マイクで収集した診断対象からの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルすることを特徴とする設備の異常診断方法。
【請求項2】
診断対象が発する異常音により設備の異常診断を行なうための設備の異常診断装置において、
診断対象の稼動音を収集するための集音マイクと、
周辺騒音を拾うための騒音マイクと、
該騒音マイクで拾った周辺騒音を、前記集音マイクで収集した診断対象からのの音に逆位相で加算して、周辺騒音をキャンセルする手段と、
を備えたことを特徴とする設備の異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−263639(P2007−263639A)
【公開日】平成19年10月11日(2007.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−86991(P2006−86991)
【出願日】平成18年3月28日(2006.3.28)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】